カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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十話・朱翠セレア

 ──タタタタッ!

 

 メシアとアインの足音が、狭い地下通路の地面を叩く。

 

 鳥型や狼型、虫形などの魔獣の襲撃をさらりと見たメシアは、あくまで冷静に状況を分析していた。

 

「……アイン、多分だがセレアの《色欲の指輪》が原因だ。どうすれば打破できると思う?」

提案(タンダー)。彼女を殺せば効果は切れると思われます」

「ああ、そうだな。だから、それをどうすればいいか相談してるんだ!」

 

 自信を持って答えるアインに、メシアは苛つきを込めてツッコんだ。

 

 その間にも彼女は自動拳銃を構え魔獣との戦闘を続けながらも、セレアに向けて狙いを定めた。

 

 だが再び彼女の指から放たれる妖しく輝く光が、メシアとアインに襲い掛かる。

 

 けれど、()()()()

 

 アインの機械の身体という特殊な構造が、メシアの滅ぼす力を持つ"魔眼"が、その古代魔具(アーティファクト)の影響を無くしていく。

 

「やっぱり効かないのね……」

 

 セレアは無表情で二人を眺める。

 

「……アイン、この魔獣達の相手をしてくれ。私がセレアとソロで戦う」

了解(ラジャー)。お気をつけて」

 

 このままでは拉致があかないと、メシアは敵の魔獣をかわしながらセレアに近づくことにした。

 

挑発(プロボケイション)。貴方達の相手はこちらです」

 

 アインは魔獣に右手の指を向けて、その五本指からマシンガンのように魔力の銃弾を発砲した。

 

 その隙をついて、メシアはセレアに向かう。

 

 ……いや、魔獣を簡単に無視できたのは、セレアがそう指示したからだろう。

 

 そう思いながら、メシアは改めて宣言する。

 

「セレア、《色欲の指輪》で支配された仲間たちを助けるため……お前を殺す」

 

 セレアは微笑みながら言葉を返す。

 

「そう……ええ、いいわ。楽しませて!」

 

 セレアが壁を材料に、錬金魔術によって再構成させた投擲用の剣を両手に三本ずつ構える。

 

 それに合わせて、メシアも自分の銃をセレアに向けた。

 

 ──パパパンッ!

 

 銃弾を軽く避けたセレアは優雅に舞って剣をメシアにゆるりと投げる。

 

 両手から放たれた六本の投擲剣は円のような軌道を描いてメシアに迫るが、メシアはそれを見切り完璧な動きで避けつつ、セレアへ正確かつ迅速に銃撃を行う。

 

「やっぱり良いわね、貴女。それでこそ、私のモルモットになるのに相応しい!」

 

 戦いの中、アインも魔獣との戦闘を続けていた。

 

煩悶(アゴニー)。マスター……」

 

 殺しても殺しても何処からかゴキ●リのように湧いてくる魔獣に、アインは苛立っていた。

 

 だが、こんな狭い抜け道でアインが本気を出したら周りが崩壊してしまうのだ。

 

 だから、我慢しながら魔獣を殺し続けるしかアインには出来ない。

 

「くっ」

 

 ──ドドドドドッ!

 

 指先から魔力弾を撃ちながら、アインはどうにかメシアの元へ行きたいと思っていた。

 

 

■□■

 

 

 セレアがまた錬金魔術で創り出した剣とメシアの銃撃が、火花を散らして激しく交錯する。

 

 セレアの錬金魔術を工夫した攻撃は優雅でありながらも破壊力があり、メシアは機敏な動きでそれを全て避け続けていた。

 

 しかし、セレアは常に新たな攻撃手段を駆使し、メシアを追い詰めていく。

 

 投げナイフで、鞭で、槍で……錬金魔術によって、セレアは数多くの武器を創り出す。

 

 その中をメシアは壁を利用した立体機動でセレアに接近し、同時に攻撃を避けつつ銃弾を放つ。

 

「あはははっ! さぁ、もっと盛り上がりましょう!」

 

 その瞬間、セレアから膨大な魔力の波動が広がり──

 

「──【混沌なる原質に秩序を纏え(アルケミックオーダー)】!」

 

 セレアの錬金魔術の真髄の一つが、その場の有機物と無機物を支配下に組み替えられていく。

 

 彼女の手によって素粒子が舞い踊り、物質の秩序が一瞬にして変容していく。

 

「ふふ、あははっ、あっはははははははは──ッ!」

 

 笑いと共に下水道の天井……どころか、様々なものがセレアによって分解される。

 

「まさかッ!? アイン、()()っ!」

「!? っ、了解(ラジャー)!」

 

 ──ドッガァァァアアアンンンッッ!

 

「【重力を反転させよ(リバースグラヴィティ)】ッ!」

「【浮遊機構(フライ・システム)】、【起動(リリース)】!」

 

 メシアとアインが空中に飛ぶと同時に、凄まじい音を立てて、セレアは床や天井を……その上にある街の建物ごと、周りの全てを錬金魔術によって次々と分解され、消失していく。

 

 崩れる。崩れる。崩れる。

 

「な、何がっ! 起こっているんだ!?」

「助けてぇぇぇぇぇ! 俺の、俺の家がぁぁああ!」

「じ、地面がっ!? なにが起こってるんだ!?」

「助けて! 助けてっ! 誰か、地面の穴に落ちそうなんだっ!」

 

 急に下の下水道通路から地面をぶち抜かれた民衆は、それはもう混乱していた。

 

 当たり前だ。いきなり地面に大きく深い穴ができて、周りの建物も崩壊させられたのだから。

 

 そんな民衆は叫びながらも、崩れゆく建物から逃れようとしている。

 

 その慌ただしい悲鳴が、この光景の悲惨さを物語っていた。

 

「さぁ、これで広くなったわね! 続けましょう、姫壊メシアッ!」

「────ッ!! 朱翠セレアァァアア──ッ!」

 

 民衆を無視するどころか戦いに巻き込もうとしているセレアに、メシアは怒りを叫びに乗せた。

 

「《色欲の指輪》、全開!」

 

 メシアの叫びを風のように流したセレアの指輪が輝き、特有の力を放つ。

 

 それは、精神完全支配の力。

 

 セレアはそれを、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!? ……ちっ」

 

 先程まで轟いていた民衆の声が、聞こえなくなった。

 

 民衆は、メシアとアインを囲っていたのだ。

 

 その顔には、混乱も恐怖も無い。

 

「最低。趣味が悪いです」

「同感だ」

 

 周りの無関係な人々を利用しながらも顔一つ変えないセレアに。

 

「……化け物め」

 

 メシアは、ボソリと呟いた。

 

 自動拳銃を仕舞い、格闘術と身体強化魔術によってメシアは人々を気絶させてゆく。

 

 セレアは笑みを浮かべつつ、更なる錬金魔術でメシアを翻弄しようとするが、メシアは魔眼を駆使してその攻撃を防ぐ。

 

「こうなったのなら、もう速攻で片付けさせてもらうぞ。【絶対零度を与えよ(セロディウム)】」

 

 ──パン!

 

 銃口から、弾丸が放たれる。

 

「だからこんなもの……、ッ!?」

 

 だがそれは今までとは違う、"氷"の力が付与されたものだった。

 

 驚愕したセレアに弾丸は直撃し、彼女を凍りつかせてゆく。

 

「終わった……か?」

 

 しかし、セレアは氷を分解していた。

 

「鉄も、コンクリートも……氷も、全ては素粒子で構成されている。なら、錬金魔術で操作できるわ。錬金魔術を極め、理論上この世の全てを操れる私に……本当に勝てるとでも思っているの?」

 

 攻撃の全ては、セレアに届く前に錬金魔術によって素粒子レベルまで分解される。

 

 冷笑しながら迫るセレアに、メシアは静かに冷や汗の流しながら……一つの策に思い至った。




謎の解説役「この物語の一章のボスである朱翠セレアですが、普通に強キャラです。ボスは伊達じゃないですね。
 彼女は錬金魔術を極めたことで、理論上はこの世界全ての素粒子を操ることができます。まぁ、本当に一気にそんなことしようとしたら魔力が足りないですが。
 なので、もし彼女に素手で触られたりしたら身体を構成している素粒子をグチャグチャにされて即死するので気を付けましょう。
 そして対策ですが、まず物質的な攻撃は全て無効化されると考えましょう。先程の"氷"も水という物質による攻撃ですからね。
 逆に言えば、物質でなければ攻撃は通ります。ですから──」
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