カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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十九話・蝕毒の螺旋

「《我が身に癒しを(キュアフール)》」

 

 回復魔術で傷付いた体内を癒やして、メシアは再び立ち上がる。

 

「おー、まだ立つんだね。さっすがー!」

 

 馬鹿にしているとしか思えないイフの声を無視して、メシアは勝ち筋を考える。

 

 まずは、あの絶対防御を発生させている《聖羽の結界》を破る方法を考えなければ駄目だ。

 

 これまでに銃撃や魔術を試してみたが、効果は見られなかった。

 

 それに、いつも頼りにしている"滅界の魔眼"も対抗術式が組まれているらしい。

 

 だから……いや、待て。

 

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 魔眼の力は視界内に存在するものを認識して、その全てを"滅す"ものであり、その対象は魔術そのものも含まれている。

 

 対抗術式が組まれても、それそのものを滅せるので無効化できるわけがない。

 

 ……なら、"滅す力"そのものを無効化しているわけではない筈だ。

 

「……やってみるか」

 

 一つの仮設を思いついたメシアは、自動拳銃をクルクルと回して再び構えた。

 

「お、来るの?」

「ああ、行くさ。《風よ(ワインド)》ッ!」

 

 風の力で後押しされたメシアは、超高速でイフに迫る。

 

「えぇ……そんな単純な突撃で──」

「──らぁっ!」

 

 イフに銃を向けたときに、メシアは気がついた。

 

 ……銃はイフの《絶刀》に斬られていた。

 

「それで、愛用してた銃が斬られちゃったみたいだけど……どうするの?」

「こうするさ。《我が手に剣を(ダミーソード)》」

 

 その衝撃に身を任せて一回転したメシアは、魔力で作った剣でイフに斬りかかる。

 

「いや、だから私には《聖羽の結界》があ──」

 

 ──ザンッ!

 

 鈍い音がした。

 

 それは、メシアの持っている魔力で構成された剣が、イフの左腕を真っ二つに切り裂いた音だった。

 

「ぅっ……ぐ、ぁあッ! ぇ……な、なんでッ!?」

 

 今までにあった余裕を崩し、大量出血をしている左腕を抑えながらイフはメシアに驚きの目線を放つ。

 

「……ずっと、考えてたんだ。どうして私の魔眼を無効化できるのか。"滅界の魔眼"による破滅は、そういう概念の力だ。対抗術式なんて作れるわけがない」

「……だけど、私は作れたよ?」

「ああ、そうだな。だが、お前は"滅す力"そのものを無効化しているわけじゃなかった」

「…………」

「"滅界の魔眼"の手順は、まず私の"魔眼"が視界内のモノを認識して、それを滅そうとする意思を加えることで発動する。滅界封殺(アンチ・デストロイア)の力は魔眼の"滅す力"を無効化させることじゃない。魔眼に対する、お前自身への認識阻害だ」

「…………」

「お前に向けて"魔眼"である左目を使ったとき、血が出たな……当然だ。認識外のものを滅そうとすれば、"魔眼"だってバグっておかしなことになる。その結果が自壊となったんだろうな」

「……それで、どうやって攻略したっていうの?」

「簡単だ」

 

 それが至極当然かのように。

 

 まるで当たり前かのように。

 

「左目の魔眼がお前を認識できないなら、右目でお前を認識してその情報を魔眼へ送ればいい。そうすれば解決だろう?」

 

 そんな、訳のわからないことを言い放った。

 

「……え? 何言ってるの……? 送るって、どうやって? 脳内による伝達用の電気信号は、魔眼の構造で使われる信号とは違う! 次元が違うとも言っていい! 全く別物の電気信号を、魔眼と共有させられるわけが……!」

「何年この魔眼と付き合ってきたと思ってるんだ……感覚でなんとなくできたぞ」

「──ッ!?」

 

 なんとなく。

 

 それだけで、メシアはイフですら理解できない事柄をやってのけたのだ。

 

「さて……ようやく攻撃が通るようになったな。これで逆転か?」

「……いーや、それは無理だね」

「ん? それはどういう──」

 

 どういうことだ、と。

 

 そう問い詰めようとしたメシアは、気がつけば地面に倒れ伏していた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……さっきの音響による、ものとは違う……毒性の物質によるものか……ッ!?」

「正解」

 

 いつの間にか左腕をどこからか出した包帯で巻き終えたイフは、脂汗を浮かべながらも余裕を取り戻していた。

 

「あっははは……いやー、びっくりしたー……いや、ホントにびっくりしたよ。そんな意味がわからない方法で破ってくるとはね」

 

 イフはメシアから目を逸らして壁の端を見ると、そこには紫のようであり、緑のようでもある不思議な物体があった。

 

「それ、は……?」

「《蝕毒の螺旋》と呼ばれる危険な物質だよ。一応、分類は古代魔具(アーティファクト)に入るけど、道具というよりも成分みたいなものなんだよね。触れたら一発アウトなんだけど、それよりもヤバいのが微細な毒の粒子を空気中に放出することなんだ。ここの空気はもう毒に侵されて、呼吸や皮膚から毒が浸透する危険な場所になってるよ」

「ぐ……ぅ……ゲホッ!」

「それじゃ、私はこの辺で失礼するねー」

 

 スタスタと軽い足取りで、イフは《日輪神殿》から出ていこうとする。

 

「ゴホッ……待、て……ッ!」

「待ちませんよー。ほら、無理に動こうとしないで……身体が死ぬよ? そろそろ不審に思った君の仲間たちが来るだろうし、ここでおとなしく待っておきなって」

「く……っ、そ……!」

「ほら、これあげるから」

 

 そう言って、イフはメシアに何かを投げ渡す。

 

 メシアは顔を上げると、地面には虹銀色の銃があった。

 

「私が今までに修復した古代魔具(アーティファクト)の一つ、《神銃エクリプス》。権能は解説面倒だから省くけど、好きに使いなよ。これあげるから見逃してくれない?」

「…………見逃すと、思ってるのか?」

「思ってるよ。それとも……ここで、私と同士討ちでもする?」

「…………」

「私は別にいいよ? ただ……その場合、メシアが死ぬからノアを殺せなくて世界が終わるけど」

「……ちっ」

 

 冷静に考えれば、ここで無理にでもイフを殺そうとするのはデメリットが多い。

 

 大変癪だが、これ以上の戦闘は避けるべきだろうとメシアは判断した。

 

「それじゃ、バイバーイ! 楽しかったよー!」

 

 そんな殺し合いの後とは思えないほどの楽しそうな声が耳に響くのを最後に。

 

 メシアはアイン達が来るまでの体力保存の為に眠りについた。




謎の解説役「闇月イフの使った危険物体《蝕毒の螺旋》は、あらゆる状態において毒を生み出し、敵をゆっくりと侵食していく毒物です。"空気腐蝕"という微細な毒の粒子を空気中に放出して周囲の空気を毒に侵し、呼吸や皮膚から毒を浸透させます。次に"物質浸食"でこの物体に接触したものに毒を浸透させます。建物や装備、あらゆる物体が次第に蝕まれるので大変危険ですね。最後の"生物侵害"は生物に触れた場合、蝕毒の螺旋はその体内に大量の毒を送り込みます。体内で少しずつ毒が増殖し、生物の組織や臓器を侵食していくので治療はほぼ不可能です。……そんな物体、軽々と持ち運ばないでほしいなぁ……」
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