俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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1-1 地球はツインテールの星

4月━━━

 

 出会いの季節と呼ばれるこの時期、世間では何処もかしこも入学式が執り行われている。

 

 それはここ、私立陽月学園でも例外ではない。全国有数のマンモス校であり、基本的には初等部から大学部まで一貫進学可能な超エスカレーター校である。

 

 私立というだけあって初等部入学には受験というものがあるが、一回入ってしまえばこっちのもんである。余程のヘマをしない限りは安泰だ。

 

 だが、そういった学校でも外部編入学生というものが存在する。ラノベやゲームでお馴染みのあれだ。

 

 陽月学園の入学式は、そんなエスカレーター組と外部入学組が合わさって、それはそれは凄い人数へとなっている。超マンモス校の体育館だから収まっているだけであって、普通の高校なら潰れる流れる溢れ出るってレベルである。

 

 まっさらな状態で新たな環境への期待に満ち溢れた外部入学組。

 

 中等部とは比較にならないぐらい巨大な環境に心躍らせるエスカレーター組。

 

 どいつもこいつも揃いも揃って、希望に溢れてキラキラとしていやがる。カースト最下位の俺には眩しすぎるんだよ。

 

 そんな場違い感漂う中に、高校二年生になる俺、比企谷八幡はいる。べ、別にダブりでも学年が下がったわけでもないんだからね!と、我ながらキモい口調を脳内で垂れ流しながら、壇上を眺める。

 

 新入生が並ぶ真正面の席からではなく、在校生の代表が固まる体育館の隅ではあるが。

 

 俺がこんな場所にいるのは生徒会役員、それも副会長なんぞをやっているからだ。

 

 そこ、似合わないとか言わない。自分でもそんなことはわかってんだよ。

 

 どこぞのあざとい後輩みたく立候補をでっち上げられたわけではない。いや、誰だよあざとい後輩って。

 

 ただ、俺唯一の友だちにお願いされて断ることが出来なかっただけだ。あの上目遣いは反則だと思います。

 

 なお、妹の小町にすら「え?小町たちにしか興味がないお兄ちゃんが生徒会副会長?しかも友だちに頼まれて?本当にお兄ちゃん?ワームやロイミュードと入れ替わってない?」と言われた模様。お兄ちゃんはお兄ちゃんのままだよ。

 

 それにしても眠い。日課のトレーニングに加え、会場準備の為に早くから登校していたしな。

 

 今日が半日で良かった。昼はアドレシェンツァのカレーでも食べてから、ゆっくりと惰眠を貪ることにしよう。

 

 と、俺が欠伸を噛み殺している中、各部活動が新入生を勧誘する為の様々なパフォーマンスを披露している。一人でも多くの部員を確保する為に短い時間でどうアピールするかと考え抜かれた演目は、傍から見れば圧巻である。人数が多けりゃ、その分部費も増えるしな。

 

 いい気迫だ。感動的だな。だが俺の眠気を覚ますには無意味だ。

 

 眠気を誤魔化すために、視線だけを新入生の方に向ける。相変わらず凄い人数だ。あれだ、ライオトルーパーの集団みたいだな。いや、流石に一万人もいないが。

 

 今年は幼なじみ二人が進学するということで、あの群衆のどこかにあいつらもいるだろう。

 

 つい先日までは中学生だったのに、成長とは早いものである。兄貴分としては柄にもなく感慨深く思ってしまう。

 なに、一つしか違わない?うるせぇ、一歳でも年上ならお兄ちゃんなんだよ。

 

 

 さて、あいつらはどこかな。普通ならエスカレーター組と外部入学組を合わせて何百人といる中で、たった二人を見つけ出すのは苦労するだろう。

 

 だがそんなことは、お兄ちゃんである俺からすれば造作もない。人から腐った目と揶揄されるハチマンアイは真実を見抜き、頭頂から伸びるヒキガヤアホゲはレーダー変わり。そのふたつを駆使すれば、この程度の群衆など物の数ではない。

 

 二人を見つけるのに、そう大した時間は掛からなかった。第一、二人とも近い場所に固まって居たし。また同じクラスかよ。これで連続何年目だ?

 

 そわそわキョロキョロと、初めてディスティニーランドに来た子供の如く辺りに視線を彷徨わせている赤毛の少年が一人。ひとつ下の幼なじみ兼、弟分の観束総二である。 

 

 一見すれば、これから始まる高校生活に期待して落ち着きがないように思える。だが、10年近く兄貴分をしている身からすれば、こいつがそんな殊勝なたまではないことを知っている。

 

 何を隠そう、この男類稀に見るほどのツインテールスキーなツインテール馬鹿である。いや、隠してなかったな。割とオープンだったわ。

 

 ツインテールと言っても某海老の味がする怪獣ではなく、髪型としてのツインテールである。

 

 憂鬱で消失で直観なラノベに出てくるやれやれ系主人公のポニーテール萌えどころではない。その名の通り、総ての二つ束ねを観るとばかりにツインテールに魂を捧げているのである。何を言ってるかは分からんが、大体そんな感じだ。

 

 現に今も新たなツインテールを目に焼け付けるべく視線を彷徨わせている。

 

 ツインテールと言えば幼い少女やあざとさ全開なアイドルがするような髪型である(偏見)。高校生ともなれば色気(笑)づいて、そんな髪型とも卒業することも多い。漫画やラノベではポコジャガいるが…… 

 

 まぁ、それでもごく少数ではあるがツインテールを保っているのもいる。俺の唯一の友だちであるあいつもその一人だしな。なんか家の仕来りらしいが。

 

 加えてこの陽月学園は近隣の学校と比較しても容姿が整っている女生徒が多い。いやまぁ、生徒の絶対数が多いのもあるんだろうが。

 

 んで、容姿に気を使うということは、髪型も言わずもがなというわけで、そんなツインテールは総二にとっては何事にも代えがたいお宝ということである。

 

 はっきり言ってその挙動は不審者のそれである。俺がやろうものなら国家権力のお世話になること間違いなしだ。逮捕されちゃうのかよ。

 

 だが、この男はツインテールが関わらなければそれなりに常識を持っている。真っ直ぐな性格と人当たりの良さ。加えてそこそこ容姿も整っており、悪感情に曝されるようなことは殆どない。

 

 偽ることなく好きな物は好きだと言い続ける強さ。そんな『本物』を持っている自慢の弟分だ。

 

 

 だがな、そんなに他のツインテールに目移りしていいのか?すぐ後ろからのジトッとした視線に気づけよ。

 

 長い紺色の髪を、王道とも言えるラビットスタイルのツインテールに結んだ少女。こいつもまたひとつ下の幼なじみで妹分の津辺愛香である。

 

 俺が通っている道場の孫娘であり、総二と共に鍛錬をする仲だ。

 

 見た目はスレンダーな少女であるが、その実武術の腕は俺達の中で一番高い。下手したら師匠であったじーさんよりも強いまである。総二曰く、霊長類最強ツインテール女子。

 

 なんだよ素手で熊を伸しちまうなんて。比奈ちゃんかよ!俺でも精々猪を蹴飛ばせるだけなんだぞ。

 

 そしてこの手の幼なじみにはありがちだが、総二に惚れている。ツインテールを維持しているのも総二の為である。いじらしいネ!

 

 その好意、傍から見ればバレバレではあるが、如何せんツインテール馬鹿とツンデレ(笑)、だらだらと付かず離れずな関係が続いている。

 

 兄貴分としては焦れったいんだよ、はよくっつけ。

 

 総二に対してはちょっと素直になれないが、分け隔てなく接するさっぱりとした性格と活発な行動で男女問わず人気の高い。彼女もまた自慢の妹分である。

 

 

 

「続きまして生徒会長からの挨拶です」

 

 その言葉に意識をこちらに戻す。

 

 返事と共に登壇する女生徒こそ、陽月学園生徒会を率いる生徒会長・神堂慧理那その人だ。そして、俺の唯一の友だちでもある。

 

 唯一?総二と愛香はどうだって?あいつらは弟と妹、即ち家族だ。

 

 改めて壇上にいる神堂を見やる。

 

 小学生に間違えられそうな━━━実際間違えられた、小柄な体躯。胸元にある二年生を表す赤いリボンがなければ、信じる人は少ないだろう。

 

 その背筋をピンっと伸ばしてしゃなりしゃなりと歩く様は気品があり、どこかいいとこのお嬢様の様。いや、まぁ、実際お嬢様なんだが。

 

 一流の職人が手掛けたビスクドールの様に端正な顔立ち。つぶらではあるが知性は溢れる藍玉の瞳。

 

 緩く弧を描く優しげな口元。そこから放たれる言葉は凛としており、お嬢様口調も相まってやや尊大に聞こえるかもしれないが、彼女の穏やかな人柄、そして圧倒的なカリスマのお陰か嫌味を微塵も感じさせない。

 

 そして何より彼女の魅力を際立たせるのが、その圧倒的な存在感を放つツインテールである。

 

 太陽の如く眩く光放つ黄金の髪を、処女雪のような真っ白い項を惜しげもなく晒してカントリースタイルに結わえている。雨雲の様な黒いリボンから地上にもたらされた恵みの雨水の様に優しく真っ直ぐに伸びる金糸。大地に染み入るかのようにふんわり緩くカールした毛先。

 

 彼女の幼い容姿と相まって、さながら地上に舞い降りた天使の様。いや寧ろ天使そのものだ。

 

 慈愛とツインテールの天使・エリナエルとして崇め奉るまである。いいな、生徒会室を礼拝堂にしようぜ!

 

 ……テンションがバグって、総二みたいな事を考えてたな。神堂相手とはいえ、よくもまぁツインテールにここまで気障ったらしく飾り立てたもんだ。いくら国語学年3位でもこれはないだろ。こんなもん神堂に聞かれたら、新たな黒歴史誕生は間違いない。

 

 つーか、感染力高いなツインテール馬鹿。そのうちツインテルエンザなる疾患まで生まれそうである。なんだよツインテルエンザって。

 

 と、まぁ、完璧で究極とまではいかないが、間違いなく我が校のアイドルと呼べる神堂慧理那生徒会長である。

 そして、そんな彼女に気軽に話しかけられる俺。

 

 片や腐った目つきのボッチ。

 

 片や才色兼備、容姿端麗、一笑千金、閉月羞花なお嬢様。

 

 カーストなんぞ誰から見ても天と地の差がある。解りやすく言えば、仮面ライダークロノスとライドプレイヤーぐらいな差が。いや、却って分かりづらいか。

 

 なんでこんな奴が、って誰もが思うだろう。俺もそう思う。

 

 なんつーか、高等部進学の際にちょっとしたことで出会い。そんで、共通の話題というものがあって、そこからなんやかんやで今に至るというわけだ。まぁ、詳しいことはその内に。

 

 「あなたたちには無限の可能性があります。それを、わたくしが、そして陽月学園高等部が輝く未来への道標となることを約束しますわ」

 

 万雷の拍手と共に挨拶は閉じられた。これで新一年生にも彼女という存在は刻まれただろう。

 

 その幼い容姿から与し易く思われがちだが、このように一本の芯が通った尊敬すべき少女である。

 

 これでもまだ無礼てかかるなら、副会長としてOHANASHIをせねばならん。

 

 鳴り止まぬ拍手の中、神堂は俺の隣に戻ってきた。

 

 「おう、おつかれさん」

 

 並ぶと頭ひとつよりも低い位置にある彼女を労う。

 

 「はい、ありがとうございます。でも比企谷君、今日は余所見ばかりしてましたわ!」

 

 むぅ、とした表情を浮かべこちらを見る神堂。身長差が30cmぐらいあるからな。自然と上目遣いになっている。何これ可愛い。そして可愛い。 

 

 「あー、まぁ、すまん。それに、なんだ、お前の挨拶はしっかり聞いていたから、勘弁してくれ」

 

 下手に言い訳をしず直ぐに謝る。神堂相手にお得意の煙に巻く行動は取りたくないしな。CPUの差があり過ぎて煙に巻けんだろうけど…

 

 「そーいや、締めの言葉なんだがな」

 

 話題を変えるように、ふと思っていた事を口に出す。

 

 「何かおかしなところがありましたか?」

 

 こてんと首を傾げる神堂。あ、可愛い。

 

 「いや、内容自体は問題ない。お前の想いがよく伝わってきた」

 

 生徒会長として、一人でも多くの生徒に充実した高校生活を送って貰いたいという気持ち。ボッチの俺にも伝わってくる。

 

「だが、わたくしがじゃない」

 

 なんだかんだで責任感の強い神堂は無理をして背負いすぎることがある。その小さな肩にばかり負担を掛けるのは忍びない。

 

 俺は神堂のお兄ちゃんではないが、友だちだからな。友だちは助け合いでしょ。

 

 「わたくしたちが、だろ」

 

 と、彼女の好みそうな台詞で返す。

 

 「ふふ、頼りにしてますわ、相棒さん」

 

 その言葉に、神堂はクスクスと笑みを浮かべながら返事をする。守護りたい、この笑顔。

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