その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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大山■を呑む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでこうなってしまったんだろう。

 

 

 

 

 ──昔から自分に自信が持てなかった。

 時折他人に『あなたはなんでそんな自信が無さそうにしているのか』と問われても私自身にも答えは分からなかった。

 私が生まれ持った気質なのか、それとも経験が足りないのか──。

 

 『何か成功できれば自分に自信が持てるんじゃないか』、……いや『この自信の無さが変えられないものであってほしくない』という恐れを振り払いたくて時間とお小遣いが許す限り、色々な事を試してみた。

 勉強を手抜きする事はなかったし、学校の部活は全て見学して、委員会や文化祭でも頑張った。

 ボランティアを手伝ったり、鉢植えを育ててみたり、夏の海でサーフィンにチャレンジした事もあった。

 

 ……でもダメだった。

 学校の成績は凡庸だったし、どの部活でも『自信の無さ』が足を引っ張った。

 委員会にしろボランティアにしろ自分より熱意や優しさを持ってる人が目に付いて逆に自信が無くなったし、鉢植えはお母さんの方が上手く育てられるようになって身を引いてしまった。

 サーフィンはインストラクターの人の絡みが怖くて逃げるように辞めてしまった。

 

 

 

 

 ……だから最後の手段、一縷の望みに賭けてみる事にした。

 幾つもの手続きを踏み、どうか通らないなんて事がありませんようにと祈り、通知を受けてついに食す事になったのだ──。

 

 

 

 

 ──この世界を変えた『桃』と呼ばれる果実を。

 

 

 

 

 『桃』と仮称されてはいるものの、数十年前に『魔都』と呼ばれる異空間で見つかったあの果実が実際何であるのかは誰にも分かっていない。

 ただ私にとって重要な事は、『桃』は食した女性のみに能力を与える事、──そして私の性別が女性であり『桃』で何かしらの能力を発現出来る事だけだった。

 私は自分に自信が持てるような能力が欲しくて、桃を食べた。

 

 

 

 

 

 ……実際のところ、不安が無かったと言えば嘘になる。

 『桃』の能力は火を出すとかビームを出すとか『魔防隊』に入るような派手な能力が取り沙汰される事が多いものの、人数としては運動能力を普通に高めるとか計算能力を上げるとか、そういう分かりにくく名前も無いような能力が多い事は調べて知っていた。

 それだって今の社会を女性優位のものに変えてしまうくらいには凄い力だけれど、『最後の望みに桃に縋るような私に、自信を持てるような力が現れるの?』という不安は桃を食すその時まで消える事は無かった。

 ──それでも食べた桃の最後の一片が喉の奥に滑り落ちるまで私は祈り続けた。

 『自分に自信を持てる能力でありますように』、と。

 

 

 

 

 

 ……結局、私に派手で自信を持てるような能力は発現しなかった。

 それどころか余りにも変化が無くて追加で度々検査を受ける羽目になって発覚した私の能力は──、

 

 

 ──……『記憶力を多少高める』という自信にはとても繋がらない、よくある無名の力だった。

 

 

 以来、最後の足掻きで大学時代に免許取ったりはしたものの私の人生にはもう『ストレス無く長生きする』くらいしか縋るものは無くなってしまった。

 記憶力は良くなったから覚えてしまえば勉強には困らなかったけれど、『桃』で底上げされて困らない程度という事実が今更私に自信を与える事は無かった。

 

 

 

 

 それでも無事就職して、働いて、健康にも気を遣って、たまにはお父さんお母さんを美味しい店に連れてって、人様に顔向けできないような事なんて何もしていないって誓えるのに、

 

 

 ──なんでこうなってしまったんだろう。

 

 

 嘆いても私を縛る()が緩まる事はない。

 

 

 

 

「──やっぱりそうだ、こいつこの中で一番美しいよ。そうだよね?……って分かんないかー、お前らじゃ」

 

 

 

 

 目の前のきれいな少女──、──醜鬼(バケモノ)を引き連れる角の生えた少女から逃れられる事もない。

 

 ──いつも通りの日常のはずだったのだ。

 横浜にある勤務先で今日の業務を終え、帰り道を歩いていたところで突然身体が痺れて意識を失った。

 ……気付いた時には私はもう服を剥かれて蜘蛛みたいな糸で縛り上げられて吊るされていた。

 戸惑って声を上げたら部屋に居た見張り(醜鬼)に気付かれ、この少女にも伝わり『ちょっとうるさい』と口も糸で塞がれてしまった。

 私の周りには同じように攫われたらしい人達が意識を失ったまま吊るされている。

 ……私は彼女達がまだ幸せな方だと心の底から思える。

 

 

 

「攫った時は気付かなかったけど、こうして見比べてみると一目瞭然じゃん!──よし、決めた!」

 

 

 

 

 『醜鬼(しゅうき)』──、魔都に現れ人を襲うバケモノが何故この『ハチライジン』……、……恐らく『八雷神』の『クウセツ』を名乗る少女に従っているのか。

 美しいのは自信の無さを隠したくてメイクでクールビューティーな感じに整えてるだけだとか。

 逃避だと分かっていても気になる事も言いたい事も有るのにそれを口に出す事は許されない。

 ──この先の未来から逃れる事もできない。

 

 

 

 

「──お腹ペコペコだし、お前から食べるね!」

 

 

 

 

 ──その顎からは、逃れられないのだ。

 

 意識を取り戻していた私を見た時この少女(バケモノ)はなんでもないように言ったのだ。

 『あれ?()が起きてる』と。

 そして固まる私に『お前たちを攫ったのは私が食べる為だよー?ほら』と言ってビラリと服を捲って見せつけて来たのだ──、──人一人簡単に通してしまえそうな腹の裂け目を。

 

 

 

 

 

「ほんとはもう少し集まってから選んで食べよう!って思ってたんだけどお前美味しそうだし一番美しいから特別だよー?いち早く(わたし)の一部になって生き続けられる事に感謝しな?」

 

 

 

 

 

 そんなの(なに)も嬉しくない!

 と言おうにも口を塞がれてはうめき声しか出せない。

 そうこうしている内に裂けた腹の奥から伸びてきたタコのように太い触手が私の身体に巻き付いて、捕まえる。

 巻き付く糸は叫び声まで縛り上げる。

 

 

 

 

「じゃ、いただきまーす」

 

 

 

 

 ──……今まで一番欲しいものは何も叶わなかったのに、最後は食べられて終わりだなんてあんまりだよ……。

 ……腹の裂け目まで引き寄せられ、その中の闇を見せつけられる私にできるのはもはや嘆く事だけだった。

 直後、かぶりつかれる。

 

 

 はぐ、はぐ、はぐ、と咀嚼されるたび、私の身体は奥へ奥へと引き摺り込まれる。

 それでも必死に抵抗するが糸と触手に捕まってはジタバタするどころか芋虫のように蠢く事しか出来ない。

 

 間もなく身体の全てが腹の中に引き摺り込まれ──、

 ──ごくりと闇の奥に呑み込まれた。

 

 

 

 

 斯くして私はバケモノのような少女に食べられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

^

 

 

 

 

 

 

 

 

 『八雷神(はちらいじん)』の『空折(くうせつ)』に与えられた誘拐の手駒である人間を生かしたまま捕らえる糸を出す醜鬼は主が餌を食べる様を同じく主に与えられた手駒である醜鬼と共に黙って見ているだけだった。

 そもそも醜鬼は人間を襲い、殺すもの。

 今回は主に命ぜられたが故に殺していないが、捕まえた人間がたまたま目覚めてしまい、恐怖に呑まれたまま餌食となってもそれを気にする感性など持ち合わせていない。

 

 

 

 

「はーっ、ごちそうさまでしたー!いやー、『お前を食べるんだ』って分からせてから食べるのも悪くないね!次もこーして食べよっかなー?」

 

 

 

 

 選んだ人間を完食し、満足げに腹をさする主の言葉を理解出来る感性も持っていない。

 

 ──だが、異常に対して反応する危機感は持ち合わせていた。

 

 

 

 

「っ⁈う、う、う──」

 

 

 

 

 ──突如として主が床へと崩れ落ちた。

 明らかな異常事態に隣の同輩(醜鬼)と共に動けるよう構える。

 

 

 

 

「なに、こいつ、(わたし)の自我を、呑み──⁉︎」

 

 

 

 

 

 ──しかしそれが関の山だ。

 彼らには主と詳しい遣り取りを交わして原因を探る事は出来ず、主の異常を解決する知識も技術も無い。

 生体を保存し捕らえる糸もこの状況では役に立たず、隣の同輩はそもそも暴力と破壊しか力を持っていない。

 そして仮にそれら力で解決するものだとしても、彼ら醜鬼に『八雷神』相手に力を振るうという思考は存在しない。

 ──即ち、それは空折にとっての『詰み』であった。

 

 

 

 

 

「ぐえっ!げぇっ……‼︎吐き出す、ってどうやれば──!」

 

 

 

 

 

 彼らがどうする事も出来ずに突っ立っている中、主は喉に手を突っ込み、腹の触手を全て体外に掻き出すが、その行いが実を結ぶ様子は無かった。

 

 

 

 

「あ、あっ、あっ、やめ──」

 

 

 

 

 やがて無力な人間が上げるような悲鳴を上げ、主はバタリと倒れた。

 だがしかし彼ら醜鬼達に出来る事は何も無い。

 何も無いが──、──構えは維持しておく。

 

 

 

 

「……ぅうっ?あれ、私、どうして──?」

 

 

 

 

 やがて主は顔を上げたが──、これまでと様子が違う。

 だが苦しみ追い詰められている様子も無い。

 

 

 

 

「……えっ?え?これって──」

 

 

 

 

 じっ、と注視する視線の先に座す彼らの主は──

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、これがこいつの力って訳かー……。あー、きつかった……。ちょっと休も……、……あっお前らは待機ね」

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()()立ち去ってしまった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 多少様子はおかしかったが、主の気配は食べた人間の分増えただけで変わらない。

 ならばこれは異常ではなかったのだ、と判断し同輩共々待機に移る。

 それが彼らにとっての当然であった。

 

 

 

 

「(……これ、どうしよう……)」

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「(なんでこうなっちゃったんだろう……)」

 

 

 

 

 ……知り得たとしても、出来る事は何一つ存在しないのだが。

 

 

 

 






【大山神を呑む】


……色々ムズかったけど何より空折の喋り方がクソムズかった……
……というか書き現せてる感じがしない……

:主人公
…魔都のある日本に生きる普通の女性、
 そのはずだったが空折に餌として攫われ食べられた末に身体を乗っ取ってしまった。
 桃の能力は発現しているが、その内容は当然『記憶力を高める』ではない。
 空折には攫った被害者の中で一番美味しそうだし美しいと認識されている。

:空折
…『八雷神』の一角。
 美味しそうな餌食べたら身体を乗っ取られた。
 ……実際主人公の能力は取り込めてしまえばヤバい事になると作者は想定している。
 空折は主人公を食べるのが一番良いと無意識のうちに感じ取ったからこそ『美味しそう』だという判断を下している。
 結果はご覧の通り。

:醜鬼(再生アクラ・三吉鬼)
…空折のお供。
 失敗した蜘蛛人間みたいな奴と、面長ムキムキなのに下半身が芋虫状な奴。
 糸出す方は少し前にはアクラという名前で呼ばれていた。作中にそれを知る者は一人もいないが。
 こいつらの判断力と知能考えるのもムズかった……。
 アクラは再生後も人質使ってたけどそれが『こいつらはこうすれば動けない』くらいなのか『こいつらは人質(これ)を傷付けたくない』くらいまで理解していたのか……。
 どっちみち本作ではこうなりました、ご了承ください。


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