「とりあえず、書類に不備はありませんので入都は許可されますが……能力検査を受けてもらいます」
トントン、と机で書類の角を揃えながら錆姫氏は言った。怪鳥の襲撃など些事であったというように。
「検査ですか」
テストでも受けさせられるのだろうか?お勉強は割と得意だ。
「はい、とはいえ採血や簡単な身体検査です。スムーズな管理の為ですので御協力お願いします」
あ、そっちか。
「健康診断みたいなものですか、もちろんです」
了承すると錆姫氏は頷き、ふと気づいたようにこちらに問いかけてきた。
「ここに来る前は確かこの世界の
「はい、異界病になったのは3ヶ月前でしたけど留年は嫌だったので女のまま授業は出ましたよ……お陰で卒業アルバムもこの姿で撮る羽目に」
卒アルの俺の位置には毎朝鏡の中に見ている知らん女が立っているのである。元に戻っても子供に卒アル漁られるイベントが恐怖体験に早変わりだよ!パパ誰よこの女!
「確か大学園は全寮制でしたね。性転換後の扱いはどのようにされていたのですか?」
あー、こっちでの扱いはアカデミーに習う感じか……?
「女子寮に移されましたよ、俺は男子寮で良かったけど学友達に押し切られましてね、お前自身の安全のためにも女子寮使えって」
別に襲われても返り討ちに出来るんだけどな……これでも実技1位だったのだ。
「トイレや風呂なども?」
「まあ、はい。風呂に関しては共用のものはなるべく人のいない時間でしたけど女子の方でした」
「了解しました、基本的には前例に習って女性扱いということになりますがよろしいですか?というか基本的にこの都市では性同一性障害であっても体の性別に従っていただいてますので」
「まあ、大変心苦しいですが、はい」
相手側がどう思っているのかは分からないがこっちは相当気まずいのだ。
「……最後にデリカシーに欠ける質問をしますけどよろしいでしょうか」
錆姫氏は『これ言いたくないけど聞かないとダメですよねぇ……』といった表情である。なんかこっちまで申し訳ない気分だ。
「どうぞ」
「『アレ』、来てます?」
「アレ、とは?」
「『アレ』です、
「……来てません。ウチの部族は半年に1回2週間ぐらい重たいのが来るらしいですが」
正直滅茶苦茶戦々恐々としている。
「……了解しました。テマリス補佐官」
振り返ってデスクワークに勤しんでいた獣人の少女を呼ぶ。
「ひゃいっ」
突然呼ばれた少女は驚いてタブレットを落としてしまった。そそっかしい人だな……
「……彼の都市での生活を手伝ってあげてください、給料とは別に特別手当も出ます」
「りょ、了解しましたっ」
敬礼。入都管理局は階級社会なのだろうか。
「それでは私は次の審査があるので、テマリス補佐官について行ってください、そちらで検査は行います。預かっている荷物の方はこちらで滞在場所に送っておくのでご安心を。テマリス補佐官、頼みましたよ」
そう言って審査書類にデカい判子を叩きつける。どうやら審査は通ったようだ。
「テマリス・マニゴルド2級補佐官です……退出はそっちの扉ですが私も準備があるので扉を出たら案内板に従って駐車場で待っていてください。検査施設はすぐ近くの別の建物ですから移動に時間はかからないですよ」
「それでは良い都市生活を。次の方どうぞ」
そうして待機すること数分後。
「車で行きます」
チャリンと車の鍵と思わしきものを人差し指で回しながらドヤ顔でテマリス氏は言った。
「……運転出来るんですか?」
俺が見るに眼前のテマリス氏はとてもそそっかしい人物である。
ハッキリ言ってこの人が運転する車には乗りたく無い……
「
自動運転は確かに凄いが免許持ってない事はドヤ顔で言うことか……?
「スゴイデスネ」
一応お世辞を言うと満足したのか管理局の車に鍵を差し込んで目的地を設定する。
「助手席どうぞー!」
「失礼しまーす……おお、座り心地はなかなか」
「シートベルトつけてくださいね!外はまだ馬車が主流ってマジなんですかー?」
「異界からの輸入品は高いですし馬の世話やらで食ってる人もいますからすぐ切り替えられるとこは少ないんですよ」
「へー、スタークさんは車は乗ったことあるんですか?」
「戦車なら……」
「戦車ぁ!?」
そんなこんなで雑談しながら管理局の車で数分の検査施設にて。
大学園の身体測定は手動で測って手動で紙に書き記していたがこっちでは検査ルームに下着で入ったらセンサーかなんかでスキャンされて一瞬で終わった。
テマリス氏が眺める情報端末に身体情報の大半は既に入力されている。
「身長177、尾長105、体重71ですねー。有鱗種の尻尾って重いんですか?」
「人によりますね。うちの部族は尻尾長いからその分ウエイト増えますし。尻尾の太い部族だともっと重いんじゃないですかね……というか貴方の尻尾も相当毛量ありますし重いのでは?」
制御ルームで測定機械を操作していた少女は
「私の尻尾は綿のように軽いので〜……ってB88W61H86!?人体の違法建築ですよこんなの!!ウエスト周りだけ次元歪んでます!?故障!?」
検査結果が表示されているであろうタブレット端末をぺちぺちと叩く。精密機械は叩いても治らないぞ……
「褒めてると受け取っておくのでさっさと終わらせませんか?」
制御ルームのテマリス氏が検査結果の入力を終えないと待機室に置いた服を着れないのだ。暖房ついてるとはいえインナーだけでずっと過ごすのは嫌だ。
「…………どうしましょうこれ」
ポチポチとしばらく端末を弄ってから悩ましいという顔でこちらにタブレットを向けてきた。
「今度はなんですか……」
「おっぱいあって腹筋薄く割れてる人は『筋肉質』と『肥満気味』のどっちに分類すればいいんでしょうかこれ……『平均的』には丸を付け難い体型ではあるんですよね……」
「マジで出るとこ出ますよ!?」
「ぴいっすみません!筋肉質にします!この有鱗部位の入力が終われば、あとは採血と歯型と指紋採取だけですから!ええと脇腹、前腕外側、太腿の外側っと……終わりました!」
やれば出来るならセクハラ横着すんなよ……
「というか採血は聞いてましたけど歯型も取るんですか?」
「丸焦げ焼死体とかは指紋や血液では身元割り出すのが難しいですからー」
テマリスは何気なしに言った。
「ああそうですか……」
焼死体出るのが想定されるのかこの都市……
「次は採血ですねー、機械に腕突っ込んでください、聞き忘れてましたけど注射大丈夫ですか?」
ガコン、と血圧とか測定するような機械を一回りゴツくしたような機械が現れた。
「大丈夫です」
「ちょっとチクッとしますか大人しくしててくださーい」
腕を上向きに入れると血管に刺しやすくするためにか腕を締め付けられる感触。
「はーい」
目の前の画面に5、4、3とカウントダウンが出る。ああ見えないから刺さるまでのカウントダウン出るのな……
0の表示と同時にチクリという感触。10秒ほど奇妙な感覚の後針が抜かれてペタリと何かが貼られた。
締め付けが解かれて腕を抜いたら絆創膏が貼られている。そりゃそうか。
「絆創膏は2時間程度は取らないでくださいねー。指紋は最後なので先に歯型ですねー」
ガコンガコンと血液採取の機械が消えて今度は歯型採取と思われる機械が現れる。こっちは知ってるモノに例えづらい。
「顎乗せる場所あるのでそこでお口開けてくださーい」
矢印のシールで強調された場所があってその前にカメラのレンズがあるので多分ここだろうか。
「はいはい、何種類か取るんですか?」
「すぐ終わるので大丈夫ですよー」
「よっと、乗せました」
「じゃあ大きく口開けてください、はいあーん」
「んあー」
指示に従い口を開けた途端にフラッシュ。眩しくて目を閉じる。
「はい撮れました!虫歯無しですね!」
ウチの部族は歯と骨は強いので当然である。仮にあったら歯医者に駆け込むわ。
「じゃあ指紋ですね」
「はい!ポチッとな」
またガチャガチャと装置が引っ込んで別の装置出てくる。今度のはガラスのパネルが特徴的だった。
「パネルに指のお腹を押し付けてください、手のひらはつけないで指紋全体が取れるようにです〜」
「はいはい」
右の五指を押し付けた直後、光が下から上へと移動する。
「しっかり写ってますね〜、次は左の方です」
今度は左の指をペタリ。
「指紋も取れました。これで検査は終わりです、お疲れ様でした〜!」
「この後の予定は?」
「今日は終わりですね〜、錆姫先輩が取ったホテルに送りますので旅の疲れを取ってください」
「うおでっか……」
検査施設から出て車で送られたホテルは安宿かと思いきや首が痛くなるほどの高層建築だった。
「ここのビュッフェ美味しいんですよねー……あ、車戻したら今日は上がって良いって言われました!ではまた明日〜!明日の10時頃に迎えに来ます!」
携帯端末を確認していたテマリスは嬉しそうに言った。というか確認した数秒後既に戻るために後ろ向いていた。爆速退勤である。コイツ多分出世しねぇな……