管理局中央庁舎のとある会議室にて、経過観察を言い渡された後のこと。
「働きたいです、錆姫さん」
俺は錆姫氏に切り出していた。
「ハッキリ言って何も社会に貢献せずに公金チュッチュする生活は心臓が持たないです」
そう、2週間以上ホテルの最上階で生活しているとさすがに罪悪感が出てくる。こちとら学生寮のかったいベッドと地面にマント敷いただけと戦車の中でしか寝てないと言っても過言ではない生活してきたのだ。
「はぁ……貴方は一応カテゴリ上は『療養する為に来た病人』なんですよ」
「そうですよ!私が望んでも手に入らない立場ですよ!?」
無論俺の生活補助の名目でここ2週間ほど給料貰ってるテマリスも口を挟む。机叩いてまで力説するな。
「コイツ何かしらで訴えられないんですか?」
「ギリギリ無理ですね、あんまり目に余るようでしたら減給処分も可能ですがなかなかボロ出さないんですよこの子」
「チッ……とにかく!なにか軽い仕事でもいいので働きたいです!このままダラダラしてたら社会復帰出来なくなります!」
「勤勉は美徳ですが無理ですよ。紅茶……はさっき飲みましたしお水でいいですか」
錆姫氏は会議室の机の下に付けられている冷蔵庫……冷蔵庫!?を開いて2つの水が入ったペットボトルを取り出した。片方を手渡してくれる。
「どうも……えっ?もしかして就労に関する規則に引っかかってたりするんですか」
蓋を開けて冷えた水で口を潤してから聞き返す。
「いえ、ターミナルは就労周りは緩いですよ。貴方でも多分問題無いでしょう」
錆姫氏もペットボトルを開けて水を一口飲んでから答える。
「じゃあなぜ」
「需要です」
そう言うと錆姫氏はタブレットを会議室のテレビに接続した。
「肉体労働なら自身あるんですけどね……一応外では荷物の配達とかで小遣い稼ぎはした事ありますけど」
「いえ、無理です。例えば運送やデリバリーは小さい物なら有知性鳥類や有翼飛行可能人種や機械人のドローンが、大型貨物でしたら大型有知性鳥類や中型〜大型龍種、大型ドローン母艦が9割9分を占めてます。残りの1分は業者に頼むまでもないものを近くに運ぶようなものと荷物の搬入搬出をする人材ですし入る隙間は無いです」
錆姫氏がタブレットを操作して映像で現行の運送業がどのような感じなのかを示す。鳥やドローンが小箱を運んでいる写真や、大型鳥類の背に荷物を積み込む写真が提示される。
トドメに主流な物流を司る企業の求人画像を幾つか見せてきた。たしかにどれも俺には合致しない。
「くっ……土木作業とかも無理ですか?」
「建設業ですとこっちも大型龍種と、あとは巨人種ばっかり採用されて安全基準もそちら側に寄せがちなので基人に近い貴方は安全基準を満たしていない事が多いです。最低身長3mとかザラですから。機材周りも大型機械の操作も機械人なら3秒で覚えますけど貴方の場合はある程度勉強期間が必要になるでしょう」
また別の資料を提示してくる。開発中の地区の工事現場の画像だがたしかに文字通りスケールが違う。同じく求人に関しても条件が合わない。
「ぐぬぬっ……」
「接客業やサービス業に関してはいつ治療でシフトに穴が空くか分からず融通が効かないですし……AIと自動決済で人数を絞っている店が多いので」
現行の都市で主流な決済システムの画像を提示される。ホテルに入ってる店が有人なのは例外だったか……
「ぐぬぬぬ……」
「こっちで使える資格も無い貴方では今は就労は不可能に近いですよ……容姿は大変整ってますしスタイルもいいのでモデル業やグラビア等ならチャンスがありますけどいつ元の肉体に戻るか不明なのがネックですね。1番後腐れないのは風俗関連ですが……いえ失礼しました、忘れてください」
後はアハーンでウフーンなお仕事ですけど?と暗に示された。
「容姿を売りにするのは……」
「とにかく就職は難しいんです。大抵の事業はもう先達がいますし、お金になる事業で大型企業が触れていないことなんて滅多にありません。納得されましたか?」
「管理局は今求人していないんですか?」
よく考えたら1番身近で仕事を見ているのは管理局だ。聞くだけ聞いておこう。
「……管理局は就労条件が最近改定されまして、継続在住5年が条件の1つの盛り込まれていますから。それに最初はテマリス補佐官より下の立場「やっぱいいです……」
「……?」
何故怪訝な顔をするんだテマリス。誰だって嫌だろ。
「後は……起業も手段の1つですね。まあ、異世界出身ではなくこの世界出身の貴方では売りに出来るような物や技術、人脈も無いので身一つになりますが……秘伝の古武術とかあるなら道場開けるかもしれませんね」
「起業……身一つで……あれ?行けません?」
「と言いますと?」
「『便利屋』ですよ。専門的な事は何にもできませんけど、とりあえず頭数が欲しい場面とか、大きな企業じゃ採算取れないから部署作らないような仕事とかやるんです。自営業ですからある程度時間の融通は効くはずですし」
「ふむ、便利屋ですか。今調べてみますね」
そう言うとタブレット端末を操作し始めた。
「まあ普通に考えたら俺以外も思いつくか……」
「ふむ、『便利屋』『何でも屋』『万事屋』等で管理局のデータベースを検索したところ12の会社がヒットしました」
「そりゃそうですよね」
別に天才的アイデアって訳でも無いしな。
「全部既に無くなっていますね」
衝撃だった。
「えっ?ターミナルってそんなに不景気なんですか?」
「いえ、景気の問題では無さそうです」
少しタブレットを操作してから返答される。
「では一体何故……」
「単純に大怪我だったり、ターミナルから出たりですね。大きな企業のバックアップもなく行動して大抵半年から1年ぐらいで大きなトラブルに遭遇して嫌気がさしていると見ていいでしょう」
ここはあらゆる世界からトラブルの集う都市ですからね、と付け足した。最初に会った時も言っていたな。
「それなら大丈夫ですね、俺はこれ以上にクソみたいな状況にはならないでしょうよ。それに腕っ節には自信があります」
「……なるほど、確かに」
錆姫氏はそう言うと瞑目して何かを考え始めた。
「先輩寝てます?」
業務中に運転席で寝てたお前は黙ってろよ。
そうして暫くして、錆姫氏は目を開いた。
「わかりました。記録にあるどの企業も一応黒字経営は出来ていましたしやるだけやってみるのも良いでしょう、社会復帰の一環でもありますし。ですが管理局からの金銭的支援自体は続行します。最初から採算取れるとは限りませんし」
「わかりました、ありがとうございます」
直ぐに管理局のお金なしで生きていけるようにはならないだろうがとりあえず公金ニート脱却の兆しが見えた。素晴らしい事だ。
「ただし、幾つか条件があります」
「なんでしょう」
「反社会的運動……デモや反管理局派の演説に加担しない事、積極的に有知性生物に対して暴力を加える仕事を受けない事です」
お役所として当然の要求だった。俺もそこまで恥知らずではない。
「しませんよ、管理局に迷惑はかけません」
「でしたら結構ですよ……さしあたって一つ問題が浮上します」
「えっ?」
「住所です。企業としての住所と貴方自身の住所がありませんから起業申請が通りませんね」
「あっ」
ここでもホテル暮らしの影響が……
「まあ問題ありません。こちらで作らせて頂いた貴方の口座から生活費等は引き落とされてますが、使用履歴を見るに浪費されてませんから何処でも借りたり買えたりします。というか全日ホテル暮らしでも足りる金額が振り込まれていますから」
現在口座に振り込まれている金額を画面に提示された。こっちの物価もある程度分かってきた今だから分かるが俺の金銭感覚では使い切れない。
……公金生活から離れられる日はまだ少し遠そうだ。