カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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十一話・機械の少女のエピローグ

 策を思いついたメシアは、一つの魔術を使う。

 

 それは、"炎"だ。

 

「【此処に炎を(イグニート)】!」

 

 メシアの手の平に、メラメラと燃える炎が出現する。。

 

「へぇ? それで、私に勝てると思っているの?」

「確かに、お前は全ての物質を操れる。だが、それだけだ。"炎"は"物質"ではなく"現象"の一つなんだぞ? 素粒子どころか物質ですらないものを、分解なんて出来ないだろう?」

 

 余裕の笑みを崩さないセレアに、メシアは自信を込めて言った。

 

「え……?」

 

 戸惑ったセレアの背後に跳び回り込んだメシアは炎を放つ。

 

 ……が。

 

「そのくらい、私にも分かるわよ……対策してないとでも?」

 

 炎に向けて手を伸ばすと、地面の土を錬金魔術で素粒子の配列を高速で変換し金剛鉄(アダマンタイト)の壁を創り出す。

 

 メシアの炎はその壁に当たり、あっけなく消えた。

 

「はぁ……何をするかと思えば、その程度?」

()()()()()()()()()()()()()

 

 メシアは、()()()()()()()

 

「【星の楔よ(グラヴィティ)】ッ!」

 

 それは、重力だ。

 

「ぐッ!? う、ぁぁ……ッ!?」

「……重力に、素粒子なんて無いだろう?」

「だけどッ! そもそも、貴女が重力魔術なんて聞いてないッ!」

「ああ、使えなかったさ。()()()()()()()

 

 何処でこの魔術を手に入れたのか。

 

 ついさっき最初に侵入してきた魔術師から魔眼で力を奪った時だ。

 

「さぁ………()()()()()

「や、やめ……ッ!」

 

 地面に貼り付けられたように動けないセレアに。

 

 民衆をあらかた気絶させ終わったアインが迫る。

 

 そして、重力に醜く足掻くセレアに手を当てて。

 

「【模倣(コピー)混沌なる原質に秩序を纏え(アルケミックオーダー)】」

 

 それは、セレアが使っていた錬金魔術だ。

 

 それをアインは、セレアの身体構造に向けて使用される。

 

「…………ァ…………」

 

 アインの模倣した錬金魔術によって、セレアの身体は素粒子レベルにまで粉々に崩壊してゆく。

 

 サラサラと突風がその全てを攫い、その後には……一つの、指輪だけが残った。

 

「………………ふぅ」

 

 それを見たメシアは一息つき、その場に遺されていた《色欲の指輪》を手にとった。

 

「……一応、回収しておくか」

「賛成。それがいいと思います。それより、他の〈HEAVENS(ヘヴンズ)〉の人たちは……」

「ああ、分かっている。直ぐに戻ろう。アインは……損傷が激しいな。ここで待っていてくれ」

了解(ラジャー)。お疲れ様です」

 

 それだけ言い残すと、メシアは仲間たちが無事なのかを確認するために走り去った。

 

「…………」

 

 メシアが去ってから少し経った時、少し俯いていたアインは急に顔を上げた。

 

「……もう、マスターに感知はされないと思いますよ。出てきなさい」

 

 アインが後ろに目を向けると、その方向から一人の女性が現れた。

 

「あははっ……バレちゃった?」

 

 黒色に少し白いメッシュが入った長髪。紫色の眼。その左目には、片眼鏡(モノクル)がある。

 

 どこか儚いような印象があるが、その眼にある純粋無垢な狂気と理性が、それを台無しにしていた。

 

「せっかく隠密用の古代魔具(アーティファクト)を使ってたのになぁ……残念残念」

古代魔具(アーティファクト)で、そんな悍しい気配を隠せるとでも?」

「酷いね……私ってそんなヤバそーなオーラ出してる?」

「ええ、ジワジワと感じますよ」

「そっか……あれ、なんか意外と傷つくなぁ……」

 

 アインに罵倒された女性は、凹むような顔を見せる。

 

「……というかロボットちゃんって、さっきまで"了解(ラジャー)"みたいにもっと変な喋り方してなかった?」

「あんな変な喋り方が素だと思います?」

「少なくとも私は素だと思ってたよ……?」

 

 女性は、メシアが居なくなってからのアインの変貌っぷりに困惑しているようだった。

 

「……それで、貴女は」

「あっと、まだ名乗ってなかったね。私は()・暗黒蓮華機関《強欲(グリード)》の闇月イフ、よろしくね」

「よろしくはしたくないですけど……()?」

「あ、そこに気になる? 聞きたい?」

「……いえ、別に」

「ノリ悪いなぁ〜……ま、簡単に説明しちゃうとね。こう、いい感じに盛大に利用できる形で上手く裏切っただけだよ」

「あまり説明になっていない気が……」

 

 利用、ね。心の中で呟きながら、アインはイフという人物へ警戒を高める。

 

「……それで貴女は、どうしてここに?」

「いやいや。()()メシアとセレアちゃんの戦いを見たいなーって思っただけだよ」

「…………」

「そんな警戒しないでって。私は何もしないよ……少なくとも、今はね」

「…………」

 

 陽気なイフとは対称的に、アインは無表情を貫く。

 

「そうそう、君に一つ聞きたいんだけど、良いかな?」

「……何ですか?」

「──君、本気出せばセレアちゃんなんて瞬殺だったでしょ。どうして、やらなかったのかな?」

 

 ──どくん。

 

 アインは自分には無い筈の心臓の音を、何故か感じたような気がした。

 

「……分かるんですね」

「私は機関にいた頃は古代文明専門だったからね。古代魔具(アーティファクト)には詳しいんだ〜」

古代魔具(アーティファクト)、ね」

 

 自分がただの機械ではなく、■■■■に創られた古代魔具(アーティファクト)だということも見抜かれているか。

 

 さらに警戒を高めながらも、アインにはどこかワクワクしてきた所もあった。

 

「ねぇ、君は答えてくれるのかな?」

「良いですよ、色々と当てられて面白くなってきましたし。で、何故全力で戦わなかったのか……でしたっけ。そんなの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 真顔で、アインは。

 

 本気でそう告げた。

 

「私が力を全て解放してあいつを瞬殺? はぁ? そんなの、全然つまらないです。私はマスターと一緒に、マスターと共に、マスターの仲間として! まるで物語のような冒険がしたいんです! 可愛いヒロインが主人公を空気にしてボスを瞬殺していく? そんな展開なんてゴミですよ……マスターと共闘して、私と育んだ友情パワーによって、主人公とヒロインのように勝利を掴み取ったりしてみたいんですよッ! ……それが、私の望みなんです。好きな人の隣に立って、支えたい。その隣で、ともに戦いたい。そして、最後には、私は…………いや、それはまだ良いですね。それより、物語のようなコトを好きな人としたいという気持ちが……何か、おかしいですか?」

「……ううん、良く分かった。もう大丈夫だよ」

「そうですか。なら、私はもう行っていいですね?」

「うん、もちろん。私の目的はメシアとセレアちゃんの戦いを見るだけだしね」

「では、さよならです」

 

 それだけ言い残して、アインはメシアの居るであろう地下に歩き去っていった。

 

「…………まさか、あそこまでイカれてるとは思わなかったなぁ」

 

 残された女性、闇月イフは先程の言葉を思い出していた。

 

「主人公とヒロインになりたい……か。まぁ、私の目的には関係ないか。私はただ、私のメシアを"一番"にするだけだしね」

 

 そう言って、イフは空を見上げた。

 

 そこにはいつもの様に爛々と輝いている月があり。

 

「…………あはっ」




謎の解説役「これでセレアは倒せましたね……というか、想定よりもアインが歪んでました。いや、一応最初から歪んでるのは知ってましたけど、まさか彼女がここまで拗らせていたとは……
 って、解説しないとですね。
 まず、メシアの"魔眼"なんですが、名前は"滅界の魔眼"と言って視界内に存在する全てを"滅す"ことができます。本来の機能はそれだけだったんですが、【削除済み】が改造したことで滅した対象の力や技術を奪うこともできます。作中で不意をついて使った重力魔術も元はついさっき最初に侵入してきた魔術師が使っていたものですね」
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