ターミナルは大きく分けて5つの区画で構成されている、と錆姫氏が言っていた。
管理局中央庁舎を中心に整備されていてオフィスや宿泊施設、飲食店の多い中央区。『機構星』に繋がる
ちなみに俺は東区から入都して中央区のホテルで寝泊まりしている。
今回は現地集合の場所に指定された南区に早めに到着して、集合地点近くの店を見て回っていたのだが……
「鱗用ワックス……そういうのもあるのか……」
興味深い文言の店を見つけて足を踏み入れていた。
「あらいらっしゃーい、こういうお店は初めて?」
店は結構大きいのだがカウンターに座っているのは枝のような角と羽毛と鱗の生えた尻尾を持った竜人で、小人種ぐらいの身長の童女だった。まあ異世界の人の年齢なんて分からないから外見だけだが。
「ええ、ターミナルに来たのは最近で」
「あらあら、それは大変ね!お姉さんがいいの選んであげるわ!」
気のいい女性のようだ。
「ええと、その前にアレルギーの検査ね!成分によっては拒絶反応出ちゃうから色々調べないのなの!大きな病院で検査した事あるならついでに検査してくれているだけど……」
「これですかね」
治療のための有識者行脚の最中にデカイ病院で検査もしている。管理局から借りている携帯情報端末にその結果を表示させた。
「そうそれよ!ちょっと借りてもいーい?」
「どうぞ」
端末を見ようとメガネを掛けて目を凝らしている。もしかして結構なお歳だったりするのか。
「うん、殆どないわね!これなら好きなの選べると思うわ!はいこれありがとう。そっちのタブレットにカタログがあって量り売りもやってるわよ」
端末を返却されて、タブレットの方に言われるがままに向かう。
「とはいえこういうのは全くの素人なのでどう選べばいいか分かりませんよ」
「そうよね!どんな感じのがいいとかないなら幾つかお勧めを見繕うわ!お姉さん凄い鱗綺麗だもの、絶対にいいのを見つけた方がいいわ!」
凄い熱意である。
「幾つかサンプルがあってね、こっちが比較的落ちにくいやつで〜こっちが触り心地がつるつるしてるわね!で私のイチオシがこれ!白色よりの鱗なら多分これが1番綺麗な光沢が出るわよ!」
「……ではそれで、有識者が言うのですから間違いないんでしょうし。ちなみにお姉さんは何を使っているんですか?」
「私?私は自作してるわよ!大型種は量産品の既製品じゃないと足りないからこの時ばかりはチビで良かったって思うわ!」
「自作ですか」
「店の裏に調合室があるの!有料で貸し出しているから鱗ワックスに慣れてきたら挑戦してみるのもいいかもしれないわね!」
なかなか興味を惹かれる文言である。自作か……元から色々自分で作る凝り性なので正直聞くとワクワクする。
正直色々回りたい場所が多いので一旦退散するか。
「ではお会計を……」
「ちょっと待ちなさい!」
携帯端末を取り出して決済の準備をすると呼び止められた。
「角用のワックスとかワックス塗る用の刷毛とか色々あるわよ、もう少し見ていかない?」
「…………お願いします」
他のお店はまた今度になりそうだ。
「結局ワックスまで塗って貰ってしまって申し訳ないです」
お陰様で角と鱗はピカピカである。
「いーのよ初見様用サービスだもの。あ、龍界語は読める?」
「読めないですね」
言語のお勉強。この前調べたら就業における一つのネックだった。便利屋する上で出来たら便利だろうしそのうちやるべきかもしれない。
「ちょっと待ってなさい、一応成分表の翻訳文がどこかにあったはずだから……もう面倒だし印刷しちゃうわ!…………右下のコードを読み取ればその企業のサイトに飛べるから!はいどうぞ!お時間大丈夫!?」
少しの間デスクを漁ってから店員のお姉さんは諦めたように裏手に向かって1分ほど後に戻ってきた。手にはプリントが1枚。
「走れば間に合います、ありがとうございました!」
「すみません、少し買い物していたら遅くなってしまって」
指定された集合場所には錆姫氏のみがいた。 時間ピッタリに到着したのだが相変わらずテマリスは遅刻である。
「……テマリス補佐官はまだ来ていませんから問題ないです」
「今日は半分ぐらいは徒歩できたんですけど広いですね、南区……」
さっきのワックス屋から結構走ったのだ。地図だけ見ると結構近いと思ったのだが……
「ええ、南区は全体的にスケールが大きいです。巨人種や大型龍種のほとんどが住んでいることもあって道路は彼らが歩けるように広く作られていますし、各種施設も一つ一つが大きいです」
「今までは基本車移動でしたよね、アイツ徒歩だと3倍ぐらい遅刻するんじゃないですかね」
「今日は南区の物件紹介ですが、徒歩集合にしたのはこれもあります」
「……車なしだと不便って事ですか」
「ええ、ですが有鱗種のスタークさんは南区の方が日常雑貨等も買いやすいでしょうし最初に紹介する事にしました」
「ターミナルの不動産は管理局が全部管理しているんでしたっけ」
「ええ、基本的にターミナルの土地は全て管理局を通してのみやり取り出来ます。例外は大使館ぐらいですね……もしかして鱗になんか塗ってます?
「分かります?」
やっぱりツヤとか違うと分かっちゃうか〜。
「いつもより尻尾や腕に目をやる回数が多いですよ、美容院に行ったあとの年頃の娘ですか貴方は」
俺が原因だった。
「ワックス塗ったの初めてでして……おっ来た」
喋って居たらテマリスが来た。
「ひぃ……ひぃ……先輩がいるなら私いらなくないですか……?」
息絶え絶えでしわしわの雑巾みたいなツラしている。長距離徒歩とはいえそんな疲れてることあるか?
「私が見てないとどうせ仕事しないでしょう、運動も兼ねているんですよ」
「そんなぁ……」
日頃の行いって大事なんだな……
「では行きましょう、ここからも少し歩きます」
「まだ歩くんですかぁ!!?」
歩いたのは10分程度だった。最寄りの目印になりそうな場所が集合場所だったらしい。
「ここです」
「結構立派ですね、というか借り部屋だと思ったら一軒家ですか」
「というかスタークさんに紹介出来る物件は限られています。申し訳ないです」
「え?そうなんですか」
「はい、何がダメかは職務上明かせませんが」
異界病持ちだから、とか都市に来て日が浅いからとかだろうか。
「普通に立派に見えますけど」
「まあそれ相応にデメリットがあります……メリットとデメリットどちらから聞きたいですか」
「メリットで」
「メリットですが前の住人がカフェをやっていたので1階のトイレ及びキッチンは充実しています。3階建て+屋上なので広いです。」
なるほど。1階は確かに店のカウンターらしきものが見える。椅子の類も結構多いな。
「デメリットですがアクセスが劣悪で周囲に駐車場も主要交通機関の駅もありません。あと周囲の建物が大きいので日当たりも悪いですね」
そう、左右の建物がめちゃくちゃデカかった。左は大型龍種用の洗浄場で右が巨人用の洋服店、後ろは大型鳥類用の止まり木*1。周囲に駐車場も無い上にバス停の最寄りでも結構遠い。
「どれぐらい日に当たるんですか?」
「ベランダは洗濯物干すのは無理ですね、屋上ならなんとか大丈夫だと思います」
「左右って……」
「はい、どちらも文字通りの大型施設です。テマリス補佐官なら3日も暮らせば誰かしらに誤って踏まれてペラペラになりますね」
物理的にそこそこ危ないと。いやまあ踏まれた程度じゃ死なないから問題ないな。
「えっ!?私ここまで通って様子見に来るの嫌ですよ!?」
それを家を選んでいる本人の前で言うな。俺はお前気にしないからな……
「移動手段ですが……バイクならギリギリ停められますね、免許必須ですけど」
「バイクって値段の方は?」
「余程拘らないならホテルの1泊の方が高いですので問題ないですよ」
「うへぇ」
「自転車でしたら免許無しでも買えますよ、スタークさんなら乗れると思います」
「まあこの辺道は荒れてたりしないですからね」
とりあえず家買って駐輪スペース確保できたら自転車買うか。
「ここにします!」
「まだ他の物件も一応ありますよ?」
「じゃあ他の物件のデメリットだけ聞かせてください」
「それぞれ騒音、治安ドブカス、危険ガス漏出の可能性アリです。全部アパートですね」
さては俺に家買わせる気なかったな?
「とにかくここにします!」
というか生まれついての家なき子なので持ち家にめっちゃワクワクしている。一国一城の主……!
Q.竜と龍の表記の違いis何
A.起源が違う。ただしハートはそれを判別出来ない。例えばワックス屋の店主は龍人である。