その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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大山、惑い歩み──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっ、と()()()()()()()()周囲を確認する。

 頭を出した場所は通りから外れた脇道にある自販機の影だから、まず見られる心配は無い。

 それでもたまたま通りかかる人や監視カメラが無いとは限らないのでしっかり確認する。

 大丈夫だと判断したら急いで地面を()()()()、下水道に。

 

 

 

 

「よっ、と」

 

 

 

 

 苦も無く抱え上げ、マンホールから地上に出て『すぐには見つからないだろうけどいつかは気付きそう』だと判断した場所に寝かせておく──、──()()()()攫われた人を。

 あのアジトには着替えが無かったので糸の上からカーテンで包んでおいたけど……、……風邪をひいてしまったら申し訳ないとしか言いようがない。

 

 

 

 

「あっ、通り抜けて服を貰えば……、……お金持ってないや」

 

 

 

 

 『紫黒(しこく)(ねえ)』とやらは醜鬼のカードデッキなんて持たせたのにそういうものは気にしなかったらしい。

 ……()()()()()()()()()()()()()そんな事気にしないよね……。

 ()()()()()()他に行くあても無いので下水道をトボトボと私が捕まっていたアジトへと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……私が今動かしている身体は生まれた時からつい数時間前まで私のものだった自分の身体ではない。 

 

 白髪に角、よく見ると前掛けと羽織しかないように見える大胆な服装、ちょっと自信無さげな表情──は中身が私だからで元の自信満々そうな表情じゃないけど。

 そんな『八雷神(はちらいじん)』の『空折(くうせつ)』の身体が今の私が動かす身体だ。

 

 なんでそうなったのかは今のところ分からない。

 けどこの身体の持ち主である空折が知ってる事は全てではないけど私も知る事ができた。

 例えば『八雷神』は醜鬼を束ねる者である事、そして【母】の元に人間を滅ぼそうとしている事。

 『空折』は生きた人間を食べて取り込むとその人間に宿った『桃』の能力を使える事。

 今現世に居るのは餌となる人間を捕まえる為だという事etc(などなど)……。

 

 

 当然のように読み取れる記憶を理解し終えた時、私は思った。

 『これ魔防隊案件だ!』と。

 ……そしてふと客観的に自分を見て気付いてしまったのだ。

 『……私、魔防隊案件じゃない?』と……。

 

 

 『魔防隊』。

 正式名称・『魔都防衛隊』。

 日本に入り口が現れた異空間・『魔都』に駐留し管理する戦闘部隊であり、主に知られている活動は魔都から現れ人を襲う化物(バケモノ)・『醜鬼』を駆除することだ。

 

 

 ……で、今私が動かす身体は八雷神のもの。

 ……醜鬼を束ねるという八雷神の身体。

 ……先頃、思いっきり魔防隊にケンカを売ったらしい八雷神のものだ。

 

 

 

 

『……………………どうしよう……』

 

 

 

 

 ……しかもこの空折(身体)、監視カメラを知らずに人を攫ってたからまず間違いなく居場所がバレてる。

 ……おまけに人型になるにあたって既に二人ほど誰か食べてるらしい。

 人型になる前の事は記憶に無かったし、人型になった後も能力以外特に気にしなかったようなのでそれが誰かは分からないけど……。

 

 

 

 

『………………………………どうしよう……』

 

 

 

 

 ……と、そこまで考えた所で『……もしかして私の前に食べられたのって魔防隊関係者なのでは?』という可能性に気付いてしまい、私はアジトの廊下で頭を抱えて崩れ落ちた。

 

 

 

 

『私、討伐対象だ…………』

 

 

 

 

 『①人に悪さしている』

 『②そもそも人間を滅ぼそうとしている』

 『③しかも魔防隊にケンカを売ってる』

 ……私が魔防隊でも討伐に反対しない理由は無いくらいの事をこの身体はしでかしていると思う。手加減する理由も無いと思う。

 ……で、討伐されるこの身体は今私の身体でもあるのだ。このままでは戦闘のプロと呼ばれる魔防隊が手加減無しに私を倒しにやって来るだろう。

 

 

 

 

『…………………土下座したら許してくれないかな……』

 

 

 

 

 ……絶望的すぎる状況に私は廊下に転がるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……じゃあ、土下座すればためらってくれるくらいの事はしよう。よし、っ』

 

 

 

 

 ……なので少しでもマシな状態にする為、動く事にした。

 

 

 

 

 まずはできる事の把握。

 

 『物の中に潜り込む能力』と『粘液を身体から出す能力』の二つが空折(この身体)が使える能力だった。

 ……粘液はヌルヌルなだけで使い道が見つからなかったけど、潜り込む方は壁や床をすり抜けられて便利だ。……ただし早く動く物には潜り込めないのでうっかり地下鉄に接触してしまうのは後の話。

 

 そして能力に関係なく身体は丈夫で力もあり、羽織を広げる事で空も飛べる。

 飾りに見える羽根は弾丸として撃ち出して遠隔操作もできるし、刺されば身体を麻痺させられるらしい。私が捕まった時に使われたのもどうやらこの羽根だ。

 ……この身体自身に刺しても何も起こらなかったので魔防隊が来る前に羽根を刺して大人しく捕まる、なんて作戦は取れなかったけどそれはもうしょうがない。

 

 最後に私含めて三人居るはずの食べられてしまった人をなんとかして開放できないか試してみる。

 ……けど腹の口を開いても喉に指を突っ込んでも誰かの身体がこの身体の中にある様子はない。

 ……多分私達の身体はもう吸収されてこの身体の一部になってしまったんだろう。……私元の身体に戻れるのかな……。

 あと腹の触手はその気になればしゅばっ、と動かせるけど動きが限られて使いづらいし手足の方が早く動かせるから使いようが無い。

 なので一応腹の口ごと布を巻いて封じておく。

 

 

 

 

 次に攫われた人達の解放。

 

 『もうお腹いっぱいだしこいつらいらないや、捨ててこよ。あ、お前らは待機ね』

 醜鬼達はそんな言葉であっさり待機してくれた。

 ……中身が(人間)だとバレないかハラハラしながら演劇部に居た時の記憶を頼りにそれっぽい演技してるのにここまで大人しくされると逆に心配になる。

 八雷神に対してちょっと盲信的すぎない?

 

 ともかく能力も駆使しながら『すぐ人目にはつかなそうだけどその内見つかりそうでなおかつ危険じゃなさそう』な所に攫われた人達を置いて来た。

 姿を見られて騒ぎになった時落ち着いて対応する自信が無かったし、踏み込まれるにしても心の準備が欲しかったのでこっそりと。

 ……この姿(空折の身体)で起こしてパニックになられたら上手く対処できる自信も無かったから攫われた人は起こさないでそのまま置いて来たけどそれで良かったのかどうか……。

 ……さっきの人で最後だから試す機会はもう無いけど。

 これでもうあのアジトに残ってるのは醜鬼二体だけだ。

 

 

 

 

 ……そして合間を縫って知ってる情報の書き出し。

 

 ……なんでか分かんないけど今のところ私はこの身体を動かせている。

 けれど『なんでか分からない』という事は『どうやったら元に戻るのか分からない』という事でもある。

 突然この身体を元の持ち主(空折)に取り戻される事だってあり得るのだ。

 ……最悪元に戻れないでこの身体と一緒に死ぬかもしれないなら、私が知った事は残しておくべきだ。

 

 幸いメモ用紙はあったので羽織の羽根をペン代わりにして書けるだけの事は書いた。

 『八雷神』と【母】の事。

 アジトの場所。

 醜鬼を封じたカードがデッキ一つ分あり、それは合図一つで解放されてしまう事。──どこかに捨てるかアジトに置いていくか迷ったけど『回収された先で一気に開放されてしかも戦える人が足りない』みたいな事故が起こったら怖いので持っておく事にした。……この判断が間違ってたらと思うと不安でたまらなくなるし、顔は知ってる『紫黒姉』を恨みたくなるけど。もちろんそれも書き記す。

 この身体の能力に嗜好。

 私という意識がある事とそれがなぜなのか分からない事、及びいつ失われるか分からない事。

 ……etc(など)

 

 攫われた人に持たせておいたのとアジトに残したものの二種類あるからその中のどれかは魔防隊まで届く……ものだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あとはどうすれば大人しく捕まれるか、かな?……動いてるものに潜れないなら扇風機とか車輪に縛られてれば逃げられない?」

 

 

 

 

 ……でも縛られてる身体視点だと車輪にしろ扇風機にしろ、身体との速さの差は無いから無理、…………なの、かな?

 ……そもそもこの身体を縛れるものがあのアジトにあっただろうか。

 ロープ代わりに裂いたカーテン使ってもそのくらいなら力ずくで引き千切れると思う。

 

 ……なら土下座してた方がマシな気がするけど……、……身体を取り返された時に私がそうしたように空折が私の記憶を読んだら騙し討ちに使われてしまわないだろうか?

 迂闊に近付いて羽根を喰らったらその人が食べられてしまうかもしれない。

 

 

 

 

「……記憶……」

 

 

 

 

 ……それと、こんな時に考える事じゃないけど私の能力ってなんなんだろう?

 私が知る限りでは元の私の身体に神様を乗っ取れるような力や由縁は無かったはずだから、この身体が取り込んだ私の桃の能力が今この状況を作り出しているんだと思う。

 

 

 

 

「……上書き、かな?」

 

 

 

 

 私を調べた……、……『陰陽寮』の支部?派出所?の人は『記憶力を多少良くする』のが私の能力だと言っていた。

 ならその良くなった記憶力によってこの身体の記憶を上書きした『自分を人だったと思い込んでる八雷神』が今の私なのだろうか。

 ……でも私の記憶力に神様を人だと思い込ませるほどの強さがあるとは思えない。

 体感になるけど普通の人が普通に五回読んで覚えられるのを同じように読んで四回か三回くらいで覚えるのが私の記憶力だ。

 ……神様を上書きするならパラパラと高速でめくられても一回で覚えるような記憶力があってもきついんじゃないだろうか。

 なら陰陽寮の人の見立てが間違っていた?

 だとするなら『神様を乗っ取れて、多少は記憶力も良くなる』ってどんな能力なのか──。

 

 

 

 

「──ふぅ、やっと取り返せた」

 

 

 

 

 私の口が勝手に動いてる。

 

 と思う間も無く目の前の景色が遠ざかってく。

 

 

 

 

(わたし)よりでっかい■なんて■■が私がうつく■■とおもっ■だけの事は■■よ」

 

 

 

 

 音も聞こえなくなっていく。

 

 下水道の臭いも、生暖かい空気もどこかに消えていく。

 

 

 

 

「■■■、聞いときゃ■■■■かな?顔だけしか■■■■けど、お前の事はおぼ■■■■。■■■■」

 

 

 

 

 名前を呼ばれたような、なにかを掴んだような。

 

 よく分からない感覚と一緒に意識は暗闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──しっかし八雷神に目ぇ付けられてるたぁ、お前も災難だな舎弟?」

 

「ははは……」

 

 

 

 

 魔防隊二番組組長・上運天(かみうんてん)美羅(みら)の慰めとも励ましともつかない言葉に、和倉(わくら)優希(ゆうき)は乾いた笑いを返すしか無かった。

 

 

 

 

 ──事の起こりは横浜市内で複数人の女性が行方不明になる事件の発覚だった。

 当初は桃の能力が用いられた犯罪と見做され警察が追っていた事件は、監視カメラに人ならざる姿の女──醜鬼を束ねる八雷神と見られる姿が映っていた事で魔防隊が動く事となった。

 

 八雷神への対抗は魔防隊の中でも有数の実力者たる組長によって行う、という方針の元二人の組長が現世へと赴いた。

 横浜より魔都に繋がるクナド()が魔都の管轄内にある魔防隊二番組組長・上運天美羅、美羅の指名を受けた魔防隊七番組組長・羽前(うぜん)京香(きょうか)

 ──そして京香の能力により使役される『奴隷』にして七番組寮管理人の優希もまた横浜の地を踏む事となったのであった。

 

 警察との打ち合わせにより明日には警察所属の能力者によって拠点の所在が判明すると確認し、その後組長二人の打ち合わせを経て美羅の案内の元横浜市内の地形を把握する事に努めていたのだが──。

 翌日、事態に幾つもの変化が起こる。

 

 

 

 

『──どうなってやがんだ、オイ』

 

『──被害者が解放されるとはな』

 

 

 

 

 ──地下鉄駅・脇道・商業施設内部など横浜市内各所に於いて行方不明になっていた女性が次々と発見されたのだ。

 

 

 

 

『それにこれって──』

 

『──ああ。例の八雷神だろう』

 

 

 

 

 そして足止めを喰らった民間人がふと目をやった事で、行方不明だった女性が解放されていると判明するきっかけとなった地下鉄の緊急停止と接触事故。

 その時携帯端末を片手に窓辺にいた者が居た事で偶然撮影に成功し、警察に提供され画像解析にかけられたその写真に収まっていたのは──事件の犯人と見られる八雷神だった。

 

 

 

 

『『『……【母】』』』

 

『……って知ってたか京香』

 

『……初耳だ』

 

『……アジトの場所に能力の内容、醜鬼の数まで……。……なんでこんな事』

 

『罠で無いのなら真実なのだろうな。──八雷神の身体を動かし、記憶を読み取ったというのが』

 

 

 

 

 ──極め付けが被害女性と共にカーテンに包まれていた手書きのメモだった。

 『筆記用具が無かったのでこの身体の羽根で書きました』というそのメモは、インクすら無かったのか()()()()()()()()()()()()魔防隊ですら把握していない幾つかの情報と今回の事件の犯人──八雷神の空折についての諸々を書き出していた。

 

 

 

 

『……一人だけ、見つかってない人がいるんでしたよね?』

 

『あぁ、こいつだな。──ハネた能力じゃねぇと思ってたが、そいつがやったんならたいした骨だ。オマケに念入りに気ぃ効かせやがる』

 

『被害者の解放場所を繋いだ円の中心──、──()()()()()()()()()()()()()()()()()()。メモが失われる事も想定していたならば、随分と用心深い性格らしい』

 

 

 

 

 罠か、真実か。

 斯くして調査の為アジトに踏み込んだ三人は待機していた二体の醜鬼を倒し、制圧に成功した。

 

 

 

 

『分かる限りじゃ罠も仕掛けも見当たらねぇな』

 

『それにこっちにもメモがあったぜ』

 

『おまけに書くのに使った羽根もだ。用心深いってより小心者か?』

 

『て、徹底的だ……』

 

『全くだ。……それに危難の中でも盗みを働かない、常識の内にある人物のようだな』

 

『それで自分の血ぃ使うのはイカレてんのか、度胸があんのかだな』

 

 

 

 

 ()()()()を使った美羅の探索により見つかったのはまたしてもメモ。

 先に見つかったものと同じ内容が記されたメモは大急ぎで資料化される事となる。

 ……そしてざっと目を通しただけだった内容を改めて読み込むと、その中に『紫黒姉は和倉優希がお気に入り。この身体も興味を持っているらしいです』との文言があったのだ。

 ……『髪の毛が蛇になったぱっつんカット』だというその神、紫黒と優希は既に遭遇済みである。

 

 

 

 

『けどまず優先すんのは今回の犯人──、──空折(くうせつ)とか言う奴だ。逃しちゃおけねえな』

 

『そうだな。まだ横浜市内に居れば良いのだが……』

 

『……逃しちゃいけないのは成長力があるから、ですか?』

 

『『ああそうだ』』

 

 

 

 

 ……桃の能力者を呑み込む程に際限無く力と能力が増していくという空折は放置すれば途方も無い脅威に成りかねない。

 更に空折が持ち込んだ醜鬼を封じたカードの束も無視出来ない危険だ。

 ありふれた醜鬼ですら通常兵器は効かず、現世に迷い出れば一体でも数十人の犠牲が出るという。それが文字通り束になっている。

 それに加え、魔防隊の組長格と戦える程に強化された醜鬼までもが混ぜられていると言う。

 

 ……ここまで分かった情報のほぼ全てがメモによるものであり、アジトで撃破された醜鬼はメモにも記されていたがそれだけではメモの内容が全て真実であると断ずるには不十分である。

 一部分だけの真実を信じさせ、残りの嘘で判断を誤らせる罠である可能性は依然として残っている。

 だがメモの内容が全て真実であるなら対応を怠った時に大惨事も起こり得る、と判断した美羅と京香により魔防隊に援軍の要請が為され、警察は居所が分からない空折の行方を探るべく出動。

 周辺自治体への勧告も行われ、横浜市内には物々しい空気が漂っていた。

 

 

 

 

「とりあえず()をつけとくから横になっとけ、探索にしろ戦闘にしろ体力勝負だ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 戦闘中に腕に軽く傷を負った京香は万全を期すべく治療の為に別れ、横浜での宿となった一室に戻った優希と美羅は一時の休息に入ろうとする。

 ソファに腰掛ける美羅に見送られ、別室のベッドに向かう優希に付き添うのは不良を思わせる魔防隊の制服に制帽・サラシを身に着けた──()()

 寸分違わぬその姿こそ上運天美羅が桃で得た能力、『緋色の連隊(オールキリング)』によって生み出された分身体。

 今回の犯人──八雷神の空折が使っていたアジトに踏み込んだ時に使われ、そのまま市内の警戒に回された内の一体が空折も興味を持っているという優希周囲の見張り兼護衛となったのだった。

 

 

 

 

「(休める時に休まなきゃだけど……、なんか落ち着かない……)」

 

「休めねぇのか?心配すんな、(本体)も休んでる」

 

「は、はい……」

 

 

 

 

 『緋色の連隊』によって生み出される分身は美羅本人と強さが変わらない。

 更に二番組組員による強化も受け、八雷神が襲来したとしても戦うのに不足は無く見張りには十分であった。

 

 

 

 

「……!みらさぁ、あぁっ?」

 

「がっ、」

 

「──手短にするから静かにしな?」

 

 

 

 

 ──だが不足は無くとも八雷神を凌駕している訳ではない。

 頭上から背後を取る何かに気付いた優希が声を上げるまでの僅かな間にその人物──いや、神は分身と優希を麻痺させていた。

 

 

 

 

「(八雷神、空折……!)んんっ⁉︎」

 

「──よし、終わった。見張りも居るし、今日のとこは口付け(これ)だけにしといてやるよ。じゃあなー?」

 

「てめぇ──!」

 

 

 

 

 異変に気付いた本体の美羅が踏み込むより早く、優希との舌まで入れた口付けを終えた空折は床をすり抜け階下に逃げた。

 

 

 

 

「──逃がすかよ?」

 

「──は?」

 

 

 

 

 ──先で顔面に迫り来る拳を甘んじて受けた。

 壁を突き破り吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「(隠しといて正解だったみてぇだな……)おい舎弟、動けるか?」

 

「あ、かっ、」

 

「(麻痺してるか……)悪りぃが行って来るぞ!」

 

 

 

 

 『急ぐなら逃げ道に選びそうだな……』と判断した階下の一室に分身を潜ませていた美羅は響く振動と優希の状態を確認するや外に飛び出した。

 

 

 

 

「「「「「おおおおおぉ‼︎」」」」」

 

 

 

 

 階上、階下、地上、屋上……。

 

 周辺で警戒していた美羅の全てが壁面を蹴り、路上から跳躍し、美羅同士すら足場にして四方八方から空折に襲い掛かる。

 

 

 

 

「──……よくも美しい私の顔を……!……殴ったな!」

 

 

 

 

 ──その全てを空折は広げた羽織と撃ち出した羽根で薙ぎ倒し、振り回した腕で叩き落とそうとする。

 

 

 

 

「──そうかよ、オラァッ!」

 

 

 

 

 ──そして、分身の影から接近した本体の美羅のハイキックとかち合った。

 肉体の衝突する轟音が鳴り、両者共に弾き飛ばされる。

 

 

 

 

「このっ……!」

 

「始めんぞコラ!」

 

 

 

 

 姿勢を立て直した空折が美羅を睨み、着地した美羅が空折に獰猛な雄叫びを上げる。

 横浜の地にて、神と人との戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

^

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の中に居るようだった。

 

 木々は生い茂り、川の流れはさらさらとせせらぐ。

 岩は川の中から聳え立ち──、──高くなったその視界から見えるその他全ては山のような触手に覆い尽くされていた。…………気持ち悪っ……。

 

 ……そして目に映し、耳に響き、肌で感じ、鼻に届く全てがどこかぼんやりふわふわとして現実味が無い。

 

 

 

 

「……どこなのここ……」

 

 

 

 

 空折とかいう神様の身体を動かしてたと思ったら、いつの間にか元の私の身体に戻って蠢く触手に囲まれた謎の場所に放り出されてる。

 敢えて言うなら野外活動で行った秩父の風景に似てるけど、こんな触手に埋め尽くされてるはずは無いだろうし……。

 ……さっきまでは曲がりなりにも横浜にいたのにこんな訳の分からない場所に放り出して私にどうしろと……。

 

 

 

 

「ううっ……」

 

「……んっ」

 

「っと」

 

 

 

 

 ……更に今回は私一人ではない。

 気付いた時には誰か二人の手を掴んで平らになった岩の上に転がっていた、けど……。

 ……この人達誰なんだろ……。

 形だけ見ればほぼ人間だけど、顔周り以外の肌がウエットスーツを着てるみたいな黒だったりゴム手袋を着けてるみたいな白っぽい色だったりする妙な姿の二人だ。

 ……何か着ているのかと思ってそっと触ってみたけど、生き物の肌に触ってるような生暖かい感じで布地のようには感じなかった。……だからそういう色の肌なんじゃないかと思う。

 ショートカットとロングヘア、どちらも女性らしい顔と体型の二人だ。

 

 

 

 

「……私の言葉、分かりますか?」

 

「うん……?」

 

「……?」

 

 

 

 

 手足の形も違うけど、私の前に空折に食べられた二人……なのか、な?

 私の前に食べられたのは魔防隊の隊員かと思ってたけど、能力で体が変化した?

 ……人間型の宇宙人だと言われたら信じてしまいそうな気がする。

 でもそれにしては着てる服は簡単なものだし……。

 ……気になる事も分からない事もたくさんあるけど。

 

 

 

 

「うおっ⁉︎誰だアンタ⁈」

 

「人間みたいに見えるけれど魔防隊の隊員かしら……?それとも陰陽寮の奴ら……?」

 

「いえ、どっちでも無いです……」

 

 

 

 

 ……目覚めるなりばばっ、するり、と距離取られちゃったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず同じ腹のよしみで自己紹介でもしませんか?」

 

「「同じ腹?」」

 

 

 

 

 できる事からやって行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 




※原作改変ポイント!
:八雷神にまつわる詳細な情報を知った人間が現れた!
:そしてその情報が魔防隊をはじめ関係各所に伝わった!
:横浜が物々しくなった!
:優希と空折のキスが比較的軽いもので終わった!
:美羅VS空折の流れが若干変わった!
多分こんなとこ!


:主人公
…埼玉出身東京在住神奈川勤務の主人公。気弱気味。盗みなんてもっての他。
 気弱であるが故に考え至った事には手を打ち、結果的に用心深くも見える人。というか気弱だけどアクティブ。じゃなきゃ学生時代に色々挑戦してない。
 今回で本名判明かな、と思ってたけどそうはならなそう。どれだけ引っ張れるか……。
 八雷神の身体を乗っ取り、記憶を読んだ事で色々知った。
 気が弱いなりに思いつくだけの事はした。
 そしたら謎空間に謎の二人と放り出された。
 自分の能力は記憶力の向上なのか?という疑問が芽生えた。
 (……埼玉出身だけど県民らしいムーブは期待しないで……)

:空折
…無事主人公より身体を取り戻した。名前は知らないが自分を乗っ取れる程の主人公の事を認めてる。
 ……身体は取り戻したが『このくらいなら急げば大丈夫だろ!』という油断と軽率により和倉優希を見に行って顔面をぶん殴られた。
 行きは柱の中通るとかして気を付けたけど帰りを急いで──または焦り油断してしまった。
 三人呑み込んでるのでこの時点で原作の同じタイミングより力が強くなってる。
 羽根を刺しての麻痺、ないし動きの拘束は空折自身には効き目が無い……のは本作のオリ設定。横浜編までの原作ではそもそもやってない。ただ自由に切り替えられるならBLEACHのアレみたいな事できて面白いかもなー、とも思う。
 本作では己がこの姿になる為に呑み込んだ奴の事は能力以外知らないし気にしてない。
 ……本人はどうとも思ってないが重大なミスをしている。

:上運天美羅
…状況が違うので本作では最初から能力使って袋叩き(フクロ)仕掛けてる。
 アジトへの突入ではあらかじめ分身して踏み込ませた。
 作者は原作のこの人の活躍めっちゃかっこいいと思う。

:和倉優希
…原作主人公。
 空折が素早く済ませる為に動けるようにはしなかったのでまともに喋れないくらい麻痺してる。
 麻痺によって抵抗出来ず少量ながら神のエキスを飲んでしまってる。
 アニメ化でどんな喋り方かすぐに思い浮かべられた。

:羽前京香
…原作主人公の主人。
 会話以外の出番少なめ。
 この人もアニメ化で脳裏でのボイス再生が容易になった。

:ショートカット
…主人公の被食者先輩1号。
 粘液を身体から出す能力者。
 使う状況も無かったので粘液の回復効果には気付かれなかった。

:ロングヘア
…主人公の被食者先輩2号。
 物の中に潜り込む能力……、……もとい『隠された美(ヒトリシズカ)』を能力に持つ。
 正確には『早く動くもの』ではなく『激しく動く物には潜り込めない』能力なのだが……、……その匙加減はどの程度なのか……。
 とりあえず主人公が使った時は地下鉄は無理だった。



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