カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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十七話・日輪神殿

「ここか……」

 

 神ロビザーン帝国の首都から離れた辺境。

 

 《日輪神殿》という名の建物の前に、メシアは一人で立っていた。

 

「少しばかり、ここら一帯の大気中に含まれる魔力の濃度が濃いか……?」

 

 コツコツと足音を鳴らして歩いているメシアは、いままで《日輪神殿》の存在は知っていても実際に来たことはなかった。

 

 なので天時ノア殺害作戦の下見として、どのような場所なのかを確認しておきたかった。

 

「……というのは、ただの建前だな」

 

 フェリは一つ、勘違いをしていた。

 

 簡単に瞬殺されたヘクタは兎も角、神秘の到達者というのはデタラメなどという言葉では形容できないほどの実力を持った奴らであり、その力は絶大だ。

 

 そんな者達から、計画実行の日時や場所の情報を掴めるとは思えない。

 

 だからといって、ノアとやらが情報局に誤情報を流したというのも考え辛い。

 

 そんな小難しいことをしなくても、正面から突破すればいいのだ。

 

 なら、どういうことか。

 

「……それが分からないから、ここに来たんだがな」

 

 ふぅ、と一息ついてメシアは神殿内に足を踏み入れた。

 

 ガラスのような半透明の床を踏み、神殿内に木霊する足音を鳴らす。

 

 その床下には、龍脈から繰り上げられている半実体化した魔力の粒子が流れていた。

 

 ──コツン、コツン

 

 入り口から入って一本道。

 

 その先に、大きな扉があった。

 

「…………」

 

 ──キィ

 

 その扉を迷いなく開けたメシアの目に飛び込んできたのは、巨大な噴水のような装置だった。

 

 しかし、そこに流れているのは歳ほど床下を流れていたものと同じ半実体化した魔力の光流。

 

 その噴水の中心には、核のような紅い石があった。

 

「…………は?」

 

 しかし、メシアにはそんな物は目に入っていなかった。

 

 その噴水もどきの麓に座り、一冊の本を読んでいる女性が居たからだ。

 

「やっぱり来たね、メシア」

 

 本を懐に入れて、左目のモノクルに手を当てて、長い黒髪を揺らし立ち上がったその女性を、メシアは見たことがあった。

 

 いや、見覚えがある……どころではない。

 

 何故なら彼女は、自分の身体を弄った張本人。

 

 メシアが魔眼などというものを手に入れた出来事の元凶というべき人物。

 

「闇月イフ……ッ!?」

「うん、正解。久しぶりだね、元気にしてた?」

 

 にやりと笑うイフに、メシアはできる限りの殺気を発する。

 

 並の人物なら気絶するほどの威圧をサラリと受け流すイフ。

 

「……そんな、バカな……あり、得ないッ!」

 

 そんなイフに、メシアはそのあり得ないということを叫ぶ。

 

「んー? 何が?」

「あのときに、私が研究所から逃げたときに! 私はお前を殺した筈だッ! なのに、どうして……!?」

「あれっ、もしかしてホントに私を殺せたと思ってたの? なんか残念だなー、『やはり生きていたか……』的はリアクションを期待してたのに」

「…………お前、は」

「うん?」

「どうして、ここにいる?」

 

 頭の中を埋め尽くすような混乱から目を背け、いきなり自分の前に現れた目的を尋ねる。

 

 わざわざ死を偽装していたイフがメシアの前に現れたのだ。

 

 それほどの理由が、イフという女性にはあ──

 

「別に? ただなんとなく」

 

 メシアは絶句するしかなかった。

 

「なーんか、ノアが世界壊そうとしてるって聞いてさ? 面白そうだから帝国の情報局に漏らしてみたら、何故かメシアのところに情報が行ったからさ。久しぶりに会おうかなって」

「──」

「それに、この《日輪神殿》にも来てみたかったからね。観光目的だけど。想像してたよりも、魔力のアレコレで綺麗だね。此処」

「──」

「あ、そうだ! 久しぶりに会ったわけだし、雑談でもしない? 実はこの前──」

「──死ねッ!」

 

 ペラペラと話し始めたイフに向けて、メシアは愛用している自動拳銃を発砲した。

 

 弾丸はみるみるイフに近づいていき、その白い肌を真っ赤に変える──こともなく。

 

 イフの体の表面で静止して、カランのと床に落ちた。

 

「うわっ、びっくりしたー……もう、急に撃つのは辞めてよ」

「チッ、その《聖羽の結界》は健在か」

「まあね。暗黒蓮華機関時代からお世話になってる古代魔具(アーティファクト)だし。これがある限り、私を傷つけることは不可能だよ」

「なら!」

 

 メシアはサングラスを放り投げ、"滅界の魔眼"を発動させる。

 

 弾丸を防げたのは《聖羽の結界》による"無敵結界"と呼ばれるものが体の表面に膜のようにあるからだ。

 

 だから、それを"魔眼"で滅せば良いとメシアは考えた。

 

 しかし。

 

「……その"魔眼"は、誰があげたの思ってるの?」

「? 何を──」

 

 ──ブシュ

 

 鈍い音を立てて、メシアの"魔眼"である左目から血が出ていた。

 

「〜〜ッ!?!?」

「仕組み程度なら解析済みなんだよ……対抗術式ぐらい、《聖羽の結界》に挿入してるって。名前は滅界封殺(アンチ・デストロイア)。どう? 良くない?」

「ぐ……ぅ……」

 

 目の燃えるような痛みで、イフの言葉に言い返せるほどの余裕は今のメシアには無い。

 

「さーて、攻撃されちゃったし……私から、やってもいいよね?」

 

 左目を抑えるメシアに向けて、イフは悪意に満ちた笑顔をした。




謎の解説役「今回は、闇月イフさんが纏っている古代魔具(アーティファクト)《聖羽の結界》について説明していきます。
 まず、"無敵結界"は物理・魔術問わず絶対防御で無敵であり、どんな攻撃も跳ね返します。
 次に"探知回避"は、自らの存在を探知されなくさせます。敵の探知魔法や超自然的な感知力も通用せず、使い手は影で潜みつつ敵を監視できるということです。メシアが彼女を探知できなかったのも、この影響ですね。
 そして"不視羽衣"というのは羽衣を不可視にし、周囲の者に見えなくさせます。
 最後の"自動治癒"使い手の傷を癒し、疲れを取り除きます。これにより、長時間の戦闘でも使い手は絶えず最高の状態を維持できるというわけです。
 それでは、解説を聞いていただきありがとうございました!」
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