俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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5-3 その少女、お嬢様でヒーロー!

 「ただいまー」

 

 カランカランとドアベルを鳴らしながら、総二を先頭にアドレシェンツァに入る。今日は朝からゴタゴタし過ぎで疲れた。疲労回復の為に八幡スペシャルでも頼もうかな。

 

 「総ちゃん、おかえりなさい〜」

 

 総二に続いて店内に入れば席を埋め尽くす人、人、人。未春おばさんは返事をしながらも、忙しなく店内を動き回っていた。

 

 「あ、お兄ちゃんたち、おかえりー」

 

 エプロンを着けた小町も一緒に配膳を手伝っていた。制服エプロンの小町が可愛い過ぎる。

 

 「おいおい、大繁盛じゃないか」

 

 長年この店に通っていたが、ここまで混んでいるのを視るのは初めてだ。言っては何だが、アドレシェンツァは住宅街にあるごく普通の喫茶店だ。客層も近所の常連ばかりで、一見さんが来ることは先ずない。

 

 流石にこの風景を見たら疲れたのどうのこうのは言ってられんな。ヘルプに入る為にエプロンを着ける。接客は女性陣に任せて、俺と総二は裏方で洗い物や調理補助をする。

 

 「なぁ、総二。なんかSNSとかでバズるような事でもあったか?」

 

 「いや、そんな事はなかったと思うけど。そもそも、うちは母さんの気まぐれで開くぐらいだし」

 

 総二にも心当たりがないようだ。

 

 「ほーん。んじゃ偶々って事か」

 

 店をやっていれば、そういう日もあるだろ。そう思い暫く洗い物に専念していたが、

 

 「……なぁ、八兄。なんか客層に違和感を感じないか?」

 

 ふと、総二が何かに気づいたのかそんな事を聞いてきた。

 

 「はぁ?客層つっても、てんでバラバラじゃないか」

 

 見覚えがある様な人間はいないが、それこそ老若男女、学生からリーマン、コート姿の暑苦しいデブと色とりどりだ。

 

 「いや、そう言うのじゃなくてさ……」

 

 うまい具合に言語化出来ないのか、歯切れが悪く唸っている。

 

 「気にし過ぎじゃねぇのか?」

 

 例え変な客が来たところで、武力カンストの愛香と知力カンストのトゥアールがいるんだ。エレメリアンすら恐れ震える奴ら相手に、そんじょそこらのクレーマー程度じゃ力量が足りん。

 

 そんな事を話していると唐突に店の扉が開き、一人の男性客が入ってきた。よれよれのスーツに無精髭で、デスマ後のうちの親父みたいだ。

 

 「すまない………マスター…………水と、新聞を…………今日の新聞を見せてくれないか!」

 

 未春おばさんから渡されたコップを一気にあおると、ガサガサと震えた手付きで新聞を開く。

 

 「四月………二十五日…………良かった、帰ってこれたんだな………俺は………」

 

 そして始まる未春おばさんとの寸劇。唐突な展開に総二はポカンと口を開けている。

 

 おい………まさかとは思うが…………

 

 慌てて今いる客を見直せば、眼帯に包帯を巻いた学生、やたらノーパソをカチャカチャしながら独り言を呟くリーマン、モハハハハと喧しいデブ。

 

 「………スマン、総二。お前の懸念通りだったわ」

 

 閑静な住宅街にある常連客御用達の喫茶店は、厨二病患者達の巣窟となっていた。

 

 「御義母様の厨二病属性がどんどん高まっているのが原因だと思われます。同じ属性の者は、より強大な属性力(エレメーラ)の持ち主に引かれやすくなりますから」

 

 トゥアールの考察に総二は沈痛な面持ちになる。まぁ、実の母親の厨二病属性が高まっていると聞かされればそうなるな。

 

 さて、さっきは余程の事がなければ大丈夫だと思ったが、これ程の濃いキャラクターが勢揃いしたとなれば話は別だ。あまりに度が過ぎた変態が出てきたら、エレメリアンを相手するみたく愛香からの手が出かねん。

 

 「すみませーん!(従者よ)注文おねがいしまーす(我が命を告げる)

 

 CV.まれいたそ(そこはかとなく聞き覚えのある様な声)から注文がかかる。声のもとを辿れば、黒を基調としたフリル服、所謂ゴスロリと呼ばれる衣装を身に着けた少女だった。トゥアールのそれよりもやや昏いが、見事な銀髪をツインテールに結わえた中々の美少女だ。総二ならルシファーツインとか名付けそうだな。

 

 そんな総二好みのツインテールの持ち主だが、あまりにも個性的な呼び掛けの為、誰も動けずにいた。当の本人はまだフリーズベントしたままだ。仕方がない、ここはお兄ちゃんの出番だな。

 

 「お待たせしました。お伺いします」

 

 伝票片手に件の少女の元へと向かう。

 

 「ケーキセットをください、(甘美なる饗宴を)飲み物はカフェラテでおねがいしまーす(アムリタは混沌の雫を所望するわ)

 

 「ケーキセットとカフェラテですね。ケーキは苺とチョコ、チーズから選べますが」

 

 「苺でおねがいしまーす(禁断の果実を所望するわ)

 

 「はい、苺のショートですね。では、お待ち下さい」

 

 オーダーを受け取り、カウンターへ引っ込む。ケーキセットに使う皿とかを準備していると、

 

 「八くん、あの娘のラテアートお願いね〜」

 

 未春おばさんが淹れたてのカフェラテを渡してきた。手伝いをしていると偶にこうやってラテアートを任されることがある。絵柄については好き勝手にオッケーだ。

 

 「八兄、あの人が言ってることがわかるのか?」

 

 爪楊枝を使って絵を描いていると、放心から復活した総二が聞いてきた。

 

 「ん?ああ、ちょっとばかり癖はあるが日本語には変わりない。仏語とかよりも十分わかりやすい」

 

 会話の流れとかからも推測出来るからな。

 

 「いや、言い回しが独特すぎでしょ?おばさんなら兎も角、八兄さんまで応対出来るのはびっくりなんだけど」

 

 「まぁ、確かにある程度厨二病に理解がないと厳しいな。だがな、天道総司を目指すような男が患っていないと?」

 

 厨二病ってのは要するに理想の自分を演じているようなもんだ。俺も完璧なお兄ちゃんになる為に天道を下敷きとしていた。今ではもう自然と振る舞えるようになっている。

 

 羞恥心?そんなもんは最高のお兄ちゃんになる為にとっくの昔に捨てたよ。

 

 「すげぇ説得力だ……」

 

 「なまじ実力も伴っているのが厄介ね」

 

 まぁ、まだ完璧なお兄ちゃんには程遠いが。

 

 「総二だったらツインテールを見て考えを読み取れそうなんだがな」

 

 「……ツインテールと会話か。俺はまだそこに至れてないのか」

 

 「いえ、総二様でしたらすぐにその領域へと辿り着けます」

 

 「ちょっと、やめてよ!もう、八兄さんが変な事を言うからそーじがまた馬鹿になったじゃない!」

 

 と、会話をしながらも手は動きラテアートは完成した。そこにはコーヒーとミルクで描かれた堕天使の姿。我ながらいい出来だ。

 

 「小町にも見せてー。おお、あの女の子が好きそうな絵。お客さんの好みに合わせるなんて小町的にポイント高い!」

 

 「いや、なんでこんな短時間で描けるんですか!?」

 

 一晩で秘密基地を作る奴には言われたくない。

 

 「お待たせしました。こちらケーキセットとカフェラテになります」

 

 トゥアールのツッコミを尻目に、注文の品をお客さんの元へと運ぶ。

 

 「わぁー、カッコいいラテアート。(混沌の魔導書!?)絵、お上手なんですね。(どうやら貴方も)私ももっと上手になりたいなぁ(瞳の持ち主のようね!)

 

 どうやら渾身のラテアートはお気に召して貰えたようだ。こうも気に入ってもらえるとはな。

 

 見たところ小町と同じような年頃だし、興が乗った俺は天を指差し一言を告げる。

 

 「おばあちゃんが言っていた、頂を目指したならゆっくりでもいい確実に登りきれ、と。俺は兄としての頂点に立つ男。だったら全ての分野でも頂に立つのが相応しい。お前はどうだブリュンヒルデ」

 

 なんか天道と剣が混じったな。相乗効果ですげえ傲慢な事を言っていた。言われた等の本人は目をキラキラ輝かせて「我が友……、いえお兄様!」とか言っているから良しとしよう。

 

 流石に気恥ずかしくなり、ごゆっくりどうぞと一礼するとそそくさとカウンターへ戻る。

 

 「おやおやぁ、幼気な少女を口説いてきた色男が戻ってきましたよ。私の事を変態扱いする割には隅に置けませんね〜」

 

 「お兄ちゃん……、小町達以外に妹を作るのはポイント低いよ」

 

 ニヤニヤ嗤うトゥアールと、不機嫌そうな小町に出迎えられる。

 

 「おい、人聞きの悪い事を言うな。大体妹を作るってなんだよ。俺にそんな力はない」

 

 ガミオみたく人を強制的に妹にするってか。究極の闇ならぬ、究極の妹。これだと俺が妹になっちゃってるじゃないか。

 

 「いえ、八幡さんの属性力が高まればいずれそうなりそうなんですけど」

 

 トゥアールが不穏な事をぬかす。

 

 「おい、変なフラグを建てんな。そんな事より仕事しろ」

 

 まだまだ色物集団はいるんだから、いつまでも雑談している暇はない。二人を急かして俺も給仕の仕事に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 …………ホントにフラグにならないよな?

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