「ありがとう先生。今日も楽しかった」
桃色の髪色をした少女、アツコが先生に向かったそういった。
「どういたしまして、私は先生だからねこれくらいの我がままでよかったら付き合うよ」
「………」
アツコは先生のその言葉に嬉しそうにするのが常であったがその面持ちは重苦しく、うつむいてしまった。
「…?どうしたの?アツコ?」
「先生私に、いや私たちに隠してることない?」
場が静まり返る。少なくとも先生はそう認識した……なぜなら、隠し事をしているということはまっるきり図星だったからだ。しかし、アツコにはそれが真実かどうか知るすべは少なくともこの場においてはないだろう。
「……大丈夫、心配しないでアツコ」
お茶を濁すかのような言葉しかはけない先生、きっとそれはこの少女に嘘を付けなかったからなのだろう。いや、正確には『つきたくなかった』
「……」
アツコは沈黙のままその場に佇む。まるで罪を宣告する裁判官のように、
「……ア、アツコ?」
無言で先生に近づくアツコ、やがて壁際まで先生を追い詰めてしまう。
「な、何を……」
無言でアツコは先生の長袖をはいでしまう。
「これの何が大丈夫なの?先生?」
そこにあったのは痛々しいまでの注射痕。それも一個や二個ではない。おびただしいまでの数の注射痕がその二の腕に残っていた。
「なんで……」
「だって、こんな時期に長袖は変だと思うよ先生?」
今の時期は夏。ジメジメとしており、水道もぬるくなってくる時期である。それだというのに先生は半袖ではなく、長袖だったので、しかも全くまくらず『暑い、暑い、』などと言っておきながらその厚着をやめようとはしなかったのだ。それを疑うなとと言われる方が無理と言う者であろう。
「教えてよ先生何があったの?辛いならもっと頼ってよ、私とサッちゃんたちは先生に何も返せてない……」
抱き着いてくるアツコに先生は全く抵抗せず、ただ無言で抱きしめ返した。そしてアツコの肩を濡らし、地面に塩水の水滴がしたたり落ちる。
―――
「おはよう先生気分どう?」
「そうだね……ちょっと辛いね」
ベットで先生はそう言う。だが、そこに苦はなかった。ただ遠い遠い場所を旅立つ準備の整った旅人がそこにいるだけであった。
「何かしてあげられることある?」
「……私個人としては手を握っていてほしんだけど。いい?」
アツコは先生の言われるがまま先生の手を握る。
「暖かい……」
「よかった……先生またね」
『さよなら』とはいわなかった。きっと、またいつか何十年後になるかわからないが出会えると信じるがため。
「うん、またね。最後の我がままを言わせてもらうとね……私のことを忘れないでね、でも、私のことを引きずらないで幸せになって」
「ごめんね先生私の血はきっと私の代でお終い。だって、配偶者がいないから」
それは皮肉、そして恨み節も含まれていたことだろう。アツコは彼以外愛せないのだ。愛した者の入っていない子を愛せないとそう言ったのだ。
「ははは……悪いね私は死ぬまで先生なんだ」
最後まで矜持を捨てない先生、だからこそ、彼は先生足りえるのだろう。
「あぁ、そうだ。私のお墓に手向けるお花はアイビーにしてね」
―――
「おはよう、先生」
アツコはアイビーとマリーゴールドを持ってとある墓石の前に立つ。
「……この一年間色々あったよ。サッちゃんがトリニティの教師の為に大学受験始めし、ミサキも病院に通うようになったんだ。かくゆう私もねお花屋さんにたるためのお勉強中」
二振りのお花を瓶に立て、手を合わせながらこれまでのことを振り返るアツコ。そこには様々な思いが、記憶が、残っていた。確かに楽しかった嬉しかった。笑いあった。
「………」
だが、それでも思ってしまう。
――先生と一緒だったらもっと楽しかったのに
決してかなわない。それでも思わずには言われない。そんなささやかな願い。
「お嬢さん。死者を忍んでるところ悪いけど、尋ねたいことがあるんだ」
「……えっ_?」
呆けた声を出しながら、アツコは声の主を見る。そう、忘れもしない人の声。大切な人の声……
”……ふむ、こういえばいいのかな?”
黄色い襤褸を着た男は杖を持っていない方の手で顎をさすり、首を斜めに他かむける。
これは紛れもない……
「先、生・・・・」
”久しぶりだねアツコ”
顔は見れないながらも、その表情は微笑んでいた方にも見えた。
先生は死ぬまで教師だから、アツコとは一緒になれない!じゃけん、蘇って大人の責任果たしますね……
捕捉
・アイビーの花言葉
「永遠の愛」「不滅」「死んでも離れない思い」
・マリーゴールド
「変わらぬ愛」「信頼」「濃厚な愛情」
この中で一番最高のエピソードと言えば?
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コユキ
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ノア
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ミネ
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黒服
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ヒマリ
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アスナ