俺がお兄ちゃん属性なのはまちがっていない。   作:八重垣八雲

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1-3 地球はツインテールの星

 

 強烈な光に対し、恐怖の帝王(中の人ネタ)の真似をする余裕もなかった。

 

 頬を撫でる風、鼻腔を突く煙の刺激。アドレシェンツァ(今さっきまでいた場所)とは空気が明らかに違う。

 

 「突然失礼しました。ただ説明するよりもこちらの方が早いかと思いまして」

 

 トゥアールの言葉に庇っていた目を開ける。

 

 そこには見慣れたカウンターもフローリング調の床もない、あるのは立ち昇る黒煙にひび割れたアスファルトだ。

 

 「何で外に……って、どうしてここにいるんだよ⁉」

 

 総二の言葉に改めて辺りを見回す。なんとなく見覚えのある景色、ここは……

 

 「マクシーム宙果(そらはて)、か?」

 

 ライブやイベント、学校行事にも使われる地元最大のコンベンションセンターだ。今、そこの駐車場の片隅にいる。

 

 「嘘?車でも20分はかかるわよ」

 

 つまりは、おおよそだが10kmは離れた場所にいるということだ。そんな距離を一瞬でなんて。ゾーンメモリでも使ったのか?

 

 困惑しながらも、唯一この場で説明出来そうな奴に顔を向けるが、

 

 「予想より早かった……。迎え撃つつもりが後手に回りましたね」

 

 今までのおちゃらけた態度は消え失せ、落ち着いた雰囲気で佇むトゥアールがいた。

 

 虚空にキッと鋭い視線を向け堂々と佇む様は、歴戦の戦乙女の様。え、誰こいつ?

 

 出会って30分も経っていないが、それだけでこいつの残念っぷりは身にしみた。それが一転、真面目な表情をしているとその美貌が際立つ。ゴルシちゃんかな?

 

 「おい、トゥアールさ……」

 

 それでも詳しい説明を聞こうとしたが、それはドンッ!、と耳を劈く轟音で中断された。

 

 「今度は何だよ!」

 

 あまりにもの状況変化で意識の隅に追いやられていたが、遅まきながら漂う咽るほどの炎の臭いの理由を知ることになる。駐車場に止められていた自動車が焚き火に放り込んだ栗のように弾け飛び、落下、外れたタイヤが力なく転がってきた。

 

 「嘘だろ…」

 

 嘘ならばどれ程良かったのだろうか。それこそニチアサでしか見ない光景が目の前に広がっている。

 

 「総二様、私から離れないでください。奴らに見つかります。認識撹乱の作用範囲はそんなに広くありません」

 

 現実味のない光景にふらふらと炎上する車の方へ向かおうとする総二を、トゥアールが押し止める。GJだ、トゥアール。その言葉を聞いて俺も愛香も近寄る。

 

 「私の側にいる限りは見つかりません。まずは、あの怪物を見て下さい」

 

 ━━━怪物?

 

 そう言われて、トゥアールの指し示す先に目を向ける。広い駐車場の真ん中。確かに何かいるな………

 

 三人揃って身を乗り出しながら、じっと目を凝らす。そして、そこにいるモノ(・・)を理解した瞬間、

 

 「なぁぁぁぁ⁉」「え、何あれ!?」「ウゾダドンドコドーン!」

 

 三者三様の絶叫を上げることになった。動揺のあまりケンジャキみたいになってしまったが、俺は悪くない。大体、あんな奴を目にすりゃ誰だってそうなる。

 

 あんな奴━━━鶏冠の様な角を生やしたトカゲ頭、堅牢な鎧を纏うスラリとした細身の人型。怪人・トカゲ男としか呼びようのない異形がそこにいた。

 

 特撮のロケと言われても違和感がない情景だが、そうは問屋が卸さない。

 

 2mはあろう体躯に俺の腐った目が可愛く見える兇悪な目つき、爬虫類特有のマズルから覗く鋭い牙。そして何より立ち昇る悲鳴と黒煙が、この状況が決して撮影なんかではないと物語っている。

 

 傍から見れば特撮マニアとしては垂涎なシチュエーションだろう。だが、実際に巻き込まれてしまえばそんな気持ちは微塵もない。見るからに熊より強い相手を前にして湧くのは恐怖ぐらいだ。

 

 「者ども、集まれい!」

 

 羽虫を払うかのように、近くにあった車を片手で飛ばすと怪人は腹に響く声で言った。グロンギみたいな独自言語ではない、とても耳慣れた言葉。

 

 「日本語(リントの言葉)で喋るのかよ…」

 

 つーか、声渋いな。

 

 怪人が日本語を話す異常性の為か、総二と愛香は言葉を失っている。そんな二人を余所に、怪人はその無駄に渋い声で、どこまでも傲岸不遜に宣った。

 

 

 

 「ふはははははは!この世界の生きとし生ける全てのツインテールを、我らが手中に収めるのだーーーー!!!!」

 

 

 

 は?ツインテール?

 

 雄々しいまでの変態宣言に頭が一瞬真っ白になる。

 世界征服や、殺人ゲーム(ゲゲル)じゃなくてツインテール?え?なんで?

 

 「………ちょっと、そーじ。きぐるみ着て何やってんのよ」

 

 「俺じゃねえ!」

 

 あまりにも馬鹿げた宣言に再起動したのか、愛香が変態性の最有力候補(総二)に詰め寄っている。

 

 「そうだぞ、愛香。総二は俺たちと一緒にいただろう。ところで総二、額にメダルを入れられた覚えはないか?」

 

 「ヤミーも生んでねえ!」

 

 そうか…いい線いってると思ったんだがな。でもヤミーだとしたら、爬虫類だから恐竜系か。ヤダ、めっちゃ強力なやつじゃん。

 

 と、馬鹿やっている間にも状況は動く。

 

 「モケーーーーーーーー!」

 

 抜けた声と共に、怪人の回りに現れる黒尽くめの集団。揃いも揃って同じ形なのはまさに戦闘員といった感じか。

 

 雑魚っぽい見た目をしているが油断は出来ない。ライダーに鎧袖一触でヤられているお馴染み戦闘員でも、成人男性の10倍の力を持っているぐらいだし。

 

 カサカサとGの様な足取りで四方へと散って行く様は、その姿も相まって見るものに生理的嫌悪を抱かせる。

 

 時を待たずして、戦闘員は何人かの女の子を捕まえて戻って来た。黒髪を愛香よろしく結わえた小学校高学年ぐらいの少女をはじめ、青い髪をおさげにした幼稚園ぐらいの幼女等、ツインテールのそれも明らかに幼い子ばかり連れている。変態か?

 

 「手にするって、ツインテールの子をか?」

 

 「あいつら何をする気よ」

 

 その答えを知っているであろうトゥアールは、感情を押し殺して、理性的に推移を見守っている。

 

 「それにしても、ツインテールの少ない世界よ━━━嘆かわしい!」

 

 命じた張本人は、阿呆な事を全力で嘆いていやがる。

 

 「まあよい、それだけ純度の高いツインテールを見つけられよう!」

 

 肩を怒らせながらも、何か納得したようだ。

 

 「極上のツインテール属性は、この周辺で感知されたのだ、探し出せぃ!……兎のぬいぐるみを持って泣いている幼女は、あくまでついでぞ!」

 

 変態的な事にさらに変態的な事を重ねてくる。やめて、もうお腹いっぱいだよ。

 

 「大人に用はない!つまみ出せ!手荒になっても構わん!」

 

 変態ではあるがそこは侵略者、物騒な事を言っている。今のところ人的被害はなさそうだが、それも時間の問題か……

 

 「ツインテールの女の子ばかり拐ってきて、何をするつもりなんだ」

 

 総二の疑問ももっともだ。

 

 「おいトゥアールさん、あんた何か知ってんだろ。そろそろ説明を………」

 

 だが、そんな俺の言葉は遮られた。物理的にではない。目に映る光景でそれどころではなくなったのだ。

 

 ボブカットに見覚えのあるアホ毛を持つ中学生ぐらいの少女と、見事な金髪を上品に二つに結わえた見た目小学生な少女。見覚えがあるなんてもんじゃない。なんたってその二人は、

 

 「小町!神堂!」「会長⁉」「小町も、なんで!?」

 

 戦闘員に捕らえられて来た者━━━俺の愛する妹と大事な友だちなんだから。

 

 怯えるように神堂の腕に縋る小町と、その小町を護る様に肩を抱き、気丈にも戦闘員を睨みつける神堂。遊びに行くとは言ってたが、まさか神堂と一緒にいたとは……

 

 「いけません。認識撹乱はあくまで姿が見えなくなってるだけです。騒げば見つかってしまいます」

 

 駆け出しそうになる身体を抑えられる。下手にこの場で騒いだら、こいつらも巻き込んでしまう。

 

 逸る気持ちを抑えて、怪人どもの動向を目に焼き付ける。

 

 「離しなさい!」

 

 毅然な態度で怪人を睨みつける神堂。

 

 「ほほう、なかなかの幼子!しかもお嬢様のようだな!貴様が究極のツインテールか!」

 

 強者の余裕からか、どこまでも不遜な態度は崩さない。

 

 「それよりあなた、何者なんですの⁉人間の言葉がわかりますのね⁉他の子たちを解放なさい!!」 

 

 そんな相手に一歩も引かず、自分よりも他者の安全を考える。こんな時でもお前は凄いよ。

 

 「わかるとも!故に解放出来ぬと断ず。それよりも、余分なものがいるようだ」

 

 ツインテールでもロリでもないからか、ジロリと、小町を睨め付ける様に見ると、顎でシャクる。

 

 「は?テメェふざけんな小町のどこが気に食わないってんだ小町は世界で一番カワイイ妹だろうがその可愛さに萎縮して草葉の陰で震えてろダボが!」

 

 小町の可愛さを理解できないお粗末さに怒りが湧いてくる。いや、小町の可愛さが理解されると余計な羽虫が群がって来るからいいのか?うん、小町の可愛さは俺が理解すればいい。だから、総二に愛香、そんな残念な奴を見る目をするな。あとトゥアール、ヤベー奴がいます、ってお前も十分ヤベー奴だからな。

 

 「ひっ、助けてお兄ちゃん…」

 

 睨まれた小町は萎縮して、震えながら神堂にしがみつく。

 

 は?何小町を怖がらせてんだクソトカゲ。

 

 「乱暴な真似はおやめなさい!」

 

 戦闘員の一人が小町を無理に引き離そうとするが、神堂も必死で抵抗をする。小さな身体を盾にして、腕の中の小町を守る。業を煮やしたのか、もう一人が神堂ごと払い除ける。

 

 一緒に跳ね飛ばされ、宙を舞う小町と神堂。投げ出された身体は、そのままトサりとアスファルトに倒れた。

 

 それを見た瞬間、俺の中で何かがキレた。

 怪人への恐怖?状況を見守る理性?そんなもん知らん。

 

 「あ、やば…」「八兄さんストップ!」「…へ?」

 

 制止する手を振りほどき一気に駆け出す。目指すは小町と神堂の元。

 

 ひび割れたアスファルト、散らばる瓦礫。そんなもんは何も障害にはならない。四肢に力を込め、ただ愚直に進む。数百メートルの距離など物ともしない。あっという間に距離を詰め、加速した勢いのまま跳躍━━━

 

 「俺の妹と友だちに、何さらしてんだゴルァァァァァァ!!」

 

 「モ、モケーーーー!!」

 

 鐘つきの如く、突き出した脚をその顔面らしき部位にぶち当てる。雑魚戦闘員は気の抜ける悲鳴を上げながら、瓦礫を巻き込み吹っ飛んでいく。先ずは一匹!

 

 「「八兄(さん)ーーー!!」」「何してるんですか、あの人ーーー!!」

 

 何って、妹と友だちにちょっかいを出す不届き者に天誅を与えたんだよ。つーか、でっかい声出すとバレんじゃねぇの?

 

 総二たちの言葉を後ろに聞きながらも、身体は次の標的を狙う。

 

 自分達が狩る側と思い込んで油断していたんだろう、完全に呆けている。

 

 キックの反動で加速した分のエネルギーは完全に殺された。ならばと着地と同時にしゃがみ込み、雑草を刈る様に隣にいた奴の足を払う。

 

 「モケ⁉」

 

 間抜けな声と共に仰向けに転がる雑魚戦闘員。そしてそのまま彼奴の腹を踏み抜く。足裏に肉が詰まった袋を踏み潰す感触が伝わる。次いで二匹。

 

 これで小町と神堂に手を出した害虫は潰した。

 

 「ほう!此度の侵略は歯応えがないと思ったが、どうして中々の戦士がいるではないか!」

 

 トカゲ野郎がなんかほざいているが、無視して二人の元に行く。目立った怪我もなく呼吸も安定している。良かった、本当に良かった……

 

 「お、兄ちゃ……」「比企谷、く……」

 

 俺が近くにいるのに気付いたのか、薄っすらと目を開ける。

 

 跳ね飛ばされた時に、乱れてしまった二人の髪を梳いて直す。

 

 「ごめんな、小町。怖い思いさせて。ありがとな、神堂。小町を庇ってくれて」

 

 安心したかの二人は目をつむると、穏やかな寝息を立て始めた。

 

 「もうちょっと待っててくれ。お兄ちゃんやることあっから」

 

 ゆらりと立ち上がり、トカゲ野郎を睥睨する。散々腐っているだの、ガンつけてるだの言われている俺の目だが、こういった輩を相手にする時は重宝する。

 

 現に奴も俺の目力に押され、

 

 「その腐った目?!貴様、ゾンビギルディ!裏切ったか!!」

 

 ………いや、誰だよ、ゾンビギルディ。

 

 「いつかやるとは思っていたが、我らの邪魔をするとは!!目だけでなく性根まで腐っていたか!!」

 

 散々言われてるな、ゾンビギルディさん。何か他人とは思えなくなってきた。

 

 だが、まあ、いい。興奮しているならそれだけ視野が狭くなる。

 

 別に何の考えもなしに飛び出だわけじゃない。

 

 いや、まぁ、小町と神堂が襲われて理性の化物さんもバイバイしかけたけど…

 

 だが、今は落ち着いている。落ち着いて、冷徹に、合理的に、理性的に目的を達成するだけだ。

 

 俺の目的はただ一つ、時間を稼ぐこと。

 

 トゥアールの奴もちらっと迎え撃つとか言ってたし、なんらかの対抗策はあるんだろう。怪しさ全開でも必死になって総二にブレスレットを渡そうとしていたし。おそらくそれが鍵だ。

 

 だから、準備が整うまで時間を稼ぐ。それに俺が暴れれば暴れるほど、小町や神堂から目が逸らされるしな。

 

 とりあえず、試合再開のゴング替わりに瓦礫を蹴り飛ばし寄ってくる間抜けにぶち当てる。いきなり飛んできたコンクリートの塊に動きが鈍った所、頭をひっ掴み顔面に膝を打ち付ける。人間相手の喧嘩だとオーバーキルだが、侵略者相手ならノーカンだ。これで三匹目。

 

 隙だと思ったんだろう、背後から奇襲をかけてくる。だがそんな手見え見えなんだよ。死に体の三匹目を盾に(ガードベント)し、そのまま押し付ける。咄嗟の判断だっただろうが、しっかりと受け止めていた。仲間意識はあるのか、感動的だな、だが死ね、とばかり荷物ごと蹴り飛ばす。四匹目。

 

 だが、フィーバータイムはここまでだったようだ。十匹以上の雑魚戦闘員に取り囲まれた。飛び掛かるタイミングを図っているのか、じりじりと輪を詰めてくる。

 

 「ゾンビギルディかと思えば、どうやら原住民だったようだな!彼奴相手ならば、この程度のアルティロイドなど一瞬だ」

 

 まじかよ。どんだけ強いんだよ、ゾンビギルディ。

 

 「この世界の戦士よ!中々やるようだが、所詮ここまでよ!貴様一人戦った所で我々アルティメギルの相手にならん!」

 

 ゾンビギルディ(同類)ではないと安心したのか、もう勝った気でいるのだろう。偉そうに御高説を宣う。

 

 ━━━さて、そろそろかな?

 

 「トカゲ野郎、あんたに言いたいことが3つある」

 

 最後の仕上げとばかりに口を開く。今までだんまりだった俺からのご指名だ、トカゲ野郎はこっちに視線を向ける。

 

 「一つ、俺はゾンビギルディなんか知らん」

 

 いや本当に誰だよ、ゾンビギルディ。そんなに似てるのかよ。

 

 「一つ、大切な妹と友だちを傷つけられて怒らないお兄ちゃんはいねえ」

 

 なんだったら、慰謝料代わりに生皮剥いで財布に仕立てやりたいぐらいでもある。だが、残念なことに俺には(・・・)出来そうにない。

 

 「そして、もう一つ」

 

 背後より眩い光━━━

 

 「誰が一人だって言った?」

 

 次の瞬間、横にいた雑魚戦闘員は吹っ飛び瓦礫に激突、そのまま爆散。

 

 時間稼ぎはここまででいいようだな。

 

 「持たせたな、八兄!」

 

 「おう、待ってたぜ━━━━って、え?」

 

 聞き慣れた口調の聞き慣れない声に思わずそちらを向く。

 

 頭二つは低い背丈。折れそうな程細い手足。愛香よりも薄い身体(失礼)。くりっとした瞳に生意気そうな口元。特徴的な赤毛はそのままだが、何より目を引くのは風にたなびくそのツインテール。

 

 変わり果てた姿(幼女)になった弟分がそこにいた。

 

 「何があった━━━━━━!!」

 

 俺の絶叫が戦場に響くのであった。

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