カタストロフィ・メシア 作:汐海朔夜
「……っ、はぁ……っ、はぁ……」
焦げついた空気の中で、フレアは地面に片膝をついたまま肩を震わせていた。
熱は収まらず、魔力の流れも不安定だ。
だがそれでも意識だけは、意地でぎりぎりで保っていた。
そんな彼女の横で、メシアは倒れたグレイの体を見下ろしていた。
「……動かないな。念のため心臓も二発潰したし、脳幹も狙った。これで死んでなかったなら、もう笑うしかないが」
銃口から立ち上る煙を見送りながら、メシアはひとつ息を吐く。
と、静かに背後から別の少女が現れた。
「
「……それは、つまり……」
ようやく立ち上がったフレアが、声を上げる。
「《
「そういうことだな。それに、あいつが使ってたのは……転用だよ」
メシアの言葉に、フレアの眉がひそむ。
「転用……? じゃあ元々、誰があんな術式を……?」
「……現・国王。神ロビザーン帝国、バイア・神代・ロビザーンだ」
フレアには自分の心臓が、一瞬止まったように感じた。
「……なん、で……? 陛下が……?」
その名前を出すだけで罪に問われかねない。
けれど、メシアもアインも、表情ひとつ変えずに話を続ける。
「
「……洗脳……!?」
フレアは、崩れかけた声で問い返す。
「そう。忠誠でも恐怖でもない、絶対的な一種の『信仰』を無意識の中に植えつけるための
メシアの冷たい声は、フレアの心に重く響く。
「グレイは……その構造を見抜いて、目的を乗っ取った。洗脳じゃなく、この《暴食の指輪》を術式に組み込んで、喰らうことに置き換えてな」
「…………そんな……」
フレアは、震える指で額を押さえた。
自分が信じていた国。支えていた王。
それが根幹から、狂っていた?
「ボクたちは……誰に、仕えていたんだ……? 何を、して……」
その呟きに、メシアが答えた。
「決して王とは呼びたくない、ただの悪党に仕えていた……と言うのは、流石に残酷すぎるか?」
「君は、どうするつもりなんだい?」
フレアは俯いたまま、メシアにそう問いかけた。
「バイア陛下……いや、バイアは今は不在だけど。温泉地に行っているからね。これからそこに行くのかい?」
「
「は?」
メシアはフレアから目線を外し、ニヤリと笑った。
「バイアはおそらく帝国中枢……神ロビザーン城の地下にいるはずだ。ここまでの出来事を、ずっと他人事のように傍観しながらな」
「そんな、ところに……」
「……だが、問題はここからだ」
メシアは自作した腕時計型の魔力計測器を見下ろした。
「核が稼働を再開するまで、残り四十五分。グレイが死んだ今、それを過ぎれば術式は完成し、元の効力……つまり、この国の全員がバイアを信じるためだけの存在に書き換えられる」
冷たい声と共に、周囲の空気がさらに重くなる。
「しかも、完成までに止められるのは中枢部を破壊することだけ。外からの干渉は一切効かない」
「……つまり、城の地下まで行けってことだね。けど……地下は帝国最深層、《封神領域》。普通の兵士はもちろん、王直属の親衛騎士ですら立ち入りを禁じられた場所だよ」
「だからこそ、行く必要がある。幸い、こっちはまだ生き残ってる仲間がいるしな。……さて、フレア。お前はどうする? 私からすれば、一緒に戦ってほしいが」
メシアの問いに、フレアは少しだけ空を仰いだ。
あと四十五分で、この国の全て偽りに変わる――そう思うと、迷いは消えていく。
「決まってる……やるよ。やらなきゃ……ボクまで、あいつらと同じになる」
「よし。じゃあ急ぐぞ」
メシアの声に従い、アインとフレアの二人は走り出した。