その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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※注意!※
 原作でどんなものか、そもそも『もの』として有るのかも明言されていないものを取り扱います!
 本作品に於ける『オリジナル設定』の最たるものが姿を現します。
 あと前話までより遥かに長文です。
 ご注意下さい。


『目覚メ』大山の──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、冬美さん。……もうちょっと頑張れば成績も良くなるわよ?』

 

『は、はぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は私の欲しいものをくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もっと自信たっぷりに!そんなんじゃ観客に届かないよ!』

 

『は、はい』

 

 

 

 

 ……いや、()()()()()()()()()()()()

 私が欲しいものを私は持っていなかったし、手に入れる事もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふゆ)ってさー、色々読んでるけど楽しーのー?』

 

『楽しくは、無いよ?いっぱい読んだり聞いたら少しは自信になるかな、って思ったけどそうはならなかったし。だからこれはただの勉強だよ』

 

『あー、記憶りょ『『(よし)‼︎』』……ごめん(ふゆ)、失言しかけた』

 

『いいよ、元から疑う所はあったから。……そんな奴に力をくれるものじゃなかった、って事だよ』

 

『だ、大丈夫だよ(ふゆ)ちゃんなら()()!』

 

 

 

 

 ……桃を食べる頃には手に入れる事なんてもうほとんど諦めていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は此処(俺の会社)で何がしたい?お仕着せは良い、正直に言ってみろ』

 

『つつがなく生きる人生に、少しでも彩りを手に入れたいです』

 

『少し、か。お前にとってウチはそんなもんか?』

 

『……望み過ぎだったでしょうか?』

 

『ふん……、……。……お前に一つ教えといてやる、『()()()()()()()()()』だ』

 

『(……ああ、不採用なんだろうな……)』

 

 

 

 

 だからもう手に入らないものとして残りの人生を歩んでいく。

 長く、長く。

 ……今までの人生よりも長く。

 

 

 

 

 そのつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……でも、諦めなくて、いいのかなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……諦めなくて、いいのかなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おい!しっかりしろ!」

 

「目を覚ましなさい……!」

 

 

 

 

 ……ずいぶん焦った声が聞こえる。

 

 

 

 

「アンタがふっ飛んだら触手が動き出した!あたしら飲み込まれそうなんだよ⁉︎」

 

「貴方は此処の要だったのよ、意識を……!」

 

 

 

 

 ……()()()()()()()、大丈夫なのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いやダメだ、二人がいなくなったら()()()()()()()

 だからまずは引き離さないと……!

 

 

 

 

「……っ!」

 

「うおっ⁉︎」

 

 

 

 イメージするのは横浜の高層ビル。

 とにかく高く、高くへ……!

 

 

 

 

「ふぅ、っ……!もうちょっと待ってください……!」

 

 

 

 

 突き抜けた足場で触手の海を抜けたら、()()()()()()()()()()

 手を広げて塞ぎ止めるように木々を広げる。

 ()()()()()()()()()()花開くように何重にも重ねるとその合間から自然に岩棚が迫り出し川が刻まれる。

 ……私の中で秩父・長瀞の風景は思ったより大きいものだったらしい。

 ……()()()()()()()()って所だろうか。

 

 

 

 

「これで、一応は大丈夫……。……ご心配かけました」

 

 

 

 

 ともあれ高さのある足場と広げた私で触手からの距離は取れたので一安心だ。

 もし次があってもさっきよりは時間を稼げるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや……、()()()()()()()()

 

「え……?」

 

 

 

 

 ……?

 泣いてる?

 何か気持ちいいな、と思ってたけど泣いてる?

 

 

 

 

「笑い泣きよ?貴方」

 

「笑い泣き?」

 

 

 

 

 笑ってる?

 暖かいな、って思ってたけど笑ってる?

 

 

 

 

「あ、ホントだ……」

 

 

 

 

 コンパクトを取り出すと、確かにそんな()が映ってた。

 

 

 

 

「そっか、私……」

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 ()()()()()()()

 

 膝をつき、手をつけばそれが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい?大丈夫かよ?」

 

「大丈夫よ、ココ。しばらく待ちましょう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベタベタと触りながら泣き喚く。

 

 

 

 

 なぜだろう、こんなに嬉しい事はない。

 

 

 

 

 こんなに嬉しい事はない。

 

 

 

 

 一生分の涙で泣き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お待たせしました、座布団いりますか?」

 

「私はいいわ、この風景に合わせるには美しくないもの」

 

「……今、()()()()()()()()()()()?やっぱりここはアンタの能力で作ってたのか?」

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()……。

 

 

 

 

「いえ、副次効果……、というか応用というか……、……よく考えたら()()()()()()()()()()()()()()()()()。あ、お茶いります?()()()()()()()()

 

「……ウッキウキだな、アンタ」

 

「紅茶は出せるかしら……?」

 

「頼むのかよ、波音……」

 

「紅茶ですねー、あまり詳しくないんですけど……」

 

 

 

 

 …………。

 

 

 ……、ってこうしちゃいられないんだった……!

 

 

 

 

「すいません波音さん、ちょっと集中したいので自分で淹れてください!」

 

「熱っつ!痛って!」

 

「……?何があったのよ……?」

 

 

 

 

 適当に放り出した道具がココさんに直撃したらしいけど謝るのは後回し、()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

「……ああー……、()()()()()()()()……」

 

「「?」」

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()

 ……いや、

 ……()()()

 まだ終わっちゃいない、けど……

 

 

 

 

「…………」

 

「……どーしたんだよ、こっち見て」

 

「……うーん、…………、確認なんですけどココさんと波音さんはその身体を治して社会復帰するつもりって事で合ってますよね?」

 

「……できるか分かんねーけどよ」

 

 

 

 

 あっ……。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人が歩む社会なんて様々なのに……。

 ……またやっちゃった……、……いや消極的だけど望みは持っている、っぽいからまだ大丈夫、としとく。

 ……後で謝ろう。()()()()()()()()

 

 

 

 

「……それで何をするつもりなのかしら?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。……いえ、私が話を聞きたいってのもあるんですけど、私の考えが正しければお二人の、魔都で桃を食べてしまった人の力になってくれる人なんじゃないかなと思ったので」

 

 

 

 

 間違いなく。

 ……なんて言えないけど。

 

 

 

 

「……もしかしてそいつも空折に食われたのか?」

 

「はい。お二人が嫌なら止めますし、会ってみて無理だなって思ったら私が引き離しますけど、どうしますか……?」

 

「……………………。貴方、優しいのね」

 

「……………………よく言われました……。『冬美ちゃんは優しいからきっと大丈夫だよ』とか『冬美さんには優しさがあるって!』とか」

 

 

 

 

 ……はっ、トラウマが……。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…………私達だって最初から暴力に訴えようとした訳じゃないわ。一度は世間に私達の身に起きた事を伝えようと試みたのよ」

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()()?陰陽寮に」

 

「ええ、そうよ……。……(クナド)が現れるのを待ち続けて、何処ともしれない山の中からどうにか街に出て、ようやくの思いで伝手を辿って……。……そんな足掻きを陰陽寮(あいつら)は踏み躙った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…………貴方は私達を信じる必要なんて無いのに、化け物と遠ざけたって良いのに、ただ話し考えてくれた。()()()()()()()()()()()()()

 

「……波音」

 

 

 

 

 ……魔防隊の総組長がココさん波音さん達の事を知っていても知らなくても許せそうにない。

 知っていたなら同じ人間が踏みにじられる事をよしとしていた外道になる。

 知らなかったら組織のトップでありながら魔防隊のお膝元(魔都)で好き勝手されてたのに気付かなかった度し難い無能になる。

 ……陰陽寮がそれだけ巧み、いや狡猾なのかもしれないけど。

 

 

 ……いけない、直接会った事も無い人に対して実際にどう動いてたのかもよく知らないのに怒ってる。

 二人の話が本当でも総組長周りは推測でしかない、できるだけ冷静に……

 

 

 

 

「……恨むのは陰陽寮だけにしときましょう。単純な力より政治とか策謀に長けている組織みたいですし。とりあえずはそいつらブッ潰せるように集中しましょう」

 

「……私達に会わせたい人、というのは口先だけの連中とは違うという訳ね?」

 

「そうだったら私が潰します」

 

「分かったわ、なら会うだけは会ってみましょう」

 

「……あたしも頼むよ、みんなの事は他人事じゃねぇ」

 

「分かりました、では」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()、小ぶりな岩をせり上がらせる。

 イメージはエレベーターだ。

 ガチン、と止めて岩肌を開いて()()()に招く。

 

 

 

 

「……そうじゃないかとは思っていたけれど」

 

「おい、おい……」

 

 

 

 

 現れたのは頭に制帽、胸にサラシを巻いた若い女の人。

 上着の前をはだけた姿といい、履いたズボンとブーツの荒っぽさといい、金髪と美しくも獰猛そうな顔つきも相まってとっても『不良』みたいな人だ。

 ……でもその服装の『黒地に赤の縁取り、金の装飾』という特徴はその人が不良などではない事を示し、()()()()()()()()()()()()()()()()()を日本中、いやひょっとしたら世界中に誇示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

^

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──……ただこれだと一番(イッチャン)最悪なパターンになってんかもしんねーナ』

 

『……ああ、そうだな』

 

『……?一番最悪なパターンってなんですか?』

 

 

 

 

 とある会議室で囁かれた懸念が有る。

 

 

 

 

『──八千穂(やちほ)、後は任せるよ。本部からの増援もあるし、夜雲のカバーもある。意地を張って状況を見誤らないでね?』

 

(おう)、任された!……武運を、組長』

 

『ありがとう?行くよ、サハラ』

 

『待ってください組ちょ〜、急ぎなのは分かりますけど〜』

 

『……そうだよ、これは可能な限り急がなくちゃいけない』

 

 

 

 

 魔都からの出陣を急がせた焦りが有る。

 

 

 

 

『援軍手配、及び関係諸省庁への要請完了しました。……しかしなんというか、(れん)サマらしくない取り掛かり方ですね?ウチ(魔防隊)の管轄に入った事態に自衛隊や海保にまで取り急ぎで声を掛けるなんて……』

 

『……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、情報が(まこと)だった場合の優位性と釣り合うか怪しいくらいにね。……天花達へ追加で伝言を頼むわ、『件の神(空折)には私を相手にすると思って物的被害は無視してかかりなさい』と。』

 

『……えっ?』

 

『まぁ(組長達)なら解っているでしょうけどね。私も暫く会議は中座させて貰うわ』

 

『……ええ〜っ⁉︎』

 

 

 

 

 『地球の答え』とすら評された猛者に決断をさせた想定が有る。

 

 

 

 

 『日本に荒涼とした異世界と繋がる門が現れて、人を襲う鬼がやって来る』などという数十年以上前であれば荒唐無稽と言われ想定出来そうに無い事ですらこの世界(女尊男卑の世界)では現実となった。

 ならば人の想像が叶う事はどれだけ現実となりやすいのか──

 ──その答えはまだ出ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおお‼︎」

 

 

 

 

 裂帛怒涛。

 一人が二人、二人が三人、三人から十人、砕かれて尚五人。

 波濤の如く猛りのままに攻め寄せる。

 

 

 

 

「はああぁっ‼︎」

 

 

 

 

 縦横無尽。

 前から後、陸から空、遠くにて引き裂き近きではその手を振るう。

 天征く鳥の如く鋭く、目敏く、襲い掛かる。

 

 

 

 

「はははははははははっ!」

 

「……っ!」

 

 

 

 

 ──その全てが対応されている。

 剛腕が振るわれ、粉砕される地面に巻き込まれ何体もの分身が消失する。

 だがその大振りの隙を突いて残った分身の蹴りが入る。

 

 

 

 

「んー、悪くはないな?」

 

「……クソッ!」

 

 

 

 

 ……が、立てて構えた前腕によってしっかり防がれている。

 だが空間が歪み、分身ごとその脇腹が捻じ切られるように抉り飛ばされた。

 

 

 

 

()()()()()()?』

 

「(あれだけ抉っても平然としている、か……!)」

 

 

 

 

 ……しかし瞬く間に元の形に復元される。

 今の自分ならば真っ二つにならない程度であれば瞬く間に回復出来ると気付いてからは、多少千切られる程度は構わなくなっている。

 ……それでものんびり断裂の中心に身を置く事はせず、近寄れば素早く身を躱す為に『天御鳥命(アメノミトリ)』で他人と転移する条件である『相手に触れている』事も出来ていない。

 

 

 

 

「(……機動力も段違いだね)」

 

「(不味(マジ)ぃな、コレは……)」

 

 

 

 

 ……上運天美羅と出雲天花、魔防隊の組長二人が神との交戦を始めてから幾許かの時間が過ぎた。

 この二人と並の醜鬼が戦ったならば例え醜鬼の側が百体居ようと全滅させられるだけの時間だ。

 以前の戦闘で言えば大体同じ時間で天花は雷煉(らいれん)と名乗った八雷神を断裂に巻き込む所まで追い詰めている。

 

 

 

 

「──どんなもんかと思ってたけどなかなか粘るじゃんお前ら!」

 

 

 

 

 ──しかしヘリポートの()()()一帯を砲爆撃を受けた戦場跡のような有様に変えて尚、未だに眼前の神、──八雷神の全力形態を顕にした空折を仕留められていない。

 

 

 

 

「(──うん、凄いのは認めざるを得ない。紫黒姉の言った通り人間を甘く見るのは危ないね……)」

 

 

 

 

 ──だが一方で神の側も人間側の特級戦力、──魔防隊組長との戦闘を切り上げられず、狭い海岸に閉じ込められている。

 

 

 空折の全力形態は眼前の二人を概ね上回っている。

 身体能力では強化された美羅を上回り、機動力は転移を駆使する天花に迫る程だ。

 更に二人のどちらにも無い損傷の再生能力や打撃を防ぐ粘液、地面や壁面に身を隠せる潜行能力に自在な飛行能力、更には出の早く弾数の多い羽根の弾丸という飛び道具も有る。

 戦うにあたって不足は無いが──、──逃げようとすれば話は別だ。

 

 

 

 

「(あいつらとの戦いで不利になる事は無いけど、あいつらを仕留めようとしたり逃げようとすると難しくなる……。……どうするかな)」

 

「(……仮に道連れ覚悟で転移しても空中や海中じゃ動きを制限できないし、地中だと向こうだけが物に潜る能力で逃げておしまいだ)」

 

「(このままボンヤリ()り続けても意味ネーな……。()()()()()()()がいつ来てもおかしくねぇってのによ……!)」

 

 

 

 

 現状、美羅と天花は空折まであと一歩届かない。

 特に大きな問題は空折の体表()()に滴る粘液。

 美羅、天花共に武器無しの徒手で戦闘を行う為、打撃を滑らせる粘液が殊の外高い壁になってしまっている。

 特に美羅は粘液を貫く為に単調になっている戦法も相まって『強化された身体能力×『緋色の連隊(オールキリング)』の頭数』という絶大な強みをほぼ殺されている形だ。

 

 このまま無為に時間を過ごせば()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それまでにどうやって仕留めるか──。

 

 

 一方、空折は美羅と天花をあと一歩引き離せない。

 仕留めようとすれば目の前から逃げられ、逃げようとすれば追い縋られる。

 身体能力による機動にしろ飛行にしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一度は潜行で逃げようとしたものの潜った地面を大規模な空間断裂でミキサーのように掻き回され、反撃もままならずに慌てて飛び出す羽目になった。

 そうして事前の見立て通り空間操作が大いに邪魔になっている天花を集中して倒そうとすれば今度は美羅が邪魔になる。

 割り込み、押さえ付け、遮り、勿論攻撃も加え()()()()()で空折の妨害にかかって来る。

 そこで美羅に集中しようとすれば天花が逃し──、──と堂々巡りの末が今ここに有る現状だ。

 

 直に横浜の街にバラ撒いた醜鬼を一掃し、他の魔防隊も参戦する。

 そうなれば均衡は崩れ、優勢に見えた空折が不利になる。

 それまでにどうするのか──

 

 

 

 

「(……遠慮すんじゃねーぞ天花!)」

 

「(任せたよ、美羅!)」

 

 

 

 

 ──素早く現状を認識し、()()()()()()()()()()()()二人は視線を交わす。

 魔都で組長を張る戦友同士、意志疎通はそれで事足りた。

 

 

 

 

「(──……うん、()()()()()())」

 

 

 

 

 ──神もまた、現状を認識する。

 ちらり、と視線を下ろした先、前掛けの下にある腹をさすり優しく叩く。

 己を知るには、それで事足りた。

 

 

 

 

「──でも見る目は無いよなー。こーんな最高の奴が居たのに、」

 

 

 

 

 視線が合うと同時に羽織がぞわぞわ蠢き、広がり、重なって歪な囲いを作り出す。

 ──その縁、外周を飾るのは何百何千という羽根の集合体、()

 

 

 

 

「‼︎」

 

「──っ!」

 

「──見逃しちゃうなんてさ!」

 

 

 

 

 逆さの()()が戦闘再開の火蓋を切った。

 

 

 ──次の瞬間には間断無き轟音と共に一帯に面するビルの外壁全てが爆ぜ、砕け散る。

 ガラスも、コンクリートも、鉄筋さえも群がって食い破られ、粉々になって崩落する。

 

 

 

 

「──強烈だな、オイ!」

 

「──でも動かないなら好都合だ、()()()()()()

 

 

 

 

 ──その恐るべき調べを組長二人はビル一つ隔て、その陰から耳にしていた。

 『天御鳥命(アメノミトリ)』による転移が間に合わなければ間違いなく血煙と化していた弾幕も、当たらなければ意味が無い。

 戦場が決まった時点で周囲一帯の人々の避難は完了させたので犠牲者の心配も無い。

 ……とは言え遮蔽物にしているビルがじわじわと削られている以上、受け身で居続ける時間も無い。

 射撃の為に神が足を止めているのを幸いとし、上げた両手を前に合わせた天花は大規模断裂を発生させる構えに入る。

 

 

 

 

「……ただ、」

 

「ああ、アレ(空間断裂)見てんのに()()()()()()()()、だな。周りは任しとけ」

 

「助かるよ」

 

 

 

 

 ……しかし『既に大規模な断裂は見ている筈の空折が足を止めた』という腑に落ちない事実に対し、天花は美羅に周囲の警戒を任せた。

 今まで空間断裂はしっかり避け、最低でもその中心からは逃れていたのが空折であった筈。

 ──羽根を操って来る気か?と、美羅は細かいものも見逃さないように索敵を怠らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──危ねェ!」

 

「──⁉︎」

 

 

 

 

 ──それ故に気付く事が出来た。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 天花に飛び付くようにしてその軌道から逃れる。

 

 

 

 

「あれは、()……?」

 

 

 

 

 羽音が止む中、不気味な程静かにビルを縦断して行くそれは、まるで鯨のように巨大ではあるが確かに()であった。

 その肌の色に底の厚い履き物は二人にも見覚えのあるものであり──、

 

 

 

 

「ああ、そこか」

 

 

 

 

 ──その持ち主(空折)が今、ビルの上空に飛び上がった。

 そして、今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──【巨万神罰(きょまんしんばつ)】。ほら、どーん」

 

「この、っ!」

 

「く、っ!」

 

 

 

 

 それは傲慢の塔(バベル)の逸話を反転させる様でもあり。

 堕とされた膨大な質量が特大の轟音を低く、強く、鳴り渡らせ、一面の路盤を粉砕し、高く土砂を巻き上げる。

 

 

 

 

 

「──ほらほらっ!」

 

 

 

 

 今度は双腕が共に膨張──、──否、部位(パーツ)の比率は変わらず()()()し振り回される。

 その進路を遮るビルは哀れ、玩具のように叩き折られ、砕き落とされる。

 神が如何なるものかを示すかのような圧倒的な破壊。

 

 

 

 

「(──遅ェ!)」

 

「(──隙だらけだ!)」

 

 

 

 

 ──それすらも魔防隊組長の前では物足りない。

 分身を活用するまでも無くその進路から逃れ、転移した空中から反撃を喰らわせる。

 

 

 

 

「(極端に硬くなってる、という事も無いみたいだ。このまま──)」

 

 

 

 

 小規模な断裂の通り具合からその強度をも見抜き、

 

 

 

 

「……‼︎が、っ」

 

 

 

 

 ……一枚の羽根がその身を掠った。

 ──『空折の腕以外が()()()()()()()()()()動いていない』と気付き鳴らした警鐘が行動に移るよりも早く。

 

 天花の動きが致命的に止まるにはそれで事足りた。

 

 

 

 

 

「……よし、っと」

 

「──させるかァ‼︎」

 

 

 

 

 無視出来ない大きさの腕での攻撃を囮にして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()空折が元に戻した腕を指揮者の如く振るえば、主が動いた事でビルに突き立って沈黙していた無数の羽根が浮き上がる。

 腕以外が動いていない事に天花と同時に気付き、分断されていた美羅がその羽先が一点を指し示す前に飛び込んだ。

 

 

 

 

「『緋色の連隊(オールキリング)』ッ、!」

 

 

 

 

 刹那、展開された軍勢が殺到する暴()に立ち塞がる。

 

 ──だがしかし殺到する羽根を前に、一定のダメージで消えてしまう分身では瞬間の盾にすらなれはしない。

 その手足を振るえる限り振るったとて僅かな時間を追加するのがせいぜいだ。

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 ──天花が動かぬ身体で能力を振り絞り、空間を超えて包囲の外へ逃れられなければ無事では済まなかっただろう。

 

 

 

 

「──視線でバレバレだよ!」

 

「ごあ、っ……!」

 

「かは、っ」

 

 

 

 

 ──例えそれが確実な死の内から確実な重傷の前に逃れるだけの事だとしても。

 視線から動きを読まれた二人は大質量の脚に蹴り上げられ、血反吐を吐く。

 美羅はずり落ち、天花は跳ね上げられる。

 

 

 

 

「──合流する前に殺せばいいのさ!」

 

「(……ヤベェ……!)『緋色の、連隊(オールキリング)』ッ……、!」

 

 

 

 

 『このまま戦っていては敵に合流され、不利になります。どうしますか?』

 そんな問いに至極単純な答えを出した空折は脚を基準にして大きさを戻す事で急接近、構えた腕を巨大化させてゆく。

 麻痺が取れ切ってない天花に喰らわせる訳にはいかねェ、と激痛と喪失感の中、絞り出した分身に己を蹴り出させた美羅は砲弾のようにその後を追う。

 

 

 

 

「──残念」

 

「がぼっ……⁈」

 

 

 

 

 が、粘液に突っ込まされる。

 ゴポリ、と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ほらっ‼︎」

 

「……ぁあっ!」

 

「──ゲホッ、天花ァ‼︎」

 

 

 

 

 その結果が無慈悲に突き刺さる。

 痛撃に瞬間移動が間に合わなかった天花が殴り飛ばされる。

 拳の先、幾つものビルを突き破って行く(さま)に美羅の叫びが上がった。

 

 

 

 

「お前もだよっ!」

 

「……ナメんなっ!」

 

 

 

 

 次いで粘液の塊で減速し、落ちるばかりの美羅へと巨腕が振り落とされる。 

 しかしこれはタイミングを見計らって逆に足場として蹴り出す事で回避された。

 

 高く、大きく弧を描き、着地した先は開始地点のヘリポート跡。

 空折も逃さずに着地する。

 戦場を振り出しに戻し、戦況の更なる悪化は防がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あれ、あいつ傷が治ってる。……そっかヌルヌル(コレ)回復効果があるんだ。いっぱい出せるから試してみたけど闇雲に使うと向こう有利になるだけだな)」

 

「(アイツが回復効果知ってたらあんな使い方はしなかっただろうな……。アイツの無関心に助けられたな……)」

 

 

 

 

 本来であれば美羅も痛打によって、戦闘に支障を来す程の傷を負っていただろう。

 だが粘液の治癒効果が傷を回復させ、戦闘を続けた事による体力の消耗だけで済ませていた。

 

 

 

 

「(手も足もでっかくした後は素早く動かせないなー……。腕か足のどれかを一度に二本までしかでっかくできないし……、……まだ(わたし)自身があいつに釣り合ってないからかな?羽根当てるのも集中しないとダメだしなー……)」

 

「(……()()()()()()()()()()()()。粘液と潜行、そんで体に羽織と()()()膨らませられんならソイツは『記憶力の強化』なんかじゃねぇ。多分──)」

 

 

 

 

 ……しかしそれだけだ。

 空折が己の手札の詳しい性能──穴とも成り兼ねない粘液の治癒効果──を把握し、新しく試した戦法の欠点もまた理解した。

 それに対し、美羅は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()二人がかりで押し切れなかった相手の前に独り残された。

 

 

 

 

「──これがあいつの力さ。さて、これでお前一人。実力の差が分からない訳じゃないよな?」

 

「……」

 

「もう勝ち目は無いんだし逃げた方がいいんじゃないか?(ま、逃げても殺すけど)」

 

 

 

 

 ──幾らかの穴はあるがそれでも戦力差は歴然だと、そう見て取った空折は眼前の敵手を煽るように嘲り笑う。

 佇む美羅の首筋に微かな風が吹く。

 僅かに俯くその顔は制帽と相まって表情を解りづらくしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ、バァーカ」

 

「……⁉︎」

 

 

 

 

 だが顕になったその貌は獰猛に口角が上げられていた。

 さながら眼前の神の嘲笑を更に嘲笑うかの如く。

 

 

 

 

「組長張ってここに居て、街でも頑張ってる奴らが居る。なら最後まで戦いきんのが俺の役目だろーがよ」

 

「……」

 

 

 

 

 其処には確かな気迫と強き矜持が有った。

 

 

 

 

「第一今お前の前に立ってんのは俺だけだ。(ニガ)しちゃならねェ奴がいんのに退く訳ねぇだろ?」

 

「…………」

 

 

 

 

 掌を拳に、戦闘態勢を整え直す。

 

 

 

 

「それによぉ、……()()()()獲りもしねェなんて()()()()()()()()⁉︎」

 

「……ハハッ、ほざいたな!」

 

 

 

 

 口に出されるのは明確にして明白な挑発、或いは宣戦布告だった。

 無視出来ない言葉故に叩き潰すべく空折も真っ向から迎え撃つ。

 

 

 

 

「『緋色の連隊(オールキリング)』ッ‼︎」

 

「(また分身!……だけどきっとこいつには(わたし)を倒す算段があるっ!)」

 

 

 

 

 数体の分身を繰り出しての突撃はここまでに何度も見たものだ。

 だが先程の宣言に感じるものが有った空折は油断無く粉砕しようと巨大化した腕を振るう。

 

 

 

 

「ハッ、」

 

「な、に……⁉︎」

 

 

 

 

 ──だが飛び越えて躱し、受け流される。

 驚愕し、防御に戻した腕も間に合わず視界一杯に分身が迫り、

 

 

 

 

「──オラァ!」

 

「ぐぶっ!」

 

 

 

 

 ──()()()()()()()

 

 

 

 

「(こいつ……!()()()()()()()()()()()()!)」

 

「らァ!」

 

「がはっ‼︎」

 

 

 

 

 美羅がやっている事の要領は全力形態になる前の空折を地面に叩き付けた時と変わらない。 

 即ち『粘液など出さない自らの分身を叩く事で滑らせずに衝撃を伝える』。

 ──ただし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殴り、蹴り付けている。

 分身もそれを前提にして自分の上から攻撃が通るまで攻撃を躱し、存在出来るように専念している。

 

 

 

 

「(イカれてるのか……!)……なら、こうだ!」

 

「!」

 

 

 

 

 その背に怖気を走らせた空折はゴポリ、と音が鳴る程の粘液の大量分泌を行なう。

 その様は一体二体が突っ込もうとどうにもならない球状の盾。

 

 

 

 

 

「──『緋色の連隊(オールキリング)』ッ!」

 

「(──バカめ!)」

 

 

 

 

 ──ならば十体、二十体で破れば良いと言わんばかりに増やした分身でつん裂き、突破する。

 ──その先では膨張した豪腕が待ち受け、愚かにも真正面から飛び込んだ分身達を纏めて粉砕しようとする。

 

 

 

 

「(──バカはテメェだ!)」

 

「──⁉︎」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 今しがた分身達がたっぷり浴びた粘液が打撃を滑らせるのにどれだけ有用かは、空折自身が証明した事だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──確かに大質量から繰り出される打撃が脅威であるのは間違いない。

 

 

 

 

「「──オラァ!」」

 

「が、はっ」

 

 

 

 

 ──だがここで選ぶ手では無かった。

 挟み込むように次々放たれる特攻上等(ブッコミジョートー)のクロスラリアット、クロスレッグラリアートが空折にダメージを蓄積させていく。

 片方がもう片方の土台となる挟み撃ちが相手では粘液が有っても受け流しきれない。

 

 

 

 

「──邪魔だ!」

 

「ダラァッ!」

 

 

 

 

 ──それでも仕留めるには遠い。

 腕を振り回して分身達を蹴散らし、分身の向こうから突き進んで来た本体の美羅と拳をカチ合わせる。

 

 

 

 

「ぐっ……!」

 

「(……正面から戦ってこちらが不利になる事は無い。──(わたし)が選ぶ手を間違えなければ)」

 

 

 

 

 カチ合いに勝り、その拳圧で美羅を退かせた空折は衝撃の残滓がジリジリ残るその掌を見て一柱(ひとり)思う。

 

 

 

 

「(……甘い戦い方でなんとかなる奴らじゃないなんて分かってたはずだろ。……なのにあいつ一人になって注意してるつもりでも確実に油断した。私が私として生まれる前から戦って来た相手に)」

 

 

 

 

 ──その胸中を占める感情を上手く言葉で表す事は出来なかった。 

 仲間を吹き飛ばされ独りになっても、知恵を回し力を振り絞り己の全てをぶつけて来る美羅と戦い生じた──、──その気持ちを語るには空折は未熟だった。

 

 

 

 

「(私は八雷神、育つのに餌が必要で──、──()()()()()()()()()、そして()()()()()()()。──今の私は紫黒姉や壌竜姉から十年二十年生きた人間(潜行と粘液)を餌として貰っただけ、磨き上げてなんか──)」

 

 

 

 

 彼女はこの時初めてそれを自覚し──、

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……()?)」

 

 

 

 

 ──其処で初めて異変に気付いた。

 

 

 

 

「(……おかしい、さっきまでこんな強い風──)……‼︎」

 

「……、へっ」

 

 

 

 

 ついさっきまで肌に感じる程強い風など吹いていなかった事に違和感を覚えた空折は周囲を探り──、──ようやく見つけた()()に驚く様を美羅が笑った。

 

 

 

 

()()()()──」

 

 

 

 

 ──それはまるで空の裂け目、天上の渦。

 今この瞬間も膨大な空気を吸い上げ、その通り道に風を起こす──

 ──()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──あいつ、まだ生きてっ「「うらあっ!」」ぐあっ⁉︎」

 

 

 

 

 それが意味する事に気付いた隙を突かれ、空折が殴り飛ばされる。

 ──その横で一段と強くなっていく風が土埃を巻き上げ始める。

 土埃の次には砂が。

 砂の次には土塊が。

 土塊の次には小石が。

 小石の次にはコンクリート片、そして転がる瓦礫すら風に巻き上げられ、空を駆け上って行く。

 

 

 

 

「──気付かれずに、済んだみたいだね……」

 

 

 

 

 ──風に導かれるものが上空の裂け目へと帯のように、幾つもの列を成して吸い込まれて行くその様を、出雲天花は遠方のビルから独り眺めて笑った。

 生身でコンクリートを幾つも突き破り、あちこちの骨を折って血に塗れ、まともに立ち上がる事も出来ずに床に転がるその姿は死体のような有様だったが──、──能力を行使する事に一切の支障を齎せはしなかった。

 

 

 ──美羅と天花が空折を仕留める為に見つけた手は、単純な役割分担だ。

 美羅は前衛で空折を抑え、天花は後衛で空間断裂を当てる事に専念する。

 それだけの単純な作戦だ。

 決めた直後からの攻勢で大きく状況は乱れ、天花が大きく引き離されるというアクシデントにも見舞われたが、それすらも『空折が即座に仕留められる距離から離脱した』というメリットに変え、より大きな一手として逆襲に打って出た。

 

 

 

 

「(──つまり、こいつの役目は時間稼ぎか!)」

 

 

 

 

 海岸に吹き荒れる暴風の中、空折は同じ風の中に巻き込まれる目の前の人間の役目を推察する。

 

 吹き飛ばされコンクリートを突き破ってようやく止まった天花は小規模な空間断裂を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、目の前の神の気を惹く事を無言で要請していた。

 大仰な宣いも、狂気じみた戦闘も、全ては上空に目を向けさせない為のもの。

 

 

 

 

「(まずいぞこれ……!飛んだらあれ(空間断裂)から逃げられない……!というか地面に居ても吹き飛ばされそうだ……!)」

 

 

 

 

 ──そう推察した所でどうしようも無い。

 今や海水すら吸い込み出した暴風の前には神の身体能力であっても限界が近付き、手足を巨大化させても天花の居るビルまでは届きそうに無い。

 粘液も、潜行も様々なものが激しく動く中では使い道が無い。

 羽根を操作して届かせようにもこの暴風の中では浮かばせておく事すら出来そうにない。

 そもそも羽根の根元にある羽織自体が吹き荒れる風の中、大いに風を孕んで動かせそうにない。

 むしろ風に靡いて邪魔になっている。

 

 

 

 

「(──なら、こうだ!)」

 

 

 

 

 ──それでも耐える手を見出した空折はその両足を沈み込ませ、勢いよく巨大化させ碇のように地面に打ち込んだ。

 しっかりと食い込んだ足は吹き荒れる暴風にも負けずに身体をその場に固定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──かかったなオラ!」

 

「⁉︎」

 

 

 

 

 ──それこそが狙いだった、と言わんばかりの凶暴な笑みを浮かべて美羅が飛び込んで来る。

 暴風すら追い風に、あっという間にその距離を詰め動けぬ空折に迫る。

 

 

 

 

「どっ、らああああああぁっ!」

 

「ぎぃっ……!」

 

 

 

 

 その渾身の貫手が空折の身体を突き刺した。

 

 

 

 

「……っ、もう少し、だったな、?」

 

 

 

 

 ──だが突き立ったその手は、僅かに、神の心臓を逸れていた。

 今この瞬間も高まる暴風に押され、飛び込む中では狙いが定まらなかったのだろう、と空折は笑おうとし、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『緋色の連隊(オールキリング)』」

 

 

 

 

 ──突き立った腕から生み出された無数の分身によって傷口を押し広げられ、身体を上下に分たれた。

 泉から噴き出す泡のように美羅が全方位に散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 失う、失われる。

 

 重さを、腹から下を、神の肉体を保てるだけの健全さを。

 

 軽くなった身体で上空の断裂に吸い込まれ、霞のように、幻のように、霧散が始まり、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まだだぁ!」

 

 

 

 

 ──巨大化させた片手で、その下半身を掴み取った。

 

 

 

 

「……!」

 

「──っ!ぐう、っ……!」

 

 

 

 

 そのまま身体を引き戻し、上下を接合。

 神の治癒能力を超えた分は、粘液を溢れる程に捻り出し、ブシュウ、と音が鳴る程に回復を早め無理矢理繋ぎ合わせる。

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……、……残念だったな」

 

 

 

 

 ──空間断裂が収まった。

 鈍く、低く、敗北を告げるかのような音が響く中で空折はようやく顔を上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「おおおおおおおぉ!」」」」」

 

「……はぁ、っ?」

 

 

 

 

 ──その瞳に突撃する緋色の軍勢を映す。

 ──直後。冷たく、形無き質量に押し潰された。

 

 

 

 

 

「(これはっ、()()っ……!でもあいつならこの程度、ものともしない!迎え撃ち……)」

 

 

 

 

 空折はそれが空間断裂(吸い込む力)が収まった事で落ちて来た海水(もの)だと理解し、目の前の人間はそれより密度のあった粘液すら突破して来たのだと、迎撃の姿勢を取ろうとし、

 

 

 

 

「──があっ!」

 

「はがっ……!……⁉︎」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「(ヌルヌルが……、洗い流されて……!)」

 

 

 

 

 地に繋がれ、海に嬲られる一柱(ひとり)の神は、回復の為に大量に出した粘液すら綺麗さっぱり洗い流されてる事に気付き、粘液の妨害を受けない打撃の威力を骨身に理解し、新たな粘液を分泌する瞬間すら与えられず、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「『皆殺し(オールキリング)』だ……、ッ‼︎」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 ──全方位からの壮絶なる袋叩き(オールキリング)を喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それは暴力的と言う言葉すら生温い暴威。

 堅固たれと築かれた城塞も、雲霞の如き悪鬼の大群も粉砕する緋色の軍勢。

 

 

 それが打ち砕けないのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

「……このっ……、……邪魔だあぁぁぁっ!」

 

「があ、っ……!」

 

 

 

 

 ──城塞も、悪鬼の大群をも凌駕する大いなるものに他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……、ハァッ……、…………」

 

「……ぐ、っ……」

 

 

 

 

 ──全てが酷い有様だった。

 

 

 水を含み散々に荒らされ瓦礫を散りばめた地面は、まるでクッキー入りのチョコレートアイスを溶かしたようだった。

 土の色に濁った海は波を立て、未だ大きく揺らいでいる。

 立ち並ぶ高層建築に無事なものは一つも無い。

 幾つかは完全倒壊し、倒壊を免れたものも外壁という外壁を砕き崩され半壊寸前の有様。

 

 

 ──地面を爆ぜさせた脚と振るわれた腕に薙ぎ払われ瓦礫に突っ込んだ美羅は傷に塗れ、全開で能力を使った代償に体力の殆どを失い青息吐息。

 ──緋色の軍勢の袋叩きを受け血塗れで立ち尽くす空折は、全身の輪郭が変わる程の殴打の跡でその体表を埋め尽くされている。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 一息早く動き出したのはブシュ、と粘液を噴き出した空折だった。

 溢れるように出して全身全てを完治させたかったのだろう粘液はしかし、使い過ぎたせいか袋叩きによる損耗のせいか、体表で僅かに泡立つ程度にしか分泌出来なかった。

 兎に角出せるだけ出して、治るだけの傷を治す。

 瓦礫を踏み締め、美羅も立ち上がる。

 

 

 

 

「……体の大きさじゃなくて、耐える力を大きくしたんだ」

 

 

 

 

 立ち尽くしたまま、緋色の軍勢の袋叩きを耐え切ったその答えを口から零す。

 

 

 

 

「……いや、あいつのでかさで受けた、のかな?……上手く説明できる気がしないや」

 

「そうかよ」

 

 

 

 

 自らを助けた力を説明しきれない神は己の無知を笑い、視線を落とす。

 

 

 

 

「……あいつを食べてなかったら三人食べてても、……いや例え何十人食べてたって私は負けてた。……そんな気がする」

 

「……」

 

 

 

 

 ──ぴたりと手を当てた腹の中、自分の内に居る筈の美しき人間への称賛と、感謝を、人間を滅ぼす筈のものが口にした。

 

 

 

 

「助けられてばっかりの大恩人だよ、(わたし)の。……それなのに、美しいから、って、美味しそうだから、って、何も聞かずに食べちゃった。名前すら知らないんだ、あいつの」

 

「……」

 

 

 

 

 激戦を耐え抜いて、初めて生まれた後悔を口にする。

 ──その目から零れ、頬を伝う涙に気付いているのかどうか。

 

 

 

 

 

「……私は空折(くうせつ)八雷神(はちらいじん)の空折。醜鬼(しゅうき)を束ね、人間を滅ぼし、際限無く進化する神。……お前と、あいつの名前は?『テンカ』ってのは聞こえたんだけど」

 

「……俺は魔防隊(まぼうたい)二番組(にばんぐみ)組長(くみちょう)上運天(かみうんてん)美羅(みら)だ。あいつの名前は……、……別に良いだろ」

 

 

 

 

 神は自らを示す名を明かし、称えるべき敵手(人間)の名前を求める。

 魔防隊の激戦区、『鬼門』に陣取る組長はそれに答え、──拳を握り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──てめーはここで倒されんだからよぉ!」

 

「……そうだね、お前を倒して聞きに行くよ!」

 

 

 

 

 一人(ひとり)の人間と一柱(ひとり)の神が鏡に写したように獰猛に笑い、拳を握り、走り出す。

 双方共に一撃決まればそれで決着。

 

 

 

 

 ──そうして、一つの戦いが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……気持ち、悪り、ィ)」

 

 

 

 

 ……肉に塗れ、触れられる感触が意識を呼び戻す。

 

 

 

 

「(……、あ、ぁ。負けた、のか、俺、は)」

 

 

 

 

 ──上運天美羅は肉の中で目を覚まし、其処が神の体内であると理解した。

 

 

 

 

「(ク、ソ。……まだだ、まだ、終わらせねぇ……!取り込まれて、たまるかよ……!)」

 

 

 

 

 『桃の能力者を生きたまま食べて、その能力を取り込めます』

 先程まで戦っていた神について記したメモの一節を思い出し、肉の中に沈むような、肉が入り込んで来るような感覚に、千切れてブレる意識を気合いで保ちながら抵抗を絞り出し──、

 

 

 

 

 

 

 

 

『あのー、すいません。今、大丈夫ですか?』

 

「(──は?)」

 

 

 

 

 ──唐突に知らない声を耳にした。

 

 

 ──同時に周りの光景が薄暗いロッカールームに変わり、意識を保つのが大分楽になった。

 

 

 

 

「──は?」

 

「断りも無く()()()()()()すいません……。あのまま話すには時間の余裕も無いみたいなので……」

 

 

 

 

 目の前には長髪にカーディガンを羽織り、ロングスカートを履いたカジュアルな会社勤めといった服装の若い女性。

 ──……美羅にとって彼女は()()()()()()()()()()()()()──。

 薄ぼんやりと見えていた空折の体内の様子は何処にも窺えない。

 

 

 

 

「(……いや、()()()()()()()()()()。けど入られる感じも沈んでいく感じもねぇ、ただ浸かってるだけって感じだな)……これはアンタの能力……、()()()か?」

 

「……‼︎はいっ!意識に直接映し出す仮想空間みたいなもので」

 

 

 

 

 美羅がそれを成す力について指摘すると、女性ははしゃいだ様子で説明をしようとし──

 ──ハッ、とはしゃいでいた事に自分でも気付き一旦止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私の“魂”が成すものです」

 

「──やっぱりか」

 

 

 

 

 ──そして、横浜に於いて神に攫われ、その体内に囚われる最後の被害者となった彼女は落ち着いて()()を口にした。

 美羅の予想とも合致する今回の事態の根源となる桃の能力、それが齎したものについて。

 

 

 

 

「……それも含めて幾つか話したい事が有るんですけど大丈夫ですか?」

 

「……さっきチラリと言ってましたけど、()()()()()()()()()()?話に気を取られて空折(アイツ)に抵抗できませんでした、なんてマヌケは避けてぇ」

 

 

 

 

 ──年上や目上を立てる性格の美羅は、捜査資料で年上だと知る目の前の女性に美羅なりの敬語を使う。

 それを不良を思わせる外見に『そぐわぬ』と取るか『らしい』と取るかは人によるだろう。

 

 

 

 

「(え、敬語……?)……はい、表で一分経つ間にこっちで数時間以上の話をする事もできる、はずなので。私の魂が支えてるので耐えるのも楽だと思いますよ。ここから出たければ上運天さんならそう意識すれば出られるはずですから」

 

「(なるほど、浸かってるんじゃなくて『向こうが鈍くなってる』そう俺が感じてるだけって事か)──なら話は聞いておきてぇです。神を倒すには手掛かりは多い方が良いッスからね」

 

 

 

 

 女性は『そぐわぬ』派だったらしく内心困惑しながらも時間の心配は無いと伝え、時間を確保出来るならば深く関わった者の証言は重要だ、と美羅は取り込まれる感覚が変わった理由を察しつつ、この空間に留まって話をする事を了承した。

 

 

 

 

「……それと俺の名前を知ったのはまた空折(アイツ)の記憶を読んだからッスよね?」

 

「……!すいません、自己紹介も無しに……!」

 

「俺もアンタの事はあらかじめ知ってたんでお互い様、って事で。俺の事は呼び捨てで良いッスよ、年上でしたよね?」

 

「(……あっ、年上だから敬語……)……分かりました、美羅さん」

 

 

 

 

 目の前の女性は空折に気付かれないように、記憶の読み取りか感覚への割り込みも行なっていたらしい。

 反応からすれば後者か。

 ……もしあの時口にした以上の事を知っていれば一般の大学を飛び級も留年もする事無く卒業し、就職して三年の二十五歳……など細かい所まで調べられてる彼女を疑わなければならない所だ。

 ともあれ軽く自己紹介も済ませ、本題に移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私が桃で手に入れた力は『魂の巨大化』と、恐らくは『強化』。……正式な検証は受けてませんけど、これで間違いないと思います。()()()持つにはぴったりの力です」

 

「──だろうな。俺が保証しても良いですよ」

 

「……それは、ありがとうございます」

 

 

 

 

 『己を丸呑みした神の自我を逆に呑み込み、その身体を乗っ取るに足る能力とは何か?』

 

 ……空折が持つ能力の内『粘液』と『潜行』は既に持ち主が明らかになっており、羽根の弾丸や飛行・再生能力は恐らく空折自身のものだ。

 ──となれば残る『手足や羽織の巨大化』と『体表面に滴る程にしか出ていなかった粘液の大量分泌』が彼女の能力に拠るものである筈だ。

 『記憶力の増大』では副次効果が無い限り先ず不可能な増強だが、『()()()()()()()()()()()()()()とするならば『肉体』『精神、及び意識と記憶』『桃の能力』『着けているのが当然なくらい身に馴染んだ服飾品』の全てに関わるものが一つだけ有った。

 

 

 ──即ち、“魂”。

 

 

 生きる事の裏付けにして根源。

 肉体が動くにも、精神が回り意識と記憶が深められるにも、桃を食し異能の力を働かせるにも、身に着ける衣服を『馴染んだ』と感じるのにも、()()()()()()()()()()()()()()()()()、その裏には必ず“魂”が有る。

 “無意識”などである可能性も無くは無かったが、無意識が大きいからと言って肉体の大きさには反映されないだろう。

 

 

 ……空折が【巨万神罰】と呼んで振るった巨腕巨脚は『無限に成長出来る』と豪語し、肉体の大きさを変えられる──三人を呑み、生かしたまま取り込んでいるにしてはその身体は小柄過ぎる──空折がその巨大な魂に手足を合わせたものだろう。

 美羅の『緋色の連隊(オールキリング)』による袋叩きを耐えたのは【巨万神罰】とは逆に肉体に魂を合わせ支えさせる事でその耐久力に『厚み』を齎したのだろう。

 ……全身輪郭が変わるくらい殴られ、倒されるギリギリで無意識に使ったものらしいが──。

 

 

 

 

「──それだけ大きくなってた自分の魂に今まで気付かなかったのか、って話なんですけどそれには私の身体が小さ過ぎたみたいで……」

 

「──……バラバラになって死んじまうのか」

 

「どうにかして魂を自覚できれば、あるいは違ったのかもしれませんけど……」

 

 

 

 

 空折が巨大化させた手足はそれだけでビル程の大きさが有った。

 身体全体を巨大化させればビルの二倍以上の大きさになっていた筈であり──、──その全てを人体で満たすとなれば部位毎に解体しても足りず、細胞以下まで霧散させた()を詰めねばどうにもならない。

 ちょっとした傷で死に、魂が失われる人の身体でそんな目に遭えば幾ら魂が大きくとも耐えられまい。

 

 

 

 

「──だからそうならない為に、魂を小さく折り畳んでたみたいなんです。……()()()()()()()()()()、文字通り」

 

「ッスね」

 

 

 

 

 ……無意識の内に身に着けていた霧散死(むさんし)を防ぐ為の『魂を折り畳み、肉体と釣り合わせる』その機能にとって、能力を持つ当人の心がひどく打ちのめされていた事など知った事ではなかっただろう。

 ──能力者当人がその機能によって生かされていた事など、知る由も無かったのと同じように。

 恐らくはその折り畳みによって陰陽寮の検査も免れ、能力の効果は『記憶力の増大』だと結論されたのだろう。

 

 

 

 

「──だから魂が広げられたのは今回が初めてですね。……私の身体が取り込まれて、魂を畳んでおく必要が無い肉体(空折の肉体)に繋がったのは」

 

「それで広げられた魂が身体を乗っ取って……、……逆に魂を乗っ取られた、()()()()()()()()()()ってのが」

 

「今回こうなった理由、ですね」

 

 

 

 

 ──だがまるっきり不本意な災難がその魂を目覚めさせるに至った。

 神の中に呑み込まれた事で小さき人の身体から解放された魂は神の自我を押し潰し、神の身体は魂の持ち主が動かすものとなった。

 ……しかし幾らか『食当たり』を起こそうとも其処は()()()

 大元(人の身体)含めて肉の中へと無慈悲に取り込まれてしまうものであるのには変わりなく、神の身体に侵食した事で神の自我が侵入出来るものとなってしまった魂は敢えなくその制圧下に置かれてしまった。

 

 ……だがその行いは違う未来を繋ぐ出会いを掴み取らせていた。

 

 

 

 

「それでここは魂が見せる夢みたいなもんか」

 

「その通りです。脳が記憶に刻んだ事は魂にもまた刻まれるみたいで……、今はそれとは逆に魂が記憶した事を脳に宿る意識に映し出しているんです」

 

 

 

 

 その魂が見せている()()()()

 風景を選び、その動きを演算し、意識に働き掛けて感じさせる所まで全てを魂が行う、いわば『魂の仮想空間』こそがこの薄暗いロッカールームの正体と言う訳だ。

 

 

 

 

「なので、これは桃の能力じゃなくて『()()()()()()()』ですね。記憶に使えるもの()が大きい分、より細かく精密にものを見せられますし、魂で支えて思考を加速させるのも自由です。……もっとも私が使うのもこれが初めてなんですけど……」

 

「ん?……まぁ確かに今まで自覚無かったんならそうなんだろーが……、……なんでッスか?」

 

 

 

 

 

 記憶に残るものは()()()取り出せ、魂が支えられる限りは何時間分にも加速出来る仮想空間。

 肉体の外に影響を及ぼせずとも、使い道は無数に有る人生を強く切り開く力だっただろう。

 ……使()()()()()()()()

 

 

 

 

「体の大きさに合わせた等身大の意識体(アバター)を作らないと()()()()()()()()()()()()()()()()()。……というか見せる側の魂も()()()()()()脳に宿る意識と魂は別物だと認識しないとダメみたいで……。……多分今こうして使えてるのも大きさを合わせないと上手く話せない人が居たからそれに合わせて作られたというだけで……」

 

「はー、なるほど」

 

 

 

 

 喉の太さも違う巨人と小人がそのままの大きさで声を交わし聞き取り、話し合うに至るまで大変な苦労が要るだろう。

 だが『見本』があるのならばそれを写してサイズを合わせた身体(アバター)を作ってしまえる。

 そうして『見覚えの無い空間』への入場は果たされたのだった。

 

 ……美羅はそれを鏡が無いと背中に入れた刺青(モンモン)は分からねえ、みたいなモンか?と少しズレた納得をする。

 

 

 

 

「……あっ、思考加速させても実時間とのすり合わせを上手くしないと脳に負担が掛かるかな……?」

 

「まーそれは良いッスよ(……って、()()()()()()()()()()()()?どっかでこんな──)」

 

「──それで、ここまでは()()なんですが……」

 

「ん?」

  

 

 

 

 ……それより初対面である筈なのに、その言動に何処か既視感を感じるのが気になる所ではあるのだが……。

 

 

 

 

「……改めて、上運天美羅さん。私の魂が迷惑をかけてすいません。()()()()()もしてしまったみたいで……」

 

「──気にしねェでくださいよ。そもそもアンタが取り込まれ切ってたらきっとアイツ(空折)()()()()()()()()()()()()()()だったんスから」

 

 

 

 

 ──だがそれよりも前に魔防隊として、折目正しく頭を下げるこの人に伝えなければならない事が有る。

 『……前置き(ナゲ)ェな』と思わないではなかったが。

 

 

 

 

「え、」

 

「アンタは他の被害者逃がす時に慎重に隠れて動いてる。──あの神にその慎重さ身に着けられるのはヤベェ。気付いた時にゃ俺達でも倒せねェくらいに強化されてた、ってのが一番(イッチャン)最悪の事態っスよ」

 

 

 

 

 『空折は美しさへのこだわりが強いみたいです』

 ──そんな一節が記されたメモを残した被害者が己に出来る事をしっかり把握し、慎重に動ける人物である事はその行動が示していた。

 ……そして先に空折に呑まれたと見られる者の一人は今の空折と同じように『美しさ』への拘りが強い性格をしていた。

 この事から魔防隊を始めとする関係者の間で空折と言う神は性格や嗜好も呑み込んだ者を元に構築している可能性が考えられた。

 ……ではもし空折が『己に出来る事をしっかり把握し、慎重に動く』性格を取り込んだのならどうなったのか?

 ──少なくとも()()()()()()()()()()()()()

 

 そもそも空折と魔防隊が()()()のは、美羅が側で待機していた和倉優希の前に空折がその姿を現したからだ。

 空折が慎重であれば興味が有るとは言え魔防隊が近くに居る可能性が大きい優希を見に行く事はせず、粛々と脱出の道筋を立てていたに違いない。

 潜行能力は隠れて動くにはピッタリの能力だ。

 慎重に動かれれば警戒をすり抜けられる可能性は充分に有った。

 戦いを仕掛けても、逃げを優先して切り上げられていたかもしれない。

 ──そして次に姿を現す時は確実に勝てる、と思えるくらい強くなってからだっただろう。

 

 

 

 

「それに能力を鍛えるなんて事はやってねェっスよね?」

 

「は、はい。記憶力トレーニングは無駄だったはずですし……」

 

「……それなのにアンタの能力、いや魂は(アイツ)相手に頑張(ガンバ)れる力を持ってたんだ。……アンタが取り込まれ切ってたらそんだけ強え魂が完璧に(アイツ)の力になってた所だったんだ」

 

 

 

 

 おまけにその被害者は全く無自覚の状態ですら神を上回り、その身体を乗っ取れる強力な能力──正確にはその産物──を持っていた。

 上手く扱えるかは別としても、能力を取り込める空折にとって何よりの捧げ物だっただろう。

 しかも彼女は足りなかった慎重さまで与えてくれる、神にとって正に最高の餌だった。

 

 ──それは魔防隊、ひいては人類にとって最大の懸念であり、最高の焦りであり、最悪一歩手前の事態であった。

 そのタイムリミットは刻一刻と刻まれているものだと、そう思われていたのだ。

 

 

 

 

「──つまり冬美さん、アンタが無意識にでも頑張ってくれてたおかげで俺達はそこに割り込めて、神と戦えたって訳だ。アンタが攫われたと気付く事も救出する事もできなかったのにこんだけ助けられて、俺達としちゃあ土下座(ドゲザ)しても感謝しきれねェですよ」

 

「……えっと、私の魂が迷惑かけたのもそうですけど、最後の殴り合いの時に私の意識が割り込んじゃったみたいで……。そのせいで打点がずれて、ギリギリ生き残った空折が今こうして美羅さんを取り込んでるみたいなんですが……」

 

「それも気にしねェでくださいよ。素人なら間違ったタイミングで飛び込んじまう方が当然なんスから。たまたまなら対応できなかった俺の非ッスよ」

 

 

 

 

 ──最後の被害者が神の内通者であり、メモに嘘を記した可能性。

 それは当然美羅も覚えていた。

 ──覚えてはいたが馬鹿馬鹿しい疑いだと思っている。

 空折の言動を見る限りでは、だが八雷神は人類に対してそんな風に戦場の外で騙し、嵌めるような策を弄する所までは行っていない。

 ……何処か力押しでなんとかなる、とナメた感じがする。

 最後の被害者が内通者としてそこら辺を補っているパターンも考えられなくはなかったが、それなら美羅を取り込ませない理由は無いだろう。

 ──神の頭数を増やされる事が魔防隊にとってどれだけ脅威か分からない訳はあるまい。

 ……まぁ今感じさせられてる全てが幻覚で、美羅の取り込みは既に完了している、と言う線も無くは無いだろうが、流石に周りくど過ぎるし無駄だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──話したい事ってのはそれだけっスか?」

 

「……いえ、私もこの身体(空折の体内)から脱出したいと思ってる、って事と……、……その為にも会って話してもらいたい人達が居るんです」

 

「……まさか、人型醜鬼か?」

 

 

 

 

 そんな彼女が『会って話してもらいたい人』だと言うその相手に美羅は心当たりが有った。

 ──それは近頃の魔都に起きた異変の一つだった。

 桃の群生地を襲った、人間とそっくりな形でありながら淡色の髪に首から下の黒い肌という異相を持ち、醜鬼を従えていたその存在を魔防隊は『人型醜鬼』と呼称した。

 横浜での誘拐事件が起こる前、とある組長の『奴隷』を攫った事で魔防隊と交戦し、当時は同じく『人型醜鬼』だと思われていた『八雷神』の横槍を受けて二体が攫われ、拠点も崩落してからはその音沙汰は無かった。

 だが空折が使う『潜行』と『粘液』の能力が、それぞれ攫われた二体のものと一致していた事で空折の餌にされ取り込まれたと見られていた。

 さっきの話に出た『()()()()()()()()()()()()()()()』がその二体なのだろう。

 

 

 

 

 

「……魔防隊ではそんなふうに呼ばれてるんですね。……正直なところ脱出の為、というよりあの人達に起こった事を魔防隊の人に聞いてほしいという所が大きいんですが……。……美羅さんがその存在も許せない、話もしたくないというならこのまま分かれておきますけど」

 

「…………いや、会うのは構わねえですよ。……きっと俺達(魔防隊)にとって重要な話だ」

 

 

 

 

 『時がくれば、お前にも必ず話す』

 ──胸の内に何事かを秘めているのではないかと問うた時、そんな風に返したライバルの姿が脳裏に浮かぶ。

 『人型醜鬼』と耳にして僅かに言葉を流れた暗く、諦め、失望するその気配にあの時の好敵手と同じものを覚えた美羅は会う事を了承した。

 

 

 

 

「(──そうだ、人型醜鬼に舎弟(奴隷)攫われたのは京香の奴だ。それを七番組(京香)六番組(天花)が追って戦いになった。……んで京香は最近天花と示し合って動いてる。……()()()()()()()()、その戦いで)」

 

「──了解しました。では、しばしお待ちを」

 

「おう」

 

 

 

 

 すると目の前に居た筈の人影はふわり、と消え去り美羅は一人残された。

 やがてロッカールームはガタゴト動き出す。

 

 

 

 

 

「(──さて)」

 

 

 

 

 浮かび上がるように上へと向かって行く──そんな錯覚を感じる──につれ、薄暗いロッカールームからは僅かな明かりも消えてゆく。

 戦いに臨む時のように、その暗闇の中で気合いを入れ直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 そしてガチン、と止まり開いた壁から飛び込む眩しい光の中、驚きと僅かな怒りを含んだ声を以って迎えられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうしてココさんと波音さんは今に至る、という訳です」

 

 

 

 

 ……私は優しくなんてないと思う。

 

 

 

 

「……………………」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

 

 『総組長は対話の用意が有る』と言ったのは平隊員らしい。

 だから総組長が陰陽寮の所業を知っていたとしても隊員には教えていない……、はず。

 ()()()()()()()()()()

 九つに区分けして魔都の守りを担当する魔防隊の“組”、その統率者。

 魔防隊の要とも言える実力者。

 

 

 

 

「…………」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 ……たしか魔都の区分けは八方と真ん中で九つ、真ん中は総組長と兼任だったはず。

 立場で言えば八方それぞれの組長は総組長に近い地位だ。

 ……けど魔防隊は花形と言えど()()()()()()、その各小隊の隊長クラスに政治的にもみ消されるような後ろ暗い事が共有されるのかどうか?

 

 

 ……その試金石に私はココさん波音さんに起きた話を使った。

 もし『──知っちまったからには消えてもらわないとなぁ?』ってなっても私の好きにできる魂の仮想空間(ここ)なら大丈夫だとたかを括って。

 

 

 ……いや、身体が取り込まれきってない美羅さんの場合、肉体が空折の中に沈むその時まで入退出は自由にできるのだから大丈夫ではない。

 ……ただ私が陰陽寮の闇を抱えきれなかっただけだ。

 ちょうど頼れそうな人が居るからと、その内実も知らないで押し付けようとした、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダセェ真似しやがって」

 

「‼︎」

 

 

「……?……なんて言ったんだよ、お前」

 

 

 

 

 ──内心を見透かしたような美羅さんの言葉にギクリ、となる。

 小声気味だったから美羅さんから離れた位置に波音さんと並んで座るココさんには聞こえなかったみたいだけど、二者の間あたりに居る私に刺さるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まず、お前らが醜鬼集めて暴れようとするなら俺はそれをブッ潰す。それは魔防隊の組長として当然の(コト)だ」

 

「……!そうかよ」

 

 

 

 

 ……私は何がしたかったんだろう。

 ──敵対宣言にしか聞こえない美羅さんの言葉に、ココさんの声音は喧嘩腰だ。

 

 

 

 

「お前らが陰陽寮目指す中で魔都に迷い込んだ奴が巻き込まれるかもしれねぇし、どっかの組が潰れりゃあ魔都の対処に穴が空く。魔防隊の組長が見過ごしちゃあイケネェ事だ。──何も京香(きょうか)天花(てんか)だけの事じゃあねえ」

 

「……建前ね」

 

 

 

 

 ……対立関係なのは火を見るより明らかな人達を引き合わせて。

 ──『()()()()()()()()()』でもある波音さんの声音は冷ややかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ、建前だ。──『魔都から得られる利益を研究する』ってのと同じでなあ」

 

 

 

 

 ──ぞっとするような怒気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何が『利益』だ、フザけやがって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その眦を引き裂いて、潰れんばかりに拳を突き立てて。

 魔防隊二番組組長(美羅さん)は溢れんばかりの凄まじい怒気を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『人命第一』が魔防隊のモットーだと俺は思ってる。じゃあ命さえ助かりゃあいいってのか?」

 

 

 

 

 ……口調は静かでも、その言葉を焦がす激情は炎のようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手足がもがれても、目が潰れても、一生消えねぇトラウマ負っても生きてりゃいいってのか?──違ぇだろ!」

 

 

 

 

 何より強き『生き様』が怒声を上げさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きる、ってのは()()()()()()()()!傷付けさせちゃあいけねぇ、死なせちゃいけねぇモンだ!──俺達(魔防隊)はそれを守る為のモンだろーがよ!」

 

 

 

 

 『誇り』を叫ぶその身こそが何よりの『誇り』を顕し、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アンタ言ってたな、治してほしい、帰してほしいってのも無視されて実験動物だった、って。──悪かった、あいつら(陰陽寮)がやってる事に気付きもしないで魔防隊の組長張って」

 

「……、ええ」

 

 

 

 

 ……余りの事に呆気に取られている様子の波音さんの元まで、ツカ、ツカ、と歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──アンタを殺す、陰陽寮(そいつら)ブッ潰してアンタを助けられなかった、すまねぇ‼︎」

 

 

 

 

 その前に跪き、砕くようにして頭を叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた組長じゃなかったのかよ?」

 

「人一人助けられねぇで何が組長だ!そんな(アタマ)コッチから願い下げだ!」

 

 

 

 

 喧嘩腰だったココさんが思わず嗜めるような口調になってしまうほどに、

 その怒髪は、天を衝いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様に、安心している自分が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──落ち着いてください、美羅さん。……多分そのまま殴り込んでも美羅さんが反逆者です」

 

「──あぁ⁈」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──安心?なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで魔防隊の目をかい潜ってそんな事ができてたんです。政治的な影響力も報道への圧力も魔防隊と同じか、それ以上にある。──美羅さんが殴り込んだだけじゃ、本当には助けられない」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけキレた美羅さんに私は何を安心した?

 

 

 

 

 

 

 

 

「──何よりココさん波音さん達が一度、醜鬼を集めて暴れようとした事実は消えない。全てをつまびらかにしなきゃあ、あの人達だけが、悪者になっちゃう。「……それはイケねぇ事だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ああそっか、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天花も、京香も動いてる。──まずはアイツらと話してからだ、ナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……安心したんだ。

 魔防隊が外道じゃなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……できれば魔防隊の外にも協力者が欲しいです。違う視点、違う方向から攻めてくれる味方が。『魔都の事だから』と関わる人を限るのは未来の思考硬直に繋がるかもしれない。……可能なら『陰陽寮と敵対している』人より『人を助ける』事に目を向けてるような人が。……そういう人でないと捨て駒にするかもしれない」

 

「…………心当たりねーゾ……。……政治は天花に任せるつもりだったしなぁ……」

 

 

 

 

 憧れた組織が骨の髄まで腐り切ってなくて。

 私は心のどこかでそれを確かめたかったんだ。

 

 

 

 

「──逆に陰陽寮に協力者を求めるのはやめた方がいいんじゃないかと。内部告発者の一人もいない、って事は裏切りへの対策は能力も使ってバッチリされてるのかも」

 

「……お前、政治家かなんかか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、そっか、私、自信が欲しかったのは確かだ。

 でも、それだけじゃあ、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──自分に自信が無いだけの、一般人ですよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私は『  』になりたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──何はともあれ、空折から脱出した後、ですね」

 

「あー、そうだったな……。あたしらまだ腹の中だったな……」

 

「ここに居ると身体が美しくない事になってるのを忘れそうになるわね……。……まじまじと見せつけられるより断然マシだけれど」

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()、忘れかけてそうな喫緊の課題を再確認する。

 ここは空折に囚われた人達に私の魂が見せる幻、精神的に……というよりは意識的には自由でも肉体は腹の中だ。

 

 

 

 

「──……あとは俺に任せてくれて良いんスよ?気合い入れんのは助けてもらいてぇですけど……」

 

 

 

 

 信頼できるプロに任せる、……確かにそれが筋だけど。

 

 

 

 

「……ここに居るのが美羅さんじゃなかったら甘えさせてもらう所なんですけど」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「あ……」

 

「……()()()()()()()()()()()()……」

 

「……そうだな、()()()()()……。……改めて、魔防隊として協力を頼みてぇ」

 

「もちろん、喜んで。とりあえず状況確認して来ますね」

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 二十五年生きて来て、間抜けにもついさっき気付いた事だ。

 

 

 ……とは言えなにぶん、この仮想空間だけじゃなく私の能力にまつわる全てが初めてだ。

 ……時間調整が上手く行ってなかったら地獄なので、ひとまず()の様子を見る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すいません、復帰に時間取ってしまって……」

 

 

 

 

 

 横浜の街を白き異形が駆ける。

 

 

 

 

「その分お前には働いて貰う。──急げ優希!」

 

 

 

 

 その背に乗って、鎖を手繰る『精兵』が居る。

 

 

 

 

「──はいっ!」

 

 

 

 

 主を背に乗せ、一層()く奴隷が駆ける。

 ──それこそは魔防隊七番組組長・羽前京香の桃の能力『無窮の鎖(スレイブ)』によるもの。

 鎖に繋がれた首輪を嵌めた生命を『奴隷』とし、強化して使役するその能力によって、犬を思わせる頭部に醜鬼にも負けない白き巨体に変貌しているのが魔防隊七番組寮管理人・和倉優希。

 ──“女”しか入れない魔防隊に於いて、『奴隷』として立派に戦力を張る“男”だ。

 

 

 

 

「……美羅さんっ……!」

 

「(……美羅……、間に合えよ……!)」

 

 

 

 

 ……鎖の握りが固くなる。

 ──羽前京香にとって上運天美羅を現す言葉は好敵手(ライバル)だろう。

 魔防隊への入隊も組長への就任もほぼ同時、醜鬼の頻出する魔都の激戦区である鬼門と裏鬼門を受け持ち、機を見つけては競って来た戦友だ。

 

 ──臨海方面に豪雨のような音が響き、ビルが崩れ、()()がビルを突き破って吹き飛ばされ、空に海すら吸い込む裂け目が現れるその全てを、空折に掛けられた麻痺が抜けるのをもどかしく待つ京香と優希は見逃さなかった。

 

 

 

 

『──……そうか、美羅が食い止め、天花が当てる、と言うやり方だ』

 

『……?……⁉︎それって美羅さんが……⁉︎』

 

 

 

 

 ……その意図、何が起きたのかも理解した。

 

 

 

 

『わた、しは、大丈夫……、美羅に、手を……』

 

『優希‼︎あんた私の弟でしょ‼︎()()()()の力に負けてんじゃないわよ!』

 

「(──……そうだ、俺も魔防隊の、京香さんの戦力だ!なら、足引っ張ってんじゃねぇよ!)」

 

 

 

 

 速度を早めた優希によって、主従はビルの間を抜け随分と見晴らしが良くなった海辺に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──見晴らしが良く、泥の上の遠くまで見渡せたが故に、二人はすぐに目にする事が出来た。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──あれ、」

 

「「──おおおおおおっ!」」

 

 

 

 

 柔らかい泥をものともせずに優希が駆け出し、京香が構える。

 

 

 

 

「「──【豪刃十字架(ごうじんじゅうじか)】!」」

 

 

 

 

 優希の巨腕と、京香の剣術が交差する同時攻撃。

 一際強い力を持つ特殊醜鬼だろうと屈服させ、(かばね)と分つ強撃だ。

 

 

 

 

「──そう焦るなよ!」

 

「「ぐわ、っ!」」

 

 

 

 

 ──その強撃を(空折)は真っ向から迎え撃ち、二人纏めて吹き飛ばした。

 ……手刀と斬撃を受けたその掌にはかすり傷すら無い。

 轟音を叩き付けられ、半壊したビルがより激しく崩れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──姿は変わったけどお前、和倉優希だよな?……お前が奴隷だってのは私も知ってるけど『お前の主の名前は知らないな』、って気付いたんだ」

 

「ぐっ、……」

 

 

 

 

 痛烈な逆撃(カウンター)を喰らいすぐさま立ち上がれぬ優希は、下の階に降り注ぐ瓦礫の中、悠々と歩いて来る空折を睨むしかない。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お前の主も食べちゃおうと思ってるんだけど、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……‼︎」

 

 

 

 

 優希の元に迫る空折は耳を疑う一言を口にした。

 『一度に食べられる人間には限りがあるみたいです』

 ──メモに記されたその文言が嘘で無いのならば、そのメモの記述者が取り込まれる事で一度に食べられる容量すら増やしてしまったのか。

 

 ……いや、それより目の前の神は今なんと言った?

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

「私の奴隷にしちゃう?まとめて食べたらどうなるのかな?……さっきは時間も無かったし、交合もしてみる?」

 

「……ふざ、ける……」

 

 

 

 

 前掛けのような服をめくり上げ始める目の前の神に、怒りを燃やし、力を込める。

 

 

 

 

「……なああっ!」

 

「はああああっ!」

 

「……!」

 

 

 

 

 ──自分より上の階に叩き付けられ、気配を殺して復帰し、神の背後上方に迫っていた主と挟み撃ちを仕掛ける。

 ──羽前京香は優希に出会う前、醜鬼に使ってはすぐに駄目になってしまい使い物にならない能力に頼らず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()組長と認められた唯一無二の逸材だ。

 その力は八雷神にも通るだろう。

 

 

 

 

「──だからそう、焦るなよっ‼︎」

 

「「‼︎」京香さんっ!」

 

 

 

 

 ……神が大人しく喰らってくれるのならば。

 ──振り向き様に捲り上げた服の下、腹部に開いた口がしっかりその姿を捉え、中の触手が京香を狙い、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『天御鳥命(アメノミトリ)』」

 

 

 

 

 ──()()()()()()神を殴り飛ばした。

 

 

 

 

「──ーっ、(これは腕……、じゃなくて手首?)」

 

 

 

 

 ……が、空折が京香と優希を殴り飛ばした時程には吹き飛ばない。

 泥の地面に足で平行線を描きながらも、その()()をしっかり受けて、止まっていた。

 

 

 

 

「──もう一発行くぞ、八雷神!」

 

「‼︎っ、」

 

 

 

 

 ──其処を更に黄金の輝きに殴られ、今度こそ吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あいつ、随分と力強(ちからづよ)いのう。充分に()()()()吹き飛びもせん」

 

「……恐ろしい力ですわね」

 

「や、優希くん無事だった?」

 

「──天花さん!海桐花(とべら)さんに麻衣亜(まいあ)さんも!」

 

「おう、坊主」

 

 

 

 

 京香の危機を救い、空折を退けたのは三人の魔防隊所属者だ。

 ──六番組組長・出雲天花。

 ──九番組副組長・(あずま)麻衣亜(まいあ)

 ──九番組組員・(あずま)海桐花(とべら)

 

 

 

 

「天花!戦えるんだな?」

 

「うん、海桐花さんに治してもらったからね。最後まで持ち堪えてみせるさ」

 

 

 

 

 通信機越しの声ですら分かる程の重傷だった天花が復帰出来たのは海桐花の能力、『東の星霜(うたかた)』による回復を受けたからだ。

 ──その意によって吸い取られ、操られるのは『生命力』。

 傷を負った者に分け与えれば回復に、その身に漲らせ撃ち出す事で攻撃に、──全て吸い尽くせば枯れ衰えた死体へと。

 ……後進が育ったからこそ気楽な平組員に退()いただけであって、ごく近年まで魔防隊の頂点・総組長を務めていた実力者(怪物)だ。

 中学生程の少女の姿は、生命力によって保たれた見た目のみのものでしかない。

 

 

 

 

「ともあれ、あいつとまともにやるのは骨じゃな、麻衣亜」

 

「分かりましたわ、──『足手荒神(おおいなるもの)』」

 

 

 

 

 浮遊する一対の巨大な手首を自在に操る能力、『足手荒神(おおいなるもの)』を持つ麻衣亜は海桐花の()だ。

 先程『天御鳥命(アメノミトリ)』による転移に透明化させた手を合わせて空折への奇襲を成功させた彼女を始め、東の家は実力者達を生んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──んー、このくらいかな?」

 

「‼︎」

 

 

 

 

 ──東の二人を乗せた手首が浮き上がった瞬間、羽織の片袖のみ扇を広げるように巨大化させた空折が羽根の弾丸を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──最後まで持ち堪えてみせんでしょ?こんなのでやられてんじゃないわよ」

 

 

 

 

 ──其処に立ち塞がり、羽根を防ぎ、()()()()()()()淡き色をした()

 その根本に立つのは簡素な服に、首から下の黒い肌という異相をした『人型醜鬼』と呼ばれる者。

 

 

 

 

「優希も、しゃんとしなさい!」

 

「──(ねえ)ちゃん!」

 

「──お義姉(ねえ)さん……!」

 

 

 

 

 ──彼女こそは和倉(わくら)青羽(あおば)

 魔都災害に巻き込まれ行方不明となるも、桃を口にして姿を変えながらも生きていた優希の姉である。

 

 

 

 

「さっきは救護、ありがとうございました」

 

「私こそ、誘ってくれてありがと。……確かに、あいつ()の中にはココと波音が居る……!今も生きて、動いてる……!」

 

「なら吐き出させれば……!」

 

「──みんな助けられるね」

 

 

 

 

 ──同時に銭函ココ、湯野波音ら魔都で桃を口にした者達のリーダー『青羽(あおば)』その人でもある。

 攫われた仲間を救う為、横浜の街に現れた彼女もまた、神に抗う精兵と言えよう。

 

 

 

 

「──行くぞ、あいつ(空折)を倒す!」

 

「──はい!」

 

 

 

 

 跪く優希の鎖を手繰り、背に飛び乗った京香が号令を掛ける。

 人と神、横浜の戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、この程度じゃやられないよね」

 

 

 

 

 ……次々と増援が到着し、敵の攻撃を防げず、自らの攻撃を防がれても尚、全力形態の空折に焦る様子は無い。

 

 

 

 

「まずは数を揃えよっか?──【軍勢神罰(ぐんぜいしんばつ)】」

 

 

 

 

 そうして静かに呟いた空折は──、──()()()()()()

 増えた片方が羽根を降らせ、牽制とするその間に()()()()()

 

 

 

 

「あれは、美羅さんの……!」

 

「……()()()

 

「……()()()()()()()()()

 

 

 

 

 それは『緋色の連隊(オールキリング)』と寸分変わらぬ分身能力である……、筈だった。

 優希達は羽根を切り払い、叩き落としながらもその向こうで起こる()()()()()()()()()()()をその目に入れる。

 二体、三体、十体、五十体、百体……、……()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その数を増して行く。

 『()()』の規模などとうに超えている。

 

 

 

 

「数が……!」

 

「──こんな相手()は初めてじゃの」

 

「──え?」

 

 

 

 

 ──当然『東の星霜(うたかた)』の範囲内である為、何百体と無く生命力を吸い尽くされ、老い朽ちて消えていくも()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 やがて生命力が吸われる範囲をも越え、泥と瓦礫の上を埋め尽くして行くその様に麻衣亜は戦慄する。

 ──だが隣で海桐花がいつになく険しい表情をしているのに気が付いた。

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

「……⁉︎」

 

「──まったく、大した素質を見逃していたものよ」

 

 

 

 

 それは今までの人生で麻衣亜が海桐花と関わる中で、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……海桐花は空折への照準が終わった時点で既に付かず離れずの距離から生命力の吸い取りを開始していた。

 ……()()()

 神に生命力が無ければ無駄に終わったかもしれないが、幸い八雷神は生命力を持つものだったようだ。

 ……だがしかしその生命力が尽きる様子も、底が見える様子も無い。

 ──……今までに無い相手を前にしても尚、老兵は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、言い残す事は有るかな?名前教えてくれたら覚えとくけど?」

 

 

 

 

 ──そうして顕現するは幾千、幾万、幾十万と蠢き、羽ばたき、横浜の海辺を埋め尽くす()()()()

 神が『率いる』軍勢ではなく、『()()()()()』軍勢。

 増殖が終わった事で生命力を失った分身が消え、本体を残してぽっかりと空いた空間を舞台に敵対者へと最後の慈悲(最後通告)を投げ掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──馬鹿め。逃げなかったのがお前の敗因だ」

 

 

 

 

 京香も、天花も、青羽も、勿論優希も。

 ──修羅場を潜って来た者達がそれしきで怯む事は無い。

 神罰の軍勢を前にしても、『裏鬼門』の組長は毅然と、豪然と返した。

 

 

 

 

「──あっそ、じゃあね」

 

 

 

 

 ──空折はその言い様に誰かを思い出すようにほんの少し笑って、あっさり別れを告げた。

 その体表にバチリ、と雷が散る。

 ──次の瞬間軍勢の全てが雷を纏う。

 

 

 

 

「これは、八雷神としての力……?」

 

「……詰んだかもしれんのう」

 

 

 

 

 それは神の身体を針に、迸る雷を(おり)とし紡ぐ、眩いばかりの【軍勢雷衣(ぐんぜいらいい)】。

 地上も空中も関係なく、放たれれば都市をも灼く雷威は高まり続け──、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あいつに筋が無ければ、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──唐突に収まった。

 同時に軍勢の内、浮き上がっていた者達がバタバタと落ちてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え「──今の内にお願いします!」──⁉︎」

 

 

 

 

 自分の意思とは関係無しに大技を止められ困惑する貌の中、全く違う何者かがその口で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は──」

 

「──私は日ノ出(ひので)日ノ出(ひので)冬美(ふゆみ)です!横浜市西区あたりで捕まった者です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 白き奴隷の問い掛けに答えるその心は空折()のものではない。

 その内に呑まれ、それでも保ち抜いた人の()だ。

 

 

 

 

「──そうして出て来たという事は、また神の身体を動かせたんだな⁈」

 

「!はい!でも──「──()()()()()()()──!」──見ての通り今の全力形態相手だと抑えきれません!早くっ!」

 

 

 

 

 一つの身体がもがきながら二つの意思で喋る。

 

 

 

 

「またっ、(わたし)の身体を──!「──私の魂がこの神を抑えている間に!」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()⁈」

 

 

 

 

 『私ごと神を攻撃しろ』と伝える片方の声に、京香は意思の確認をする。

 ……『お前にも猛攻を加えるが、文句は無いな?』と。

 

 

 

 

「はい!()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「──……分かった、充分だ!」

 

 

 

 

 その()()の堅固な様に僅かに陰を浮かべた後……、京香は獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──!──『天進』で行くぞ、優希!」

 

「──はいっ!」

 

「──私達も」

 

「ブッ飛ばすわよ!」

 

 

 

 

 ──濁る海は僅かに陽光を照り返し、小さくとも確かな輝きを届ける。

 

 ──一度は沈んだ、日がまた昇る時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 








【『目覚メ』大山の、日ノ出】




 ……詰め込み過ぎて伸びまくった事を謝罪します/ここが一番の転機なんで詰め込みまくりました/前回の引きから納得行くとこまで入れました/美羅さんかっこいい/原作主人公主従の活躍が少なめですいません/治ったとはいえ天花さんボロボロにしてすいません。

お好きなものを受け取り下さい。
この下も長文設定アリ。

(2024.11.21.本文に一部文章を追記)

※原作改変ポイント!
:この世界に“(たましい)”の存在が確定した!

「魂」
…原作で紫黒や美羅さんが言及しているが今の所それがものの例えなのか、あの世界では生命が持っているものだと桃の能力とか神の力とかで証明されているのかは不明。
 ……死者を呼び出して使役するとかいう能力がある以上、霊媒とかポルターガイストとか幽体離脱とかの能力があってもおかしくは無いだろうけど……。
 ……ともかく本作の中で扱われ、明らかになっていく“魂”の全てはオリジナル設定となります。
 ご了承ください。

:空折戦が変化!
:やりとりも変化!
:横浜の街の被害増加。
:空折が四人呑んで原作よりも強化された!
:空折が主人公呑んで原作よりも弱体化した!
:美羅さんが『人型醜鬼』と『陰陽寮』について知った!
 (……今後の原作によっては美羅さんの反応が変わった!にもなりえる)


日ノ出(ひので)冬美(ふゆみ)
…魔防隊への憧れがあったからこそ前話でそれなりに語れた。
 魔防隊への憧れがあったからこそ記憶力を強化する程度の能力では入れないと早々に進路から外した。
 ──その眩しい背中に、自らの内の願いを見つけ出した。
 ……自信が無いのは変わらない。
 だが最早そんなものに左右されはしない。
 日が昇るように、転機を迎えた。

 フルネームが明らかになった主人公。
 (……もし狙いに気付いてもその時までは沈黙をお願いします)
 年齢は二十五、実年齢より数歳若めの外見だが余り自覚は無い。
 名前の由来は生まれた日が身に滲みるような冷え込みの中、輝かしき朝日が登った美しい冬の日だったから。
 ……実は打ちのめされた後も時折なんとかして能力(だと思っていた事)を鍛えようとしていた。
 再び空折に割り込んだ時に自己紹介入れたのは『名乗った方が確実に分かる』との話し合いでのアドバイスが有ったから。
・『魂の拡大と強化(仮)』
…冬美の桃の能力。
 自らの魂を神と伍するまでに巨大化し、強化する。
 具体的には全く無自覚の状態でも初見であれば三人呑んだ空折に勝ち、魂を自覚した後は四人呑んだ全力形態の空折相手でもせめぎ合える程。
 ……ただし今までは肉体に影響を及ぼして霧散して死なないように、その魂は無意識のうちに折り畳まれ肉体との整合性が取られていた。
 そこら辺も疑った陰陽寮が調べて分からなかったのは見た目上の重さや大きさが肉体に釣り合って観測されたから。
 記憶力の強化に見えたのは魂が巨大である分、焼き付けられる記憶の量も大きかったから。(記憶を読み出す能力は変わらなかったので微妙なものに)
 空折が身体を乗っ取られたのは説明通りで、空折が身体を取り戻せたのは冬美の肉体を取り込みきった事で魂の大半を侵食し返して制御下に置いたから。──それでも侵食しきるには時間がかかり、残り一片あたりで冬美が意識体(アバター)で目覚めた。(二話ラスト)
・『魂の仮想空間(仮)』
…冬美の魂が演算し出力した仮想空間。
 空折の内に眠らされていたココと波音に空折を通して冬美も触れている事で出力する先の無い二人の意識を意識体(アバター)として呼び込めた。
 厄介な事に仮想空間の大元()は冬美そのものとも言えるので、何も無ければわざわざ冬美自身の意識体(アバター)を作る必要が無い。一人で作るには自分の魂を自覚しなければならないが、折り畳まれている為自覚は出来なかった。
 なのでもし冬美が最初に呑み込まれてたら仮想空間を足掛かりにして耐える事も出来ずに詰んでた。
 銭函ココパイセンと湯野波音パイセンにはマジ感謝ッス。

:ココ
…『桃を食べる前は何処で何をしていたか』
 『そもそも陰陽寮に捕まっていたのか』
 思い返すと、……言及されてたっけ?って事に出会してしまう人。
 作者の見落としと気のせいであってほしい。
 アニメ化に伴い『水も滴る風雲児(ココジュース)』というやたらカッコいい能力名となったヌルヌルは(空折の能力として)大活躍。
 ……この人取り込んでなかったら美羅さんにボコられて終わってたであろう空折は何よりこの人に感謝するべきだった。

:波音
…『モデルやってたなら報道とかマスコミにツテ有ってもおかしくないんじゃね?』という安易な考えにより、本作では世に訴えようとやっとの思いでこの人のツテを辿ったら口先では誤魔化してたけどどう見ても怪物扱いされ陰陽寮の揉み消しを受けたという設定。
 よく考えなくても『人型醜鬼』なんて呼んだらブチギレそうなお方。
 ……てかいくら醜鬼の力を得ているからって『人型醜鬼』はあんまりにもあんまりな呼び名じゃないっすかね……?
 強化されてドバドバ使われた『水も滴る風雲児(ココジュース)』に対して、強化されたのか分かりにくい上にバッチリ対策されてあんまり使われなかった『隠された美(ヒトリシズカ)』は影が薄くなってしまった。

:美羅
…めちゃくちゃキレた。
 ……もっと冷静に行くもんだと思ってたけどめちゃくちゃキレた。
 年上(冬美)相手に敬語を使い出した後、一度だけタメ口になってる。
 能力の活用や天花との連携で何回か死んでるレベルで空折を追い詰めるが惜しくも敗北した。
 三話ラストで冬美が魂を自覚したタイミングと合わなければ……、……と見えて空折は殴り合いに入った時点で魂を支えにする耐え方に気付いていた為あの時点で敗北は確定していた。
 だが『美しさ』に触れた挑発も交え、空折をあの場に引き止めておいた時点で最低限の役割はしっかり果たした。
 ……そして陰陽寮の所業、人型醜鬼の真実を知る。

:天花
…空間操作なんて強い能力が有るのに、身体能力も耐久力も妙に高いお人。
 桃にデフォルトで『食べた者の身体能力を強化する力』でも無いと姉ビームを鍛えた(はずの)肉体だけで重傷くらいに抑えた事になってしまうんですが……。
 ともあれビルを幾つか突き破ったものの、重傷くらいで耐え抜いて超巨大な空間断裂を起こし、海桐花さんに治療されて戦線復帰した。
 ……え?姉ビームは[とくしゅ]でビル突き破りは[ぶつり]だろって?
 (……某七番組寮管理人の奴隷くんへの慕情を捻じ込めなかった)

:空折
…『原作キャラ強化&弱体化』
 体内がどうなっているかは6巻の卵状態の時と同じと仮定したもので、どう取り込まれて行くのかは本作での捏造ですのでご容赦を。
 自らの身体に侵食して来た冬美の魂を利用できるようになった事で
 :魂の大きさを反映した手足や羽織の巨大化。
 :魂の裏付けによる取り込んだ桃の能力の強化。
 :魂の支えによる耐久力の強化及び耐久力を支えにした膂力の強化。
 :魂の巨大さが齎す容量の上昇による一度に呑み込める人間の人数の増加。
 :魂の強さ×大きさ×神の肉体による生命力の増強。
 といった数々の強化を得た。
 ……人の魂を使っている事で感性も変化した?かもしれない。
 『ココ・波音・冬美』の三人の時点でも三人呑んだ時の原作と同等以上に強かったが、美羅を呑み込んで取り込んだ人数が四人に達した事で強化版『緋色の連隊』の超大量分身に加え、新たに八雷神としての発電・放電能力まで解放されヤバい事になった。
 ……所で割り込んで来た冬美の自我に再び身体を操られ、それら全ての使用を制限された。
 冬美に対してめちゃくちゃ感謝してたのに……、……とは一方的に食べて一方的に伝えている時点でならない。
 自業自得である。
 残念。
 ちなみに二話で身体を取り戻した際に言って冬美が上手く聞き取れなかった
(わたし)よりでっかい■なんて■■が私がうつく■■とおもっ■だけの事は■■よ」
「■■■、聞いときゃ■■■■かな?顔だけしか■■■■けど、お前の事はおぼ■■■■。■■■■」
というセリフは
(わたし)よりでっかい(たましい)なんて流石(さすが)私が(うつく)しいと(おも)っただけの事はあるよ」
名前(なまえ)、聞いときゃ()かったかな?顔だけしか()らないけど、お前の事は(おぼ)えとくよ。おやすみ」
と言っていた。
 この時点で前二人よりめちゃくちゃ印象に残っている。
・【巨万神罰(きょまんしんばつ)
…巨大化させた手足で暴れる。それだけ。
 部位の比率はそのままなので“ギア3”ではなく“ゴムゴムの巨人”。(※ONE PIECEのネタバレ注意!……物の例えなのでクロスオーバーではありません)
 ……手足しか巨大化できなかったのは冬美の魂を侵食しきれてなかったから。
 侵食しきれてたら某八雷神(雷煉)の全力形態の大きさを上回る巨大化ができてた。
・【軍勢神罰(ぐんぜいしんばつ)
…大量の分身を生み出す。それだけ。
 ……それだけだが、数万、数十万体以上の分身が生み出されている。
 その数で羽根撃ったり【巨万神罰】したり、ただ方々に飛び去って破壊活動されるだけでもヤバい。
 横浜どころか首都圏含む関東平野一円、ひいては日本がヤバかった。
 ……ヤバかったが冬美の魂を噛ませてそれだけの増殖を実現させた為、その介入であっさり操られてしまう。
・『発電/放電』
…八雷神としての力が増す事で使用可能になった。
 ……というオリジナル設定。
 ……電撃なんて縁もゆかりも無さそうな(ひと)が説明も無く使ってる一方で、使えるならなら使いそうな(ひと)が今んとこ使ってないんだよなぁ、電撃……。
・【軍勢雷衣(ぐんぜいらいい)
…で、その電撃を【軍勢神罰】の軍勢全てで行い、繋げて増幅させた技。
 組長格でも防げるか危うい大技だったが、冬美の介入で不発。

:和倉優希
…ようやく『奴隷』たる所以を披露した原作主人公。
 ……今話ではあんまり活躍できてないです、すいません。

:羽前京香
…優希の主にして、七番組鬼の組長。
 この人も生身でビルにぶつかって、直後に奇襲かけてるけど天花さんより飛距離も短いし肉体派だからへーきでしょ(小並感)。
・【豪刃十字架】
…主従による連携技。
 せっかくかましたのにかませになってしまった。

(あずま)海桐花(とべら)
…元・魔防隊総組長にして現・平隊員。
 ……相手が生命である、というだけで有利になれるだろうお方。
 『『足手荒神(おおいなるもの)』でガン逃げしつつ生命力を吸い尽くして倒す』という作戦は通じなかったが、生命力の底が見えない神相手でもその豪気さは損なえない。

(あずま)麻衣亜(まいあ)
…眼鏡をかけた魔防隊九番組副組長。
 外見年齢的には母親と同じくらいに見える……、のは母親が若々しいだけだろう。
 八雷神とタイマン交わした六番組副組長の妹と、その妹に密かな溺愛を向けられる七番組副組長の妹がいる。
 東スゲー(小並感)。

和倉(わくら)青羽(あおば)
…神をも恐れぬ優希の姉にして、ココ・波音達のリーダー。
 天花さんが出撃を急ぐ間に抜け目なく連れて来た。
 海桐花さん達が来る前に髪を使って天花さんの応急処置もしている。
 ……原作で分身引き付ける時、東家二人はこの人認識しててもおかしくないような……?
 ……実はガッツリ『東の星霜(うたかた)』で生命力吸われてるが気合いと桃の過剰摂取で耐えてる。

:魔防隊
…アニメ化に伴い『魔都防衛隊』から『魔都防衛特殊部隊』に正式名称が変わったらしいこの世界の花形。……ブラッシュアップは良い事ですよ!はい。
 『神に抗える程の能力を持った慎重で周到な人物』が取り込まれた事……と『情報が正しかった場合、空折を逃がす事で神に人間が詳しい情報を得たと知られる』のを防ぐ為に、物的被害は無視してでも空折を討つ方針。
 ……多分総組長は最悪横浜の街()犠牲にする事も考えてる。
 潜行能力の有る相手には無駄かもしれないが、それでも海上保安庁・自衛隊にも協力を要請し可能な限り警戒網を増強している。

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