俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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3-4 戦慄のB/二人はツインテイルズ

 『妄想で俺を脱がすなーーーーーーーーーっ!!!!!!』

 

 モニターには膝を付いて絶叫するテイルレッドと、そのテイルレッドの人形相手に妄言を垂れ流し続ける狐野郎。クソみたいに阿呆な状況だが、これでも世界が征服されるかの瀬戸際。絶賛大ピンチである。

 

 俺達には直接アルティメギルをぶっ飛ばす手段はない。だからと言って、為す術もなくただ見守っているだけにはいかない。弟分()がピンチなんだ。手を差し伸べずして、何がお兄ちゃんだ!

 

 ………ちなみに母親たる未春おばさんは、

 

 「総ちゃん、よくお風呂上がりに裸で走り回っていたわね。懐かしいわー」

 

 と暢気なもんである。いや、いいのかよ。

 

 対して愛香はというと、

 

 「どーしよ、そーじが!ねぇ、ここから発射出来るミサイルとかないの⁉」

 

 かつてないピンチのテイルレッドを見て、トゥアールに掴みかかり攻撃手段がないか問う。

 

 「生憎とこの基地にはそのような防衛機能はありません……」

 

 がくがくと肩を揺すられながらもトゥアールは答える。まぁ、流石にミサイルは不味いわな。人形どころか辺り一帯が吹っ飛ぶ。

 

 「だったらそこの部屋にあるアイカフットバースってロボは使えんのか?対愛香用に調整してんならエレメリアンの一匹や二匹ぐらい潰せんだろ」

 

 昨日、探検中に併設されている開発室で見つけた物を提案する。あまりものネーミングとその分かりやすい使用目的に、総二共々見なかったことにしたぐらいだ。

 

 「見たのですか!?いえ、それは兎も角アレにそんなパワーはありません」

 

 「なんだよ。御大層な名前の割には使えんじゃねぇか……」

 

 せいぜいハチマンフットバースがいいとこぐらいか。

 

 「私的には十分だと思うのですが…… え?対愛香さんってそこまで必要なんで?」

 

 エレメリアンにダメージが通るかは抜きとして、単純な戦闘能力は低く見積もっても最初のトカゲ野郎よりは高い。アンブレイカブル・ボディ、ファンタスティック・テクニック、アイアン・ウィル、アメイジング・アビリティ全てを兼ね備えた最強の拳士だからな。オネスト・ハートは怪しいけど………

 

 「おのれはそんなもん作ってたんか!あと八兄さんはあたしを何だと思ってんの!」

 

 自分に対する兵器の存在に激昂し、掴んだままのトゥアールの肩を潰す愛香。そんなんだからオネスト・ハートはあげられない。

 

 「何って、俺が思い描く最高が天道総司なら、最強はお前」

 

 最早お馴染みと言えるトゥアールの悲鳴をBGMに答える。

 

 「八兄さんの評価が高い‼」

 

 そうか?熊を素手でぶっ飛ばす相手には正当な評価なんだが。

 

 だが、そんなことより今はテイルレッドだ。頼みの綱が使い物にならんとなると、残される手段は限られている。その中で一番被害が少ない手となると━━━

 

 「俺が直接乗り込んで人形だけでも潰すか━━」

 

 「ダメだよ!お兄ちゃん!」

 

 覚悟を決め空間跳躍カタパルトに向かう俺の腕を、小町が必死に引き止める。

 

 「小町、スマン………今出来るのはこれぐらいしか━━━」

 

 「………いえ、それには及びません」

 

 小町の手を振りほどこうとする俺を、トゥアールの言葉が遮った。

 

 「こうなったら、いたしかたありませんか………」

 

 トゥアールは覚悟を決めた悲痛な面持ちで呟く。固く引き締められた唇の端からは、一筋の赤い血が流れる。おいおい、そんなにヤバいことなのか?

 

 「愛香さん、お願いがあります」

 

 心の底から絞り出す様に愛香へと頼み事をする。

 

 「おい、愛香を危険な目に合わせるんじゃないだろうな!だったら俺がやる!」

 

 いくら俺よりは強いと言えど、可愛い妹分なんだ。そんな目に合わせるぐらいなら、俺がやったほうがいい。

 

 「いえ、これは愛香さんにしか出来ないことなんです」

 

 「八兄さん、あたしなら大丈夫だから!トゥアール、そーじを助けれるならなんでも言って!」

 

 瞳に強い意志を宿し俺に告げる。こうなれば、俺は引き下がるしかない。

 

 「では変身して下さい」

 

 「分かった。変身すればいいのね!━━━━━━━は?」

 

 トゥアールの言葉には反射的に返事をしたのだろう。あらためて内容を噛み締めて、愛香の動きが止まる。

 

 「以前言いましたよね、もう一人候補がいるって。あれは愛香さんのことです」

 

 「そうなの、お兄ちゃん?」

 

 「確かに言ってたな」

 

 その事は知らない小町の質問に頷く。まぁ、同時に蛮族とか悪魔とかボロクソに言ってたが。酷い目にあったって、あれだけ暴力言語を交わせばそりゃ実感が籠もるわな。

 

 「あたしが………。嘘?だってこの世界に二人しかいないじゃない!そんなの出来すぎよ!」

 

 あまりの衝撃でその事が頭から抜け落ちているのか、愛香はそのまま話を続けている。気付けばスプラッタ間違いなしなんで、このまま気付かないでいてほしい。

 

 「同じツインテール属性を持つ者だから引かれ合った、とも考えられます」

 

 「同じ、ツインテール属性………。そーじ………」

 

 その言葉に運命的な何かを感じたのか、顔を真っ赤にしながら胸を押さえる愛香。

 

 「かーっ!見てお兄ちゃん、愛香ちゃんすっごく乙女の顔してるよ!」

 

 興奮した小町がバシバシ叩いてくる。ちょっと小町ちゃん、お兄ちゃん痛いんだけど。

 

 だが、愛香の乙女モードは長くは続かなかった。ふと、何かに気付いたように真顔に戻る。ああ、これは思い出しちゃったか。

 

 「ちょっと待って。……あんた、もう一人は蛮族だの渡したら地球が滅びるのだのって」 

 

 「えっ、事実でしょう?」

 

 間髪を入れず真顔で答えるトゥアールの頬に骨法が炸裂する。手首のスナップを効かせた平手打ちは、鈍い音を立てて頬骨を打ち据えた。これは痛い。

 

 「確かにあたしは蛮族かもしれない。でも、そーじを助けることは出来る!」

 

 「あ、愛香さんが……。最低最悪なのに何か格好いいことを言ってる」

 

 そうか?悪の力を用いて善を為す(クロス・オブ・ファイア)ぽくてストレートに格好いいと思うが。八幡的にならぬライダー的にポイントが高いぞ。

 

 「あたしだってあんな変態と戦うのは嫌よ。でも戦力は多いほうがいいでしょ!なんであんなに頑なに拒んでいたのよ!」

 

 中身が男のテイルレッドですらこの有り様だ。フィジカル最強とはいえ年頃の少女としては、変態集団を相手にするんだ、嫌悪感が勝るだろう。それでも、今戦場で膝を付く大切な幼なじみの事を想えばこの程度の嫌悪なんて感じている暇もない。猛る気持ちを込めて愛香は吼える。

 

 そんな愛香の想いに対しトゥアールは、

 

 「愛香さんを、危険に巻き込みたくなかったのです……。僅か数日で何度も殺されるような目に合いましたが、それでもこの世界に来て初めてのお友だちなんです!」

 

 瞳に涙を宿し、髪を振り乱しながら悲痛な想いを込めて答えた。そんな女の友情に、直接言われたわけでもない小町すら涙腺を緩ませている。

 

 「んで、本音は?」

 

 「後でテイルギアの維持に私の生体データを総二様の体内に取り込む必要があるんです━━━って、それっぽい事を言って如何わしい行為にふけろうとしましてですね。えへへ………でも愛香さんにも渡したら、辻褄合わせとして愛香さんともシなくちゃいけないじゃないですか」

 

 「こんのド変態が!!」

 

 間髪入れずに放たれた俺の質問に、流れるように本音を語る。案の定、愛香からの殺されるような目がまた一つ追加された。小町の涙も引っ込み、代わりに侮蔑が宿っている。小町、これがトゥアールなんだよ。早く慣れないとお兄ちゃんみたいに目が腐っちゃうぞ。

 

 『やめろーーーーーーーーーーーーーっ!ツインテールと手を繋いでスキップするなーーーーーーーーーーーー!』

 

 と、こちらが馬鹿やっている間にもレッドはピンチの真っ只中だ。悲痛な叫びが基地に響き渡る。つーか、ツインテールと手を繋ぐって何だよ?髪の毛引っ張ってるだけじゃねーか。

 

 これにはトゥアールと拳で一方的に殴る(友情の語らい)をしていた愛香も手を止める。

 

 「あんたがあたしを嫌いだって事はよぉく分かったわよ!でも、今はそーじを助けたいの!お願い、あたしにも戦わせて!」

 

 土下座でもしないとばかりにトゥアールに懇願する。

 

 「……嫌いなんて思っていませんよ。友だちだというのも、嘘じゃありません」

 

 穏やかで優しい声で答える。自業自得な所はあるとはいえ、俺でも引くような暴力に晒されてなお友だちと言い切るとは……。中々どうして、このトゥアールという少女は広い器の持ち主だ。

 

 「この世界を守る為とはいえ、これは私の復讐。直接関係のない総二様に戦いを強いたのでも、胸が張り裂けるように苦しいのです。その上、大切なご友人まで巻き込んだとなれば………。お優しい総二様は………」

 

 「確かに、総二は度を越えたお人好しで優しい男だ。愛香まで巻き込んだとなれば許せないだろう」

 

 その言葉にトゥアールの顔が曇る。まぁ、なんだかんだでも恋する乙女か。想い人には恨まれたくはないわな。

 

 「………だがな、総二はお前を恨みゃしねーよ。お前も言ってたろ、総二は優しいって。あいつは愛香を危険な目に合わせちまった不甲斐ない自分を許せなくなるんだよ」

 

 よくも巻き込みやがって、と恨む奴はいるだろう。だが、総二に限ってそんなもんはない。あるのは男の意地って奴だけだよ。

 

 「八兄さんの言う通りよ。そーじは危なっかしいまでのお人好しだからね。だからあたしが守るのよ!」

 

 俺よりも長年、傍らに居続けた愛香が答える。愛香が鍛えているのは本人の性分もあるだろうが、総二を守るためでもある。総二は気付いてはいないが、お兄ちゃんにはお見通しだ。

 

 「それに、あたしだってツインテールよ。狙われても、力を持っていたほうが対処できるでしょ?」

 

 「総二様と違って、貴女のツインテール属性は自分の為のものではないでしょう?命と同じくらい大切にされていたツインテールを賭けられますか?ブレスを付けたら、後戻りは出来ませんよ」

 

 愛香は総二の為にツインテールを続けているからな。奪われたらその想いも傷付けられる事になる。そんな不器用なトゥアールの気遣いに、

 

 「あたしは自分の決断に責任が持てないほど子供じゃないわよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながら答えた。

 

 そんな愛香にトゥアールも覚悟を決めたのだろう。白衣のポケットから青いテイルブレスを取り出す。

 

 「愛香さん約束して下さい。何があっても総二様の初めての女は私であると!時間がありません!うんと頷くだけでいいんです!それでなければこれは渡せません!さぁ、早く!まさかこれからヒーローになろうとする方が力尽くで奪おうとはしませんよね!そんはヒーローにあるまじき所業、いくら愛香さんでも………って、何故肩を掴むんです?え?ちょっと待って下さい!落ち着い━━━━ぎゃあ!」

 

 本音なんだか照れ隠しの冗談なんだか、そんな事を宣うトゥアールを硬い金属製の床に叩き付ける様に投げ飛ばした。驚異の頑丈さを誇るトゥアールもこの一撃には堪えたらしい。年頃の女子として見せられない顔をして気絶をした。………トゥアールよ、ここに総二がいなくて良かったな。

 

 そんなトゥアールから、愛香はテイルギアを奪い取る。確かにヒーローにあるまじき鬼畜な所業だ。どう見ても強盗致傷の類だし。

 

 だが今は一刻を争う緊急事態。世界の命運は愛香の肩にかかっているのも確かだ。世界を侵略者の魔の手から守る為、俺はあえて、あえて社会道徳をかなぐり捨てて、見て見ぬふりをしなければ。そうなのだ、これは“超法規的措置”!俺は世界平和の為、一人の不様な少女を、あえてあえて見て見ぬふりをするのだ。あーっ!最低だ最低だ。俺はなんて最低なお兄ちゃんだ!社畜の両親よ、隣りにいる妹よ、初めての大切な友だちの神堂よ………。この比企谷八幡の魂の選択を、笑わば笑え!

 

 見なかったことにしよう!

 

 と、馬鹿な妄言録(モノローグ)垂れ流している間にも、愛香は奪ったテイルブレスを右手に装着し構える。

 

 「テイルッオン!」

 

 そして、なんの躊躇いもなく変身のキーワードを叫んだ。全ては総二の為、その想いが愛香を突き動かす。

 

 属性力とは心の力。その想いに応えるように属性玉が輝きテイルギアが起動する。

 

 総二とは異なり流れる水のベールが愛香を包み込む。しかし、これもまた一瞬のこと。気合一閃とばかり振るわれた回し蹴りにより薙ぎ払われる。

 

 そこに居たのはテイルレッドとは真逆、青い装甲を纏った戦士だった。

 

 背恰好は普段の愛香そのまま。総二の様に幼女にならずに済んだ様だ。トゥアールの事だからやらかしそうだったが、杞憂だったみたいだな。

 

 靭やかな肉体を包むのは、テイルレッドより露出部の多いフォトンヴェイル。装甲は最低限であり、バランスタイプのテイルレッドと比べてスピードに特化しているように見える。やはり青はスピードタイプ。これでポールウェポン持ちなら完璧にドラゴンフォームだな。

 

 極めつけに、流れる水の如くさらさらと靡く水色のツインテール。それがテイルギアを纏った愛香の姿だった。

 

 「ふぉぉぉぉぉぉぉ!愛香ちゃん、カッコいい!!」

 

 「さしずめ、テイルブルーってとこだな」

 

 法則に則り名前を付ける。この名前ならテイルレッドの仲間として分かりやすいだろう。

 

 「テイルブルー……それが、あたしの名前」

 

 変身後の確認する様に暫くの間手をグーパーしていたが、キッと表情を引き締めると空間跳躍カタパルトへと駆け出す。

 

 「愛香ちゃん、転送先はすぐ傍のビルの屋上よ。総ちゃんをお願いね」

 

 いつの間に設定したのだろうか、未春おばさんが愛香へと声を掛ける。つーか、さっきちょろっと説明しただけなのに、もう使いこなしていらっしゃる。流石は現役厨二病。

 

 「愛香ちゃん怪我しないでね!」

 

 小町は案ずる言葉をかける。

 

 トゥアールは……気絶したままだな。

 

 「行って来い!盛大に祝福してやる!」

 

 サムズアップをして送り出す。

 

 「うん、行ってきます!待ってなさい、そーじ!」

 

 そう言って、愛香改めテイルブルーは極彩色の光と共に消えていった。レッドを頼んだぞ、ブルー。

 

 

 

   ・   ・   ・

 

 

 

 「でさ、お兄ちゃん。盛大に祝福、って何するつもり?」

 

 ニヤニヤ笑いながら尋ねてくる。お前、分かってて聞いてるだろ。

 

 「そんなもん、決まってんだろ」

 

 シートに座り直して、コンソールを弄りだす。

 

 「最高のタイミングで祝ってやるよ」

 

 そう答えて、ニヤリと笑うのだった。

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