その歩み、大山へと至る 作:枯山水の庭園
……私が幻覚を見たなどでなければランキングに載ってたようです。
……評価頂き大変大変ありがとうございます‼︎
※捏造多いです!
魔都防衛特殊部隊。
人が作り上げた、醜鬼と戦い、魔都を守る組織。
……で、あれば。
……逃れられない宿命がある。
「先月の醜鬼討伐数の集計、全区域分終わりました!」
「関西向け桃の移送段取り、やっぱり変更が必要です……」
「また二番組が経費でバイクいじってる……!」
「食料品供給、六番組分は問題無し、っと……!」
「やはり各組寮毎の予備武器の配備状況に問題がありますわ……!」
……事務仕事である。
……そもそも魔防隊十番組は魔都中央区域を管轄している組で、なおかつその人員のほとんどは魔防隊総本部の構成員も兼ねている。
……分けろよ、と思うけど魔都災害への迅速な対応の為魔防隊総本部が魔都に置かれる都合上基本的に組員にも魔都災害への対処能力が求められその条件を満たす人員は足りず……、……要するに分けられるほど人がいないのだ。
で、総本部の仕事が何かといえば『魔防隊全体の取りまとめ』。
各組から上げられる醜鬼討伐・災害対処・出動状況・組員状態・経費使用……などなど諸々の報告の確認、これが九つ分。
逆に各組への醜鬼出現・災害発生・異常警告・組員辞令・経費配分などの通達、これも九つ分。
合同訓練や組長会議などの複数の組が関わるイベントのセッティングにも関わっている。
ああ、総本部としての索敵の仕事もある。
これは索敵係が行い、専属の索敵係が居ない一・三・五・六・八・九と十番組の管轄区域と専属の索敵係の休息時などの二・七番組の管轄区域……、……要するに魔都全域を探って醜鬼や
……それに『
魔都の桃は魔都にしか生えない……、……当然醜鬼の出る魔都での収穫作業は戦闘能力が無ければ危険なのでこれも魔防隊が各組から人員を出して行っている。
この人員を魔防隊では『出張組』と呼んでいる。
(この人達は魔都に居る人員の中でも結構な割合を占めている)
……で、桃の最大の群生地があるのが魔都中央の地下大洞窟、……そう、魔都、“中央”、即ち十番組の管轄に一番多くの出張組が詰めているのだ。
……この人達の休息や採取業務などのスケジュール管理や訓練なんかも十番組兼総本部の仕事なのだ……。
……そうして採取された桃は現世へと届けなくてはならない、……けど民間の小売業者になんて卸せない。
輸送ルートを決めて国が管理する保管施設まで運ばなくてはならないし、果実かつ重要物資なのでコンテナに雑に放り込む訳にも行かず、梱包しなくてはならない。
……これもまた始まりが魔都であるが故に魔防隊、もとい魔防隊総本部が関わる仕事だ。
(……たまに現世での桃輸送の襲撃犯への追撃の応援に魔防隊が呼ばれる事もある)
……そうだ、整備の仕事もある。
魔防隊でも移動手段に車やバイクが使われてるけど、これらが故障しないとか壊れないなんて事は無い。
基本的には各組ごとに固定されている
……そして、魔防隊は日本政府に属する組織だ。
内閣府の魔都対策会議の指揮下で、防衛省の管理を受け、外務省に桃狙いのテロリストの国籍を報告し、警察庁と魔都災害による行方不明者情報を共有し、時には国際会議に出席し……、……こういった政府組織との関わりも総本部が引き受けている。
その辺特に積極的に矢面に立ってる総組長のスケジュール調整も大半は本人がやってくれるけど、ちょろっとは総本部が関わってるし確認も取る。
……ああ、そうだ、それら“総本部としての”仕事に加えて“十番組としての”醜鬼討伐の報告書の作成やらなんやらの仕事も加わって来る。
当然魔都災害への出動待機もしなくてはならない。
……人員が足りてないからあちこち掛け持ちで。
……要するに。
……十番組=総本部はとても忙しい!
「…………」
……で、私がそんな中で何をやってるかというと。
デスクのセッティングや書式の確認などの準備作業だ。
『……そんだけ忙しいならすぐにでも手伝えよ』なんて言われるかもしれないが、ロクに確認もしないであれだけの業務に関わればそれこそ大惨事だ。
その辺は皆さん認めてくださっている。
「……それでどうですか、冬美さん!大丈夫そうですか!」
「……とりあえず経費・討伐系はいけそうです。出動・管理系は慣れないと」
「要点教えますね!期待してますよ!」
……仕事の合間に私の確認をした銀奈さんがすぐさま過ぎ去って仕事に戻って行く。
……なんで私が『期待してますよ』なんて言われるかといえば、私が『会社勤めを経験している』というレアキャラだからだ。
……そもそも魔防隊に入隊する主なルートは現役魔防隊組員からのスカウトか、志願に応募するかだ。
どちらにしろ第一に求められるのは醜鬼と戦える戦闘能力で……、……事務処理能力はかなり優先度が低い。
魔防大学及び魔防大学附属高校ではそこら辺も教えてるけど、結構な数が魔都の環境にふるい落とされて行くからあまり意味がない。
……それ以外の志望者やスカウト受諾者の大多数は『事務?ナニソレ?』な戦闘重点者だ。
……そしてそういう人達こそ魔都の環境に適応して魔都に残るものだそうだ。
結果事務作業は有望そうなのに一から教えて行く形が多くなり……、……どうしてもその間は処理能力が低下する。
で、私は一般大学卒業後会社勤めで事務作業を経験し、総組長にスカウトされるという今の魔防隊ではめったに無い『社会人スカウト』の経歴を持っている。
武力組織故の違いはあれど、経験があるなら教える事も少なくて済む……、……と思われてるそうだけど……。
「(期待し過ぎないで欲しいなぁ……)」
……いや仕事自体は慣れればなんとかなる、と思う。
武力組織であっても聞いて、数えて、まとめて、確認して、伝えて、という事務作業の基本的なフォーマットは共通する所が多い。
……けど多分、私がそもそも“値踏み”されてる最中だ。
醜鬼討伐から帰って来た人達の中に、食堂の人混みの中に、……今こうして事務室で作業し出入りする人波の中にも。
『新入りに向ける物珍しさを含んだ視線』とは違う……、……鋭く、用心深い……、……『敵意』ってこんな感じじゃないかと思う刺々しい感じが肌に刺さる。
……そして多分、素人同然の私にも気付かれる敵意を囮に密やかに私を観察する者も。
「『八雷神・空折討伐についての簡易報告』……」
……私が疑われそうな要因も分かった。
私達を抜き取られた空折は最終的に羽前さんに斬られて討伐されたそうだけど……、……斬られた空折は霞が散るように消えて、死体も血痕も残さなかったらしい。
……私のメモも空折の血で書いたから、文字が消えてしまったんだろう。
それを私がわざとやったと思われた。
「(今ごろはみんな調査してるのかな……)」
情報が情報だから裏取りはきっちりしなくちゃならない。
私は魔都に隔離して家族・職場・学校に至るまで経歴や人間関係に不審な点が無いか調査し、私自身も観察してるといったところ、かなぁ?
魔防隊での私の扱いも九割九分はその裏取り次第だから、確定したその時には私は魔防隊から居なくなっててもおかしくはない。
で、私がする事は……
△
「(あと俺がする事は……)」
魔都南西・魔防隊七番組管轄区域の七番組組員寮にて。
和倉優希は組員寮の管理人としての仕事をしていた。
「(台所の洗い物と仕込みは終わった、洗濯は仕掛けてある、掃除も済ませてある。……じゃあ、洗濯が終わるまで休憩だな)」
基本的に魔防隊の組員寮とは、結界で守られた魔都に於ける魔防隊各組の待機・活動拠点であり飲食・睡眠・休息を行う生活拠点でもある。
組員寮の管理人とは組員の食事を作り、衣服を洗濯し、寮を清掃するなどして生活拠点としての役割を整えるのが仕事だ。
事務員すら戦闘力など醜鬼への対処能力が求められる魔都の人員の中では例外的に非戦闘員が各組組長の委託を受けて就く事を想定されており、単体では成り立たないが『奴隷』として戦闘力を有する優希は“男”である事を差し引いても稀有な存在である。
「(今日は京香さんは日万凛と……、……いや
不在の上司達の所用を思いながら自室の戸を優希は開いた、
「──えっ」
──そして驚きに固まった。
「やぁ、優希くん」
プライベートスペースの筈の自室のベッドに一人の人物が腰掛けていたのだ。
……
その女性は既に何度もこの部屋に(無断で)入って来ているのだから。
「天花さん⁉︎」
「久しぶりな気がして、会いたくなっちゃったんだ」
優希の部屋で待ち構えていたのは六番組組長・出雲天花。
滑らかに立ち上がり、優希の元まで歩み寄って来る。
「お、俺の方こそ……!……検査が長引いてるって聞いて。──無事だって聞いてましたけど、また直接会えてよかったです」
「──!おんなじ気持ち、だね」
──天花の感情が溢れ出した。
「⁉︎⁈」
すっ、と腕を回して抱き着き、
──和倉優希を、出雲天花は好いている。
「⁈て、天花さん⁉︎」
「『ご褒美』、京ちんからは貰ったんだよね?」
「は、はい!──」
──あれは横浜の戦いを終えて気絶した優希が目覚めた後の事。
『終わったか⁈終わったか⁉︎』
『……あとは上だけだ』
『(美羅さん……)』
──赤い顔でそっぽを向いた美羅が叫ぶ、七番組浴場の更衣室で京香と優希の主従は『褒美』を終えようとしていた。
『
生命体一体を『奴隷』として強化し、使役する力。
その代償として主が働きに応じて『奴隷』に与えるのが『褒美』である。
これは働きが終わった時点で主の身体が勝手に動いて行われるもので、優希と出会う前・醜鬼を多少強化して使役していた頃の京香は豚肉を与える程度の褒美で済んでいた。
では優希にも豚肉を与える褒美では──、──済まなかった。
キス、ハグ、添い寝……。
……優希に京香が与える褒美はそういった『色』を感じさせるものばかりだった。
(尚、今の所
で、優希を使役した訳でもない美羅が何故此処に居るのかと言えば、優希が目覚めた事で身体が動き始めた京香を寮まで送り届け、優希に礼を言い、──話を聞く為だ。
『終わったぞ』
『終わったな⁉︎…………ヨーシ……。……済まねぇナ、見苦しいとこ見せてよ』
『い、いえ……』
──そして、優希を見つけるや始まった『褒美』に自分を助けてくれた優希を労うべく自らの意思で加わろうとし……、……撃沈した。
見た目からは考えられない程に
(尚、もし天花に脳や脊椎へのダメージが懸念されず同行していた場合、躊躇なく脱いで自ら『ご褒美』に加わる天花に圧倒されてそれすら出来なかった)
『……んで、
『はい』
──だが、それでも話は聞いていた。
優希に宿ったという八雷神。
『人型醜鬼』の真実。
そして優希の姉、青羽の事。
『──俺は妹だ。まだ学生の妹が地元に居んだ』
『‼︎』
『美羅……』
京香と、優希。
全ての話を聞いた美羅は、自らに在った優希との共通点を明かす。
『
『──』
美羅は驚きに目を揺らす優希を名前で呼んだ。
『……いや、ほとんど死んだと思ってたんだったな。──すまん、分かってやれた気になってただけかもしれねぇ。それと魔防隊としてお前の
『美羅さん……』
頭を下げ、発せられるは謝罪の言葉。
『──親父さんとお袋さん、まだ生きてんだったな。お前の
『──はい!よろしくお願いします!』
目を見据え、口にされるは新たなる希望。
──ここに新たな関係が結ばれた。
『それと、いつでも頼れよ?お前にゃ俺が付いてるからな』
『──ありがとうございます‼︎』
『──……全く、主人の面目丸潰れだな』
自らの奴隷にさえも発揮される、好敵手の頼り甲斐に溢れる姿に京香は苦笑を漏らす。
『私の事も忘れるなよ?私はお前の主人なんだからな』
『もちろんです、京香さん‼︎』
『オウオウ、張り合われちまったな』
だが負けじと己が主人であると──、──己は奴隷が頼るに足る主人であるのだと、確認し直した。
『改めてよろしく頼むぞ、美羅』
『オウ、任しとけ京香。──そんでまず始めんのは』
そうして、鬼門・裏鬼門の組長も手を組んだ。
取り掛かるべき目標は──
『『証拠集めだな』』
「──そんな訳で、美羅さんも味方になってくれました!」
「それは助かるね。詳しく説明、ありがとう?」
「あのっ……!そろそろ下りてもいいのでは……⁉︎」
──新たな仲間を得た、天花が検査で不在の間の出来事を話し終えたが……、天花は始終、優希の上に乗ったまま聞き、今も下りない。
「私があげてないからね、『ご褒美』。──じゃあ、しよっか?」
「(──あっ、これまずい)」
──当然の事ながら。
美羅同様、天花も優希を使役などしていない。
……いないが、優希を労う為に褒美に加わる事を躊躇わない。
勿論『色』付きでだ。
しかも今回は『しばらく会えていない+思いが一致してのときめき+既に褒美を終えている為ストッパーとなる京香がいない』で一線を超えかねない危険な気配を優希は感じ取った。
……しかし本当に不味いのは……、
「優希ー、帰ったわ、よ……」
「……」
「…………」
……上司達がそろそろ帰還する時刻だと言う事だ。
「な、な、ななな、なにやってんのよいやらしい‼︎」
「ひ、
「組長と自分が居ない間に部屋に連れ込んでた、って訳⁈『褒美』に飽き足らずそんなの「日万凛くん」」
しかも一番うるさい相手に見つかってしまった……。
と焦る間に天花が動く。
「
「く……、っ……、……」
「それと京ちんはもう帰ってる?」
「……はい、今は執務室に」
強く、はっきりと意思を示しながら、緩く、やんわりと勢いを削ぐ。
相手の口が止まるや話題を別のものに逸らし、勢いを殺す。
見事なまでの『柔』の使い方だった。
「それじゃあお邪魔して来るよ、またね。優希くん」
「は、はぁ……」
その手際に何も出来ずに居た優希との逢瀬に水を差されたにも関わらず、非常に機嫌良く天花は立ち去って行った。
「やあ、京ちん」
「ああ。……お前、優希と会って来たか?」
その足で誰も居ない廊下を通り、七番組組長執務室へ。
己の奴隷に会って来た事を察する京香の白い目を受ける。
「うん、元気そうでよかったよ。──でも悪い事しちゃったかな。優希くんの話が心地良くて聞き入ってたら日万凛くんが来てね……」
「…………そうか。……ともかく、
優希と居る事を優先し、優希の声音に聞き入っていたら、優希が怒られる事になってしまった……。
……そんな逢瀬の話を隠しもしない天花に京香は複雑そうな表情を滲ませながらも、思考を切り替え──
「これから先、どうなるかについてお前の話を聞きたい」
「うん、分かったよ」
──今後の話に移った。
「…………いやらしい‼︎」
……一方、優希の自室にて。
……後から来たにも関わらず取り残され、負け惜しみの様に優希を罵るのは
七番組の副組長である。
「言っとくけど‼︎変身してなくてもあんたはいつでも組長
「き、肝に銘じてるよ、……それで今日は何の用事だったんだ?」
「本当に分かってんでしょうね?……私の能力を使え、って本部からの要請よ」
どさり、と優希と並んでベッドに腰を下ろしながら日万凛は端末を見せて来る。
その画面にはゲームのキャラクターカードのようなものが表示されており、描かれているのは淡い白に光る魔防隊の制服を着た濃い焦茶の髪をした女性だ。
カードには名前と能力値を表す数字も記されており、
[隊士 日ノ出冬美]
[LV 1]
[魔都殲滅力 10]
と書かれている。
……そして髪型と髪色こそ違うが優希はその女性に見覚えが有った。
「この人って……」
「あんたは横浜で会ったんでしょ?自分でも能力は分かってなかったらしいから『
『
それは日万凛が桃を食べて発現した能力であり、端末にセットしておいた能力を使えるというものだ。
例えば京香の『
今回は能力検証の一環として能力をコピーしたのだ。
「魂を増強する『
「違ったのか?」
「……セットしてからずっと使ってるけど
「京香さんが……」
「それにどのくらい劣化してるか分からないのも困るのよね……」
……ただしコピーした能力の殆どは劣化して使い物にならないと言うとてつもない欠点が『
最もここ最近は劣化も少なく能力を使えるように成長してはいるのだが、それでも本家本元より精度は劣る。
そしてそれ以前に、能力を得た当の本人すらその効果を実感出来なかった『
「まぁ、これからはあの人も魔防隊の一員だし、問題は無いわね。分かった事があったら教え合う約束もしたし」
「えっ、そうなのか⁈」
「はぁ⁉︎あんたどこに目付けてんのよ⁈制服着てるでしょ、制服‼︎」
「あっ、ほんとだ……。いや、俺にとっては助けた人って意識が強くてさ。唐突な話だったし」
「あんた、図に乗り過ぎよ?総組長直々のスカウトだったそうだし、海桐花が来てたから東も注目してるみたいよ」
「えっ、海桐花さんも⁉︎」
「ええ、……」
絶え間無く言葉を紡いで来た口が、噤まれる。
……あれは、
……奇術を見たって、あんなものは目に出来ない。
『七番組組長の
『ああ。私が羽前京香、こっちが東日万凛だ。今日はよろしく頼む』
『よろしくお願いするわ』
『はい!私はこの度魔都防衛特殊部隊に入隊し、現在十番組にて研修中の日ノ出冬美と申します!こちらこそ本日はよろしくお願いします!』
──25歳にしては妙に可愛げの有る人だと言うのが日ノ出冬美に日万凛が抱いた第一印象だった。
総本部の一室でうきうきしながら京香と日万凛を迎える様は子供っぽくさえ見えた。
……年上でありながら、子供っぽく、副組長である自分より立場は下……、……中々面倒臭い所に居る人だとも思った。
『…………、……あの、始める前に羽前組長に少しよろしいでしょうか、お二方……?』
『構わないか、日万凛?』
『え、えぇ。自分は大丈夫です』
……だが挨拶を終えた後、もじもじとするような妙な態度を取る。
京香に何か私用が有るようで、許可が出されると……
『その節は本っ、当〜〜〜〜〜〜〜〜にっ!ありがとうございましたっ‼︎羽前組長‼︎このご恩は忘れませんっ‼︎』
……弾けた。
『(ああ……。銀奈さんと同じタイプね……)』
『お困りの事があればぜひ‼︎未熟者ですが必ず力になります!』
『ああ、これからは同じ魔防隊の仲間だ。よろしく頼むぞ。私の事もそう畏まらず、好きに呼んでくれ』
……大の魔防隊ファンであり、特に組長達の活躍を見るとやたらテンションが上がるとある十番組組員に近い人なのだと日万凛は納得した。
そのテンションに引かず、真っ直ぐに答える組長は流石『──分かりました』
……、
……え?
『京香さん』
目の前にいるのは誰だ。
さっきまであんなにはしゃいでた人はどこに行った。
『?どうかされましたか?』
『い、いや。落ち着くのが早いな、と思っただけだ』
外見は何処も変わっていない。
垂れ目気味の顔立ちも、後ろで畳んだ焦茶っぽい黒髪も、魔防隊の標準制服も、全てがほんの数秒前と何も変わらない。
『自分でもちょっとはしゃぎ過ぎちゃったなー、と思ったので。……あの、さっき言った事が京香さんの迷惑になるなら忘れてしまって大丈夫ですよ?』
『そんな事はない、大丈夫だ』
──唯、所作が別物だ。
身体全体から発せられていたぶんぶんと尻尾を振る様な喜びは鳴りを潜め、歓喜の笑顔に沸いていた表情は静かな微笑みに変わり、言葉の調子も当然落ち着いて。
──それがなんの継ぎ目も無く行われた。
一旦咳などして切れ目を作ってからではなく。
『それで今日は私の能力をコピーすると聞きましたが?』
『あ、ああ。日万凛の『
太陽と氷山がぱっ、と入れ替わったかのような有り得ないまでに滑らかで、自然で、唐突な感情と表情の操作。
先程までは子供っぽく見えた人間が『大人の対応』という言葉そのもののようににこやかに、落ち着いて応対してるだけなのに同じ人間に見えない程に落差が激し過ぎて冷たく、冷えて感じられる。
『(──この人が無名なんてありえないでしょ……⁉︎)』
日ノ出冬美。
その名前を日万凛は戦慄と共に刻み込んだ。
「……あの人は、ヤバいわよ」
「……そんなにか?」
「ええ。あれをなんとも思わないのなんて……」
……別に感情の切り替えがどれ程上手かろうと、魔防隊で求められる強さ──主に戦闘能力──に即、繋がる訳ではない。
……ないの、だが……。
……日万凛が冬美の事を思うと戦慄と共に、……何故か、この星の答えと謳われる、魔防隊の頂点に立つ人物が脳裏に浮かんでしまう。
「……暇してんなら訓練するわよ、優希‼︎もっともっと強くならないと‼︎」
「おう!……って言いたいけどもうすぐ洗濯が終わるとこなんだよ……」
「じゃあ自分も手伝うから、早く終わらせて鍛えるわよ!」
「お、おぅっ⁈」
心に暗いものが有るのなら、鍛えて、鍛えて、鍛えまくる。
七番組流のやり方は着実にこの主従を染めていた。
△
「(──その時まできっちり鍛え上げる、と)」
……まぁ上がどうなろうと、私にどう言おうと私のやる事は変わらない。
なりたいものは、もう決まっている。
だから鍛えるまで。
……それに密かに、ライバルもできた。
東日万凛さん。
私の能力をコピーして……、……能力の活用という意味では私とそう変わらない位置にいる。
何かしら魂に通じる能力も持ってるかもしれないし、負けられない。
……、……。
「……『負けられない』、だけで銃も当たればいいんだけど……」
現在、十番組屋内射撃場。
日万凛さんに能力を引き渡した私は魔都用に改造され、醜鬼にも通じる拳銃の射撃訓練をしていた。
……これが全然当たらない……。
お祭りの射的だって当たるもんじゃなかったのに、的はより遠いし、火薬の反動はコルク銃とは比べ物にならない。
しっかり両手で握って、足は開いて撃ってるのに一番良い当たりが的のはじっこで、大半は的にかすりもしない。
「銃かー、此方が教えられる事は無いのー。そもそも今の形になってから撃った事があるかも分からん」
「ですよねー。そもそも能力で止められない人の護身用ですし、それすら持ってる人は少ないって聞きましたし」
……そもそも銃に限らず、武器使いは魔防隊では少数派だ。
……魔防隊は現世とは隔てられた別世界である魔都に駐留し、戦闘を行う。
行き来する手段は
各寮には固定されたものがあるけど……、……途切れる事だって想定されてる。
そして武器は使えばやがて壊れ、銃弾はそもそも使えば使いきり、補充や修理が必要となるが……、……その時
更に言えば醜鬼にも通用する武器は、武器作成や武器強化などの能力を持った人の手作業で作られるからそもそも数が少ない。(弾を大量に消費する機関銃なんかを見かけないのは手作業との相性が悪いからだそう)
だから武器の補給が途切れても大丈夫なように、武器に頼らなくても大丈夫なように、魔防隊は能力戦闘のプロフェッショナルになった所も有るという。
例外は九番組組長の
私は『大山の魂』で手に入った諸々が安定して攻撃に使えるかまだ分からないので、一応支給されている。
…………。
……京香さん……、……めっちゃテンション上がっちゃったけど変な奴って思われてないよね私……?
「……でも覚えときたいんですよね、手が増えますから」
「……そんでお前は全然驚かんのー、冬美。これでも気配消して入って来たんじゃぞ?もっと『えぇっ⁉︎いつからそこに⁉︎』みたいに驚いてくれてもええんじゃぞ?」
「『実は心の中では腰が抜けて涙目になりそうなくらい驚いてる……』、って言ったら海桐花さんは信じますか?」
「信じるも何も分からんわ。全く、可愛くない若造よ」
練習弾は打ち切ったのでいつの間にかやって来ていた海桐花さんに向き直る。
「それで昨日の今日ですが、どうされました?また要請がありましたか?」
「何を言っとるんじゃ、
「……えっ?」
続、き?
「……いいんですか?九番組の仕事とか、他の組の組員を教えるしがらみとか、大丈夫ですか?」
「応とも、
「わぁ、ありがとうございます!」
……全力で乗っかるけど、これは純粋な善意じゃないな。
……東という家は魔防隊創立にも関わった名門で、今の魔防隊には全ての構成員が東家出身の九番組があり、組長の一人と副組長の三人が東家だ──というのは昨日銀奈さんが教えてくれた。
……本当に隠居の気まぐれなら海桐花さんの性格的に
……多分、私に東という家にとっての『価値』が見出されたから、また海桐花さんが徒手格闘の手解きに来てくれたのだろう。
……その『価値』が何か、次第では物騒な事になりかねないから注意しとこう。
「──今日は此方に生命力での強化は無いし、お前も万全じゃろう。当てに行けると思うたら遠慮無く当てに来るが良いぞ?」
「もちろん、そうさせて貰います……!」
……まぁ嬉しいのは変わらないけど。
徒手格闘の教えは絶対腐らないだろうし、
……銀奈さんも『私は非戦闘員寄りなので……。……戦闘系の事は激!遠慮なく他の方に学んでくださいね!微力ながらお手伝いします‼︎』と許可してくれたので遠慮なく学ぼう。
「では、行くぞ!」
「はいっ!」
──一面が鏡張りのトレーニングルームで海桐花さんが突っ込んで来る。
「……っ」
「……ほう?」
前蹴り、殴り、殴り、回し蹴り。
相変わらず身体は追いつかないけれど、昨日とは違って
「(海桐花さんの積極さなら……!)……ぁっ!」
「また受けるばかりか⁈」
「……はあ、っ!」
「……‼︎」
「……」
「…………」
……ぎぃーん、と痛みが拳を駆け抜ける。
それでも何故か耐えて、口を閉ざしていた。
「……
「
やがて海桐花さんが沈黙を破る。
じっ、と押し合って止まっていた拳が動き出す。
「なるほどのー、だからここを選んだか」
「はい。教えてくれるなら、“とりますけど”大丈夫ですか?」
……鏡に居る海桐花さんに話しかけたのはやっぱり気まずいからだろうか。
「……全く、大違いじゃの。生意気で、腹黒で、可愛くない癖に、可愛げと礼儀が有る、お前は可愛くないが面白い若造よ!冬美‼︎」
「……どうも?」
……『誰と』『大違い』なのだろう。
「今、気を逸らしおったな?」
「あっ、すみません」
「まぁ“盗む”のは好きにせい、と言うより此方でなくとも誰であれ好きにせい、それもお前の力じゃと気付かぬ方が間抜けじゃ」
「……それは悪いので、必要に応じてバラそうと思います」
「かえって性格が悪くないか、それは?しかしそうなると此方もうかうかしてられんのー、……ふーむ」
腕を組んで考え込む。
「……よし!今日はここまでじゃ!明日も来るからそのつもりで覚悟せいよ〜!」
『わあっ⁈』
……そうして海桐花さんは飛び出すように帰ってしまった。
「お待たせしました、今の海桐サマでしたよね、ね⁉︎」
「はいそうです「や〜っぱりぃ⁈今回は私用という事ですよね!ね⁉︎」銀奈さん近い……」
……入れ替わりにやって来たのは教育係の務めを果たすべく爆速で仕事を終わらせた銀奈さん。
今日も大変テンションが高い。
「おっと、失礼しました!それで今日は屋内ですが何をされますか⁈」
「えーとですね、手を触っていい?銀奈さん?」
「ひえッ⁉︎⁈ど、どうぞッ‼︎‼︎」
まぁそれは銀奈さんらしさなので気にしすぎず、魂を動かしながら銀奈さんの手にぺたり、と触れる。
「──⁉︎」
「
その後訓練を終えてご飯とお風呂へ。
昨日は疲れ過ぎて何が何だかさっぱり分からなかったチキン南蛮の味も、今日はしっかり味わえた。
甘辛のタレとざっくり卵が混ぜられたマヨネーズがかかったうまみたっぷりの鶏肉がすごくご飯に合って、とってもとってもおいしかった……。
△
「やっぱり違うなぁ……」
そしてまた仮想空間へ。
今日は再検証、──という事で記憶から取り出した人達を平らな岩の上でじっくり観察している。
この仮想空間は私の記憶にあるものなら、なんでも自由に取り出して配置ができる。
ただしその再現度は私が取り出すものをどれだけ覚えているかによるので、例えば買ったけど読んだ事の無い本を出すと中には何も書いてなかったりする。
で、今日は記憶した時期によって違いはあるのかを試してみたけど……
「桃を食べる前と、後に、魂を自覚する前と、後で再現度が違う……」
覚えた時期によってしっかりと違いはあった。
まず桃を食べる前、中学校以前に記憶したものは昔になればなるほどぼやけてゆく。
取り出した人の中ではっきりしてるのは中一の時に出会った演劇部の
次に桃を食べてから魂を自覚するまでに記憶したものは、私が覚えてる以上にはっきり覚えられてる。
取り出した人では軽ちゃん、
ただし動きは長く過ごした人でないと似たり寄ったりの動きだし、じっと近くで見るとロゴやボタンの形が曖昧だったりする。
「…………」
そして魂を自覚した後に記憶したものの精度が一番高い。
総組長の所作の一つ、海桐花さんの服のはためきまで、取り出せば恐ろしく鮮明に蘇る。
「……よっ、と」
……ただし記憶から取り出せるものの中で一つだけ、どの時期でも完全に再現できないものがある。
「……
私の姿を私自身は見る事ができない。
だから私を記憶から取り出すと目に映った手足だけしか出て来なかったりする。
鏡や写真に写った姿で外見は補完できるけど……、……動きが伴ってないので再現度は落ちる。
では鏡に映った姿をそのまま使えないかとも思ったけど……、取り出してみたらペラッペラの平面だった。
参考になるとはいえ、鏡に映る姿はあくまでも反射する平面に乗った光学的な像でしかなかったのだ……。
『──どれ、少しおまけをくれてやろう』
──なのでこういう時困る。
『はい、よろしくお願いします』
「
今、私は昨日海桐花さんが私にしてくれた手解きを傍から眺めている。
ボコボコにしている海桐花さんはあの時見えなかったはずの背後から見ても動きに合った再現がされているのに、ボコボコにされている私は手足以外はどこか画一的で手が抜かれてるような再現だ。
まぁ
360°から動画で記録できれば完全に補完できるはずだけど、魔防隊は特殊部隊だから訓練や活動の記録には面倒かつ厳しめで……。
「まあ、いっか」
自省には使えなくても、他の人の動きを誰にも邪魔されず、誰の邪魔もしないでじっくり自由に見られるのは大き過ぎる利点だ。
その成果がボコボコにされるだけだった昨日から、一発だけだけどパンチをぶつけ合わせられた今日と言えるだろう。
「……やっぱりガンガン距離を詰めてる……。…………足元もすぐ動けるように……。……『触れる事』優先かな?……うん、距離も離してない。……能力ありは頼めるかな……?」
おまけに
外の一分でここでは半日以上過ごす事ができるから何度だって分析して、真似できる。
これ以上ないイメージトレーニングに没頭した。
「……はっ……。……。……もうこんな時間⁈」
……その結果寝坊しかけるのはまた別の話。
『仮想空間は使い過ぎると思った以上に意識に負荷がかかる』『寝ながら使った時に負荷がかかり過ぎると熟睡してしまう』という得難い教訓を学ぶ事ができたのでした……。
△
「……ほんとにいきなり殴り合ったのかい」
「応!昨日は一撃返して来ての「『一撃返して来ての』じゃないよ馬鹿たれ」痛でっ⁈」
「素人にいきなり殴り合わせてどうすんのさ」
「(ま、またビッグネームですよっ‼︎どうしたんですか冬美さん⁈)」
「(……海桐花さんに聞いてください)」
「(畏れ多いですよっ‼︎)」
……今日は初日と同じ、外に張った銀奈さんの結界で訓練する手筈だった。
で、三日連続で海桐花さんがやって来たけど……。
初日の麻衣亜さんのように海桐花さんには連れが居た。
「あの馬鹿が悪かったね、日ノ出冬美」
「いえ、大変助かってます!」
魔防隊一番組副組長・
海桐花さんの戦友で魔防隊創立の頃から所属しているベテランだけど、生命力で中学生くらいの若さを維持している海桐花さんと違い、顔に皺を刻んだおばあさんだ。
……だけどやばい。
こうして近くにいるだけでもなんかビリビリしたものを感じるくらい
多分総組長や京香さんには無い
数十年の経験で所作が磨き上げられている。
つい数ヶ月前まで一番組組長だったのも納得しかない。
「……。アンタなら本当は型から仕込みたいとこだけどね。あの馬鹿が「バカバカ言い過ぎじゃー!」……あの馬鹿が『一度
「……はいっ!」
……そんなりうさんが今日来てくれたのは海桐花さんの手引きがあったからで……、……りうさんが武道の達人だからだ。
素手で数多の醜鬼を屠り、京香さんや新しい一番組組長の
……そんな人が海桐花さんの手引きで、今日は私を教えてくれる事になった。
「まずはアンタの好きに打ち込んできな。反撃はするが怯むんじゃないよ」
「……はいっ!」
「冬美さーん、ファイトですよー‼︎」
すっ、と構えた。
……りうさんがしたのはそれだけなのに、怖い。
大岩がこちらにのしかかって来るみたいだ。
……多分素手の技なら海桐花さんを上回ってる。
「ふーっ……、……はあああぁっ‼︎」
「……」
まず右の回し蹴り。
立てた左腕に防がれる。
そのまま押し込もうとするけど動かない。
──身体を支えていた左足を足で鋭く払われた。
「うっ!」
「……」
すかさず胸の下を殴られる。
──けど殴った左腕を掴んだ。
「ぁっ、!」
「……」
今度はこちらが至近距離の左で殴る。
が、右掌で止められる。左腕を掴んでいた右手もするり、と振り払われる。
「く、あっ‼︎」
「……」
そこから流れるような膝蹴り、前蹴りの二連撃。
ぶっ飛ばされて背中から倒れ込んだ。
「……随分熱心に
「あ″りがとうございます……」
「回復ですよー‼︎」
……一段落ついたという事なのかりうさんが話し始める。
私は三回も殴られ蹴られたお腹の痛みを銀奈さんに治してもらいながらそれを聞く。
「だけど隙は多いね。まず技がアンタに馴染んでない。海桐花の技を真似したんだろうが、アンタと海桐花じゃ体格が違う。アンタの体格を意識しないとその差が隙になるよ」
「はい」
「それに身体能力と練度も足りない。接近戦をするならトレーニングと技の繰り返しは怠けない事だね」
「……肝に銘じます」
「次に相手が変わってない。アンタの動きには海桐花を相手する動きが染み付いてる。アタシと海桐花もまた体格が違うけど、それを補正できてない。勿論誰だって体格は千差万別で、醜鬼はまた体格が違う。できるだけ多くの奴とやり合いな」
「はい」
「最後に……、……あんまり素手に固執しない事だね。今のアンタに素手で戦って倒す力は無い。戦うんなら武器でも能力でも使わなきゃ生き残れない。ほら、次だよ」
りうさんがまた、構える。
私もばっ、と立ち上がる。
「アンタの魂と能力を活かす手立てを何か考えて来たんだろう?次はそれもぶつけてきな」
「はいっ!」
──たった一度の組み合いで、すごい的確な指導をされてしまった。
それに私への合わせ方も上手い。
多分りうさんはもっと速く、重い一撃を出せるけど私が受けられる程度に加減してくれている。
この出会いは後で海桐花さんに感謝しなきゃならないくらい貴重な出会いだけど、それは後で。
「…………」
今はただ、
「こ、これはっ……‼︎」
「ほぅ?」
「……」
「……行きますよ」
じっくり構えて走り出し、右手を振りかぶる。
「はあっ!」
「……‼︎」
無理なく放たれた拳をりうさんは
──そこに置いておいた私の左足が触れ、りうさんが
「まだまだ‼︎」
「……!キツいね、これは!」
揺れて、振り払うその隙にひたすら叩き込むけど全て防がれる。
けど手足が当たる度にりうさんは
りうさんを揺らしているのは『魂の震動』だ。
これは魂が動かせるなら『振動』も作れないかと思って、昨日一つの所で細かく動かすのを試しながら何が効果がないかと銀奈さんに触れてみた。
『ぶばばばばばばば……』
『わっ⁈っ、大丈夫⁈銀奈さん⁉︎』
『ぶ
……そしたら思った以上に効いて銀奈さんが古い扇風機みたいになってしまった。
……検証してみるとこの『震動』は魂を揺らす事で魂と連動する肉体をも揺らす技だった。
そして私にとっては大したことない大きさの『震動』でも、他の人にとっては頭がぐらぐらするくらいヤバい『震動』になってしまう事も分かった。
どうやら私の魂の大きさと強さを揺らせる『震動』は他の人にとっては大き過ぎるらしい。
「っうっ!」
「ふっ!」
ただし少なくとも意識があれば、だんだん『震動』に慣れて効き目が薄くなってしまう。
それはりうさんが私の手を組んでの振り下ろしを捌いてから、間髪入れずの蹴りを叩き込めた事からも明らかだ。
……だけどまだまだ終わらない。
震動を維持しつつ、蹴られた勢いで距離を取る。
「‼︎」
「…………まだ、」
この『震動』は性質は似ているけど、空気を伝わる『音』とは違うものだ。
どれだけ強くしても魂を持つものしか揺らさない。
──だがそれはどれだけ強くしても周りに広がらないという訳ではない。
手は組んだまま、右腕と左腕の内で『震動』を強める。
二つの『震動』は波紋のようにぶつかり合い、指向性を持った波を作り出す‼︎
「今っ‼︎」
出力最大‼︎
放たれた『震動』は命有るものにしか聞けない叫びを高らかに上げた。
「っ‼︎」
「ぎ、っ……!」
……けどりうさんには当たらなかった。
私が『震動』を強めるのと照準を付けるのが遅く、悠々と避けられた上であっという間に距離を詰められて蹴りを喰らう始末だ。
「……まだ」
「……⁉︎」
でも、まだ終わらない。
倒れるままに、組んだ手を、掌を合わせた合掌へ。
──これはすぐ終わる。
私の身体から出られず、私の身体の中でしか大きくなれない私の魂。
──
例えば胃袋や肺は食道や気管を通じて外に通じてる。
それなら
昨日色々試してみたら、掌を合わせてほんの少し作った空間に大きくした魂を入れるのに成功した。
そして魂が大きくなる時、そこには白い光が見える。
これが
「りう‼︎‼︎‼︎」
──そして光は、破壊力も熱量も持っている。
付け根の手首は合わせたまま、花開くように解き放つ。
「【
──光の柱が、垂れ下がる岩を貫いた。
……あれ?
「……全く、なんて威力だい」
支えを失った岩の先端がいくつもの欠片を落としながら重力に引かれ、轟音を立てて地面にぶつかり、砕け散った。
白き光はほどけ、舞い踊りながら大気に解けて、消えてゆく。
……さっきの『震動』と同じくらいの強さで撃ったんだけど……。
「そりゃそっちがアンタの能力なんだから強くなるのが道理だろう。助かったよ、海桐花」
「……ぜえっ、……いきなり【宝火閃】は、はぁっ……、きつかったわ……」
「あわわわわわ……」
……言う事は、一つしかない。
「──すいませんでした!」
──その後、無事許して頂いた上にアドバイスまで貰って、りうさんと海桐花さんの手解きは切り上げられたのであった。
「アンタはアンタが思うより強い。それを肝に銘じないとさっきより酷い事になるよ」
……ドン引かれてなんかないったらない。
△
「……まったく、アンタの口車に乗ってエラいもんを見ちまったよ」
「そうじゃろそうじゃろ‼︎」
「なんでアンタが得意気なんだい、海桐花」
「それでお前はどう見た、りう⁈」
「……確かにあれは素人だ。力も技も未熟すきる。……ただし心の制御はよくできている。もし偽装していてもアタシじゃ分からないだろうね」
「ふんふん」
「……そして真面目で勤勉、根性と体力はあるし恐らく目標もある。素質にとりわけ秀でたものは無いが、弱点も無い。人当たりは良く、
「んー、此方は少し違うの。──あいつは二年で山城恋と同格になると、此方はそう思っておる」
「……つまらない意地だね。だから目を掛けてるのかい?」
「まあそうじゃの。埋もれさせるには惜しかろう?」
「アンタを押し付けるんじゃないよ、まったく。──横浜の事を忘れたかい?あの子はアンタが目を掛けるまでも無く、頭角を表してたろうさ」
「それもそうじゃの!」
「やれやれ……」
老兵達は、斯く語れり。
※注意!※
・十番組事務事情
・組員寮管理人詳細
・魔防隊武器事情
これら全ては原作で語られてない捏造設定です!
ご容赦ください‼︎
:冬美
…一話で空折の演技で醜鬼を誤魔化した事を忘れ去られてそうな主人公。
……自信に関係ない姿勢を身に付けたが、自己評価は低い。
七番組組長副組長コンビには若干誤解されているけど、素は落ち着いた時の方。
最後に決めてくれた大恩人相手でテンションがおかしくなった。
……『誰相手でも態度を変えない』なんてできると思います?
・『大山の魂』
…魂を大きくしても身体の外には出せなかったが、合わせた手の内が身体の中だと判定される事を利用し、手を合わせてその中で魂を大きくした後に手を開く事で大きくした魂を外に出せるようになった。
・【大山ノ光】
…↑それによって生まれた『大山の魂』の派生技。
魂を光弾として発射し、ぶつける……、……つもりだったが『大山の魂』の出力を見誤っていた事によりごん太ビームと化す。
岩をも砕く前話の【宝火閃】より少し下の威力。
仮想空間(仮)
…記憶したものを自在に取り出せる事と外の何倍もの時間を過ごせる事を利用して、高精度の動作分析と最高クラスのイメージトレーニングを何時間となくできる。
これによって冬美の動きは格段に良くなった。
ただしどれだけ高精度でもそれは他人の動きであり、あくまで魂内の事なので技は別途身体にも覚え込ませなければならないし、身体能力が無ければ真価は発揮できず、使い過ぎると意識に疲労が蓄積して深く眠り込んでしまう。
『震動』
…魂を動かす技術の応用であり、魂を震わせて震動を生み出す。
この震動は他の魂に伝播し、魂と繋がる肉体をも揺らす。
冬美の場合魂が大きく強い為、震わせるにも大きさが必要。
故に冬美にとっては大した事がない震動でも、大きさ・強さで下回る魂にとっては最悪脳震盪になりかねないくらい強い震動となる。
(もちろん魂の大きさ・強さ=戦闘能力の高さではない。冬美は『大山の魂』で下駄履いてるし)
こちらは出力を強めるだけで身体を飛び出し周りにも届く。
遠距離攻撃も可能。
:『阿嵐先輩』『軽ちゃん』『芳っちゃん』『照』
…『阿嵐先輩』は冬美が中一で入った演劇部の部長にして先輩。
自信に満ちた麗人。
(四話『目覚メ』の回想で冬美に指導してた人)
『軽ちゃん』『芳っちゃん』『照』は冬美が高校でできた友達。
(四話『目覚メ』の回想で冬美と会話してた三人。軽ちゃんは前話でも言及有り)
いずれも強く冬美の記憶に残ってる人物達。
:銀奈
…冬美に若干誤解されているけど、普段から明るい方ではあるものの別に常時誰にでもテンションがおかしいわけではない。
八雷神討伐の立役者(……から少しずつ期待の新人が混ざって来ている)を相手にしているからテンションの高い印象が強くなっているだけ。
:優希
…この人も冬美にとっての大恩人であるけど、横浜より後にはまだ会っていない。
:天花
…ビル突き破ったので脳などへの検査が長引き、横浜後のご褒美には参加できなかった。
果たして優希さんはこの人からの好意をどうするのでしょうか?
:美羅
…横浜後のご褒美に参加したはいいものの、ウブなので何もできなかった。
しかし共通点を見つけ、優希との絆を深めた。
『妹がいる』というのは原作10巻巻末の人気投票のごほうび情報から。
『一人いて、関係は良好』という事しか分からない。
:京香
…とある信者の能力で巨大な立像を作られていてもドン引きしない、できたお方。
……だけどテンションの急落には流石に驚いた。
:東日万凛
…こちらはテンションの急落にドン引きした。
『
:海桐花
…『とべらは わざをとられたことに きづき なかまを よんできた‼︎』
冬美を山城恋と同格の逸材だと見込んでいる。
・【宝火閃】
…今回はりうを【大山ノ光】の射線からずらす為に威力を絞って使われ、無事成功した。
……が、本来溢れる程生命力がある時に使う技なのでそれでも疲弊した。
:冥加りう
…呼ばれて来た仲間。
老年で醜鬼と格闘戦をするヤバい人。
……正直戦闘を学ぶという面において、冬美にとってはいきなり殴り合いを始める海桐花よりも役に立ってる。
冬美を二年で総組長になれる器と評価した。