俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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3-5 戦慄のB/二人はツインテイルズ

 『さて、絵本を読んで差し上げましょう。おやおや、膝の上に座りたいと。フフ…甘えん坊さんですね』

 

 甘く蕩ける様な声で語りかける狐野郎。目を瞑っていれば女性向けASMRでそこそこの稼ぎになりそうだが、やっている事は等身大幼女人形を相手にした一人おままごとである。

 

 いい歳こいた怪人(大人)が公の場で恥じらいもなく堂々と妄想を垂れ流す姿は狂気じみており、見てるだけで寒気がしてくる。

 

 『こ、ここまでなのか………?俺のツインテールは、こんな奴に負けてしまうのか!!』

 

 息も絶え絶えに膝を付くテイルレッド。奴の妄想のおかずにされた挙げ句、至近距離から聞かされ続けて来たんだ。その心は折れる寸前だった。

 

 だが、まだだ。諦めるのはまだ早いぞ、テイルレッド!

 

 「諦めないで総二くん!今とびっきりの助っ人が向かったから、もう少しのしんぼうだよ!」

 

 隣のシートに座った小町がいち早く通信を入れる。さっき教えたばかりなのに、十全に通信機能を使いこなしている。その淀みないオペレートっぷりは、中々どうして様になっている。本格的にオペレーターとして参戦するつもりだな。

 

 『助っ人って……、八兄でも来るのかよ』

 

 助っ人という言葉から俺が思い浮かぶのは、お兄ちゃん的に頼りにされて嬉しい。だが、今この場に立つのは俺じゃない。

 

 「残念だが俺じゃない。俺よりももっとお前の隣に立つのに相応しい奴だよ」

 

 『隣、って………まさか!』

 

 『そこまでよ!変態!』

 

 レッドが気付いたように顔を上げると同時に、戦場に突き刺さる青い閃光。

 

 『あ、いか……』

 

 かすれるようなつぶやき声。身につけているテイルブレスだからこそ聞き取れるような僅かな声。それでもその声が届いたのかブルーはレッドに微笑む。

 

 『何者です⁉』

 

 突然の闖入者に狐野郎は狼狽の声を上げる。

 

 『あたしは━━━』

 

 『いたぞ!』『あそこだ!』

 

 愛香の名乗りを遮るタイミングで差し込まれる声。発生元を見ればカメラを引っ提げた一団が。どうやら時間がかかり過ぎて、報道機関が嗅ぎつけてきた様だ。

 

 普通からすれば戦闘の邪魔にしかならないが、これからすることを思えばお誂え向きのタイミングだ。

 

 ブルーは気を取られているし、今のうちだな。ほくそ笑みながらテイルブレスの通信機能の設定をいじりスピーカーモードにする。

 

 「うわー、お兄ちゃんすっごく悪い顔してるよ」

 

 ほっとけ。

 

 んんっ、と喉の調子を整えマイクに向かう。清聴せよ、我が最高、最善の祝福を!

 

 「祝え!(裏声)」

 

 戦場に透き通るような女性声が響く。普段の俺の低く重い声からは想像出来ない様な清涼な声。108の特技の一つである声帯模写だ。

 

 「愛する者を守る為、共に戦う覚悟を決めた戦士!その名もテイルブルー!ここに新たなるツインテールの戦士の生誕の瞬間である!(裏声)」

 

 うむ、存分に祝福出来て大満足。充足感と共にスピーカーモードをオフにする。

 

 『………だ、そうよ』

 

 名乗りを取られたからか、若干げんなりした表情のブルー。格好良く名乗ろうとした所悪いが、チャンスがあれば祝福したくなる特オタ心(兄心)というやつだ。面倒なお兄ちゃんでゴメンな。

 

 「なんで早見◯織さんの声真似してんの」

 

 「この前やらかしたからな。身バレ防止の為だ」

 

 イマジンチャフないし。かなり力技だが、これなら俺、というか男だとは思わないだろ。

 

 なんでは◯みんかって?ほら、俺の声の対ならはや◯んしかいないんじゃね?共演多いし。いや、共演って何だよ。

 

 『成る程、テイルブルー』

 

 俺の声はしっかりと届いていた様だ。噛み締めるように、その名前を呟く。

 

 『フフフ……これは、また素晴らしい!まさか仲間がいようとは!嗚呼…この危機感!命の際に追い詰められたのに━━━何故でしょう?胸の高鳴りが止まらない!!』

 

 ピンチって割には随分と上機嫌な事で。スマートに見えて、こいつもバトルジャンキーってことか。アレか?アルティメギルの連中ってのは頭薩摩なドMしかいないのん?

 

 そーいや、性癖が受肉した精神生命体だった。変態ばかりなのも納得だわ。

 

 『…ったく、ほんとそっくりで気味悪い人形ね』

 

 そんな狐野郎を無視してブルーは悪態をつく。変態は相手にしないのが一番だからな。その割にトゥアールの事には一々暴力言語(反応)するが、あれは友情ってやつだろう。友だち、神堂しかいないから知らんけど。

 

 『だったら、属性玉変換機構(エレメリーション)!』

 

 ブルーが左腕の手甲から光り輝く属性玉(エレメーラオーブ)を取り出す。装甲がスライド展開し露出された窪みに属性玉が収まる。

 

 『属性玉━━━人形属性(ドール)!』

 

 宣言と同時にカバーが閉じ、テイルギアの属性力変換機構が発動した。

 

 属性玉変換機構━━━その名の通りエレメリアンの力の源たる属性玉の能力をテイルギアで使用するための機能である。仮面ライダー剣のライダーシステムと思えば理解しやすい。アンデッドの力をラウズカードとして利用するのと同じだ。

 

 発動と共にブルーの全身が緑色のオーラに包まれる。

 

 人形属性の属性玉━━━最初に倒されたトカゲ野郎の属性だ。総二曰く沢山のぬいぐるみをファンネル・ミサイルみたくぶつけてきたらしい。俺が見た時は既に全て切り落とされた後だったが…… 得意の必殺攻撃を尽く切り払われたトカゲ野郎の心中は如何に。

 

 『それは……リザドギルディの!?』

 

 『さぁ、大人しくなさい人形ちゃん』

 

 ブルーが手を掲げると共に迸るオーラがレッドの人形を包む。するとどうだろう、目に見える迄に具現化していた狐野郎の妄想が急激に形を失っていく。肝心の人形など最早見る影もない。どれだけ精巧なマネキンも、こうなってしまえば最早ただの木偶人形だ。

 

 『ほいっ、と』

 

 動揺する狐野郎を尻目に案山子になった人形に近付くと、拳をフルスイング。容赦なく鼻っ面へと叩き込み、その顔面を粉々に打ち砕いた。レッドの顔のパーツがバラバラに飛び散り、頭を喪った身体は力無く崩れ落ちる。グロい、ただひたすらグロい。

 

 おいおい、ブルーよ、テレビカメラが回ってるの忘れてんな。まさかとは思うが、生中継じゃないよな?こんなもんお茶の間に流れたら、放送事故じゃ済まんぞ。

 

 『なにやってくれちゃってんのーーーー!!』

 

 今日何度目かのレッドの叫びが木霊する。無理もない。自分そっくりの顔面が砕かれる様を特等席で見せつけられたんだ。涙目になって完全に怯える幼女である。トゥアールが悦びそうだが、奴は地面とハグしておねんねしたままだ。

 

 「うっわー…………。愛香ちゃん容赦ないね。お兄ちゃんだったらどうする?」

 

 「俺か?まぁ、絵面を考えて頸動脈辺りを落とすぐらいか」

 

 「そっちの方が生々しいよ………」

 

 ドン引きである。解せぬ………

 

 『馬鹿な⁉貴女の大切な仲間を模したものなんですよ!!それをなんの躊躇いもなく破壊するとは!!』

 

 『仲間?あたしの大事な仲間なら隣にいるじゃない』

 

 そう言ってブルーは微笑み、レッドにウインクをする。さらっとこういった事ができる辺り、下手な野郎よりイケメンである。

 

 「あらー、愛香ちゃんも言うわね。総ちゃん、気付いてないけど」

 

 この言動は未春おばさん的にポイント高い様だが、惜しむらくは肝心の総二が朴念仁ということだ。

 

 『お、おのれ………。ですが、貴女のツインテール属性はテイルレッドに及ばないようですね!ならば貴女の属性力を奪うまで!まずはその素敵なリボンから頂戴します!』

 

 そう言ってブルーへと飛び掛かる狐野郎。だがな………

 

 「甘いな」「甘いね」「甘すぎるわね」

 

 満場一致する(気絶中のトゥアールを除く)秘密基地内。俺達は知っている。津辺愛香という少女の戦闘能力を。

 

 ツインテール属性が及ばない?それがどうした。それすら覆すフィジカルという名の絶対的力を。

 

 『はん、冗談』

 

 ブルーは鼻で笑うと、フォースリヴォンを手で弾く。機能により立ち所に専用武器が形成される。それにより、サブモニターに表示されているテイルブルーの情報が更新される。

 

 その両手に掲げられるのは一振りの槍。母なる海の如く深い青のトライデント。秘められた力は邪悪を薙ぎ払う清らかな水。その名も“ウェイブランス”━━━うん、ドラゴンフォームだ、これ。

 

 『戦いは新参でもね━━━ツインテールはあたしの方が大先輩なんだから!!』

 

 『うぐぐぐググググ……………』

 

 渦巻く水流により狐野郎が締め上げられる。オーラピラーの拘束からは何者も逃れられない。

 

 『エグゼキュート……ウェイーーーーブ!!!!』

 

 鋭く穿つ一閃が拘束ごと狐野郎を貫く。鉄砲水の如く激しい一撃に、細身の狐野郎が耐えられる筈もなく、あえなくその核を打ち砕かれる事になった。

 

 『ぐあああああああああ……!最期に、夢、を………!また、服を着な、いで………。!まさか、リボンにそんな使い方がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 ………最期まで妄想しながら散って逝った。

 

 「ねぇ、お兄ちゃん。アルティメギルって、こんなんばっかなの?」

 

 「言うな………」

 

 あまりにも酷い辞世の句に、初めて見る小町もげんなりである。

 

 『ようし終わった、取材だ!』『テイルレッドにもう一人いるぞ!』

 

 戦闘が済んだ途端、さっきまで離れていた報道陣が厚かましくも近づいてくる。いいご身分だよ、全く。

 

 身構えるレッドを背に隠し、ブルーが報道陣との間に立つ。見た目の年齢差もあり妹を庇う姉の様だ。ナイスお姉ちゃんムーブ!

 

 『あたしも今日から参戦しまーす!よろしくね!二人揃って“ツインテイルズ”って事で!』

 

 そう言うと直ぐ様レッドを抱えて空高く飛翔をする。空を飛んで逃げれば報道陣は追いかけて来れない。あとは離れた場所でこちらに跳ばせば完璧だ。

 

 「二人ともお疲れさま!回収ポイント設定したから、そこまで案内するね」

 

 未春おばさんが回収ポイントを設定し、そこまで小町がナビゲートする。初めてにしては中々いいチームワークじゃねぇの?

 

 さて、俺は帰って来る二人の為にタルトのカットでもしますか。そう思いながら、中断されたおやつタイムの準備をするのだった。

 

 

 

 あ、トゥアール起こさなきゃ。

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