「クソボケ指名手配犯の弱体化に貢献したので感謝状と金一封が出ます」
マジかよ。
「マジかよ……」
合流して管理局の車に乗せられて開口一番、錆姫さんは運転席でそう言った。
「マジです。あの機体は元はと言えば暴徒鎮圧用ロボットのテストモデルだったのですがハッキングされて強奪されまして……『ウィンドウショッピング』が持ってる機体の中でも手強くて手を焼いていたんですよ」
「アレにですか?」
「アレにです、残念ながら。基本我々が後手なのもあるんですけど勝てる職員が居ない場所にピンポイントに投下されるので中々手が付けられないんです、今回は西の方でも別の機体が暴れてて陽動に引っかかってしまいましたし」
最近散発的な襲撃が多かったのはこの為ですか、と不機嫌そうに呟いた。
「んで、本当の理由は何です?」
「感謝状の授与は古龍様が直々にするんですよ。本来は局長がするんですが訳あって出払ってまして。それで古龍様がついでに経過観察もすると」
「成程、それって今じゃないとダメですか?」
「明日には帰ってくるんですよ局長。古龍様への謁見は色々手続きが必要なので今済ませないと次は2週間先になりかねません」
「せめて着替えだけでも……」
そう、俺は今メイド服のままである。
「そろそろ私が定時なんですよ」
「本音は?」
「うっひょー美人のネーチャンのメイド服たまんねーーー」
『わかるー』
わかるな。というかこの人も色々隠さなくなってきたな……
「クラス4ってそんなに厄介なんですか?」
話題を変えることにした。あのロボ倒したと聞いた時この人結構驚いてたんだよな。
「クラス4で恒常的に指名手配されてるのは3名……失礼、3ではなく4名だけです。他のクラス4相当は遺物にせよ犯罪者にせよ収容されてるのでコイツらだけは格が違います」
信号で車が止まった。錆姫さんは車内に置いてあったタブレット端末を素早く操作して指名手配書を表示した。
「まずは『ウィンドウショッピング』、罪状は強盗、傷害、建造物破壊などですね。ドローンやロボットを駆使するハッカーで遺物によって本人が何処かに潜伏しています」
写真はNoImageの文字列。やっぱりアレの顔は割れてないのか。
「自己顕示欲が抑えきれないのか毎回名乗るので罪状はちゃんと溜まるんですよね」
タブレットに記された罪状を眺めて気がついた事があるので口にする。
「ん?アイツアレで殺人はしてないんですか?」
「未遂ならしてます。奴自身が相手を選んでますけど、民間人相手でも一撃で仕留めないようにしてますね。こっちが人命第一なの分かっててやってますよ多分」
「チンピラの浅知恵でも一般市民には迷惑なことだな……」
「横にスワイプしてください……そうです、2人目は『ズーキーパー』。罪状は密輸入、未認可生物取り扱いです。率直に言うと異世界の動物を掛け合わせたキメラを街に放ってるバカです。入都審査の時の怪鳥もコイツのせいです」
手配書の写真は赤髪の目つきが悪いメガネ女。髪の毛ボッサボサかつ明らかに荒れてる。あの時の鳥はこの女が放ったのか……
「南区は大型生物が多くてキメラが割とすぐ制圧や捕食されるのでハートさんにはあまり縁がないとは思います。次の3人目は『アーツマスター』。罪状は傷害と未認可遺物取り扱いです。コレは強い奴に突っかかってくるバカです。クラス4の中だと一般市民への被害は少ないですが混乱に乗じて管理局職員の襲撃などやらかしてます。ハートさんはウィンドウショッピングの報復以外なら1番気をつけるべきでしょう」
また横にスワイプすると白髪の少年が映っている。異世界の人間故外見では判断がつかないがこんな子供でも危険人物なんだよなぁ……
「4人目は『ファイアワークス』。罪状は危険物所持、危険物製造、未認可遺物取り扱いです。不定期で現れては花火を打ち上げて去る奇人ですが花火が異常に大規模で暴発すれば危険なので一応クラス4に指定されてます。あと本人が何故か無駄に強いです、私も鎮圧に失敗してます」
まあアレは相性負けなのでノーカンですけど、とハンドルを回しながら錆姫さんは補足した。
タブレットの写真は褐色肌に黒髪、青い目の少女。というか錆姫さんでも負けるのか。この人めっちゃ強そうなのに……
「まあとにかく『アーツマスター』……白髪の子供にだけお気をつけて、喧嘩売られたら通報入れて即逃げしてください」
「そもそも今回だって戦ったの不本意ですよ……ターミナルは土魔法使えないし火魔法は耐火手段多すぎて攻撃手段として使えないんで近づいて殴るのとフックショットしか攻撃手段無いんですよ俺」
「それでよく勝てましたね……あとフックショットは初耳ですけど入都審査の時申請してましたっけ?威力によっては届出必須ですよ?」
やっべ要らんこと言った、と思ったら管理局に到着した。
「着きました、この前のエレベーターの前で待っててください」
この前同様、エレベーターで管理局の最上階へと上り、創設者の居る部屋に足を踏み入れる。
「やあ、久しぶり。新しい生活には慣れたかい?」
上位者、裁きの古龍が座ったまま微笑みかけてくる。
「お陰様で。むしろ今日が初トラブルですよ」
「うん、嫌気がさしてターミナルから出て行ったら診察も難しくなるし良かった良かった。じゃあ早めにやる事を済ませようか、錆姫ちゃんもそろそろ定時だからね」
「わ、私に関してはお気づかいなく……」
背筋を正す。
「えー、貴殿は治安維持に際し多大な貢献をしました。よってここに感謝の意を表し金一封と賞状を贈呈します」
手渡された感謝状を両手でしっかり受け取る。
「ありがとうございます」
「金一封に関してはもう口座に振り込まれてるはずだよ」
「了解しました」
「……うん、特に病状の悪化はなさそうだね」
少し目を細めてこちらを熟視されたが何事も無かったようで笑いかけられた。
メイド服は普通に悪化だが……
「じゃあ、こっちも済ませようか」
創設者はその笑みのまま俺の後ろで一言も発していないロックハックに視線を向けた。
『っ!』
幼女は怯えたように声にならない声を出す。更にはメイド服の裾を掴まれた。結構怖がってるな。
「大丈夫、別に取って食べちゃう訳じゃないよ。お名前は?」
『ひとにたずねるならじぶんからはなすべきだとおもう』
訂正、こいつやっば肝が据わってる。
「んー、本名は
『ロックハック。みょーじはない』
「ロックハックちゃんね。君はこの都市で何がしたいんだい?
古龍は笑みは維持したまま、何かを値踏みするようにガスマスクと眼帯の幼女を見つめている。正直この雰囲気居心地悪いからさっさと帰りたい。
後ろの方にいる錆姫さんに習って息を潜めて終わるのを待とう。
『しいていうなら、はーとといっしょにいたい』
うん???今ここでこっちに振るか普通???
「懐かれてるね」
「身に覚えがないですね」
『はーと、たのしそうなよかんがする』
なんだそりゃ、
「ふふ、龍種でもないのにいい眼と嗅覚だね。別に咎めたりしないから安心して遊び倒すといいさ。あと一応アドバイスするけど」
『なに』
「さすがに共通語は話せた方がいいよ?」
どういう事だ。
「え?話せてませんか?」
「初めて遭遇すると分からないよね。ロックハックちゃん、ガスマスク取りなよ」
『……ロックハック、べんきょーにがて』
ん?????
唇の動きと、耳に入る言葉が明らかに違う。
言ってることの意味は分かるが、明らかにその文章を発音していない。唇の動き等も明らかにおかしい。
「ロックハックちゃん、ちょっとした小技で発声に意志を載せて相手に言いたいこと伝達してるんだよね。聞いてる言葉も多分載ってる感情や魔力から何が言いたいか読み取ってるから文字は読めないし電話とかだと何話してるか分からないんじゃないかな?携帯端末からの通報はたしか無理やり回線に繋いで定型文を切り貼りして一方的に要点だけ伝えてたよね」
そういえば、通信機越しの『ウィンドウショッピング』とは直接会話してなかったしこの子が通報している場面も直接見た訳じゃない。というか戦闘中はまだ通信妨害されてたからよく考えたらおかしい。
『みてたの?』
「うん、誰か来れば分かるからね。共通語の教本ならいいのがあるし、共通語仕様のゲームや本でも楽しいのが多いよ。何語なら話せる?」
『ぼこくごだけ』
「そっか、じゃあ勉強終わったらお姉さんとピコピコして遊ぼう。オフラインでも楽しいの結構揃ってるんだ」
『わーい』
「という訳でハート君、この子の事は君に任せよう」
「はい?」
「君はこの都市でほぼ唯一の共通語ネイティブだからね、ロックハックちゃんの学習も1番捗るんだ」
「なる……ほど?」
これは……体良く押し付けられたな……?
同時刻、ある電話回線にて。
『はいもしもし、こちらテマリス・マニゴルドですぅ』
『テマリスちゃんザマス?ヴァタクシザマス』
『あ、カネゼニーのおばさまでしたか』
『いい加減ヴァタクシの電話番号登録しなさいな……この前教えて貰った便利屋ザマスけど助かったザマス、これからもペロちゃんの散歩について困ったら使うザマスよ』
『そうでしたか、私もペロちゃんの相手はしたくないので良かったですぅ』
更に同時刻、ある秘密回線。
『もしもし、こちらウィンドウショッピングだ。悪いが依頼は失敗した』
【それは残念だ。それで、勲章の持ち主の方はどうなった?】
『あ?犬?催眠ガスは吸わせたけどダメージは負わせてないが……』
【了解した、
『悪いが同じ依頼は受けんぞ?もう対策されてるだろうしな。違約金なら払うから口座教えろ』
【いや、違約金は要らん。それと前金についてもそのまま持って行ってくれて構わない。『下準備』でも随分出費していただろう】
『あ?いいのか?返さないぞ?』
【ああ、だからこれからもよろしく頼むよ】
『チッ、ヤバそうな仕事なら断るからな!』
Q.共通語とは?
A.ターミナルが存在する世界で最も広く話されている言語であり、ターミナルの第一言語。登場人物は基本的にこの言語で会話、読文を行っている。
ターミナル設立以前からターミナルの外に存在しており、
龍界語:一部の唸るような発音が基人の声帯では出来ない。慣れないと聞き分けが難しい。
機構語:圧縮された電子音のため有機生物の大半は再現できない。常人にはリスニングはまず不可能。
楽宴語:単純に習得難易度が異常。(覚える文字が多い)
と有力な世界の言語が尽く欠陥を抱えており、『誰かの母国語だと不平等だしこの世界の言葉使おう』という裁きの古龍の鶴の一声ならぬ龍の一声でターミナルの第一言語になった。
上記のような難点が無く、翻訳機等が存在するとは言えターミナル在住の大半は母国語に加えて共創語を習得したバイリンガルである。テマリスも含めて。
共通語しか話せないハートはテマリスがバイリンガルである事実を知った場合ギャップで風邪をひく。
『共通語』が通称になっているが正式名称は『聖約語』であり、ターミナルの外にかつて存在した宗教国家を中心に広まった言語である。
所謂聖典が書かれた言語のためこの名称だがターミナルの住人の9割9分9厘はこの事実は知らない。