殺された者になる魔法   作:つるもちぷに

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11『殺せない敵の殺し方』

 ルートが直線にならないようにしばらく歩き回り、足跡魔法の対策でバックトラックを何度か仕込みながらテイターは移動した。

 

 フリーレン達は北上するルートを通っている。となると万が一撒く事が出来ても北に進んでは再会する可能性もある。真っ直ぐ戻るというわけには行かないが、ひとまず大雑把に向かう方角としては南を選んでいた。

 

 やがて日が地平線に半分ほど隠れ、空に夜の気配が滲むほどの時間になると変化が起こった。

 視界の悪い森の中を歩くテイターの数メートル先に、強力な魔法が着弾した。衝撃波に耐えながら上を見ても、魔法が空けた穴からは夕と夜の中間の空が見えるだけで、射手の姿は分からない。

 だが予想は付く。

 

(今の一般攻撃魔法の太さはフリーレンだな。追い付かれた……それともずっとつけられていて準備が今完了したのか?)

 

 それ以外で急に魔法が降ってくる原因は思いつかない。しかし準備が完了してしまったとすればテイターは悠長にしていられない。

 取り敢えずまずは敢えて魔法が降ってきた方へと進む。

 すると更に精密に様々な角度から魔法が飛来し、テイターの行く手を阻むように木を薙ぎ倒して道を封じたり、衝撃波で吹き飛ばしたりした。

 

(明らかに誘導してるな……しかも無理やり進めばうっかり俺を殺しかねないから手が弱まるかと思ったが、魔法が上手すぎて普通に止められてる。こうなると足でも折って生きたまま逃げられなくなる方が最悪だ)

 

 テイターは少し荷物の背負いを直し、それから飛翔して森の高さを抜けた。

 

 テイターはもともと飛行魔法を習得していなかったが、物を浮かせる魔法などと並び、一人での生活に於いて有用性の高い魔法は研究時間を少し削ってでも習得した。そうした日常の効率化は狙い通り、結果的に研究時間を増やす事に繋がっていた。

 

 木の高さを抜けると少し遠くに小さな人影を見つけた。銀髪のツインテールを風に揺らしながら浮かぶフリーレンの姿があった。

 しかし魔力探知を少し広げてもフェルンやシュタルクの気配は何処にもない。魔力隠蔽が達人級に上手いフェルンはともかく、シュタルクすら近くに居ないのはテイターに違和感を抱かせた。

 

 だがその疑問を精査する間もなくフリーレンの魔法が放たれる。一般攻撃魔法が連続で二発放たれ、攻撃はテイターの背後で衝突し衝撃波がテイターを吹き飛ばした。

 そして同時にフリーレンは飛行魔法で一気にテイターへ迫る。

 

(っ……解除!)

 

 受けた衝撃波へ敢えて身を任せ、テイターは飛行魔法を解除して自ら地面へ叩き付けられに行く。しかし着地前にフリーレンが追い付き、テイターの体は森に突っ込む直前で浮かされて慣性を失う。

 だがテイターは身を捩り、今度はフリーレンへ向けて魔力の塊をぶつけた。その防御でフリーレンはテイターの制御を離すが、流石にもう落下死出来る高さでは無く、何本かの枝を折りながらも地面へ無事落下してしまった。

 

「さては過去の魔族はフリーレンが飛べなかったから逃げ切れただけだな、じゃなきゃどうすればこの猛攻から逃げ切れたんだ!」

 

 息切れしながら悪態を吐くが、テイターはすぐに体を浮かし、今度は低空で森の中を飛び抜けていった。

 

 

 

 

 

 テイターが今まで使っていた家を去る少し前に、フリーレン達は対テイターの作戦を立てていた。

 

「テイターは準備が整うまで倒す事が出来ない。だけどもし私が気付いた事に向こうも気付いていたら、悠長に準備する暇は無いと見るべきだ」

 

 フリーレンが杖以外の荷物をフェルンに預けながら、二人へ向けて説明する。

 

「じゃあ準備が出来るまで足止めするのか?」

 

 シュタルクの質問にフリーレンは頷いて話を続けた。

 

「まず私が足止めをする。消耗させるまでは掛ける隙が無いだろうし破られる可能性もあるけど、取り敢えず封印を狙う。その間シュタルクには封魔鉱を取って来てほしい」

 

「それ何ヵ月前の話だよ、前に見つけた所はさっと取りに戻れる距離じゃないだろ」

 

 険しい顔でシュタルクが確認するが、フリーレンは表情を変えずにフェルンの荷物から紙を取り出す。

 

「ゼーリエが前から手配してたみたいなんだ。さっき天脈竜の素材を届けた村があったでしょ。あそこに封魔鉱を保管しておいて、魔法使い以外の強い冒険者が来たら討伐させる予定だったって依頼書に追記してあった。入手自体にも時間が掛かってたらしいけどヴァイゼも機能するようになって今はもう届いてる筈だってさ」

 

「確かに魔法使いだと封魔鉱を使ったら戦えませんもんね」

 

 フェルンの一言もあって、重大な責任が圧し掛かるような感覚にシュタルクは身を強張らせた。

 

「責任重大だなあ……もしまだ届いてなかったらどうするんだ?」

 

「その時はフェルンが何か魔法を撃ち上げて知らせて。もし奴が封印を解除出来るとしても魔力は使う筈だ。私が強引に封印を掛け続けて魔力切れを起こさせる。けど倒すのはリスクが高いから、封印を解除出来ないくらい消耗させたら、後は封魔鉱が届くのを待つしかないかな」

 

 そうして三人は封魔鉱を取りに戻るシュタルクと、連絡係り兼緊急時援護のフェルン、足止めのフリーレンの三人に分かれた。

 フェルンという逸材が今回甘んじて援護の役割になっているのは、今日まだ日が高い頃に別件で天脈竜の背中へと登った際の、長距離飛行による魔力消費がそれなりにあったのも一因でもあった。

 しかしその後テイターが予想以上に素早く動き始め、しかも見失いやすいと分かると、フリーレンはフェルンに指示して飛行魔法でシュタルクを村まで運ぶように頼み、自身はテイターに攻撃を仕掛けて遠くまで移動し過ぎないよう足止めし始めた。

 

 

 

 

 

 森の中を縦横無尽に飛び回りテイターを狙う魔法は、しかしほとんど彼には着弾しない。

 絶対に死なない程度まで威力を抑えた、修行用とでも言うべきものが時折命中し彼の移動を妨げるくらいで、後はとにかく進行方向に衝撃や障害物を生み、テイターが負傷して動きを鈍らせるか否かの瀬戸際を飛んでいた。

 一方的に爆撃されながらテイターは考える。

 

(俺を倒すために誘導するとすればどういう理由で、何処に誘導する? 事前に作った罠なら罠を作った人間が俺を殺したと魔法は認識する。あるとすれば偶然自然にあった地形だ)

 

 苦し紛れにまた魔力の塊を飛ばし、フリーレンが防御する隙に更にテイターは魔力を沈めて地に降り駆け出す。

 

(もし俺が尖った岩にうっかり突っ込んだら、これは多分追い込んだ奴には俺の魔法は発動しない。なんなら倒れた木にぶつかっても……いや違う、倒れてない木だな。フリーレンの魔法で邪魔を作った場合はフリーレンに効果が帰属する)

 

 そう考えながら坂道を下る勢いで森を抜け、今度は崖から飛び降りそうになったのをテイターは渾身のブレーキで踏み止まる。いつの間にか山道の端まで来ていた。

 しかし山道を南へ下れば村がある。

 

(人質を取れば切り抜けられる可能性は高い筈だ)

 

 テイターは崖から飛び、壁のようになっている足場を影に飛行魔法で南下した。

 しかしすぐに崖の上から白い光線が現れ、軌道を曲げてテイターのすぐ傍へ迫った。

 

 日が沈み、夜が来ていた。

 

 テイターは防御魔法を展開しフリーレンの放った無数の一般攻撃魔法のうち自分の近くへ着弾するものを防いだ。

 同時にフリーレンが追い付き崖の上から現れてテイターを視界に捉えた。テイターも彼女を視界に捉えた。

 

「防御魔法も使えるのか。けど魔力切れが早まるなら助かるよ」

 

 着弾音で掻き消され聞こえる筈も無いテイターに向かってフリーレンは呟く。

 かつて封印を解かれたクヴァールが狙った防御魔法の魔力効率の悪さという弱点は、ここに来てフリーレンに強力なアドバンテージを与えていた。

 加えて魔力の塊をぶつける技も、テイターの魔力量ではそう何発も打ち出せる弱技とは行かない。あれを使って打ち合えるのはソリテールとフリーレンの常識外れの魔力量があってこそだ。

 そして回避するだけで回避出来るほど魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)は遅くない。

 

 何処へ逃げるにしても森の方がまだマシだと気付き、テイターは再び崖を登って山道へ転がり込む。まだ距離は少しあるが、もう村が視認出来る場所まで来ていた。

 

 だがここで疑問が湧いた。

 今まで自分の進行方向を(ことごと)く操っていた彼女が、こうもみすみす村へ自分を近付けさせるだろうか。

 

(彼女がこんなミスをするとは思えない。誘導されてる。村に何かがあるんだ……何故フェルンは彼女と一緒に攻めてこない? 役割を分担してるのか?)

 

 少しでも足を止めるとフリーレンは杖の先の魔法陣を消し接近してくる。

 

「クソッ!」

 

 テイターは森へ入り、封印されまいと辺りに落ちていた小さな岩をいくつか魔法で飛ばした。当然その程度の攻撃をフリーレンはわけも無く捌き切るが、魔力を節約した時間稼ぎにはなった。

 そしてまた頭を回す。

 

(役割分担があるとすれば、俺を足止めする係と攻略のための何かを準備する係だ。フェルンとシュタルクが恐らく準備担当なんだ。何なら俺を倒せる?)

 

 村へは徐々に近付いていた。もしかすると近付かされていたかもしれない。しかし状況を打破するテイターの目論みも村に近付かない事にはどうにもならないのだ。

 

 

 

 

 

 途中でフェルンに追い付かれ、村まで直行で運ばれたシュタルクは村人に封魔鉱が納品されているかを確認した。着いた頃にはもう日が沈みかけていた。

 

「少々お待ちください、すぐお持ちします!」

 

「良かった、届いてたか!」

 

 シュタルクが胸を撫で下ろす隣で疲れ切ったフェルンが彼の肩に体重を掛けた。まだ魔力を使い果たしたとまでは行かないが、人間の飛行運搬は相応に負担だった。

 

「フェルン大丈夫か?」

 

「少し疲れただけです。戻る時までには」

 

 傍目には疲れが少なく見えるが、それでも長年旅を続けるシュタルクには彼女の疲労が普段以上である事が分かった。

 

「戻る時までにはって、帰りは走りだぞ? 封魔鉱運ぶのに飛行魔法は使えないだろ」

 

 そしてこれを聞いた時の少し絶望した目の色も分かった。その数十秒後に二人が待つ場所に村人が走って戻って来た。

 

「こちら依頼用に納品されていた封魔鉱です」

 

 村人の手にあったのは石ころ程度の大きさの青い鉱石だった。過去の旅で彼らが見つけたものよりも小さい。しかし紛れも無く封魔鉱ではあった。

 

「魔力探知が効かなくなりました。でも効果範囲が狭すぎますね」

 

 フェルンが手に取ってそう言うと、今度はシュタルクがそれを手に持ってみる。すぐ隣に居るほどの距離でもフェルンの魔力探知は再び動いた。

 

「前見つけた奴で半径三メートルらしいからな。純度とかは分かんねえけど、それこそ大きさは十分の一くらいなんじゃないか?」

 

 その会話を聞いていた村人が少し心配するように尋ねる。

 

「問題無さそうでしょうか?」

 

「大丈夫。ありがとう。ちょっと今急いでるから色んな諸々は後で戻ってきてからでいいか?」

 

「はい、構いません」

 

 シュタルクが確認を取り村人が了承すると、シュタルクはすぐにでも村の入り口に戻ろうとした。

 

「…………あの――」

 

「ああ、そうだフェルン。疲れてるんなら今度は俺が抱えるよ」

 

 小さく口を開いた彼女と同時にシュタルクがそう言うと、フェルンは少しぶっきらぼうに答えた。

 

「いいから早くフリーレン様の元へ向かって」

 

 そう言われるとシュタルクもそれが最適解な気がして、特に機嫌を変える事なく答えた。

 

「それもそうだな、分かった」

 

「えっち」

 

「なんで!?」

 

 最後に少しだけ二人の機嫌が擦れ違った。

 村を出た彼は出来る限りのペースで走り続けたが、シュタルクは走力に長けた戦士ではない。一般人よりは速いものの、師匠であるアイゼンのように水上を走れるほどとはいかなかった。

 

 いつの間にか日が完全に沈んでいた。遠くでは恐らくフリーレンの魔法と思われる光が目立っていた。

 

「フリーレンなら倒される事はないだろうけど……」

 

 シュタルクが道を走りながらそう呟いていると、戦闘方向から光線の一つが飛来した。

 

「うおっ!?」

 

 間一髪で飛び退いてなんとか直撃は逃れたが、その一撃はシュタルクの目の前を完全に吹き飛ばした。

 しかも運が悪い事に地盤が少し脆く、下がったシュタルクの足場まで巻き込まれて崩れ落ちた。

 

「やばいッ!!」

 

 咄嗟に斧手を構え、シュタルクは崖の壁へ向けて力一杯に振る。渾身の一撃は岩肌を抉り砕き、赤熱と共に一角が弾け飛んだ。その隙間になんとかシュタルクは入り込み、想像したくも無い高度を自由落下する事はどうにか逃れた。

 

 逃れたが、山道まではかなりの高さが付いていた。流石にこれを登るのは簡単ではない。彼の膂力(りょりょく)ならば段差を作る事自体は容易いだろうが、これ以上下手に地形を破壊して土砂崩れを起こすと洒落では済まない。

 

「マジかよ……フェルンが来るのを待つか? いや封魔鉱が持ち上げられない。俺が自力で登るしか……いやでもこれは」

 

 地形が悪かった。崖の中でシュタルクが作り出した空間は切れ込みのような形状だが、壁に対する凹み型だった。つまり山道まで登ろうとすると鼠返しが必ず挟まる。

 加えて壊したばかり地盤だ。登っている最中に捕まった場所がほろりと崩れれば落下する。

 

 シュタルクは立ち往生させられた。

 

 そしてこの状況を生み出したのはフリーレンの魔法だったが、誘導したのはテイターだった。

 シュタルクへ攻撃が向かう直前、テイターは戦闘の最中である可能性に思い至っていた。

 

(俺を倒す準備で一番あり得るのは封魔鉱。次いで封印系魔法、次点で呪い返しだ。犠牲戦法は恐らくフリーレン達は使わない。呪い返しの魔法(ミステイルジーラ)はあるなら初手で使って俺を殺している筈だし、最悪仕組みを教えて『呪い』でなくすれば一時凌ぎは出来る)

 

 森の中を器用に飛び回りながらも、テイターはまた地形不利な崖の方に追い込まれ始めていた。

 

(封印は今もフリーレンが狙ってる。となるとフェルン達の役割は恐らく封魔鉱。そして恐らくそれはあの村に準備されていて、それを二人が取りに行っている。俺があの村に近付く事は俺を倒す手順に近付く事だから、その方向へ少しずつ誘導してるんだ。だったらむしろ……!)

 

 テイターは敢えて迷わず山道の方へ向かう。あっという間に森のカモフラージュを抜けて、上空のフリーレンから丸見えの位置に来た。そこを彼女は追撃するが、いつものように最大火力で倒すという事がテイターには出来ない。

 故に威力を絞った一般攻撃魔法はテイターの防御魔法によって、向きを傾けられた。

 

 これは先の黄金郷戦にて、防御し切れない高圧縮の攻撃に対しソリテールが使ったテクニックと同様のものだった。

 それをテイターは狙った場所へと弾き、丁度こちらへ向かっていたシュタルクの居る位置へ着弾した。

 シュタルクが居るという事まではテイターは視認していなかったのだが、それでも彼が狙った通りではあった。

 

「道は潰したぞ」

 

「……シュタルクならあれくらい飛び越えられるでしょ」

 

 狙いを悟られた直後でも顔に動揺を示す事は無くフリーレンは言い返した。自分のパーティの戦士への信頼は揺らがなかったが、しかしこの状況に於いてそれは噛み合わせが悪かった。

 戦いが終わりへと近付いていた。

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