「んじゃぁ、講評に移るが……その前に一つ。緑谷、なんなんだお前」
保健室から帰ってきた緑谷は、全自動車椅子に座り胸部から腹部にかけて包帯を巻いていた。ある程度リカバリーガールの治癒が施されているものの完治には程遠く、とりあえず車椅子の上で安静にしているよう指示された。
「何やら黒い物が顕現していたが」ソワッ
「暴走していたようだが技名はあるのか」ソワッソワッ
「超パワーから明らかに逸脱していたよなぁ」
(なぁにを言ってるんだい相澤先生はよォ? ミドリヤはジョースターの血を受け継いだスタンド使いで決まりじゃあないのかいッッッ)
【個性という発想が真っ先に出ないのはどうかとは思うが】
(冗談だよ。しかし解析結果が本当だったことに驚いたぜ、まさか彼が2つ以上の個性を持つなんて)
障子や耳郎など聴力に長けた者が聞けば物間の側に会話をする存在がいることに気付いただろうが、ここは明らかに個性を使う場面ではないので、2人が極々小声で話す内容は誰の耳にも拾われなかった。
「僕も正直よくわかっていないんですけど、」
保健室で簡潔にオールマイトとリカバリーガールに情報共有し相談した後、緑谷はクラスメイトや教師の面前で聞かれた際には自分でもよくわからないと真実をぼかす方針に決めた。
「信じていたものが、突然自分に牙を剥いたような気がして、すごく怖かった……」
「ふぅン? それまでは信じるに足る力だったってことかい」
ふと溢した物間に一瞬目を向けた緑谷だったが、すぐに視線を前に戻した。
物間からしたら他意なく溢した言葉だった。かつてレプリカと行った個性伸ばしの実験で、己の身の丈に余る個性をコピーしてしまい危うく自滅しかけた経験があったため、個性は適切に使わないと我が身を滅ぼす『道具』だと自分の認識を改めた。
その経験からか、体育祭や林間合宿などでいとも簡単に自損自傷しながらも超パワーを解放していた緑谷が、それでもなお己の超パワーを信じていたと言い切れることが到底理解できなかった。
「だけど! あの時心操くんが助けてくれた。だから僕は誰も傷つけずに済んだ、ありがとう!」
「おい僕は???」
「あ、うん、一応物間君もありがとう」
「一応ってさァ、何だよ君ィ! これでも身を挺して黒い力を捩じ伏せたりしたんだぞ、自身の力なのに碌に制御出来ない君と違ってさァァァ!!」
「それはごめん……」
「君とは!! 違って!!!」
「すごいマウント取ってくるノコね」
「やめろ物間。手荒だけど俺の事も助けてくれただろ、ありがとうな」
「フン、心操君の聖人っぷりに感謝するといいさ」
(((小物臭パネェ………)))
そっぽを向く物間にA組の一角から声がかかる。
「正確に講評したいのですが、やはりそうなってくると物間さんの紋様みたいな力の詳細を知らないことには正確な判断も下せないのです」
下学上達を信条に掲げる才女にして優等生、八百万百。詳細をある程度は知るB組とは対照的にA組がウンウンと頷く。
「本当は機密情報だから教えるのは渋るんだけど……まあ互いのクラスの交流会だし、開示するべきだね」
「さっさと話しやがれクソ猿真似」
「少し黙ってろよ脳みそTNT野郎」
「あ゛?」
「喧嘩するなぁ!!」
間に切島が割って入るのを、喧嘩しないさとジェスチャーで示す物間。徐に背中を向き、【
「僕が使う『印』と呼ばれる力は、個性:コピーの延長にある能力だ。
まあざっくり言えば個性の模倣、それを印として登録して好きな時にいつでも使えるってわけだ」
嘘である。本当はレプリカの力だが、レプリカ自身もコピーの外付け個性器官ということにしておいた方が何かと都合がいいのだ。
「そんな力が……」
「まあ印の登録上限数だったり、印の精製過程の面倒さだったり、色々と制限があるけど。それらを差し引いても強力な力だと思ってるよ」
「ありがとうございます……」
丁寧にお辞儀をして礼を述べる八百万。
「それらを鑑みても今回の戦闘のMVPは、心操さんだと思われます」
「そこはお世辞でも僕って言ってよ」
「講評でお世辞言ったら駄目だろ」
「それはそう」
「理由としましては物間さんが緑谷さんにトドメを刺したあの一撃は明らかに過剰火力でした」
「……まぁ、返す言葉もないね」
ツインインパクト全開放。負けそうになった時に忍ばせた保険だったが、対人に向けるにはあまりに危険な技なので、打つ手がなくなった時まで使わないと決めていたのだが。
使わせられるとはまだまだ未熟だな、と物間は自省する。
「途中緑谷さんの暴走という予想外のアクシデントがありましたが、苦しむ緑谷さんが応答しやすい質問を投げかける咄嗟の判断力と頭の回転の速さ、その後の乱戦においては自身の個性と戦闘スタイルを最大限に活かす立ち回りを行う堅実さから、私は彼がMVPだと思いましたわ」
「……そこまで言われる程、俺は100点満点じゃない」
ん?と小大と柳が揃って首を傾げる。
「別に緑谷の為だけじゃなかった。物間に諭されてやっと動いただけだし、ていうか柳さん達が襲われているのを見ても俺は何も動けなかった。
心操は首の後ろを手で摩りながら、下を向いて回顧する。
「俺は緑谷達と戦って勝ちたかったから、勝つために止めました。偶々そうなっただけで、俺は自分の心で精一杯でした」
そんな心操に相澤がつかつかと歩み寄り、首元の捕縛布を締め上げようと手を伸ばそうとして、物間が心操の胸ぐらを掴んだ。
「喧嘩ダメーー!!」
「おまっ……」
「じゃあ何で、あの時『助けられたのかな』なんて溢したんだ」
物間の細められた目に宿る炎のような激情を見て、心操は言い訳の言葉を続けることができなかった。
「ヒーローになるために雄英の門戸を叩いて、相澤先生に弟子入りして、ここまで来たんだろう? 緑谷君が個性の暴走で苦しむから助けたいと思ったんだろ?」
「それは! お前に発破をかけられたからで、」
「最終的に決断したのは君だ! 助けたいと願った己の気持ちを、他ならぬ君自身が否定してやるんじゃないよ! そしてその否定は一人前のヒーローを志すこの僕への侮辱発言でもあると知りグエッ!?!??」
相澤が己の捕縛布で物間の首を、心操の捕縛布で心操の首をそれぞれ締め上げて黙らせる。
「ぼ、暴力だー!!」
「「「PTA!PTA!」」」
「な、何ですか今良いところだったのに!」
「知るか」
首を抑えて地に伏した物間を尻目に相澤先生は心操に語りかける。
「誰もお前にそこまで求めちゃいないんだよ」
「先生……」
「初日でそれが出来たらオールマイト級の天才だろうが。救いたい思いが先行しても思いだけで人は救えない、自分1人で何でもできる存在にならなきゃ周りも助けられない……そういう意味じゃ、今回のお前の働きは充分及第点だったよ」
「そ、そうだよ! 相澤先生と見間違えるほど捕縛布の扱いがすごかったし、それに———」
心操の良かったところを辿々しくも次から次へと述べていく緑谷を見て、物間は立ち上がり土埃を払う。
「全く、美味しいところを全部持って行かれたよ」
【ネイトはちゃんと、ミドリヤへの追及を有耶無耶にしただろうに】
「は?」
【自身が騒がしく小物感溢れる人物に見られることも厭わず、茶番を演じて話の流れを誘導したことも、私は理解している】
「…………あのね、そういうのじゃないから。今やるべきことは反省会だ、異端審問じゃない。こういうのはダラダラとやらずにさっさと終えて帰ってご飯を食べたいんだよ僕は腹ペコなんだ」
【そうだな、そういうことにしておこう】
「さては僕のセリフ取ったな?」(対抗戦前編参照)
その後はブラドキング先生から心操が2年から編入することを聞かされ、一同は大盛り上がりして授業が終了。普通科の寮に帰ろうとする心操とFGOのフレンドコードを交換し、ついでに連絡先も交換。
途中でオールマイトに呼び止められたような気もしたが夕飯の準備があるからと適当に返答して物間は【
◇
「で、今夜はクリームシチューのはずだが」
「でもA組B組で反省会の続きをするだろうから、20人分多めに作っとけって相澤先生が」
「それを是非B組にも伝えて欲しかったなぁ……」
A組寮で反省会と交流会を兼ねて一緒にご飯食べようと誘われたB組。ならばと物間は、あまりの美味しさに服が弾け飛ぶほど悶絶しろと言わんばかりの自信を込めて昨晩から丹精込めて煮込んだクリームシチューが入ったクソデカ大鍋を抱えて悠々とA組寮まで抱えて来たが、既にA組がビーフシチューを人数分作ってると言われて露骨に不機嫌そうな顔になる。
「仕方ない、明日の晩ご飯にしよう」
「運ぶの手伝いますぞ」
「ありがとう宍田くん」
「あ、待って! 宍田くん、僕が変わるよ」
2人の前に現れたのは緑谷。体操服に身を包んでいる、追加で自主練していたのか。
「ふぅン、ちょうど良かった。先に食べててくれるかい宍田くん、ちょうど緑谷君と話したいことがあるからさ」
「了解しました。ビーフシチュー、皿に取り分けておきますぞ。どのくらい食べますかな」
「大盛りで。助かるよ」
外の冷気が入ってこないように扉を早々と閉める宍田に手を振り、物間は寸胴鍋の取手を片方掴んだ。
「さぁ、疾く反対側を持ちたまえ。僕らどころかクリームシチューまで凍ってしまう」
「そうだね、よいしょ」
緑谷と鍋を運ぶ。物間も鍛えているだけあって、素の身体能力は結構高い。そのためフィジカル派の緑谷と運ぶと不思議と互いのペースが合い早歩き程度の速度で鍋を運ぶことができる。
「こんな時間まで自主練かい?お疲れ様だよ全く」
「あはは、ありがとう。あの力は一向に上手く使いこなせないんだけどね」
「そう言えば僕が殴った箇所はまだ痛むかい? 流石にやりすぎたと反省してるけど」
「あ、うん、もう大丈夫! リカバリーガールが綺麗に治してくれたから……」
「それでも身体を動かすのは控えた方がいいだろ……うん、その節は大変すまなかった」
「いやいやそんな、僕だって思いっきり殴ったし歯とかが折れてないか心配で」
緑谷の中では物間という青年は、何かとA組食って掛かる問題児な優等生、という印象だった。だがこうして数回会話を交わしてみれば随分と冷静で思慮深い青年のように感じられた。
「まあ僕は大丈夫さ。咄嗟にフェイスシールドを展開出来たから」
「良かった! にしても物間君のスーツって頑丈なんだね。参考までに聞きたいんだけど、何か特殊な材質とか使ってるの?」
「企業秘密だぜ?」
「あ、ごめんね……」
実際のところ材料なんて物間にもわからない。何せ鎧といっても流体金属みたいに変形するレプリカを身に纏っているだけだし、そのレプリカも何から出来ているのか不明なのだ。
「実は僕さ、物間くんのあの発言、身に覚えがあって共感したんだ」
「あの発言?」
「持たざる者の何とかってやつ」
「ああ……アレか。身に覚えってことは、君は」
「うん、人から貰った個性なんだ」
「は!?」
てっきり遅咲きの個性とかという発言が来ると思っていたのに全く予想だにしない方向から返答が飛んできて思わず物間は鍋を取り落としそうになった。
咄嗟に物間の懐からにゅんと現れたレプリカが鍋を下から支える。
【おっと気をつけるんだ、ネイト】
「ぅううええどどっどちら様ぁぁぁ!?!?」
ビビり散らかす緑谷だったが責任感の強さからか鍋は取り落とさなかった。えらい。
【驚かせてしまってすまない、ミドリヤ。私はレプリカ、ネイトのお目付け役で将来の相棒/サイドキックだ】
「お目付け役って、僕はもうそんな歳じゃないぞ? まあ彼……彼?は僕の個性の外付け器官だ、自我があるけどね」
【よろしく頼む】
「よ、よろしくお願いします」
バレてしまっては仕方ないと物間は鍋を持ち直し、顔の横に浮いて現れたレプリカを緑谷に紹介し、ぺこりと会釈をする緑谷。礼儀正しい。えらい。
「はー、つまりその人から貰う前までは、個性がなかったとでも言いたいのかねきみは」
「うんまあ、そうなんだ……だから共感もできた時期もあって、」
そこまで言いかけてあれ?と緑谷は思い至る。これひょっとして嫌味になってないか?
現に自分は誰もが羨むような、スーパーヒーローに相応しい力を手にしている。そんな自分にも冬の時代があったからきみに共感できますなどとつい言ってしまったことに気付く。それを見た物間はため息をつく。
「自分も共感したことがある感情を抱えてる様子だったから何か言わなきゃ、でも結局何が言いたいのか決めずに口走ったところかい」
「え、あ、うん、はい……」
「共感されたところでねぇ?って感じ。僕自身傷の舐め合いがしたいわけじゃないし、
「……」
「ったく。優しいねェA組の優等生サマは」
「ごめん」
「何の謝罪だ、つくづく意味不明だな。辛気臭い顔してるとその口に僕特製の絶品クリームシチューを突っ込むぞ!」
「えぇ!?」
【ネイト、着いたぞ。ミドリヤも、階段があるから足元に気をつけるんだ】
「ありがとう、相棒」
「ありがとうございます」
はいこの話はもう終わり!と陰気な雰囲気を無理矢理払拭するように叫びながら階段を上る物間。近所迷惑だと諭すレプリカ。その2人の様子を見てふと納得する緑谷。
「戦闘中、誰かと話してたように見えたのは気のせいじゃなかったんだね」
「うん。首元にレプリカを忍ばせて会話していたからさ」
『なるほどな、道理で四ノ森さんが気配を2つ感じていたわけだ』
「先代さん!?」
「自我を持ったスタンドか」
【ミドリヤのお目付け役か】
『そろそろジョジョから思考を離せよ? そこは素直に個性なのかって言っとけよ現代っ子』
B組寮の扉を開けてキッチンのコンロの上に寸胴鍋を乗せ終えたところで、腕組みしながら緑谷の後方に現れるスキンヘッドの男。腰から下がモヤになっている。
確かにポジション的にスタンドに見えなくもないとレプリカは思った。
「人から貰った個性、ということは前の持ち主が貴方なんですか?」
『直前の、ではないな。その前の前の……まあ初代継承者から数えて5番目だ。ちなみに坊主が9代目だ』
「そんな簡単に教えていいんですか!?」
『なんだァ? さっきお前、8代目のと話してて、どの道コイツに教える方向性だったろ? んなもん早いか遅いかの違いだ』
「はえー、そんなナルトの火影みたいなのが現実にあるなんて」
『俺達からすれば現代の個性のほうが余程トンチキな代物が多いんじゃねえかと感じるがな』
なんかまだ僕に話す内容が残っているみたいだ。面倒なのは嫌だなー、と思いながら物間は緑谷を寮の外へそそくさと追い出しB組寮に鍵を掛ける。
「そう言えば5代目さんっていつの時代の人間か伺ってもよろしいですか?」
『あん? そうだな……超常黎明期からしばらく経って、混迷期らへんか? 今坊主達が生きている平和なんぞ世界のどこにもない暗黒の時代だった』
「それはまた壮絶な……」
『8代目が平和の象徴にならなければ、今もその時代が続いていただろうよ』
「うん?」
「えっ?」
聞き捨てならない真実を耳にして物間は足を止め、緑谷もまた何処に引っかかる要素があるのだろうと首を傾げた。
「待ちたまえ。つまり君に個性を渡したのはオールマイトってコト………あーそういうことか、言われてみれば個性に共通点多すぎだし密会してる的な噂を耳にしたし」
「……もしかして、オールマイトから聞かされてない?」
「夕飯の仕込みあったし強引に振り切って帰ってきたんだよ。あーくそ、何で気付かなかったんだ過去の僕」
悔しげに地面に蹲る物間。今ひとつ何が悔しいのかわからない緑谷だった。
『それで金髪坊主、噂って一体なんだ?』
「緑谷くんとオールマイトがよく密会していることから2人は教師と生徒という禁断の恋愛関係なんじゃないかという、一部の腐った女子生徒達が流した根も葉もないウワサですよ。
ちなみに2人をモデルにしたBL同人誌、文化祭で数量限定販売されてたぜ」
「えぇーーーーー!?!??」
『だっははははははははは!!!! 平和な時代だからって、何だそりゃぶっ飛びすぎだうはははははははははははは!!!!』
悲惨な真実を知って青ざめる緑谷とは対照的に爆笑する5代目継承者。
その笑い声は彼が精神世界に帰った後もしばらく続いたとさ。
◇
「物間少年。おそらく君も勘付いていると思うが、私と緑谷少年の関係。そして代々継承されてきた個性『ワン・フォー・オール』の事について、君に話しておこうと思うんだが」
「いえ結構です帰ります失礼しました」
「物間少年んんんんんん!?!?」
「僕は何も聞いていません見ていませんだから平穏に“ごく一般的な”ヒーローを目指してこれからも雄英での青春を満喫し、ちょ離せよ爆豪くん、無言で腕を掴むんじゃあない、やめろってヤメロォ雄英の火薬庫!!!」
数日後。オールマイトの口から否応なしに聞かされた真実によって、物間とレプリカはオールフォーワンと継承者達の因縁に少しずつ巻き込まれていくことになるのだが、それはまた別の話。
◇
《教師と生徒、同性同士 茨の道を越えて、手を取り合う2人が行き着く先とはーーー》
『ぼくと××の象徴』雄英東館403教室にて文化祭当日10時より数量限定販売!
◇
例の同人誌
:特級呪物。なおミッドナイト先生に摘発されて全部没収された模様。
ところで先生、摘発したソレらを何故教員寮に持って帰ろうとしてるんですか……?