「落ちてゆく~砂時計ばかり見ぃてるよ~」
ケイが歌を口ずさみながらゲーム開発部の部室を掃除していた。何故かというとコンテスト用ゲームの開発が終わったからだ。その間部室は一切掃除されていなかったため荒れ放題であったため、ケイが掃除を買って出ているのである。
清潔感の欠片もなくなったこの部室でアリスや他の部員たちを生活させるのは、ケイのプライドが許さなかったのだろう。今はそれぞれがゆっくり、のんびりしていた。それ故、ケイはメイド服*1に袖を通し埃や汚れを落としていた。
「さて、あらかた綺麗に……」
「お姉ちゃん…アリスわかりません!」
「?」
ケイは妹のアリスに話しかけられたため振り返る。ケイにとって掃除よりもアリスと関わる時間の方が万倍大切なのである。
「どうしたんですかアリス?」
「お姉ちゃん!これを見てください!」
アリスが指さす方を見やれば、テレビとビデオゲームが置いてあるだけでした。きっと、アリスが言いたいのはそれその者ではなく、その内容……具体的に言えば画面に映るゲーム画面で分からないものがあるから教えてくれと言っているのでしょう。
「何がわからないのです?ただ老いぼれた老人と少女が向かい合っているだけではありませんか?」
ゲームの画面内では賢者のような襤褸を着た老人と鎧を着た勇者らしき少女が室内で机を挟んで向かい合っているドット絵が写っているだけだった。強いて言えば、老人が『遅かったじゃないか……60年待った私はもう死にたいだよ』とセリフを言っているぐらいである。
「それですよ!『60年も待った』と言っていますが、何で魔法使いティーチは70歳で死んでしまうんですか!?情けないです!!」
「………」
その言葉にケイは察する。そして頭を抱える。
――そうですね、アリスはまともな常識知らないんですよね……
正確に言うならば「今のアリスは」である。かつて記憶をなくす前のアリスであれば赤子同然の感性ではありましたが、人のそれと遜色ありませんでしたからね。なお、クソゲーで倫理教育したと聞いた時のケイは大層複雑なお顔をしたと言う。*2
閑話休題
記憶をなくす前のアリスの感覚が抜けきっていなかった、姉として恥ずべきだとして一人心の中で反省するケイ。
「…お姉ちゃん?どうしました?もしかしてわかりませんか?」
「いえ、アリス……落ち着いて聞いてください」
言わなければならないケイは覚悟を決める。きっとショックを受けるでしょうね……私もそうでした。
「人は100年ほどしか生きられないんですよ」
「……え?……そんなわけ…ないじゃない…ですか」
アリスはよほどショックだったのか、言葉が出てこない。
「……」
「嘘ですよね!?嘘だって言ってくださいお姉ちゃん!!?だって…それでは先生はすぐに死んでしまいます!先生はゲーム部のマスコットなんです!死んでほしくありません!」
アリスは私の肩を掴んで大きく揺らそうとする……伝わる手の平と瞳孔からどれだけショックなのか伝わってくる。仕方ないのです……私達姉妹は皮膚や一部器官こそ人造の筋肉でできていますが、それ以外のパーツはすべて機械……すなわち我々は
「――っ」
沈黙が答えだと知るや否やアリスは部室を開け、どこかに走り去っていってしまう。
「アリス!」
ケイが静止の声をかけたころにはアリスは既にいなかった。
「『一つの真実を知ればそれが事実か確かめずにはいられない』……なるほど貴方も一人前に科学者の娘という訳ですか。ですが、気を付けなさいアリス。真実には時として大いなる秘密が隠されているものですら……」
かつて製作者が言った言葉を思い出し口にするケイ。それは経験談か、それとも……
―――
「先生!」
アリスはシャーレ内執務室の扉を開け、先生にもとに駆け寄る。
「…ん?どうしたのアリス?何か困りごと?」
アリスの声を耳に入れ、顔と視線を前に上げる先生。
「はい!アリスは謎解きクエストを実行中です!ですから先生お時間いただけますか?」
「いいよ。どんなクエストなの?」
「先生が死ぬって本当ですか!」
瞬間、先生の周りの音はすべて凪いでしまった。実際に無くなったのではなく先生の脳内が他の音を受け付けなくなってしまったのだ。
――どうしてそれを?ヴェリタスが暴いた?いや、それなら本人たちが来るはず…誤魔化すか?いや…しかし生徒に嘘をつくのは…
堂々巡りをする思考に先生として修羅場を経験してきた心がドクターストップをかける。
――ばれてしまったものは仕方ない。もううち明かそう
つまるところ先生は思考を放棄して、一番リスクの少ない選択をしたのである。
「……そうだよ私はもう長くないんだ。大人のカードの代償でね…あと半年くらいで死ぬんだ」
「えっ?」
皆はおわかりだろう。そう、すれ違いである。アリスは『先生が(100年くらいで)死ぬって本当ですか!』と聞いた。対し先生はそれを『先生が(寿命が無くて)死ぬって本当ですか!』と認識して聞いてしまったのである。悲しいことにアリスにとっても先生にとっても最悪なパターンであった。
「どこでアリスがそれを知ったのかはわからないけど、私が死ぬっていう…」
「知りません。アリスはそんなこと知りませんでした……」
「え?」
ここで先生は自身の間違い、全てを察した。そうだよ、よくよく考えればアリスの体は機械なんだから100年以上生きてもおかしくないと思い至ったが、残念ながら声は刃物と違い、撤回することは出来ないのだ。
「…アリスごめん先生勘違いしてた」
「いいんです。もう、どうでもいいんです」
アリスは虚ろな目をしながらとぼとぼと先生に近づいていて来る。
「ア、アリス?」
ただ事ではないと思った先生はアリスの名前を呼ぶ。しかし、アリスは止まることは無かった。
――ドン
鈍い音を立てて先生は倒れる。音の発生源はアリスの手刀と先生の首元だった。
「安心してください先生?アリスが先生を死なせませんからね?」
意識を刈り取った先生の体を持ち上げ、ミレミアムに戻るアリス。その足はエンジニア部の元へと向かっていた。
―――
「うふふ…先生あともう少しですよ?」
アリスはある物を奪い取っていった。それはコピー製造機通称『スワンプ君』他人の記憶と遺伝情報を抜き取り、全く同じ記憶と肉体を持った存在を作成する機械…流石に倫理観がないとエンジニア部すらも封印していたのだが、アリスはそれをこじ開け取扱説明書と機械本体を強奪したのだ。
「さて、まずは先生をこのポットに入れて……」
アリスは先生の延命のために命の冒涜とすらいえる行為をしようとしている……
「させませんよ?アリス」
が、一人のシスコンが現れる。
「…お姉ちゃん、何の用ですか?お姉ちゃんと言えど邪魔をするなら打ちます」
アリスはスーパノヴァをケイに向ける。
「えぇ、貴方の気持ちはよくわかります。先生が死んで悲しい、死なないで欲しい。だから、コピーの体を作って先生の意識を写すことで永遠に一緒にいよう……そんなところでしょう?」
ケイはわかり切っているといった風に答える。それが姉と言えどもアリスの心をイラつかせた。
「はいそうですよ。お姉ちゃんだからってわかり切った風にいわないでください」
「えぇ、確かに私はアリスではないので思考は完全にはわかりません。ですが、それ以前に言えることはあります
貴方が作ろうとしている存在は先生ではありません」
ケイはアリスと瓜二つだ。だが、経験、知識、環境、道徳あらゆるものが違いアリスよりも濃く長く学んできたものだった。故にケイは姉を名乗るのである。自身の失敗から学習する、そして妹であるアリスには同じ経験をさせない。だからこそケイは無敵なのだ。姉である限り…
「死者はおいそれと蘇りません。仮に同じ記憶経験があろうともそれはその人本人ではありません。少なくとも私はそう思います……だからこそ、アリスあなたを止めます」
「……お姉ちゃんの言っていることはわかりません復活機能があるならば当然使った方が良いに決まってます」
アリスはこの会話は無駄であるという意思を示すために光の剣のエネルギーをためるが、起動しない。
「?なぜです」
「正直、この手は使いたくありませんでした。何せアリスの夢を否定する行動になってしまいますから」
ケイが長々とアリスと会話していたのはアリスを口だけで止めるためだけではなかった。仮にアリスと戦闘になってもいいようにブルートゥースを通じて光の剣の電源を落としておくためである。
「やめてください!お姉ちゃん!これがないと先生が死んでしまいます!」
アリスが機械の前に両手を塞ぐように立ちふさがる。
「…ごめんなさいアリス。本当にごめんなさい全ては私のミスでした」
8本の金属アームを背中から展開したケイはその全てからビームを打つ。アリスを避けるように…
「うぅ…ここは」
「おはようございます先生。状況の説明はいりますかね?」
先生はポットから出てきてあたりを見渡す。そして、シッテムの箱を開き状況を起動し監視カメラや記録されていた音声などを確認する。
「ううんありがとうケイ」
「どういたしまして…あとは任せますよ先生。私がわざわざアリスと対立したのですからケジメはつけてください…」
―――
「アリス。私のことを思ってくれるのはありがたいんだけど……これはダメだよ。これは生きているって言えないよ」
そのお説教がアリスには何よりも響いた。
「生きるって何なんですか…?…先生、教えてください……アリスわかりません……」
泣きじゃくるアリス、私は心に……今まで考えてきた私の結論を述べる
「アリス生きるってことはね、死ぬまで歩み続けることなんだ。いつかみんな死ぬ。私だけじゃない、ユウカやモモイ、ケイだってそうだ。みんないつか死ぬ――それでも命には価値があるんだ。アリス?今まで私たちの思い出は無意味だった?」
アリスはその問いかけに首を横に振ることで答える。
「そうゆうことだよ。残り僅かな時間で私は死んでしまうけれど、それでも私が消えることはないんだ」
「『消えることはない』?…」
アリスはその意味がなんとなくわかりかねた。
「私の命が無くなってただの骨になっても、君やみんなは私を忘れないでしょう?」
「……えぇ、そうです。仮に先生が死んでも私たちは先生を忘れませんよ。少なくとも生きるとはそうやって誰かの記憶に残ってこそ意味があるのかもしれません」
ケイが先生の言葉に相槌を打つ。そう、アリスは間違ったのだ。しかし、教訓は得たならばそれ以上はないのだろう。
―――
「……先生、今日はどんな冒険に出かけますか?アリスは一緒に旅立つ準備はできています」
アリスは点滴と注射痕ばかりのやせ細った腕をつかみ優しく語り掛ける。
「大丈夫。この冒険は私一人の旅立ちだから仲間はいらないんだ。だから、勇者の冒険を後で聞かせてね?」
「はい。アリスはいつの日か先生にアリスの冒険譚を先生に読み聞かせます。ですから楽しみに待っててください!」
先生は微かに微笑む。それは成長を祝ってか、それとも……
アロナバリアをアリスが貫通した理由はアリスに敵意がなかったから
この中で一番最高のエピソードと言えば?
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コユキ
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ノア
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ミネ
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黒服
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ヒマリ
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アスナ