カタストロフィ・メシア 作:汐海朔夜
十三話・幸運の少女
わたしの名前は黒福フェリ。
神ロビザーン帝国に居る貴族の一つ、黒福一族のニ女であり、帝国を守る魔術師が集まった"帝国魔血師団"に所属している。
……といっても、わたしには別に凄いところなど無い。
黒福エミリという名前の姉が一人いるが、あらゆる事でも、わたしは姉に及ぶことはなかった。
ニ女という立場も相まって、家では完全に落ちこぼれという扱いだ。
父親は普通にクズであり、母親は……まぁ、父親と比べたら良い方だが、何か自分の気に食わない事があると発狂している。
政略結婚なので、両親には愛情などは欠片もないだろう。
そんな訳で、わたしが家族と言えるのは姉だけだった。
姉だけはわたしに優しくしてくれて、姉だけはしっかりとわたしを見てくれたのだ。
そんな姉に比べると、両親や家の人たちからのわたしの扱いは雑だったが、それでも姉が居れば良かった。
そんなある日、わたしと姉は帝国魔血師団の仕事で、とある作戦に参加した。
その内容は、暗黒蓮華機関という悪の組織の目撃情報があり、そいつらを始末するというものだった。
わたしたちはそこで、地獄を見た。
「フン……所詮、この程度か」
周りを見れば、私と同じ帝国魔血師団の制服を着た仲間……の、死体が山ほどあった。
その中心に立っている一人の大男は、暗黒蓮華機関、神秘の到達者《
彼はここへ奇襲をしたみんなを自分の結界によって外界と遮断し、
そうなってしまえば、魔術師であるわたしたちは無力な存在へと成り果てていた。
「…………ぁ………エミ、姉……?」
そこには。
「…………あ」
身体全体から血を垂れ流して死んでいる、姉の姿があった。
……自分も、ここで死ぬのだろう。
どこか他人事のようにそう思いながら姉の身体に抱きつくと、そこから何か硬い感触がした。
「…………ん……?」
わたしの手を姉の服の中に入れて何かと探ると、そこには一つの
「これって……《福運の
それは、家に代々伝わってきたモノだった。
秘められている権能は簡単であり、これを使えば幸運がやってくる。
シンプルでありながら強力な
でも、それがどうした。
もう無理だ。心の支えである姉を喪ったわたしにはもう、生きる理由なんて無かった。
……それなのに。
その筈なのに、わたしは必死に《福運の幾幣》を掴んでいた。
──何の為に?
誰かの声が、頭に問い掛けてくる。
「……わたしは、生きたいから」
──あなたの姉は、もう死んじゃったのに?
「そう、だね……それでも、わたしは生きたいの。だから……お願い」
自分と姉の血まみれになった《福運の幾幣》を胸に抱き、わたしは心から祈った。
「……わたしを、助けてっ」
掠れた声で、祈りを言葉にできた時。
──バギッ
何かが、割れる音がした。
「む……? なんだ……?」
先程からつまらなそうに自分の結界内を歩いていたヘクタも、その音に首を傾げた。
上を見れば、ヘクタが創り出した結界がガラスのように割れていたのだ。
「え……?」
そのヒビが結界全体へと広がっていき……
──バギャァンッ!
次の瞬間には、結界が完全に崩壊していた。
そして、その天空から二人の人物が落ちてくる。
「……あれがこの無茶苦茶な結界の創造主か。金色のラインの白衣、神秘の到達者だな」
「
「なるほどな……まぁ、その結界はもう壊したが」
「
片や、白色のシャツに灰色のコートを着ていて黒髪を腰まで伸ばしている、左目を光らせている少女。
片や、黒いシャツに白色のジャケットを着ていて白髪を横で結んでいる、身体が機械仕掛けの少女。
その二人は、わたしの前にヒーローのように降り立った。
「すまない、遅れたな。……すぐに、救ってやる」
その輝く眼に硬い決意を灯して、黒髪の少女が優しくわたしに微笑んだのを最後に、わたしは意識を落としていった。
こんな人達が来てくれるなんて……わたしは、幸運だなぁ……