TS竜人の便利屋日誌   作:逆見御傘

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TS竜人、タライ回しに遭う

 

 沈んでいた意識が浮上する。

 

 ……昨日はビュッフェでバカ食いしてシャワー浴びてふかふかのバスローブに着替えて凄い綺麗なベットに倒れ込んで寝たのだったか。

 

 テマリスの言う通りビュッフェはめっちゃ美味かった。いや俺が品評出来る程食べているのは携帯食と学生食堂ぐらいだから評価する事すら失礼かもしれない。

 

 名残惜しいが沈むような寝心地のベットを出て、洗面台に向かう。

 

 洗面台で蛇口を捻る。手で水を貯めて数秒後、顔を沈める。

 

 数秒ほど息を止めて冷水で頭をスッキリさせる。

 

 ぽたぽたと水滴が、邪魔だからと切って整えた前髪から落ちる。

 

 顔を上げて鏡を見た。

 

 灰色の髪はロングで背を少し隠す程度。橙色の瞳の瞳孔は縦に裂けている。

 

 角は4本、黒色。左右から2本ずつ、側頭部から巻き付くようにして前方に伸びている。

 

 怜悧な顔立ちの、俺の母親に良く似た女が鏡の中にいた。唯一似ていないとすれば、少なくとも俺の前では笑顔を絶やさなかった彼女と違い不愉快そうに顔を顰めている点だろう。

 

 ため息を吐きたくなったが、すんでのところで止める。嘆くのはまだ早い。

 

 蛇口を先程と逆に捻り、水を止めた。備え付けの、真っ白で柔らかなタオルを手に取って顔を拭く。

 

 目が覚めた。

 

 バスローブを脱ぐ。そういえば下着は付けずに寝てしまっていたのだった。空調は効いているし気にならなかった。

 

 部屋に届けてもらったもののロクに触っていなかった自身のリュックを開く。正直ターミナルのものと比べるとカスみたいな品質のものばかりなので多分捨てる事になるものばかり入っているそれをゴソゴソと数秒探って、薬液の入った少し大きめのガラス瓶とを取り出した。

 

 机に1度置いて残量を確認する。

 

 残りはだいたい満タン状態の3割程。一日の消費量はそこまで多くないのでまだ焦る時間ではないが、補充を考え始めるべき量だ。材料も機械もこちらの方がいい物が手に入るだろうし、後でテマリスか錆姫氏に相談するのもいいかもしれない。

 

 昨日着ていた服のポケットに入れっぱなしにしていたスポイトを取り出して、薬液をある程度吸い取る。必要な量取ったら瓶の蓋は直ぐに閉める。

 

 手にそれを出して両手でそれを薄く広げ、顔、手の甲含めた手指全体、前腕部の鱗、脚部の鱗、尻尾の先端、腹部、最後に薄くなったのを胸と塗っていく。

 

 無駄にデカい胸のせいで薬品の乾きが遅いので多量を雑に塗ることが出来ないのは明確に不便な点の1つだろう。直ぐに服を着ると蒸れて塗った薬が落ちることもあるし急所付近についてていい肉の量では無い。というか女性の肉体は曲線的で全体的に表面積増えてるので薬品の消費量が多い。

 

 薬液は少しひんやりするが悪態をつく暇に終わらせた方がいいので無言で塗る。最後に馴染んでいるか2度3度と頬をペチペチと叩いて確認。よし。

 

 塗り終えたら乾くまで少しの間待機。素っ裸のまま昨日買った着替えを引っ張り出す。

 

 ホテルの下の階では各種洋服や下着等も売っていた。何でも手ぶらで来ても大抵のものは入っている店で買えるから問題ないらしい。

 

 包装に入った下着類を開封していく。女性用下着のコーナーでは店員の女性に色々と勧められるままに買ってしまった。外とターミナルとでは製品の品質が大きく違うため仕方ないが、大きな買い物である。管理局の端末で電子決済してしまったがこういうのも買って良かったのか少し心配である。

 

 服に関しても同様でありスカートは断固拒否したが色々と買うことになってしまった。動きやすそうなのを選んでベットの上に置いておく。

 

 忙しなく動いていると薬が乾いた。とりあえず先にブラを付ける。

 

 続いて下。脚部の鱗に引っ掛けると裂けてしまいかねないので慎重に足を通して上げていく。

 

 装備完了。あとは上下の服、こっちは男の頃と大差ない。角でシャツを傷つけたりしないようにだけ注意。

 

 幸い竜人用のズボンも売っていたので自分で不格好な加工をしないで済んだ。良い物に手を加えるのは少し抵抗がある。

 

 ズボンに足を通してとりあえず外を出歩ける格好にはなった。大学園時代の知り合いに見られたら『ターミナルかぶれ』と言われる事必至であるが。

 

 テラスに続く扉を開ける。というか今俺が居るのは泊まっているホテルの屋上を除いた場合の最上階である。

 

 いくら異界病の補填とはいえ既に俺の生涯年収超えてるレベルのサービスを受けている気がするがその思考は脳の隅に追いやる。

 

 現在6時。ビュッフェは6時半からなので少々待たなくてはならない。

 

 テラスから都市を見下ろすとドローンや鳥が忙しなく荷物を運んでいた。

 

 人通りはさすがに少ない。

 

 ホテルの建物はとても高い。テラスの正面に見える、管理局の中央庁舎の次に大きいとホテルのスタッフは言っていた。

 

 このホテルは長方形の箱をひたすら縦に積み上げたような形なのに対して中央庁舎は流線型のタワーといった外観である。

 

 テラスの扉を閉めて部屋に戻る。部屋の冷蔵庫の中に入っているジュース(ラベルに書いてあるのは名前は知らない果物と読めない文字、なんと無料!)の瓶を1本取り出す。蓋を回して開けるとポン!と小気味良い音。

 

 一息に飲み干す。甘酸っぱい果汁が寝て水分を失った体によく染みる。

 

 朝までまだ少し時間がある。携帯するものの選定だけしてしまおうと、薬液を漁って放置したリュックに向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 午前10時5分。

 

 ホテルの前で待機しているとテマリスが管理局の車で迎えに来た。普通に遅刻である。

 

「おっはようごさいまーす!」

 

「重役出勤ですね2級補佐官殿」

 

「ご、5分遅刻程度でイヤミですか……錆姫先輩みたいなこと言いますねハートさん」

 

 いや管理局の職員って公務員だろ……?大学園の教授の100倍時間には厳しくないとダメなのにイヤミで済ませるってどうなんだ。

 

「とりあえず診察の予約はしてありますので行きましょう!さあ乗った乗った!」

 

 1時間後。

 

「ウチでは治せないですね、そんな病気聞いた事ないです。とりあえずもっと大きい病院への紹介状書いて連絡しておきます」

 

 半日後。

 

「検査しても何も見当たらないですし、ウチにも症例無いので手の付けようがないですね……本来は終末医療の一環で紹介する占い師で良ければ連絡を取りますが……」

 

 更に翌日。

 

「汝は数奇な星の元に生まれておるな、この水晶玉では見渡せぬ。ババア行きつけの闇医者を紹介しよう……」

 

 更に更に翌日!

 

「ババアノ紹介ダカラ診タガ異常ハ見当タラナイゾ、買ッテル情報ニモ見当タラナイ。男性モデルノ義体ジャダメカ?ソウカ……エルフノ薬師ナラ長生キシテルカラナニカ知ッテルカモナ」

 

 3日後!!

 

「うーん、性転換している幻覚を見る〜みたいな幻覚作用のある胞子なら知ってるけど、私から見ても君は女性だからなぁ……一応、きつけ薬嗅いでみるかい?…………うむ、効果無しだね。色んな遺物を取り扱ってる子に連絡を取っておこう」

 

 その1週間後!!

 

「性転換する遺物なんてアホな遺物僕は聞いたことないぞ……それに常時働くような遺物なら病院で精密検査した時に引っかかってるはずだ、僕が知らないような高位の遺物かどこぞの世界の秘術の類なんじゃないか?そういうのは管理局が1番詳しいだろう」

 

 

 

 

 そんな訳でタライ回しにされて、遺物ディーラーにあった翌日には結局経過報告も兼ねて管理局に戻ってきた。

 

 都市外壁の審査室ではなく中央庁舎のある一室。錆姫氏とテマリス、そして俺の3人はなんとも言えない気まずい空気の中顔を突き合わせていた。

 

「ふえええ……無理ですぅ……心当たり全部巡りましたけどどこも首を横に振りますぅぅぅ……私の特別手当がぁぁぁ……!?」

 

 テマリスは隣で半泣きになりながらも器用にバクバク茶菓子を食べている。何日も一緒にいてわかったがコイツ想像以上に図太い。

 

「アンタ俺の心配じゃなくてボーナスの心配するあたりやっぱ大物だな!?」

 

「テマリス補佐官、1番嘆きたいのはスタークさんの筈です、貴女が泣き言を言ってはいけません。仕方ないですね……私側でも手が空いている時に調べていましたがそれらしき資料は見当たりませんでしたので、書類申請しておきます。あと数日程度お待ちください」

 

 錆姫氏は独自で色々調べてくれていたらしい。毎度爆速で退勤していた隣で半泣きの特別手当ゾンビとはエラい違いである。

 

「書類申請って何の申請ですか?」

 

 錆姫氏はアイスコーヒーに口をつけて、口内を潤してから言った。

 

「ターミナルで1番物知りな方に謁見します。管理局創設者、裁きの古龍様に知恵を借りるんですよ」

 

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