ゴールデンウィークが目前に迫った四月末の土曜日、俺と神堂、そして神堂の付き人である桜川さんは早朝から外出をしていた。
目的地は、市内にある大型ショッピングモール、その中に併設される量販店の玩具売り場。そう、お目当ての物は特撮玩具である。ゴールデンウィーク前というメーカーにとっては絶好の販促期間。そこを狙ってパワーアップアイテムが販売される形というわけだ。
勿論、我等が特撮オタクの神堂がそれを見逃すわけがない。是が非でも発売当日に手に入れると
「比企谷君、お付き合いいただきありがとうございます」
若草色のワンピースを纏った神堂がはにかみながら告げる。その手にはしっかりと戦利品の詰まった袋が握られていた。よく見れば目的のブツ以外にもフィギュアーツまで勝っていた模様。あらやだ、慧理那ちゃんってばブルジョアジー。
「気にするな。どうせ俺も買う物があったしな」
俺のお目当てはちょっと変わった食材。こういった大型モールには大概カ◯ディとか入っているからな。生ハムや変わった調味料が欲しかったし。
「比企谷君は料理がお好きですものね」
「天道総司を目指すなら必須だからな」
まぁ、作っているうちにしっかりハマっていたんだが……
「この間頂いたパウンドケーキも絶品でしたもの。またご相伴に預かりたいぐらいですわ」
ああ、生徒会に差し入れたやつね。抹茶とホワイトチョコのパウンドケーキ。好評で何よりだ。
「おばあちゃんが言っていた。ごはんは笑顔、って。笑顔で美味いと言ってもらえるのは料理人冥利に尽きるな。神堂の笑顔が見られるなら毎日作ってもいいレベル」
「毎日!?」
と、和やかに会話を交わしながらモール内を移動する。開店時間もだいぶ回ったからか人が増え随分と騒がしい。
<ウンメイノー
ん?スマホが鳴ってる?
神堂に断りを入れ電話に出る。ちらりと横を見れば桜川さんが耳元のインカムに手を当て何かを話していた。緊急事態でもあったのか?
「はい、もしもし━━━」
通話が繋がると同時に目線を正面に戻す。ふと、視線の先にはこの場にそぐわないものが映る。
『
「我が名はクラブギルディ!うなじ属性を後世に伝えるべく邁進する探求者!」
お約束どおり性癖を暴露する変態と、モケモケやかましい黒尽くめ集団。
「………ああ、今目の前にいるよ」
毎度おなじみ馬鹿どもが目の前に立ちふさがっている。今度は蟹か。よりにもよって俺一人の時は何で硬い奴ばかり来るんだよ。
「
「何故こんな状況で兄妹で惚気合ってるんだ……」
俺達の会話が聞こえたのか、桜川さんがぽつりとこぼす。どうやらトゥアルフォンの阻害機能は十全に働いているようだな。さすトゥア。
ツインテールの持ち主である神堂を見つけた蟹野郎が前に進み出てくる。
「中々どうしてハイポテンシャルな幼女。これだけ素晴らしいツインテールの持ち主なら、さぞやうなじも美しかろう!」
「あ?何、神堂を下卑た目で見てんだ?甲羅ごとすり潰してふわふわ汁にしてやろうか?」
蠍野郎の時と同じく視線を遮るように前に出る。
「………何故、比企谷君とのお出かけの時には、尽くお邪魔が入るのでしょうか」
ヒヤリと、背後からそんな言葉が漏れる。いつもより1オクターブほど低い声。俯いて顔は見えないが発する空気は冷え冷えとしており、心做しか昏いオーラが見える。テラーフィールドかな?
「し、神堂達は下がっててくれ。ほら、あれだ、マッハで倒せばデートの続きは十分できる」
心優しい天使な神堂とは打って変わった恐怖の帝王並のプレッシャーに言葉が震える。テンパって思わずデートなんて口走ってるし。
いや、これは仕方ない。俺にはおやっさんや照井竜みたいな精神干渉耐性ないんで。恐怖のあまり部屋の隅にうずくまってガタガタ震える心の準備はいつでもOKだ。
「ふふ、そうですわね。まだまだ時間はありますもの。比企谷君もお気をつけてくださいね」
俺の言葉ににっこりと微笑む神堂。それは見る者を蕩けさせる素敵な笑顔だった。やべぇ、温度差で風邪ひきそう。
俺の精神衛生の為に早いとこ駆けつけてきてね
戦々恐々としながらも拳を構える。本人は無自覚なんだろうが、神堂の笑顔から迸るプレッシャーがヤベーイ!流石はあの女傑の娘なだけある。これなら神堂家は安泰だネ、隣に立つ奴は大変だろうけど←フラグ
「お前ら倒すけどいいよね。答えは聞いてない!」
言うやいなや雑魚戦闘員へと突っ込み蹴り飛ばす。派手にぶっ飛び、他の雑魚連中を巻き込んで沈黙する。
ド派手に暴れているが、一般人は神堂家のメイドさんによって避難してここにはいないから巻き込む心配もない。身バレも怖くないから全力を出せる。神堂達にはいいのかって?俺の身体能力はアルティメギル侵攻前から知られていたから今更だな。ツインテイルズ関係者とさえバレなけりゃいいんだよ。
「ふっ………せいっ!」
相手の手を掻い潜りながら、一体一体的確に潰していく。二百匹以上を片付けたんだ。この程度は物の数じゃない。
「比企谷……以前よりも腕を上げたな。技のキレが断然に違う」
俺の立ち回りを見ていた桜川さんが唸る。
ここ一月の度重なる実戦経験により、総二達みたく
「ゾンビギルディのまがい物相手にいつまで手こずっておるのだ!」
俺氏、ついに人間扱いされなくなった件。蟹野郎が発破をかけ一丸なって迫ってくるが━━━
「
上空から聞こえるブルーの声。落下による位置エネルギーと兎の跳躍力を利用したキックは雑魚戦闘員に突き刺さり、地面へと叩きつけた。
「あら?思ったより数が少ないわね」
雑魚戦闘員を踏み台とし、着地するツインテイルズ。さて、二人が来たからにはお役御免だな。
「ある程度は片付けといた。あとよろしく」
「はいはい、残りはあたしが片付けるわ」
「じゃあ、俺がエレメリアンを相手するぜ」
そこからはもう早かった。兎属性の能力を発動したブルーが跳躍しながら雑魚戦闘員を一掃。あっという間に片付けた。
蟹野郎は少しだけ粘っていた。残像だ、残像だと言って高速でレッド背後を取って攻撃を躱していた。だが、レッドが背中に回したブレイザーブレイドから立ち昇る爆炎により怯んだ隙に敢え無く斬り捨てられた。まぁ、ドラグギルディなんて強敵を乗り越えたツインテイルズからすれば、並のエレメリアンでは相手にならんな。
アルティメギルがいなくなり普段の状態に戻ったショッピングモール。見た限り壊れた所はないようだ。迅速な処理をした結果だな。何にせよ、これでまた買い物が再開出来る。
「サンキューな。助かったぜ」
二人に近付きその頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。労いを込めたお兄ちゃんからの愛情表現を受けろ。
「うわ、やめろよー」
「髪がぐしゃぐしゃになるじゃない!」
うが〜、と反論する二人。かといって、力付くで振りほどかないのは慣れからだな。
「………比企谷君、何をなさってますの?」
再度、冷え冷えとした声。ギギギと振り向けば、得も言われぬ笑顔を浮かべた神堂。さっきよりもプレッシャーがヤベーイ!
何気なしに二人の頭を撫でていたが、よく考えてみれば相手はヒーローのツインテイルズ。神堂からすれば推しに手を触れる不届き者だな。
「あー、つい妹達にする要領で……」
まぁ、実際に弟分&妹分なんだけど。しどろもどろと言い訳する俺。ツインテイルズの正体を隠している以上、弁解の言葉が浮かばない。
「あー、俺達はこれで……」
「お二人はデートの続きをどうぞ」
そそくさと帰って行くツインテイルズの二人。待って!お兄ちゃんを置いてかないで!
その後、培ったお兄ちゃんスキルを駆使しなんとか神堂を元の天使に戻すのに成功。代償として、また神堂とお出かけする事になった。いや、代償が全然代償をしていないんだが?