その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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 どうやらまたランキング入りしたようです!
 評価と閲覧頂き、ありがとうございます‼︎


※注意!
 十番組の名有りオリ組員出ます!
 ……てか流石に銀奈さんだけじゃどうにもならんわ‼︎
 どうかご容赦を‼︎


大山実習/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「かんぱーい‼︎」」」

 

 

 

 

 都内某所。

 創作料理が話題の個室制居酒屋の一室にて。

 今日も杯が打ち鳴らされる。

 

 

 

 

「いやー、三人集まるのも久しぶりだね!」

 

 

 

 

 明るさを感じる服装に明るい雰囲気の女性が口火を切り、

 

 

 

 

「……本当は()()で来たかったんだけどね。(てる)()()()()()()()?」

 

 

 

 

 シックな服装にやや強気な雰囲気の女性が継ぎ、

 

 

 

 

(ふゆ)ちゃんの事は何も知らないよぉ〜⁉︎それにあれは横浜と神奈川の事だよ⁈」

 

 

 

 

 スーツにあわふわした雰囲気の女性が結ぶ。

 

 

 

 

「あれだけの事であんたら(中央省庁)が絡まないなんて事無いでしょうに……。まぁいいわ」

 

「口の固い知り合いに聞いてみたけど踏み込めなかったってー、()()()()()()

 

 

 

 

 ここ最近の三人の話題は高校時代、共に過ごしたもう一人の友人──先日、大規模な魔都災害により沿岸部の一角が壊滅した横浜が勤務先であり、その前後から音信不通となっている友人の事ばかりだった。

 

 

 

 

「家にも帰ってないみたいだし、実家にも帰ってない。Aled(勤め先)行ってみたけど『そんな社員はいません』って。──これってよっぽどやばい事に関わったんでしょ、照?」

 

「な、何言ってんの(よし)ちゃん⁈」

 

「バレバレだよ照〜。きみから誘って、きみの奢りで、こんな話の漏れにくい個室に誘うなんて、冬の事をあたしと芳が何か知らないか、知りたいんでしょ〜?ちなみにあたしは知らないよ。むしろ聞きたいくらい」

 

「右に同じ。真氷(まり)さんも気にしてたわよ、『知らない人がいる』って」

 

「……うぅ〜……」

 

 

 

 

 そして大学卒業後、公務員試験に合格し総務省職員として働く一人を二人が今夜詰めに掛かっていた。

 

 

 

 

「んー……(……芳、これダメだわ、『口止め』が使われてる。ヤバい案件で口止めの為に使われるって噂の)」

 

「(マジであんのね……。……能力まで使うとか、深入りしたら照に悪いわね)」

 

「(うん、それに軽ちゃんセンサーに普通じゃない人が引っ掛かってる。ここはちょっちヤバいかも)」

 

「(マジで何に巻き込まれたのよ、冬……)」

 

 

 

 

 ……が、頑なに()()()()友人の態度やこの居酒屋に居る不審人物に、行方知れずの友人が巻き込まれた事の重さを悟らされた。

 追及し過ぎれば立場が悪くなるのは話せない友人だという事も。

 

 

 

 

「…………冬ちゃんは死亡届も行方不明者届も出てないよ。()()()調()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 ……そして、友人二人が()()()()()()()、出せるだけ、精一杯の誠意が口に出される。

 

 

 

 

「……そ。ならどこかで無事にしてるって事ね」

 

「なら大丈ー夫でしょ!()()()!」

 

「そうね、冬だし」

 

 

 

 

 そして、二人はそれを受け取った。

 同時に、生きているのなら()()()()()()()()()()()()()()()()と考えを楽観的なものに改めた。

 

 

 

 

「そんじゃ飲も、っ‼︎楽しみだったんだよねー、ここ!」

 

「そーね、とりあえずあんたも飲みなさい。ここでそうしないのは損よ」

 

「……うん‼︎」

 

 

 

 

 そうなれば出来上がるのは友人同士の楽しい飲み会だけだ。

 酒と肴は夜の華に相応しく。

 

 

 

 

「じゃ、何頼むー?あたしモロヘイヤとハムのチーズフライ!」

 

「和豆のチリビーンズ」

 

「ししゃものアヒージョはどう?」

 

 

 

 

 夜は更けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青梅(おうめ)(けい)檜原(ひのはら)芳葉(よしは)明野(あきるの)(てる)に深入りせず』

『対象への進展無し』

 

 

 

 

 影は其処に有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ、」

 

 

 

 

 目が覚めるとそこは山の中ではなく、十番組寮の私の部屋だった。

 

 

 

 

「……もうちょっと使い勝手よくならないかなぁ……」

 

 

 

 

 『技に名前を付けてはどうじゃ?覚えやすくなるぞ?』という海桐花さんのアドバイスに、『……確かに……‼︎』となり名付けられた仮想空間改め【大山(たいざん)内裏(だいり)】は起きていては使えない。

 どうやら肉体の意識を意識体(アバター)改め『内裏体(だいりたい)』に落とさないとダメなようだ。

 そして今の所それは目をつむったり、瞑想する程度ではできず、気絶か入眠でないと受け付けてくれない。

 ……ココさん波音さんの事もあるし【内裏】はまだバレたくないから人目を惹き過ぎる気絶は論外だとして、眠ってる間にも鍛えられるのはいいけど……、私は一日に何回も眠れる程に眠るのが得意な訳じゃない。

 ……もう一つ【内裏】を使える可能性はあるけど、それは慎重に見定めてからだ。

 

 

 

 

「行ってきまーす」

 

 

 

 

 などと考えてるうちに制服に着替え終わり、今日の業務に向かう。

 今日は十番組管区をパトロールの後、本部業務だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウオォォォ‼︎』

 

 

 

 

 醜鬼。

 正式名称を『黄泉醜鬼(よもつしゅうき)』。

 基本的にその体躯は2mを超える二足歩行の人型。

 顔面とそれ以外で体色が分かれ、体表には体毛も生殖器も発見出来ない。

 食性、増殖方法は不明。

 魔都地中より現れる姿を頻繁に目撃されるも、掘削調査に於いて埋没は確認出来ず。

 通常種は複数体の合体・融合により一体の『大型醜鬼』ともなる。

 また特徴的な外見・能力を持つものは『特殊醜鬼』に分類され識別名付与・注意勧告が成される。

 

 

 

 

「──ふっ‼︎」

 

 

 

 

 ──尚、通常種一体であっても現世出現では数十人の犠牲者が想定される。魔防隊戦闘員は発見次第速やかな討滅を推奨す‼︎

 

 

 

 

「兜さん!」

 

「助かる!」

 

 

 

 

 一体を倒し、もう一体に【震動】を放ってひるませる。

 ひるませた一体は今日のパトロールメンバー、(かぶと)さんが切り伏せてくれる。

 

 

 

 

「三体、迫って来る」

 

「日ノ出!広く頼む‼︎」

 

「はい‼︎」

 

 

 

 

 もう一人のパトロールメンバー、鹿野(かの)さんが発見した奴らにまた【震動】を叩き込む。

 

 

 

 

『オオオオオ‼︎』

 

「隠れていたか」

 

「日ノ出、やれ‼︎鹿野は奥のを!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 すると地中から一体、悶絶しながら飛び出して来た。

 兜さんの指示に従い飛び込む。

 

 

 

 

「らあああああ‼︎」

 

 

 

 

 振りかぶる武器は──、斧。

 『戦闘を武器で補うなら何を選べばいいですか?』という質問に『最初は振り回して当てるだけのものにしときな。刀や銃は扱うのに訓練が居る』というりうさんのアドバイスは残念だったけど、真っ当だった。

 ──……刀使いたかったけど、実際振らせてもらうと刃筋を立てるとか、【内裏】で練習してもすぐには覚えられなかったし。

 じゃあ何を使うか、となった時、銃はまだ訓練中で命中率に不安しか無かったので──、──作業用兼非常時の戦闘用として保管されてたこの斧に行き着いた。

 

 

 

 

「はあああああ!」

 

『ガア、ッ⁉︎』

 

 

 

 

 ──【震動】でひるませ、崩れさせれば、今の私でも一撃で顔面を叩き割れる。

 そうでなくても顔面殴りは醜鬼でも効く。

 ずっしりした重量を振りかぶり、狙った場所に振り下ろすのはそう簡単じゃなかったけど、【内裏】で練習すれば刀よりは早く覚えられた。

 ……ハンマーも試してみたけど今の私だと顔面殴っても割と耐えられてしまう。

 最悪刃物は鈍器代わりになるけど、鈍器は刃物代わりにはなら……ないはず。

 だからまぁ、殺しなら刃物が正義って訳だ。

 

 

 

 

「倒したよ」

 

「よし。日ノ出、頼む」

 

「はい」

 

 

 

 

 そうこうしてるうちにこの辺に居た醜鬼は全滅した。

 仕上げに私は魂を震わせる。

 

 

 

 

「──【大山(たいざん)震動(しんどう)】」

 

 

 

 

 魂の音色が響き渡って行く。

 

 

 

 

「……聞こえる範囲には、他に生物はいませんね」

 

 

 

 

 【大山震動】によって発生する『震動』はある程度の出力があれば生命には音として聞こえ、その身体を震わせる。

 広く響かせた『震動』が生命に当たると、それは違う音色に聞こえる為、『震動』による妨害だけでなく、それを生かした探知器として使う事もできるのだ。

 

 

 

 

「だね」

 

「うむ、では警邏の再開だ」

 

「車回して来ますねー」

 

 

 

 

 ──ふと目をやった醜鬼の死骸は熱を出さない炎に溶けて、消えて行ってる。

 死体を残さないこの特性がまた、醜鬼という存在の解明を困難にしていた。

 

 

 

 

 倒す側としては死体処理をする手間が無くて助かるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が運転免許を持っていて本当に助かるぞ、日ノ出」

 

「そうですか?」

 

 

 

 

 魔防隊の隊用車を運転してパトロールしていると、隣に座る兜さんが話しかけてくる。

 兜を脱いで能力を解除し、膝に置いた休憩状態だ。

 

 

 

 

「ああ、恥ずかしながら私は機械の運転が苦手でな。手綱は取れるからこやつの『鹿ノ御霊(かのみたま)』に乗れれば良かったのだが……」

 

「鹿への敬意があれば今からでも乗れる」

 

 

 

 

 そう言う鹿野さんは車に並走する半透明に光る鹿に横座りしている。

 能力でコピーした鹿だそうだけど……、……元からあんな強くないよ、ね?

 

 

 

 

「……鹿だぞ、鹿?敬意など持てるか」

 

「……もしかして畑荒らされましたか?ニュースにもなってましたけど」

 

 

 

 

 そうこぼした兜さんの顔は苦い。

 なので安易に聞いてみた。

 

 

 

 

「ああ、福島の出でな。鹿や熊、偶に醜鬼も出たものだ」

 

「私は奈良。鹿はあるがままで良いけど、醜鬼は許し難い」

 

「私は埼玉出身ですけど、おじいちゃんが秋田に居て帰省すると話聞いてましたねー」

 

 

 

 

 ……やっぱり怖いなぁ、動物の出る山。

 

 

 

 

「まぁ兎も角『緒ヲ締メヨ(カブト)』は体力を使って行くからこれで走り続ける訳にもいかん。生身で()り合える強さも私には無い。だから車に同乗出来るのは非常に助かるのだ」

 

「うん、冬美は便利。戦えるし索敵もできる。銀奈が入れ込むのも理解できる」

 

「まだまだ未熟者ですけど、ありがたく受け取っときますね」

 

 

 

 

 油断はできないけど張り詰め過ぎてもいけない。

 そんなまだまだ残っている魔都のパトロール区域を走行して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔防隊総本部はすごいデカい。

 正面門から入るとどこかの美術館か武道館のような威厳ある佇まいの総本部主棟が見える。

 ……でも総本部建屋はそれ以上に奥行きがすごい。

 正面に見える総本部主棟の陰には組員寮などを含んだもっと大きな建物が隠れてる。

 俯瞰で見ると主棟がペラペラに感じられてしまうくらいだ。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 そんな総本部主棟内部も外観に相応しい整えられた内装をしている。

 タイルは大きく、柱は太く、カーテンや観葉植物、休憩用のソファーにさえ力を感じるくらいだ。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 …………、……正直一人きりで通るとなんかこわい。

 

 

 ……というか全然人と会わない‼︎

 総本部主棟で人とすれ違った試しが無い!

 本当はここには誰もいないんじゃ?と疑ってしまうくらいだ。

 

 

 

 

「……まぁそんな事はないんだけど」

 

 

 

 

「陰陽寮からの桃源郷強化装具、半数がまだ入ってません‼︎」

 

(クナド)発生予測についての試案が送られて来ました!」

 

「そろそろさらさのローテよ‼︎音符(おんぷ)とさらさに誰が通達して!……あ″?あいつらどんだけバイクにねじ込むつもりよ⁉︎」

 

「七番組の奴隷くん、二番組に貸し出しするそうでーす……「クロミ‼︎二番組に『これ以上バイクに経費ブチ込むな!殺すぞ‼︎』って送って‼︎」…………自ずから成すべし、八脚纏いし織り手」

 

 

 

 

 ……第一事務室の扉を開けるとそこはいつもの業務集中時間のように騒がしかった。

 このギャップはどこから生まれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜、それはね、色々あるわ」

 

「色々?」

 

 

 

 

 業務の谷間、お茶を淹れた休憩時間に聞いてみるとそんな答えが返って来た。

 

 

 

 

「まずは忙しいから。単純に十番組(うち)は忙しいのよ。その辺うろついてる暇がないわ」

 

「あー、給湯室も第一事務室(ここ)に側付けされてますもんね」

 

「年度末は食堂にも行けない缶詰めになるわよ、覚悟しといてね」

 

「?それは当たり前では?」

 

「……いいわね。経験、あるみたいで」

 

「……」

 

 

 

 

 教えてくれるのは雲織(くもはた)さん。

 魔防隊所属も長いベテランで、事務作業にも長けてるし、頼り甲斐のある人だ。

 ただし経費の私的使用は許さない。

 一緒に聞いてる……?のは田沼(たぬま)さん、もといクロミちゃん。

 業務報告以外はまだ余り喋ってくれないけど、ぱっちりした目の分かりたくなる子だ。

 

 

 

 

「二つ目は今が恋組長だから。あの子怖いでしょ?だから自主的に事務室(ここ)とか組員寮とか以外では騒がないようにしてるわけ」

 

「なるほど」

 

「……」

 

 

 

 

 そう言う間にも雲織さんは『神史の織り手(アラクネー)』で背中から生やした細脚を器用に使ってお茶を入れてくれる。

 柔らかい味の緑茶だ。

 クロミちゃんは『夜の液体(クロミリキッド)』を使って淹れた特製の黒いお茶が入ったカップを持って、コクコク頷いてる。

 

 

 

 

「海桐花組長の頃ならまた違ったんだけどねー。……んで三つ目が……、引け目と習慣、ね」

 

「引け目?」

 

「そ、……魔防隊は選抜者(エリート)が要求されて、その為に魔防大学とその附属高校なんてものが作られるくらい、人が集められる」

 

「だけどその大半は振り落とされる……、でしたよね?」

 

 

 

 

 そこは銀奈さんからも聞いた話だ。

 有望な方達がたどり着けないのは悲しい、と。

 

 

 

 

「そ。醜鬼、対人戦(テロリスト)、隔離された異空間……、……色々な要素が魔都から人を追い出してくけど、一番多くを振り落として来たのが天候ね。気圧差も寒暖差も現世の比じゃない。附属高をいくつも飛び級してきた天才があっけなくダウンなんてザラにあるわ」

 

 

「でもマシな方なのも居る。そういうのが配属されるのが結界に守られた総本部に詰める十番組の事務偏重組員……通称“内勤組”と、比較的気候が安定した中央大洞窟の“出張組”……」

 

 

 

 

「……でも本当に引け目を感じてんのは十番組の全員よ」

 

「ぜ、全員?」

 

 

 

 

 それはちょっと、思ってもみなかった、けど……。

 

 

 

 

十番組(うち)ってば総本部でしょ?だからふるいに残った中でも優秀なのが配属されるのよ。──組長どころか副組長にもなれない程度に優秀な奴がね」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 考えてみれば、それはありえる事だ。

 

 

 

 

「そんでだんだん気付いて、あるいは鼻っ柱へし折られてくの、『組長はバケモノだ』ってね」

 

「……そんなにですか?」

 

「そんなによ。一番組のりうってばあさん知ってるでしょ?あたしあのばあさんが組長だった時ボコボコにされた事があるわよ?」

 

「……何をやったんですか?」

 

「若気の至りよ。九番組の七光りにもケンカ売ってズタズタにされたしねー」

 

 

 

 

 ──バシャリ、とお茶がこぼれた。

 

 

 

 

「……あたしは今でもあいつが怖い。あいつを良い子ちゃんの七光りだなんて思ってた頃のあたしをブッ殺してやりたい」

 

「……雲織さん……」

 

 

 

 

 それはガタガタと、微かに震える雲織さんの持つ湯呑みからこぼれたお茶だった。

 ……そっと、ハンカチを手渡しておく。

 

 

 

 

「……ありがと。……そんなバケモノ共が集まるイベントがある。……この総本部でやる『組長会議』ってイベントがね。恐れて、畏れる奴らと出会したくなんてないからその日は特に誰も出歩かなくなる。それが習慣として染み付いてるから普段の出入りも少なくなるって訳」

 

「……なるほど」

 

 

 

 

 ……納得するしかない実感しか、そこにはなかった。

 

 

 

 

「…………我等が頂き。生命星(ほし)の解答」

 

 

 

 

 ……と思っていたらポツリと、クロミちゃんが呟いた。

 

 

 

 

「……あー、引け目といえばそれもあったわね。うちの組長」

 

「……それってもしかしなくても?」

 

「そうよ。……今の十番組には山城恋が居る」

 

 

 

 

「バカみたいに仕事ができて、バカみたいにコネがあって、……ありえないくらい、バカって認識もできないくらい、強い」

 

 

 

 

 そう語る雲織さんに恐怖は全く無い。

 ただ、神妙だった。

 

 

 

 

「前に十番組(うち)の動ける奴ら全員で恋組長と戦う、って訓練をやった事があんのよ。しかもこちら側から先制攻撃していい、ってルールでね。冬美ぃ、あんたどのくらい保ったと思う?」

 

「……三秒?」

 

「半瞬」

 

「……0().5()()()。動いたら気絶してたわね。あたしもクロミも(とおる)竜緒(たちお)もその時居たけど、全員がひとまとめに、一度にやられたわ」

 

 

 

 

 ……それは、また。

 …………………。

 

 

 

 

「それ以来恋組長はあたしらと訓練なんてしていない。──つまるところあたしらみんな負け犬よ、骨の髄まで上下関係を覚え込まされてる」

 

「其は魂魄に刻まれし印形」

 

「…………」

 

「うちじゃ副組長だって誰も気にしない。()()()()()()()()()()()()()()()()。今は銀奈だったっけ?」

 

「その責、汝に無きや?」

 

「え、あたしじゃないわよ。かろうじて他んとこの組長クラスなら務まるんじゃないか、ってくらい?それでも何も変わらないと思うけど、──だってバカみたいに完璧に仕事できる人に何を意見しろと?」

 

「…………」

 

 

 

 

 ぽちゃん、と、蛇口から水が落ちる音さえ聞こえた。

 

 

 

 

「…………喋り過ぎたわね、そろそろ報告書が来る気がするわ「……大変ですね」……、?」

 

 

 

 

 ……でも、言わずにはおれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上が高いってのは」

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………頑張んなさいよ」

 

「……祝福と栄光は汝に在らん」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 ここは総本部第一事務室。

 デスクももう馴染みそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いち、……にー、……さん」

 

 

 

 

 魔防隊はトレーニングルームも充実している。

 それはもちろん十番組でも変わらない。

 ランニングマシン、バーベル、あとまだ名前を覚えてない数々のトレーニングマシンまで。

 実戦訓練となると外に出て魔都で行なうけど、屋内でもそういった訓練ができるようにスペースが取られた格闘訓練場や屋内射撃場もある。

 

 

 

 

 

「……しー、……ごー、……ろく」

 

 

 

 

 ただし今の私は道具やマシンはまだ使わない。

 道具を使うトレーニングはある程度身体ができてから。

 まずは自重を掛ける、即ち身一つでできる腕立て伏せや腹筋をこなす。

 こういうのは徐々に負荷を増やしていくのが基本だ。

 

 

 

 

「しち、はち、く、じゅう‼︎」

 

 

 

 

 魔都(ここ)では鍛えて損は無い。

 ……桃の採集専門の人員を魔防隊で護衛する形にした時とか、事務専門の人員を増やした時とか、戦闘力も戦闘を助ける力も脅威を察知する力も無い人を魔都に入れて悲惨な事になった事例はまぁまぁある。

 幸いにも私は戦闘力を身に付けられる方だ。

 

 

 

 

「あっ、ここに居ましたか冬美さん!一緒にご飯どうですか⁉︎」

 

「いいですよー銀奈さん、ちょっと待っててくださいね」

 

 

 

 

 ──それは私の望みにも合致している。

 トレーニングはストレッチとクールダウンも済ませて八割、食べて寝て休んでようやく十割、

 と、いう訳で食堂でご飯だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか冬美さん⁉︎魔防隊には馴染みましたか⁈」

 

「はい、『魔防隊の空気感』は掴めたので。あとは他の組の皆さんにもお会いしたいですね」

 

「それは良かったです!合同訓練も増やされてますし、遠からず会えますよ!皆さん素晴らしい方達です!」

 

 

 

 

 魔防隊では一番多く接して来たけど、目の前でバゲットサンド盛り合わせを食べる銀奈ちゃんはぽんぽん人を褒めるしいい子だと、月見そばを食べながら思う。

 ……魔防隊“以外”と接した時が不安だけど。

 どんだけ塩対応になってもおかしくなさそうな……。

 

 

 

 

 ──他の魔防隊組員寮では管理人さんが作ってくれた食事を居間で摂るらしいけど、総本部食堂は利用者が桁外れだ。

 十番組の全員と中央大洞窟の出張組他多数の人員がそれぞれバラバラの時間に食事を摂るので調理師さんが何人か常駐し、二十四時間食事を摂れるようになっている。

 

 

 

 

「あ、冬美さん」

 

「あれ、遙乃(はるの)さん。これから潜りですか?」

 

「はい、なのでまた今度という事で失礼しますね」

 

「はい、気を付けてくださいねー」

 

 

 

 

 なので遙乃さんのような出張組と顔見知りになる事も珍しくない。

 

 

 

 

「おおー……、馴染んでる証拠をまじまじと見せられてしまいました……」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ!あ、もう通達されているかもしれませんが、明日は朝から恋サマから何か辞令があるようですよ?」

 

 

 

 

 ……え?

 辞令?

 

 

 

 

「……辞令?」

 

「はい!なので明日は恋サマの執務室にお願いしますね」

 

「……はい、分かりました……?」

 

 

 

 

 ……⁇

 ……端末や通達システムの履歴にも、銀奈さんと今食堂で気を向けていた人の記憶にも残して?

 直接呼び出し?

 

 

 ……ちょっと訳が分からない。

 分からないけど了承はするしかない。

 特殊ではあるけれど、魔防隊もまた社会人であるのには変わりないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと……、……よし、まだあった」

 

 

 

 

 魔防隊は特殊部隊故に秘匿される部分もあるけど、だからこそ情報は重要だ。

 特殊醜鬼や気象傾向などはデータベース化されて端末で閲覧できるけど、一部資料は紙に記され物理媒体としても閲覧できる。

 ただ十番組だと少し事情が違い、直接魔都とは関係の無い書籍がいつしか一般資料庫に収蔵され閲覧可能となっている。

 なので十番組ではこの一般資料庫を『図書庫』とも呼んでいる。

 

 

 

 

「あれ、冬美さんだー」

 

「ん、蓼科(たてしな)ちゃんに合瀬(あわせ)ちゃん」

 

「え、もしかして図書庫使ってたんですか?初めて見たー」

 

 

 

 

 ……ただしあんまり利用者はいない。

 組員寮は通販も届くし、制限はあるけどWi-Fiでインターネットも通じるから娯楽としても学習としても需要は多くない。

 

 

 

 

「えーと、……解剖学?回復役もやるつもりですか?」

 

「いや、筋肉の付き方を知りたくなって。これで二回目だよ」

 

「え、回復以外で役に立ってんのそれ⁇」

 

「身体の動きは筋肉の付き方からだからね」

 

 

 

 

 ただしまだ給料の入ってない私にとっては大助かりだ。

 ……通帳は持って来れなかったんだよね……。

 

 

 ……それに本という物理媒体もまた、私にとって大いに意味が有るけど、それはまた別の話。

 

 

 

 

「そいじゃあたし達は仮眠なので〜」

 

「チャオ〜」

 

「おやすみなさ〜い」

 

 

 

 

 索敵係の蓼科ちゃんと合瀬ちゃんは十番組の中では比較的スケジュールに余裕があるけど、その分勤務時間中は索敵範囲の取りこぼしも魔都災害の見逃しも無いようにひたすら能力を使い続けなきゃいけないから大変だ。

 特に『音符のメロディー♪(レコードテンポ)』は定期的に弾き直さないといけないからなおさら。

 『星読む銀盤(ギンガサガシ)』だって体力が削られるから適切な休息は必須だと言っていい。

 

 

 私もそろそろ今日の就寝時間、それまでに脳に刻めるだけ刻んでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜………」

 

 

 

 

 一日の汗と疲れをシャワーで流す。

 肌ケアも怠らず。

 

 

 

 

「おやすみ〜」

 

 

 

 

 そして布団に入る。

 やがて私は眠りに着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、今日は胴体かな……」

 

 

 

 

 ……ただし私の場合は寝た後もしばらく一日が続く。

 【内裏】で取り出したのは()()()、……のコピー。

 昨日からこれに()()()をしている。

 

 

 

 

「腹直筋はこれでオッケー、腹斜筋は……。……内腹斜筋、かな」

 

 

 

 

 これは『記憶だけでは私自身の正確な写しができない』という欠点を、自分の正確なモデルを作る事で補う作業だ。

 骨はCTスキャンの検査結果から、筋肉は解剖学の本を元に。

 組み上げたら『内裏体』に()()()感覚を繋ぎ、違和感があったら組み直す。

 

 

 

 

「えーと、腹斜筋のページは……」

 

 

 

 

 で、見直したい場所がある場合、【内裏(ここ)】では本という形が大変助かる。

 形や色、最悪でも表紙背表紙に記されたタイトルに違いがあるから、その辺に放り出したのをパッと見てもどれがどれだかすっごく分かりやすい。

 ……これがスマホとかの一つの端末だと、別々の事が載ってても見た目はどれも同じなので探すのがとても大変になる。

 検索できるようにすればいいと言われても、私の魂に検索エンジンは無いしインターネット的機能が搭載されている訳でもない。

 ……じっ、と集中すればスマホの画面に記憶を映し出す事もできるけど、【内裏(ここ)】じゃ直感的に目の前へ取り出した方が早い。

 ……それともそういう事のできる、プログラム的なのを組むのもありかな?

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ……ただ、山の中で一人、自分の身体を組み上げるのは非常に気が滅入る。

 ……色付けは本物から外してるけど、骨と肉だよ?

 ……あと不正確な記憶の写しを側から見ているより、『自分が作られている』事でリアリティが積み上げられてなんとも言えない気分になる。

 

 

 

 

「わー」

 

 

 

 

 なので休憩は定期的に入れてる。

 

 

 ……それがまだ組んで無い自分の腕(の骨)をぷらぶらさせるなのはどうなんだと落ち着いて来た頭が言ってるけど。

 

 

 

 

「腕……」

 

 

 

 

 ……側から見れば私はよくやってるように見えるのだろうか。

 

 

 

 

 私自身にとってはまだ不満の方が多い。

 ……大半は時間が解決するけど。

 

 

 

 

 特に強さ──戦闘能力が現時点でしばらく頭打ちになりそうなのが不満だ。

 今の私は【震動】でひるませて斧で仕留めるのが戦闘のスタイルである。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 実戦でできるのは『斧を振り下ろす』『【震動】を放つ』の二つだけ。

 

 

 では他はどうかというと。

 

 

 とにかく何よりまず身体能力が足りない。

 特に素手で戦うどころか、武器の扱いにさえ制限がかかるくらいに腕力が足りない。

 体幹ももっと安定させたいし、走力と飛び退く力を合わせた脚力も斧を持ってもできるくらい欲しい。

 ただ体力はジョギングが効いたのか、比較的余裕がある。

 でもあぐらはかかず、余力を増やしていきたいところだ。

 

 

 で、魂と能力関連は。

 まず魂を急速に動かした勢いに引っ張らせて身体を動かす【大山加勢(たいざんかせい)】。

 ジャンプしながら上方向にこれを使う事で私は一瞬空を飛べた!……けど喉が締まって失神するとこだった。

 それに使うと身体が千切れかけて痛すぎるのはまだ解決できてないし、『打撃に上乗せする』海桐花さんのアイデアも実現できてはいない。

 これは身体強度が欲しいところ。

 次に膨らました魂に身体を合わせる事で身体も膨らませる【大山悠景(たいざんゆうけい)】。

 ……これは使い道が分からない。

 殴る蹴るなんてもっての他、脳味噌の詰まった頭や内臓ぎっしりの胴体には試す事すらできないし、脆すぎて体積を増やしてのパラシュート代わりにも使えない。

 そして魂に身体を支えさせる事で厚みを出す【大山援姿(たいざんえんし)】。

 これも【加勢】と同じく()()()()使()()()()()()タイミングを合わせる段階まで行っていない。

 一応、一・三倍くらいまでなら使っても激痛にならない事は分かってる。

 戦いのテンポにもっと慣れる事が必要だ。 

 

 

 で、魂を増強する『大山の(こころ)』という能力の直接の派生であり、一番威力を出せる【大山(たいざん)(ひかり)】は……、……全然使えてない。

 ネックはまず『発射できる場所が限られている』事。

 『私の身体に囲われた』『ある程度スペースがあって』『隙間を塞げる場所』でないと十分な威力が出せないのだ。

 腕を手で掴んだ程度のスペースだと『ちょっとまぶしい』くらいにしかならないし、口の中は……、……口と鼻がつながっている事を考えればむせるだけで済んで大変幸運だった。

 次に『反動』。

 膨張する魂が囲いを解かれて弾ける事で【大山ノ光】は成立しているけど……、……この弾ける反動が結構強い。

 『合掌する』以外で今んとこ唯一入れられた『指を合わせた片手を丸く握る』やり方はその後反動を受けて【光】があらぬ方に飛んで行くわ()()()手首に大ダメージだわで即お蔵入りになった。

 合掌した掌を指先から開く【花閃(かせん)】の形が一番いいと分かったのだけど……、……『手が塞がってしまう』。

 殺意満タンの醜鬼を相手にすると『すぐ終わる』と思っていたチャージが遅過ぎるし、その間手を使えないのはいざという時の事を考えると痛過ぎる。

 そして今の私にチャージしながら逃げ回る回避能力は無いから【震動】でも使いたい所だけど……、……『下手に魂を動かすと暴発してしまう』。

 これは多分慣れの問題で、【震動】で震える魂を掌の中に抑えきれなかった。

 ……もっと根本的な問題として『いくら新しく増やしたものとは言え、魂を外に分離して大丈夫……?』とも思う。

 うっかり紫黒あたりに拾われでもしたらは研究材料として大変不愉快な事になるだろうけど……、これは囲いが解かれて外に出た事で魂はしっかり霧散し消え失せているのだと信じるしかない。

 

 

 そんなこんなでメインウェポンとなった【大山震動】も使っていくうちに問題が明らかになった。

 ある時ふと、気になってしまったのだ、『……一番最初に試した時の銀奈ちゃん、揺れ過ぎじゃない?』と。

 【大山震動】は慣れれば震えを気にせず行動できる、けど同じ初体験でも銀奈ちゃんがぶるぶる揺れて喋る事もままならなかったのに、りうさんは『キツい』とは言いながらも喋る余裕があった。

 この違いが気になった私は何人かの人に頼んで、【震動】を受けてもらった。

 すると身体を強く鍛え、前面に出て戦う人と、あまり身体は鍛えず後方に控える人で明らかに【震動】の効き方が違ったのだ。

 索敵係の蓼科ちゃんは銀奈ちゃんと同じくらい扇風機になってたけど、戦闘員の活動が主体の兜さんは『……ぐらぐらするな』と言いつつも普通に喋れていた。

 同じ戦闘員主体でも鹿に戦わせる鹿野さんがちょっと扇風機になってたから、身体を鍛えた人には【震動】は通じにくいと分かった!…………で、済めば良かったんだけど……。

 ……昔はよく戦ってたけど今は事務ばっか、体はなまってきているという雲織さんもまた『……ガンガンするわ』と言いながらも普通に喋れていたのだ。

 ……じゃあ単純に生まれてからの年数なんじゃない?とすると兜さんとそう歳が変わらないのに揺れていた鹿野さんがノイズになるし……、……もう一つの問題にも行き着いてしまう。

 ()()()()()()()()()()()()()

 ……私が牽制に使っている【震動】は無防備に喰らい続ければ、能力で身体能力が高まり防御面も万全な兜さんでも気絶する(※もちろん銀奈さんに治してもらいました)くらいの威力が有る、……のに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……資料を見る限り醜鬼がトレーニングする様子は無いし、経過年数なんてバラバラのはずなのに、一律で【震動】に耐えて来るのだ。

 ……両手を組んで指向性と威力を強めた【奏砲(そうほう)】だって人がまともに喰らえばエラい事になる(※もちろん『会員制闘技場(ギンナクラブ)』で治してもらいました)のに醜鬼は仕留めきれない。

 『……【震動(これ)】、もしかして八雷神にも効かないんじゃない?』という一つ目の大問題。

 ……まぁこれは実際に撃つまではなんとも言い難いけど、それとは別にふと気付いてしまった二つ目の大問題、『……【震動(これ)】、魂を動かせる人には全く効き目が無いのでは?』。

 『魂を動かす』のは桃の力に関係なく(恐らく)誰でもできる技能。

 【震動】で魂を揺らしても、魂を動かして震動を(なら)すか、魂を引き締めて揺れないようにすれば、身体に震動は伝わらず、無力化されてしまう。

 ……多分これが『慣れ』の正体に近いもので、これは私自身に触れて【震動】を伝えてみて分かった事だけど、全く油断できない。

 何度も訓練に付き合ってくれた兜さんが『……分かって来たぞ』と、だんだん【震動】を受け流せるようになってきたのだ。

 ……政府側の戦力に魂に理解の有る人が隠されていて、私にぶつけられるという事態だってあり得る以上【震動】に頼り過ぎるのは危険だ。

 ……けど、私の回避能力的に【震動】は手放せないという少々まずい事態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 

 ……まぁ長々と考えてしまったけど大半の問題は時間が解決してくれる。

 身体能力を上げていけば【震動】に頼らなくても回避できるし、【光】の反動だって抑え込める。

 練習すれば【加勢】や【援姿】を戦いながら使えるだろう。

 装備手当で発注した武器も解決策になるかもしれないし、なんなら発注したもの以外に更に武器を増やしたっていいのだ。

 ──遠距離を切り捨てて、『絶対当たる距離で使う』と割り切って銃を使うのもありかもしれない。

 どうしても無理ならその時一緒の人達に守ってもらう手だってある。

 

 

 

 

「……んぅ、っ」

 

 

 

 

 そんな事を考えるうちに眠くなってきた。

 【内裏】で寝て起きるとまた【内裏】の中なんて事はなく、普通に目覚められて【内裏】は解除されている。

 

 

 岩場にベッドを引きずり出して、今度こそ私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私は一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら随分魔防隊に馴染んでくれているようね。総組長として大変喜ばしいわ?」

 

「はい、お陰様で」

 

「仕事は正確、人間関係も良好、能力開発にも成功し、醜鬼討伐数にも顕著なものが有る。入隊して三週間も経ってないとはとても思えないわね?研修・実習、共にこれで修了。貴方を正式に十番組組員と見做すわ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「じゃあ、十番組組員としての辞令を言い渡すわね?──冬美、貴方には三番組に出向して貰うわ」

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 ……朝、一番。

 総組長執務室に呼び出された私は、組員として認められると同時に辞令を言い渡されていた。

 内容は十番組を離れ、魔防隊三番組に出向する事。

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 ……なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……私は、自分が政府上層部には八雷神との繋がりを疑われているものだと思っている。

 魔防隊に入れたのも、総組長が自らの直下・十番組に入れて監視するからこそ許されたのだと思ってる。

 ……で、もし“黒”だと判断されればなんの予告も無く始末か捕縛に動かれるものだと思っていたし、逆に“白”であってもド新人をわざわざ呼び付けなきゃいけないような仕事は無いと思ってた。

 どちらにせよ総組長がその手元である十番組から私を離す事は無いと、無意識のうちに確信までしていた。

 だから昨日銀奈さんから聞いて、通達を見ても、『今の私に言わなきゃいけない事なんてある……?』って感じで何が言い渡されるのかさっぱり分からなかった。

 

 

 そしていざ行って聞いてみれば出向という形で十番組から放り出すという。

 ……聞いてもさっぱり分からなかった。

 

 

 ……確認しよう。

 魔防隊・三番組。

 組長は月夜野(つきよの)ベル。

 管轄区域は魔都東方。

 ……十番組の組長は山城恋で、管轄は魔都中央(と全域統括)。

 ……一応魔都の一部だから管轄は被っていると言えなくも無いけど、寮はそれぞれ別個に離れて建てられているし、総組長が組長業務を兼任している訳でもない。

 

 

 ──何より監視に割ける人数が減ってしまう。

 総本部では大体いつも数十人の人間が詰めていて、一人きりになるのは難しい。

 私も今日まで全て、仕事は誰かしら数人以上で組んで片付け、食堂やシャワールームなんかを使っても誰かと遭遇しないという事は無かった。

 自然と私の行動は誰かの目に入るし、長時間姿を消せば誰かか気が付く緩やかで無自覚な監視網ができているのだ。

 あとはこれで私室に何かしらの監視を仕込み、私に張り付く専属の監視要員を付ければ、今の私じゃどうにもならない監視網ができあがるだろう。

 

 

 ……ところがこれが各組寮となると全く話が変わる。

 例えば現在三番組寮に詰めてるのはたったの四人。

 たったの、四人。

 ……たったの四人だ。

 ──初めて聞いた時は驚き過ぎて『少なっ⁈』と叫んでしまったぐらい少ない。

 しかもこれでも三番組は多い方であり、五番組や八番組はたったの三人しか詰めてない、…………一人しか違わないのを多いと言っていいの?

 実際は管轄区域ごとに広さに差はあるけど、ざっくり考えて東京都の九分の一の広さを能力と索敵係無しでカバーするには余りにも少な過ぎる。

 ……いや正直今でも信じられてない、いくら魔都がガラガラに人がいないにしたって東京都の九分の一の広さに起こる魔都災害をたったの三人でカバーなんて正気の沙汰とは思えない。

 だいたいどこも総本部と同じか、半分くらいの人はいると思ってた。

 まぁこれも出張組が全員元の組に戻れば話は変わるけど……、……問題は各組寮はそれを想定して割と大きめに作られているのだ……、……三、四人で使うには大き過ぎない?と思うくらいに。

 ……人数が足りないから、多分私でも簡単に人目から逃れられるくらいに寮はガラガラだろう。

 私がその気になれば監視の余地など一欠片も無い。

 

 

 

 

 ……ほんとにどうして?

 ……なんで監視下から放り出す?

 ……もしかしてもう何かしらの能力で常時監視されてるから?

 ……だとしても何がしか凶行を犯す恐れはなかったのだろうか。

 今の私でも【震動】で気絶させるくらいはできるし、自動発動する能力が無ければ後は斧を振ってしまいだ。

 

 

 …………さ、っぱり、分からない…………。

 

 

 

 

「……質問良いでしょうか?」

 

「ええ、良いわよ」

 

「……何故私なのでしょうか?組員歴の浅い私より適任の人はいくらでも居ると思いますが?」

 

 

 

 

 ……とはいえ()()真っ向から『なんで要注意人物の私を放り出すんですかー?』とは聞けないので(僅かだけどそう思われてない可能性もあるし)、真っ当な質問から。

 

 

 

 

「あら、それは考え違いよ。──月夜野ベルの再従姉妹(はとこ)の日ノ出冬美は一人しかいないわ」

 

「……つまり血縁人事だと?……それに月夜野組長とはそこまで深い交流はありませんでしたが」

 

「私は『ベルちゃん』と呼んで良くしてくれたとベルから聞いてるけど?……まぁ親戚としての人間関係に頼っていると言われたら否定は出来ないけれど。……実の所魔防隊に馴染めていないのよ、あの子。貴方にはあわよくば架け橋になって欲しいと思っているわ」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……魔防隊の組長は総組長含め九人。

 二番組組長・上運天美羅さん。

 五番組組長・蝦夷(えぞ)夜雲(やくも)さん。

 六番組組長・出雲天花さん。

 七番組組長・羽前京香さん。

 九番組組長・東風舞希さん。

 十番組組長兼総組長・山城恋。

 この人達については魔防隊、特に組長のファンである銀奈さんからその強さと能力と武勇伝をたくさん聞いて来た。

 就任して日が浅い一番組組長の多々良木乃実さんについては組長としてのエピソードは聞けなかったけど、現役女子高生でありながら組長に選ばれるに足る強さはたくさん聞かされている。

 

 

 そういったエピソードを聞かなかった組長は人付き合いが少ないという八番組組長のワルワラ・ピリペンコさんと……、……ベルちゃんだけだ。

 ベルちゃんの能力、『笑う寿老人(カノープス)』が強力だとは小耳に挟んでいるけれど……。

 

 

 

 

「勿論それだけじゃないわ、貴方の戦い方なら三番組を補強できると考えての事よ。──もう知っているかもしれないけれど、一度八雷神に壊滅させられているのよ三番組。ベルの到着が間に合わずにね。三番組は組長と組員の連携に難を抱えてるわ」

 

 

 

 

 ……知っているし聞いている。

 まだ『八雷神』との名称が明らかになってなかった頃、髪先が蛇になった『人型醜鬼』──つまり八雷神の紫黒によって、三番組の組員三名は病院送りにされている。

 ……となると私が甘くあさはかな“黒”なら『あいつらは神に負けたザコ!』と凶行に走る可能性は高いと思うけど……。

 ……ますます分からない……。

 

 

 

 

「……それを私に解決しろと?」

 

「総組長としてはそうして欲しいし、命令も出すわ」

 

 

 

 

「──でも、もし再従姉妹を心配に思う気持ちがあるのなら、『冬美お姉さん』にお願いしたいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかベルを守ってあげて」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……外観に違い無し、あれが三番組寮」

 

 

 

 

 ……釈然としない所はある。

 

 

 

 

「あっ!…………」

 

 

 

 

 だけど私は従う事にした。

 

 

 

 

「……、……車両庫に案内したいので、一度こっちにお願いします!」

 

「はーい」

 

 

 

 

 …………正直私は、総組長の人間性を信じてない。

 付き合いのある美羅さんでさえ『そう悪い人じゃねー』とは言っても『良い人』だとは言ってないあたりにそれは窺える。

 ……でも能力は確かだ。

 そんな人が『()()()()()()()』ではなく『()()()()()()』と言うあたり三番組は相当ヤバい状態なのではないかと。

 ……あの人なら人格や人間関係に問題が有れば、とっとと()()()()そうだから純粋に人員の運用面で。

 それで魔都対処に穴ができるのは、本部業務を行なった者としてはよろしくないと思う。

 

 

 ……まぁ、ベルちゃんの武勇伝は聞かなかったけど総組長によく呼び出されて、休暇も共にしているって話だったから『意図的に実力を隠している懐刀に私の監視を任せた』可能性もあるけど……。

 

 

 あの日、ベルちゃんの顔を、そこに浮かぶ表情を見た私にはそうは思えなかった。

 

 

 結局のところ、出向を受け入れた理由を一言で言うなら『渡りに舟』だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、えっと、……三番組組長の月夜野ベルです。……冬美お姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな寂しそうな、不安そうな顔をした子をほってはおけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日付けで三番組に出向となりました日ノ出冬美です。よろしくね、ベルちゃん」

 

 

 

 

 縁故人事だと嘲わば嘲え。

 あの日、刺さった心残りを取りに来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『大山実習/大山辞令』


 それは忠誠心を試すものだとのたまわれ。
 皆様は如何な務めを為されるのでしょう。
 ……冒頭で※注意!したのに冬美さんは十番組を離れ三番組へ向かいます。
 そこんとこもご容赦ください。


※注意!
 十番組の諸々は建物の外観と規模と内装以外全て捏造です!
 (前話でしれ、っと出した屋内射撃場や鏡が貼られたトレーニングルームも捏造です!)
 『人とすれ違わない総本部』も流石に会議室は別としても、総本部の廊下は何度も描写してるのにモブの一人も出て来ないのはおかしいだろ⁈とこじつけを考えただけです!
 なので今後の原作やアニメ次第では完全に妄言になります!


:冬美
…短時間でめっちゃ魔防隊にも馴染み、戦力的にも一端の組員として振る舞えてる主人公。
 戦闘も、索敵も、車の運転も、事務仕事も、雑談もマルチにできるオールラウンダーと化している。
 戦闘員としては現状近距離デバフアタッカー。
 『なろう系オリ主か?』みたいな事になってるが……、……本人は満足できてない。
 求めるものには足りてないし、りうさんの『あんたは自分で思うより強い』というアドバイスもその強さに満足できてないので50%くらいしか届いてない。
 繰り返しになるが自己評価は低め。
 そしてその心中の焦がれんとする不満足を誰にも悟らせてない。
 せいぜい「熱心だなー冬美さん」と思われるくらい。
・『大山の魂』と派生技達
…海桐花のアドバイスによりそれぞれに名前が付くようになった。
 基本【大山(たいざん)○○】といった感じのネーミング。
 何かしら特別な技は別。
 ……余談だがどうも魔防隊だと技名付けるのは少数派らしい(主人公主従他十人に満たない)。
 『仮想空間』
 改め【大山ノ内裏】
…冬美の魔防隊生活をイメージトレーニングや学習の場として強固に支えてる。
 仮想空間とはいえ、冬美に人の倍と行かなくとも1.2倍くらいの時間は与えてる。
 『震動』
 改め【大山震動】
…冬美は二つの『震動』の波を合わせ、指向性と威力を高めたものを【奏砲】と名付けた。
 冬美はメインウェポンと言っているが、役割的にはサブウェポン。
 ソナー的な事もできるので索敵と牽制に多用している。
 醜鬼相手にはだいたいガンダムのバルカン。
 『……人間相手ならガンダムの電撃系武器〜バズーカぐらいに効くのに、醜鬼に効きにくい』などその効果に謎も見つかった。
 『連動移動』
 改め【大山加勢】
…名前こそ付いたがまだ実用段階ではない。
 使う場所を間違えると大変な事になる。
 『膨らまし』
 改め【大山悠景】
…名前こそ付いたが使い道が分からない。
 使うと脆い的になる。
 『支えさせ』
 改め【大山援姿】
…名前こそついたがまだ実用段階ではない。
 一応激痛にならない限界は確認した。
・【大山ノ光】
…冬美は合掌から指先から手を開き、花のように構えた手から放つものを特に【花閃】と名付けた。
 冬美の技の中ではトップクラスの威力だが、様々な事情で使われていない。
 その他能力以外の事
…メインウェポンは作業用兼非常時戦闘用の片刃斧。
 了解を得て備品から拝借している。
 身体能力はそれで醜鬼の顔面カチ割れる程度。
 銃はいまいち感覚が掴めず、まだ上手くならない。


:青梅軽・檜原芳葉・明野照
…冬美の友達。
 高校三年間をよく一緒に過ごし、大学生・社会人になっても付き合いが続いてる。
 冬美さんの実像の把握について本人よりも正確な節があるくらい。
 ……それ故に政府情報筋に疑われ、照に至っては総務省に入ったばかりにスパイの真似事まで(無意味に)させられている。
 ちなみにチャットグループ名は青梅・日の出・あきる野・檜原で『奥多摩組』。
 四人で奥多摩旅行にも行った。


:真氷
…冬美の関係者。
 奥多摩組とも面識がある。


(かぶと)竜緒(たちお)
…十番組組員。
 福島県出身の武人肌。
 十番組組員でも上位の実力者。
 人格もさっぱりとしているが、『羽前組長とキャラ被ってんじゃ〜ん、あはははは』などと口にしたバカを半殺しにした事がある。
 ……何か思う所があるようだ。
・『緒ヲ締メヨ(カブト)
…兜が桃で得た能力。
 兜(装備)を被る事で具足と武装を具現化する。
 身体能力も高まり、鎧兜で防御も万全、武装も刀や槍・弓と距離を問わず威力も保証された手堅い能力。
 ただし使用中は体力を消費し、兜(装備)を外すか破壊されると能力は解除される。
 鎧兜で相殺されたり、体力消費で踏破距離が減ったりで機動力に欠けるのも痛い。


鹿野(かの)(とおる)
…十番組組員。
 奈良県出身の鹿崇拝者。
 ぼんやり、起伏に乏しい性格だが鹿に仇為す者は許さない。
 ただし猟師・農家など生業として衝突してしまった場合は別。
・『鹿ノ御霊(かのみたま)
…鹿野が桃で得た能力。
 実家周辺に居着く鹿をコピーし、半透明に光る霊体として呼び出す。
 この鹿は自動車と併走できる走力と醜鬼を蹴散らせる戦闘力を持ち合わせている。
 ただし鹿への敬意が無いと『お願い』を聞いてくれない。
 『呼び出す』だけで『命令できる』訳ではなく、動きも『お願い』を聞いてくれるかどうかによる。
 ……この能力は『コピー元が外に居る』とか『完全に制御されてない』とか魔防隊として色々問題があったが、鹿野はつつがなく魔防隊をやってけてる。


雲織(くもはた)投機(とき)
…十番組組組員。
 大阪生まれ群馬育ちのベテラン。
 昔はヤンチャしてたが『七光り』に骨の髄まで恐怖を刻まれた。
 それから幾年月、今は『頼れる先輩』をやってる。
 最近のストレスは二番組が私的なバイク改造を組経費にねじ込もうとする所。
・『神史の織り手(アラクネー)
…雲織が桃で得た能力。
 背中から八本の細脚──蜘蛛脚を生やす。
 雲織は素養と経験によりこの八本をどんな状況でも自在に操れる。
 最近はもっぱら事務作業でパソコンを多数同時に叩くのに使ってる。
 戦闘手段もあるし、奥の手もある。


田沼(たぬま)クロミ
…十番組組員。
 茨城出身。
 素の喋り方が中二病なので、意識して矯正した業務報告以外は余り喋らない。
 『田沼さん』より『クロミちゃん』と呼ばれたい。
 ……この世界にサンリオがあるかは未確定で。
・『夜の液体(クロミリキッド)
…クロミが桃で得た能力。
 黒い液体を生み出し、操る。
 余り人には勧めないが飲用となり、戦闘にも使える。


:銀奈
…自分の教え子が魔防隊に馴染んでいる様をまじまじと見せ付けられ、感慨深い。
 体感では十年以上教えていたような気分になってる。


遙乃(はるの)
…とある組から派遣された出張組の一人。
 ある日の食堂で向かいの席に座った見慣れない組員である冬美と喋ってみたら、気が合い仲良くなった。
 それ以来、時間が合えばおしゃべりしてる。


蓼科(たてしな)さらさ
…十番組索敵係。
 長野県出身の明軽い性格。
 同じ索敵係の音符と仲が良く、よく行動を共にしている。
・『星読む銀盤(ギンガサガシ)
…蓼科が桃で得た能力。
 索敵系で、体力を使う。


合瀬(あわせ)音符(おんぷ)
…十番組索敵係。
 兵庫県神戸出身の明軽い性格。
 同じ索敵係のさらさと仲が良く、よく行動を共にしている。
・『音符のメロディー♪(レコードテンポ)
…合瀬が桃で得た能力。
 索敵系で、定期的に弾き直さないといけない。


:山城恋
…冬美にとってはまったく訳の分からない辞令を下してきた上司。
 まだ会ってない組長と比べてさえ冬美の好感度は低いので『さん』付けはされないし名前どころか苗字も呼ばず、ただ総組長と呼ばれる。


:ベル
…冬美の出向先の上官にしてはとこ。
 優しいお姉さんが来てくれたよ!やったね!



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