竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない   作:佳和瀬

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絶望の初対面 

 

「俺、この仕事辞めます」

 

 決意に満ちた表情で少年───ジーク・アブセンスは己の上司にそう告げた。人生の三分の一以上の時間働いてきた職場と分かれる意志を携えた顔つきだった。

 

「ふぇっ…………やめ、る?」

「はい、この前の一件が終わったのを機に」

 

 突然の部下の辞職発言に呆けた声を出す上司にジークは頷く。見れば足元には纏められた荷物と思わしき物が置かれている。

 そこから約10秒の静止を経てやっと理解したのか、上司である女は眼鏡を落としながら盛大に立ち上がった。

 

「ちょ、ジーク君? 私達の部隊、そんな簡単に辞めれる場所じゃないですよ? 騎士団の上層部か、それこそ……」

「王族でもないと、ですよね」

 

 彼らが所属する部隊は国内でも特殊な位置にあり、辞めたいから辞められるような場所ではない。

 動揺しながらもジークを説き伏せようとする上司に対し、ジークは懐から書類を取り出す。

 

「なので許可取ってきました」

「取ってきた!? 誰にですか!?」

「第二王女殿下が。なんか凄い笑顔で機嫌良さげに」

「何してるんですかあの人……!」

 

 予想外のビックネームに頭を抱える上司は、ついには泣き言と共にジークに縋り付いた。

 

「ジーク君はうちの主力なのにぃ。…………職場環境、良くなかった?」

「いえ、そんなことは。少し同僚に物申したくはありますけど、モニカさんのおかげで不満は特にないです」

「それじゃあ、何かやりたいことでもあるんですか?」

 

 ジークを引き止めることを諦めたのか、モニカと呼ばれた上司は興味本位で尋ねる。

 それに対し、始めてジークは言葉を詰まらせた。言語化が難しいのか、それとも言いづらいことなのか。

 少し恥ずかしげに頬をかきながら、ジークは口を開く。

 

「あー、ちょっとその、何ていうか……」

「む、何ですか。私に言えないようなことをするつもりですか」

「そういうんじゃないですけど…………学園に入学しようと思って」

「へっ?」

 

 何かの意図に気づいたかのように顔をしかめる。そしてもうどうにでもなれと、モニカは机に突っ伏した。

 

「学園生活、楽しんでください。なにか困った時は何時でも頼ってくれて構いませんから。あ、でもこっちも困ったら泣きつきますからね?」

「ありがとうございます。何時でも呼んでください」

 

 

 そうしてジークはこの仕事に就いてから五年もの間働いてきた職場を背にした。

 

 

「───待ってろよ、()()……ッ!」

 

 

 騎士団の機密部隊『竜狩り(シグルド)』所属のジーク・アブセンスはこうして退職した。

 春風が吹き始めた初春に起きたことだった。

 

 

 ◇

 

 

 青春したい。

 前世の記憶を思い出し7年程経った頃、自室のベッドの上でそう思った。

 

 前世の俺は普通に高校を卒業し、大学入学が間近に迫っていた時期に雪で滑って死んだ。

 こう、ツルっと体が倒れ後頭部を思いっきり地面にぶつけたら意識が遠のいていった。

 こうして思い返すと結構しっかり死んでるな。

 

 前世では親が転勤族で、友人を作っても引っ越してしまうような生活を送っていた。その影響や元の性根が陰よりだったのもあり友人付き合いが希薄だったことは今でも覚えている。

 高校で身の丈に合っていない進学校に受かってしまったのも理由の一つだ。高校生活、授業に置いてかれないようにするので精一杯だったな。

 そしてまぁまぁいい大学に入り、これから青春すっぞ! と意気込んでいたら死んだ。

 結局前世の俺は、碌な学生生活を送れずに人生を終えてしまった。

 

 というのが、前世の来歴である。

 この記憶を思い出したのが、確か8歳ぐらいだった筈だ。前世と今世の記憶が混ざり合った影響でぶっ倒れる中、今世の記憶からこの世界が魔法なんかが普通に存在する異世界なんだと理解させられた。

 

 どうにも今世の俺は孤児らしく、教会お膝元の孤児院で暮らしていた。

 記憶を思い出す前までは活動的なタイプではなくて、それまでとの差異に周りを困惑させた時は肝を冷やした。

 シスターは熱があるか心配しだしたし、同年代の子供たちからは距離置かれるし、完全にハブだった。自分で言っときながら泣きたくなってくるな。

 

 そんな孤独な幼年期だったけど、案外悪くないものだった。

 これ以上悪目立ちするのを避けるため子供っぽく振る舞いながら、前世とは比べて身体能力が高すぎる体ではしゃぎまくった。

 偶に絡んでくる同い年数人と喧嘩したりして暮らしていると、何か騎士団の人がやって来て俺は拉致られた。

 

 俺には特殊な力があるらしく、それを利用したい騎士団は俺を早めに抱え込もうとした。

 一応強制ではなかったが、騎士団は俺が行けば教会への経済的支援を増やしてくれるとか言ってきやがった。シスターが家計簿とにらめっこしてたのを見た後だったから、もう強制と変わらん。行くしかないだろ。

 

 そっからはまぁ、仕事漬けの日々である。一年ぐらい力の習熟に努め、その後部隊に入隊したら訓練訓練実戦実戦…………の繰り返し。

 初期は俺と上司であるモニカさんの二人だけの試運用でめちゃくちゃ苦労したが、俺が15になる頃にはある程度人手も増えた。

 そしてつい先日に大きな事件を終わらせ仕事に一区切りついたある夜、前世の夢を見て思い出す。

 

 俺は青春がしたかったのだと。

 今の生活が悪いわけではない。だが、俺が求めていたのはキラキラとした青春だった。血みどろの死闘とは正反対のものだ。

 それに気づき、数日ぼーっと考えた。

 青春は来てはくれない。自ら赴かねば、話にならない。

 そして思い立つ。

 学園に行こう。

 

 ◇

 

 前世以来となる制服は技術的違いにより着心地が悪いかな、と思っていたが存外着やすい。騎士団の隊服も動きやすかったし、魔法関連での技術発展が起こってるんだろう。

 白を基調としたデザインは中々に格好いい。

 入学式中、暇すぎてそんな事を考えていた。

 

 学園長や生徒会長の話は半分ぐらい聞き流してたけど、新入生代表である第二王女のお話は真面目に聞いた。

 前世から長めの話は聞き流すタイプだったが、王女様には世話になりすぎて舐めた態度を取れない。

 いやほんとに、何で退職許可してくれたんだろう。仕事で少しだけ話すことがあったぐらいで、関わりは薄いものだったんだけどな。打算とかあんのかな。ここ勧めてくれたのも王女だったし。

 

 凛とした表情で話す王女様を見ると、偶然向こうと目が合った。微かに表情が柔らかなものになり、微笑まれた。

 うお、可愛い。あの笑みを見ると打算とか抜きに親切心で助けてくれたんじゃと思ってしまう。心が善い人なのか……? 

 

 そうして話を聞いてるうちに、入学式は終わった。

 式場を後にすると、事前に発表された教室に皆が向かっていく。それに伴って張り詰めていた空気が次第に緩まっていく。

 この学園、国内に3つしかない王立だし、そりゃ緊張もしただろう。前世の俺はただの私立高校の入学式ですらビビっていたぐらいだし。

 

 周りをチラと見回す。

 王立ということもあり、貴族が多めだ。それ由来の繋がりが昔からあるのか、まだ教室についてないのに仲良さげに話す姿も多い。

 まずい、知り合いがいねぇ。唯一顔見知りである王女様は大勢の生徒が囲んでいて、とても近寄れない。

 いや別に俺だけが一人ぼっちで歩いてるわけじゃない。けどそれはそれとして前世の悲しき高校生活の記憶から不安が昇ってくる。こんなウキウキで学生になったけど、これでまた友達できなかったら普通に死ねるな……。

 

「あのー……」

 

 つーか友達ってどう作るんだ。

 今世だと友と呼べる存在が全然いねぇ。孤児院の奴らは前世の記憶思い出してからは年下みたいなもんだったし、騎士団の人たちも友達だってより同僚の方が正しい。

 前世を思い返す。小学高低学年の時は何も考えずに友達できてたし、そっから高校まで友達という友達はいなかった。

 

「えっと、聞こえてる……?」

 

 あれ、俺って本当に終わってないか? 前世含めれば30歳越えの筈なのに友達の作り方一つわからないのは流石にやばすぎる。

 うわ、急に怖くなってきた。貴族と感覚違ってて浮いたりしたら恐怖でしかないな……。

 

「むぅ、聞いてない……」

 

 とん、と肩を叩かれた。

 なんだと振り返れば、顔の前にぐいとハンカチが差し出される。見れば俺の持ってるものと同じデザイン、というか俺のものだった。

 

「これ、さっき落としてたよ? 何回声かけても反応ないし、大丈夫?」

「え、マジか。ごめん、ありがとう」

 

 その呆れを含んだ声に聞き覚えはない。親切心で拾ってくれ、話しかけてくれたのだろう。

 数回無視してたみたいだし、申し訳ねぇな。

 ハンカチを受け取り、もう一度感謝を告げようと顔を見る。

 

「──あ」

 

 その容姿に、思わず思考が止まった。

 

 黄金とは違う、朝日をそのまま溶かし込んだような色素の薄い金髪。呆れからか少し眉尻を上げている顔は街中で見かければ100%見惚れるほど整っている。こういう言い方をするのは良くないかもしれないが、王女様と同じくらいの美貌。

 気づかなかったが、周りから多くの視線が集まっている。ただそこにいるだけで存在感が溢れ出すそれは、まるで太陽みたいだった。

 

 

 そして、それら全部が気にならないほど俺の目を釘付けにするのは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 今まで仕事上ずっと見てきたから、見て一瞬で気づいた。

 

 (ドラゴン)、俺がこれまでの仕事で殺してきた種族。

 どっと冷や汗が背筋を伝った。竜の中でも人型になれるのは普通、上澄みの中でも一握りだけ。

 冷や汗の理由は危険だから、とかではない。別に人型になれる程度の強さなら関係なく倒せるし。

 

 理由は単純に、仕事とはいえ殺してきた種族と同じ学生というのが死ぬほど気まずい。

 

 そしてもう一つ、一部の竜は()()()()()()()()()()()()()()()。それこそ、返り血まみれの斧を持った虐殺者がいるのと同じくらいの恐怖がある、らしい。

 このドラゴン少女がそれを感じ取れた場合、俺はそんな化け物みたいに思われるということだ。

 普通に泣かれるだろ。この子見た感じそこまで強そうには思えないし。もし目の前にそんな化け物いたら俺も泣くよ。めっちゃ怖いじゃん。

 

 おいおいおい、頼むから杞憂であってください。本当にガチで。

 キラキラな青春送りたいのに死の恐怖からくる絶望とか向けられたら俺も泣いちゃう。マジでただの一般ドラゴン娘であってくれ。

 

 ドラゴン少女の表情が徐々に変わっていく。

 

 

 まるで、自分が死ぬことがこの瞬間に決まったような。

 まるで、突然現れた捕食者と相対した被捕食者のような。

 まるで、死にたくないという感情と諦観が混ざり合ったような。

 

 

 色々な感情が混ざりすぎてどの感情も読めない表情で、俺のことを見てくる。

 あ、終わったわ。

 

「し、失礼します〜」

 

 回れ右から、歩いてきた方へと逆戻りする。俺は逃げた。空気が重すぎて耐えられなかった。

 めっちゃ怖がられた。完全にアウトである。表情が生々しすぎてこっちまで辛くなったわ。

 学生生活の始めから最悪だ。青い春が何処にもねぇ、血の赤に塗れすぎてる。

 

「いや、まだだ……! まだクラスが違う可能性がある……っ!」

 

 ドラゴンちゃんの件は普通にやばすぎるが、クラスが違えばまだ色々と心に余裕ができる。

 別に悪いことをしたわけじゃないのだ。青春を送りながら、ちょっとずつ死の気配とやらの制御方法を模索していけばいい。

 

 少し遠回りになりながら、割り振られたクラスに入る。

 俺の席は真ん中の列の一番後ろ、結構の当たり席じゃないか? 周りの奴らと授業中にこっそり話したりとか青春すぎる。

 教室の中では勝手知ったる仲なのか既に数人は談笑をしているが、クラスメイトの半分ほどが教室の一角に集まっている。

 あ、王女様が同じクラスなのか。話せる人がいるのはラッキーだな。

 そして、自分の席の周りを見た。

 

「───ぇっ」

 

 隣の席にめちゃくちゃ見覚えのある女の子が座ってる。その頭部には、やはり竜の角があって。

 

 ────俺の学生生活は、隣の席のドラゴン娘から殺人鬼を見る目で見られることから始まるらしいです。

 

 

 あっ、目が合った。むっちゃ絶望してる。

 わァ…………ぁ……。

 

 

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