カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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ニ章『君は幸運の少女と笑う』
十三話・幸運の少女


 わたしの名前は黒福フェリ。

 

 神ロビザーン帝国に居る貴族の一つ、黒福一族のニ女であり、帝国を守る魔術師が集まった"帝国魔血師団"に所属している。

 

 ……といっても、わたしには別に凄いところなど無い。

 

 黒福エミリという名前の姉が一人いるが、あらゆる事でも、わたしは姉に及ぶことはなかった。

 

 ニ女という立場も相まって、家では完全に落ちこぼれという扱いだ。

 

 父親は普通にクズであり、母親は……まぁ、父親と比べたら良い方だが、何か自分の気に食わない事があると発狂している。

 

 政略結婚なので、両親には愛情などは欠片もないだろう。

 

 そんな訳で、わたしが家族と言えるのは姉だけだった。

 

 姉だけはわたしに優しくしてくれて、姉だけはしっかりとわたしを見てくれたのだ。

 

 そんな姉に比べると、両親や家の人たちからのわたしの扱いは雑だったが、それでも姉が居れば良かった。

 

 そんなある日、わたしと姉は帝国魔血師団の仕事で、とある作戦に参加した。

 

 その内容は、暗黒蓮華機関という悪の組織の目撃情報があり、そいつらを始末するというものだった。

 

 わたしたちはそこで、地獄を見た。

 

「フン……所詮、この程度か」

 

 周りを見れば、私と同じ帝国魔血師団の制服を着た仲間……の、死体が山ほどあった。

 

 その中心に立っている一人の大男は、暗黒蓮華機関、神秘の到達者《憤怒(ラース)》の流紋ヘクタ。

 

 彼はここへ奇襲をしたみんなを自分の結界によって外界と遮断し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうなってしまえば、魔術師であるわたしたちは無力な存在へと成り果てていた。

 

 古代魔具(アーティファクト)《憤怒の指輪》による超絶破壊波で、脆くなったわたしたちは完全に壊滅したのだ。

 

「…………ぁ………エミ、姉……?」

 

 ()()()瀕死で生き残っていたわたしは、隣に居たはずの姉を見る。

 

 そこには。

 

「…………あ」

 

 身体全体から血を垂れ流して死んでいる、姉の姿があった。

 

 ……自分も、ここで死ぬのだろう。

 

 どこか他人事のようにそう思いながら姉の身体に抱きつくと、そこから何か硬い感触がした。

 

「…………ん……?」

 

 わたしの手を姉の服の中に入れて何かと探ると、そこには一つの古代魔具(アーティファクト)があった。

 

「これって……《福運の幾幣(きせい)》……」

 

 それは、家に代々伝わってきたモノだった。

 

 秘められている権能は簡単であり、これを使えば幸運がやってくる。

 

 シンプルでありながら強力な古代魔具(アーティファクト)だが、姉がよく自分には余り力を引き出せないとボヤいていたのを思い出す。

 

 でも、それがどうした。

 

 もう無理だ。心の支えである姉を喪ったわたしにはもう、生きる理由なんて無かった。

 

 ……それなのに。

 

 その筈なのに、わたしは必死に《福運の幾幣》を掴んでいた。

 

 ──何の為に?

 

 誰かの声が、頭に問い掛けてくる。

 

「……わたしは、生きたいから」

 

 ──あなたの姉は、もう死んじゃったのに?

 

「そう、だね……それでも、わたしは生きたいの。だから……お願い」

 

 自分と姉の血まみれになった《福運の幾幣》を胸に抱き、わたしは心から祈った。

 

「……わたしを、助けてっ」

 

 掠れた声で、祈りを言葉にできた時。

 

 

 ──バギッ

 

 何かが、割れる音がした。

 

「む……? なんだ……?」

 

 先程からつまらなそうに自分の結界内を歩いていたヘクタも、その音に首を傾げた。

 

 上を見れば、ヘクタが創り出した結界がガラスのように割れていたのだ。

 

「え……?」

 

 そのヒビが結界全体へと広がっていき……

 

 ──バギャァンッ!

 

 次の瞬間には、結界が完全に崩壊していた。

 

 そして、その天空から二人の人物が落ちてくる。

 

「……あれがこの無茶苦茶な結界の創造主か。金色のラインの白衣、神秘の到達者だな」

注目(アテンション)。結界内の法則改変を"魔封"に限定することで効果を絶対的にしていたようです」

「なるほどな……まぁ、その結界はもう壊したが」

同意(アグリメント)。別に気にしなくていいですね」

 

 片や、白色のシャツに灰色のコートを着ていて黒髪を腰まで伸ばしている、左目を光らせている少女。

 

 片や、黒いシャツに白色のジャケットを着ていて白髪を横で結んでいる、身体が機械仕掛けの少女。

 

 その二人は、わたしの前にヒーローのように降り立った。

 

「すまない、遅れたな。……すぐに、救ってやる」

 

 その輝く眼に硬い決意を灯して、黒髪の少女が優しくわたしに微笑んだのを最後に、わたしは意識を落としていった。

 

 こんな人達が来てくれるなんて……わたしは、幸運だなぁ……


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