カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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二十七話・幸運の少女のエピローグ

 そうして、天時ノアは死んだ。

 

 メシアが魔術などを使ってまで確かめたので、絶対に死んだのだろう。

 

 そして一行は、アインも回収してアジトに戻っていた。

 

 空が橙色に染まり、冷たい風が吹き始めていた。道端に生える雑草が風に揺れ、遠くには鳥の鳴き声も聞こえないほど、世界は静かに沈んでいた。

 

 そんな帰り道で。

 

「……どうしたんだ? フェリ」

 

 メシアが、暗い表情をしているフェリに目を向ける。

 

「……いいところ、見せられなかった」

「え?」

「あの敵に勝って、わたしも〈HEAVNS(ヘヴンズ)〉にいれて欲しかった。……でも、無理だった。最後は助けられて、わたしは──」

 

 ──ポン、と。

 

 そんな軽い音を立てて、メシアはフェリの頭に手を置いた。

 

「その……あれだ。フェリは変なところで真面目なんだよ。私を助けてくれた。それだけで、私はお前に充分感謝してる」

「……メシア……」

「〈HEAVNS(ヘヴンズ)〉に入りたいんだったか? ああ、そのくらいは勿論いいぞ」

 

 穏やかな表情で、メシアは笑う。

 

 その笑顔を見て、フェリも思わず笑顔が溢れる。

 

「いい、の? わたし、役立たずだったよ?」

「役立たずなんかじゃない。フェリが居なかったら、あの天時ノアも殺せなかった」

「〈HEAVNS(ヘヴンズ)〉、入っていいの? これからも、メシアと一緒にいていいの?」

「ああ。……と、いうか。むしろこっちからお願いしたいくらいだ」

 

 その瞬間、フェリの中で何かが解き放たれたようだった。抑えつけていた感情がゆっくりと和らぎ、冷たい風が頬を撫でていく。

 

 アジトが視界の端に現れ始め、帰還が近いことを感じさせる。

 

 フェリは、姉が死んでからは自らを救ってくれたメシアにばかり執着していた。

 

 姉を亡くしてしまったフェリからすれば、縋れるものはメシアしかいなかった。

 

 だから、天時ノアの情報などを持ってきたりと四苦八苦した。

 

 なんとかメシアに認められようと努力した。

 

 遠くに小さな灯りが見え、アジトの入口が見えてくる。フェリはその光を見つめながら、これまでの努力が報われたことを感じていた。

 

(だけど……ここに居れば、何かが変わるかな。エミ姉、あなたの変わりなんかじゃなくて、メシアをちゃんと、メシアとして見れるかな)

 

 簡単に言うと、メシアは優しい。

 

 敵には容赦無いが、それも無実の人々を救いたいといった感情の裏返し。

 

 その優しさが姉と重なる場所があり、フェリは所々でメシアに姉を見出してしまっていた。

 

 門をくぐり、アジトの建物が目の前に広がる。冷たい石の床に足音が反響し、二人は安堵の息を漏らす。

 

 だけど、それでも。

 

 メシアと共に過ごせば、きっといつか。

 

 姉とは関係なく、メシアと過ごせる。

 

 そう、確信していた。

 

「ふぅ、ようやくアジトに着いたぞ。長かったな……私は風呂に入りたい」

同意(アグリー)。私もお風呂に入り、ヒロイン力を回復したいです。お風呂に入ればメシアも私の裸でメロメロに──」

「すまん、ちょっと何言ってるかわからない。ロボが何を言ってるんだ」

 

 神秘の到達者が一翼との戦い。

 

 それが終わり、一息つこうとメシアは扉の引き手に手をかけて。

 

「皆! 今帰った……ぞ…………?」

 

 扉がゆっくりと開く。薄暗い廊下に、何かが見える。

 

 そこに、騒がしくメシア達一行の歓迎をする人は無く。

 

 血まみれになって倒れている、〈HEAVNS(ヘヴンズ)〉の団員の死体のみが在った。

 

 空気が一瞬にして重くなり、フェリとメシアはその場に立ち尽くす。腐敗の臭いが漂い、血の海が広がっていた。

 

 全滅。そんな言葉が、この状況にはピッタリだ。

 

「…………何、これ」

「何が、起きたんですか……これは」

 

 フェリは口元を抑え、無意識に一歩下がる。

 

 アインに関しては、いち早く我に返って状況把握を急ぐ。

 

「ここまでの殺人現場、仲間割れ? いえ、違いますね。そんなギスギスとした雰囲気では無かった。それでは、力を隠した裏切り者がいた? それも違う。そんなゴミが居れば、私がすぐに気づく。なら……襲撃です!」

 

 フェリが立ち尽くす中、アインが急に何かを感じ取り、周囲を警戒し始める。廊下の奥に不気味な影が揺らめいていた。

 

「ええ、ええ。お見事、大正解ですよ? 機械仕掛けの乙女様?」

 

 ふと、怪しげな声がアジトの奥から聞こえてくる。

 

「ッ!!」

 

 ──パンパンパンッ!

 

 反射的にメシアは銃を抜き、連射する。

 

「おっとっと、やめて欲しいですねぇ。私は別に、争いに来たのでは無いのですから」

 

 見れば、その奥には高校生ぐらいのように思える、メイド服をその身に纏った少女が居た。

 

 今撃った弾丸は、メイド服の直前で静止しており当たっていない。

 

「……誰だ?」

「おや、なるほどなるほど。私のことは知らないのですね。ああ、ですが私はあなたのことはよーくご存知ですよ? 自称救世主様」

「誰だと、私は言ったぞ」

「あははっ、怖いですね。ですが……今はまだ、名乗る時ではない。きゃー、言っちまいました! 一度は言ってみたかったのですよ、このセリフ!」

 

 メシアに対して、メイド服の少女はこちらに歩み寄りながらも真面目に返答しない。

 

 ……おかしい。

 

 少女の言動が、何かを隠しているような不穏さを漂わせ、緊張が高まる。

 

 何かが、おかしい。

 

 もし、このメイド少女が神秘の到達者だとして、それはまだいい──いやよくないが──まあいいのだ。

 

 それよりも、例え神秘の到達者が相手だとしても、メシアの〈HEAVNS(ヘヴンズ)〉がここまで完全に敗北するはずがない。

 

 あれでもメシアの部下たちであり、暇な時間に特訓をつけていたこともあった。

 

 実力的にも、ここまで一方的にやられるものなのか。

 

 フェリは血の匂いがさらに強くなるのを感じ、足元に広がる鮮血を踏んで後ずさりした。疑問と恐怖が交錯する中、視界の隅で何かが動くのを捉えた。

 

 そしてメシアの疑問は──すぐに解決した。

 

「はははッ。あァ、良いな。ここの奴らも、すげェ強いじゃねェか。おかげで、俺はもっと上に登れた。もっともっと、強くなれた。これで、俺ァ最強に近づいたんだ!」

 

 声の主は、廊下の奥の影から姿を現した。薄明かりに照らされたその男は、中学生ぐらいの外見だった。紺色の髪が乱れ、目には狂気が宿っていた。

 

 そんなジャケットを着こなした少年の足元にも複数の死体が転がっており、無惨な光景が広がっている。彼が手にしているナイフは、血に濡れていた。

 

「……貴様らは、何なんだ」

 

 メシアは、目の前の男とメイド服の少女を交互に見ながら問いかけた。その声に、警戒と怒りが滲む。

 

 重い沈黙が一瞬、場を包み込む。メシアの指が、再び銃の引き金にかかる。

 

 メシアの敵意が籠もった問いかけに、二人は顔を見合わせて──嘲笑った。

 

「暗黒蓮華機関、神秘の到達者《嫉妬(エンヴィー)》。影蝋(かげろう)クロエ」

「暗黒蓮華機関、神秘の到達者《暴食(グラトニー)》。虚喰(こじき)グレイ」

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