「アルティメギルだって!」「え、本物?」「初めて見た」「テイルレッドはどこー?」
突然の闖入者に騒然となる会場内。パニックになるようなことはなかったが一人また一人と遠ざかっていき、アルティメギルを中心としたエアポケットが出来上がる。なんか俺達が一番近くにいるんですけど。
「お嬢様!比企谷!」
騒ぎを聞きつけて、桜川さんを始めとした神堂家のメイド集団が人垣を掻き分けてこちらに来る。側仕えだけでなく神堂の護衛も兼ねているからな。ただでさえ神堂は一度襲われかけたんだ、こういった事態への行動は迅速だ。
「ほう?お嬢様だと」
お嬢様という単語に反応したのか蠍野郎の視線が神堂に向けられる。あ、何下卑た目で神堂見てんだ?貫手でも当てて潰してやろうか?と、その腐った視線を遮るように神堂の前に立つ。
「オレの前に立ち塞がるとは、無礼だぞグ・ミーン!」
極上の獲物を前に目隠しされたからか、苛ついた様にこちらを睨む。大体、グ・ミーンってなんだよ。剣ぼっちゃまの真似か?不遜にもほどがあるぞ。
「知るか。アルティメギルがなんでこんなとこにいやが━━━いや、待て。大体わかった。みなまで言うな」
偉そうな物言いに思わずカチンと来て啖呵を切るが、すぐにげんなりする。
「知れたこと。テイルレッドのグッズを手に入れる為だ」
「だから言わんでいいつっただろ」
見りゃ分かるんだよ。だって後ろに大荷物持った
「つーか、そのグッズはなんだよ。どこからパクって来たんだよ」
「優れたものには対価を払うのが高貴なるものの務め。略奪など下賤な輩がすることだ。オレはキチンと並んで購入したわ!」
並んだのかよ。そして買ったのかよ。無駄に律儀な奴だ。あと、略奪は下賤な輩とか言ってるが、
━━━って、なんかおかしくないか?
あれだけの数を並んでまで買ったとなれば相当時間が掛かる筈だよな。なのに、この場にツインテイルズが来ていない。
この地球上にいる限りアルティメギルがどこにいたってすぐわかる。なんてったって、メイン・サブ合わせて四機ある監視衛星が世界全土をカバーしているからな。トゥアールは普段の言動こそアレだが、その技術は本物だ。
そして、アルティメギルが発見されさえすれば直ぐ様基地から連絡が入り、ツインテイルズの出動となる。そうすれば後はもう早い。空間跳躍カタパルトさえあれば、地球上のどんな場所へも一瞬だ。市内にあるマクシームなんか言わずもがな。
それなのに現状はこの有り様だ。基地機能の使用不可や、他の場所へアルティメギルが発生したとは考え難い。それだったら、小町からなんらかの連絡がある筈だ。
つまりは………アルティメギル発見の反応自体がない?
そういやこいつら普通にブースに並んでいたんだよな。その割には今の今まで騒ぎらしい事も起きていなかった。こんなに怪しいのにも関わらず。ここから推測されることは…………
「おい、蠍野郎。お前に聞きたいことがある」
「グ・ミーンの疑問に答えるのも高貴なるものの務め。言ってみろ」
一々偉そうで癇に障るやつだ。今ならトゥアールを〆にいく愛香の気持ちが分かる気がする。蹴りたくなる気持ちをぐっと我慢しながら、蠍野郎に問いかける。
「お前みたいな怪しい奴がいんのに、今まで誰一人と騒いでないのは流石におかしい。さてはお前、自分の存在を隠蔽、もしくは認識を阻害するような能力を持ってんな」
「ほう、グ・ミーンの割には中々頭が回るじゃないか」
蠍野郎は楽しそうにニヤリと笑う。今更だけど硬そうな甲殻の割にグネグネ表情かわるのは何なの?
「お嬢様とは慎み深いもの。だからこそオレの
認識を慎み深く━━━つまりは、認識力の低下か。ある程度気配を読める俺でも、あそこまで接近しなければ気付けないなんて中々に厄介な能力だな。
「随分と厄介な能力だな。何、騎士なんかよりも暗殺者の方が向いてんじゃねぇの?」
「ほざくなグ・ミーン!お嬢様属性は我が誇り。そして誇りを持つからこそ騎士なのだ!」
睨み合い、軽口を叩きながらも割とピンチな状況に必死に頭を回す。なんとかしてツインテイルズに連絡をしたいが、どうする?
スマホで連絡?睨み合ってる最中に呑気に電話をしてる暇はない。
神堂に頼む?ツインテイルズの正体がバレるから却下。
ゾーンメモリ(仮)で奴ごとどっかに跳ぶ?あれは跳ぶまでに地味に時間が掛かるし、後々面倒になりそうだからあくまで最終手段。
そもそも、ここにいる人間も避難させんと。ツインテールの女子もちらほらいるし、こんな突発イベントに参加する様な連中だ、持っている属性力はそれなりにあるだろう。
避難については神堂家が誘導計画を進めたりしているから問題ない。既に入口近くから順番に避難誘導をしているからな。まぁ、今日はお偉いさんが多いから苦労しそうだか……
いや、待てよ。神堂にお偉いさんがいるなら………
「神堂、頼みがある」
目線は蠍野郎に向けたまま、傍らにいる神堂に話し掛ける。
「わたくしに頼み、ですの?」
「ああ、お前にしかできない事だ。俺はここで奴らの足止めをする。神堂はその間に━━━」
手にバイクグローブを付けながら、考えついた事を伝える。ついでに横にいるメイドさんに荷物を持ってもらう。財布をなくしたら大変だからな。
「ですが、比企谷君は!」
神堂は納得いかないのか、反対の意を唱える。俺が殿を務めるって事だし、心優しい神堂にはそれが我慢出来ないんだろう。
「これが今出来る最善の手だ。それにあいつらの目的は属性力を奪う事だ。負けた所で死ぬ事はない」
ないよね、大丈夫だよね。
「さて、いつまでもグ・ミーンと話していた所で意味はない。先ずはそこのお嬢様の極上なツインテールから奪わせてもらう!いけい我が下僕ども、って何故オレに荷物を押し付けるのだ!?え、持っていたら確保出来ない?むむむ、ならば仕方あるまい」
いい加減痺れを切らしたのか、雑魚戦闘員をけしかける蠍野郎。その際に持っていた荷物を全部押し付けられていたが……。
「「「モケーーーーー!!」」」
相も変わらず気の抜けた叫びと共に飛び出てくる雑魚戦闘員ども。こいつらを相手にするのは二度目だが対処方法は分かっている。異形ではあるが人型を保っているんだ、人間に対する様にいなして強烈な一撃を持って叩き潰す、それだけである。
奴らが来るのを一々待っている必要はない。それに神堂の近くにいたら巻き込んじゃうしな。こちらから向かい速攻で潰す。
伸ばしてくる手を躱し、空いてる胸部に拳を叩き込む。
「モ゛ゲ⁉」
そのまま胸ぐらを掴み後頭部から床へと叩き付ける。先ずは一匹。
消滅を確認するまでもなく二匹目へと向かう。こいつには鳩尾に膝を打ち付けくの字に曲った所を、延髄に肘を撃ち込む。人間相手には絶対に使えない技だな。
「うっわ、えげつねえ」「アルティメギル相手でもやりすぎだろ」「あいつテイルブルーじゃね?」
ほら、ギャラリーどもいつまでも見てんじゃねぇ。時間を稼いでやってるんだからとっとと逃げろ。
だが、二匹目を相手にしている間にも最後の一匹が抜けたようだ。神堂を確保しようと手を伸ばす。だが問題はない。
「お嬢様には指一本触れさせん!」
神堂を守る為に桜川さんが立ち塞がる。前述した通り彼女は神堂の護衛だ。普段の佇まいからして只者ではない気配を醸し出しているし、一度手合わせした時は危うく押さえ込まれるところだった。
向かってくる雑魚戦闘員の腕をいなし懐へと潜り込む。勢いそのままに持ち上げて床に叩き付ける様に投げ飛ばす。おお、ナイス肩車!
「モケ⁉」
硬い床に打ち付けられバウンドし転がっていく雑魚戦闘員。暫く転がっていたが床に手を付き動きを止めると、そのまま何事もなかったかの様に立ち上がる。
「馬鹿な!無傷だと!?」
成る程、これがトゥアールの言ってたエレメリアンには通常の物理ダメージが一切効かないというやつか。あまりにも簡単に倒していたから気にも止めなかったが、搾り滓の雑魚ですらこの様子じゃ確かにこれは厄介だ。テイルギアがなければ為す術もなかったというのも頷ける。全くトゥアール様々だな。
ダメージがないと分かれば、懲りずに向かってくる雑魚戦闘員。だが甘いな。桜川さんのお陰で時間が稼げた。割り込むように背を向けて立ち塞がる。
「モケー!」
流石に既に二匹を仕留めた俺が相手だと、分が悪いと感じたのだろう。破れかぶれの様に飛びかかってくる。
「ライダーキック……なんてな」
跳び上がったそいつに向けてカウンターで回し蹴りを叩き込む。足首から伝わる何かを砕いた感触。再び床に転がった雑魚戦闘員は今度こそ立ち上がることなく消えていった。
「カブトのライダーキックですわ!」
派手なキメワザに神堂は大喜び。うん、今のは我ながらいい感じに決めれた。ちょっぴり調子に乗って人差し指を天に掲げポーズを決めてみる。
さて、雑魚は片付いた。残すところは蠍野郎ただ一匹。いやまぁ、コイツが比べ物にならないぐらい厄介なんだが……。それは兎も角。
「今の内だ!任せたぞ、相棒!」
道は開けた。神堂を促し、策を実行して貰う。
「━━━━任されましたわ!直ぐに助けを呼んでまいります!比企谷君もどうかご無事で!」
あっさりと雑魚を片付けた手際に、神堂も多少は納得したのだろう。行きますわよ尊!と、桜川さんを連れ走っていく。
「くっ…、極上のツインテールが⁉行かせはせんぞ!!」
「おっと、お前の相手はこの俺だ。ひとっ走り付き合えよ」
性懲りも無く神堂へと向かおうとする蠍野郎に立ち塞がる。お前みたいな変態の相手は、神堂じゃなく俺の様なボッチで十分なんだよ。
それに、折角の神堂とのお出かけに水を差したんだ。ただで済むと思うなよ?
「その様なふてぶてしい物言い。腐った目といいゾンビギルディの様な人間め!気に入らん!」
またかよ、ゾンビギルディ。つーか、嫌われ過ぎじゃね?
「トカゲ野郎といい誰がゾンビだ。俺はただのお兄ちゃんだ!」
「そのすぐに兄と名乗る所、ますますゾンビギルディとしか思えんわ!」
え、ゾンビギルディってお兄ちゃんなの?やだ、エレメリアンなのにちょっぴり親近感が湧いたり。
「しかし、ツインテール属性ではないから気付かなかったが、グ・ミーンの癖に相当な属性力の持ち主のようだ。極上のツインテールの前に貴様の属性力を奪わせてもらう」
俺にも属性力、ね。俺の執着といえば小町たちの事。妹……弟……、差詰お兄ちゃん属性といったところか。
「ほーん。じゃ、精々奪われん様に目一杯暴れさせてもらいますか」
「不遜な奴め。本来なら人間を傷付ける事は禁忌であるが、戦士相手なら問題はない。少しばかり痛い目にあってもらおうか」
さて、だらだら話している間に避難も粗方終わった。囲んでいた人垣も今は消え、残すのは出入口付近のみ。
これなら周りを気にしず存分に動ける。痛いのは嫌なので、まずは攻撃に全振りさせてもらいますか。
「
一息で加速し奴へと肉薄する。そしてそのまま、一番装甲の薄い箇所━━━脇腹を蹴り穿つ。
「硬ッ………」
ガツンと、足から伝わる金属の塊とぶつかった様な感触。一番脆そうな箇所でもコレか。蠍じゃなくて蟹だろ。
効果がないと分かるや否や後ろに下がり距離を取る。奴は悠然と佇んでおり追撃する様子はない。蚊程効かないって訳ですかそうですか。
軽く動かして足先の調子を確かめる。多少痺れてはいるが、特にダメージを受けた様子はない。バイクに乗るからってエンジニアブーツ履いといて良かった。これが普通のスニーカーとかだったら、下手したら逆に怪我をするとこだった。
「グ・ミーンにしては中々の攻撃だが、ただの蹴りでは俺の防御は破れん」
呵々と笑いながら宣う。棒立ちながらも右手を掲げる。するといつの間にかその手には一振りの長剣が握られていた。
「さて、オレは騎士故に剣を使わせてもらう。戦いの場だ。まさか卑怯だとは言うまい」
確かに子供の喧嘩じゃあるまいし、武器の使用ぐらいで目くじらを立てるつもりなんかない。だけど敢えて言わせてもらう。
「おいおい、ただでさえ肉体的スペックに差があるくせに、その上武器まで持ち出して。そんなんで騎士なんか名乗って、恥ずかしくないの?」
「口の減らないグ・ミーンめ!」
すぐに挑発に乗り向かってくる蠍野郎。繰り出される剣をするりと避ける。
「ええい、避けるな!」
「わざわざ当たってやるほどお人好しじゃねーよ」
ひょいひょいと躱しながら軽口を叩く。どうやらこいつ、剣の腕自体は大した事ないな。硬さだけが取り柄ってやつか。ダクネスかな?
「いい加減に落ちろ!」
怒りのまま大振りな一閃を繰り出す。躱した剣はそのまま長机にあたり真っ二つに斬り裂いた。
見切れるからいいが威力は洒落にならないな。絶対に当たったらあかんやつだ、これ。
「ええい、しぶとい奴め!」
「それはこっちの台詞だ。どうせ当たらんからいい加減に諦めろ」
そんな俺たちの言い合いに、キンコンカンコーンとチャイムの音が割り込む。
『アルティメギルの目撃情報についてお知らせします。只今、マクシーム宙果においてアルティメギルが出現しました。付近の方は不要不急な外出を避け十分にご注意下さい。繰り返します━━━』
辺り一帯に鳴り響く緊急放送。どうやら神堂は上手くやってくれたみたいだな。これで先ずは一手。
「今更放送を流した所でなんだと言うんだ。貴様を倒せば極上のツインテールはオレのものだ」
「その割にはさっきから掠りもしてないぞ。騎士を名乗るのは止めたら?」
「グ・ミーン相手には使う必要はないと思っていたが、仕方あるまいか」
今までの激昂はなんだったのか、すっと目を細め剣を構え直す蠍野郎。
やば⁉挑発のし過ぎで怒りが一周回って冷静にさせちまったか⁉
「我が妙技を受けろ━━━」
そう言って剣を振りかぶる。なんだ?剣筋が霞んで━━━
ゾクッ、とする感覚と共に咄嗟にしゃがみ込む。すると今まで俺の首のあった箇所を剣が通り過ぎる。
「あんなの当たれば死ぬわ馬鹿たれ!」
痛めつけると言った割には殺意マシマシな一撃に、思わず文句が出る。
「貴様のような輩は当たった所で死にはしん。大人しく斬られろ」
「出来るか!」
再び振りかぶられる剣。妙に読み辛い剣筋を転がって躱す。勢いよく転がったからか台にぶつかり、載っていたものが散乱する。
「それがお前のお嬢様属性の力か」
時間を稼ぐ為に蠍野郎へと語りかける。
「御明察。我が妙技“そよ風の如きお嬢様の溜息”は剣筋に宿る殺気を極限まで抑え込み繰り出す一撃。貴様のような剣筋を読む輩には効果的な手よ」
………ネーミングセンスはアレだが、確かに恐ろしい技だ。つーか、これ騎士の剣というより暗殺剣の類だろ。やっぱ騎士向いてないよお前。
「さて、いい加減に終わらせて極上のツインテールを頂くとするか」
すらりと振り上げられる剣。今の俺は完全にしゃがみ込んでおり派手に避けることが出来ない。後ろへ動かした手が何かに当たる。
「さらばだ」
咄嗟に手にあたったそれを振り上げる。バキンという音とともに運良く剣に当たり、なんとか逸らすことが出来た。
手にしていたのは真紅の柄。展示されていたブレイザーブレイドのレプリカだ。サンキュー、レッド。助かった。
「運の良い奴め……。だがその有り様では二度は防げまい」
奴の言う通りブレイザーブレイドは刀身半ばでポッキリと折れている。樹脂とダイキャストで出来たレプリカだからね。一撃でも耐えられたのは御の字だ。
………これ、弁償しないといけないかな?五万円は痛すぎるんですけど。
まぁ、弁償も何もこの場を乗り切らん事には始まらないけどな。蠍野郎を見上げながら睨みつける。
ふと、窓の外、空から二条の光が。どうやら賭けに勝ったようだな。逸る気持ちを抑えて、最後の仕上げに取り掛かる。
「おい、蠍野郎。最後に言いたい事が三つある」
「なんだ、命乞いか?寛大なオレは聞いてやろう」
掲げた剣をピタリと止める。命乞いなんかするつもりはさらさらないが、好都合だ。
「一つ、神堂のツインテールはあいつのもんだ。そこに込められた神堂の意思も知らんくせに。誰がお前なんかにくれてやるか」
神堂曰く家訓でツインテールにしなければならないらしい。昔は嫌だったみたいだが、今では気に入っている、笑顔でそう語ってくれた。
「一つ、よくもまあ神堂とのお出かけを邪魔してくれたな。折角のデートを台無しにしたんだ、楽に終われると思うなよ」
あ、結局デートって言っちゃった。誰も聞いてないだろうし、よし!
命乞いかと思えば罵倒の嵐に蠍野郎は眉をしかめている。しかし、聞くと言った以上終わるまで俺を
斬るつもりはないようだ。敵ながら律儀な奴だ。
「そして、最期に一つ」
まあ、その律儀さが命取りなんだけどな。
「━━━チェックメイトだ」
「待たせたな!」「大丈夫?怪我してないわよね!?」
開きっぱなしの入口から飛び込んでくるテイルレッドとブルー。
「待ってたぜ、ヒーロー」
この勝負、俺達の勝ちだ。