その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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 20話目です!


 ……2万字超えました!




 先、へ。




大山ゴーオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──……光が収まった。

 

 

 

 

「……っ、……ぅぅ……」

 

 

 

 

 ……月夜野ベルは、爆風で吹き飛ばされ、叩きつけられた岩場から身を起こす。

 『守り』の『笑う寿老人(カノープス)』は【三式決戦砲】の爆発に伴う超高温の爆圧の直撃を喰らってもベルを生存させる。

 

 

 

 

 ……そして、生存したのなら。

 ベルにはやらねばならない事が有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──…………おのれぇ、っ……‼︎よくも、ワレらじまいをぉっ…………!」

 

 

 

 

 ──重(・)甲(・)型(・)を(・)仕(・)留(・)め(・)ね(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 

 ……身体の正面がドロドロに溶け、赤熱する有様ではあるが重甲型は未だ生きて、動いて、立ち上がっていた。

 

 

 

 

「(か)、ぁぁ」

 

 

 

 

 ……恐るべき耐久力である。

 

 

 より近くで【三式決戦砲】の爆発を喰らった格闘型は黒焦げの半死人の有様──……恐るべき事に、ほぼ動けないながらこちらも生きてはいる──である事を考えればその耐久力は群を抜いている。

 組長でさえまともに喰らえば戦闘不能か、最悪死亡する爆発だったのだ。

 ……それなのに、生き抜いている。

 

 

 ……月夜野ベルは、失敗した。

 ガン!と、その過ちを断罪する様に、斧が突き立つ。

 

 

 

 

「(私が……!ベルが……、やらないと……‼︎)」

 

 

 

 

 ……あの爆発の中、ベルは掴んだ筈の重甲型の『命』を手離してしまっていた。

 いや、それ以前に【三式決戦砲】の爆発までに、ベルは重甲型の『命』を引き抜けなかった。

 その不始末を付けねばならないと、ベルは立ち

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……⁉︎……なんで⁈なんで、立てないの⁉︎)」

 

 

 

 

 ……上がれなかった。

 

 

 ……『笑う寿老人(カノープス)』の『守り』による不死身は『負った傷を治す』と言う形で働く。

 つ(・)ま(・)り(・)傷(・)は(・)付(・)く(・)の(・)だ(・)。

 ……焦る今のベルは気付けていないが、ベルの足は爆発に焼かれ圧し潰された後、岩場に叩き付けられ完膚無きまでに破壊されている。

 必死の思いは『守り』に作用し、顔や胴体に残る火傷の跡もそのままに『命』を抜くのに必要な手腕を優先して爆圧でぐしゃぐしゃにされた所から再生させると言う成長を見せていたが……、……その為に敵に近付くのに必要な足の再生が後回しにされていた。

 

 

 

 

「(立って‼︎立って!早く立たないと、みんなが……‼︎)」

 

「し、ねぇ……‼︎」

 

 

 

 

 それでも突き立つ冬美の斧を支えになんとか立ち上がろうとするが……、……鈍(のろ)い歩みでも、重甲型の方が早かった。

 憎しみが、巨腕を持ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──よく頑張ったわね、ベル」

 

 

 

 

 ──後ろから、その巨体が蹴り倒された。

 

 

 

 

「……ぐ、お……」

 

「あっ」

 

 

 

 纏う装甲を砕かれ、倒れ伏す重甲型の後ろに浮かぶのは総組長・山城恋。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その腕に抱かれる、血塗れの人は、

 

 

 

 

       (ふゆみさん)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラン、と。

 突き立っていた斧が倒れた。

 時間切れだと、宣告しながら。

 

 

 

 

「寮もひどい有様ね……。中を借りるわ」

 

「あぁ、」

 

 

 

 

 飛び去る恋を尻目に、ようやく再生したベルの足は最初の仕事を果たす。

 

 

 

 

 期待を果たせなかった事。敵を倒せなかった事。傷付く紅葉ちゃん小粋ちゃん鞠ちゃん(仲間)をそのままにした事。それでありながら自分が健在である事。立たなきゃいけなかったのに立てなかった事。結局恋ちゃんに倒された事。何も、何も変われなかった事。全てが無駄になった事。何もできなかった事。自分だけが生きてる事。弱いどころか無能な自分、求められた役目すら果たせない自分、立つ事すらできない自分、臆病で、無能で、グズな自分。死体みたいになった冬美さん血塗れな冬美さん力無き冬美さん、それなのに、生きている自分(ベル)。

 

 

 

 

 ぐちゃぐちゃになった脳髄の思索に従い

 

 

 

 

 絶望し、へたり込む事だ。

 

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

 

 頭が空っぽになりながら一杯になる。

 下がる視線に、片刃の斧が入る。

 

 

 醜鬼の太い手足さえ切り飛ばす斬撃放つ斧が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……があぁ、っ……‼︎」

 

「(げ)」

 

 

 

 

 ……やがて、神の制裁が下り、血飛沫が三(・)つ(・)上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 落とした斧。

 手放し忘れてた鎖に、拳銃。

 ……それに新しい制服。

 

 

 装備がみんな返って来た。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ……けど、斧から微かに血の匂いがする。

 

 

 ……それも、ベルちゃんの匂いが混ざった。

 

 

 …………。

 

 

 ……考えてみれば。

 

 

 ……能力を封じられたり弱体化されたり千切られた部位を閉じ込められたりしない限り『笑う寿老人(カノープス)』の『守り』はベルちゃんを五(・)体(・)満(・)足(・)で(・)生(・)還(・)さ(・)せ(・)る(・)。

 そ(・)れ(・)ま(・)で(・)に(・)ど(・)れ(・)だ(・)け(・)ひ(・)ど(・)い(・)傷(・)を(・)負(・)っ(・)た(・)に(・)し(・)ろ(・)。

 ……バカとしか言いようがないな、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──もしお前が此処を飛び出してゆくならば、此方はお前を殺さねばならん」

 

「……。できるんですか?」

 

 

 

 

 

「相性が良いからと図に乗るでないぞ?」

 

 

 

 

 確認に同席している海桐花さんが凄んでくる。

 

 

 

 

「相性の良さ悪さなど覆してこその、組長、総組長というものじゃ。それに羽前組長も陰陽寮の者もおる。逸っても無駄死にじゃぞ?」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……落ち着け。

 

 

 ……今私は八雷神に与しているという疑いが濃厚。

 それで陰陽寮の奴らをなんとかして飛び出しても、次は魔防隊と戦う事になる。

 ……多分副組長まではなんとかなる。

 けど組長相手だと全力掛けて一人に深手を与えるくらいが関の山じゃないか?

 二人以上は無理だ。

 

 

 ……それで誰が笑う?

 内紛で勝手に敵が弱くなり、捕虜となった下僕が治される事も無くなり、情報漏洩の不安が無くなって呵呵大笑の八雷神と──イザナミのクソ野郎どもだ。

 

 

 ……落ち着け……。

 

 

 ……落ち着け…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石にお前が出られるよう口添えする事はできんが、憂さ晴らしに付き合ってやる事はできる。どの道此方もしばらくここ(陰陽寮)を離れられんようじゃし、暇潰しに戦闘訓練、してやるぞ?」

 

「…………、……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……多分、気をつかってくれたのだと思う。

 

 

 

 

 ……落ち着け。

 

 

 

 

「……ありがとうございます。なら、正攻法で出られるよう、努力します」

 

 

 

 

 ──ならユメジさんとやらをこれ以上はできないってくらい治して、疑い晴らして出られるようにしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下村(しもむら)夢路(ゆめじ)。

 元魔防隊七番組組長。

 つい先日、神に与して魔防隊を襲撃した。

 

 

 

 

「…………」

 

「……あの、もうよろしいでしょうか?」

 

「はい、お手数おかけしました」

 

 

 

 

 制服を着て、ここに運び込まれた時の下村さんのカルテを見せてもらい、当時の負傷の様子を覚え込む。

 

 

 

 

「律儀じゃのー」

 

「まぁこのくらいは。お待たせしましたー」

 

 

 

 

 そうして、待たせていた海桐花さんと一緒に下村さんの眠る病室へ。

 

 

 

 

「まず改めて見させてもらいますね、【悠景】」

 

 

 

 

 まずは【悠景】で腕を増やす。

 腕の全てではなく、細胞一個分の厚さの薄皮一枚を魂で膨らませ、幾つも出せるようになった巨腕をサイズを調整して……。

 左右に二つずつ、正面腰元にも二つずつ構える。

 

 

 

 

「【震動】」

 

 

 

 

 そうして大元の腕も含む八本の腕から弱く、【震動】を発生させ、その反響で下村さんの身体の様子を隅々まで探る。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ……やっぱり、一筋縄ではいかない、か。

 

 

 

 

「……この刻印、身体の隅々まで絡んでます。全身に【翠炎】を当てながら今現れてる刻印も相殺しないと中々消せないかと」

 

 

 

 

 ……下村さんは全身に刻印からの影響が広がり、見た目では塞がっている傷の一つ一つにまで呪いが絡んでいた。

 見せてもらった刻印は木でいう枝葉のようなもので、全身に根付く表出してない呪いを同時に排除しない限りいくら【翠炎】で魂を活性化させてもたいして意味は無い。

 

 

 そんな事を振り返りながら、伝える。

 

 

 

 

「それは分かった。お前の腕の配置もそれを見越してのものじゃろうが……、……此方はどこから生命力を注げば良い?お前の腕が邪魔過ぎるぞ」

 

「じゃあ腕上げますね、全身分はそこから降らせる感じで。ちょっと待ってください……」

 

 

 

 

 この部屋に居るのは私以外に四人。

 生命力の注入を担う海桐花さんの要望に従い、ベッド際に這わせていた腕をベッド直上の天井まで持ち上げる。

 

 

 

 

「河藤(かとう)さんと潔身(きよのみ)さんはこちらで」

 

「はい……」

 

「……失礼します」

 

 

 

 

 海桐花さんは右側、治療・看護ができる陰陽寮の河藤さんと潔身さんは左側、私はこのまま足元側に立つ。

 

 

 

 

「京香さんはそのままで」

 

「ああ」

 

 

 

 

 京香さんは私の背後に立ってもらう。

 八雷神が来ないとも限らない。

 いざという時の護衛役だ。

 

 

 

 

「じゃあ、始めますね」

 

 

 

 

 天井の腕からは【淡衣】も応用して火の粉のように、大元の腕は刻印の表出する腹部に向けて火炎放射のように。

 

 

 【翠炎】を、灯す。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……そして、それだけの、長い長い時間が始まる。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……経過、異常ありません」

 

 

 

 

 時折、河藤さんか潔身さんが容態を伝えるだけで。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 私はひたすら【翠炎】を発動し、海桐花さんは生命力を注ぎ続ける。

 河藤さんと潔身さんは点滴を補充したり、機器を見てその内容を書き写したりしている。

 京香さんはただじっと、しかしいつでも動けるようにたたずんでいる。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 ふと、【翠炎】について考える。

 他では治せないものも治せるこの炎光で、ココさん波音さん達魔都で桃を食べてしまった人達を治せるか?

 

 

 ……多分、治せない。

 【翠炎】が活性化させるのは、魂という『生きる力』そのもの。

 『生きるのを邪魔するもの』を強く排除できるようになるけど、『生(・)き(・)る(・)の(・)を(・)邪(・)魔(・)し(・)な(・)い(・)も(・)の(・)』は排除できない。

 襲撃者の刻印は身体を傷付け死に至らしめるものだったから、【翠炎】で生きる力を活性化させれば排除もできた。

 け(・)ど(・)コ(・)コ(・)さ(・)ん(・)波(・)音(・)さ(・)ん(・)達(・)は(・)容(・)貌(・)に(・)変(・)化(・)は(・)あ(・)っ(・)た(・)が(・)何(・)年(・)も(・)生(・)き(・)て(・)い(・)る(・)。

 ……実験台扱いとか、見た目で嫌悪されるとか不利益は色々あるけど生命体として生存するには分かってる限りで支障はない。

 曰く『呪い』だから全く効き目が無いとも思えないけど……、【翠炎(これ)】でなんとかするのはちょっと非効率的だと思う。

 

 

 同じ理由で醜鬼の力を宿されたと思しい、襲撃者の変身も【翠炎(これ)】では解除できない。

 それ自体は戦闘力を強化し、結果的に『生きる力を高める』ものだからだ。

 ……けど、もし手やら足やらを直接すげ替えられてても同じだけど、潜在的に死に導く刻印が力の原点なら弱体化はできるかな……?

 

 

 

 

「──すまんが冬美、一回止めてくれ。このままだと生命力が尽きる。お前から補充もさせてくれんか?」

 

「はーい。どうぞ」

 

「うむうむ。…………前より生命力が多くなっておるぞ。どういう事じゃ……?」

 

「まぁ私も成長してるので」

 

「それは確かにそうじゃの。──……しかしそうなると他者の能力を拡大強化できないのは何故かの?」

 

「あー」

 

 

 

 

 ……となると、私がココさん波音さん達の身体を元に治す為に協力できる事は、空折が私の魂を使って起こしたと思しき『能力の拡大強化』だろう。

 魔都で桃を食べてしまった人達の中には『呪いを解く』能力を持った人が居て、効き目も確かにあったそうだけど……出力不足で一瞬しか元に戻せなかったらしい。

 空折がただでさえ分身能力である『緋色の連隊(オールキリング)』をとんでもない数に増やしたり、体表にぬめる程度だった『水も滴る風雲児(ココジュース)』を溺れるくらいに分泌するのに私の魂を使ったのはあの時(横浜で)感じて、確かめたから間違いない。

 私一人でも同じように他の人の能力を拡大・強化できれば、それは魔防隊にとって大きな利益であり強化だ。

 だから折を見て試してはいたのだけど……。

 

 

 

 

「……少なくとも、『触れている』『触れられている』のが条件じゃないのは確かですね」

 

「じゃろうな。今(・)も(・)こ(・)う(・)し(・)て(・)ゼ(・)ロ(・)距(・)離(・)で(・)触(・)れ(・)て(・)吸(・)っ(・)て(・)お(・)る(・)訳(・)じ(・)ゃ(・)が(・)、吸うスピードやら一度に吸える量が上がった訳でもない。生命力がヤバい量になっとるのはお前の生命力がバカみたいに多いからじゃし」

 

「そーですねー……」

 

 

 

 

 ……芳しい結果にはならなかった。

 

 

 空折の中で美羅さんココさん波音さんに触れていたのだと考え、手をつないだり、腕を組んだり、抱き締めたり、背中合わせになってみたり、肩車したりして、色々な人に能力を使ってもらったけどなんも変わらなかった。

 銀奈ちゃんの結界は【花閃】一発で割れたし、

 鹿野さんの鹿はいつも通り動き、

 宗像さんの【森羅六方(シンラキューブ)】の大きさは変わらず、

 紅葉ちゃんの炎は相変わらずヤバかったけど、

 小粋ちゃんの煙を動かせる量が増えたという事も無く、

 鞠ちゃんだとそもそも私がデッドウェイトで飛び立てず。

 ベルちゃんの『攻め』も特に変わらなかった。

 

 

 

 

「ほれ、もうよいぞ。……しかし何か心当たりはあるのじゃろう?」

 

「それなんですけど〜……」

 

 

 

 

 ……だけど一応、拡大・強化できるかもしれない可能性は思いついてる。

 ……ただ、そ(・)れ(・)を(・)や(・)っ(・)て(・)大(・)丈(・)夫(・)そ(・)う(・)な(・)の(・)は(・)ベ(・)ル(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)し(・)か(・)居(・)な(・)く(・)て(・)。

 

 

 

 

 ……ぐうぅ〜……。

 

 

 ……。

 

 

 

 

「……飯にするか」

 

「……はい」

 

 

 

 

 ……今日もまた私のお腹が鳴って、話も治療も中断される事となった。

 

 

 

 

「飯の後は腹ごなしに訓練でもするかの」

 

「……よろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 ……バシュン、と【悠景】で増やした腕を全て元に戻す。

 ……持ち上げてた六つ分の腕の疲労が、地味にくる……。

 

 

 ……そ(・)れ(・)と(・)空(・)折(・)由(・)来(・)っ(・)ぽ(・)い(・)ノ(・)イ(・)ズ(・)、神(・)の(・)刻(・)印(・)を(・)前(・)に(・)し(・)て(・)も(・)何(・)も(・)動(・)か(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)な(・)……。

 ……正直言ってこのノイズが本当に空折由来かは分からない。

 細胞単位で分かる今の私の感知能力でも小さ過ぎて『う〜ん……、……八雷神、かな?』くらいにしか分からないし『八雷神、なら、空折由来……かなぁ?』としてるのが現状だ。

 神由来の因子(仮)宿してるなんてヤバ過ぎるから早く捨てたい所だけど真っ黒過ぎる陰陽寮で八雷神側と疑われる中でやるには危な過ぎるし……、そもそも捨てられるのかも分からないし、……本(・)当(・)に(・)捨(・)て(・)て(・)大(・)丈(・)夫(・)な(・)の(・)か(・)も(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 小さい、というのはあくまでも私の魂にとってだ。

 神とカチ合える私の魂にとってはほこりみたいなものでも、他の人にとっては自我が押し潰され、乗っ取られる大きさであるのかもしれない。

 変に捨てれば大変な事になるのかもしれないし、もしかしたらこの状態で魂扱うのも危なかったかもしれないけど……少なくともこの数時間で何かあった気配は無い。

 何か事を起こすならピッタリの神の刻印があるにも関わらずだ。

 もしかして刻印は違う神が施したものだから、空折には入れないしどうにもできない?

 

 

 ……そもそもこのノイズ、何かできるのだろうか?

 

 

 

 

「羽前組長には夢路の見張りを「──すみません。海桐花さん、冬美」……なんじゃ?」

 

 

 

 

 ……色々考えながら赤みを残す頬を隠すように腕を回していると、この数時間、ずっと黙りこくってた京香さんが声を出した。

 

 

 

 

「──その訓練、私に譲って貰えないでしょうか?冬美、お前の事を知りたいんだ」

 

「え?」

 

 

 

 

 ……思ってもみない、提案だ。

 

 

 

 

「ふーむ……。……まあ此方は良(よ)いぞ。お前は組長、いつ機会が取れるか分からんからの。冬美は良いか?」

 

「……。はい、っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢路、は私の七番組への配属を希望してくれた人なんだ」

 

「そうだったんですね」

 

 

 

 そんな訳で訓練場代わりの実験場……、

 

 

 ……ではなく、まずは腹ごしらえ。

 

 

 ここは陰陽寮、職員用食堂。

 京香さんと昼食を摂りながら、話を聞く。

 

 

 

 

「……手柄に焦って、組員が潰れるまでになってしまったのを見過ごせなかったから、負けた側が魔防隊を去るという条件で決闘をして……私が組長となった」

 

「……ですか」

 

 

 

 

 ……もっとも京香さんはもう食べ終え、湯呑みを手に下村さんの話に集中している。

 ……食べているのは、【翠炎】の活性化と生命力の提供でめちゃくちゃお腹が空いてる私だけだ。

 小さめなお茶碗で二十数杯はご飯をおかわりして、唐揚げ、ブリの煮付け、白和え、だし巻き卵、きんぴらごぼう、ぬか漬け、肉豆腐……などなどたくさんのおかずをこれまた何杯もおかわりした味噌汁と共にいただいている。

 

 

 ……正直重めの話を聞く姿勢としてどうなのかと思わないでもないけど、変に遠慮して倒れる羽目になったら、そっちの方が申し訳ない。

 だからしっかり食べる。

 

 

 

 

「……それでも、世話になって、可愛がって貰った事実は消えない。消えない、からな……」

 

「……『ドブの中で生きてきた』、ですか……。……もし下村さんとの関わりが昔に遡ってやり直しになったとして、京香さんはどうしますか?」

 

「……。……変わらない、だろうな。夢路が生きて来たドブを、私は味わっていない。……ああなった夢路に届く言葉を、私は持ち合わせていなかった」

 

 

 

 

 ……京香さんは、とても心根がいい人だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それでも、話す事を諦めたくないとは、思っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っすぐで、曇りない。

 熱く、優しい。

 諦めと恐れに、囚われない。

 

 

 

 

「──流石ですね。お待たせしました、ごちそうさまです」

 

「そうでもないさ。手伝うか?」

 

「いえ自分で運びます、このくらいなんともないので」

 

「そうか、分かった」

 

 

 

 

 こうありたい、という手本にしたい人柄だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 そうして、演習場代わりの屋内実験場。

 刀を抜いた、京香さんと向かい合う。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……けどっ……。

 

 

 隙(・)が(・)、無(・)い(・)っ(・)……‼︎

 

 

 横浜で記憶した京香さんの戦いは、共に戦う『奴隷』の優希くんの戦いと共に、【内裏】で何度も何度も見返した。

 図書庫にあった剣術の教本や、貸してもらったタブレットで見た剣術の動画、同じく刀を扱う兜さんの戦い方などとの比較研究もしている。

 だからどんな戦い方をするかの分析はもうできている。

 京香さんの剣術は、姿勢も刀も真っすぐ構えた正道のスタンスが基本。

 しかし、不安定で狭い『奴隷』の上で振るうからか、足運びや踏み込み、腕の振りや重心移動に独特のものがある。

 また、醜鬼を斬り伏せる為か、やや大振りで、刀の先端付近に力を置く傾向があるも、しっかり制御して無駄に振らず、臨機応変に振りの径を変えられる。

 鎖を握るから片手でも振るけど、力を出すと両手で柄を握る、だからこうして正眼に切っ先を突き付けられるのも、想定内だけど、っ……‼︎

 

 

 

 

「…………!」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……実(・)物(・)は(・)っ(・)、違(・)い(・)過(・)ぎ(・)る(・)っ(・)、!

 

 

 ……私が記憶したのは、あくまで一ヶ月前、魂がデカい事しか使えるものが無かった私が見た京香さんだ。

 それも空折越しだったし……、……一ヶ月経って戦いの術(すべ)と経験を身に付け、更に魂を理解して感知能力も向上した今の私が直接見る京香さんとはまるで違う。

 

 

 ……まず、隙が無い。

 静かに、しかし熱く揺らぐ気配はどう動くか、何を考えているのか、読めそうで読めない。

 しかしそうでありながら、正眼に構えられる刀に確かな存在感が持たされている。

 ……5mくらい、距離を置いてるのに、伸びた切っ先が喉を食い破ってる様が、幻覚が、ありありと感じられるっ……‼︎

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 そして、……強い。

 魂の強さが半端じゃない。

 ……硬く、しなやかで、厚みがある。

 まるで鍛え上げ、磨き抜いた、刀のような強さと輝きを京香さんの魂から感じる。

 ……少なくとも『大山の魂(下駄)』を履いてない、純然たる私の魂の強さでは敵わない、それだけ強いと分からせる、神にも負けない魂だ。

 ……肉体だって、こうして対峙して『強い肉体とはなんなのか』を分からされた。

 一度戦闘体勢に入った肉体は凄まじい力と恐るべき速さの予感を私に感じさせた。

 凄まじく質の良い筋肉、頑強に育て上げた骨、熱く血潮を巡らせる心肺を、チリチリと静かに火花走らす神経が繋ぎ、柔らかく強靭な軟骨と脂肪と皮膚が完成させる。

 圧倒的に鍛え上げられた身体機構。

 ……そこに乗る心、あるいは精神も只者ではない。

 肉体も、魂も、詳らかに分かっているのに、それでも何をするか分からないくらい、完璧に身体の全てを制御している。

 しかし完璧とはガッチリ締める事ではなく、余裕を残す事だと言うように、固くなる事も緩くなる事もなく……、ただ真っすぐに私と、私を囲う全てを見据えるその目に、京香さんの心が乗っている。

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 そうして更に……、分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 

 京香さんの全身と刀に、静かに白い、不思議な気配を感じる。

 ……銀奈ちゃんに『京香さんは霊山で能力無しに醜鬼を滅する独自の戦闘術を習得した』と聞いた時、私は『ふーん……?魂が何か関わってるのかな……?なら私にも身に付けられるかな?』などと呑気に考えていた。

 【内裏】ではもちろん私が覚えている人達の研究と分析は全員積み重ねたけど、サンプル(記憶)量に比して恐らく一番研究分析したのが京香さんなのもあわよくばその戦闘術を身に付けられないかと思ったからだ。

 ……甘かった。

 こうして実際に、感知能力も向上して対峙してみたけど……、……分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 ……魂(・)だ(・)け(・)ど(・)魂(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)、…………分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 京香さんが纏う不思議な気配は確かに魂だと感じてるのに、京香さんが纏う不思議な気配は魂とは別物だと感じる、訳の分からない状態。

 魂に連なる、もの……、……?みたいにしか分からないし、それが合ってるかも分からない不思議な気配。

 ……一つだけ、分かるのは、私でも、斬(・)ら(・)れ(・)た(・)ら(・)魂(・)に(・)何(・)か(・)影(・)響(・)が(・)出(・)そ(・)う(・)な(・)そんな予感。

 

 

 そんな並々ならぬ才能、血の滲むような努力、積み重ねた経験、掴み取る天運を顕したような、泣きそうになるくらい強い存在が京香さんだけど……、……京(・)香(・)さ(・)ん(・)の(・)限(・)界(・)が(・)ど(・)こ(・)に(・)あ(・)る(・)の(・)か(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)と(・)い(・)う(・)事(・)が(・)分(・)か(・)る(・)。

 この人、ただでさえ桃の力の関係ない人間としての力をヤバいくらい鍛えて、高めているのに、ま(・)だ(・)ま(・)だ(・)強(・)く(・)な(・)れ(・)る(・)。

 ……多分限界の扉を何個か開いてるし、ガチの実戦なら桃の力による『奴隷』たる優希くんの力も加わってくるのだ。

 この人がどこまで征(い)くのかは、今の私じゃ計り知れない。

 

 

 ……ついでに、今の私じゃ能力無しでは絶対……、……いや、ほぼ確実なくらい勝てない。

 

 

 

 

「…………‼︎」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 なら能力を使うのは規定事項だ。

 そんなナメた真似で胸を貸してもらえる程、私は強くない!

 

 

 ……右(・)手(・)で(・)緩(・)く(・)提(・)げ(・)た(・)斧(・)に(・)、魂(・)を(・)纏(・)わ(・)せ(・)る(・)。

 【光】を与えられた斧は猛烈に、白く輝き出す。

 

 

 

 

「──ふっ!」

 

 

 

 

 すかさず、京香さんが飛び込んで来る。

 

 

 ……魂の記憶に馴染むくらい使い込んだものは魂(・)を(・)通(・)せ(・)る(・)も(・)の(・)だ(・)と(・)判(・)断(・)さ(・)れ(・)、魂(・)を(・)纏(・)い(・)、魂(・)が(・)染(・)み(・)込(・)む(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)。

 これは【内裏】に裸で放り出されないのと同じ理由だ。

 服を着けた様は当然のものとして馴染み、魂に覚えられ、再現され、細胞から成る身体から少し広がった、少しだけ魂が留まる範疇に加わっているから私は【内裏】でも服を着ていられる。

 で、魔防隊の装備で一番使い込んだ制服は元の強度が布だったからか攻撃に耐え切れないでボロボロになっちゃったけど……、……恐らく【三式決戦砲】の爆発に巻き込まれたはずのこの片刃の斧は無事生き抜き、こうして現実で魂を纏えるまでになった。

 

 

 京香さんはその威力を見抜き、潰しに来たのだろう。

 

 

 

 

「──よし、っ」

 

「何、っ⁉︎」

 

 

 

 

 ──初(・)め(・)て(・)、焦(・)り(・)が(・)見(・)え(・)た(・)。

 緩く、お(・)椀(・)を(・)作(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)握(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)左手から【大山玉産(たいざんぎょくさん)】。

 突然目の前に現れた大きな魂の球体を、京香さんは反射的に斬り払ってしまう。

 

 

 だ(・)け(・)ど(・)、そ(・)れ(・)だ(・)け(・)で(・)は(・)何(・)も(・)起(・)こ(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 

 

 

「っ‼︎」

 

「──っ、ぅっ‼︎」

 

 

 

 

 その隙に一歩、退がり、──全力で斧を振るう。

 【光】の大斬撃が轟音を立てて横薙ぎに壁を分かつ。

 

 

 ……けどあんまよくないな、これ。

 斧(・)に(・)負(・)担(・)が(・)か(・)か(・)り(・)過(・)ぎ(・)て(・)る(・)。

 整備してもらってた分が台無しになってるし、少なくとも今日はもうこの【大山添武(たいざんてんぶ)】は使わない方がいい。

 

 

 ……さて、京香さんはとっさに這うようにしゃがんで避けながら、足元を狙ってるけど。

 

 

 

 

「【翠炎】」

 

「‼︎」

 

 

 

 

 そこは安全地帯じゃない。

 靴に纏わせ、出した【翠炎】は瞬く間に広がり──、──【玉産】【添武】で撒き散らした魂を活性化させ、大爆発を起こした。

 

 

 

 

「──ふ、っ‼︎」

 

 

 

 

 けど【添武】が魂を撒き散らしていない、私の背後に一瞬で回り込んだ京香さんは刀を振りかぶり、私の首を狙ってる。

 

 

 

 

「【修羅参輪(しゅらさんりん)】」

 

「く、っ!」

 

 

 

 だけどあらかじめ【玉産】から作って今出した合掌した腕三対からの【花閃】三発を身をよじって躱さざるを得ない。

 そうして勢いを落として──

 

 

 

 

「──うぅっ‼︎」

 

「──らあああああっ‼︎」

 

 

 

 

 ──もっ‼︎

 斬(・)撃(・)が(・)重(・)過(・)ぎ(・)る(・)っ(・)‼︎

 刀より何倍か重い斧でっ‼︎勢いを落とした斬撃にブチ当てたのにっ‼︎

 

 

 

 

 

「ぐうううううううぅ……‼︎」

 

「がああああああああっ……‼︎」

 

 

 

 

 そうして……っ、ギリギリとっ……‼︎……せめぎ合い、っ……!

 もちろん【援姿】も使ってるし、【玉産】の腕も斧の背を押し力に加えて、【翠炎】で活性化したから体調とか諸々もう絶好調なのに、っ……‼︎

 

 

 押(・)し(・)切(・)れ(・)な(・)い(・)、っ(・)……‼︎

 

 

 

「──、っ」

 

 

 

 

 ふと、コンマ一秒。

 せめぎ合いの刃を外した京香さんが見えた。

 滑らかに切り込む未来すら見えた。

 

 

 

 

「と」

 

「ぐあっ‼︎」

 

 

 

 

 なので胴から【震動】、

 ──から両腕から【奏砲】、

 ────から『揺らぎ』合わせて【翠炎】。

 

 

 

 

「──【木霊翠炎(こだますいえん)】」

 

「────」

 

 

 

 

 緑の炎にぶっ飛ばされた京香さんは、【修羅参輪】で撒かれた魂の大爆発に巻き込まれる──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はあ、っ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そ(・)の(・)大(・)爆(・)発(・)が(・)、斬(・)り(・)伏(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 爆発が斬撃で分かたれ、はっきり作られた隙間の上下に、爆発の光と音と熱が行くのが見えた。

 余りの光景に、私は呆けてしまった。

 

 

 

 

「──っ」

 

「っ、…………」

 

 

 

 

 その隙に、一瞬で、今(・)ま(・)で(・)以(・)上(・)の(・)速(・)度(・)で(・)肉薄した京香さんが刀の切っ先を私の喉元に突き付ける。

 ……【翠(・)炎(・)】を(・)攻(・)撃(・)に(・)使(・)う(・)時(・)の(・)欠(・)点(・)、か(・)ぁ(・)……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……参りました。流石です、京香さん。爆発を斬るなんて……」

 

 

 

 

 【翠炎】は体力を削ったり活性化で調子を崩す技としても使えるけど、それでなんとかならないと相手を活性化させて能力を上げてしまう。

 ただあそこは魂を爆散させるのに必要だったからついでに京香さんにも当てたけど……。

 

 

 ──想像を超えられた。

 

 

 ……というか全般的に思い通りに行ってもそこからダメージに繋げられなかったり対応されたりで押し切れてない。

 感知能力が上がったから、今までより速い相手を避けたり受けたりしやすくなったけど……、……反撃や迎撃手段も欲しいところ。

 まだまだ課題が多いと明らかにしてくれた一戦だった。

 

 

 

 

「…………いや、あれは今初めてできた事だ。確かに、今までの延長線上にある事だが、考えもしなかった……」

 

 

 

 

 と、思ったら京香さんがそんな事を言う。

 えー?

 

 

 

 

「京香さんならビルも山も刀一本で真っ二つにできる境地に行けると(・)思(・)い(・)ま(・)す(・)け(・)ど(・)ー?」

 

「いや、【隷刃の太刀】ならともかく……、‼︎ともかくだ‼︎山を斬るというならお前の方が行けるだろう、冬美‼︎……怖気が走ったぞ、あの斬撃」

 

 

 

 

 ……えー?

 

 

 

 

「かわせてたじゃないですか?」

 

「か(・)わ(・)さ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)危(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)……!……ここに来て、向き合った時からお前はとてつもなかった。…………まるで、巨人にじっと見つめられてるかのようだった。何もかも、詳らかにされてしまってるのに、下手に動けば虫のようにあっさり潰されてしまうから動けない。そんな感じだ」

 

 

 

 

 いや、でも……。

 

 

 

 

「巨人、って。京香さんなら巨大醜鬼でも斬り伏せられますよね?」

 

「巨大醜鬼などお前とは比べものにならないぞ。お前ももう、普通に倒せるんじゃないのか?」

 

 

 

 

 ……確かに、いくらより集まろうが、巨大醜鬼なら【花閃】一発で倒せる。

 【波動花閃】なら二、三体まとめていけるかも。

 いや、今なら【玉産】で特大の魂の球体を出して→(からの)【翠炎】での爆破とか、今んとこ一日一回が限度だけど【添武】で叩き斬るとか、【援姿】で殴り殺すのもいけそうな気がする。

 

 

 

 

「……確かに、倒せますね」

 

「それに戦闘の組み立てがよく考えられていた。……容赦も無かったし、躊躇も全くしなかったな。魔防大と附属の出身者でも、その大半は対人戦であれだけの火力を向けるのはまだ躊躇う時期だ。……お前、本当に新人なのか?」

 

「よく言われます。それに今気付いたんですけど、もしかしたらおじいちゃんの影響があるかもです」

 

 

 

 

 ジトッとした目で見られると自然に言葉が口をついて出た。

 

 

 

 

「『おじいちゃん』?」

 

「よく会ってたおじいちゃんが昔猟師やってて、おじいちゃん家に行くと山とか猟の話聞いてたんですよね〜、『猟は弾を当てても気ぃ抜けねよ?』とか『熊は恐ろしべ』とか『熊は危ねぇべ』とか。私が躊躇してないように見えるなら、それはおじいちゃんの影響があると思います」

 

「なるほど、そうだったのか」

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

「……あの、もしかして、その辺私が疑われる一因なんでしょうか?『社会人にしては戦いに躊躇いが無いように見える』とか」

 

「気にする事は無い。それは祖父君の教えが冬美を守ってくれているだけだ。──苦労を掛けるな」

 

 

 

 

 ──『苦労を掛けるな』。

 一聞しただけでは魔防隊として、私という人物を疑わざるをえない事を謝るかのような言葉。

 

 

 ……だけど、違う。

 

 

 数ヶ月前、青羽さんの主導でココさん波音さんは優希くんを隠れ里に連れ去っている。

 それは、青羽さんがフルネームを和倉青羽といい、魔都災害で生き別れた和倉優希くんの姉だったから。

 弟が奴隷扱いされてると思い、助ける為に連れ去ったのだという。

 …………。

 ……ともあれ、京香さんの七番組と天花さんの六番組が優希くんの奪還に動き、無事奪還し──、──美羅さん曰く、それから京香さんと天花さんは連んで何か動いているとの事。

 『京香と天花はあんたらを助ける為に、まずは陰陽寮を告発する証拠集めをしてんじゃネェかと俺は睨んでる』というのが美羅さんの見解。 

 美羅さんが信頼するライバルなら、とその意見に私も賛成だった。

 

 

 そして京香さんと現在までに接してみて、確信に変わった。

 ──京香さんが優希くんの家族を助けない訳が無い。

 

 

 ……私もまた、ココさん波音さん達への仕打ちで陰陽寮の真っ黒さを知っている。

 恐らく美羅さん経由で京香さんも、私が知った事を知っている。

 ……一方で総組長はじめ、政府上層部は私が知った事を恐らく知らない。

 八雷神の方がよっぽど大きく目立ったからだろうけど……、今まで聞かれる事も無かったから話す必要の無いとこは話してない。

 恐らくは聴取の時点でおおまかに何か隠してるってのは分かったはずだけど、『大した問題ではない』と流されたのだろう。

 ところが襲撃者のせいでその流された問題に再び目を向けなければいけなくなり、こうして私が軟禁される事となった。

 

 

 ……今私が陰陽寮の非道を言い立てた所であのアホは『証拠は?魔都に堕ちた犯(・)罪(・)者(・)なんて信用に値しないわ』とか言って私諸共隠蔽して終わりだろう。

 ……………………京香さん、天花さん、美羅さんの三人で言ったってそれは変わらない、『装備品を奪った(……魔防隊では優希くんは装備品扱いだ‼︎)テ(・)ロ(・)リ(・)ス(・)ト(・)を庇うなんて、立派な背信行為ね?』とか言って組長を三人分す(・)げ(・)替(・)え(・)て(・)終わりだろう。

 

 

 あのアホと陰陽寮の癒着を崩すには確たる証拠が必要だ。

 ……いや、あのアホ口が回るからなぁ……、証拠を揃えてやっとスタートラインかもしれない。

 

 

 …………これであのアホがなんも関わってなかったら驚きだけど、それは無いと思う。

 ……ここ(陰陽寮)であ(・)の(・)ア(・)ホ(・)だ(・)け(・)が(・)見(・)張(・)り(・)無(・)し(・)で(・)動(・)き(・)回(・)っ(・)て(・)た(・)。

 私は京香さんか海桐花さんの付き添い無しに部屋を出るのを禁じられてるけど、そ(・)の(・)京(・)香(・)さ(・)ん(・)と(・)海(・)桐(・)花(・)さ(・)ん(・)に(・)も(・)陰(・)陽(・)寮(・)の(・)監(・)視(・)が(・)付(・)い(・)て(・)る(・)。

 河藤さんと潔身さん以外の人も露骨に付いて来たり、廊下や食堂で注意を向けてたり。

 …………うん、元総組長であり、元魔防隊だったここの寮長と戦友だったのに海桐花さんに監視が付けられてるあたり、恐らくは政府上層部とのコネであのアホがグルになっている感じだね。

 …………総組長やってたのに海桐花さんコネも人望も無さ過ぎない?と思わないでもないけど、明るくて愉快で行動的で豪気だけど適当で傍若でまぁまぁ頑迷で強引で日本とか魔防隊より『東という家』を重視してる封建制の傲慢な豪族みたいな人だからまぁ妥当としか思えないな……。

 扱いやすくて海桐花さんより高いスペックのあのアホが総組長選挙に立候補してお払い箱になったんだろうなぁ……。

 

 

 ……まぁ本当にただ個人としてしか魅力の無い海桐花さんは置いといて、…………私には黙ってる事しかできない。

 『できる事があれば手伝う』って伝言してあるけど、目を付けられ過ぎて証拠集めなんかしたら一瞬で諸々芋蔓式にバレるから、証拠集めは京香さん、天花さん、美羅さんに任せるしかない。

 ……で、多分その証拠集めが芳しくないんだ。

 元々忙しい組長業務の狭間でやるしかなかったんだろうけど、数ヶ月経って人手を出せる美羅さんが加わっても……、……組長が入れるところじゃいい証拠が見つからないんだろう。

 当然、証拠が見つからなければ告発に動く事もできず、私が迂闊に口を割る事もできない。

 

 

 つまり、『すまないがまだ証拠は見つからない』『そのせいでお前が余計に疑われる事になってしまっている』『──話(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)て(・)も(・)仕(・)方(・)な(・)い(・)の(・)に(・)黙っててくれてありがとう』──……当時私がどうなるか分からなかったからではあるけど『……あんたらにはすまねぇが、俺はいよいよとなっちまったら冬美が尋問されてゲロっちまっても文句は言えねぇ……』と悔しそうにココさん波音さんに美羅さんが言っている──、

 言葉にしてはいけないそこら辺の文言を入れての精一杯の言葉が、音色の違う『苦労を掛けるな』なのだろう。

 

 

 

 

 何が苦労なものか。

 

 

 

 

 私だってもう魔防隊だし、それ以前に人間だ。

 黙ってれば誰かを助けられるのに、ましてや今や魔都防衛で食べる身なのに、黙ってられなくてどうする?

 ──あ(・)の(・)人(・)達(・)は(・)魔(・)都(・)災(・)害(・)の(・)被(・)害(・)者(・)な(・)の(・)に(・)。

 ココさん波音さんはその上で空折に食べられてしまったのに、空折の討伐に協力してくれた。

 ……青羽さんだって、強引なやり口は気に食わないし、ココさん波音さん助けるのが主目的だっただろうけど、空折と戦って私の魂を自覚する一因となった、私の恩人。

 その一人だ。

 更に言えば直接私を空折の中から切り出してくれた恩人である優希くんのお姉さんなんだから、助けなくてどうする。

 

 

 恩の一つも返さないで何が恩人だ。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 ……長々考えてしまったけど、私も直接それは言えない。

 ……本当にたまたまいわくありげな声音になっちゃった、ってだけな可能性もありますからね‼︎

 そうであってほしくはないけど‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「八雷神は、大変ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので私もまた当たり障りの無い事を。

 ──私(・)の(・)疑(・)念(・)が(・)伝(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)、と思いながら。

 

 

 ……そ(・)も(・)そ(・)も(・)、な(・)ん(・)で(・)京(・)香(・)さ(・)ん(・)と(・)海(・)桐(・)花(・)さ(・)ん(・)ま(・)で(・)見(・)張(・)っ(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 建前上魔防隊と陰陽寮は同じ魔都対策会議の指揮下で魔都の諸案件にあたる同胞なのに。

 はっきり言って私とか下村さんとかあの阿南三姉妹とかいう奴らの一人とか、人手を割くなら他にもっと監視するべきものがあるだろうに。

 ……となると、人手を割いても見せたくないもの、いや、勘付かれたくすらない何かがあるんだろう。

 

 

 あのアホ除く魔(・)防(・)隊(・)に(・)は(・)、見(・)せ(・)た(・)く(・)な(・)い(・)も(・)の(・)が(・)。

 

 

 ……陰陽寮にとって、刻印絡みの面々がここに運び込まれるのは想定外だったか、あるいはキャパオーバーしかけてるんじゃなかろうか。

 澄ました感じで取り繕ってたけど、ずいぶんドタバタして……、……片(・)付(・)け(・)や(・)移(・)動(・)す(・)ら(・)ま(・)ま(・)な(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)変(・)な(・)動(・)き(・)を(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)見(・)張(・)っ(・)て(・)る(・)。

 じゃあそうまでして隠すものは何か、ココさん波音さんと同じ魔都で桃を食べてしまった人とも思ったけど……、……多分バレても開き直れる。

 『桃を食べてこんな姿になると知られればパニックになります』とか。

 それに魔防隊やら事情を知らない組織の人々がここに訪れる事だってあるはずだ、前々から研究してたなら今更こんな露骨に隠そうとしないだろう。

 まぁ可能性はゼロじゃないしもしそうだったらそこから切り込めるけど……、……そうではなく見られたら弁明の余地なく陰陽寮がヤバく、尚且つ最近研究を始め、まず何より研究を始める事を優先しなければならなかったからひっそり隠す体制や設備の構築もできてなかったもの。

 

 

 ……ふと、思い浮かぶものがあった。

 ……私が八雷神の情報を空折の血で書いたメモ、書いて残った血が空折が討伐されて消えてしまって、私が疑われる一因になったと思ってるけど……本(・)当(・)に(・)全(・)部(・)消(・)え(・)た(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。

 まだ未確定ではあるけど私の魂にさえ痕跡が残ってるのに、メモ用紙にはなんの痕跡も残ってないのだろうか、……も(・)っ(・)と(・)言(・)え(・)ば(・)陰(・)陽(・)寮(・)の(・)技(・)術(・)な(・)ら(・)霧(・)散(・)さ(・)せ(・)ず(・)に(・)空(・)折(・)の(・)血(・)を(・)保(・)存(・)で(・)き(・)る(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)。

 

 

 ……そして、保存した空折の血を、研究しているのではないか。

 

 

 ……もしそうだったらなんてヤバい事をしてくれているのだろう。

 別に八雷神についての研究が必要無いなんて言わない、……けどその為に空折使うのはまずすぎる。

 確かに空折は八雷神最弱だけど……、……そ(・)れ(・)は(・)能(・)力(・)者(・)が(・)誰(・)も(・)食(・)べ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、だ。

 食べれば食べるほど際限無く強くなってく上に、どんな能力を取り込むかで無限の成長パターンがあり、味方一人が食べられてしまえばその一人分……以上に空折が強化されてしまうから戦力差がどんどん開いてしまい、迂闊に殺すと空折の中で生かされてる人まで一気に死んでしまうから攻撃への躊躇いが生まれかねない、とかいうとりわけ生かしてはおけない最悪の神が空折だ。

 百人も食べれば……、……八雷神最強の大極(たいきょく)すら超えて、あのアホでも、魔防隊全軍ですら倒せない強さになってしまうんじゃないだろうか。

 そうなったらみんな終わり、人類には空折に食べられてしまうか殺されるかしか道が無くなってしまう。

 

 

 ……で、ここ(陰陽寮)には職(・)員(・)は(・)じ(・)め(・)た(・)く(・)さ(・)ん(・)能(・)力(・)者(・)が(・)い(・)る(・)。

 

 

 ……メモに残された血文字程度の量なら何もできない……とは楽観できない、横浜での空折は人間四人飲み込んでも人間大の大きさを維持していた。

 つ(・)ま(・)り(・)小(・)さ(・)い(・)身(・)体(・)で(・)も(・)、見(・)か(・)け(・)よ(・)り(・)大(・)き(・)な(・)も(・)の(・)が(・)入(・)る(・)の(・)だ(・)。

 血の一滴で人間一人飲み込めてしまっても驚きはしない。

 ……で、まあ言うて陰陽寮は研究施設であって軍事基地じゃないですから、戦い方を鍛えた魔防隊とかより食(・)べ(・)や(・)す(・)い(・)餌(・)がいっぱいでしょうねぇ……。

 ……いや、でも結界とかはあるだろうし……、……いや、食べた人を中で生かす空折相手だと寮に張られた結界にあるみたいな敵味方識別機能とかはどう反応する?

 ……まぁ、ご自慢の諸々が通用しなくても逃げるくらいはできると思いたいけど……、……今(・)は(・)、刻(・)印(・)の(・)せ(・)い(・)で(・)逃(・)げ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)餌(・)が(・)二(・)人(・)い(・)る(・)。

 念動力の『暴君の勅令(インペリウム)』に神速と、ちらと見えた様子からして溶解液…………、……どちらも組長級だから組長二人分……、……まー私×美羅さんとかいうヤバいぐらい軍勢が増えるコンボよりはマシじゃないっすか?

 ……もしそうなったら刻印二人分でどうにか即死してほしいし、それ以前に私の疑念が外れている事を強く願います。

 ……八雷神だって姉妹の形見を実験台にされてたらブチ切れるだろうし、研究にしたってあまりにもリスクが高すぎる。

 

 

 

 

「…………?どうかしたのか?」

 

「いや、大変なとこにいるなぁー、って」

 

 

 

 

 ……当たってた場合に備えて、今すぐ京香さんと海桐花さんに協力を仰いで捜索・破壊に入るべきか、とも考えた。

 けど私の疑念が本当に合ってるかは分からないし……、合っててもメモ用紙だから研究試料として扱う事を考えなければ隠蔽・処理も簡単のはずだ。

 あの監視の中では『たまたま見つけてしまった』はできないし、強行突破すればそれがアラームになってしまう。

 ……そもそも、私・京香さん・海桐花さんでは隠蔽・処理されないうちにどこにあるのかも分からない探し物をするのには向いてない面子だ。

 疑惑の目を向けられてる私筆頭に全員監視が付いてるからただでさえ難易度は高いし、私の場合必要でもないのに【震動】や【悠景】を広く展開するのは不自然・京香さんは恐らく広範囲の詳細な探知索敵能力は無い・海桐花さんはなんか手札あってもおかしくなさそうだけど……それもなんか目立つ展開しそうだからバレそう……。

 

 

 だけど美羅さん天花さんにまでこの疑念が伝われば、横浜の門(クナド)を管轄するから恐らく一度はメモが運び込まれている神奈川県警本部とかに顔を出してもおかしくない美羅さんに裏取りをしてもらい、『天御鳥命(アメノミトリ)』の転移でバレずに一気に踏み込める天花さんに証拠を押さえてもらうというやり方ができる。

 もしそれで潜入がバレたとしても『陰陽寮が八雷神の復活を研究しているのではないかという疑惑があった、だから潜入調査を敢行した』と言い訳も立つ。

 

 

 ……という事を言葉どころか表情にすら迂闊にできないのだけど‼︎

 どうも無差別全方位に伝わるみたいだから海桐花さん相手の実験みたいに【語念(かたりね)】する事もできないのだけど‼︎

 なんとか伝わってくれ‼︎この疑念‼︎

 

 

 

 

「弱音を吐いてはいられないぞ、そもそもお前の立場もどうなるかまだ分からないのだからな」

 

「分かってますよ、さっき【隷刃の太刀】って言った後少し焦ったのも私に手の内を明かしたんじゃないかって思ったからですよね?総組長に『私相手にあまり情報を与えないように』って命じられてるんじゃありません?」

 

「……気付いていたか。確かに聡いな、お前は」

 

 

 

 

 ……まぁ気付いてくれたとして、京香さんもやっぱり顔や声に出せないのだけど。

 

 

 やっぱり京香さんも組長だ。

 私に下村さんとの昔話はしても下(・)村(・)さ(・)ん(・)が(・)ど(・)こ(・)で(・)誰(・)に(・)ど(・)ん(・)な(・)風(・)に(・)や(・)ら(・)れ(・)た(・)の(・)か(・)は口にしなかったし、そもそも総組長の目を盗んで陰陽寮の事を調べてるはずだ。

 ポーカーフェイスのような戦闘によらない駆け引きの類も身に付けてると。

 ……思わず口を滑らしたり(ちなみに私はもう【隷刃の太刀】は見てます。なんなら横浜で助けられてますありがとうです)不安要素はあるけど、美羅さんから聞いた京香さんの自評ほど政治的しぐさができないわけじゃない。

 

 

 なら、まぁ大丈夫でしょう。

 私がこれ以上変に気を回す必要もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「……どうした?黙り込んで。…………ベルの事か?」

 

「はい…………」

 

 

 

 

 …………考える速度もまた、速まってるけど、それ以前に色々考えてないと、すぐベルちゃんの事が心配になっちゃう。

 …………よくない傾向だと思うけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………助け合う、って、約束したのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの朝の約束を果たせて、いない。

 

 

 ……あの鳥人型は、私が掴めた時点で私が抑え込む以外は無かったと思う。

 ……いや、ある程度痛め付けたら上(かず)ちゃんにバトンタッチする手もあったか。

 そうすれば防御力の薄い上ちゃんが神速で近寄られて溶解液をかけられて治療もできない即死する確率を減らした上で、粘着焼夷弾あたりであの羽根丸焼きにして地上に落としてからの制空対地爆撃で安全に倒せたかもしれない。

 ……でも通信機を落としちゃったし、『無言の連携』ができるほど訓練も場数も積んでない。

 ……『どれだけ鍛えても想定外をぶつけられるかもしれないし、単純に上回られるかもしれない』なんて自分で言った言葉が返って来てる、……『どれだけ鍛えても足りないかもしれない』って。

 ……思えばベルちゃんに『一つのものと分子で捉えたら』うんぬんかんぬん言っときながら、自分自身が魂について漠然と『不思議なもの』扱いして大枠を捉えも細かく切り込みもしてなかった何様具合。

 ……その上、下手すれば神の制裁に巻き込まれてズタズタになった所をベルちゃんに見せてしまったかもしれない無様さ。

 

 

 それでも、生きているのだから、たった一人無事に残ってしまったベルちゃんに大丈夫って言いたいのに、

 

 

 ……それすらできてない。

 

 

 ……下手するとベルちゃんは私が今は京香さんと訓練できるくらい身体的には完治しているという事すら知らないかもしれない。

 

 

 ……何もしていないとその焦りと苛立ちと心配と不安と不安と不安で今にもここ(陰陽寮)を消し飛ばしちゃいそうだ。

 それがベルちゃんの役に立つ事は無いのに。

 

 

 

 

「…………なんとしてもしたい事が目の前にある時は、周りが見えなくなるものだ。──だからこそ。だからこそ、一度落ち着いて、周りを見て、思い出せ。……激情に頭が塗り潰されては、大切なものを失いかねない」

 

「…………」

 

 

 

 

 …………。

 

 

 ……実感の籠ったアドバイスだった。

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 ……精神的にも、私はまだまだだ。

 

 

 

 

「……ただ、心配なのはこれがベルちゃんにとって初めての、……そして初めてにしては大き過ぎるショックかもしれないという事です。目の前でみんながやられる所を見たかもしれない。……そしてそのショックを受けて回復してないかもしれないベルちゃんを総組長は、拠点制圧に駆り出すかもしれない。いや、駆り出す」

 

「…………」

 

「下村さんの座標、地下150mくらいだから『黄泉津(よもつ)大山(おおやま)』じゃない。浅(・)過(・)ぎ(・)る(・)。下村さんが八雷神を出し抜いていないなら、あるのはせいぜい前進拠点といったところ。──それでも拠点は拠点で、大当たりの情報を引けるかもしれない。八雷神についての情報に乏しい人類は制圧しなきゃならないし、八雷神も何がしか手を打ってるかもしれない。──……全面攻勢にしては中途半端だし、姉妹(神)が一体欠けてるのに組長クラスを使い捨てにしてると思ったけど、最初から情報を持ち帰らせて罠にはめるのが目的?でもそれにしては刻印の殺意が強い……」

 

「……おい、」

 

「あぁ大丈夫です、座標以外はここに来る前の情報だけで考えられますから。……どの道、制圧するなら組長のみなさんだけで動くでしょうね。……で、あの人なら組長だからって精神状態を無視して、お気に入りを連れて行く事を優先しかねない」

 

「…………ベルが本来なら立ち直れない、戦う事すら困難なショックを受けていると、そう思っているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、戦う事はできると思います。ベルちゃんは強い子です」

 

 

 

 

「…………総組長も形はどうあれ、ベルちゃんを大切にしてますから。励ましの言葉くらいはかけるでしょう」

 

 

 

 

「…………でも、だからこそ思い詰めを溜め過ぎて……。……倒れるんじゃないか、って、心配になります」

 

 

 

 

「──ベルちゃんは、優しい子でもありますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──光の羽根を散らしながら、同心円状に空間が歪む。

 

 

 

 

「緊張してない、日万凛くん?」

 

「……大丈夫です、出雲組長」

 

 

 

 

 一瞬で離れた空間を繋いだのは、

 六番組組長、出雲天花の『天御鳥命(アメノミトリ)』。

 

 

 

 

「──これで全員揃ったわね」

 

 

 

 

 魔防隊総組長兼十番組組長、山城恋。

 その宣言通り、今回の作戦への参加人員が全員揃った。

 

 

 

 

「移動はなーんもなかったねー」

 

 

 

 

 五番組組長、蝦夷夜雲。

 

 

 

 

「地表での待ち伏せもありませんでしたね」

 

 

 

 

 九番組組長、東風舞希。

 

 

 

 

「ここは本命じゃねェのか?」

 

 

 

 

 二番組組長、上運天美羅。

 

 

 

 

「あるいは、この先で待ち伏せてるとか」

 

 

 

 

 一番組組長、多々良木乃実。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 八番組組長、ワルワラ・ピリペンコ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 …………三番組組長、月夜野ベル。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと優希、ぼうっとしてんじゃないでしょうね⁈出雲組長に触られてそんな嬉しかった⁉︎」

 

「そうなの?優希くん……」

 

「えっ、いや、違っ、京香さん以外の組長の皆さんが揃っての作戦なんて初めてで……!」

 

 

 

 

 七番組組長、

 ……の代理として七番組副組長、東日万凛。

 そして七番組寮管理人兼『奴隷』の和倉優希。

 

 

 下村夢路が示したと言う座標──その直上まで魔防隊の組長八人に副組長一人、そして『奴隷』一人の計十人から成る部隊は無事到達した。

 ──間も無く、地下に当たるその座標への突入作戦が開始される。

 

 

 ……陰陽寮で下村の側に付いている羽前京香以外の全組長が参戦する作戦など優希にとって初めてだった。

 だからその威容に少しでも緊張したのは嘘ではない。

 

 

 

 

「…………」

 

「(……、……三番組の、月夜野さん、……だよな?)」

 

 

 

 

 嘘ではない、……が、一番目を取られた人に、……触れていいのか分からなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

「(…………あんな、落ち込んで……)」

 

 

 

 

 優希は『奴隷』としてあちこちに駆り出され、もう組長の大多数はその人となりも分かっている。

 分かってないのは横浜への出動直前の組長会議前に廊下の陰から強く睨んで来るくらいしかされてないワルワラくらいで……、直接話してはいないがベルの人となりも分かっていたはずだった。

 

 

 なにせ初対面からとにかくおどおどしていた。

 気の強い(けど面倒見のいい)美羅の後にその正反対とも言える人柄のベルに会ったものだから、『こんな組長さんもいるんだな……』と思ったのを覚えている。

 その後京香に付いて組長会議に同行した時に目にする様子も、あまり積極的な意見は出さず、とにかくおどおどして……、……総組長にも遊ばれていたようだった。

 ……総組長に気に入られるとどれだけ厄介かを説明する時、確か京香もベルがおもちゃにされていると言っていた。

 

 

 

 

 ……だがしかし、こんな落ち込んではいなかった筈だ。

 

 

 

 

『──ただし装備品は持って行くわ。和倉優希』

 

 

 

 

 それに気が付いたのは出(・)撃(・)前(・)の(・)会(・)議(・)での事だった。

 ……今思えば、あの会議も組長会議級の面子だったのに何(・)故(・)か(・)六(・)番(・)組(・)寮(・)の(・)滅(・)多(・)に(・)使(・)わ(・)れ(・)な(・)い(・)と(・)い(・)う(・)ブ(・)リ(・)ー(・)フ(・)ィ(・)ン(・)グ(・)ル(・)ー(・)ム(・)で(・)行(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)が(・)……。

 

 

 

 

『それは反対ですっ!』

 

『総組長の攻撃に彼が巻き込まれます』

 

 

 

 

 座標が示す地下まで優(・)希(・)が(・)掘(・)り(・)進(・)め(・)る(・)事(・)を(・)要求した総組長に対し、今まで優希と関わった組長が反対する中……、

 

 

 

 

『まずは俺の分身で様子を……

 

 

 

 

『ベルも、死にませんよ』

 

 

 

 

……は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『……総(・)組(・)長(・)の(・)形(・)態(・)なら死なないから、和倉さんを連れて行くんですよね?ベルも、囮くらいにはなります』

 

 

 

 

 ……優希とそれ程関わりが無いのに、発言したのがベルだった。

 

 

 

 

『…………ベ、ベル、……たん……?』

 

『……これは八雷神の仕掛けが私にどれだけ通用するかの試金石でもあるわ。今回は私が、全力でやる。いいわね』

 

『そういう事なら、分かりました』

 

 

 

 

 ……何もかも異様だった。

 ……ベルの落ち込みようも、そ(・)れ(・)だ(・)け(・)落(・)ち(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)の(・)に(・)発(・)言(・)す(・)る(・)ま(・)で(・)組(・)長(・)達(・)が(・)誰(・)も(・)気(・)付(・)か(・)ず(・)指(・)摘(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)も(・)、会議では出された発言に反応する受け身なスタンスが多かったベルが自ら発言するのも、……総組長にびくびくおどおどしていないのも、一月程前の組長会議で見た時とはまるで違う。

 ……いや、気配もそうだが、動(・)き(・)も(・)何(・)か(・)違(・)う(・)。

 慣れたと言うか、洗練されたと言うか……。

 ……優希の目でははっきりとは分からない。

 

 

 

 

『……総組長、今の月夜野組長を参加させるのですか?』

 

『失態を犯すようなら必ず処分を下すわ。可能ならそうなる前に退避させてね、天花』

 

『……はい、了解です』

 

 

 

 

 ……だがそれよりも、風舞希が指摘したように空っぽで、今にも崩れそうな危うい様子だ。

 ……優希はその感じに覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(姉ちゃんが行方不明に認定された時の、母さんと、父さんだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……組員が全滅させられたからあんな落ち込んでるのか?……でも確か、初めて会った時も三番組がやられたって泣いてたけど落ち込んではいなかったよな?……死んではいないって聞いてるし、何があったんだ一体……)」

 

「──さて、和倉優希。あれだけの啖呵を切って、まさか準備ができてないとは言わせないわよ?」

 

「──は、はいぃ‼︎」

 

 

 

 

 ……ベルについて気になる事は山々だが、今は地下への突入を優先だ。

 

 

 

 

 ──……どの道、何も考えられなくなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………優希にはああ言っちゃったけど、やっぱり気になるわよね……。……何があったのよ、月夜野組長)」

 

 

 

 

 優希と恋去りし後、日万凛は組長達と恋からの合図か、十分間の経過による地下への突入を待っていたが……。

 ……やはり気になるのは、異様に落ち込んでいたベルだ。

 ……だが日万凛もやはりベルと、そして三番組と余り関わりが無い。

 一応『青雲の志(ラーニング)』でのコピーはさせて貰ったが、どれも当時の日万凛と相性が悪く、力を発揮できなかった。

 魔都交流戦を戦った事も、共に任務に就いた事も無い。

 組長にも迫る、副組長屈指の火力を誇る肥後紅葉の方がチェックしていたくらいで、その紅葉とすら大して喋っていないのだ。

 あれだけ落ち込んだ事情を聞くのも二の足を踏む。

 

 

 

 

「ホントに大丈夫なのか、ベル?」

 

「……ベルたん大丈夫……?」

 

「月夜野組長……」

 

 

 

 

 それは組長達も同じようで、人懐こい木乃実や面倒見のいい美羅だけでなく、

 あ(・)の(・)、蝦夷夜雲でさえセクハラせずに心配をしている異常事態である。

 

 

 

 

「はい、大丈夫です」

 

「──心を強く持つ事を勧めるわ」

 

「……カウンセリングはもう行った?この作戦が終わったら行った方がいいよ」

 

「そうします」

 

「(ピリペンコ組長、喋るの……⁈)」

 

 

 

 

 滅多に喋らないワルワラさえ喋り、日万凛はそちらにビックリしたぐらいだ。

 

 

 

 

「────」

 

「!」

 

 

 

 

 ──そんな中で、突然ベルの足元が爆ぜた。

 咄嗟に飛び退いたベルは即座に拳銃を向ける。

 

 

 

 

「──……慌てず、構えられた。確かに大丈夫なようね、成長もしている。もしそうでなかったら、離脱して貰わなければならなかったわ」

 

「東組長……」

 

 

 

 

 銃口を向けられるのは、風舞希。

 ──という事はベルの足元を爆ぜさせたのは『太陽を穿つ槍(サンセット)』だったのだろう。

 

 

 

 

「作戦中に手荒かつ不審な真似をした事を謝罪します」

 

「……すいません、心配をおかけしたみたいで」

 

「──いえ、俺らもちっと気ぃ散らしてたかもしんねェっす。その辺引き締めてくれたって事なら文句は無(ね)ぇですよ」

 

 

 

 

 ……速過ぎて日万凛にははっきり視認出来なかったが、恐らく石突だったとは言え味方に武器を向ける作戦中なら反撃されても文句は言えない暴挙を行なったのは、最年長としてベルが戦いに支障を来さないかを確かめ、同時にベルに気を取られていた他の組長達を窘める為の行為だったのだろう。

 槍を向けられたベルも、他の組長の中から真っ先に声を上げた美羅も、咎め立てはしていない。

 ベルの様子も『やや沈んだ感じがしなくもない』くらいまで持ち直した様だ。

 

 

 

 

「(……自分も、気を取られてたかもしれない……。……しゃんとしないと‼︎)」

 

「すいません、東組長!」

 

「まー、いつでも頼れよ‼︎隣同士だかんナ!」

 

「そー、そー‼︎いつでも頼ってくれていいんだよ?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 そうして組長達はベルに割いていた注意を、優(・)希(・)が(・)掘(・)っ(・)た(・)座標までの掘削坑と周辺への警戒に振り直す。

 最後に管轄が隣の美羅と夜雲に声を掛けられ、にこり、と微笑むベルは大丈夫だと、判断して。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その、ベルの脳裏に浮かぶのは、過去の情景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血飛沫が三つ上がった。

 

 

 

 

「(げ)、(へ)」

 

「…………」

 

 

 

 

 その内二つは神の制裁を受けた襲撃者。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一つは、彼女等相手に何も出来なかった三番組組長。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……何をやってるの、ベル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が自害に使おうとした斧を蹴り飛ばし、傷から血を噴いた、

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋、ちゃん…………、血が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔防隊総組長、山城恋のものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──…………ねえ⁉︎何をやってるの⁉︎真逆自殺しようとしてたんじゃないでしょうね⁈」

 

 

 

 

 刃を上に立てた斧に友達が顔面を叩き付けようとしていた所を目撃した恋は今まで誰も見た事が無い剣幕でベルの襟元を掴んで揺さぶっていた。

 焦り、動揺していた。

 

 

 

 

「あ、あぁ、冬美、さんが」

 

 

 

 

 ──下手をすれば、揺さぶられるベル以上に。

 

 

 

 

「──あ(・)い(・)つ(・)は(・)ま(・)だ(・)生(・)き(・)て(・)る(・)‼︎」

 

「──」

 

 

 

 

 だがそれでも、友達を引き留める言葉を口に出来た。

 

 

 

 

「天花も、カイコも呼んだ‼︎助かる見込みはある‼︎貴(・)方(・)が(・)死(・)ん(・)で(・)も(・)無(・)駄(・)死(・)に(・)よ(・)⁈分かる⁉︎ベル!」

 

「──、ぁ」

 

 

 

 

 或いは、ベルを殺せるのは己しか居ないと言う自負すら忘れて。

 

 

 

 

「紅葉、小粋、鞠、みんな生きてる‼︎冬美より傷も酷くない‼︎」

 

「でも、ベルは何も、できなくて」

 

「な(・)に(・)も(・)出(・)来(・)て(・)な(・)い(・)奴(・)が(・)あ(・)ん(・)な(・)ぶ(・)っ(・)飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)で(・)し(・)ょ(・)⁉︎貴方は頑張ったの‼︎ベル‼︎」

 

 

 

 

 いつになく必死だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そんなにみんなが大切なら、みんなの生死が確定するまでちゃんと責任を果たしなさい‼︎勝手に死ぬなんて許可しないわ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……総組長」

 

「……天花、そっちの死(・)体(・)二つを総本部の正門前まで運んで。引き渡し手続きは銀奈達がするから終わったらここに戻って来て。カイコの見立て次第で冬美を搬送するわ。……ベル!良いわね‼︎」

 

「っあ、」

 

 

 

 

 言うべき事を言い終えて、恋は半壊した組員寮へと足を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、そ(・)い(・)つ(・)はいつ死ぬの?」

 

「……総組長……?……いえ、日ノ出さんは重傷ですが私の能力ならまだ治る見込みはあります」

 

 

 

 

 爆風吹き荒れ黒焦げとなった元居間に五番組の五木カイコが到着していた。

 重傷を負った冬美は、瓦礫で床と平行にしただけの座卓の残骸の上に被せられた虫の繭の様なものの中だ。

 繭の正体であるカイコの能力『織女星の繭(ミラクルケア)』でも死者蘇生は出来ないが、重傷に留まっていれば時間は掛かっても治癒出来る。

 

 

 

 

「むしろ……「……そういえばそうだったわね。なら此処から移動した方がいいわね」

 

「……はい、あまり良い環境ではありませんから。今の日ノ出さんには輸血や点滴などが必要です」

 

 

 

 

 ……ただし冬美の場合謎の回復力と噛み合い過ぎて、本来蚕の繭の様な丸く膨らむ形状にすべき『織女星の繭(ミラクルケア)』を平たくへばり付く様な形状に削減してさえ脱水症状や栄養失調の恐れが有った。

 それに魔都陰陽道に基づき見た目より頑丈なこの三番組組員寮も半分は消し飛び、半分は炎上しあわや全壊の危機だった。

 そこを恋が拳圧で無理矢理消火した故に基礎構造から軋み、倒壊の危険が有る。

 更に最低限払い除けはしたものの、煤や煙、微細なガラス片などは未だ漂い怪我人を寝かせたくは無い環境だ。

 

 

 ──そこに。

 

 

 

 

「「お待たせしました」……‼︎」

 

「……えっ、?」

 

 

 

 

 到着したのは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バ(・)ラ(・)バ(・)ラ(・)死(・)体(・)の(・)中(・)で(・)決(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)?』

 

『もしアタシらがみんなやられて、ベル組長が一人残されてもそんな気にしないでくださいよ。アタシらみんなアンタの道を切り開く為にいるんだから』

 

 

 

 

「……ストレッチャー、いりますか⁈」

 

 

 

 

 ……誰かとの関わりが、ベルを絶望に叩き込んだのならば、

 ベルを絶望から引き上げるのも、誰かとの関わりであった。

 

 

 交わした言葉が、足掛かりとなる。

 足掛かりとなった言葉は、兎に角身体を動かさせる。

 覚え込んだ配置を頼りにベルが引っ張り出した、怪我人搬送用のストレッチャーは十分実用に足るものだった。

 

 

 

「……ええ、ありがとう」

 

「他のはみんな、吹き飛んじゃったので……、みんなを乗せる担架を作って来ます!」

 

「……天花、カイコ、任せるわ。搬送準備が出来次第総本部に運んで」

 

「……了解しました」

 

「すぐに」

 

 

 

 

 ──それは、誰も見た事の無い景色を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……冬美さんや、紅葉ちゃんが言ってくれたことで、想像はできたはずなのに……。……ベル(私)の想像が、甘かった)」

 

 

 

 

 ……未知の景色とは、誰も歩いた事の無い場所だ。

 どれだけのものがあるか、どれだけの歩みが必要か、どれだけ耐えねばならないか、どれだけ疲れるか、

 

 

 どれだけ命が危ういか。

 

 

 誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(頑張ら、なきゃ)」

 

 

 

 

 知らないからこその、未知である。

 

 

 

 

 ……坑(あな)のほとりに、ベルは立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 …………。
 ……これがVS神奉者の顛末です。
 三番組+は自らの力を最大限発揮できるよう戦いました、が……。









:ベル
…襲撃した神奉者を誰も倒せなかった。
 仲間が痛めつけられるのを助けないで隙を窺ったのに。
 抱きしめてくれたひとも、肩を並べた子も。
 誰も彼もズタボロにされた。
 自分だけが無事残って。
 何もできなかった。



 …………。
 …………一時その精神は絶望のどん底だった。
 しかし友達の言葉で仲間の言葉を思い出し、できる事をやれた。
 ……が、その後めっっっっっっっっちゃくちゃ落ち込んだ。



 冬美の見立て通り持ち直してはいる。




:冬美
…ずっとベルを心配している。

 ……過保護になりかねないので、自分の能力の考察とか訓練とか陰陽寮の事とか意図的に別の事に気を逸らしてる。

 ……けどやめた途端に心配になってしまう。
・腕
…【悠景】や【玉産】により増やせるようになった。
 が……。
・【翠炎】
…特殊な治療や生命の活性化が可能だが、万能ではない。
 対象がどういうものか判別し、分析してからでないと無意味に終わったり悪化させたりしかねない。
 とりあえず魔都で桃を食べてしまった人の変化はこれでは治せない。

 攻撃に使う場合もまた相手の調子を見極めないと活性化によって強化してしまいかねない。
 ……ただしダメージを与えてから使えば、回復でその分体力を消耗させられる。
 ……それとは別に霧散しても残る魂を活性化させる事で引き起こされる爆発によって、冬美のメイン火力の【花閃】など魂そのものを使う攻撃は二段構えの破壊を齎せるようになった。
 (活性化による発散で爆発させるにはそれなりの強さと大きさの魂が剥き出しかそれに極めて近い状態になってる必要があるので、普通の生物を炙っても肉体に守られた魂が爆発する事は無い)
 (限界を超えるくらい炙っても肉体がグズグズに崩れて行く事によって魂が弱って行く方が先なので爆発を引き起こすような発散は起こせない)
 (海桐花炙った場合でも爆発するのは肉体であり魂は爆発しない)

 冬美はこれを使うだけで身体的にはめちゃめちゃ元気になり120%の力を発揮できる。
・魂による(?)能力の拡大と強化
…空折に食べられてた時に冬美の魂で行なわれたと見られるが、今の所冬美単体ではできていない。
 しかしどういう条件ならできるのか、冬美はもう見当を付けている。

 それはそれとしてスキンシップを受けた銀奈は撃沈した。
・神由来(?)のノイズ
…冬美の中に微かに存在する八雷神っぽい気配の何か。
 ……だが今の所何も起こしてないし、小さ過ぎて本当に八雷神由来のものかも分からない。
 冬美は即バレして自分も実験動物扱いになると悲観してた(前話『リザルト』の最後の最後)が、今の所誰にもバレてない。
・【大山御玉】
 改め【大山玉産】
…正式に命名された魂の球体を生み出す技。
 魂の球体はそれだけでは視界を塞ぐ程度が関の山で攻撃力は無いが、【翠炎】によって爆弾と化したり、体表面に引っ付けて整形する事で魂の腕としたり色々応用ができる。
 ……冬美は魂の球体にも個別の名称を付けるべきではないかと思ってるが、しっくりくる名前が思い付かない。
・【大山添武】
…使い慣れた武器に魂を纏わせて攻撃する冬美の新技。
 巨大醜鬼を一撃で倒せる威力を発揮できるが、武器への負荷が大きいので連発はできない。
 また、使い慣れて魂が覚えた武器でないと発動できない。
・冬美の腕力
…諸々整えたなら素の京香さんと互角……くらい。
・【修羅三輪】
…【玉産】の魂の球体で三対作った腕から【花閃】を放つ。
 作る腕の数で【修羅○輪】の○が変わり、一対なら【修羅一輪(しゅらいちりん)】、二対なら【修羅双輪(しゅらそうりん)】、百対なら【修羅百輪(しゅらひゃくりん)】となる、が……。
・【木霊翠炎】
…【震動】→【奏砲】→【翠炎】を連続して放つ。
 突き抜ける翠の焔から緑の波紋が宙に広がるように見えて大変美しい。
 ……その実態は【震動】+【奏砲】でダメージを与えてから【翠炎】の活性化で強制的に治させる事により確実に体力を削る技。
 もちろんこれも【翠炎】なのであらかじめ魂を撒いとけば魂の爆発を引き起こせる。
・【大山語念(たいざんかたりね)】
…正式に命名された細胞単位で意思をより集め、強く念じる事によって思ってる事を伝える技。
 ……察しが悪いと伝わらない事があるので口に出した方が早くて正確。
 今んとこ無差別広範囲なので内緒話にも使えず、声を出せない時など使い道は限られる。

:恋
…『…………状況的にベルちゃんも私も助けられたのにお礼言えてない』と冬美は気付き、やる事リストにこの人へのお礼を付け加えた。
 
 ……しかしそれはそれとして、その事実が好感度上昇に一切寄与していないばかりか、冬美は内心『あのアホ』呼ばわりするようになってる。
 ……もしベル相手に取り乱した所を見ていれば多少は軟化しただろうが、生憎意識を失っていた。

 ……後にその判断は妥当と認めたが、ベルを放り出して守らなかった事がこの人が冬美を嫌いになる一因。

:海桐花
…冬美に内心ボロクソに言われてるが、これでも冬美からの好感度は高い。
 冬美的にはだんだん分かって来た人となりや行なった事に好感度上げる点も下げる点もあったが、その両者がマイナスを帳消しにする事もプラスを相殺する事も無く並立してこの人への人格的評価となっている。
 なんだかんだよくしてくれてるし、冬美の中では両津勘吉的ポジだろうか。

:京香
…冬美は美羅だけでなくこの人にも好感でバイアスかけてる感が否めない。

 ……だが、過信はしないし戦いとなれば遠慮もしない。
 屋外で冬美がこの人と戦うなら【花閃】など遠距離攻撃の連発を主体に攻める。
 なんなら屋内でも壊しちゃいけない場所でなかったら遠距離で攻める。

 ……ベルを強く思い、焦りに焦がされる冬美に、故郷を滅ぼした特殊醜鬼を我を忘れて追いかけようとした自分を思い出し、実感の篭ったアドバイスを送る。
 ちゃんと冬美もそれを受け取った。

 冬美は魂と同じで違う謎の気配をこの人に感じ取っているが、それが生身で醜鬼を倒せる理由かは不明。
 だが魂の球体や爆発すら斬り伏せるなど、どうあれ実力がヤバいのは変わらない。

 ……てか京香さんが生身で醜鬼を屠れる原理って明かされるんですかねぇ……?

:河藤(かとう)蛍(ほたる)
:潔身(きよのみ)簾(すだれ)
…陰陽寮の職員。
 医療・看護系の技能を持っている。

:宗像(むなかた)梢(こずえ)
…十番組組員。
 歴史好き。
 今んとこ冬美の話にしか登場しない。
・『森羅六方(シンラキューブ)』
…梢が桃で得た能力。
 大きくはならなかったらしいが詳細は不明。

:突入組
…希少なセクハラ無しの夜雲さんや喋るワルワラ氏が見られた。
 優希の両親が青羽が行方不明認定された頃どんな様子だったかは今の所オリ設定。

 ……全くの余談だが原作47話にてベルちゃんは「夜雲ちゃん」と呼んでいるが、同じとこがアニメでは「夜雲さん」になってた、はず。
 年齢関係が変更されたのだろうか。
 (ベルが入隊した頃には既に夜雲さんは居たっぽいが、高校中退の夜雲さんが高卒のベルちゃんより年下でも普通に成立する、……が作者的には夜雲さんが年上だと思う)

 ……更なる余談だが、夜雲さんの怪しげな笑みと意味深な思索に起因するとある説に作者は「そ、そういえばこの人スケベな事以外の内心が明らかになってない……!」と恐々した。

:天花
…恋とベルのやりとりを魔防隊で唯一目撃した。
 転移がとても便利。

:カイコ
…冬美の応急処置を行なった。
 ……【翠炎】発動してたからそれで十分だった冬美の回復力にドン引きしたし、何故か冬美に刺々しい恋に困惑した。
・『織姫星の繭(ミラクルケア)』
…カイコが桃で得た能力。
 蚕の繭状の物体で対象を包み、回復する。
 ……この、『蚕の繭状』にするのが必ず必要なのかは原作では特に言及されていない。
 本作では『プリセットは蚕の繭状だが、長年のカイコの研鑽により患者の状態に対応できるよう、形状を変えて出力できるようになった』としています。
 ご容赦ください。

 ……尚、長年の魔防隊生活でもその技術が必要になったのは冬美くらいの模様。


:阿南三姉妹
…ヤッバイしぶとさを見せたが、内二人は刻印が始末してくれた。

:夢路
…ずっと寝てる。

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