「お邪魔します」
小町を寝かしつけた後、総二の家に向かう。痴女を連れてスニーキングミッションをする必要なんてないからな、堂々と玄関から入る。
「あら、八くん、いらっしゃーい」
夕飯の支度でもしていたのか、台所から未春おばさんがやってくる。
「うす。あ、カレーごちそうさまでした」
「いいのよ。総ちゃんたちはお部屋にいるから」
見た限りはいつも通りの未春おばさん。どうやらトゥアールの事は上手い具合に隠し通せたようだ。そう思いながら二階にある総二の部屋に向かう俺に、
「そういえば、総ちゃんたち面白そうなことしてるわねー」
フフフ、と意味有りげに笑いながら言う。あー、駄目だこれ、バレてるっぽい。
その言葉に、俺は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
総二の部屋の前に着いてみれば、何やら騒がしい。扉の外まで音が漏れてる。
「うす、総二入るぞ。騒がしいけど、どした?」
「おのれはいちいちセクハラしんと会話が出来んのかーーーー!!」
「トゥ/アールになるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
入ってみれば、千切れろとばかりキャメルクラッチをトゥアールに掛ける愛香の姿が。技の関係上トゥアールの巨大な胸部が強調されているが、あまりもの残忍さに卑猥な気持ちなど微塵も湧いてこない。
「ほれ、愛香、そこまでにしとけ。あんま騒ぐと未春おばさんに気づかれるぞ」
もう手遅れだけど。なんか登場タイミング伺ってるぽいし。
「チッ、命拾いしたわね」
愛香は舌打ち一つし解放した。愛香ちゃん、なんか凶暴性が加速しちゃってない?お兄ちゃん、ちょっと怖いよ。
「んで、どこまで進んだわけ?」
二人のやり取りを死んだ目で見ていた総二に問いかける。事あるごとに残虐ショーを見せられてはこんな目になるわな。死に過ぎて俺みたいに腐ってしまわないことを祈る。
「ああ、テイルギアの性能は聞いたぞ」
先ずは総二にとって死活問題になりかねんものから確認したか。なんたって幼女化するぐらいだからな。
はい、と総二から手渡された液晶端末を眺める。そこには仮面ライダー図鑑よろしく、テイルレッドの全身図と各部位の詳細説明が記載されていた。なんつーか……
「
雄介よろしくサムズアップする。やっぱヒーローのスペック解説はこーゆーのでいいんだよ。
「そーじといいハ兄さんといい、男子ってほんとそーゆーのが好きよね」
愛香が呆れた声で言う。
「俺にとっては原点みたいなもんだからな」
小町を守護る為に悩んでいた頃、
そのお陰で、同じ趣味を持つ神堂とは会話が弾む。神堂は俺に輪をかけてガチだしな。ゲンちゃんの友情の証を出来る女子高生なんて彼女ぐらいなもんだ。友だち一人だけだから知らんけど。
「八兄も来たし、続きを始めようぜ。トゥアール
、まずは君のことから教えてくれ」
そう問いかける総二。確かにしれっと馴染んでいるが、そもそもお前は誰なんだって話だ。
ライダーでも冒頭からハナさんや始まりの女といった謎の女が出てくるが、こいつもそのパターンかね?一話から痴女が登場するなんて、お茶の間がグローバルフリーズ待ったなしだ。気まずさが最初からクライマックスだな。
そうして、トゥアールは静かに語りだす。
なおその際におもむろに白衣を脱ぎ出し総二に性的な意味での自己紹介を迫って、愛香にしばかれていたのは割愛する。天丼はもういいっちゅーねん。
「私はこの世界の人間ではありません。異世界からやって来ました」
薄々そうではないかと思ってはいたが、やはりトゥアールはこの世界の人間ではなかったようだ。あのトカゲ野郎もこの世界がウンタラカンタラ言ってたしな。
「異世界と言っても、正確に言えば並行世界のようなもので……さほど違いはありません。私はこの世界で言うと日本人ですから」
こちらから見ればかなり日本人離れしたプロポーションをしているが、並行世界だからと言えばそうなのだろう。あれだ、ラノベとかのキャラと同じ感じだ。
「ではまず、あの怪物たちが求める物……
・ ・ ・
「だいたいわかった。精神力をエネルギーにしたのが属性力。セルメダルみたいなもんだな。んで、ツインテールが最強の属性力で、この世界での最強の適正者が総二だと。アンデッド融合係数みたいだ。剣崎みたいにならんよな。あと、その
トゥアールからの説明を俺なりに噛み砕いてみる。こういった専門的な事は、自分の知っている事柄に置き換えると理解しやすい。
「……ええ。所々アレでしたが、概ねその通りです」
俺の例えになんとも微妙な顔をするトゥアール。
「八兄さんの例えは、余計に分かりづらいのよ」
失礼な。神堂だったら即理解してくれるぞ。
「私の世界は、その全ての属性力をアルティメギルに奪われました」
ぽつり、とトゥアールが呟く。
「俯瞰すれば何一つ変わっていない……ですが、無機質な悲しい世界。これほど残酷な侵略はありません」
全ての人間が熱意を奪われた世界。肉体的には無事でも、その精神は死んでいる。新たに何かを生み出すことはなく、ただ惰性で生きているだけ。最早、それは滅んだと言っても差し支えがない。それがトゥアールがいた世界。
あまりにも重いトゥアールの過去に何も言えなくなる。なんかクソみたいな例えをしてゴメンネ。
「属性力がない世界では奴らは人知の及ばぬ悪魔。心の力を奪うなんて不確かなものの前では、総力を組んで挑むのに二の足を踏んでしまいました」
そしてそのまま、ってわけか。
確かに巫山戯た言動をするのが相手だ。そんな奴らにハナから全世界が手を組んで対抗するなんてどだい無理な話だ。人を団結させるには共通の敵が必要と言うが、共通の敵が出るまで団結しない輩がいくら組んだ所でポテンシャルは相手側の方が上。負けるのは時間の問題に過ぎん。
「私は早くに被害に遭ったせいで、アルティメギルが本腰を入れて侵略する前から技術を研究していました。おかげで、自身の属性力は全て奪われたしませんでしたが…」
研究者だったのか。まぁ、テイルギアやらゾーンメモリ(仮)なんてもんを作ってる以上納得なんだが。
「一度奪われ吸収された属性力は二度と戻りません。ですが、この力を持った以上私は奴らの侵略を止めたいのです」
「分かったよ。トゥアールの世界の仇を討つために、俺たちの世界を護るために、ありがたくこの力を使わせてもらうよ」
トゥアールの話を聞き、総二は安心させるように力強く応える。弟分が頼もしく成長したのに感無量だ。
だが、トゥアールの話にはいくつか腑に落ちない点がある。それよりも先ずは、
「なぁ、トゥアール、テイルギアを使えるのは総二しかいないのか?」
俺は気になっていたことを尋ねる。異世界からの侵略者との戦いを、総二一人に背負わせるのはあまりに大きすぎる。
「量産は出来ませんが、あと一つだけあります。そして適合者も判明しています」
あるのか。そして二人目もいるのか。それなら総二への負担も半分にはなりそうだが。
「ですが、総二様のように正しい心を持った人物ではありませんでした。いえ、人ではなく心持たぬ非道な蛮族、暴力に染まりきった凶獣。そんな悪魔に強大な力を渡したら、アルティメギル以上の脅威になるかもしれない。残念ですが、渡すことができません」
ボロクソな評価である。そんなヤベー奴なのかよ。
「ツインテール好きにそんな悪党がいるなんて、悲しいな…」
「ふーん、属性力を持つのに心を持たない悪魔なんて変な話ね」
「ええ、私もこの目で見るまで信じられませんでした。ほんとマジ信じられません…」
やたら悲哀のこもった言葉を零すトゥアール。
「なんか実害にあったみたいだな。何、俺達に会う前に接触して返り討ちにでもあったのか?」
「ええ…まぁ、そんなとこです」
余程酷い目にあったようだ。俺の問いかけに苦虫を噛み潰したように答える。
だが、そうなると援軍には期待できなさそうだ。現時点での総二への負担がデカ過ぎる。お兄ちゃん的には歯がゆい。
「俺が戦えれば一番なんだが、
「いえ、普通の人でしたら、それすら厳しいどころか不可能なのですが。八幡さん、あなた一体何者なんです?」
トゥアールの問いかけに自信を持って答える。
「そんなもん、俺がお兄ちゃんだからだ!」
「八兄の言う事は深く考えなくていいぞ」
「あれはバグみたいなものよ」
弟達からぞんざいに言われる。反抗期かな。くすん。
その後もわちゃわちゃ話し合いをしていると、トゥアールが秘密基地作成の為に総二の家に住み込みたいと言い出した。秘密基地!何その素敵な響き、ゾクゾクするねぇ。
勿論、愛香は反対したが、最終的にバックアップの必要性から納得。今は総二が未春おばさんの説得に向かっている。
「そーじ、おばさんを説得出来るのかしら?」
心配そうな愛香だが、
「大丈夫だと思うぞ。そもそもトゥアールがいることバレてるっぽいし」
俺はまったく心配していない。今頃、話は聞かせてもらったわ、とか言ってそう。
「え゛⁉バレてたの?」
「そりゃ、俺が来る前からあんだけドタバタ騒いでたんだ。バレるに決まってるだろ」
その言葉に気まずそうな顔を浮かべる愛香。元気なのはいいけど、もう少しぐらい
「なんと、既にお義母様公認ですと!こうしてはいられません、すぐにご挨拶に行かないと!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
俺の言葉を聞き、嬉々として部屋を飛び出すトゥアールに追いかける愛香。
「慌しいやつばかりだな」
正直、トゥアールはまだ隠している事がある。それでも総二は信じて戦う事を決めた。だったらお兄ちゃんとして、全力で支えてやればいい。
忙しくなって大変だ、そう思いながら俺はゆっくりと階段を降りていくのであった。