先生短命概念   作:you are not

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『伝説の三毛猫』様ご依頼の六番バッター、一ノ瀬アスナ選手。個性的なプレイスタイルに注目です。


一ノ瀬アスナの場合

 

その日はにわか雨であった。突然の雨に私は驚き不安と共に渋々、店じまいしたであろうシャッターのしまったお店の店舗用テントの下に身を置くこととなった。

 

「あーこんな時は天気予報を恨みたくなるねー」

 

「そうなのご主人様?」

 

「うんせっかく晴れだっていってるのに外れちゃうとね。って……え?」

 

自然と話しかけられた声に答えてしまっていたが、自分が一人であることをすぐに思い出し、声をかけられた横を振り返り声の主であろう人物に開き直る。

 

「やっほぉ!ご主人様!アスナだよ!」

 

そこにはいつものメイド姿のアスナがいた。いつもと違う点があるとすれば……

 

「なんでビショビショなの?」

 

「え?何でだっけ……あっ!そうだ!私雨に濡れて雨宿りしてたんだった!」

 

アスナの直感の副作用は相変わらず心配になるが本人が気にしていないようなので私にできることは何も無い……。

 

「……よかったらシャーレに来る?着替え用意しておくよ?」

 

「え!いいの!行く行く!じゃあ、早速行こ?」

 

「ちょっとアスナまだ雨あがってないって……うお力強っ」

 

私はアスナに引っ張られてなし崩し的に雨の中をマラソンすることとなった。まったく体がもつか心配だ……まぁアスナが楽しそうだしいいかな?と不安をぬぎ捨ててしまう。なお、走っている途中で度々アスナが記憶を飛ばしてしまい、数時間もかかったのは別のお話……

 

 

―――

 

 

「ふっーありがとうねご主人様わざわざシャワー貸してくれて!」

 

エンジェル24で購入した変えの服に身を包み*1、ドライヤーで髪を乾かしながらいつもの調子に戻ったアスナが感謝を述べる。

 

「どういたしまして」

 

「でも、大丈夫?」

 

アスナが不安そうに質問してくる。

 

「えっ?何が?」

 

何が『大丈夫』なのだろうか?

 

「だってご主人様いま体調悪いでしょ?」

 

――――っ!?!?!???!!頭が真っ白になった。アスナにはわからないようにしていたのに……セイアすら欺いたというのに……

 

「何のことかな?だって、私は……」

 

「…?ご主人様お薬の匂いするよ?」

 

「えっ!?」

 

ふと袖を鼻に近づけ真実かどうか確認するために匂いを嗅ぐ……しかし一切薬品の匂いはしなかった。

 

「あはっ!ご主人様騙された―!アスナの『ぶらふ』だよ?」

 

大層可笑しそうに子供のように、赤子のように笑うアスナ、その無邪気な笑みに私はすっかり毒気が抜けてしまった。

 

「何だ……そっかバレちゃったか……」

 

「うん!アスナには全部お見通しだよ!」

 

 

―――

 

 

「はい!ご主人様アーン!」

 

アスナが切ったリンゴを爪楊枝に刺して私の口元に差し出してくる。

 

「あーん」

 

私はそのリンゴを素直に口を開けて受け入れる。口の中でシャキシャキとした触感を感じる、生憎リンゴの味はもはや感じないのだが、

 

「おいしいかったご主人様?」

 

「うん、おいしいよアスナ」

 

「よかったー!」

 

あれから私はアスナを専属メイドとした。私の体調が悪くなった日はアスナに連絡をとり、介護してもらう。そんな日々をここ数週間は過ごしている。

 

「先生平気か?」

 

アスナの付き添いできたであろうC&Cの部長ネルが声をかけてくる。

 

「あぁ、ネル気遣いありがとう。でも、大丈夫アスナの介護のおかげで元気いっぱいだよ」

 

「やったー!アスナのおかげだって部長!」

 

「おぉ、聞いてるってのよかったなアスナ」

 

私はもう長くないことをアスナはなんとなく直感でわかっているのだろう。しかし、知識としてしっているのとその事柄を理解しているかは別である。

 

「うんうん、今日もアスナが元気で――ゲッフッゲッフッ」

 

会話の途中でありながら、喉の奥からこみあげてきたものを感じ、口を抑えて両手を紅色の液体で一杯になりながら、ベットに黒い染みをつくってしまう。

 

「ご主人様!?」

 

「先生っ!?」

 

二人の生徒の声は無論先生の耳には届いてはいなかった。先生の鼓膜にはハウリングのように甲高い音として聞こえており、その音響が先生の頭痛を悪化させていた。

 

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

うわごとのように呟きながら先生は意識を手放してしまう。

 

 

―――

 

 

先生が起きたころ、日はすでに沈み月がシャーレの窓からのぞいていた。

 

「もう、こんな時間か二人とも……帰ってなかったか」

 

ベットのわきにはうずくまっているアスナがいた。体が上下していることから寝ていると判断できる。目元をよく見ると泣いていたのだろうか涙痕が残っていた。

 

「死なないで……ご主人様……」

 

「っ!?」

 

寝言に答えるのは縁起が悪いなと頭の片隅で思いながらも寝ているアスナの頭を撫でる。心なしかアスナの顔色がよくなった。

 

「やっぱりアスナの泣くところは見たくないな……」

 

脳裏によぎるのは私の手を取って叫ぶアスナの姿……今は私が生きているからまだ取り返しがつくものの。いつかは……

 

「決断しないとな……」

 

夜風でも浴びてこうと思いながらベットから降りてハーフバルコニーに出る。

 

 

 

「よぉ先生、ちょっといいか?」

 

バルコニーのフェンスによっかかりながら考え事をして夜風を浴びていたら、背後から声をかけられる。声の主はすぐに分かった。

 

「ネル……君も待ってくれてたんだ。義理堅いね」

 

「あったりめぇだろう?先生のあんな姿みた手前、なにくらねぇ顔で帰れねぇよ……」

 

そこにいたのはいつもの勝気な顔ではなく不安に押しつぶされそうな顔であった。

 

「そっか、悪いことしちゃったね」

 

「いや先生が謝らないでくれ……隣いいか?」

 

「どうぞ」

 

ネルはコツコツと私の隣に立ち、同じようにフェンスに手を組んでもたれかかる。

 

「……先生私ぁ別にあいつほど勘はよくねぇ、でもなんとなくわかる何かしようとしてるってことくらいはな」

 

「……C&Cの子たちはほんとにすごいね何でもお見通しなんだもんね」

 

先生は観念したように懐から大人のカードを取り出す。

 

「私の記憶が正しけりゃ先生はそのカードのせいで今の状況になったんだよな?」

 

「そうだよ、私の体はこのカードを使った代償……そして今日が最後の使用の日だ」

 

ネルは自分の勘が当たってほしくはなかったと言わんばかりの顔をしてうつむく

 

「……せめて聞かせてくれ先生どう思ってたんだ?」

 

「何が?」

 

とぼける先生にネルはきっぱりと言い返す。

 

「アスナのことだ。どうせ先生は『アスナに自分の死ぬ姿を見られたくないだから忘れてもらう、アスナの健忘症を治す代わりに……』って思ってるんだろ?実際上手くいくと思ってんのか?先生が願ってるとおりよ?」

 

「さぁ?私にもどうなるか正確にはわからな――」

 

先生は右端のフェンスに叩きつけられていた。原因はたった一つネルの放った拳によるものだった。

 

わからねぇだぁ?これまであいつがどれだけ献身的に手前に尽くしてきたと思ってんだ!?命に代えて一緒にいてくれた女に……『忘れてくれ』で済むと持ってんのか あぁ!?

 

「………」

 

先生は黙りこくる。これが正しい反応だと口外に発言しているようにネルは感じた。

 

「……わかったよアスナはオメェみたいな奴は忘れてもっと信頼できる奴を飼い主になるべきだよな?安心しな先生アスナはイイ女だからよすぐにいい奴見つけて幸せになるぜ?」

 

矢継ぎ早に売り言葉をならべるネル。それは先生の本音を知りたいが一心だった。

 

……いやだ

 

「あぁ?」

 

そんなの嫌だぁ……アスナに俺以外の主人様ができるなんて……一生…俺だけがアスナのご主人様でいたい!俺が死んだ後もしばらく……20年くらい引きずってて欲しい!

 

「そ、そうか。……聞けて良かったよ先生の本音って奴をよ?せめて今くらいは愚痴っても許してやるよ」

 

「あぁ…アスナには言わないでくれよ。心の底から幸せになって欲しいんだ……でも、クッソやっぱつれぇわ」

 

「言えたじゃねか」

 

 

―――

 

 

雨降る日、その日も人々の期待を裏切り突然の雨が襲いかかってきた日であった。生徒や住民の多くは濡れたくないと雨宿りをするもの、室内に隠れる者。同じ雨に対し三者三様の対応であった。その中で一際異彩を放つものもいた。

 

「……」

 

メイド服を着込んだ女生徒は夕立のゲリラ豪雨並みの降水量の中、雨具一つ携帯せずただ濡れていた。濡れているだけならばまだよい、その女性はその場から一切動こうとしないのだ。まるで飼い主の帰りを待つ忠犬のように……

 

「今日も会えないのかな?……」

 

女性……一ノ瀬アスナはそう呟く。彼女に“彼”の記憶はない。それは“彼”自身が望んだことだからである。おかげでアスナは己の直感の副作用であった健忘症は完全に完治した。されど……

 

「会いたいよ?」

 

なぜこんなにも渇望しているのかアスナ本人にさえわからなかった。だが、一つ覚えているものはある。

 

「私が覚えてる『ご主人様』の記憶もこんな雨の日だったのかな?」

 

アスナが覚えている記憶……それはこの店舗用テントの下で記憶の中の誰かと語り合った記憶。その前後は一切覚えていない。

 

「暖かった気がするな……」

 

その体温も、抱いていた感情ももはや思い出せない。それでもたしかに私は誰かを……その人を思っていたのだ。『きっとこのまま会えない』そんな確信ばかりがずっと心が支配する。だけど、

 

「私の勘はそうじゃない」

 

それでもこの心にポッカリと空いた穴は確かにあって、それがあなたの存在を証明してくれている。それだけで私がここにいる意味はあると思えてしまうのだ。

 

 

「……ビショビショでどうしたんだいお嬢さん?お悩みでもあるの?」

 

ふと、隣で誰かが並び傘を差しだしてくれる。顔を見ようとしたが黄色い襤褸で全身が隠れてしまっていた。それでも、私の何かが囁いた。

 

「――!!」

 

「お嬢さん?そんなに私を見てどうするんだい?そんなに私の見てくれがおかし――」

 

「ご主人様!!」

 

黄色い襤褸の人物に対しアスナは激突していった。そうだ。あの人の言葉を形容する小さな言葉……

 

「へ?」

 

「初めましてだね!メイドのアスナだよ!またよろしくね!」

 

記憶はないそれでもこの心は嘘じゃない。そうアスナは理解した。

 

 

*1
下着まで買ったのでソラちゃんにドン引きされたのは言うまでも無い




穴の開いたドーナツのような心の隙間を埋めることはできない。だが、新しい絆で優しく覆ってやることはできる。

この中で一番最高のエピソードと言えば?

  • コユキ
  • ノア
  • ミネ
  • 黒服
  • ヒマリ
  • アスナ
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