ユーザー名「巴殿」様のご依頼に添って、三番バッター蒼森ミネ選手。医療関係者という明らか曇りそうな要素しかない人物ですが、どう見せてくれるのか注目です。
「救護騎士団のお姉ちゃんありがとう!」
「えぇ、どういたしまして」
猫を抱えた少女がお礼をしてくれる。その笑顔を見るたび私の救護は間違いではなかったと確信します。
「あぁ、俺の家が!新居だったのに……」
スーツを着たブルドックが何やら絶望しています。どうやら先ほど私が壊した建物はあの方のご自宅だったのでしょうね、これは謝罪が必要です。
「すいません、私が壊してしまいまいした」
私はスーツ姿のブルドックに近づき、正直に謝罪する。
「あんた!これで何回目だよ!」
「5回程から覚えてないです。申し訳ありません……」
正直であるべきだと思い、ありのまま説明する。
「25回目だよ!いつも通り家の賠償金は救護騎士団に請求しておくからな!」
「はい……」
そうして私は許されるまで謝り続けました。ですが、後悔はありません。おかげで少女の心と怪我をしていた猫は救われたのですから……
「さて、巡回救護を続けましょうか」
他にも救護を必要としている方のためにパトロールに戻ろうと今日の巡回ルートの方角を向いた時……
「あれは……先生?」
偶然先生の後ろ姿を見かけました。嬉しく思い声をかけようとしましたが、突如、先生は胸を抑え始めました。驚き、私らしくないと思いながらも呆然としていたら、先生は路地裏へと入っていきました。
「しっかりしなさい蒼森ミネ……急いで先生を『救護』しなくては…」
私は先生の消えた路地裏へと走っていきました。
―――
その日、私はティーパーティに呼ばれ仕事を終わらせた帰りだった。何とかミカやナギサ、勘のいいセイアの目すら欺き、何とか寿命のことは悟らせないことが出来た私は完全に油断していた。
「ウッ…ハァハァ」
今にも心臓が飛び出すのではないかと思うほど暴れまわるのを両手で抑える。幸い人はあまりいないようだが、いつみられるかわからないので、今のうちに人目に付かない場所に移動しようと路地裏に足を進める。
「ここ、までくれば…我慢、しなくて、いいね……ウェ、エフッエフッ」
路地裏に逃げ込み、倒れこむと緊張の糸が切れたせいか、喉に不快感を覚えると同時にハンカチで覆う。私の予想通りハンカチは真っ赤に染まる。しかし、ハンカチは吸いきれなかったのか赤い液体はポチャっと水滴音を鳴らして地面へと落ちてしまう。
「片づけるのめんどくさいなぁ……」
「救護!!!」
「ゑ?」
振り返ると怖い顔をしたミネが左右のビルをライオットシールドでぶっ壊しながら私の方へと突っ込んできた。いや、え?思わず変な声が出てしまう。
「ミ、ミネ?」
ミネは有無を言わさずにファイヤーマンズキャリー……要するに私を右肩に担ぎ込んでしまった。
「喋らないでください先生!あなたには『質の高い救護』が必要なのですから!!無理に話せばまた吐血してしまいます!!!」
ミネの気迫に押されてしまい私はコクコクと頷いて黙るしかなかった。まったく厄介な生徒にばれてしまったものである。
―――
私は先生の後を追い、路地裏に入ろうとしました。ですが、視界に入ってしまったその光景は私の冷静さを奪うには十分でした。
先生が吐血しうずくまってしました。私は肝を冷やしながらもライオットシールドで狭い通路を破壊し、通れるようにしながら私は叫びました。
「救護!!!」
これほど叫んだのは人生で初めてでした。そう思うほど感情をこめて叫びました……恐ろしかった。先生が、病気であることが、命が脅かされていることが…たとえどんな怪我や病気であっても私は助けるつもりです。その為に私は日々多くの人を治療し、救護してきました。先生の容態だってそんなに悪くはないはずです。
――・・に?
ですから、今回も大丈夫です。私はただ状況に合わせて適切な救護をすればいい。
――・当に?
努力は裏切りません。日々身に着けてきた医術、学んできた医術、それらはあらゆる状況で活用できます。ですから先生も助けられます。
――本当に?
五月蠅い五月蠅い!できなければ何です!?この行動は無駄だとでも言うのですか!私のしてきたことは……救護は…無駄だとでもいうのですか!先生は助けます。何があっても!この身に変えてでも…
―――
「先生……容体はどうですか?」
「うん、大丈夫。元気だよ」
そう答える先生の顔色は生気がなかった。腕には点滴が打ってあり、それがなければまともに動けないほどだ。あれから先生をトリニティに病室に連れて行き、治療を受けさせました。ですが、容体は一向に良くなりません。原因は過剰なまでの身体機能の低下、つまりは体が弱っているからです。血流の流れは弱くなり、心臓の鼓動は遅くなる。内臓はおろか骨や筋肉の組織すら弱っている始末。おかげで全身の免疫は弱くなって生活習慣病やがんを同時に発症してしまっている。はっきりいって今生きていることさえ奇跡な状態です。この原因は大人のカードにあると先生はおっしゃいました。聞いた時は怒りがこみ上げてきました。こんなことになると知っておきながら。先生はなおもそのカードを使ったというのですから。しかし、先生に怒りをぶつけても状況はよくならない一方、私は毎日毎日来る日も来る日も先生の体を治す方法を模索し続けました……結果は皆さんの想像通りです。こんなに悔しいことはありません。誰よりも救いたいのに救えないなんて…地獄と言わずしてなんといいましょう。
「ミネ…」
先生はやせ細った手で私の目の下をさすってくださる。
「君に涙は似合わないよ」
ほとんど皮と骨しかない頬で笑いかけてくださる先生、貴方のほうがずっと辛く悲しいはずなのに……
「先生っ…」
あぁ、私は信心深くもシスターフットでもありませんがこう言いたくなります。なぜ神はこの人を連れて行ってしまうのでしょう?こんなにも優しいのに、なぜ私に救護の機会を与えてくださらないのですか!?なぜこの先生はシャーレの顧問でなくなってしまうのですか!
先生はこの病室をあてがわれてから、ずっと何かを書いていました。それは遺書のようでした。先生は自身の死後、その後を継いでくれる人物を用意しているようで、その方のための引き継ぎ書も書いています。そのことのなんとむごいことでしょう。先生は自身が死ぬことを覚悟している。ずっと、死の恐怖と立ち向かい、ひた隠しにしてきた。ずっと辛かったはずです。苦しかったはずです。なのに私達生徒にはそれを一切見せようとしない。もう、先生を引退すると公言し半ば隠居状態だというのに先生は『先生』でいることをやめようとしません。きっと死ぬまで続くのでしょうとあきらめの気持ちすら抱いています。
あぁ、私は先生に何かしてあげられたでしょうか……?
―――
「ミネ、ちょっと散歩しない?」
ある先生はそう言いました。私は先生に対して何もできていないと焦っていましたのでその提案を受けました。患者のメンタルケアも救護の一環ですから。
「ミネ私は君に感謝しているんだ」
車いすと点滴を引き連れながら先生はそう言う。私はお礼を受ける筋合いはありません。先生を救えていないのですから……
「そんなこ――」
「いいや、ミネは十分に私を『救護』してくれた」
先生は私の言葉を否定し逆に肯定してくださった。
「誰だって自分はもうすぐ死ぬんだってわかれば冷静ではいられるわけがない、私にできることといえばただ心を鉄のように冷たくさせて麻痺させることだけだった」
「でも、ミネ。君が頑張ってくれたおかげで変わることができた」
「君とあの路地で出会って、君が寄り添ってくれたおかげで私は“死”と向き合うことができたんだ。だから自分を卑下しなくていい。私の心はとっくに『救護』されてるんだ」
「――だからミネこれを受け取ってくれ」
先生は懐から箱を取り出しわたしに見せてくださった。
「え?先生…これって」
それは指輪だった。よくドラマなどで見る……
「うん、私に寄り添ってくれた君だからこそだよ……短い時間でよければ受け取ってくれない?」
「はいっ!」
先生を救護することはできませんでした。ですが、この刹那の時間だけはきっと別であるはずです。
ミネはね、救えないとなると取り乱すと思うんだ。それが大好きな先生だとなれば余計にね……でも、短い間でも先生に寄り添える時間はきっと違うと言い張れるんだ。自分を選んでくれたことを感謝しながら
この中で一番最高のエピソードと言えば?
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コユキ
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ノア
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ミネ
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黒服
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ヒマリ
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アスナ