先生短命概念   作:you are not

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お待たせしました。ネタ切れしながらも多くの方に協力していただきまいした。感謝いたします。8番バッター狐坂ワカモ選手です。後悔と通い妻というパワースタイルです。


狐坂ワカモの場合

 

「……今日も何とか隠せたね」

 

D.U.のシャーレビルに着いた先生は誰に言うでもなく一人そう呟く……その発言は安心したような、それでいて何処か不安の拭えないような声色だった。

 

「……帰ろう」

 

そう言って先生はとぼとぼと歩いて行った。空模様は曇天、指し示すは先生の心かそれとも……

 

 

―――

 

 

「ただいまー」

 

そう誰に言うでもなくシャーレの個室に向かう。はぁ……晩御飯どうしようかな?料理めんどくさいんだよな…

 

――ふと、おいしそうな料理の匂いが鼻をくすぐる……

 

「あ、れぇ?誰か呼んだかな?」

 

先生の脳内が困惑から戻ってくる前にバタバタと奥の方から足音が聞こえてきた。

 

「あっ!貴方様お帰りなさい……」

 

「ワカモまた来たの?」

 

出てきたのはエプロン姿でお玉を片手に持ったワカモだった。

 

「はい、貴方様が忙しいそうでしたので……」

 

しょんぼりとした顔をするワカモ。現に耳と尻尾が垂れ下がってしまっている。

 

「まったく気持ちはありがたいんだけど……合鍵もあげたんだから今度は事前に教えてね?」

 

私を思う気持ち自体は嬉しいし生徒の自主性は尊重したいので無理強いは出来ず、曖昧な言い方になってしまう……決してワカモが来てくれることが悪いわけではない。むしろ……いや、何でもない。この気持ちは墓場まで持っていこう

 

「――っ!はいわかりました!……お食事のご準備は出来ていますがどうします?」

 

パーッと明るくなった笑みを浮かべるワカモにこちらも思わず口角が上がってしまう。

 

「じゃあ、頂こうかな。今日の献立は?」

 

私から上着を受け取ってハンガーにかけてくれるワカモ。

 

「フフッ今日は鰻とかぼちゃの煮物です。鰻は疲労回復に良いんです…ですから私は貴方様に元気になって欲しいと思いこの献立に致しました」

 

ワカモの説明にコクコクと相槌を打ちながら、お皿を用意して向かい合うように席に着く。

 

「そっか。その気持ちを今から頂こうかな、いただきます」

 

「はい貴方様召し上がれ♪」

 

そうして何度目なのかもわからないワカモと迎える食事。いつの間にか私が抱えていた曇天は晴れ渡り、小望月の光が蛍光灯の光と共に私たちを照らす。

 

 

―――

 

 

「おいしかったよご馳走様ワカモ」

 

「いえ、お粗末様です」

 

そう言いあって私を夕食の後片付けを手伝おうと立ち上がった瞬間

 

――吐き気と頭痛が体に襲い掛かって来る。

 

何で…こんな時に……やめてくれよ、なぁ?神様がいるなら教えてくれよ?何で今なんだ?私が何をしたっていうんだ…この子の前だけはやめてくれ…ワカモと休日に散歩したり、一緒に食事する……そんな贅沢すら許してくれないのかよ……

 

「――ま!――様!」

 

あぁ、ごめんワカモ。隠しきれなかった。君との日常楽しかったよ…吐血する感覚と共にぬるい体液で口元を濡らしながら、私の意識は暗転する。

 

 

―――

 

 

「どうしたら……!?」

 

ワカモはかつてないほどに焦っていた。食事を終え、お皿を洗って片づけをさっさと済ませようと呑気に考えていたというのに、先生が立ち上がると同時に先生が倒れてしまったのだ。駆け込むワカモの目線の先には血や胃液を口から垂れ流し、うわ言のように何か言っている先生の姿があった。かつてない経験にワカモの脳はショート寸前だった。

 

「……回復体位というものがありましたね」

 

いつだったか聞いた記憶を思い出したワカモは先生が口からの体液でおぼれて窒息しないように体を横向きにして、手と足、そして顎などの位置を調節し時間を稼ぐ……

 

「これで先生が死ぬことは無くなりましたね」

 

言霊として口に出すことでワカモは冷静さを段々と取り戻しつつあった。

 

「……そういえば先生が前におっしゃっていましたね」

 

ワカモはシャーレに通うことになった最初期に先生が自分に何かあった場合はここの直通電話をかけてくれと言われたのを思い出したようで、短距離選手もビックリな速度でシャーレ内の電話に向かうのだった。

 

「貴方様もう少しだけお待ちください……ワカモが絶対貴方様を死なせませんので」

 

それから数時間もしない内に先生輸送用車が来たのだが、ワカモがそれに文句をつけて暴れかけたのを自制したのは別のお話……

 

 

―――

 

 

ワカモの活躍によりシャーレの直通電話で連邦生徒会に送られた先生は何とか一命を取り留めることができた。しかし、

 

「原因を話すことができないとはどういう了見でしょう?」

 

「……ワカモさんには悪いですが今回の件は先生の口から話すべきだと思いまして」

 

怒りや不快感を一切隠そうともしないワカモに対して一歩も引かないリン。その対応には同情や憐憫といったもの以外にもどこか一歩引いた態度を感じさせた。

 

「なにか知っているなら教えなさい!あの人はどうなるんです!」

 

「……そこまでにしてワカモ。今回の件は私の傲慢のせいだからリンちゃんを責めないであげて、ちゃんと私が説明するから……」

 

ワカモを制止させたのは病衣に身を包み、点滴を携えた先生だった。そこには先日までの病弱ぶりが嘘のように堂々とした大人の姿があった。

 

「あ、貴方様!もう立ち上がってもよろしいんですか!」

 

「うん。だからね?落ち着いてワカモ」

 

一歩一歩ワカモに近づき、抱き寄せる先生。ワカモは静かにその抱擁を受け入れ思わず涙を流してしまう。

 

先生とリンはお互い無言のまま目を合わせ、先生が頷いた後リンも頷き回れ右してその場から立ち去ったのだった。

 

 

―――

 

 

「――だからワカモ私はもう長くないんだごめんね今まで隠してて」

 

「……そんな、……貴方様が……何をしたと言うのですか…」

 

ワカモはかなりショックを受けたのか途切れ途切れに言葉を口にしている。

 

「…っ!!」

 

俯いて頭を抱えた後、走りだしてしまうワカモ

 

「ワカモ!?」

 

先生はのろのろと鈍重な動きでワカモを追いかけるが体は万全な状態ではなかった。だが、キヴォトス人と常人では身体能力が違うため追いつけないであろうことは確かであった。

 

「でも、それでも私はあの子の先生であり…あの子の思い人だ」

 

果たしてどっちの方が本人にとって大切なのか結論づけることはできないだろう。先生は点滴の針を自ら外し、懐から隠し持っていた錠剤を呑む。たとえそれが医者から止められるほどのドーピング薬であっても、その副作用でまた倒れても、私にはあの子を止めなければいけない。

 

 

―――

 

 

街は爆破されていた。ワカモが通る道に残るは破壊と混沌。そして火薬と血の匂い。

 

「壊れてしまいなさい!こんな町壊れればいい!あの人を否定する世界なんて!」

 

結局のところワカモは耐えられなかったのだ。

 

「に、逃げろ!厄災の狐だっー!」

 

「最近は大人しかったのに……」

 

逃げ惑う人々、きっとその声すらもワカモの耳には入らないのだろう。いや、入っていてもただの環境音としか思わないだろう。人が鳥の鳴き声を気にしないように、人が雨音をいちいち気にしないように……

 

「ひっ!?」

 

黒い制服、恐らくゲヘナであろうものを着た生徒が倒れる。

 

「あっ!?お前足を!」

 

白い制服、トリニティであろう制服を着た生徒が転んだ生徒に駆け寄る。

 

「邪魔です」

 

自信のストレス発散を邪魔され、正気でない状態のワカモには先生との約束も頭のなかからすっぽりと無くなっていた。

 

「「っ!」」

 

ワカモの銃剣による刺突攻撃に対し、終わりを悟り目を瞑る二人の生徒。しかし、痛みはいつまでたっても襲ってこなかった。おかしいと目を開けた二人の視界に映ったのは……肩に銃剣が突き刺さるシャーレの先生の姿だった。

 

「大丈夫君達?足が動くなら急いでこの場から離れてくれない?」

 

コクコクと頷いた二人は急いでその場から離れる。

 

「あ、あ、あ、貴方様……あぁぁぁぁぁ!?!?」

 

発狂の域にまで達したワカモは取り乱し、声にならない悲鳴を上げるだけだった。先生はそれでもワカモを見捨てない選択をしたのか、銃剣が突き刺さっているというのに一歩ずつ近づく先生。

 

「ワカモ!!」

 

先生の声にワカモは正気を取り戻す。

 

「ぁ…貴方様、私約束を……見捨てないで、嫌いにならないで……死なないで」

 

縋るようなワカモの姿に先生は答えず、目と鼻の先まで近づく、先生は沈黙のままデコピンをワカモの額に当てる。先生にとっては全力でもワカモにとっては壁にぶつかる程度だろう。

 

「あ、なた様ぁ?」

 

「帰ろう?お説教はその後たくさんしてあげるから……」

 

「はい!」

 

ワカモが間違った行動をしたからと言って見捨てるわけがなかった。例え、道を踏みはずしてしまっていても先生が身を粉にしてでも止めると決心している。

 

この件でワカモは矯正施設に送られるかもしれない。ワルキューレには悪いが擁護させてもらわなくては。間違えたとしてもこれから直せばいいのだ。その為には互いに隣合い分かり合わなくてはいけない。

 

 

―――

 

 

桜が綺麗だねぇワカモ

 

車イスを押され花見をするシャーレの先生。きっと今日が最期であると悟っていた。

 

「えぇそうですね旦那様」

 

かつての悪逆さはどこへやら今は穏やかな笑みを浮かべるワカモ。知らない人が見ればきっとキヴォトスには珍しい穏やかな人物だと思うに違いなかった。

 

なぁ、ワカモ。その子を頼む

 

先生はワカモのお腹に浮かぶヘイローを見ながらそう呟く

 

「はい、お任せください旦那様との子は立派にして見せます」

 

期待のし過ぎで反抗少年にならないようにね……君との僅かな時間楽しかったよ

 

先生は目を瞑り静かに………

 

 

――貴方様の帰りを待つ時間が好きでした。

 

いまは、貴方様をいない時間が増える毎に、考えてしまうのです。

 

あのときああしていれば、こうしていれば。

 

そんな仮定ばかりを思い描いてしまうのです。それでも…

 

「母さんただいま!」

 

「お帰りなさい」

 

前に進めばきっと最後は楽しかったと言えるはずです。

 




これ書くのに三日かかった、これの後にアリス書くんだぜ?やべぇよ

次回:アリス&??編

この中で一番最高のエピソードと言えば?

  • コユキ
  • ノア
  • ミネ
  • 黒服
  • ヒマリ
  • アスナ
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