神堂とのお出かけから10日ほど経ったある日。俺は今、自宅の台所で一心不乱に中華鍋を振るっている。
比企谷八幡の夕方は忙しい。なんと言ったって、家族の食事を一手に担っているからだ。社畜故に多忙な両親、料理を覚えてからは俺が台所に立つことになった。小町も一通り出来るが、俺が作る方が美味しいとの事。
辛くないかって?確かに、苦にならないと言えば嘘になる。だが何よりも料理をする事が楽しい。そして、それを美味しいと言って貰うことが嬉しい。そんな気持ちで今日も台所に立つ。
今日は特に大忙しだ。比企谷家の分に、総二、愛香、トゥアールの分が加わるからな。幼馴染みで食卓を囲むのは月に何度かの割合である。前述の通り我が家は両親共働きで夜が遅い。総二は未春おばさんと二人暮らしだし、愛香は恋香さんがいるが両親は海外に出張中と来たもんだ。今晩は未春おばさんが外出で、恋香さんもサークルの集まりがあるって事で俺の家でまとめて晩飯を取るというわけだ。料理が出来るのが俺だけとも言う。
「うっし、出来たぞー。手を洗って席につけー」
と、リビングに呼び掛ける。
「待ってました!」
「おー、すげえごま油の香り。今日は中華か」
「さっきからいい匂いしっぱなしで、もうお腹ペコペコよ」
「さて、八幡さんのお手並みを拝見といきましょうか」
各々好き勝手言いながらダイニングへとやってくる。
「お兄ちゃん、今日のメニューはなぁに?」
「鶏肉のピーナッツ炒めに麻婆豆腐、春雨サラダに中華スープだ。どれもこれも俺流レシピだ、美味いぞ」
メインが二つあるって?食べ盛りの男子高校生二人にに健啖家の愛香がいるんだ、このぐらいは軽い軽い。
「なんか何時もより豪華じゃないか?」
まぁ、今日は俺の飯を初めて食べる奴がいるからな、ちょっぴり張り切った。この前タルトを食べたんじゃないか、って?甘味と食事は別なんだよ。
「こんなに食べたら太っちゃうわよ」
普段から俺達以上に平らげる愛香に言われてもな。
「愛香さんはちょっとぐらい太ったほうがいいじゃないですか?そうすればその貧相な胸も……あ、いくら太ったところで違う所に付くから無理ですぐわぁ!?」
「トゥアールぅ?何か言ったかしらぁ?」
そう言いながら、愛香はトゥアールの口元を掴み握り潰している。
「こら、飯時に喧嘩をするな。おばあちゃんが言っていたろ、食事の時間には天使が降りてくる。そう言う神聖な時間だ、って。喧嘩をするならデザートの豆花はなしにするぞ」
「はーい…」
「どうせなら……食事の時だけでなく………普段も止めてくれませんか………?」
不承不承に頷く愛香。うんうん、素直に聞いてくれてお兄ちゃん嬉しいぞ。
あと、トゥアール、それは常日頃から茶化すお前が悪い。
ヘバッていたトゥアールも復活した所で、全員で食卓に付く。
「では、食材とお兄ちゃんに感謝して、いただきまーす!」
「「「いただきまーす」」」
小町の号令のもと、一斉に食べ始める。
「おう、おあがりよ」
そう言いながら、俺も箸を手にする。
「へー、カシューナッツじゃなくてピーナッツだとこんな食感なのか」
「麻婆豆腐も美味しい!ご飯が何杯でもすすむわ」
「サラダもカラシがアクセントになって味を引き締めて………くっ、やりますね」
「わー、中華料理屋のあのスープだ。再現度高すぎだよお兄ちゃん」
中々の好感触、どうやら満足いただけたみたいだな。
× × ×
さて、今この場にいるのはツインテイルズの関係者ばかり。よって話題もそれ関連にシフトして行く。
「昨日の戦闘もお疲れだったな」
「ホント疲れるわよ……。よくも毎回懲りずに出てくるわ」
「最初の頃みたいに連日じゃないだけマシさ。愛香のお陰でだいぶ楽になったしな」
「ふん、このあたしが手を貸してるのよ。当たり前じゃない」
総二に褒められ、頬を染めそっぽを向く愛香。テンプレ乙と言うべき反応にニヤつく小町。
「そーいや、これであの変態どもを何匹倒したんだ?結構な数を潰したんだと思うが…」
歯ぎしりをしながら眺めていたトゥアールに尋ねる。ライダー怪人を覚えるのは得意だが、あの変態どもは記憶に残したくないのでイマイチうろ覚えだ。
「それでしたらエレメリアンが9体、アルティロイド113体ですね。そのうち八幡さんが16体倒してますけど………」
「ほーん、そんなに倒してたのか。そろそろ幹部クラスが出てきそうな勢いだな……って、なんだよ?」
どいつもこいつもじっとりと呆れた目で見てくる。
「だって、お兄ちゃん危ないって言っても、結局戦ってるんだもん」
いや、言い訳させてもらおう。生徒会も終って神堂と帰っていたら、例の如く変態どもが出て来たんだよ。そんで、神堂とこのメイドさんと一緒になって避難を手伝っていたんだが、いつまでも逃げずに暢気に写真取ったりツインテイルズを待っていたりしやがんだよ。埒があかないから手っ取り早く雑魚共を潰していたってわけだ。
「つまり、襲ってくるバカと逃げない野次馬どもが悪い!」
まぁ、野次馬どもも雑魚を処していたら、蜘蛛の子を散らす様に逃げていったんだが……
「ならそのせいだね。お兄ちゃんってばまたネットで話題になってたよ」
溜息をつきながら小町は言う。どうやら蠍野郎とやり合ったのに加えて、雑魚を蹴散らしたのがしっかり撮られていたみたいだ。まぁ、あれだけ目撃者いたからな……。
「なんかねー、対アルティメギルに生み出された改造人間だとか、神堂家が優秀な血を入れるために在野から見つけた秘蔵っ子だとか。あ、ブルー説は同時にいたから消えたよ。良かったね、愛香ちゃん!」
「あー、そーいえばそんなのもありましたねー。総二様じゃないんでスルーしてましたが……」
中々薄情な事を言うトゥアール。お前の分のデザートなしにしてやろうか。
「そもそもあたしを男とか言うのが間違いなのよ!」
テイルブルー男説が気に食わなかった愛香はご立腹だ。そーいや、雑魚戦闘員をのした時もそんな事言われたな。同門だから動きは似てくるんだよ。
「うっわ、しっかりと映ってんじゃないか」
件の動画を見た総二が声を上げる。覗き見れば、殺陣の如く雑魚戦闘員を屠る俺の姿。あらいやだ、俺ってば意外と映像映えしてる?
かろうじてモザイクで顔は隠れているが、親しい人間からすればバレバレである。親しい人間なんて殆どいないけど。これで顔バレまでした暁には出るところまで出る所存。
「にしても、改造人間ならわかるが神堂家の秘蔵っ子ってなんだよ」
「そっちならわかるんかよ!」
だって、改造人間なんだぜ?昭和ライダーぽくて
良くね?
「神堂家のはあながち間違いじゃないでしょ……」
「はん、確かに神堂と行動する事は多いが、それだけで恋愛に絡めるなんてどれだけお目出度いんだよ。この間のも、ただ神堂が俺が普段行く商店街が見たいって言うから案内しただけだ」
生粋のお嬢様である神堂には、こう所帯染みた下町の商店街が珍しいんだろ。
「お兄ちゃん、それもう埋められちゃってるよ」
「え、埋める?俺ってば処されちゃうのん?」
「うわー、これは中々のクソボケっぷりですねー」
なんか、トゥアールにすら呆れられる始末。
「なんだよお前ら、揃いも揃って。そんなにデザートがいらないのかよ?」
「ちょっ!卑怯よ八兄さん!」「人の心はないんですか!」「バカ!ボケナス!八幡!」
ぎゃーぎゃーと喚く女性陣に溜息をつく総二。騒がしくも平和な夕食の一時は過ぎていくのであった。