カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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三十一話・暴食と銃弾

 紅炎が、まるで生きているかのように渦を巻く。

 

 焦土のように焼け爛れた床に、グレイの足音だけがコツ、コツと場違いなほどに軽やかに響いていた。

 

「ハッ、ただ燃やすだけで終わるとでも思ったのかァ? ……浅ェよ」

「……っ、く……そッ!」

 

 フレアの左腕は、醜く焼き尽くされていた。

 

 それは攻撃する際に、自分の炎にすら耐え切れなかったのではない。

 

 喰われたのだ。

 術式の動線と、呪文の精密構成を。

 

「俺は魔術を発動する際の重要なところを食えばいい。結果、魔術が成り立たなくなったことで、そのために引き出したテメェの魔力が暴走して自爆。楽でいいじゃねェか」

 

 ケタケタと笑いながらフレアの無力化を確認したグレイは、ひんやりとした地面に手をつける。

 

 その指先から溢れ出す魔力が、グレイの意思に応えるように踊り、何(・)か(・)に向けて干渉する。

 

「《世界食ノ陣(ワールドイーター):式階第七(セヴンス)、飽満歯車陣(ベルゼブブ)──発動(コール)》」

 

 呪文ではない。これは……術式の完成宣言のようなもの。

 

 現在、フレアやグレイがいる神ロビザーン帝国……その全(・)域(・)に広まった円陣が、既に時間と空間の境界をゆっくりと削り始めていた。

 

「元(・)々(・)こ(・)の(・)国(・)に(・)仕(・)掛(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)術(・)式(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)ん(・)で(・)な(・)。ン(・)な(・)モ(・)ン(・)が(・)わ(・)ざ(・)わ(・)ざ(・)あ(・)る(・)ん(・)だ(・)。折(・)角(・)だ(・)し(・)、(・)乗(・)っ(・)取(・)ら(・)せ(・)て(・)も(・)ら(・)っ(・)た(・)ぜ(・)。後(・)三(・)十(・)分(・)。……そ(・)れ(・)で(・)全(・)て(・)終(・)わ(・)る(・)ん(・)だ(・)。そ(・)ん(・)で(・)俺(・)が(・)神(・)に(・)な(・)る(・)」

「……っ、ふざけ……」

「なァ、最高にワクワクしないか!?」

 

 フレアの叫びは、咽せた咳どグレイの叫びによってかき消される。

 

 焼かれたことで出血はしていないが、それでも視界が暗くなっていき、とても立っていられない。

 

 だが、ここで倒れたら……グレイを止められるものは、どこにもいない。

 

 そうなれば、この国は。そして、この国で過ごしている数多の人々はどうなる。

 

「……ぅ、あああああッ!」

 

 まだ、終わるわけにはいかない。

 

 フレアは喉から声を出し、体中の力を振り絞ることで無理にでも立ち上がろうとして。

 

 ──パ(・)ン(・)。

 

 そんな軽い音が、確かにそこで鳴った。

 

「…………あァ?」

 

 グレイが下を向くと、そこには大量の血が撒き散らされていた。

 

 それが自分の血だと、そう気づいた瞬間、二発目の弾丸がグレイを襲う。

 

「ぐあっ……!」

 

 一発目で既に重症を負っていたグレイが反応できるはずもなく。

 

 そして──ドサリ、という音とともに、メ(・)シ(・)ア(・)に(・)撃(・)た(・)れ(・)た(・)グ(・)レ(・)イ(・)は(・)地(・)に(・)伏(・)せ(・)た(・)。

 

「暗殺完了……ってところかな」

 

 影から姿を表したメシアは、安心したと言いたげな顔でフレアを見た。

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