TS竜人の便利屋日誌   作:逆見御傘

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TS竜人、剥かれて診察される

 

 錆姫氏の申請が通ったのは3日後だった。割と早い方らしい。

 

「わ、私創設者様に会うの初めてです……!」

 

 中央庁舎の最上階へ向かうエレベーターの中でテマリスは緊張したように呟いた。コイツ緊張するんだ。

 

 因みに3人とも手ぶらである。謁見の際には手荷物の類は全て預けなければならないらしい。

 

「テマリス補佐官、スタークさん、一つだけお願いですがどうか無礼な行いだけはしないでくださいね」

 

「いや、しませんけど……」

 

「まあ、スタークさんに関しては心配していませんよ……テマリス補佐官、昇給訴えたりしたらその場で首を切り落としますからね」

 

「ぴっ!?さ、さすがにそんなことしませんよ!」

 

 するなら経理の人にします、という呟きは聞かなかった事にしよう。

 

 ポーン、と電子音が鳴り、中央庁舎最上階に着いた事を知る。エレベーターの扉が開く。

 

「失礼します」

 

 エレベーターの先には2人の……否。2体の龍が居た。

 

「おっと、来客があるならボクは後にしたのに」

 

 1体はぶかぶかの黒いコート、黒い翼、黒い角、黒い尾、金色の髪、緋色の眼、透き通るような白い肌の端正な顔立ちの青年が机の前から振り返ってこちらを見ていた。

 

「ふふ、今日は賑やかでいいね」

 

 そして椅子に座って穏やかに微笑みながらこちらを見ているのは、赤みがかかった白い髪を床につくほど長く伸ばした銀色の瞳の女性だった。緋色の角と、座っているからよく見えないが翼と尾も緋色に見える。

 

「っ!御来客があるとは存じず……失礼致しました」

 

 錆姫氏のリアクションを見るにどうやらブッキングしてしまったようだ。

 

「いやいや、ボクは通りがかりみたいなものだから。はいコレ、叔父さんとこのお土産ね」

 

 何やら紙袋を机に置いたら青年の方はこちらに歩いてくる。どうやら譲ってくれたようだ。

 

「うん、ありがと。兄さんにも元気にしてるって言っておいて」

 

「はいはーい。じゃあ僕は失礼するから……強く生きてね、お兄さん」

 

 肩にポンと手を置かれた。言われなくとも挫けたりしない。

 

「んじゃあさようなら……アレ?エレベーター動かないんだけど」

 

 青年はカチカチと2度3度とボタンを押して首を傾げる。ああ、それは……

 

「IDカードが無いと動きませんよ、古龍様」

 

 錆姫氏が自身のカードをエレベーター内の開閉ボタンの下にかざすとエレベーターの扉が閉まる。

 

 …………あの人なんで俺が男だってわかったんだ?少なくとも今は女性服で彼と話すまで一言も発していなかったのに。

 

「ようこそ、久しぶりだね。錆姫ちゃん。それとテマリスちゃんははじめましてで〜……君がスタークさんだね」

 

「はい、お久しぶりです創設者様。本日は申請していた件で謁見させていただきました」

 

 俺の代わりに錆姫氏が答えた。

 

「謁見なんてカタいこと言わなくてもいいのに……ちょうどいいお菓子も来た事だしティータイムと洒落こもうか。お茶を淹れよう、お砂糖幾つ入れる?」

 

「0で」「0にします」「5ですぅ……」

 

 それもう砂糖飲んでないか?

 

 創設者が指を鳴らすと、ティーポットに手足が生えてひとりでに動き始める。茶葉の箱の蓋を生えた手で開け、茶葉を匙で器用にティーポット自身の中に入れる。2度3度と掬って入れたら蓋を帽子のように装着して部屋の隅にあるウォーターサーバーまで走っていき、蓋を取ってお湯の方のレバーを引いた。数秒後、お湯を止めて蓋をつけ、テーブルまで走ってきて飛び乗る。アグレッシブな動きではあるが一滴も零れなかった。

 

 少し時間をおいてから、脚だけで器用に創設者が並べたティーカップに自身の中身を注いでいく。色を見るに紅茶だろうか。

 

 全員分注ぎ終えたらティーポットは動かなくなった。

 

 なにこの……何?

 

「これは『龍麗紅茶』っていう、ある世界の紅茶だよ。お供え物へ選定される事もあるし品質は保証するよ」

 

 そっちじゃない……というかまたお高いものである。ホテルのビュッフェといい高級品ばっかり口にしていて仮に男に戻ったあと俺の今後の人生で『満足』を覚えられる日は来るのだろうか。

 

 また創設者が指を鳴らすと、ちゃぽぽぽぽぽん!とティーカップに角砂糖が5つ、どこからともなく落ちてくる。次いで、チャリンとティースプーンが添えられた。めっちゃ高級品っぽいのにそんなに砂糖入れるのは勿体ないのではないか……?

 

 紙袋から取り出したアップルパイと思われるお菓子もフォークを添えて出される。

 

 あれ?これいつ切り分けたんだ?

 

「食べながら話そうか」

 

「「「いただきます」」」

 

 アップルパイに手をつけた。

 

 品評はあんまりしない。舌肥えてないから表現のしようがない。とにかく美味しい。

 

 紅茶も同上。

 

「美味しいです」

 

「それはよかった。まだあるからお代わり欲しくなったら言ってね」

 

 しばらく全員無言の時間が続く。いや口開いたら食べた幸せが逃げる気がしてだな……

 

 そうして全員がある程度アップルパイを片付けたところで錆姫氏が口を開いた。

 

「創設者様。そろそろ本題を」

 

 錆姫氏が本題を切り出したので紅茶を飲み干す。ティーポットが反応してその足で歩いてきて注いでくれた。

 

「ああ、異界病についてだね。んー、ヒガンが何も言わなかったから大丈夫だと思うけど」

 

 誰の事だろう。一応話を聞いているテマリスも錆姫氏の隣でアホ面を晒している。

 

「?」「?」

 

「あ、さっき出ていった子ね。甥っ子なんだ、腕のいいお医者さんでもある」

 

 さっきの青年か。確かに彼は俺が男だって事も見抜いていたが……命に別状が無いのと今困っているのは両立するんだよな。

 

「自然治癒するにしてもいつ頃になるか、とかは知りたいです」

 

「ん、わかった。おばあちゃんが診てあげよう。ちょっと脱がすよ」

 

「え?」

 

 複数の事柄が同時に発生した。

 

 パン、と創設者が手を叩くとまず服を剥かれた。というか原理不明で服が創設者の手元に移動した。ズボンと下着もである。

 

 あと白い壁が俺と錆姫氏の間に発生した。衝立の代わりだろうか。

 

「2人はちょっと待っててね」

 

「承知しました」「了解でーす」

 

 創設者が机の向こうから立ち上がってこちらに歩み寄って来る。

 

 一瞬隠そうとしたが『診察』なので動きを止めた。出来れば早めに済ませて欲しい。

 

「ふむ、見たところ違和感はないけど……うん?」

 

 怪訝そうにじいっとこちらを見ている。

 

「龍気……ああ、これじゃ分からないよね。異世界由来のエネルギーが少し蓄積しているね。大体……この都市に来てから毎日少しずつかな」

 

「スタークさん、毎日摂取していたものってありますか?」

 

「水は勿論毎日飲んでましたけど……あとホテルの無料で飲める読めないラベルのジュースは毎日飲んでました」

 

「ふぅん?オレンジ色の果物のラベルのやつ?」

 

「そうですね」

 

「いいね。私も好きだよ、メグジュース。じゃあそれ由来かな……でもこの世界の子は龍気を貯める身体機能は無いはずなんだけど……手、ちょっと見るね」

 

 手に触れられる。

 

「肌ツヤは良いし、肉体組織に変な力が加わっている様子も無いね。爪も同様だ。何か薬塗ってる?」

 

「はい、まあ肌の保護と魔法媒体兼ねているのを軽く」

 

 というか無色無臭なのにわかるんだそういうの。よく分からないけど凄いな古龍。

 

「んー、身体の変成を日常的に使ってるなら組み代わりと身体の無意識的適応で蓄積できるようになる……のかな。性転換前後の記憶ってあるの?」

 

「それがあんまり……異界人に会ったのは覚えてるんですが」

 

「その人の見た目は覚えてる?」

 

「銀髪で、眼帯をしていたような……?すみません、倒れてるのを見つけられた時には女になってて」

 

「……性転換時の記憶は混濁してるんだ。目を見るから少し開いてて」

 

 頭を両手で固定されて創設者と目を合わせる。銀色の瞳、縦に裂けた瞳孔をじっと見る。

 

「あ、はい」

 

「記憶は……なるほどね」

 

「何かわかりましたか?」

 

「相当ショッキングな思い出みたいだね。君自身を保護するために封印されている」

 

「解くことは出来ますか?」

 

「私なら出来ないことはないけど、自力で思い出せるようになってからじゃないと危険だよ」

 

「そうですか……」

 

「んー後は……心臓。心臓は自分で暮らしてて違和感はない?」

 

 探すようにつま先から髪までじっくり見られてから聞かれる。

 

「心臓ですか?特に違和感はないですね」

 

「そうかい……じゃあ決まりだね」

 

 また創設者が手を叩いた。服が元に戻され、白い壁が消える。

 

「ええと、つまり?」

 

「君が性転換した場所の現場検証しないことには分からないけど、見ての通り私はここ動けないんだ。君の心身が落ち着いて記憶を思い出せるまでは経過観察するしかない」

 

「そうですか……」

 

「安心しなよ、ターミナルには娯楽も色々あるし、管理局のお金は君みたいな子のために用意された物だ」

 

「……わかりました」

 

 テーブルの上で少し冷めた紅茶を飲み干す。補充はされなかった。

 

「創設者様、お時間を頂きありがとうございました」

 

 錆姫氏が頭を下げた。俺とテマリスもそれに倣って頭を下げる。

 

「うん、暇な時に遊びに来るといいよ」

 

 エレベーターに乗ると創設者が手を振っている。俺も軽く手を振り返すとエレベーターの扉が閉まった。

 

 結局のところ、大きな手がかりは無しで俺は管理局を去ることになったのだった。

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