カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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二十六話・怠惰決着

「すぅ──……はぁ──…………」

 

 メシアが混乱している中、ノアは自分を落ち着かせるように深く息をする。

 

 こつこつと大袈裟に足音を鳴らしながら近付いてくるフェリに敵意を向けながら、ノアはフェリの"幸運"の攻略法を考えていた。

 

 まず、空間魔術はダメだ。

 

 人間は、ある一定の確率で簡単な動作でも失敗してしまう生き物だ。だからこそ、術式を構成するのに難易度が高い空間魔術なんてものは絶対に失敗してしまうだろう。

 

 《怠惰の指輪》については、()()()()ノアからは離れた場所まで転がっていってしまった。ここから取りに行こうとしても"幸運"が作用して何らかの要因で失敗するだろう。

 

 格闘術にいたっては、先程の通りだ。こちらの攻撃は足を滑らせたり、筋肉が断裂して思うように動けない。

 

 しかも、向こうの攻撃は素人だというのに"幸運"にも最適な動きをなぞってくるのだ。ふざけている。

 

 それらしい突破方法は見当たらない……いや、

 

「少し思いついたけど、これ行けるか……?」

 

 半ば博打のレベルまで行っている仮設……いや、どちらかというと願望だろうか。

 

 ノアはそれに挑戦してみることにした。

 

 己の魔力を最大限まで引き出し、それぞれの指で10の術式を構成する。

 

 指が1本欠けているため、同時発動するのは90個の空間魔術。

 

 それを、できる限り暇なく連続させる。

 

「ん……? ……何がしたいの?」

 

 術式の構成、そして失敗。

 

 ノアはそれを何回も繰り返す。

 

 そこで足に力を込めて、ノアは風のように跳んだ。

 

「だから、無駄だっ──」

 

 ノアの力を込めた拳が、フェリの顔面に衝突した。

 

 思いっ切り油断していたフェリは、その衝撃に襲われて床に強く叩きつけられる。

 

「ぐ、ぁぁ!? な、なんで……」

「足を4回滑らせて、肉離れは3箇所……この程度なら、感覚で対処できる」

「何を、したの?」

 

 信じられないという表情のフェリに向けて、ノアはなんてことの無いように答えた。

 

「お前の"幸運"の根源である古代魔具(アーティファクト)を処理落ちさせた」

「──え?」

「殴りかかる前に構成しようとした術式は、それぞれが別の魔術なんだよ。それら全てに"幸運"が干渉して失敗させてきた……正確に言えば処理落ちまでは行ってないようだけど、重くはなるだろうね」

 

 まあ半分くらい賭けだったけど、と呟くノアにフェリは驚きを隠せない。

 

 そんな無茶苦茶なゴリ押しで、ノアは自分に、傷をつけたのだから。

 

「ッ……エミ姉の残した《福運の幾幣》を、こんな風に攻略するなんて……だけど」

 

 そこで、フェリは()()()()()()()()()古代魔具(アーティファクト)()使()()()

 

「──ぇ、あ?」

 

 バタリ、と呆気なくノアが倒れる。

 

「……何をしたんだ?」

 

 フェリによるワンゲームによって、もはや傍観者と化していたメシアが愕然と呟いた。

 

「わたしは何もしてないよ。しいて言うなら、願っただけ。この人の心臓が止まらないかなー……て」

「……心停止か」

 

 つまり、突然ノアが倒れたのは、フェリのピンチに"幸運"にもノアに心停止が起こったということだ。

 

 大方、電気信号に異常でも発生したのだろうが……そんな緊急事態を簡単に起こせるなんて、末恐ろしいにもほどがある。

 

 メシアはフェリが味方だというのにも関わらず、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

 

「メシア、頭撫でて?」

「え……?」

「撫でて」

「…………任せろ」

 

 もう何がなんだか分からないが、フェリの有無を言わせない覇気にメシアは身を任せることにした。

 

 メシアはフェリの言うとおりに、撫でるために近づいて──勢いよくフェリを弾き飛ばした。

 

「え──メシ」

 

 ──パァン!

 

 フェリの声をかき消すような銃声がした。

 

 見れば、そこには銃から煙を出しているメシアと。

 

 立ち上がり、ナイフを握りしめていたノアが居た。

 

「なんで立ち上がれてるの? 心臓が、止まってるのに」

「僕の魔術で空間を上手い具合に揺らして、心臓マッサージをした。以上だよ」

「……お前もお前で、とことんデタラメだな」

 

 びっくり人間のようなノアに、メシアはそろそろうんざりしていた。

 

「フェリ、そろそろ下がれ。後は私がやる」

「この僕に、勝てるとでも?」

「ボコボコにされた状態で言われても、まるで迫力がないな」

「……違いないね」

 

 数多もの魔術を使おうとしたことにより、ノアの魔力はすっからかんだった。

 

 それに対して、メシアも休憩中に治癒魔術で身体を治していたとはいえ、動くたびに全身に痛みが走る状態。

 

 メシアが、ノアを見つめた。

 

 ノアもメシアに対して見つめ返し。

 

「「…………ッ!」」

 

 メシアの銃と、ノアのナイフが一瞬にして交差する。

 

 ノアは一発目の弾丸を身を捻り回避し、二発目の弾丸を跳んで回避する。

 

 メシアの懐まで辿り着き、そのナイフを振るおうとして。

 

 ──ドッ

 

 ノアは、自分の身体に衝撃が加わったことに気がついた。

 

「…………ぇ……?」

 

 それは、弾丸だった。

 

 だが、メシアが放ったものではない。

 

 いや、そもそも飛んできた方向にあるものが、10kmも離れた塔なのだ。

 

 そこから……狙撃を……?

 

 ──パァン!

 

 メシアの銃が火を吹いた。

 

 そして、ぐらりと回るノアの視界に最後に写ったものは。

 

 血まみれになりながらも、希望に満ちた目をしている姫壊メシアで。

 

「……は、はは…………あぁ、綺麗だ」

 

 それだけを言い残して、メシアに心臓を撃ち抜かれたノアは。

 

 どこか澄んだ目をして、その場に崩れ落ちた。

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