カタストロフィ・メシア   作:汐海朔夜

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三十三話・謎

 メシアがフレアを助ける少し前。

 彼女は、帝都の裏路地の廃れた地下回廊を歩いていた。何故なら、誰も近づかないその場所に……自分を導く声があったからだ。

 

『……こっちだよ』

 

 男とも女ともつかない、柔らかい声音。

 奇妙なことに、それを聞くたびに胸の奥がざわつく。

 それはまるで遠い昔に、一度は確かに聞いたことのある響きのようで。

 

「……懐かしい? いや……そんなはず……」

 

 メシアは眉をひそめながらも、その声に逆らおうとは思えなかった。

 声の方へ向かっていくと、地下回廊の最深部に辿り着く。その奥に、誰も知らない扉があった。

 そこに指を触れた瞬間、()()()()()()()

 

 それは、無限の白。

 時間も空間も存在しない、ただ意識だけが浮遊する空虚な世界。

 そこに『声の持ち主』……と思われる存在が立っていた。

 

 ……いや、違う。正確には、立ってなんかいない。

 その輪郭はぼやけていて、性別すら判断できそうにない。影とも光ともつかない、人影としか表現できないものがそこにあった。

 

『……よく来たね、メシア』

 

「……誰だ。名前を言え」

 

 銃を構えることはしなかった。

 できなかった。

 自分でも不思議だ。敵意を抱く以前に、この存在には妙な安らぎすら覚えているだなんて。

 

『それは……今は言うべきじゃない。要らないだろうしね。それよりも、君に伝えることがある』

「伝えること?」

『この国を覆う術式、《世界洗刻式(メモリアル・ラプス)》のことだよ』

 

 聞き覚えのない語に、メシアは眉をひそめる。だが、そこに潜む不吉な響きだけで、おおよそのことは十分に推察できる。

 

「……何かが、この国に仕掛けられているのか」

『うん。元凶であり真犯人は、現国王、バイア・神代・ロビザーン。彼は国民全てを自らを信じる機械へと書き換えようとしてる』

「……洗脳、か」

『正確には、記憶改竄かな。人が何を思って、何を信じるか……その根を侵す魔術だよ。それは信仰と忠誠を強制する、完全なる支配だ』

 

 メシアの胸にある、冷たい炎が燃え上がる。

 

「……なぜ私にそれを話す?」

『君にしかできないことがあるからだよ。そして……恩返し、かな?』

「……どういう意味だ?」

『今は思い出さなくていいよ。ああ、そうそう。ついでに、あの子を助けに行ったほうがいいよ』

「あの子?」

『フレア。彼女は今、グレイに喰われかけてる。急いだほうがいい……まだ間に合うよ』

 

 メシアは迷わなかった。

 声に導かれるまま、次の瞬間には現実に戻っていた。

 廃墟の回廊で、銃を握る自分の姿に。

 

「……正直、完全に信用はできない。だが、放っておけないのも確かだ」

 

 メシアは銃口を軽く撫で、静かに笑った。

 それにこの声には、何故かどうしようもなく懐かしさがある。

 根拠など何もない。

 だが、それでも信じられると思えて仕方がなかった。

 

「……いいだろう。行ってやる」

 

 そう呟き、メシアはフレアとグレイの戦場へ走り出した。

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