その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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大山、想請す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン、と何処でも聞くようなチャイムが校舎を駆ける。

 

 グラウンドから聞こえる球技の音、僅かに騒めく教室の音、それら全てが囲われるような何処にでもある高等学校の廊下だった。

 

 ガチャリ、とドアが開けられたその一室は生徒指導室。生徒の将来にまつわる諸々の指導に用いられる部屋である。

 何かの作業を終えた教員が過ぎ去るドアの横には色とりどり、様々な学校のパンフレットが(表紙)を並べていた。

 

 大学、短大、専門学校。

 魔都が現れ数十年。

 人々の営みは災厄を乗り越え、再び若人に将来を与えられるようになっていた。

 ──元の形ではないとしても。

 

 輝かしいばかりに並ぶは将来の形。

 その中にあって直、堅実にかつ煌びやかに存在感を放つ表紙があった。

 それこそは『変わった』この世界を象徴する将来であり──。

 

 

 

 

 ──選び取られる事なく通り過ぎていった。

 

 

 この場所で起きたのはそれだけでしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──じゃあつまりあたしら三人、その空折とかいうのに食われたって事か⁈」

 

 

 

 

 どことも知れない岩の上、輪になって座る私達の現状を聞いて驚愕の声を上げてるのはショートカットの銭函(ぜにばこ)ココさん。

 元気で人懐っこい感じの、例えるなら『江戸っ子』みたいな子だ。

 でも出身は北海道とのこと。

 

 

 

 

「美しくないわね……」

 

 

 

 

 眉をひそめているのがロングヘアの湯野(ゆの)波音(なおん)さん。

 『美しさ』にこだわり、そのこだわり通りの蕩けるような美しさの持ち主だ。

 ……どこかで見覚えがあると思ったら()()なる前はモデルをしていたとか。

 

 二人とも首から下の肌がウエットスーツみたいに黒かったりするけど、ある出来事に遭遇するまでは普通の人間だったらしい。

 

 

 

 

「……はい、ついでに私が調べた時にはもう身体は吸収されてたみたいで……」

 

「じゃあもう消化されちゃってんじゃん!なんで生きてんだよあたし達!」

 

「生きたままじゃないと取り込めない、って話だったはずよココ?取り出し方が分からなかっただけだと思いましょう……」

 

 

 

 

 二人に振りかかった出来事は現世から魔都へと迷い込んでしまう『魔都災害(まとさいがい)』と呼ばれる現象。

 ……二人は魔都災害で魔都に迷い込み、魔防隊の助けも無く生き延びる為に魔都で桃を食べた結果身体が変化してしまったらしい。

 そして陰陽寮に捕まり実験動物にされ、なんとか脱走して陰陽寮をブッ潰すべく戦いの準備をしていたという。

 しかし魔防隊と戦いになり手懐けた醜鬼を倒され、リーダーの青羽(あおば)さんと合流したところで『ハチライジン』とか言う謎の敵に襲われ意識を失い──。

 ──ここで目覚めたという訳になる。

 

 ……話に聞いた見た目からしてその謎の敵の片方は『紫黒姉』こと、八雷神の紫黒でもう片方は同じく八雷神の壌竜(じょうりゅう)だ。

 意識を失った後に捕まって空折があの姿になる為に食べられてしまったという事だろう。

 思い出してみれば角の生え方といい、性格といい空折は二人を神様色で合わせたような感じだ。

 

 

 

 

「……取り出せたとして私達帰れるんでしょうか……?」

 

「「…………」」

 

「……黙らないでくださいよ〜!」

 

 

 

 

 ……そして話の流れで公権力の闇を聞いてしまい絶賛気落ち中なのが私、ごく普通であるはずの人間で会社勤めの一般人だ。

 

 ……鼻で笑われるような陰謀論ならこの世の中、幾らでも転がってる。

 ……けど自分達のすぐ隣に実例があるなんて思わなかった。

 ……陰陽寮の所業は『二人の言う事が本当なら』だけど、あの憤りを嘘だと思えないし気に障るような触れ方したのに話してくれた二人に対しても失礼だ。

 だから信じる事にする。

 

 ……でもそうなると……。

 

 

 

 

「……ただ、取り出せるとしてもそれができそうな魔防隊が思いっきりおふたりの件に絡んでそうなんですよね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──まとめて!倒す!」

 

 

 

 

 横浜市内、ヘリポート。

 空中に浮かぶ空折が羽織を羽ばたかせ、前方広範囲に羽根を撃ち出す。

 地上の美羅が再び跳躍しようと関係無く撃ち抜かんとする判断だ。

 

 

 

 

「──どらっ!」

 

「わっ⁈」

 

「オラァ!」

 

「ぐぇっ……!」

 

 

 

 

 だが己を足蹴にした美羅を意識しすぎた隙を、他の分身に撃ち出され背後頭上から強襲して来た分身に突かれる。

 身体に組み付かれ、バランスを崩した所を回避に専念した本体が直撃。

 腹に拳を受け、潰れるような悲鳴を上げる。

 もつれ合うようにして落下──、──衝突。

 

 

 

 

「よし、こいつだな!持ってけ!」

 

「オウ!任せとけ!」

 

 

 

 

 素早く身体をまさぐり、美羅が見つけ出したのは醜鬼が描かれた──否、封じられた一束のカード。

 すかさず生み出した分身に持たせ、この場から引き離そうとする。

 

 

 

 

「──どこ行こうってのさ!」

 

「ぐあっ⁈」

 

「が、っ」

 

 

 

 

 だが本体が跳ね飛ばされ、分身が羽根で撃ち抜かれる。

 

 

 

 

「ふー……、知ってたんだこれ?()()()が何かしたの?」

 

「テメ……!」

 

 

 

 

 そうして溢れ落ちたカードの束を拾い上げた空折は地上の美羅に見せびらかすようにその手の内を見せ付ける。

 ──カードの封は既に解かれている。

 

 

 

 

「せっかく知れたのに残念だったなー?──醜鬼、大解放だ」

 

 

 

 

 ふわり、と嘲るように絵柄を晒しカードがばら撒かれる。

 それは絵柄でしかなかった筈の醜鬼を解き放つ。

 

 ばら、ばらと空中に投げ出される醜鬼達は成すべきを成そうとする。

 ──即ち、人を襲う事だ。

 一足早く、高層ビルのように一際巨大な醜鬼が降り立ち地響きを立てる。 

 

 横浜の街に漠然と漂っていた物々しい空気が現実に存在する危機へと塗り変わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……それはさっきあたしらが言った事だろ?総組長あたりはあたしらの事知ってて見逃してもおかしくないって」

 

 

 

 

 ……『今更何言ってんだよオイ?』と言わんばかりにココさんが目に見えて不機嫌になる。

 ……当たり前だ。

 魔都災害に遭って魔都に迷い込んだ人を救助するのも魔防隊の仕事の一つだ。

 なのに二人は助けられず、陰陽寮送りで実験動物。自力で逃げ出すその時までついに魔防隊が現れる事は無かった。

 私だってそんな事されたら陰陽寮に対して怒り狂うだろうし、魔防隊なんて信じられなくなるだろう。

 

 ……話の流れで思わず『魔防隊は……?助けてくれなかったんですか?』なんて聞いてしまう前に気付きたかった事だ。

 ……その無神経な発言がどれだけ嫌な気持ちにさせて心の距離を裂いてしまったか。

 

 

 

 

「それは、そうですけど……」

 

「言ってご覧なさい、冬美(ふゆみ)?改めて口に出すのなら違う事が言いたいのでしょう……?」

 

 

 

 

 引っ込めかけた所を波音さんに促される。

 ……そうだ、『言うべき事は言っとけ』だ。

 回りくどいと思うけれど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……そうですね。証拠は何も無い話ですけど……、私はおふたりが遭った魔都災害の最初から魔防隊が絡んでるんじゃないかな、って思いました」

 

「はぁ⁉︎」

 

「どういう事かしら……?」

 

 

 

 

 ……これが当たっていたら魔都関連の組織はどれも光も通さない真っ黒になってしまうから当たってほしくないけど……。

 

 

 

 

「おふたりは魔防隊の索敵係って知ってますか?」

 

「いや……?」

 

「初耳ね……」

 

 

 

 

 魔防隊が新聞やテレビ、SNSなどで取り上げられる時によく見るのは魔防隊トップの総組長や組長をはじめとした戦闘に長けた人達だ。

 ……でも東京都ほどの広さがあるという魔都を抑え、魔都災害に対処するには戦える人だけではダメなのだろう。

 

 

 

 

「醜鬼の出現や魔都災害の発生をいち早く見つけるために魔防隊にいる能力者の事です。千里眼とか聞き耳みたいな探しものが得意な人達だそうで……」

 

「……そーいう奴が居たとして、あたしらは見つけられなかったんだからこうなってんだろ?」

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

「は……?」

 

 

 

 

 ……それが人命救助に使われるとは限らないけど。

 

 

 

 

「……そもそも総組長だけ抱き込んでも、それを聞かされてない人が見つけて騒ぎにしてしまうなら意味が無いんですよ。だから『魔都と桃について解明する為だ』みたいにあらかじめ言っておいて何人かは陰陽寮に差し出し……、ぅえっ」

 

「ふっざけんな!そんな理由であんな目に遭わされたのかよ!」

 

「……落ち着きなさい、ココ。美しくないわ」

 

「でもよ!」

 

 

 

 

 ……頭がぐわんぐわんする……。

 力、強い……。

 

 

 

 

「もしそうだとしても総組長直属の奴らだけでしょう……。私達と戦った奴らに『知ってた』様子なのは居たかしら?」

 

「……………………いなかった、んじゃねえか?『総組長は対話の用意があるー』とか言ってたし」

 

 

 

 

 ……それは胸倉つかむ前に言ってほしかったなぁ……。

 その話が本当なら総組長は少なくとも(おおやけ)、及び一般隊員に対しては『知らない』って事にしてるみたいなんだし……。

 

 

 

 

「……悪かったな、アンタに当たっても意味ねぇのに」

 

「いえ、いいですよ。ココさんと波音さんから聞いた話で勝手に考えただけですし……」

 

「……つまり貴方は『総組長だけじゃなくもっと多くの魔防隊の奴が私達の事に絡んでるかもしれない』と言いたかった訳ね?」

 

 

 

 

 それで終われば良かったけど……。

 

 

 

 

「はい……、もしそうなら逃げ出した後も“泳がせて”経過を見るかな……って。もしかしたら二人が食べられた所まで見て観察を空折に()()()()()()()()()()()()()って」

 

「は?」

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでその場合は口封じで空折ごと私達も死ぬか……、……あるいは実験動物を取り戻す為にできる限りの戦力を注ぎ込んでるかな、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「るっはっはっはっ、バラ撒き成功だ」

 

 

 

 

 醜鬼の群れが横浜の街を蹂躙しようとする。

 まず一歩、巨大醜鬼が特撮映画の怪獣のように足元の事など一顧だにせずに踏み出そうとする、

 

 

 

 

 ──所で何かにつまづいたかのようによろめき、たたらを踏んで立て直すものの力が抜けたかのように動きが鈍くなる。

 

 瞬間、胴体を衝撃が貫き風穴を開けて倒れ伏す。

 

 

 

 

「──は?」

 

 

 

 

 余りのあっけなさ、唐突さに思わず呆けた空折。

 

 

 ──その隙を美羅が急襲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──強化されとると言うからどんなものかと思ったが、この程度か。あっけないの」

 

「総組長直々のとどめでは今一つ性能が分かりませんわね……」

 

 

 

 

 ……災厄は確かに現実となった。

 だがしかし現実は時に脆く、あっけない。

 

 

 

 

「『迅鞭阿修羅(ウルーミ)』……!」

 

「『怒れる羊(クレイジーシィープ)』っ!“五”!」

 

 

 

 

 それは決して『醜鬼の脅威度が低いから』では無い。

 横浜の街に現れた内のほぼ全てを占める“普通の”醜鬼ですら、二mを超える巨躯とその巨躯に見合った膂力を誇り、人間など虫のように叩き潰し恐慌と混乱を招いただろう。

 

 

 

 

「……‼︎海桐花(とべら)様!」

 

「……ああ、相当()()()と思ったのじゃがな……!」

 

『……!』

 

 

 

 

 巨大醜鬼などその巨体でただ歩くだけでもコンクリートの路盤を容易く踏み抜き、ガスや水道管・地下街や地下鉄を破壊しかねない。

 高層ビルや駅舎などの巨大建築物に手を出されればそれだけで大惨事だ。

 更に今この瞬間放とうとしているように口腔からは光線か、息吹(ブレス)か、破壊に使える何かを放出出来る。

 妨害が無ければこの一体だけでも横浜に瓦礫の山を積み上げられるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──屈服の時間だ!」

 

「ふっ!」

 

「オラァ!」

 

 

 

 

 ──だがそれは()()()()()()()()()だ。

 顔面を切り伏せ、抉り取り、殴りつける。

 既に()()()()()()()D().C().()()()()()()風穴が空き、()()()()()()()()()()()()()()巨大醜鬼は最期の足掻きも食い止められ地に伏した。

 

 

 

 

 ……災厄は確かに現実となった。

 だがこの世界にはその現実を人々に届かせまいと奮戦する『精兵』達が居る。

 魔都睨む精兵達──、──『魔防隊』の参陣である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぬるり、ずるっ、と粘液が美羅の急襲を遮る。

 

 

 

 

「……‼︎」

 

「そう何度も喰らうかよっ!」

 

 

 

 

 油断はもう無いと言わんばかりに体から展開した粘液で打撃を受け流した空折の逆撃(カウンター)に美羅が顔を強張らせる、

 ()()()()()()()()

 

 

 

 

「──『天御鳥命(アメノミトリ)』」

 

「ぐうっ⁈」

 

 

 

 

 ──そうして引き付けた所を背後から粘液ごと抉り取る。

 

 

 

 

「だぁッ!」

 

「がっ……!」

 

 

 

 

 すかさず傷口を更に抉るように貫手を突き込む。

 

 

 

 

「『緋色の連隊(オールキリング)』……!……天花(てんか)ァ!」

 

「うんっ!」

 

「このっ、……⁉︎」

 

 

 

 

 畳み掛けるように分身を生み出し、一体で羽交い締めにして本体ともう一体で()()()蹴る事で粘液で滑る事無く撃ち出す。

 上空に撃ち出した軌道上には既に待機する者が有り何かが身体に触れ──、──次の瞬間空折は視界いっぱいに迫る地面を目視した。

 

 

 

 

「……おし、と。京香はどうした?」

 

「優希くんの側に。まだ麻痺は解けないみたい。街は海桐花さん達と警察が対処してくれてる。終わり次第こちらに合流するって」

 

 

 

 

 地面に激突し土埃を上げる空折を尻目に美羅の本体と共に空中に開いた()から地表に降り立ったのは魔防隊六番組組長・出雲(いずも)天花(てんか)

 空間を操る桃の能力、『天御鳥命(アメノミトリ)』は移動に使えば瞬間転移、攻撃に使えば強度無視。

 『神の如き』とさえ称される横浜の地に降り立った特級戦力の一人である。

 

 

 

 

「そうか、……来んぞ」

 

「うん」

 

 

 

 

 必要な情報を素早く共有した二人の視界の先、立ち上がる土埃の中で影が動く。

 

 

 

 

「……空間操作能力か……。厄介だな……」

 

「……」

 

 

 

 

 美羅の分身は一定以上の損傷(ダメージ)を受ければ霞のように消えてしまう。

 先の衝突を耐え抜ける可能性が無い訳では無いが、美羅とは似ても似つかない輪郭(シルエット)と声からすれば土埃の中で動く影は空折以外ではあり得ない筈だ。

 

 

 

 

「……私は戦闘を禁じられてるんだ。『戦うような事があるなら醜鬼をばら撒いて逃げろ』、って」

 

「……」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 髪は逆立ち、額の角は長く鋭く、天を衝く。

 

 

 

 

「……だがお前を殺さないと逃げるに逃げられないな。……光栄に思いなよ、美しき神が手ずから殺してやる」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 『()()()()()()()()』。

 土埃を吹き散らして現れたその姿は紛れも無い臨戦態勢であり──、──突きつけられるその指先は殺意と害意を以って天花を照準していた。

 

 

 

 

「全力形態、って奴か……!(……だが()()()()()()()()())」

 

「けど、思い通りにはさせないよ?(……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 

 

 だが殺意と害意を向けられる天花も、その傍に居る美羅も恐れる様子は無い。

 ──それどころか内心では何かしらの思索を回している。

 

 

 

 

「「((()()()()()()()()()()()/()()……!))」」

 

「へぇ……!」

 

 

 

 

 ──そして結論に辿り着き、魔防隊としての任務を果たすべく力を込める。

 

 

 

 

「「お前はここで倒す……!」」

 

「お前達は、ここで殺してやる……!」

 

 

 

 

 全力の戦意が、天を衝き激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──ただこれは『魔防隊がちゃんと機能していて』『陰陽寮との連携も取れている』のが前提条件なんですよね……」

 

「お、おい……、まだなんかあんのかよ……?」

 

「ネガティブね、貴方……」

 

「はい……」

 

 

 

 

 ココさんは怯えているけど魔防隊と陰陽寮の癒着と非道、言うなれば『ブラック魔防隊説』は一つの可能性に過ぎない。

 ……『単純に間が悪くて見つけられなかった』のを除けば悪い可能性はまだある。

 

 

 

 

「それでもう一つあり得るかな、って思ったのが『単純に索敵係の能力が低くて見つけられなかった』って可能性でして……」

 

 

 

 

 ……当たっていたらブラック魔防隊とは別の意味で不味いからこっちも当たってほしくないけど。

 

 

 

 

「もちろん索敵係の能力だけで判断できるものではないですけど……、……魔防隊の力は一般に思われるものより低いのかもしれません」

 

「……あたしらが戦ったのは平隊員だったけどよー、魔防隊が弱かったらそいつらに負けるはずねぇだろ?」

 

「まぁ『平隊員の強さ、即ち索敵係の有能さ』とはならないのでしょうけれどね……」

 

 

 

 

 ……多少強化されてようと戦闘経験と訓練が少ない相手には負けないのならこの話は間違いでした、

 ……で終わらないのがこの話であって……。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……どうだろうな。あん時はごちゃごちゃしてたからなー……」

 

「……戦えてたなら私とココはここに居ない筈よ。あの時は手負いだったから魔防隊でも捕まえようと思えば捕まえられた筈だわ。……()()()()()()()()()()、ね」

 

 

 

 

 ……八雷神が魔都で桃を食べてしまった人達を引き込んでたらまた話は違ったと思うけど、話を聞く限り関係無く攻撃してきたらしい。

 だからその場に居た魔防隊六人──……一人は怪我していたらしいけど──と青羽さんココさん波音さんの三人、従えてた醜鬼二体を合わせて数の上では勝ってたはず。

 なのに現実として二人は空折に食べられ……、……なんでか分かんないけど今この場所にいる。

 

 

 

 

「……つまり貴方はこう言いたい訳ね?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

「はい……。なので自分自身でもここから脱出して、空折の身体から解放される為にやれる事はやっておきたいな、って」

 

 

 

 

 ……ずいぶん遠回りになってしまったけど、これが本題だ。

 

 

 

 

「それで脱出のためにお二人にも力を貸してもらえるとありがたいんですけど……、……いかがでしょうか?」

 

 

 

 

 ……断られたらどうしよう。

 

 

 

 

「…………。……え、もしかしてここまでの話全部前振りか?」

 

「そうなりますね……」

 

 

 

 

 ココさんはポカン、とした顔をしている。

 

 

 

 

「回りくどすぎじゃねぇ……?」

 

「自分でもそう思います……」

 

「…………、……美しくなかったわね」

 

「ハイその通りデス……」

 

 

 

 

 

 返す言葉も無いくらいに縮こま……、

 ……ろうとした所を頬を掴まれぐっ、と顔を上げられる。

 

 

 

 

「顔を上げなさい。貴方を責めている訳ではないわ……、……美しくなかったのは私達の方」

 

「はぅえ……?」

 

「…………、……え……?…………波音……?」

 

 

 

 

 ……波音さんの根底にあると思っていた『自分を美しいものとする大前提』を覆すかのような発言に驚かされる。

 ……ココさんはもっと驚いてるけど。

 

 

 

 

「…………本物、だよな……?」

 

()()()()()()()()()()()()()()少し態度が刺々しかったかもしれないわ。……いえ、そもそも()()なって以来何も関わりが無い人と話すのは久しぶりだったから必要以上に怯えさせたかもしれない。申し訳ないわ」

 

「は、はあ……」

 

 

 

 

 そ、そうだった……、……のかな?

 信じられる人がいないなら警戒するのは当然な気もするし、久しぶりに他人と話すなら距離感掴めないのは当たり前じゃないかと思うけど……

 

 

 

 

「……貴方に回りくどい切り出し方をさせた一因になったかもしれないし、そうでなくても刺々しいのも怯えさせるのも美しくない態度。反省が必要ね……」

 

「……反省とかするんだな、波音……」

 

 

 

 

 ココさんの言にはここに来てからの付き合いしかない私でも頷きまくるしかない。

 ……内心で。

 

 

 

 

「何を言っているの……?美しくない事を反省しないのはもっと美しくないでしょう?」

 

「「あー、なるほど……」」

 

 

 

 

 でも波音さんの回答にはもっと納得するしかなかった。

 思わずココさんとシンクロしてしまうほどに。

 

 

 

 

「「あ」」

 

「……それに、美しくない神の腹の中なんて私にとっても不本意よ。抜け出すのなら協力した方が美しいわ。貴方も人任せにする気は無いのでしょう?」

 

「それはもちろんですけど……?」

 

 

 

 

 ……!

 という事はつまり……!

 

 

 

 

「なら協力に否やは無いわ……、よろしくね?」

 

「……あたしもできる事なら力貸してやるよ。アンタはネガティブだけど悪い奴じゃなさそうだしな」

 

「わぁ……!ありがとうございますっ!」

 

 

 

 

 やったっ!

 

 

 

 

「(……かわいいな)」

 

「(……可愛らしいわね)……それで早速聞きたい事があるのだけど」

 

「はいっ、なんでしょう?」

 

 

 

 

 っと、自分の力で協力関係を結べたからってちょっとはしゃぎすぎかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 しかしそんな自分の成果にはしゃいでいた私は波音さんの次の言葉に固まる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えーと、さっきも言った通り私の能力は記憶力の強化と言われていまして……」

 

「……()()()()、って事は心当たりはあるけど確信は出来てない。そんな所かしら?」

 

「……ハイ……」

 

 

 

 

 ……図星だ……。

 ……ポーカーフェイスができないのはこの状況に弱ってるからかな……。

 

 

 

 

「……私はこの場所を貴方の能力の産物だと思っていたのよ。能力を使ってこの場所に閉じ込める魔防隊か陰陽寮の人間じゃないか、ってね……」

 

「……えぇ……、……誤解ですよ完全に……」

 

 

 

 

 ……私そんな風に思われてたんだ……。

 ……確かに第一声で『魔防隊……?それとも陰陽寮?』みたいに言ってたけど……。

 

 

 

 

「……まあアンタは悪い奴じゃなさそうだし、魔防隊や陰陽寮の事も直接は知らないみたいだから違ったみたいだけどな」

 

「聞いた事が無い訳じゃないですけど、普通の勤め人ですよ……。それはともかく私はこの場所は空折の力かな、って。あの触手私が食べられた時に見たのとそっくりで」

 

「……なぁ、今アンタが指したら木が動いたぞ」

 

「えっ?……えっ?」

 

 

 

 

 ……ココさんの言葉でよく見てみると確かに木が()()()()その向こうの一面の触手が見えやすくなっていた。

 

 

 

 

「……えっ」

 

「……此処がその美しくない神の能力だとしてそいつが此処に現れもせず、私達に何もしない理由が無いと思うわ」

 

「……ていうかアンタの能力が空折に取り込まれてるからあんな触手まみれになってんじゃねーの?」

 

「…………」

 

 

 

 

 ……言われてみれば、そっちの方がしっくり来る気がする。

 ……それに私はここを『秩父の風景に似てる』って例えたけど、この景色が私から作られてるなら私の記憶とかを読めば秩父に似た光景も作り上げられるはずだ。

 ……そうなった理由は分からないけど……。

 

 ……そうだ、()()()()()

 人として当たり前の事だし直前に曲がりなりにも服を着てた空折の身体を動かしてたから忘れかけてたけど、()()()()()()()()()()()()()()()()空折に食べられた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ココさんも波音さんもそれは同じだ。

 ……あの神がわざわざ私達に服を用意するなんて思えないし、私が無意識に『服は着ていて当たり前』って思ってたならここで服を着ている事にも説明はつく。

 

 

 

 

「……じゃあ、これが、私の能力……?」

 

 

 

 

 ……思考を回せてはいても半ば呆然としながら腰元の岩に触れた、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間私の意識は猛烈な勢いで彼方へと飛ばされて行く。

 

 

 

 

「────⁉︎」

 

 

 

 

 触手の大海、赤き人の輪郭、肉の回廊が一瞬で流れ去ってゆき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──オオラァッ!」

 

「⁉︎」

 

 

 

 

 ──鬼気迫る誰かの拳を喰らい、全てに星が走った。

 痛い、痛いなんてものじゃない、重い、暗い、見えない……。

 

 

 ──私の意識は再び沈んでゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……どうしてこうなったかはまた次話。


冬美(ふゆみ)
…名前だけ明らかになった本作の主人公。
 裸族ではない。
 醸し出す素の雰囲気はかわいい系なイメージ。上手くできてるかどうか。
 ネガティブに色々想像する。その想像が正確かは分からないが情報が足りないし偏ってるのでまぁ仕方ない……、よね?
 名前は意図ある名付け。
 それに関連して少し発言を変更(2024.7/8.追記)
・『???』
…冬美の桃の能力。
 秩父に似た風景をした謎の空間を発生させ、空折に取り込まれていたココと波音を引っ張り込んでいる。
 中の物は冬美の意思で動かせる模様。前回最後のあたりで触手を見た時も実は岩や木が動いて『高くなった』けど動きが緩やかだったのとココと波音に気を割いていたのもあって気付いていなかった。

:銭函ココ
…同じ腹のよしみの先住人その1。
 ……気を付けないと元のキャラからかけ離れてしまう気がする人。
 ヌルヌルはアニメ化で名前が付いたものの今回は出番無し。
 
:湯野波音
…同じ腹のよしみの先住人その2。
 ……正直こんな自分の事を美しくないと感じたら目を逸らさず改める性格なのかは分からない。
 けど本作ではそうした。(モデル有り)
 おおまかには分かっても細かいパーソナリティを図りかねると言うのはよくある事。
 主人公サイドは会話メインなので能力の出番は無し。

:空折
…全力形態を発動。
 原作では醜鬼をばら撒いた時点で逃げようとしていたが、本作では空間転移も出来る敵が出て来たので無力化しなければ逃げるのは難しいと判断し交戦する方針。
 ちなみに波音に『美しくない神』と言われてるがココと波音を呑み込んだ時は卵の化け物みたいな姿で本当に美しくない。

:上運天美羅
…分身を出したアジト突入から時間も経ち、ある程度体力も戻ったので本作では“分身である事”を用いたゴリ押しも戦いに使っている。
 ……作者は最高に格好いい美羅さんを書けるか不安。

:出雲天花
…『天御鳥命(アメノミトリ)』がやばいくらいに便利な六番組組長。
 今回は『美羅の分身・京香と共に巨大醜鬼攻撃→『天御鳥命』で優希の元まで移動→『天御鳥命』で美羅vs空折に加勢』といった感じに動いてる。
 ヒロイン力的にはアニメ最終話で侵入して来た時くらいが一番可愛いし魅力的だと思う。

:和倉優希・羽前京香
…優希の麻痺が取れてないので今回の出番は京香さんのみ。
 ……原作で打刀サイズの日本刀(ポン刀)であんな深々と顔面斬った京香さんはヤバいと思うの。(事実確認)

:魔防隊
…主人公に色々疑われてる組織。頑張ってます。
 現在上運天美羅と出雲天花の二名が空折と交戦し、羽前京香は和倉優希の傍に、他四名が横浜市街で醜鬼を殲滅しつつ警察と連携して混乱を収めている。
 (……正直追加で誰を出すかで①市街戦でコラテラルダメージを出さなさそうな人②かつ既に三人が抜けてるから組長は抜きとする③一つの組から出来るだけ偏らないように、みたいな条件を考えた時『あれ?思ったより分かってる隊員が少ない……?』みたいになって思ったより選択肢が無かった……)

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