その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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大山、神に叛く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはちっぽけな灯りのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──きっとここが分け目になる」

 

 

 

 

 アメリカ合衆国、ワシントンD.C.。

 未だ世界に名だたる大国の首都にて、闇に沈む遥か西の空を眺める者が居た。

 

 

 

 

「……八雷神。何処から来た誰だったのか、謎に包まれた者()()()。けど、答えは齎された──。──まぁ唐突の事で信じられない人も居るけれど」

 

 

 

 

 彼女は故国──、──日本から届いた情報を口ずさむ。

 この世界に於いて唯一魔都の入り口(クナド)が開く日本にとって、内容が正しければ値千金となる情報を。

 

 

 

 

「でもその代わり()()()()()()()八雷神(空折)の手に渡っている。……私に並ぶかは、まだ分からないけれど」

 

 

 

 

 ……しかしその代償として、一人の人間──桃の能力者である女性が神の強化部品となりかけている。

 ……口には出さないが『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』を勘案し、万が一の時はその神と被害者を()()()()消し去る事への許可が既に出されている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「──だからこそ現世に在って魔都の今後を左右する、貴方達が挑むのはそんな戦いよ。美羅、天花、京香」

 

 

 

 

 だがしかし、それは最終手段だ。

 横浜の街には今も戦う魔防隊──、精鋭の中の精鋭たる組長が三人も対峙して居る。

 組長(彼女)達を呼び捨てに、その口からは確信に近い予感を以って言葉が紡がれる。

 

 

 

 

「──そちらは頼んだわよ。──()()()()()()()()

 

 

 

 

 ──この国の大統領に感涙と共に『地球の答え』と評された猛者が一歩を、踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【天進(てんしん)

 『無窮の鎖(スレイブ)』によって強化され、変身した和倉優希の更なる強化形態。

 漲る力を湛えたその身体は力強い光を纏う。

 

 

 

 

「──『(くも)(みね) (いく)(くずれ)て (つき)(やま)』……」

 

 

 

 

 奴隷の強化に合わせ、主も言ノ葉を紡ぎ、枷を外す。

 醜鬼によって滅びた故郷を詠んだ句を引金(トリガー)として脳の制限機構(リミッター)を解除し、羽前京香は身体能力を爆発的に高める。

 ──魔防隊でも屈指の身体能力が、短時間とは言え更に強化される。

 

 

 

 

「……のっ……!動けっ……!「……っ、動かしません……!」」

 

 

 

 

 ──その力をこれから向けられる神は動く事を許されない。

 未だ名も無き、神に伍するだけの力。

 拡げられたその魂が神の身体に(うち)から組み付き、必死に足止めをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──全く、此方(こなた)の知らん強さがあちこちに眠っておる。(まこと)、素晴らしき時代、素晴らしき世界よ」

 

 

 

 

 それらを眼下にして東海桐花は笑みを浮かべる。

 片や“外れ”の能力の真価を目覚めさせ、男でありながら『奴隷』として魔防の戦列に加わる者。

 片や“当たり前”の能力と誰もに思われ、当人すら知らなかった力を以って神との戦いの中心に立つ者。

 『人か魔か、』と評された強者は眩き素質()に口の端を吊り上げた。

 

 

 

 

「──冬美と言ったな⁉︎大まかで良い、分身は動かせるか⁉︎」

 

「──お前、そんななま「っと、はい!できます!」

 

 

 

 

 上空からの大音声(だいおんじょう)に──ただでさえ神を抑えている中での更なる無茶振りとも言える大音声に──、『それは可能だ』と空折の喉から負けじと声を張り上げる。

 

 

 

 

「なら橋の方に全部寄越せ!()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 ニカリ、と笑うその要請に応え意を走らせれば、『緋色の連隊(オールキリング)』に冬美の魂を噛み合わされて現れた神の軍勢はふわり、フラフラと飛び立って行く。

 それに先駆けて先頭を翔ぶのは一対の手首。

 

 

 

 

「──麻衣亜、此方を下ろしたら全速で離れよ。──車も居ない事じゃ、()()()()()

 

「──はい、分かりましたわ。……御武運を」

 

(まーった)く、誰に言っとるんじゃ‼︎」

 

 

 

 

 ──それを操る東麻衣亜は、隣に乗る何時に無く戦意を滾らせた祖母の姿に気圧されるものを感じていた。

 それでもその勝利を祈り、生意気とばかりに笑った祖母に尻を叩かれた。

 

 

 

 

「では──」

 

(おう)。……全く、ゴキブリのように増やしおって」

 

 

 

 

 そうして東海桐花は三角にケーブルを張った海上橋の上に降り立ち、フラフラと海上に殺到する神の分身達に呆れ声と、

 

 

 

 

「──全滅のさせ甲斐があるわ!」

 

東の星霜(うたかた)』、()()()()

 

 

 

 

 ──凄惨な笑みを向けた。

 ──次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……『東の星霜(うたかた)』は相手が生命力を持っている限りは先ず優位に立てる恐るべき力だが、周りに味方の生命が居ると巻き込まない為の敵味方識別など手間が掛かってしまう。

 

 ──()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「ふははははははは!滾るのう!滾るのう!」

 

 

 

 

 その結果が橋に近付いた分身の()()だ。

 押し出されるように橋に近付く度『東の星霜(うたかた)』の中心(海桐花)に生命力を吸われ、早回しで老い朽ち、塵霞と化す。

 吸い出された生命力は最早その身体に収まらず、黄金の輝きとして纏われている。

 

 

 

 

「たっぷり使ってくれた礼じゃ、()()()()()()()!」

 

 

 

 

 ──纏われた生命力(エネルギー)は矢の形を成し、更なる殲滅へと繋がる。

 

 

 

 

「【金弓箭(きんきゅうせん)】!」

 

 

 

 

 ──雷雨の如く放たれた金色の矢は瞬く間に生命力が吸われる範囲を飛び越えて炸裂し、神の軍勢を大いに削り取った。

 

 

 

 

「──のっ!」

 

「おう、あの神が動かせるのが残っていたか。だがそれしきでは通らぬぞ?」

 

「ぁぁっ、」

 

 

 

 

 ──その背後から無数の羽根が放たれる。

 なんとか空折の意思で動けた分身は撃ち出した羽根が纏うエネルギーに阻まれたと思う間も無く、超速で飛び上がった海桐花に頭を掴まれ老い朽ち霞と化す。

 

 

 

 

「──あいつのお陰(生命力)で最高潮じゃ。やるなら早くせぬと、此方一人で平らげてしまうぞ?」

 

 

 

 

 元総組長は殲滅を続けながら遥か東の空に、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神の、軍勢が……!「「──お前の相手は私/俺達だ!」」「はいっ!」っ⁉︎」

 

 

 

 

 余りにもあっけなくやられていく神の軍勢の様に愕然とする空折の耳朶を咆哮が叩く。

 ──瞬間、合いの手と共にその方向へとぐるりと身体が向き直る。

 そしてめいいっぱいの意思で身体を押さえ付けられる神の眼前で、初撃の再演のように主従が飛び上がる。

 

 

 

 

「「【天刃十字架(てんじんじゅうじか)】‼︎」」

 

「ぐぅ、っ……!」っ、!」

 

 

 

 

 ──だが初撃のようには仕損じない。

 大気と大地すら余波で切り裂き、今度こそ神の身体に十字の傷を深々と刻みのけ反らせる。

 

 

 

 

「はあっ!」

 

「っ、らぁ!」

 

「「おおおおおぉ!」」

 

 

 

 

 間髪入れず天花と青羽が両脇から挟み込むように、京香と優希も続けて正面から追撃に掛かる。

 剣圧に負け、隙を晒す空折の──、──()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「「‼︎」ちいっ!」

 

 

 

 

 左右に放たれた羽根の弾丸を青羽は髪で対処し、天花は転移で回避する。

 そして今度は正面の京香と優希に合わせ、背後から挟み撃ちにする。

 

 

 

 

「──神をっ、舐めるなっ!」

 

「ぐあっ……!」

 

「っ、優希くん……!」

 

 

 

 

 だが、前後に円を描く回し蹴りで纏めて迎撃される。

 天花は再び転移を使い回避したが、拳を弾かれた優希はその重撃をまともに喰らい苦悶を吐き出しながら後退りさせられた。

 

 

 

 

「ぐ……⁉︎」

 

「かはっ……!京香さん……、……これって」

 

「……元が戦う術の無い民間人である以上、当然の事だ」

 

 

 

 

 だが肉薄し、突き放されるまでの交錯に京香が斬撃を蹴り脚に刻み、空折を怯ませていた。

 怯んだ隙に優希が血反吐を吐きながら姿勢を立て直す。

 斬られた足を突く空折もまた、体勢を立て直し傷を再生させている。

 ……その動作に先程までのように内から抑えられている様子は無い。

 つい先程まで下手な二人羽織のように空折の身体を動かし、言ノ葉を届けていた冬美は【天刃十字架】を喰らってからは嘘のように大人しい。

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 その理由に京香はこの戦闘が始まる時、冬美に攻撃に巻き込む事への確認を取った時と同じ……、……苦みを帯びた表情を浮かべる。

 助けられなかった被害者(冬美)に更なる苦痛を与える不条理に歯噛みしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーっ、っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋭い、鋭い鋭い、

 光り、光り光り光り、

 

 チリチリ、ギリギリ、ギリギリ

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おい大丈夫かよ、(ふゆ)!」

 

 

 

 

 ……頭から何かをかけられてようやく()()は引いて行った。

 

 

 

 

「あ、はぁ、ありがとうございます」

 

 

 

 

 ()()は『痛み』。

 目の前が光って、錯乱しかける程の激痛。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは美羅さんの顔面パンチに割り込んでしまった時に分かっていた事だ。

 ……分かっていた事だけど、深々と切られる痛みは殴られる痛みとはまるで違うものだった。

 刀で切られた身体の芯まで真っ二つになったような鋭く鮮烈な痛みと、手刀で断たれたじくじく滲む潰されへばり付く鈍い痛み。

 ……敵に二種類の痛みを与えるこんな技を作った羽前(うぜん)京香(きょうか)さんと和倉(わくら)優希(ゆうき)くんとやらはとんでもないドSじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

「ほら!もう一発『水も滴る風雲児(ココジュース)』だ!」

 

「ありがとう、ございます……!」

 

 

 

 

 ……情けない話、セコンドに付いてくれてるココさんがいなければ耐えられなかったと思う。 

 ──空折の身体で試した時には全く気付かなかったけれど、あの粘液もといココさんの能力で分泌される『水も滴る風雲児(ココジュース)』には治癒能力がある。

 仮想空間のまやかしとは言っても、ココさん始め接続(アクセス)している人達のイメージ/記憶がしっかりしていれば私の魂が演算して痛み止めくらいには再現してくれる。

 

 ……もっとも空折の身体で感じる痛みは魂ではなく身体で感じてるので、痛み止めと言っても気休めにしかならない。

 どちらかと言えば粘液(ヌルヌルする)という『違う感触』を与えられる事の方が役に立ってる。

 

 

 

 

「……なあ、ホントにアンタがここまでしなきゃいけねえのかよ⁉︎」

 

「っ……、はい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!心配かけてすいませんけど、引き続きよろしくお願いしますココさん!」

 

「……っ、……分かったよ!」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()、空折の身体への干渉が弱まってしまった。

 また繋ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(さっきのあの技(天刃十字架)……。あいつが引っ込んだのは良いけど……、……まだ治りきってない)」

 

 

 

 

 ──……空折は未だに癒着しきらず、再生も終わっていない【天刃十字架】で負わされた傷を撫でながら思索を巡らす。

 

 

 

 

「(足だってかすっただけなのに深く斬られた……、近付かれると危ないな……!)──なら遠距離でっ、!」

 

 

 

 

 その思索は傍目には分からない程の高速で行われ、傍目には隙を突いて突然羽織が開いた様に見えた。

 開かれた羽織は雷を纏い、葉が茂り重なるように幾枚も開かれた羽根が今この瞬間に放たれようとする。

 

 

 

 

「仕留「──すいません!()()()()()()()!だからっ」またっ……!」

 

「けど……」

 

 

 

 

 ──その動きがまたしても止められる。

 

 

 

 

「──言ったわね、吐いた唾飲まないでよ!」

 

「「っ、ぷぐっ!」──はい!」

 

 

 

 

 躊躇いが僅かに身体を止める中、真っ先に飛び出したのは青羽だ。

 棒立ちになっているその腹、胸、顔面を全力で殴り付ける。

 神さえよろめかせるその強打を──、──今度は手綱を離さず、耐え抜いて冬美が意識を保つ。

 

 

 

 

 

「──うちの可愛い優希に血ぃ吐かせてくれたみたいね、お返しよ!」

 

「──それはいいですね」

 

「っ⁈「ひゃっ⁉︎」」

 

 

 

 

 弟を傷付けられ怒り心頭の青羽の連撃に、天花も加わろうとする。

 が、せめぎ合うバランスが崩れ空折の身体がすっ転ぶ。

 そのままゴロゴロと地面を転がり逃れようとする空折を青羽の髪が襲う。

 

 

 

 

「このっ、ちょこまかすんじゃないわよ!」

 

「日ノ出さん、動きを止めるのを優先できますか⁈」

 

「やってみますっ……!「(くそっ、なんとか──)」」

 

 

 

 

 冬美に動きを制限され、髪の毛と転移から転がるようにして逃げながらも、なんとか動かせる片手で『この状況を打開するものは無いか……⁈』と着衣をまさぐる。

 ──その手が一枚のカードに触れた。

 

 

 

 

「「そうだ、これが……!」」……えーいっ、!」っ、あ」

 

 

 

 

 それはとっておきとして残しておいた強力な醜鬼が一体、収まるカード。

 ──記憶を読み取った冬美もその厄介な能力は覚えていたので、神の腕力を以って全力投擲した。

 高速回転しながら飛んで行くカードは、今やその全てが海上に収まった神の軍勢の後端へと紛れてしまう。

 

 

 ──瞬間、海上に“柱”が立った。

 

 

 

 

「解、……は?「……え……?」」

 

 

 

 

 一拍遅れてなんとか口を動かしてカードの中の『叫び声が超音波となり、範囲内を無差別に破壊する』と言う広範囲を攻撃出来る厄介な能力を持つ超巨顔の醜鬼を解放しようとした空折は、カード諸共軍勢を消し去った“柱”に口の動きに割り込もうとした冬美共々呆然とする。

 

 

 その僅かな間に次々と()()し、神の軍勢を押し潰し消滅させながら何本もの柱──水柱が立つ。

 

 

 

 

「「あれは……」?」

 

「……総組長の能力、だな」

 

「相変わらず凄まじい、ね」

 

 

 

 

 魔防隊の組長達だけが“柱”の正体を分かっていた。

 ──『魔都防衛特殊部隊』、その(すべ)てを束ねる者の仕業だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ひとまずはこれで壊滅ね。……一刻も早く片付ける為とは言え、海底が荒れる事になったのは頂けないけれど」

 

「(す、すごい……)」

 

 

 

 

 繰り返しに八度。

 蹴り上げられた足を下ろすのは魔防隊、“総組長”。

 ──その行いに弁舌にも優れている筈のアメリカ大統領は単純な感想しか浮かばなかった。

 『万物(ばんぶつ)総該(そうがい)した無限宇宙(むげんうちゅう)全一(ぜんいつ)』。

 ()()()()()()()()()()規格外の桃の能力はワシントンD.C.から蹴り放たれ、およそ一万km離れた横浜沖の軍勢を正確に狙い撃ち、壊滅させていた。

 

 

 

 

「──ああ、人工衛星や航空機にはかすり傷一つ与えていませんのでご安心を」

 

「え、ええ……(……恐るべき精密さだわ)」

 

 

 

 

 ……軽く『かすり傷一つ与えていない』と言っても一万kmもの長距離の間に人工衛星や航空機がどれだけの数飛んでいるのだろうか?

 しかも横浜沖の広範囲に広がった神の軍勢の全てを捉える為に着弾地点を変えて八発放っている為、把握するべき軌道も八本分だ。

 更に遠距離にものを届かせようとすれば僅かに狙いが狂っても着弾点からは逸れてしまう。

 桃の能力が無ければ一kmどころか五百mの狙撃でも人間は苦労と訓練が必要なものだ。

 ──それをこの人物は一万kmである。

 ……髪の毛程の狂いも許されるかどうか。

 途方も無い射程距離と僅か八発で洋上に踊り出された神の軍勢を壊滅させる威力、──その上で望み通りの軌道を描く事の出来る精度を併せ持つそれが()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「予断を許さない状況ですので、私はまだ暫く外に。ご迷惑をお掛けしますわ」

 

「は、はい……!(……しかもそれだけの力を八回も放ったのに汗一つかいてない……!『地球の答え』、凄まじいわ……!)」

 

 

 

 

 大統領は再び感涙に咽びそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『天御鳥命(アメノミトリ)』──」

 

「あ、「──っ‼︎」、っ」

 

 

 

 

 意識の空白という不意に天花が空間断裂を放つ。

 空折の身体は冬美の意による拘束を押し除け、動かせた足一本でなんとか飛び退き即座の直撃は避けた。

 ──が広がり吸い寄せる断裂に一瞬の猶予も無い。

 足一本ではその一瞬から逃れられない。

 

 

 

 

「──なら、こうだ!「!」」

 

 

 

 

 ──だから、分身を生み出した。

 分身を一方向から集中して生み出す事で割り込みを防ぎつつ、身体を押し出す。

 

 

 

 

「(──それに、これなら!)「あ、っ──! 」

 

 

 

 

 そしてバラリ、と落とした羽根を何本も身体に突き刺し、痛みで冬美が怯んだ隙に全力操作して身体ごと動かす。

 『羽根を操作する感覚なんて持ち合わせていないから、割り込みも上手くない』と言う狙いは正解だった。

 

 

 ──そのまま崩れかけのビルに突っ込み、身体を振り回す。

 

 

 

 

「〜〜〜っ「よし、このまま──!(──こいつをなんとかしないと()()()()()()()()()()()!急いであいつの魂を叩き潰す……!)」

 

 

 

 

 その不規則かつ振り回される軌道で今までの人生で曲芸飛行には縁の無かった冬美の目を回すのと同時に、魔防隊の目も振り切る。

 ──目的は冬美の魂の完全攻略。

 

 

 

 

「……、これか……!」

 

 

 

 

 ビルの一室に滑り込み、自らの身体に満ちる人間の魂、そこを侵食する(自分)の気配を感じ取った空折は意識をその気配に移した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐt────(なん、だこれ、動け、ない)」

 

 

 

 

 ──魂に侵入した空折は透明な何かに圧し潰されたかのように動けなくなった、

 

 

 

 

「──ッ、ギャ⁉︎」

 

 

 

 

 かと思えば高速で硬い何かに叩き付けられた。

 

 

 

 

「……うu(ま、た……!動けない……!あいつの妨害か……!)」

 

 

 

 

 動いていると感じられない程に行動を鈍らされ、逆に自分でも制御出来ない程に行動を早められる。

 空折はこの妨害を魂の持ち主によるものだと察した。

 

 

 

 

「(……でも!()の身体と繋がってるなら私からも干渉ができる……!)」

 

 

 

 

 ──だが此処は人の中で有ると共に神の中でもある。

 空折が念じれば、身体の下から束になった触手が持ち上がり妨害を振り払ってその意識体(アバター)を自由にした。

 

 

 

 

「ふぅ……。……それでここは魂の表層……、……いや、あいつの心象風景と可視化された魂の状態が重なり合った擬似空間か」

 

 

 

 

 空は広く、山並みは果てしなく、──触手の海はその混ざりに山並みを浮かべる。

 意識体(アバター)を落ち着けた空折が見回すのはそんな光景だった。

 

 

 

 

「ここがあいつの、…………『ふゆみ』の中か」

 

 

 

 

 その光景に、思いがけず耳にした名が零れ出る。

 自分が、今の自分(空折)が初めて食べた人間。

 呑み込まれたのに腹の中から身体を乗っ取った人間。

 僅かな差で敗北していた戦闘に勝利を与えた人間。

 確実に勝利しかけていた戦闘に敗北を齎そうとする人間。

 ……名前の全てを名乗った時は『ふゆみ』が五感も落としにかかっていたので聞き逃してしまった。

 

 

 

 

「ふゆみ、……ふゆみ」

 

 

 

 

 しゃぶるように、転がすように、この景色を抱く魂の名を口にする。

 ……山は纏まり、空は澄む。

 ……木々は麗しく、岩は確かに。

 ……水の流れは美しき帯として輝きを与え、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 長閑としつつも雄大で、秘められた力強さを感じさせる()()()光景の中で自分(触手)だけが()()()()()異物である事に苛立ち、苛立ちに応じて魂に掛ける力が強まる。

 そうすると触手の海(可視化された空折の力)は広まり、美しき山景が更に台無しになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………全部(わたし)で塗り潰しちゃえばいいだけさ。そうだろ⁉︎」

 

「⁈」

 

 

 

 

 ()()()()()()()『ふゆみ』の意識体(アバター)()()()()()()()()()()()()

 魂に掛ける力が強まった事によってその意思の中心とも言うべきものが有る位置は分かっていた。

 あとは浸透した神の力で囲って押し出せば自ずと引き寄せられる。

 

 

 

 

「っ!」

 

「!ちっ、」

 

 

 

 

 だが岩壁がせり出し、引き寄せられる動きを遮り、食い止める。

 更に大木が槍のように次々と空折へと突き立てられる。

 大地はうねり、意識体(アバター)に迫る触手の波を押し退け、遠ざける。

 

 

 

 

「──()に逆らうなんて無駄な事だよ!」

 

「──っ、……⁉︎」

 

 

 

 

 『ふゆみ』の抵抗を易々と躱し、意識体で羽根の豪雨を降らせる。

 この仮想空間に於いてそれは実体を持つものではない。

 しかし現実と同じように壁と張られた岩壁や木立に突き立ち──、──()()()()()()()()()()

 羽根もまた可視化された神の力である以上同質のもの(触手)に変える事も容易い。

 現実空間では出来ない芸当だ。

 

 

 

 

「私に捕まってべそかいてた人間(おまえ)(わたし)に勝てるわけないじゃん?私の中で大人しくしてなよ?」

 

 

 

 

 壁を回り込み、乗り越えて来た触手の先端が『ふゆみ』の足首に絡み、空折の意識体(アバター)の元に引き出そうとする。

 魂がどうなるか分からないから殺しはしない。

 神の意識の中に呑み込んで、閉じ込めてしまえばこの魂に命令を下せるのは空折だけとなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………気付きもしなかった」

 

「?」

 

 

 

 

 神の力の強さから言えば指呼の間、二度とは戻れぬ(あぎと)の縁に在る『ふゆみ(人間)』は──、

 ぼそり、と何かを呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……いや、()()()()()?)」

 

「私はずっとここにいたのに、泣いて、嘆いて、諦めて……、……諦めたようなふりをして」

 

 

 

 

 枕元の看取り人への最期の懺悔にも、誰に聞かせようともしない独白にも聞こえる呟き──、──敵の居る前でやれば只の無駄口でしかない筈の言葉の羅列の間にも、触手は『ふゆみ』を引き摺り出そうとしている。

 ()()()()()()

 神の力は確かにその足首に引き寄せる力(触手)として絡み付いている。

 ──だが、根を張った様に動かない。

 それは巨岩を一筋の糸で引っ張るかの様な──、──絶望的な手応え。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は私をないがしろにした。私の全てを知ろうとしなかった。──私の願いを、掘り下げなかった」

 

 

 

 

 故に、何も邪魔出来ない。

 言葉を紡ぐ事も。

 其処に立つ事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう泣かない」

 

 

 

 

 ──誓いを成す事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう嘆かない」

 

 

 

 

 ──前を見据え、神に叛く事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう諦めない!」

 

 

 

 

 ──戦いを選ぶ事も。

 ──轟音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は諦めない!」

 

「‼︎」

 

 

 

 

 大地を突き破る十の柱が触手を千切り、空折を飛び退かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は諦めない!──()()になんて負けない、負けやしない!私の居場所はここじゃない!」

 

 

 

 

 それは啖呵を切る冬美を、神の届かない高みへと連れて行く。

 十の柱、(ふた)つの平が、(ふた)つの巨柱に繋がる──、──人の(かいな)

 

 

 

 

「──『魂』だって、そう叫んでる!」

 

 

 

 

 ──『()』が振りかぶられた。

 空折目掛けて落ちて来る。

 

 

 

 

「‼︎」

 

 

 

 

 それは魂が組み上げた、人の形。

 五指は岩木、肌は木立に茂み、巡る清流は血のように。

 片手に冬美を乗せ、()()()()()()()人として立つ。

 窪み、裂け、開かれた(まなこ)を模したその巨大な刻みは空折の事を捉えていた。

 

 

 

 

『人間は感情の起伏で予想以上の力を叩き出す』

 

「…………予想以上どころか、まるっきり別物じゃん……!」

 

 

 

 

 空折の頭に過ぎるのは現世に発つより前、自分(空折)が今の自分(形態)になってから間も無い頃の(紫黒)の言葉。

 だが()()()()()を誰が予想していたと言うのか。

 捕まえて食べた時の弱々しく、自信の無い姿とはまるで違う、神相手に霞まない力強さを持った勇姿。

 仮に山肌による人の似姿の巨大な攻撃範囲を潜り抜けたとしても、迂闊に近付けば只では済まされないと思わせる気迫を漲らせている。

 

 

 

 

「(──けど、魂に侵食する私の力を合わせれば!)」

 

 

 

 

 それでもまだ自分の方が勝っていると、空折が力を一箇所に集中させようとしたその時──、

 ズン、と鳴動が走る。

 

 

 

 

「──え?」

 

 

 

 

 目に映る景色の全てが揺れ動いていた。

 ……鳴動と共に空が落ちて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……、魂の全てを、掌握したのか……!)」

 

 

 

 

 

 それは巨大な、巨大な、『手』だった。

 指の一本にも山並を連ね、爪の一枚すら山一つで出来た途方も無い大きさの手が空の彼方……、……否、()()から落ちて来る。

 

 

 

 

「(……そっか、ここはホントに『ふゆみ』の中なんだ)

 

 

 

 

 あそこの彼方では触手の海を巨大な『膝』が突き破る。

 向こうの彼方では一際巨大な双丘が盛り上がり、すぐそこでは触手の海から巨大なものが()を出そうとしている。

 ──小さなビル程もあろうかという山肌の似姿は指先にも満たない()()()()に過ぎない。

 全速で飛ぶ中目に映る風景の全てが、今まさに産声を上げる、『魂』そのものだった。

 

 

 

 

「(──かなわない、か)」

 

 

 

 

 ──そして、全速で飛んでも落ちて来る掌からは逃れられない──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『怒れる羊(クレイジーシープ)』っ!“(いち)”っ!」

 

「──」

 

 

 

 

 ──反応する間も無く、顔面を殴られる。

 

 

 

 

「っ……!(醜鬼と戦ってた魔防隊か……!)」

 

「!起きましたわ!」

 

「ええ、手筈通りに!」

 

 

 

 

 皮膚を削らんばかりに身体を這い回る何かに縛られ、身動きが取れない。

 ……空折は冬美の魂を攻略する(いとま)を稼ぐべく、組長達から離れるように飛び回って移動していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、ビルの一室で死んだように動かない神に三人は出来る限りの事を、確実にした。

 

 

 

 

「……っ!このっ!」

 

「私の方は心配無用ですわ!」

 

「限界まで動かしてるけど、キツいわね……!」

 

 

 

 

 五指を広げた麻衣亜の“(足手荒神)”に八番組組員のプラチ・シェラワットの出した『迅鞭阿修羅(ウルーミ)』があやとりのように巡らされ、絡繰仕掛けのベルトのように動きながら空折を空中に吊り上げ固定する。

 

 

 

 

「はあああぁ!」

 

 

 

 

 そして、六番組組員・若狭サハラが『怒れる羊(クレイジーシープ)』によって強化した身体能力で殴り掛かる。

 邪魔されるまでも無く空折には打つ手が無い。

 

 

 

 

「──電撃です!危ない!」……ちっ」

 

「「「‼︎」」」

 

 

 

 

 ──だが打つ『手』が無い程度、神にはどうとでもなる。

 

 

 

 

「ああぁっ!」

 

「──っ!」

 

「くっ……!」

 

 

 

 

 雷光が迸り、部屋に居た三人全てを灼く。

 真正面から来た神の顔面を殴った奴(サハラ)は念入りに。

 僅かに緩んだ隙に羽根を撃ち出して『()』を切断し、拘束から逃れる。

 

 

 

「……っ、『迅鞭阿修羅(ウルーミ)』が……!」

 

(わたくし)が抑えますわ!「ダメっ、羽根が!」⁉︎」

 

 

 

 

 拘束を抜けた空折を直接『足手荒神(おおいなるもの)』で抑えようとして気を取られた隙に、後ろに回り込ませ、首筋を狙った羽根は──

 

 

 

 

「……!」

 

「……ーっ……!「(……慣れられちゃう、か)」」

 

 

 

 

 ……ギリギリで羽根の操作に割り込めた冬美が()()()()()

 

 

 

 

「(ま、いいけど)「!」」

 

「あっ、」

 

 

 

 

 だが羽根を止めた分、身体の制御は取り戻した。

 『手』を操ってた眼鏡(麻衣亜)の顔面に拳を振るい──、

 

 

 

 

「──持ち堪えてくれてありがとう、あとは任せて」

 

「出雲組長……!」

 

 

 

 

 ──空間を越えて現れた天花の掌に受け止められた。

 ──次の瞬間、空折の身体はビルの床に叩き付けられた。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「「〜〜〜〜〜っ⁈」」

 

「……」

 

 

 

 

 その絡繰は『天御鳥命(アメノミトリ)』の連続転移。

 天花が触れた空折の身体がビルの床を叩いた一瞬後に床の上に転移してまた叩き付ける、の繰り返しで轟音を立てながら損傷(ダメージ)を蓄積させて行く。

 

 

 

 

「「〜〜〜っ!」……こ、の……っ!」

 

「……」

 

 

 

 

 空折がその身を捩り、粘液を絞り出しても冷たい表情の天花は手を離さない。

 分身は出した瞬間に叩き潰され、羽根は転移で置いて行かれ、潜行は間に合わず、最も効果的な雷撃は冬美が必死に抑えている。

 空折には杭打ち機の如き連撃を止める手段が無い。

 ……天花と言えど、この連撃を無限に続ける事は出来はしない。

 『天御鳥命(アメノミトリ)』の連続転移は一呼吸で六六六回が限界だ。

 

 

 

 

「「(この連撃、いつまでっ……‼︎)」⁉︎)」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、天花が人である以上どうやった所で無限に届きはしない。

 ……その限界が来るまで相手が無事であるかは別の話だが。

 

 

 

 

「(……そろそろかな)」

 

「な、「っ⁈」」

 

 

 

 

 ……だがあっさりと天花は手を離し、消え失せる。

 そして身じろぎする間も無く、空折の身体を光の奔流が襲う。

 

 

 

 

「ふーっ……、」

 

「「……っ、」あ」

 

 

 

 

 光の袂で、青羽が熱い息を吐く。

 最大限に溜めて放たれ、空折の身体を灼いた光線は彼女の仕業だ。

 天花が位置を報せる為の()()()代わりに使ったビルは、地上から屋上まで一直線の吹き抜けを造られていた。

 

 

 

 

「捕まえた……!」

 

「う「っ……‼︎」」

 

 

 

 

 ビル程に巨大な醜鬼すら包んで圧し潰し、神すら捕らえる強度と力と伸縮能力を秘めた髪を自由自在に操る『我は姉なり(インヴィンシブル)』と同じく強力極まりない。

 ──さにあらん、魔都で桃を喰らって力と呪いを背負った者の中で『暴走しない為に何年も己と戦わされる』羽目になったのは青羽だけだ。

 

 

 

 

「──天花!」

 

「はい!」

 

「……!」

 

 

 

 

 そして、雁字搦めの束縛から逃げる事も叶わず、空間裁断がその身に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、一つ気になったんだけどよー」

 

「どうしたんですか、ココさん?」

 

 

 

 

 それは魂の元での会話。

 

 

 

 

「冬の能力が『魂をでっかくする』で合ってて、今は空折に冬の魂使われてる、ってのが冬の考えだったよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でもそれって()()()()使()()()()()()()()使()()()()()()()……?……なぁ、()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 ふとした疑問が提起される。

 

 

 

 

「……どうかしら、神と名乗るからにはそんなもの()には縛られなくても不思議とは感じられないけれど」

 

 

 

 

 神は魂を持つのか。

 神は生命を持つのか。

 ……()()()()()()()()()

 

 

 

 

八雷神(あいつら)にとっちゃ当たり前過ぎて考えるまでもねぇ事らしいからな」

 

「……でもここは、『御魂(みたま)』とも言いますし、最悪の事態を考えておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「神にも魂はあって……、……私の能力が神の魂も大きく、強くしてしまう事を」

 

 

 

 

 山の狭間で、雲が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……⁉︎」

 

 

 

 

 それは出雲天花にとって異質過ぎる光景だった。

 

 

 

 

 

 ……どれ程の硬度・強度を持とうと、それが乗る空間ごと裂いてしまえば関係は無い。

 紙を破るように容易く真っ二つに出来る。

 ……どれ程速く逃げようとしても、それが乗る空間ごと巻き込んでしまえば意味は無い。

 排水溝に紙切れを流すように容易く吸い寄せられる。

 

 

 

 

 だがしかし、

 

 

 

 

「〜〜〜〜っ……!」

 

 

 

 

 ()()()()()()

 ……正確にはその身は裂かれ続けているが、断ち切られていない事自体が異常だ。

 ……魔都で天花と戦った強固な体表の八雷神が、これより小さい空間裁断が()()()だけでその身を裂かれる様は既に確認されているのだから。

 

 

 

 

「っ、っ!」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 ……それは溺れかけた者が渦を巻く水から逃れようともがく様に似ていたが、もがける事自体が脅威だ。

 ……もう裁断の渦の中心近く、渦巻く空間は唯動くだけでは意味が無く……、……()()()()()()()()()()()()()()()()()()位置を動かせないものになっているのだから。

 

 

 

 

「……っ、……ふっ!」

 

 

 

 

 もがく動きの中、不意を打って雷条が奔る。

 

 

 

 

「あぁっ‼︎」

 

「ぎ、っ!」

 

 

 

 

 髪による防御も転移による回避も間に合わない。

 その雷鳴は、始めに放とうとした時より、ついさっき撃ち放った時より、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……ふぅ……、……馬鹿だね(わたし)は」

 

 

 

 

 ……降り立った足元の、生命の気配無きひび割れた路面から薄く、弱々しく、緑が現れる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 桃の能力者を呑み込み、()()()()()()強くなるのが空折という神である筈だ。

 ……()()()()()()()()()神では無い、筈だ。

 ……()()()()()()()()()()()神では無い、筈だ。

 ……だが空折は一秒、一瞬経つ毎に、僅か、少しとその力の大きさと種類を増している。

 

 

 

 

 

「『ふゆみ』の魂だけじゃない、『ふゆみ』の能力(ちから)も私を強くしていた事にも気付かないなんて」

 

 

 

 

 ……神に魂が有り、それ()が大きく、強くなるとして、()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どれだけ魂を大きくしても、それに釣り合う身体が有るなら。

 どうなるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、私にぴったりな、最強の能力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 其れはいずれ何者をも越え、無限をこの世に顕す。

 限り有る者では倒せなくなる前に対処せねばならない──、一秒、一瞬毎にその強さを増す最悪の鼓動が微かに大気を揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず大前提として私の魂を把握したいです』

 

『?』

 

 

 

 

 ……それは私が助かるには必須の事柄だった。

 

 

 

 

『今、私の魂は私の身体で我慢する必要が無くなって空折の身体中に広がってる……みたいなんです』

 

 

 

 

 ……考えてみれば神と互角の私の魂にとって、私の身体はとても窮屈だったんだろう。

 ……私の魂にとって存分に羽を伸ばせる今の状況は心地良いのかもしれないけれど、()は私として在りたいと思うから今の状況を打破する。

 …………いつか私の身体で、魂の羽を思う存分広げてみたいと、そう思う。

 

 

 

 

『……でこのまま空折の身体から分離しても、広げられた私の魂に合わせて私の身体も広がって……、……爆発して死ぬと思います』

 

『……うわ……』

 

 

 

 

 ……人一人が血煙に変わるその様を想像してしまったらしいココさんには嫌そうな顔をされてしまった。

 

 

 

 

『それは頂けねー話だナ』

 

『はい。だからまずは私の魂がどれだけのものなのかをしっかり認識して、私の手が届くように把握したいです』

 

 

 

 

『──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『『……は?』』

 

 

 

 

 ……その時のココさんと美羅さんは姉妹のようにシンクロしていた。

 

 

 

 

『……なぁ、それって意味あんのか?アンタが痛いだけで終わるんじゃねーの?』

 

『私の魂を介して空折の身体を動かして周りを感じていたなら、感触は私の魂にも伝わっていた……はず。身体に伝わる感覚の強さ弱さを見極めれば身体のどこにどれくらい私の魂があるのか分かると思います』

 

 

 

 

 ココさんの顔は『……訳分かんねー……』って感じの表情だった。

 

 

 

 

『時間があるならひたすら身体を触って、私の魂がどこにどう広がってるか地道に探すのもアリだったんですけど……。……もし私の能力が(空折)も強くしてしまうなら一刻の余地もありませんから』

 

『…………それも頂けねー話だぞ』

 

『すいません』

 

 

 

 

 ……横浜の街と人を守り、助ける為に魔都から来た美羅さんには凄い表情をさせてしまった。

 

 

 

 

『……それは貴方の能力がずっと発動しているもの、というのが前提よね……?』

 

『間違ってるならそれでいいんです。空折が強くなる事もありませんから。……合ってたらとんでもない事になるから、手っ取り早く済ませたいんです』

 

『…………そう』

 

 

 

 

 ……多分波音さんは私を気遣ってくれたんだと思う。

 

 

 

 

『把握して、まとめて……、その上で』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『もし、私の能力が空折を強くするとしても……、……抑えておくだけならできるかもしれませんから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……視界に一筋の光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 か細く、けれど確かな光。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……!」……これは、私の力です」

 

 

 

 

 それは神の身体から立ち上り、

 

 

 

 

 

 

 

 

「……不甲斐ない私のそばに居て、見守ってくれていた」

 

 

 

 

 白く、透明な輝きを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『大山(たいざん)(こころ)』!」

 

 

 

 

 私の、魂。

 

 

 

 

「私は、こっちです!」……‼︎」

 

 

 

 

 私は、私にできる事を()()

 ……自分が強くなってるのを自覚した空折に押されて、攻撃を許してしまったのは申し訳ないけれど。

 

 

 

 

「お前、らは……‼︎」

 

 

 

 

 ──私の魂の全貌の把握は完了し、魂を把握したから能力も任意で発動できるようになった。

 今までの状態はスイッチも本体の場所も分からない家電を抱えていたようなものだったけど、今は大きく、強くなる『何か』をはっきりと感じられる。

 それ()を通し、操る事で雑に羽交い締めしてたさっきよりも効率的に身体を抑えられるようになったし、空折(身体)がいくら強くなろうと同じだけ()を大きくして抑えておける。

 

 

 ……でもいずれタイムリミットが来る。

 いくら私が空折を抑えようと、無限に強くなって行く空折を傷付け、倒せる人が居なくなる時が訪れる。

 

 

 ……だから、皆さん存分にお願いしますね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞑目し、刀を携える。

 

 

 

 

「フー…………」

 

 

 

 

 息を吐き、静かに歩む影は一人。

 ──されど、心は二人。

 

 

 

 

「(あれは……、……()()()()()宿()()()()?)」

 

 

 

 

 雷撃で身体が痺れ動けない青羽は遠目に、しかし正確に、その実態を見抜いていた。

 奴隷(スレイブ)としての全てを捧げた優希が、京香の刀に鎖を残して宿る。

 

 

 

 

「……ッ‼︎」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 大地を踏み締め、刀を振りかぶり、力を溜め込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…………逃げちゃえば良かったんだ。逃げて、隠れてればそれだけで強くなれる。『ふゆみ』が幾ら私を抑えてようと、(肉体)を喰い破れないくらい強くなる時は必ず来たんだ)」

 

 

 

 

 ……すぐ其処の未来、刃が振られる先に足止めされる空折は過去に己が犯した失敗を静かに悟っていた。

 

 

 ……確かに空折は今この一瞬にも強さを増している。

 いつかの未来には誰も倒せなくなるだろう。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 神にさえ徹る『天御鳥命(アメノミトリ)』の空間操作を逃げ延びたのは異常ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……魔防隊組長(クラス)と戦えるだけでも脅威ではあるが、全力形態であろうと倒される危険は残っている。

 今組長(クラス)複数人に捕捉されてしまったのは明らかな失敗だ。

 

 『ふゆみ』を呑み込んで、能力を得た時点で何処へでも逃げて、人目に付かない所に隠れて……、……人間と戦うのは充分に強くなってから。

 そうしていれば『思ったより弱いじゃんお前ら(魔防隊)?』で纏めて蹂躙出来たかもしれないのだ。

 ……もしかしたら『ふゆみ』が独力で空折の中から逃げ出せるように成長していたかもしれないが、そうなるとしても周り()からの邪魔が有るか無いかでは成功率は変わっていた筈だ。

 或いは魔都まで帰っていれば裡の『ふゆみ』の意識を封じる手立てを(紫黒)が用意出来たかもしれない。

 

 

 ──どの道空想に過ぎ去った叶わぬ『If(もしも)』、今の空折にやり直す事は出来ない。

 

 

 

 

「(……だから、ここを切り抜ける!)」

 

 

 

 

 ──だから今を突き崩す事を決めた。

 高速で思考を回転させる。

 

 

 

 

「(……今はチャンスだ。あいつ(京香)を倒せば、私に敵う奴はいない……!…………問題はふゆみの魂と私の身体が拮抗して私も動けない事)」

 

 

 

 

 今空折を阻める敵は京香と優希の(目の前に居る)二人だけ、他は空折に害を与えられる場所に居ないか、すぐに動けないか、実力不足。

 ──……何処に居るかも分からない【軍勢神罰】を消し去った攻撃の奴は居ないものとする──。

 だがしかし空折もまた害を与えられず、動けない。

 ……『ふゆみ』の抑えが正確に拮抗して、動く事も飛ぶ事も、羽根や雷を撃つ事も、分身を出す事も地面に潜ったりヌルヌルを出す事も出来ない。

 

 

 

 

「(…………今の私で、今の『ふゆみ』には負けないけど勝てない。……()()()()()()()()()()()()。身体の半分を『ふゆみ』に渡して、残り半分を確実に動かせるようにする……!)」

 

 

 

 

 だから全身全てで『ふゆみ』と拮抗するより、半身ずつで対抗して動けるようにする。

 ……ついさっき羽根を止めて身体を止められなくなった時と同じように、敢えて半分を渡してしまえば残り半分は動かせなくなる筈だ。

 

 

 

 

「(……分身は出さない。すり抜けも飛びもしない。羽根と雷を撃って、片足で踏み込んで片手で追撃する……!)」

 

 

 

 

 半身で行なう行動も決める。

 『ふゆみ』に割り込まれるかもしれない分身や、進路が狂いかねない潜行や飛行は使わない。

 羽根と雷撃で遠距離から攻撃した後、相手の間合いに入り込む危険は承知で近距離に踏み込む。

 ……最悪この行動で怯ませる事しか出来なくても、至近距離からの雷撃、格闘で確実に動けなくする。

 そうして敵の一角を崩す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……私は負けない」

 

 

 

 

 ……思考を終え、瞑目する。

 

 

 

 

「……負けないんだ!」

 

 

 

 

 ──一瞬で。

 片手、片足は鳥の足を具足としたかの様な硬質で刺々しいものとなり。

 羽織の羽根は剣山の如く何百本も尖り、突き出す。

 雷神の一員に相応しく、紫電が迸り。

 

 

 

 

 ──今、撃ち放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かの、声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 羽根は全てを砕き貫いて、雷は全てを引き裂き灼き滅ぼした。

 

 

 

 

「…………⁉︎」

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ──驚く空折の身体は(かし)ぎ、片足は踏み込む事無く地を掘り返していた。

 ──使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……、!」

 

「──ざまぁないわね」

 

「──‼︎」

 

 

 

 

 

 ……分身の一体が()()()()()()()()()()()()()()霞と消えていく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それで全てが分かってしまった。

 

 

 

 

「……()()()()()‼︎()()()()()()()……‼︎」

 

 

 

 

 

 ──自分(空折)の中から邪魔をするのが『ふゆみ』だけだと、誤認させていた事に。

 大き過ぎる魂が、他の魂を隠していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、空折は俺らが起きてる事に気付いてるのか?』

 

 

 

 

 ──独りではなかった。

 

 

 

 

『……はっきりとは分かりませんけど、気付いてたら邪魔しに来るんじゃないかなーって……、…………もし気付いてなかったら、使()()()()()()()()()()……!』

 

 

 

 

 ──幸いな事に。

 

 

 

 

『──私達、みんな起きてます!』

 

『『『⁉︎』』』

 

 

 

 

 ──魂を攻略する為、組長達から離れようとした時に生み出された分身が伝令使(メッセンジャー)となった。

 

 

 

 

『……今の、って……』

 

『……()()()()()()。羽根撃って、自分も斬って……』

 

『……私じゃなくて私()か』

 

『……()()を万が一にも伝えさせない為に他の分身を巻き込んだのか。……()()()()()()()()()()()()()()()()……!』

 

 

 

 

 ──その言伝は正しく伝わった。

 

 

 

 

『‼︎ココさんっ‼︎』

 

『のわあ⁉︎』

 

 

 

 

『──空折が来ます!【気付いてたら全員で袋、気付いてなかったら追い出して隙】!波音さんお願いします!』

 

『任せなさい……!』

 

『……ここじゃアンタが一番強ぇがよ……、()()()()()()()!』

 

『はい!』

 

 

 

 

 ──独りでは無い事を隠し切り。

 

 

 

 

『出番だナ……‼︎』

 

『目にもの見せてやれよ!波音!』

 

『ええ……!』

 

 

 

 

 ──護り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 その結実が今、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──【隷刃(れいじん)太刀(たち)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っ⁈」

 

 

 

 

 【隷刃の太刀】。

 刀に宿る優希を京香の一閃で飛ばす合体奥義。

 遮らんと掲げられた片手も間に合わず、飛鳥の如き斬撃が、

 

 

 

 

 

 ──今、空折の身体に切り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が通り抜けたようだった。

 

 

 

 

 斬撃と言うには余りにも爽やかな、一陣の風。

 

 

 

 

 

 いつまでも味わっていたい余韻を残して、

 

 

 

 

 ──いつしか、私を力強く抱き抱えている。

 

 

 

 

 

「──全員、息があります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺたり、と頭を触ってもそこに角は無い。

 

 

 

 

 日に翳す手は私の手で。

 

 

 

 

「……ふふっ」

 

 

 

 

 私が私の身体である事は、なんて喜ばしい事なんだろうか。

 

 

 

 

 太陽の元、広い世界の片隅で。

 下手くそに笑う私は、私の微睡みに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはちっぽけな灯りだった。

 

 

 

 

 闇の街に浮かぶ数多の灯りの中でもとびっきりちっぽけで、弱い灯り。

 

 

 焦茶がかった黒髪は長く、真っ直ぐに伸び。

 細い眉は緩やかに下がっている。

 

 

 柔らかそうな睫毛が縁取る眼はやはり緩やかに下がって、大人しそうな──自信の無さそうな印象を与えている。

 

 

 顔の輪郭はやや細め、しかし不思議と『弱い』感じはしない。

 化粧の上から、ほんのりと分かる肌の血色がちゃんと有るからだろうか。

 

 

 前髪はさくさく、と切られて両目と両眉を出した額縁を作る。

 小さく整った鼻は主張をし過ぎず、控えめで薄い色の唇は顔立ちに合った淡い彩りを与えていた。

 

 

 体つきは柔らかく、やや細い程度。

 主張し過ぎない色合いと造形(デザイン)の服装に身を包んでいる。

 ──それらが顔付きと合わさって『淡いが儚くは無い』『穏やかにそこに居る』心地良い存在感となっている。

 

 

 

 

『おっ?あいつなんか美しくないか……?』

 

 

 

 

 …………あれ、なんで私が居るんだ。

 

 

 

 

『ふむ……、……餌オーディション特別賞!』

 

 

 

 

 ああ、そうか。

 これが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──走馬灯、って奴か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──冷たい鎖が身体に巻き付く。

 

 

 

 

 

「──抵抗したり、透過能力を使おうとすれば」

 

 

 

 

 

 ……和倉優希の主人が何か言ってる。

 

 

 

 

「斬る」

 

 

 

 

 けど耳に入って来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──……空っぽだ。

 

 

 

 

 身体の中を丸ごとくり抜かれてしまったような、寒々しくて何も無い空白が私の中に在る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……ああ、そうか、ここに、『ふゆみ』がいたんだ……)」

 

 

 

 

 それがどれだけ大きくて、どれだけ暖かったのか。

 ……私は何も分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……いや、これが(空折)か……、空っぽで、何も無い。食べて、貼り付けるだけの空っぽ……)」

 

 

 

 

 ……そうだ。

 私は、私自身の事だって何も分かってなかった。

 

 

 

 

 ……もう終わりが近い。

 『ふゆみ』が居る前提で強くなってしまった私の身体は『ふゆみ』と言う支えを失って崩れ落ちるだろう。

 ……それ以前に美羅も、私を私にした二人も居なくなって、今の形をどのくらい保てるかさえ分からない。

 ……『ふゆみ』の強化分だけは、長くなってるはずだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……失うんだ。悲しいのも、寂しいのも)」

 

 

 

 

 紫黒姉や壌竜姉が好きなのも、美しいのが良いのも失って、食べるだけの神に戻ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……『ふゆみ』がすぐ側にいる、この場所で?

 

 

 

 

 ……それは、嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……賭けてみよっか)」

 

 

 

 

 ……上手く行けばそれで良いし、失敗してもこのままで終われる。

 

 

 

 

 だから、まずは

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 ──全力形態を解除した。

 身体が縮んでできた隙間から鎖を抜け出す。

 

 

 

 

「──まだだっ!」

 

「京香さん!」

 

 

 

 

 さぞ、『まだ勝負を諦めていない』かのように和倉優希の主人──『キョウカ』に飛びかかる。

 

 

 

 

「……抵抗するならば」

 

 

 

 

 緩やかに構える『キョウカ』は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──屈服の時間だ」

 

 

 

 

 ──私を真っ二つにした。

 

 

 

 

「(成功、だね)」

 

 

 

 

 ──逆さに落ちて行く私の身体は和倉優希の方を目に入れる事に成功して、

 

 

 

 

 

 

 

 

「(  、ああ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──私の間違いを分からせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなに良いものは見た事が無かった。

 

 

 

 

 ちま、っと上げられた口。

 するり、と閉じられた目。

 

 

 

 

 『ふゆみ』が、微笑みながら眠っていた。

 

 

 

 

 力強くは無いけれど、穏やかで、優しい、美しさがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……人を滅ぼす神でも分かるよ)」

 

 

 

 

 あの顔を、泣かせちゃいけなかったんだって。

 私は、最初から間違えてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……あぁ、もう終わりか)」

 

 

 

 

 ……『キョウカ』に斬られて、私の身体は限界を迎えた。

 神はそう簡単に消えないけれど、この私はもうおしまい。

 

 

 

 

「(……そういえば……)」

 

 

 

 

 ……『ふゆみ』がどんな文字を書くのか、全部でどんな名前なのか、知らないまま終わっちゃうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(まぁ、いっか)」

 

 

 

 

 これ以上は、もったいないや。

 

 

 

 

 『ふゆみ』の笑顔を目蓋に閉じ込め、

 風に解ける身体で味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ……決着!




 ……私は多分空折と美羅さんで魔都精兵のスレイブを知りました。
 まぁ、そういう訳です。




:冬美
…無事、空折の中から解放された。
 三日も経たない内に大きく変わった。
 視点分けのマークも『^』から『△』に成長している。
 笑顔が最高に優しくて、柔らかくて、良い人。
・『大山(たいざん)(こころ)
…冬美が桃で得た能力。
 勢いで名付けられた。
 魂を拡大・強化する。
 一度発動すると魂を感知しない限り自動で発動し続けるが、身体を爆散させないように限界が近付くと自動で止まる。
 魂を感知すれば任意で発動・停止ができるようになる。
 ……神の魂、ないし魂に類するものすら拡大・強化ができる。

:空折
…討伐され、消滅した。
 最後は笑顔で消えていった。

 ……冬美に思いっきり脳灼かれてるのは『弱いと思ってたら最高の強化パーツだったギャップ』『ギリギリ負けそうな所をその魂に助けられた(※空折の主観)』『失って初めて、その大きさに気付いた』などを喰らってから最高の笑顔でトドメ刺されてるのでいわゆるニコポではありませんよ〜……、……と言い訳みたいに。
・『冬美との相性』
…(空折の『無限に強くなれる』という発言が『大言壮語ではない』という前提の元での設定です)
 ……前話後書きで記した恩恵は冬美の魂という強化パーツ()()によるもの。
 『大山の魂』によって魂、ないし魂に類するものを強化・拡大される事で、それに応じて肉体の強さも引き出され、冬美以外誰も呑み込まなくてもそれより早い速度で無限に強くなる。
 しかも神として強くなる中で自力で新しい能力も獲得していく。
 空折に呑み込まれた者が『電池』に例えられていたが、冬美は『汎用強化パーツ兼成長促進パーツ』みたいなもの。
 対処が遅れると人類は詰む。
 幸い、事態が明らかになった後は迅速な対処が為されたので詰まずに済んだ。

:和倉優希&羽前京香
…原作主人公とその主人。
 空折を撃破した。
 ……そこに至るまでは何人もの助けがあった。
・【天刃十字架(てんじんじゅうじか)
…天進&リミッター解除での強化版【豪刃十字架】。
 かませに終わってしまった豪刃くんの敵を見事に取ってくれた。

:出雲天花
…空折撃破に貢献した。
 優希が好き。
 ……『天御鳥命』に耐え、もがかれるという異常事態に動揺しなければあの時点で真っ二つにして勝ってた。
 ……まぁ充分貢献してるので許してください。

:和倉青羽
…空折撃破に貢献し、仲間を取り戻した。
 まず間違いなくブラコン(弟好き)
 ……何げに魔防隊総組長以外で唯一の『二つ以上能力を持ってる』お人。
 姉ビーム(仮称)が人型醜鬼と呼ばれる人達が強くなれば誰でも使えるもの、とかだったらまた変わるが。

:東海桐花
…【軍勢神罰】の三〜四割を撃破し、空折撃破を補助した元総組長。
 生命力で【隷刃の太刀】を強化する案もあったが立ち消えに。
・【金弓箭(きんきゅうせん)
…小説版『魔防隊日誌』で披露された生命力による攻撃技。
 使われた生命力が莫大だったのですごく大規模になっている。
 『生命力を奪う→金弓箭』の繰り返しによって凄まじい速度で軍勢を殲滅していった。
 例え生命力を奪いきれない相手でも弱った所にこれを喰らってはひとたまりも無い。

:魔防隊総組長
…【軍勢神罰】の六〜七割と切り札の醜鬼をワシントンにいながら撃破し、空折撃破を補助した。
 やばい事態故、原作より横浜に力を入れている。

:上運天美羅
:湯野波音
:銭函ココ
…分身で盾となり、潜行で足を取り、魂の主を復帰させ、空折撃破に貢献し、無事空折の中から解放された。
 京香さんは冬美だけではない、四人での援護があると信じて踏み込んだ。
 『……ココのとこ美羅さんの分身で良かったのでは?』と思っても『……痛みに転がる人の介抱ならココの方が向いてるわ』となった。

:東麻衣亜
:プラチ・シェラワット
:若狭サハラ
…横浜にばら撒かれた醜鬼を掃討し、空折にも立ち向かった。
 ……前の後書きにも書いたように『街中で被害を出さず戦えそうな組長以外の人』をピックアップしたら空折との相性が余り良くないのでは……?な人選になってしまった。

:超巨顔醜鬼
…元から出オチ気味だったが、本作ではカードから出される事すらなかった。
 無念。

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