「いや~、ありがとうございますトレーナーさん。わたしのお買い物に付き合ってくれて」
「構わねぇよ。丁度暇だったしな」
年末のショッピングモールを担当であるヒシミラクルと歩いている。ヒシミラクルはホクホク顔だ。対して俺はげんなりした気持ちになっているが。
「シューズを買ってやるとはいったが、まさか最新モデルのシューズを買わされるとは思ってなかったがな」
「ぬはは、せっかくなので普段は買わないようなものを買ってやろうかな~って。それに、こういう最新モデルってなんか買いたくなりません?」
「まぁ一理あるな。最新モデルといわれると買いたくなる」
でしょ~?と答えるヒシミラクル。まぁ買ってやると言った手前今更文句はない。それを履いて来年も頑張ってもらいたいものである。
用事はこれで終わりなので帰路に着く……ところで、大きな声が聞こえた。客を呼び込むようなそんな声。
「さぁさぁ!年末の福引ですよ~!券をお持ちの方は是非引いていって下さ~い!」
福引、か。そういえば。
「ミラ子、あの店で福引の券貰わなかったか?」
「え?あ~、確かに貰いましたね」
ミラ子はポケットからレシートと一緒に福引の券を出す。この枚数だと……丁度3回引けるな。
せっかくだ。引いていこう。
「よしミラ子、せっかくだから引きに行くぞ」
「良いですね~。じゃあトレーナーさん、早速行きましょう!」
ミラ子と一緒に福引へ。え~と1等は……お、温泉旅行か。
「と、トレーナーさんトレーナーさん!1等は温泉旅行ですって!しかも超有名な宿の!」
「あぁ!これは是が非でも気合が入るな!」
「よ~し、頼みましたよトレーナーさん!」
まずは俺が1回、ミラ子が1回引く。結果は──。
「ざんね~ん!ティッシュで~す!」
「「……」」
そう都合よくあたるはずもなく。2人仲良くティッシュを貰った。これで残り1回である。
「あ~……やっぱ早々上手くはいかないですよね~」
「ぶっちゃけ分かり切ってたことだけどな」
「じゃあトレーナーさん。残り1回はお願いしますね?」
そうやって俺に譲るミラ子。……いやいや。
「何言ってんだ?ラスト1回はお前が引くんだぞ?」
「へ?……やだなぁトレーナーさん。冗談が上手いですねぇ」
「冗談じゃないが?」
「またまた~」
大阪のおばちゃんみたいな手の振り方をするミラ子。俺が無反応を決め込むと焦ったようにミラ子が詰め寄ってくる。
「嫌ですよ~!どうせティッシュじゃないですか~!」
「何言ってんだミラ子。1等の温泉旅行が当たるかもしれないだろ?まだ結果は確定していない。つまりシュレディンガーの福引だ」
「変なこと言わないでくださいよ~!当たるわけないですって!」
俺の胸をポカポカ叩いてくるミラ子。力は籠ってないので痛くはないが……ここはミラ子の運に賭ける!
「大丈夫だミラ子!お前ならやれる!」
「またおだてようとしてますね?その手には乗りませんよ!乗せられてばっかじゃないんですから!」
訝し気な目で俺を睨むミラ子。だが、ここはなんとしてもミラ子に引いてもらわないと!ここでティッシュを引いたらなんか気まずいから!
「お前はたくさんのミラクルを起こしてきただろ?だから今回もいけるって!」
「え~?そんなこと言われても~……」
「よっ!福引大将!幸運を呼び寄せるウマ娘!」
「う、う~ん……」
よし、悩んでる!あともうちょっとだ!
「大丈夫だ!ミラ子が引いたヤツならティッシュでも1等賞!自信をもって引いていけ!」
「……分かりましたよぉ。その代わり、ティッシュでも恨まないでくださいね?」
渋々ながらもミラ子は福引を引きに。何とか引いてもらえたか……。
「じゃあ後1回ですね。お願いします!」
「うぅ……っ!なるようになれ~!」
ぶっちゃけミラ子が引いたものならティッシュでも嬉しいのは本当。別に当たらなくてもいいのだ。所詮福引「おめでとうございま~す!」は?
「当たりで~す!」
「わ、わ!?や、やりましたよトレーナーさん!」
笑顔で大はしゃぎしているミラ子。嘘やろ?
◇
自分の家に帰ってきて晩ご飯の準備をする。晩ご飯はというと。
「できたぞ~ミラ子。お前のおかげで作れた海鮮鍋だ!」
「わ~!すっごく美味しそう!」
ミラ子が福引で当てた、海老に蟹、ホタテと海の幸をふんだんに使った海鮮鍋だ。2人でこたつに入って手を合わせる。
「「いただきま~す!」」
鍋をつついて食べるが……美味い!
「うめぇ……まさか、年末にこんな豪華な鍋を食えるなんて……ミラ子様様だ」
「いや~、まさか本当に当たるとは思わなかったですよぉ」
1等は当たらなかったが、3等の海鮮セットをミラ子は見事に引き当てた。本当にミラクルを起こすとは……。
「流石は福引大将!ミラ子は凄いな!」
「褒められて悪い気はしませんね~」
「福引のプロ!次は1等賞だ!」
「も~なんですか福引のプロって。それに褒めすぎですよ~」
照れ臭そうに笑うミラ子。可愛い。
2人でこたつに入りながら鍋をつつく。テレビでは笑ったらケツバットでシバかれる番組がやっていた。
《デデーン!エルコンドルパサー、OUTー!》
《ケーッ!?》
「アハハ!あれは誰でも笑っちゃいますって~!」
「プクク……!エルコンドルパサーには悪いが、確かにあれは笑う……!」
ミラ子と一緒にテレビを見ながら鍋をつつく。そういえば。
「ミラ子、えらいのんびり食ってるけど門限は大丈夫なのか?」
「へ?門限?」
「あぁ。寮の門限があるだろ?」
確かミラ子は帰省組とは違って寮に残っていた組のはずだ。記憶が確かなら、家には挨拶しとくぐらいでいいかってことで。後は荷物をまとめるのが面倒だって言ってたな。
「ふっふっふ……」
含み笑いをするミラ子。なんだ?何を考えている?
「実はですね~……外泊許可を取ってきました~!」
外泊許可を取ったのか。なら大丈夫……いや待て。
「お前どこに泊まる気だよ?友達の家か?」
「へ?トレーナーさんの家ですけど」
「は?」
「え?」
ちょっと待てい。お前俺の家に泊まる気だったんかい!そのボストンバック持って友達の家に行くとかじゃないんかい!
「いやいやいや!俺の家に泊まる気だったのかよ!?何の準備もしてねぇぞ!?」
「そのつもりで来ましたよ?じゃなきゃこんなのんびりしてないですって~」
確かにそうだけども!
「ただなぁ……う~ん」
やっぱりまずいんじゃないだろうか?さすがに。
葛藤しているとミラ子が目を伏せがちに……止めろ!罪悪感がさらに湧くだろうが!
「お願いしますよトレーナーさ~ん!トレーナーさん家がダメだったら、わたし年末を一人寂しくカラオケやネカフェで過ごすことになっちゃいますよ~!大切な愛バがそんなことになっていいんですか~!?」
「寮に戻るって選択肢はないのか」
う~ん……まぁミラ子には海鮮鍋のお礼があるし、それにこの寒い中外にほっぽりだすというのは罪悪感が半端じゃない。というかそんなことするぐらいならミラ子を家に泊めたほうがはるかにマシだ。
「いや……いいぞ。ミラ子にはこの鍋のお礼があるからな。好きなだけ泊まってくれ」
「ふふ、やった♪」
さっきの悲しそうな態度から一転、今度は嬉しそうにガッツポーズをしている。いちいち所作が可愛いな。
「ただ、ちょっと汚いかもしれないから勘弁してくれよ?一応大掃除はしたけど」
「え?すっごい綺麗じゃないですか。全然気にならないですよ」
そう言ってくれて嬉しい限りである。
海鮮鍋を食べ終わって後片付け。
「あ、手伝いますよトレーナーさん」
「良いってミラ子。ミラ子は客なんだから」
「いやいや、泊まるわけですから。わたしとしても何かやっとかないとな~って思うわけですよ」
そういうことなら、お言葉に甘えておくか。ミラ子と並んで食器を洗う。隣のミラ子はというとご満悦の表情だ。そんなに皿洗うの好きだったのか?
「……んふふ~」
「どうしたよミラ子。ご機嫌だな?」
「へ?……ッ!い、いやいや!なんでもないですよ!?」
いや、そんな慌ててるとなにかあるようにしか思えないんだが。
「本当に大丈夫か?ミラ子。顔が赤いし、調子が悪いなら皿洗いをしなくても「だ、大丈夫です!大丈夫ですから!」……そこまで言うならいいが」
「い、言えるわけないじゃないですか~……!こうして並んでお皿を洗っていると、新婚さんみたいって思ってたなんて~……!」
湯気が立つぐらい顔が真っ赤だが……指摘してもダメそうだしさっさと皿洗いを済ませるか。
皿洗いを終わらせて、ミラ子を先にお風呂に入らせる。
「上がりましたよ~トレーナーさん」
「おう、じゃあ俺も入ってくるか」
「どうです?わたしの後ですよ?わたしの残り湯ですよ?」
止めろ。変に意識するだろうが。後残り湯言うのやめなさい。
その後お風呂に入って、コタツでミラ子と一緒にのんびりする。さっきと同じように。
うん、なんていうか。
「この何気ない日々が一番だよな~」
「あ~分かります。なんか、久しぶり~って感じがしますよね~」
本当に久しぶりだ。去年はトゥインクル・シリーズで忙しかったし。
「大忙しだったもんな」
「誰のせいだと思ってるんですか~?」
ジト目で睨みつけられる。よし、俺が悪かった。
テレビを見て、コタツでのんびりする。うん、このゆっくりとした日々がいい。
《お前らの中に裏切り者がいる!今からその裏切り者をあぶりだすぞ!》
「毎年あるよなこの展開」
「でもでも、毎年面白いですよね~……犠牲者は可哀想ですけど」
それはそう。
それにしても……そろそろいい時間だな。
「良し、年越しそばの準備するか」
「え?もしかしてトレーナーさん作ってくれるんですか!?」
「材料はあるしな。ちょっと待ってろ」
キッチンに戻ってササっと年越しそばを作る。ミラ子のと合わせて、2人分。
「ほれ、できたぞ」
「わ~い!やったやった~!おっそば~♪おっそば~♪海老天ものってし~あわせ~♪」
そんなに嬉しそうにしているとこっちも作った甲斐があるってもんだ。
ミラ子とそばをすする。
「ん~!おいし~い!さてはそばプロですね?トレーナーさん」
「既製品で作ってるのにプロも何もないだろ」
「え~?うっそだ~。本当に美味しいですよ!」
「そこまで喜んでもらえたら作った甲斐があるってもんだな」
他愛もない会話で時間は過ぎていく。心地よい時間が流れていた。
そばも食べ終わって、コタツでゆっくりして。時計の針の音だけが聞こえている。ミラ子はというと、うつらうつらと舟をこいでいた。
「う~ん……」
「ミラ子、眠いなら寝ていいんだぞ?布団は用意するから」
「で、でも~、もうちょっとで年越しですから。だから我慢します……」
いいながらもミラ子は舟をこいでいる。もう意識があるのかどうかもちょっと怪しいな。布団の用意をしようと立ち上がるが。
「いかないでくださいよ~、トレーナーさ~ん……」
「……」
引き留められたので座りなおす。決して、決して甘えた声のミラ子に屈したわけじゃない!
テレビの音と時計の針の音だけが聞こえる室内。そんな中で。
「ありがとうございます、トレーナーさん」
唐突に、ミラ子がお礼を言ってきた。
「どうしたんだ?藪から棒に」
「う~ん……感謝しないと、って思いまして。だって、普通だったわたしがここまでこれたのは、間違いなくトレーナーさんのおかげですから」
目が覚めてきたのかもしれない。先程よりは意識がはっきりしているミラ子の目がこちらをのぞき込んでいた。
「ふつ~に大学に進学して、ふつ~に就職して。そんなふつ~の日々を過ごすんだろうな~って漠然と思ってたんですよ。でも、そんなふつ~の日々を、トレーナーさんが変えてくれました」
黙ってミラ子の話を聞く。懐かしむようにミラ子は語っていた。
「最初は正直、あんまりな~って思ってました。凄くぐいぐい詰めてくるし、わたしには才能がある!って無理やり引っ張りましたし。表舞台に立つの苦手なのに、トレーナーさんの言われるがまま立たされましたし」
「だってミラ子は凄いからな。その凄さをみんなにも分かってほしかった」
「わたしは、そんな大層なウマ娘じゃないですよ~。他の子達に比べたら全然ですし。意識低い系ですし」
でも、と続けるミラ子。
「トレーナーさんの期待があったから、ここまで頑張れました。おっきいレースを勝つのって夢みたいだ~って思ってましたけど。結局4つも勝っちゃいましたもんね。本当に、奇跡みたいな出来事ですよ」
「奇跡なんかじゃねぇよ。ミラ子の実力だ。ミラ子の実力があったからこそ、4つも勝てたんだ」
「アハハ、ありがとうございます」
テレビはそろそろ佳境を迎えていた。そして──ゴーン、ゴーンと。鐘の音が響く。
「除夜の鐘か。あけましておめでとう、ミラ子」
「やった~。起きていられましたよトレーナーさ~ん。あけましておめでとうございま~す……えへへぇ」
嬉しそうに笑うミラ子。とりあえず布団の準備しておきますかね。
「トレーナーさんには、一番に新年のあいさつしたかったですから~。起きれてよかった~」
「ッ!」
やめろ!ドキッとするだろ!
ミラ子が、
(ヤバいヤバい!めっちゃいい匂いする!耐えろ、耐えろ俺!長男……別に兄弟とかいないけど耐えろ俺!)
理性もギリギリの中、ミラ子の声が聞こえる。
「来年も、これからもずっと……わたしに期待してくださいね?トレーナーさん」
「……」
そんなの当り前だ。
「これからもずっと、お前に期待するさミラ子。2人で頑張っていこう!」
「えへへ、やったぁ……」
その言葉を最後に。ミラ子は眠った。可愛い寝息を立てている。
……さて、と。
「布団の用意するか」
危なかったぜ俺……!よく耐えてくれた俺の理性!
ミラ子を布団に寝かせて、俺はテレビを見る。外では除夜の鐘が、まだ聞こえていた。
良いお年を