「何が起こって———ハッ!?」
微睡みながらうつらうつらと目を覚ました緑谷は、いち早く目を覚ました物間が手首に手錠を嵌めようとしているのを見て、慌ててその手を蹴り上げて距離を取る。
「自力で眼を覚ました!? 【体育祭の時といい、なんなんだよお前、緑谷!】」
「【もっと意識を失ってくれたら好都合だったのに。残念だよ】」
「ッ———!!」
2人の洗脳を発動させた言葉には応じず、そのままデコピンでいつでも空気砲を放てるように2人に……特に先程の出来事もあって物間に向かって照準を合わせる緑谷。
「ははっ、警戒が露骨すぎるぜ! なァ麗日さん!」
「
頭上から無重力を解除しながら降ってきた麗日の掌底を、指先の肉球に触れないように注意しながら同じく掌底で腕を叩き落とし、【
「ったいなぁ! デクくん!」
「麗日さんっ!」
だが体術に優れる麗日は弾き飛ばされた勢いを利用して、緑谷を抱きかかえながら後退する。
「マジでなんだったのあれ。ウラメシイんですけど」
「ん」
「黒いものがこちらを中心に暴れ回っていたのが見えた故合流した。大丈夫かい、物間くん」
物間に向かって飛来する、もぎもぎと酸の矢の雨を、間にスッと割り込んできた巨大化した鉄板が防ぐ。庄田が鉄板の向きを調整し、凄まじい威力の掌底をぶつけて個性を発動する。
一度打撃を与えた箇所に任意のタイミングで数倍の衝撃を与える“ツインインパクト”。ボッと打撃音を響かせて中心が凹んだ鉄板が緑谷に向かって飛ぶも芦戸が展開する強酸のバリアに触れた瞬間跡形もなく融けて消えた。
「ああ、ありがとう。3人とも怪我はないかい?」
「へーき。それよりあちらも全員揃ってるし、」
「総力戦じゃあ!!」
「グレゴリオ戦のBGM大好き」
「ん?」
「何でもないよ小大さん、それじゃあ勝ちに行こうか。柳さん、庄田くん、小大さんの3人を中心に連携して攻めて! 心操くんは
「ああ!」
「ん!」
「わかった!」
「承知! 物間くん、遊撃を頼まれてくれるかい?」
物間は全員とハイタッチを交わし、激励を送ると共にコピー時間をリセット。庄田の頼みに首肯しようとし、自分に向けられる対戦相手からの視線に気付いて首を振る。
「———いいや、僕は緑谷くんを倒す。そして向こうもどうやらそのつもりみたいだ」
先程のように自分の個性に怯えていたような表情から一転し、全身に自信を漲らせ、それを体現するかのように緑光に煌めくスパークを全身に纏う緑谷。彼の眼差しは真っ直ぐに物間に向けられている。
「ああその視線、佇まい……魔王に立ち向かう勇者か、英雄か、豪傑か。まるで物語の主人公のようだな。ならば差し詰め僕は惨めに倒される悪役か? ああ、実に気に食わないな」
「だが———僕の方が強いぜ?」
フッと鼻で笑うような仕草も付け加えた明らかな挑発。それを理解した上で全力で乗る。そう決断した緑谷が澱みなくフルカウルを発動させて駆け出す。同時に物間も【
(レプリカ、解析はもういい。そっちに向けていたリソースを全部僕の戦闘補助に回してくれ。でなけりゃ緑谷くんは倒せないだろう)
【心得た】
「負けないで、デクくん!」
「ぶちかませ緑谷ぁ!!!」
「そのムカつく顔タコ殴りにしてやって!」
「うん、任せて絶対勝つ!」
「ははは、これじゃ僕が完全にヒールじゃあないか」
【いや、そうとも限らないだろう】
「ん?」
「物間くん、ご武運を!」
「ん!」
「あんたが負けたら対抗戦での敗北が確定するんだから、勝ってよね!」
「良いねぇ! ああ、君達の期待は裏切らないとも! そうだよな、裏切れないよなァ緑谷くぅん!!」
高く跳躍した両者は空中で激しく衝突。互いに繰り出した右拳を互いの左掌ががっちり掴んで防ぐ。衝撃波が吹き荒れ、小柄な峰田が吹き飛ばされかけた。
「期待される重みを、両肩にひしひしと感じるよねェ!!」
「———だからこそ、僕達が勝つ!!」
手が塞がった、でも! 足がある!
緑谷の飯田直伝の遠心力を最大限に利用した蹴り上げが物間の胴体を狙う。
「言ってくれるじゃあない、かッ!!」
緑谷の蹴りを黒いプロテクターに覆われた膝で受け止め、『印』を重複展開し威力を増した腕力で、掴まれた拳ごと振り抜くようにして遥か向こうまで投げ飛ばす。
「緑谷の奴、力負けした!?」
「隙アリ!!」
「攻撃来とる! みんな集中して! デクくんを信じて、任せよう!」
「さぁ緑谷くん、決着をつけようじゃあないかッ! どちらが最強のスタンド使いなのかをッッッ!!」
(だからっ、僕はスタンド使いじゃないってば! 何なの物間くん!)
受け身を取りながら起き上がった緑谷は、上空から降ってくる物間の踵落としに上段蹴りをぶつけて防御。
一撃一撃の重さは物間の方が上なためダメージはなく、蹴った反動で物間が飛んで下がり、下がった先の配管に手を添えながら地面に着地する。
(とりあえずっ、物間くんの手札を整理しよう。
まず【
【
【
【
そしてこれらの力は重複して使用できるけど、重複するほどに効果が増す分紋様の構築速度が遅れている感じだった。チャージ攻撃みたいだ)
そこに加えてB組全員の個性をコピーしているはず。
個性伸ばしで同時にコピー出来る数は増えたと風の噂で聞いたが、
考えることが多過ぎる。
「随分と焦ってるじゃあないか。付け入る隙が多いし、これなら然程苦戦しなさそうだ」
(【
ならば、
「素早さで翻弄して疲弊させる!」
フルカウルを発動し、物間の周囲を立体的に駆け回りながらヒットアンドアウェイで攻撃を加えていく緑谷。
「僕思うんだけどさ、」
その高速の連撃をいなし、躱し、未だ一つ傷を負っていない物間。
「柳さんのポルターガイスト。操作性、精密性、速度、同時操作数量、どれを取っても高水準。その領域に至ったのは、まさしく個性強化訓練を経た彼女の努力の結晶なんだけどさ、欠点として総重量制限というものがあってね」
緑谷の着地する先を見越したように巨大な配管全体にポルターガイストによる薄紫のオーラを纏わせる。
そこに足をつけ、しまったと警戒する緑谷。だが配管は動かない。
「このように操る物の重さがキャパオーバーした時点でその場から動かせない。ああでも、干渉自体は一応できるんだよ。その証拠が配管に纏うオーラだ。ここで一つ面白い現象をお見せしよう」
物間はポルターガイストで、細々とした物体を弾丸のような速度で射出し、跳ね回る緑谷の後を追尾させる。緑谷はそれを回避し、避けられないものは空気の礫で撃ち落としていく。
「元々ポルターガイストで動かしている物体が、なんらかの要因で突然重量が増してキャパを越えたとき。その物体はその場から動かなくなる。たとえそこが空中でも。ご覧頂こうか、“解除”、続けて“大”」
動きを想定していたかのように緑谷の前方に飛ばした鉄板が元の大きさに戻り、そして拡大する。小大唯の“サイズ”は、物の大きさを変える時に大きさに比例するように質量も変化する。そのため高速で移動する緑谷の目の前には避けようがないほどまで急拡大された鉄板が迫っていた。
「っ、SMASH!! うわっ!?」
故に蹴りで破壊するしかない。しかし鉄板に仕込まれていた爆薬が衝撃を与えられたことで起爆、緑谷の五感を襲う。閃光で目を灼かれないよう緑谷を盾にし背後に回った物間が【
「がっはぁ!?」
「まあつまり、2人の個性を合わせれば即席の障壁や障害物のような使い方も出来るんだよね。あとは大砲を空中固定して固定砲台化とか? いいね、夢が広がる」
◇
「あーだから
「小大さんの個性で総重量制限を超過したため、なるほど……」
物間の解説をモニター越しで聞いていた生徒達は、緑谷と別行動を取った麗日達3人が奇襲を受けた時の状況を思い返し、納得する。
滅茶苦茶な軌道で暴れ回っていた物体が拡大すると同時に空中で動きを止め、庄田のツインインパクトで爆発的な力の指向性を得て射出され、麗日達を襲ったのだ。
相乗効果がすごい。
◇
「ぐっ……」
「だけどねぇ、制限なんてない方がもっと力を発揮できるのにって、そう思わないかい? 君の個性も、君自身の肉体的な強度や耐久力が増せば、体育祭でフィールドを破壊し尽くした超パワーを自在に操れるーー多分そうじゃないかな?」
「ッ! 一体君はどこまで見透かして……!」
「判定がスカだったからだよ。君の個性は蓄積タイプだ。その情報だけ有れば、自ずと無い可能性を除外していけば推測だろうが正解に辿り着く。ま、鉄哲は分からないだろうが泡瀬くんレベルの頭脳なら答えは自ずと導けるだろう」
なにおう!と何処からか聞こえる怒声と、他人を勝手に指標にすんな!という抗議の声を空耳と断定して無視しながら、地面に転がる緑谷に語りかける物間。その佇まいは余裕に満ちているようで隙がないようで。故に底が見えなく、恐ろしいと緑谷の頬を冷たい汗が伝う。
「迂闊だったよ。確かにあの瞬間、彼女がうまく触れられたら僕の重力を消し去り行動不能にできた。ああ、だけど彼女は、麗日さんは考慮すべきだったかもね! 僕に触れるということは、僕に
「ーーーまさかッ」
「そう、そのまさかだ!
僕は今から、“ポルターガイスト”に課せられた制限を解き放つ。覚悟はいいかい、緑谷くん? 僕は出来てる」
“無重力” + “ポルターガイスト”
めきめきっ、と配管が地面から引っこ抜かれてゆく。四方から寄せ集められた夥しい鉄屑が、海中を覆い尽くす魚群のように緑谷と物間を取り囲む。
「さぁ行くぞ緑谷くん。これより戦いは、文字通り加速する」
次回———死闘