その歩み、大山へと至る   作:枯山水の庭園

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 内容的には前話と一つながりの続きものですが、前話と比べてめっちゃ長いです。


大山、新たなる日々へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『魔都』。

 数十年前に顕れたこの世界には、醜鬼の危険などにより調査しきれていない未知の地形も多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……、ひどい目にあったぜ……」

 

 

 

 

 未だ知られざるその内の一つ、とある地下空間に人型醜鬼と呼ばれる者達のアジトたる隠れ里が有った。

 

 

 

 

「全くね……」

 

「でも二人とも無事で良かったわ。お疲れ様!」

 

「リーダーこそお疲れ、だぜ……」

 

「私達より元気ね……」

 

 

 

 

 横浜の街から脱出し、やっとの事で拠点に帰還した青羽、ココ、波音の三人は腰を落ち着けていた。

 空折の中から助け出されたココと波音は意識を失っていたがそれも道中で回復し、彼女達にとっての八雷神が引き起こした事態は一段落着いた。

 

 

 

 

「……それにしても『親戚が魔防隊に「ココ」……あっ、と……」

 

「ちょっと待ってなさい、今集中するから……」

 

 

 

 

 ……しかしまだ彼女達──正確には青羽──のやるべき事は終わっていない。

 拠点に帰り着いた気の緩みから口を滑らせそうになったココを波音が窘め、共に口を噤む。

 その隣で青羽が座り直して目を閉じ──、──深く、深く、集中する。

 

 

 

 

「…………………」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 沈黙が三人の周りに静寂の帳を下ろす。

 外の水源から流れ落ちる滝の音。

 僅かに外に居る仲間達が零す騒めき。

 空無き地下に在って、尚均衡を保たぬ空気の撓み。

 地上の、魔都の護り手たる魔防隊ですらその大半は存在を知らぬ植物や苔、茸が発する微かな香り。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……とりあえずは、何も感じないわね。神の力も桃の能力の気配もしないわ」

 

「──ふぅ〜……」

 

「──……あとは桃の力を使っていない、監視カメラや盗聴器かしら……?」

 

 

 

 

 ……どろりと重く、流れる時間を青羽の声が終わらせた。

 広い魔都に数年間会っていない弟が居る事を感じ取り、冬美の魂の大きさに惑わされず空折の体内にココと波音が居る事を見逃さなかった優れた感覚を以って青羽が行っていた事。

 それは拠点の在る地下空間の精査。

 八雷神や陰陽寮がこの拠点を既に見つけ出し、監視を貼り付けていないかを探っていたのだ。

 二度に及ぶ神との対峙、広く空間を超え力を使う天花との戦いを経験した青羽は集中すれば『力』の気配を感じ取れる。

 その探知を擦り抜けるのは容易な事ではない。

 

 

 

 

「それはもう明日にしましょ。……にしても()な事考える奴ね〜、ほんとにそいつが日ノ出冬美?」

 

「……まぁ確かにあたしらが見てる間でもずいぶん様変わりしたけどなー……」

 

 

 

 

 ……そしてその精査を発案したのは青羽でも、ココでも、波音でも、この地下空間に居る誰でもない。

 

 

 

 

『──……そもそも皆さんと魔防隊が一緒に居合わせた所に天井を壊して空から降臨、なんて()()()()()登場するのが怪しいと思うんですよねー……。何がしかの方法で皆さんの動向は知ってたんじゃないかと思うんですけど何か零してませんでしたか?』

 

『“何か”、と言われても……』

 

『あん時波音、首掴み上げられてたもんな……。……ん〜と……、……そうだ!『派手に動いてくれたおかげで見つけられた』つってたな!』

 

『……ブラフじゃなけりゃ“派手に動けば見つけられる”が“派手に動かねーと見つけられねぇ”ってカンジか』

 

『……だとするとずいぶん大雑把ですね。……陰陽寮もそうですけど、一度見つかった以上八雷神にも用心はしといてくださいね……。……そういう手段を持ってる(紫黒)がいるので』

 

 

 

 

 ……そんな風に懸念を見つけ出した、此処には居ない人間である。

 

 

 

 

「逆に、青羽から見て冬美はどんな風に見えたのかしら……?」

 

「そりゃ『根性決まってる奴』よ。自分ごとボコスカ殴らせてるから、てっきり喧嘩慣れしてるもんだと思ってたわ?あんた達にそいつが『ただの会社員だった』って聞いて驚いたわよ」

 

「あたしらも驚いたよ……。短い時間で人ってあんな変わるもんなんだってな」

 

「……で、結局二人から見てどんな奴だったの?その冬美って奴は。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 『魔都で桃を食べた』

 ……その一点で今の境遇に追いやられた彼女達であるが、彼女達自身の力で元の身体に戻る手立ては見つかっている。

 仲間の一人が身に付けた能力で醜鬼に近い力に呪われた、今の状態を解除出来たのだ。

 ……疲労する程に力を掛けて、ほんの数瞬だけ。

 力不足を解決し、呪いを完全に解除するべく『能力を増幅させられる能力を持つ者を探す』事も彼女達の大目標であったのだが、いかんせん魔都に隠れ潜む身では禄な情報収集が出来ていなかった。

 

 

 ──だが八雷神という災難が思わぬ出会いを齎した。

 それが空折越しではあるがココの粘液(水も滴る風雲児)を溢れんばかりの量に増やし、美羅の分身(緋色の連隊)で地を埋め尽くす軍勢を作り上げた、日ノ出冬美という人間である。

 

 

 

 

「私はよく知らないけど、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「あ〜……」

 

「そうね……」

 

 

 

 

 ……ココと波音は冬美と魔防隊の美羅と共に空折の中から抜け出す方法から、陰陽寮への対抗手段まで実に様々な事を話した。

 ここに居る三人の中では唯一『自分が痛いのも我慢して八雷神を抑え込んだ奴』くらいにしか知らなかった青羽に説明するべく、ココと波音はここに居ない、その人物を思い出す。

 

 

 

 

「……つっても色々変わってるからなー……。能力に気付いてからまぁまぁ明るくなったし」

 

「でも根本の気質はそう変わっていないと思うわ。陰が薄くなって美しさを増したけれど」

 

 

 

 

 ココと波音が初めに見た時その人物は随分と気弱に、弱気に見えたものだった。

 それは自分が自らが望むに足るものは何も手に入れられなかったと見做す心情故のもの。

 だが自らに眠る何よりも大きなもの()、それに気が付いた事で花開くように彼女はその印象を変えた。

 

 

 

 

「……まず、優しいのは確実だと思うわ……。ポーカーフェイスも使うけど、隠しきれてなかったもの」

 

「それはそーだよな。あたしらに一番最初に言ったのが『……えっと、大丈夫ですか?』だし。あたしらが魔防隊に『人型醜鬼』なんて呼ばれてるってのに『それってあんまりにもあんまりじゃありません?』ってキレてたしな」

 

 

 

 

 そして彼女は心境の変化に関わらず一貫して優しく、気遣いが出来る人間だった。

 『人型醜鬼』と呼ばれるまでの変化をしたココと波音の容貌を疑問に思いはしても怯えはせず、事情を知った後も気にするのは陰陽寮と魔防隊の背後関係だけで二人を蔑む事も避ける事もしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうだよ、(ふゆ)の奴キレてたよ……。波音に陰陽寮がした事も、魔防隊の総組長にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()キレてた」

 

 

 

 

 

 ……その優しさと同じくらいに深く、色濃く怒る人物でもあった。

 彼女は自覚し、気付いていただろうか。

 『魔防隊は……?助けてくれなかったんですか?』と語る声音が恐ろしい程無機質で平坦だった事に。

 陰陽寮が青羽達の訴えを握り潰したと聞いた一瞬、凄まじい怒気を放っていた事に。

 魔防隊と人型醜鬼の対談の席を設け、美羅の憤激を目の当たりにするまで双方の言い分を耳にする程に対談に向けるその視線が冷ややかなものとなっていた事に。

 ……彼女は自分で思うより正直だ。

 

 

 

 

「あれは仕方ないでしょ?優希がひどい目に遭わされてるって思ってたんだし」

 

「……まぁそれ以上に私達の境遇が理不尽だと思ったみたいだから助けは確約してくれたけど強引な真似は止してね、青羽?」

 

「マジメでつまらなそうな奴ねー、冬美って奴」

 

 

 

 

 ……魔都で再会したかもしれない弟に対して、所属する組を魔都災害の被害者の振りをして誘い出し、従えた醜鬼と共に襲撃し捕まえ、連れ去ると言う強硬なだけでなく後に魔都災害に遭う人々への対応にも影響しかねない策を取った和倉青羽のやり方を彼女はそう快く思ってはいない。

 ……もし青羽が彼女を能力を強化出来る()()()()()()能力者だと知って、尚且つ手の届く所に居れば有無を言わさず連れ去ってから協力を仰ぎ、その後の関係性に(わだかま)りを生んでいただろう。

 

 

 

 

「……けどなんか面白そうな奴でもあるわねー、そんなアツそうなのに声も荒げないで色んな事気にしてたんでしょ?」

 

「……そうだよな。()()も早かったし」

 

「あの冷静さ……、……いいえ、()()()()()()()()()()()()は見習うべき所があるわ。()()()()()()()()

 

 

 

 

 ……そしてそれだけの感情を湛えながら、彼女がその激情に振り回される事は無かった。

 優しさに溺れる事も怒りに吹き飛ぶ事も無く、その思考は悲観的なくらいに冷静で慎重に取れる手段を模索する。

 一瞬で思考を染める程の深く、色濃い感情を抱きながら、頭の中を染めるその感情を取り払い思考へと引き戻すのもまた一瞬であった。

 

 

 

 

「……ひょっとしたら私達が心の動きに気付けたのも(こころ)の中に居たからかもしれないわ」

 

「じゃああっちで重要参考人だ、って取り調べ受けてる最中にキレたりする心配は無いわけね?」

 

「……確約はしないわ。本人も『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と言っていた事だし」

 

 

 

 

 ……彼女が、すぐに思い直したとはいえ一度は『外道か、無能』だと判断した相手(総組長)と直接対面する羽目になるという、彼女自身が危惧していた状況に在る事は魔都の外れからでは知る由も無い。

 

 

 

 

「てか波音、めっちゃ冬美の影響受けてんじゃない?監視の事と言い、なんか慎重になってるわよ」

 

「あたしもそれ思った、なんか相性良かったんじゃねぇの?」

 

「そうかしら……?」

 

「そーよそーよ」

 

 

 

 

 日ノ出冬美という人間は地上から切り離された彼女達にとっても変化を齎す確かな一石であった。

 

 

 

 

「……ていうかもしかして『名は体を表す』って奴じゃない?ホントに居たのね」

 

「『なはたいをあらわす』?なんだそれ?」

 

 

 

 

 と、ここまで冬美について聞いてきた青羽が面白い事に気付いた、とばかりに愉快そうな声を上げる。

 

 

 

 

「名前のまんま、って事よ。──だってそうでしょ?『(太陽)』みたいに熱くて暖かくて、だけど『冬』みたいに冷たく冷静で。寝顔しか見てないけど確かに『美』しさがあった気がするし。ね?」

 

「なるほどなー……」

 

「的を射てるわね……」

 

 

 

 

 それは確かに端的に冬美を評している、不思議なまでの名の符合だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…… くぁ、あ……」

 

 

 

 

 話に区切りが着いた所でココは欠伸を出した。

 人より頑健な彼女達だが、食事や睡眠といった休息もちゃんと取るものである。

 ましてや今回は非常事態の後であり、ココのみならず波音もどこか気怠さを覚えていた。

 

 

 

 

「…………今日はもう寝るわ、おやすみ〜……」

 

「私も寝るわ、青羽……。あとは宜しくね……」

 

「うん、おやすみ」

 

 

 

 

 そうして星無き地の底で見守る仲間の元、二人は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……あれは……、……なんで……)」

 

 

 

 

 寄せては返す、細波の様に。

 一枚の光景が、微睡みの内で残響している。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(なんで……、……なんで……)」

 

 

 

 

 それは乱れ、掻き回される夢と目覚めの間の混ざりの中で尚、疑問として刻み付けられた謎。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(()()()()()()……?)」

 

 

 

 

 斬られ、堕ちて行く上半身の、顔が浮かべていた、()()()()()()()()()()

 それが明るく、はっきりと思い出されてゆき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ」

 

「……?…………⁈……⁉︎」

 

 

 

 

 ──和倉優希はあの時、消滅した筈の神と、精神世界にて再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ」

 

「ああ……」

 

 

 

 

 磨かれた床材、染み一つ無い壁紙、かちりと備えられた備品の数々はこの治療施設に清潔で整えられた空気を作り出している。

 廊下に据えられたソファにやって来た者と座って居た者で、端的な挨拶が交わされた。

 

 

 

 

「身体は無事だったか、美羅」

 

「オウ、一応はな。おめーはこれからだったな」

 

「ああ」

 

 

 

 

 戦いを終え、無事帰還した魔防隊隊員達には治療・回復の上で精密検査が行われている。

 美羅と京香はその合間に顔を合わせていた。

 

 

 

 

「……舎弟、まだ目ぇ覚めねぇんだな」

 

「ああ、私の身体が動く気配も無い。今は七番組の寮で寧達に見て貰っている」

 

 

 

 

 ……但し検査は命に関わる負傷をしていないかの確認がされた後、自力で動ける者から行われている。

 優希は空折が消滅し、青羽達が横浜から逃げるのを見届けた後気を失い、今は魔都に在る魔防隊七番組組員寮で介抱されている。

 検査は目覚めた後……、……『褒美』を終えてからになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……()()()()()()()()()()()()()()

 

「……、……⁈」

 

 

 

 

 何気なく口にされたそれは一聞して優希(舎弟)の家族に関する当たり障りの無い話のようだった。

 ──()()()()()()()()()()()()()()──、──重大な秘密であった。

 

 

 

 

「……やっぱそれがおめーが話したかった事なんだな」

 

「……そうだ」

 

「悪りいな、先に聞いちまった」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 行方不明になっていた姉との再会から始まり、七番組のみならず六番組の援軍も受けた中で戦った人型醜鬼と呼ばれる彼女達の事情は優希の仲介で話を聞いた京香と天花しか知らない筈だった。

 美羅がそれを知るタイミングは無かった──、──空折と戦い、彼女等と出会うその時までは。

 

 

 

 

「──チクる気はネーよ」

 

「……そうか?」

 

 

 

 

 ……その美羅の言に京香は思わず訝しげな顔を向けてしまった。

 魔防隊組長として()()()相手など限られているが、美羅はその一人である魔防隊総組長・山城恋と個人的な親交が有った。

 京香としては美羅の人柄からして有り得ないと思ってはいても、心配せざるを得ない繋がり(ライン)であった。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。まずはお前の口からも事情聞かせとけ、そんで──」

 

 

 

 

 その心配を美羅は笑い飛ばし──、

 

 

 

 

 

 

 

 

「──俺にも噛ませろ、京香」

 

 

 

 

 好敵手に真剣な眼差しを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──今日の聴取はこれで終わりね」

 

「お疲れ様でした……」

 

 

 

 

 ──病室のドアが閉められるのを見送る。

 ……長い、長い聴取がようやく終わった。

 山城、……さんからの聴取が終わった後も、入れ替わり立ち替わり……。

 休憩はあったけど、終わったら即、話を聞かれるから休んだ気がしなかった……。

 ……大した怪我をしてた訳じゃないけど、疲れた……。

 

 

 

 

「ええ、お疲れ様だったわね?」

 

「はい……」

 

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……魔防隊の総組長は激務だと聞いた覚えがある。

 ……確かに私が知った事は八雷神と戦う、魔防隊の方針を決める上で重要なものになると思うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……()()()()何か問題があったんじゃないだろうか。

 ……例えば私が残したメモに既に魔防隊が知っている情報との食い違いがあって、()()()()()()()()()()()()と思われたとか。

 それで万が一の時は始末する為に……。

 ……いや、それなら総組長である必要なんて無い。

 私に戦闘力なんて無いんだから。

 

 

 ……いやいや、私が信用に値するか怪しいなら、私が『戦闘のできない一般人』だというのを疑われてるかもしれない。

 ……最悪は八雷神側の工作員で戦闘能力を隠してた……、……それどころか『自分から空折に取り込まれに行った』なんて疑いすらかけられてるかもしれない。

 それなら多少戦闘力があっても抑えられる人を置いて……、…………でもそれが総組長である理由は無いはずだ。

 魔防隊の組長に限っても今回出動しなかった人は、美羅さん、出雲さん、羽前さんの三人と山城さん自身を除いてもまだ五人も残っているのだから。

 

 

 ……となると桃の能力だろうか。

 もし私が(八雷神)側だとして、一番危ぶむべきは桃の能力だろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「──今日はこれで終わりだけれど、私から貴方に『これからの提案』をさせて貰うわ」

 

「、『これからの提案』?」

 

 

 

 

 ……危ない危ない。

 考えるのに夢中になって話聞き逃す所だった……。

 

 

 

 

「──まずは八雷神の討伐に協力して頂いた事、魔防隊総組長として感謝するわ」

 

「──いえ、こちらこそ魔防隊の方々のおかげで無事救出していただき、ありがとうございました」

 

 

 

 

 ……?

 何故お礼から……、──……あぁ、()()()()()()()()持ちかける必要がある話なのか。

 

 

 

 

「──ふふっ。貴方にはそれだけでなく八雷神についての情報提供に対しても感謝する必要が有るわ。魔防隊としては文句無しの感状ものね。──それだけの戦果を貴方は八雷神相手に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 …………。

 ……そうなっちゃったか。

 

 

 

 

「あらかじめ資料も目を通したけれど空折という神は他の神に随分と懐いていたみたいね。──そして貴方はその空折討伐に於ける貢献者よ。おまけに八雷神についての情報提供者でもあるわ。敵意を買うには充分ね?──それ故に報復が考えられる」

 

「…………そう、なりますよね。……」

 

 

 

 

 ……空折は、例えば同じ八雷神の壌竜相手には『隠された美(ヒトリシズカ)』で随分じゃれていたし、紫黒に醜鬼のカードデッキ渡された時には抱きついて『紫黒姉大好き!』とまで言っていた。

 ……そして姉二人もそんな空折の事を大切に思っていたように見える。

 ……報復を考えない訳が無いだろう。

 

 

 

 

「──私達は日本政府として貴方に幾つか選択肢を用意出来るわ。警察や陰陽寮の保護下での警護生活に、政府支援の元での転居支援。事実上の証人保護という形になるわね?もちろん今まで通りの生活に戻る自由も認められるわ。──まぁ、神相手にその自由は転居共々お勧めはしませんけれどね?」

 

「……それは、分かってます」

 

 

 

 

 ──……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから今回のような事も起こったし、……()()()()()()()()()()()()()()

 特に紫黒など自前での転移能力を持っている。

 そんな連中相手に現世のどこに居ようと警護が無ければ危険だろう。

 ……ついでに言えば紫黒が人間の中、それも政府の高官にまで八雷神への協力者を作っていたらしい──空折はあまり興味が無かったのと横浜行きが勧誘時期と重なってたので具体的に誰かまでは知らなかった──ので行政面でも安心できない。

 ……ほんとに余計な事するなあの神。

 ……いや存在自体が余計だあの神。

 

 

 

 

「そして、これは()からの提案なのだけれど──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──日ノ出冬美さん、貴方魔防隊に入る気は無いかしら?」

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 ……これは、少し、意外だった。

 

 

 

 

「……聞き間違いでしょうか?」

 

「いいえ?私、山城恋は魔都防衛特殊部隊総組長として貴方を隊員にスカウトするわ」

 

 

 

 

 ……空折の中で話した時、美羅さんに『救出が上手く行った時、私はどうなるか。──まず間違い無く意見を求められる魔防隊総組長(実働部隊の長)はその時どんな提案を出すと思いますか』と聞いてみはしていた──もちろんその時は直接話を聞きに来るとは思ってなかったけど──。

 曰く、『我は強えーけど慎重で堅実な人だからなー……。……警察か陰陽寮あたりでの保護を言い出すんじゃねーっすか?』との事。

 ……全てを(つまび)らかにしてくれた訳じゃないけど、そもそも八雷神についての情報は私のメモが手に入るまでそう多くなかったらしい。

 横浜の事は非常事態だったから迅速に対処されたけど、まずは()()()()()()()から初めて真偽を図らなくちゃいけない所だ。

 ……そんな状況でどこの馬の骨とも分からない私を一番重要な戦力(魔防隊)の懐に入れるという『無いでしょ』と思っていた選択肢を山城さんが提案してきたのは何故だろう。

 

 

 

 

「……私に、戦える力はありませんが、何故スカウトを?」

 

「確かに今の貴方には戦闘能力は無いわ。けれど神を抑え込んだその能力、戦闘に於ける潜在能力(ポテンシャル)も高いと見られているわ。魔防隊ならそれを確認し、磨き上げるにも困らないわよ?」

 

「……八雷神の報復に巻き込まれるかもしれませんが?」

 

「あら、プロ(戦闘部隊)の心配?それなら魔防隊もまた恨まれてるから大丈夫よ。人員も装備も設備も八雷神と戦うのにこれ以上のものは無いわ。──それに貴方が承諾した場合、配属されるのは私の十番組よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ああ、なるほど。

 少し分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私の元より安全な場所なんて他に存在しないわ」

 

 

 

 

 ()()()

 『例え懐で暴れられても(山城恋)ならなんとかなる』。

 『例え歯向かっても(山城恋)には敵わない』。

 『例えこそこそ隠れようとも(山城恋)からは逃れられない』。

 きっとなんでも思うようにできるという自信こそが山城恋(この人)の根源だ。

 

 

 ご立派な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何様だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()でもあったんでしょう?なら断る理由は無いと思うわよ?」

 

「……魔防隊は魔都の環境への適応が求められると聞いています。承諾した後環境に適応できなかった場合どうなるのでしょうか?」

 

「その場合は内勤か、あるいは寮の管理人か……。どちらにせよ魔防隊として引き受ける以上、戦闘能力の獲得が出来なかった場合も含めて八雷神と【母】に決着が着くまでその身は保証するわ」

 

「承諾した場合、聴取や検査はどうなりますか?」

 

「それは省いてもらう訳には行かないわね。研修と並行してきっちり済ませてもらうわ」

 

「承諾した場合に八雷神に依らない不慮の事故に遭った場合の保障は?」

 

「魔防隊隊規に基づき任務中のものであれば治療が行われ、任務内容等に応じた負傷手当が付けられるわ。復帰困難と判断された場合は──」

 

 

 

 

 ……とはいえ、私が疑われていたとしてその疑惑の人物を手元に置いて大丈夫だと周りから見られるだけの能力は確かにある。

 長い聴取の前に私がこぼした言葉もちゃんと覚えていたし、受け答えも理路整然として根拠も明示している。

 魔防隊への入隊を無理強いする事も無いがじんわりと魔防隊入りするメリットを差し込んで来るし、質問の連続にも表情を乱さない。

 

 

 ……おまけに美羅さんによれば『エレー強い』そうだ。

 横浜沖の空折の分身を全滅させた砲撃はあの時美羅さんがこぼした『総組長か……!』って言葉が正しければこの人のものだ。

 それに私が目が覚めた時は決着してから一日と経っていないと聞いていたのに、海外に会議に赴いていたらしいこの人は日本に在る魔都に帰り着いていたからもしかしたら移動に関わる能力も持っている……、……いやこれもそもそも近場だったり他の能力者の力を借りたり飛行機を急がせたのかもしれないから未確定。

 だから未確定な所は多いけど『砲撃』に加え、『移動』『能力対処』の三つも力を持っている。

 『桃の能力は一人一つ』と目される中でずいぶん破格だけど青羽さんも『口からビーム』『髪の強化操作』に加え、強化された身体能力と桃の過剰摂取による更なる強化という複数の能力を持っているから他に無い事でもない。

 ……ただ青羽さんは『魔都で桃を食べた事』と『桃の過剰摂取』がどのくらい影響してるか分からないのに対し、同じような事をしていなければこの人は一個の桃で複数の能力を得ている。

 ……それにお互い手の届く距離に居るのにずいぶん落ち着いているから、更なる能力か能力ではない戦闘技術かは分からないけど近距離で使える手札もある……、……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、随分熱心な質問だったけれど答えは決まったかしら?遅くともこの入院が終わるまでには解答をお願いしたいわ」

 

「……うーん……」

 

 

 

 

 ……さて、『私はこれから殺されますか?』とは聞かなかったけれどこれから先どうしよう?

 

 

 今の状況は

:普通に見える入院はできている。

:ただし魔都の病院(治療施設?)である。

:ベルちゃんがお見舞い(?)に来れている。

:聴取はこの病室で目覚めた後に行われている。

:目覚めた後一日の聴取の全てに山城恋がついていた。

:聴取は長かった以外、心に残ったり不自然に思う点はなかった。

:聴取の後山城恋に魔防隊入隊を含む今後についてを提示された。

……という感じだから、

もし警戒されているとするなら『能力者用の監獄で尋問を強制される』程じゃないけど『現世ではなく魔都で治療されて』『山城恋が付く理由はある』くらいには目をつけられているのだろう。

 私が知る限り『現世の一般の怪我人が魔都に運び込まれた』と言う話は聞いた事が無いから、魔都に居るのが本当ならそれだけでも異例だ。

 ……ベルちゃんが来ていたのを『お見舞い』と解釈するか、『監視』と解釈するか……。

 『はとこくらいの血縁関係なら私情の入る余地はない』と思われたから私の監視に付いてたのか、それとも『関係者しか面会は許されない』から純粋にお見舞いに来てたのか。

 ……三年ぶりくらいなのにロクに話せなかったからベルちゃんが私をどう思ってんのかさっぱり分かんないや……。

 総組長めー……。

 

 

 ……で、とりあえず『私は警戒され、疑われている』というのを前提として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……私が思うこの状況からの最悪は『今までの状況は全て円滑に情報を引き出す為の罠で、情報を抜き出したら向こうに私を殺す気がある』か『私がどれかの選択肢を承諾する事がデッドラインで、承諾する事で向こうは私を殺す事を決定する』あたりだろうか。

 ……拷問とか薬物や能力で死ぬよりひどい目に遭うのは死ぬのと同義としておく。

 

 

 その上で今後私はどうする?

 ……まず心配ならこの病室から脱走するのはどうか。

 ……論外。

 何の土地勘も無いし、やましいとこがあるんじゃないかと情報の信憑性が疑われる。

 同じ理由で理由をつけてこの施設の構造を把握してからの脱走も無し、魔都なら意味ないし第一私にそんな脱走に使えるスキルはない。

 ……次に元の生活に戻るか転居。

 ……無し。

 八雷神に襲われた時どうしようもないし、その脅威を目の当たりにしてるのに武力から遠ざかるのは不自然に思われるかもしれない。

 ……警察や陰陽寮の警護下での生活。

 ……、……無し。

 ……お偉方はこれを望んでる気はするけど、どちらも八雷神相手だと不安があるし、……ココさん波音さんの話を聞いた後だと少なくとも陰陽寮はありえない。

 ……魔防隊入り。

 …………一番魅力的だけど、一番危険な感じもするなぁ……。

 八雷神相手でこれ以上はないし、私も力を付けられる……かもしれない。

 …………でも疑われ、警戒される人間が八雷神の矢面に立つ組織へのスカウトに飛び付くのって怪しいと思いませんか……⁇

 内通や破壊工作目当てだと思われません……?

 『はい!』って言った瞬間、『そう、さようなら』で殺されません……?

 ……それに配属されるのは陰陽寮と共犯関係の疑いのあるこの人(山城恋)の元、『不慮の事故』で消える可能性もあるし……。

 ……ちなみに総組長が波音さんの事を承知してたかどうか聞いた美羅さん曰く『……そう悪い人じゃねーっすけど、やってもおかしくはネー人だ』との事。

 

 

 ……ほんとどうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──、」

 

 

 

 

 ──ふと、感触が戻って来て。

 頭に手をやってる事に気付いた。

 身体に巡り、体の中心でぎゅ、っと押し込まれてる魂の力も。

 

 

 

 

 ……何をじたばた考える必要があったんだろう。

 なりたいものは決まっているのだ。

 それに一番近付く道を行こう。

 

 

 ……それに近付くには鍛えて、学んで、人の中で過ごしていくのがいい気がする。

 だから脱走は無し、元の生活は鍛えるには限界があるし、警護の中はそれには不自由だ。

 

 

 ……死ぬかもしれないけど、元々八雷神の情報はメモに残して、最低でも美羅さんと羽前さんと和倉くんが見てる。

 あの、美しいひとが。

 なら、悪いようにはならないだろう。

 

 

 

 

「──ずいぶん長く時間をもらっちゃったみたいですけど、今聞いてもらって大丈夫ですか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

 

 

 

 ベッドの上で、できるだけ姿勢を正す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──になりたかったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 できる限りの言葉を伝える。

 

 

 

 

「在るだけで強く輝くような、

 

 

「世界の全てを照らすような、

 

 

「その暖かさでみんなを元気にするような、」

 

 

「そんな存在に。」

 

 

「……小さい頃から自信が欲しかったんですけど、それは一側面でした。」

 

 

「それは、そんなもんじゃ足りません。」

 

 

「そして、もう望みは消せません。」

 

 

「いや、消しません。」

 

 

「……大変不遜な動機となってしまうのですが、

 

 

「それには魔防隊で心身を磨き鍛えるのが一番だと判断いたしました。」

 

 

「──魔都防衛特殊部隊へのスカウト。」

 

 

「謹んでお受けしたいのですが、いかがでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(悪くなかったわね)」

 

 

 

 

 山城恋は一連の出来事の結果が己の思った通りの満足行くものとなり、機嫌良く歩いていた。

 

 

 

 

 八雷神の裏に潜む【母】なる存在、『清めの日』というタイムリミット、……そして政府高官に潜む八雷神への内通者。

 正しいものであれば魔防隊ですら掴んでいない重要な情報を日ノ出冬美のメモは残していたが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 横浜で空折が討伐されたのと同時刻、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 メモはただの紙切れと化した──内容が内容だけに、速やかにメモの全てが証拠写真として撮影されたのが幸いであった──。

 ……そして、それが議論を呼んだ。

 ……元々メモの情報に信頼性と正確性がどれ程あるのか、そして日ノ出冬美という人間自体の信頼性が如何程かは短い間に行われた会議でも議論の種だったが、原文の文字通りの消失は日ノ出冬美への疑いを強めるものだった。

 ──即ち『神の血で書けば文字が消えると分かっていて撹乱しているのではないか』と。

 

 

 『日ノ出冬美は白か黒か』で議論は紛糾し、身柄がどうなるかもまたその扱いに於いて軟禁・監禁・放免、確認の仕方に於いて聴取・尋問・拷問、預かる組織に於いて警察・自衛隊・陰陽寮など数多の候補が入り乱れて纏まらなかった。

 

 

 ──そんな中で恋は鶴の一声を上げた。

 『では、魔防隊が預かりましょうか?』と。

 

 

 ……もちろん反対は有った。

 魔防隊が身柄を預かるとすればそれは魔防隊の拠点が有る魔都になるが、件のメモが正しければ八雷神の本拠もまた魔都に有る為安全面に懸念が有った。

 だが戦力・装備・設備の上で魔防隊以上は無く、おまけに魔都なら移動も制限出来る──そう納得させた。

 日ノ出冬美の魔防隊へのスカウトはそれより強い反対の声が有った。

 が、黒であるなら対八雷神の最前線に就く魔防隊に入れば必ず尻尾を出すだろうし、白だった場合は全てが上手く行けば神に対抗出来る戦力が増える──そう説き伏せた。

 

 

 ……しかし何より威力を発揮したのは百の言葉より、それを提案したのが“山城恋”であると言う事実唯一つだっただろう。

 品行方正、政府上層部にも従順、魔都災害への対処に於いても実績が有る才女。

 ──だが何より米軍の特殊部隊も、魔都の桃を狙った名だたる犯罪者も、醜鬼の大群も、悉く蹂躙出来る程、化け物揃いの組長達の中でも圧倒的に強い。

 『八雷神と通じていても山城恋ならどうとでも出来る』、結局のところその共通認識こそが恋の提案が通った一番の理由だった。

 ……こうして恋は『魔都の案件であるから』と上の了解を得、目覚めた冬美と対面して選択肢を提示し──、──魔防隊へのスカウトに成功した。

 

 

 

 

 ……そうまでして冬美を求めた理由は何か。

 全くの素人の身で八雷神を抑えてみせた、戦力としての潜在能力への期待も有るだろう。

 閣僚達へ魔防隊の実力と存在感を示す為のものでもあっただろう。

 ──だが何より神と互するその魂が『地球の答え』と評された自分に対面してどう反応するかに興味が有ったからだ。

 正直なところ、冬美を魔防隊に求めてみせたのは直接対面する為の理由付けに過ぎない。

 

 

 

 

「(……()()()()()()()()()()。良い関係を築けそうで良かったわ)」

 

 

 

 

 そうして直接対面してみた日ノ出冬美という人間は悪くなかった。

 朝から夕方まで続いた聴取にも音を上げず、魔防隊へのスカウトに対しても冷静かつ慎重にその内容を確認していた。

 元の職場でもそう悪くない仕事振りだったと報告されているので、今の段階でも本部事務あたりの適性には期待が出来そうだ。

 ──何より病室に足を踏み入れ、その姿を確認した時の目。

 ──あれはどちらが上で、どちらが下か、分かった者の目だった。

 『私の圧に畏れを抱く人とは良い関係を結べる』と言う持論を持つ恋にとって冬美は好ましい人間であった。

 

 

 

 

「(……ベルも喜ぶわね)」

 

 

 

 

 ……また或いは、お気に入りの仲間で友達である──恋はそう思っている──組長(部下)に昔優しくしてくれたという親戚だったのも理由だったかもしれない。

 魔防隊三番組組長・月夜野(つきよの)ベルの喜ぶ顔を想像し、また一歩恋は機嫌が良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……山城恋は確かに実力者である。

 魔都の精兵を束ねるに足る、群を抜いた能力は幼い頃から有しており、敵う者など誰も居なかった。

 ……それ故に、彼女の内には慢心が満ちていた。

 侮り、傲り、物事を自らの都合の良いように解釈するその心は瞳を曇らせている。

 だから彼女は気付かないし、見落とす。

 ──『昔優しくしてくれた』と言う再従姉妹(はとこ)を見るにしてはその表情に喜びが足りない事に。

 ──自らが値踏みした相手がより深く自分を値踏みし、その性根と能力に当たりをつけ、裏幕すら察していた事に。

 ──『あれは自分を畏れていた』と見た(まなこ)の奥、その内心で『()()()()()勝ち負けどころか戦いにもならない』と思われていた事に。

 ──……確かに上下は理解していたと言えるが、素人が一目見ただけとは言え、その存在感と言う名の圧力を目の当たりにしたにも関わらず大多数の人間の様に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 山城恋は気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 薄明かりの中で目を覚ます。

 

 

 

 

「…………うーん」

 

 

 

 

 ……布団を跳ね上げて、起き上がる。

 パジャマを脱ぎ、ジョギングに使うようなスポーツ用のインナーを着て、壁のフックに掛かったおろしたての()()まで近付く。

 黒地に赤の縁取り、金の肩飾りと正面に六つ並んだボタン、前掛けみたいなパーツのあるスカート。

 ──魔防隊の標準制服だ。

 

 

 

 

「〜〜」

 

 

 

 

 後ろで髪を畳んでまとめたら、まずは内のシャツを着て、スカートを履く。

 長袖の上着を着けたら、その上から太めのベルトを締める。

 足元に履くのは靴下だ。

 

 

 

 

「……行って来ます!」

 

 

 

 

 私の、新たなる日々が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【八雷神・空折 討伐】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだけ、でしたか」

 

「はい、寮長様」

 

 

 

 

 神社の様な薄暗い建物の中、縄を張った結界に囲われ、機械的な装置に収められた何かを老婆が見ている。

 

 

 

 

「重要なサンプルです。扱いは慎重に」

 

「承りました」

 

 

 

 

 それはただの紙切れだった。

 ありふれた素材、ありふれた製法、ありふれた工場で作られ、ありふれた店から納入されたありふれたメモ用紙として誰からも忘れ去られていたその紙切れには赤い文字が二つ、記されていた。

 

 

 

 

 ──『空折』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【八雷神・空折、復■■■■■■■──】

 

 

 

 

 

 

 

 






※魔防隊の規則の名前が魔防隊隊規なのはオリ設定です。

 ツッコミ所を教えてもらえたら反映する……かもしれません。
 もちろんそうでない感想もOKです。

:冬美
…名は体を表す人。
 女性なので魔防隊に入れた。
 誕生日は1月2日。
 月夜野ベルとの関係は冬美が年上のはとこ(ベルの祖父が冬美の祖母の弟で、ベルの父が冬美の母といとこ)。
 昔ベルに優しくしたらしい。
 色々想像し、模索し、考察した事が合ってるかはケースバイケース。
 (例)陰陽寮の追跡→×17巻の反応見るに追跡にはそんな本腰は入れてなかった模様。
 魂の仮想空間で接した波音達には感情の動きを察されているが、現実であった総組長には内心を悟られていない。

:ココ
…この人の学力を本作では低く見積もってるかもしれない。
 場合によっては修正します。

:青羽
…この人の感知能力と学力は盛ってるかもしれない。
 学力は修正するかもしれませんが、感知能力はオリ設定で通します。

:波音
…冬美の影響を受けて考えを深く巡らすようになった。

:舎弟
…またの名を和倉優希。
 男性なので魔防隊には入れなかった原作主人公。
 とある神の最期の笑顔が脳裏に焼き付いた。
 ……と思ったらその神と再会した。

:空折
…そう簡単には消えないらしい八雷神。
 その血は討伐と共に消えたが、和倉優希の中の残滓(?)はそのまま。

:組長組
…京香さんは元より立って動けたし美羅さんは割とすぐに動けるようになったが、天花さんは精密検査中。
 ……そして美羅は『舎弟の姉ちゃんの事』について『オレも噛ませろ』と京香に訴える。

:山城恋
…慢心の真っ只中な総組長。
 ……冬美は実際に会う前からこの人に良い印象は持ってなかったが、実際に対面し、話してみて更に悪くなった事に当の本人は気付いていない。
 他にも冬美に八つある能力のうち三つがバレ、更に近距離に使える手札がある事までバレている事を筆頭に色々気付いていない。

:月夜野ベル
…今回は直接登場していない。
 昔優しくしてくれたという割には冬美を見る目に喜びが足りなかった。







:『空折』
…『これだけ』だったらしい。

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