俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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EX1-5 デート激震!

  〜SIDE:慧理那〜

 

 

 走る。

 

 金色のツインテールを風に靡かせひたすら走る。彼に託された願いを果たすため、ただ走る。少しでも早く彼への救援が届くようにと走り続ける。

 

 (待っていて下さい、比企谷君。必ずツインテイルズを呼んでまいります)

 

 走りながらも、八幡と交わした会話を思い浮かべる。ツインテイルズを呼ぶ為の彼の策。

 

 

 『━━━俺はここで奴らの足止めをする。神堂はその隙に市のお偉いさんに取り次いで緊急放送を掛けるように頼んでくれないか?マクシームにアルティメギルが出たってな。どうも奴の特殊能力のせいか、ツインテイルズが出現自体把握してないみたいだ。そこで緊急放送ってわけだ。確実性はアレだが、何もしずに手をこまねくよりはマシだ』

 

 瞳はアルティメギルを射抜いたまま、八幡は小声で隣りにいる慧理那に話し掛けた。拳を保護するためかバイクのグローブを装着している。即ち本気で立ち向かうということ。

 

 八幡が強い事は十分承知している。なんて言ったって、アルティメギルに襲われた際に慧理那たちを守る為に一番最初に立ち向かったのが彼なのだから。その時はすぐに気を失ってしまった為に、その勇姿を直接目にする事は出来なかったが、後日事件の撮影者から徴収、もとい譲り受けた動画によりしっかりと目に焼き付けている。

 

 だからこそ分かってしまう。腕の一振りで乗用車を吹き飛ばすような怪物だ。そんな輩を相手に身一つで挑むなんて無謀にも程がある。あの時はテイルレッドというヒーローが傍に居たからこそ大事にはならなかった。

 

 だが、今は状況が違う。そのヒーローを呼ぶ為の時間を稼ぐということなのだから。

 

 なんとしてでも止めなくては、そう思い慧理那は大きな声を上げる。

 

 『これが今出来る最善の手だ。それにあいつらの目的は属性力を奪う事だ。負けた所で死ぬ事はない』

 

 そんな彼女に、困ったような笑みを浮かべながら語りかける。尚も説得の言葉を重ねようとするが、痺れを切らしたアルティメギルにより中断されてしまう。

 

 手を広げジリジリとにじり寄ってくるアルティロイド。顔の無い痩躯は見るからに生理的嫌悪を与えてくる。まさに異形の怪物といった容貌。現にそこかしこでも小さな悲鳴が上がっている。

 

 しかし、実際に対峙している八幡はそんな見た目もどこ吹く風。鮮やかな手付きで瞬く間に一体を沈黙させ、続く二体目も物ともせず捌いていく。まぁ、鮮やかと言うのは容赦のない苛烈な一撃であったが………

 

 あっさりと消えていく二体を尻目に、残す三体目が慧理那へと向かう。向けられる悪意に表情が強張るが、護衛でもある尊が間へと立ち、襲い来るアルティロイドを投げ飛ばす。

 

 信頼するメイドの攻勢に一安心するが、八幡が対峙した時とは一転、何事もなかったかの様に立ち上がる。名家である神堂家の一人娘の護衛役を担っているだけあり、尊は武芸においても一廉の実力者だ。その尊の一撃を持ってすら倒せないという事実に思わず息を呑む。

 

 他の二体と違い自分が害されなかった事に気を良くしたのか、改めて向かってくるアルティロイド。まぁ、それも二体目を倒して戻ってきた八幡によって潰えるのだが……

 

 その際、場違いにもはしゃいでしまったが、自分は悪くない。ライダーキック(あんな魅せ技)をする彼が悪いのだ。と、慧理那は内心思う。

 

 『今の内だ!任せたぞ、相棒!』

 

 その言葉に押されて駆け出す。尚も慧理那へと手を伸ばすアルティメギルの前に立ち塞がる。不遜に軽口を叩きながらも、ここから一歩も下がらないと立ち向かう。その姿はどこから見てもヒーローだ。

 

 そう、彼は出会った時から変わらずヒーローなのだ。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 慧理那が八幡と出会ったのはおよそ一年前、高等部への入学の日の事だった。

 

 その日、慧理那は入学式へと向かう為、メイドの運転する自動車の中にいた。中学までは女子校、所謂お嬢様学校に通っていたが、高等部からは母親が理事長を務める陽月学園へと編入する事になった。神堂の名に恥じぬ様と幼少より厳しく育てられていた為、試験でも首席となり入学の挨拶を任される事になった。その打合せの為いち早く学園へ向かうことになり、こうして他の生徒より早く登校している。

 

 車中の慧理那ではあるが、その幼い容姿に似つかわしくない物憂げな表情を浮かべている。

 

 「お嬢様、ご気分が優れませんか?」

 

 隣に座っていた尊が尋ねてくる。

 

 「いえ、大丈夫ですわ。ただこれからの事を考えていただけですの」

 

 母に言われるままの編入。そして神堂家の掟。折角の高校生活なのに気が重くなる。

 

 呆っと外を眺めていたからか、いち早くそれに気付けた。

 

 「いけません!猫が!」

 

 道路の横から飛び出してくる一匹の小猫。響くブレーキ音。ビックリしたのかこちらを見て固まってしまっている。駄目、間に合わない。これから起きる惨劇に思わず目を瞑る。

 

 トンっと叩くような軽い音と共に完全に停止する車。恐る恐る目を開ける。

 

 (猫は?どうなりましたの?)

 

 「いけません、お嬢様!」

 

 尊の静止を振り切りドアを開け車外へ。随分と音が軽かった。もしかしたらまだ間に合うかもしれない。そう思うと居ても立っても居られない。

 

 「おーぅ、ギリギリセーフ。咄嗟に飛び出しちまったがなんとかなったな。流石、俺。おいチビスケ急に飛び出したら危ないだろ。おばあちゃんじゃなくても言ってるぞ。車は急に止まれない、って」

 

 そこには小猫を腕に抱きかかえた、おそらく同年代の少年。道路脇の縁石に腰を掛けて、低くも柔らかい声で何やら聞き覚えのあるフレーズを語りかけている。察するに彼が小猫を助けたのだろう。

 

 「大丈夫ですか⁉お怪我はありませんか⁉」

 

 「あー、大丈夫ッス」

 

 小猫に話しかけていた時とは打って変わって気の抜けた返事。ゆるりとこちらに向けられる顔。常人より容姿端麗な慧理那からしても整った顔立ちと思えた。だが、何よりも目を引くのはその瞳。地獄の底を覗いて来たか(矢車想)のように暗い闇に染まっていた。同年代らしからぬ眼差しに思わずドキリとする。

 

 暫くこちらを見ていたかと思えば、何故かみるみる青くなり、だらだらと冷や汗を流し出す。実は怪我をしていたのではないのか?そう思い焦る。

 

 「え、目茶苦茶高級車じゃん。もしかしてそっち系の人?手をついたとこが凹んでたりしたり?示談?弁償?………家族だけは勘弁して下さい!」

 

 なんか物凄い勘違いをした挙げ句、いきなり土下座をされた。

 

 それがビギンズナイト(二人の出会い)だった。

 

 ちょっぴり間の抜けたオチが付いたが、危険を顧みず小猫を助けた姿は慧理那が憧れるヒーローを連想するものだった。

 

 そう伝えたところ本人は「いや、家で猫を飼ってるし。あと眼の前で轢かれるのを見るのは精神衛生上悪いってだけで、つまりは自分の為だな」と首すじを掻きながら言っていた。どう聞いても照れ隠しだし、後日交流を持つ事になる彼の妹曰く“捻デレ”だそうだ。中々的を得た言葉である。

 

 尚、この時助けた小猫が比企谷家二匹目の飼い猫になるミックである。

 

 

 と、そんなインパクトのある出会いであった為、慧理那と八幡の交流はその後も続いていく事になる。

 

 女子校通いであった為に同年代の男子とは交流する事は少なく、また八幡自身も周りにはいないタイプだったので新鮮だった。しかも、共通の趣味を持つ、それはそれは会話が弾む。そんな八幡に惹かれるのも時間の問題だった。チョロいと言ってはいけない。

 

 そもそも、八幡は天道総司を目指しているだけあって、学業も慧理那に続く学年次席。武芸を嗜んでいるので運動神経抜群、しかも料理上手と来たもんだ。容姿もそこそこ整っており、特徴的な目は人によってはマイナスになりかねないが、慧理那的にはゾクゾクすりからOKだ。総じて見ればかなりのハイスペックであり、かなりの有望株だ。

 

 なのに浮いた話が一つもなかったのは、本人の捻くれた性格もあるが、その度の超えたシスコン&ブラコンっぷり。それで敬遠するのは納得のいく話である。

 

 まぁ、慧理那からしてみれば、天道総司がそういったものだから見馴れており、大して気にならないが………

 

 そして極めつけは、アルティメギルに襲われた時の件。フィクションではない本物の怪人相手に啖呵を切り立ち向かう。しかも彼が誰よりも可愛がっている妹と同じく大切と言われたのだ。これはときめく。

 

 だから、彼は慧理那にとっての主人公(ヒーロー)だ。

 

 

  ×   ×   ×

 

 

 そんな彼から相棒と呼ばれ策を任されたのだ。果たせなくてはバディとして名が廃る。その気持ちを胸に慧理那は走る。

 

 「お嬢様、こちらです!」

 

 先行していた尊に続いて、避難者のいる一角へ。そこには秘書と共にいる市長の姿。

 

 (良かった。まだいらっしゃいました……)

 

 近づいて行けば、これからの対応について話し合っていた。それならば話は早いとばかりに、息を整え市長へと話し掛ける。

 

 「市長、速やかに市全域への緊急放送をしてくださいまし。今は一刻を争う事態故に詳細は省きますが、責任は神堂が取ります!」

 

 この街においては絶対とも言える神堂の名。重石でしかなかったが、今はそれが何よりも有り難い。

 

 「分かりました。神堂さんがそこまで仰るなら。君、すぐに手配を!」

 

 尋常ならざる慧理那の様子に、市長は何かを感じ取ったのか、拍子抜けする程あっさりと事が運ぶ。

 

 連絡から数分もしない内に鳴り響くサイレン。繰り返される放送。

 

 全ての布石は打たれた。後は彼の思惑通り事が運べば………

 

 アルティメギルがホールから現れる様子はない。つまりは、未だ彼が身を挺して抑えているからだ。

 

 (比企谷君………、どうかご無事で………)

 

 自分の為すべき事は終わった。あとはただ彼の安否を祈る事しか出来ない。無力な自分に歯痒く思いながらも、ただただ過ぎてゆく時間を待つ。

 

 

 だが、案ずることはない。少女の祈りは必ず届く。

 

 

 空から舞い降りてくる光。

 

 リボンを翼に変えて飛翔するテイルブルーと、そんな彼女に抱えられたテイルレッド。 

 

 

 ━━━来てくれた。彼の狙い通りヒーローが来てくれた! 

 

 

 「本物のテイルレッドたん!?」「アルティメギルが出たからどうしようかと思ったけど、生でレッドが見れたならラッキー!」「あれ、ブルーがいる?じゃあ、中にいたのは何?」

 

 避難場たる駐車場は、本物の推し(レッド)の参上に湧き上がる。彼女さえいれば、もう一安心とばかりに弛緩して行く空気。

 

 だが、まだだ。まだ何も終わってはいない。

 

 「アルティメギルはホールの中にいます!中ではまだ一人が足止めをしています!彼を、比企谷君を助けて下さい!!」

 

 人々を掻き分け歓声を割くように叫ぶ。お気楽ムードに水を差すようだが、そんなのは関係ない。だって、彼はまだ戦っているのだから。

 

 その言葉に血相を変えるツインテイルズ。

 

 「あんのバカ!」「急ぐぞブルー!」

 

 聞くやいなや駆け出す二人。ああ、これで安心だ。

 

 「お嬢様⁉」

 

 慧理那は力が抜けくたりと座り込む。慌て尊が支える。

 

 (比企谷君………、わたくしは貴方の力になれましたか?)

 

 未だ戦う八幡の事を思いながら、慧理那は駆けて行くツインテイルズの背を見つめるのだった。

 

 

 〜SIDE OUT〜

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