竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない   作:佳和瀬

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前の席の救世主

 

 席に座りながら流し目で隣を見る。

 ドラゴンさんはやっぱり怯えている。辺りから重苦しいオーラがずんと降り注いでいるようだ。

 すごく躊躇われるが腹を括って声をかける。

 

「あのー」

ひゅっ…………」

 

 めちゃくちゃ小さく悲鳴を上げられた。ビクッてなってるし、どうすりゃいいんだ。

 これ以上話しかけてもちゃんとした返答は期待できないし、かといってこのままだと傍から見れば初日から女の子を怯えさせてるヤバいやつだ。

 カスすぎるデッドロックに襲われて俺は頭を抱えた。第一印象が悪すぎて何言っても意味がないだろこれ。

 現在進行形で印象は最悪なんだろうけど。笑えねぇ……。

 そんな半ば諦めの境地に入っていると、前の方から声をかけられる。

 

「たはは〜そこの二人、すっごい顔してない〜?」

 

 見れば制服を緩く着崩し、セミロングぐらいの灰茶色の髪がおしゃれなギャルがいた。いや、ギャルは死語か……? 

 なんか雰囲気が緩めで、居るだけで場の空気が良くなるタイプだ。

 さっきまでの重い雰囲気のせいかやけに笑顔が眩しくて、俺の頬に涙が流れた。

 

「わ、わァ…………」

「ほんとに何で初日にそんなになるの?」

 

 やべ、思わず泣いてしまった。

 心配そうに見てくるギャルさんにこっちも笑みを浮かべ返す。

 

「ちょっと色々あったんだ。不慮の事故というか」

「まぁ〜その笑顔は人によっては怖いかもね〜」

「え、俺の笑顔そんな不細工なの?」

 

 めっちゃチクチク言葉じゃん。普通にショックなんだけど。

 やめろよ、普段笑顔とか意識してないから頑張ったんだぞ……。

 

「たはっ、冗談冗談。わたしはマリー・アヴァンス、君の前の席だよ、ジークくん。一年間よろしくね〜」

「あれ、なんで名前知ってるの? 言ってないよな?」

「もぉ〜座席表に全員の名前書いてあるでしょ〜? もうみんなの名前は覚えたもん、ジーク・アブセンスくん?」

 

 あ、ほんとだ。

 いや確かに全員の名前書かれてるけど、もう全員覚えてるのはすごいな。

 それに、アヴァンスといえばかなりの名家じゃなかったか? それこそ国政の中枢に影響するぐらいには、大きな家だった筈だ。

 そんな思考を走らせる俺に気づいていないのか、マリーはドラゴンさんに話しかける。

 

「ルニファ・ニールちゃんだよね〜? 体調悪そうだけど大丈夫そう〜?」

「えっと、うん。大丈夫、だよ」

「そっか〜困ったことあったら言ってね?」

「ありがとう、アヴァンスさん」

「ん〜マリーでいいよ。わたしもルニファちゃんって呼んでいい?」

「う、うん」

 

 ドラゴンさん、ルニファさんっていうのか。

 てかマリー凄すぎる。あの重い空気が一瞬で中和されたぞ。

 口調がのんびりしてるから、というのもあるだろうが何より雰囲気が柔らかい。もう本当に、救世主なのか? 信仰心湧いてきちゃうんだけど。

 視線がかみ合うと、パチりと綺麗なウィンクが飛んできた。

 あっ、俺この子のこと好きになっちゃう。

 

「ふふ、楽しそうにお話してるみたいで、私も交ざっていいでしょうか?」

 

 そのタイミングで王女様が俺達の所にやってきた。周りのクラスメイト達もぞろぞろと付いてきて、一気に人口密度が高まった。ぞろぞろガーデンじゃねぇんだぞ。

 そうして一旦重苦しい雰囲気もなくなり、人の波に飲まれるようにルニファさんとの距離も取れた。

 だが、これが根本的な解決にはならないことぐらい俺にも分かる。それが、重くのしかかってきた。

 

 

 △

 

 

「ジークくん、一緒に帰ろ〜?」

 

 入学日ということもあり、担任からの軽い説明と自己紹介をやればもう今日は終わりだった。

 ルニファさんの件もあって、少し意気消沈気味なのでさっさと帰ろうとしていると、マリーからまさかのお誘いを受けた。

 全然すぐに勘違いするからやめてほしい。こういう子に限って、そういうつもりじゃなかったの……とか言いそうだから質が悪い。

 

 王立魔法学園は全寮制であり、それは王族であっても変わりない。寮から学校まではあまり遠くないため、なんか軽く話すことでもあんのかなと考えていれば、予想外の言葉が聞こえた。

 

「ちょっと寄り道しない〜? あっちのベンチ座ろ〜?」

 

 寮とは少し離れた場所に位置する花園に連れてかれ、既に座っている自分の隣をぽんぽんと叩く。

 隣に座れ、ということだろうか。今日出会ったばっかりなのに、距離感近すぎないか? これが普通で俺が陰キャなだけなのか? 

 平静を装って座るが、心臓はバクバク鳴っている。あ、なんかいい匂いが隣からしてきた。

 

「えと、話はルニファちゃんのことなんだけどさ〜。二人は今日が初対面なんだよね〜?」

「あぁ、マリーと一緒で今日がはじめましてだよ」

「…………へ〜それにしては何か、色々ありそうに見えたけど〜?」

 

 間延びした言葉の裏に鋭い洞察が潜んでいる。

 やっぱ気づかれてたか。教室でも俺たちの重い空気を感じ取ってすぐに流れを変えてくれたし、場の雰囲気に敏感で、頭の回転が早いタイプなんだろう。

 この子に隠しても無駄だ。隠したらたぶん、どっかから情報掴んでくるだろう。

 なにが目的だ? もしかして、俺の経歴を勘づいて探ってるのか? ……

 ……てか、なんかちょっと不機嫌になってない? なんで??? 

 

「……昔からの体質で竜に怖がられるんだよ。俺の魔力がそういう性質を持ってるらしい」

 

 全部が全部話せる内容じゃないから多少はぼかしながらも、大まかな流れを説明する。

 俺が竜を怖がらせる体質で、ルニファさんがめちゃくちゃ怖がっている。うん、まぁ殺人鬼レベルで怖がられてるとかは言わないでいいだろ。

 思い返すと結構傷つくんだよ、あの目と反応。

 

「…………う〜ん、どうすればいいんだろね?」

「え、なに君、ただ相談乗ってくれようとしてただけなのか!?」

「ん〜そうだよ? たはは〜結局なんの助けにもなれなかったんだけどね〜」

 

 少し恥ずかしげに、へにょと眉尻を下がらせている。

 普通にめちゃくちゃいい子なだけだった。うわ、すげぇ申し訳なくなってきた。むやみに疑うのやめとこ……。

 

「魔力の性質か〜二年生に魔法に詳しい人いるみたいだし、聞いてみるのもいいかもね。それかもう先生に相談するとか」

「へぇ、そういう人もいるのか。結構有名だったり?」

「ん〜わたしもあんまり知らないんだけど、専門家と遜色ないぐらいには詳しいらしいよ。でもあんまり人と関わらない人みたい」

 

 この体質が魔力由来のものというのは俺の勝手な予想だが、案外間違っていないと思う。

 今までは仕事柄得をすることが多かったから気にしてこなかったが、今はもう話が変わっている。

 その人に頼る以外に、図書館でなにか情報を探ってみるか。

 

 そんな感じで雑談をしていて、少し時間が経った。マリーは話し上手であり聞き上手で、めっちゃ楽しく話せた。

 そろそろ帰ろうと立ち上がったのと同時、マリーの腕を掴み引き寄せる。

 

 

 直後、眼前に巨大な炎が撃ち下ろされた。

 

 

『グッガァアァァオォォォオォ!!!』

 

 

 耳をつんざく咆哮を聞き流しながら炎が発せられた方向、つまりは上空を見れば、そこには黒い鱗の竜が一匹いる。

 は? 学園の防衛意識低すぎないか? 

 飛竜種とはいえ竜が召喚されたら、対応できない新入生とか普通にいるだろ。

 いや、これ内部犯か……? クソ、情報がなさすぎて考察どころじゃねぇ。

 

「じ、ジークくん……」 

「──」

 

 掴んだ腕から震えが伝わる。

 そうか、そりゃそうだ。俺は慣れていてるが、竜に襲われたら普通怖いだろう。

 

 …………あぁ、最悪な気分だ。あんなに楽しかったのに、この子の笑顔が消えただけでもう帳消し以上のマイナスだ。

 ぽん、と軽く肩に触れる。彼女の恐怖が少しでも和らぐように。

 

「大丈夫だ」

 

 魔力を練り上げ、右手をかざす。

 疑問はすべて置いておく。なによりも優先すべきは彼女を安心させること。

 故に、一瞬で殺す。

 

 かざした右手で魔力で象った剣を握る。

 

 地面を蹴り、空飛ぶ竜に接近する。

 近づかれてやっと俺に気づいたのか、慌てて竜は後退しようとする。馬鹿が、反応が遅え。

 剣域に入ってから行動して間に合うと思ってんのか? 

 

 緊張も油断もない、ただいつも通りに剣を振る。

 竜が何をするよりも早く、その首を切り落とす。

 

 首を胴体とくっけようとしたら即座に阻止できるよう竜の腕を注視するが、特になにも起こらない。

 再生もしないってことは低級か。どうやってこんな雑魚がこの学園に侵入できた? 

 この学園には悪意ある存在を防ぐ結界が敷かれている。どうやって来たんだよこいつ。

 

「ジーク、くん?」

 

 振り返れば、マリーは地面に座り込んでいた。

 腰でも抜かしたか? なんか信じられないもの見たみたいな顔してるけど。

 あ、違え! これ信じられないものが俺だ! そりゃただの新入生がいきなりこんな事できねぇよな! 

 は? 普通にちゃんと戦っちゃったんだけど。力隠すとか何も考えてなかったの、俺馬鹿すぎない!? 

 これ怖がられてるの俺だったりしないか? え、もしそうだったらめっちゃ傷つくんだけど。

 

「ジークくんって……」

「いや違う、そのほんとに違うんだ」

「すっごい強かったんだね〜!」

 

 俺の杞憂とは裏腹に、キラキラとした笑顔が咲いていた。

 ……これ普通に俺が前から鍛えてきた人だと思ってるのか? 

 よく考えなくても、まあそうなるな……。

 テンパりすぎて混乱してたが別にこんぐらいの竜、現段階の新入生でも倒せるやつはいるよな。あんま強くなかったし。

 あ〜焦ったー! マリーも無事だし、マジでよかった。

 

 まだ入学初日だと言うのに色々起こりすぎだ。

 それも願った青春とはちょっと違うし。

 精神的疲労から、俺は大きく息を吐いた。

 

 

 △

 

「うわ〜もう夕方だ〜」

「まさかここまで長引くなんてな……」

 

 竜を倒した後そのまま帰るわけにもいかず、ジークとマリーはこのことを学園に報告した。

 学園側としても異常な事態であり、二人は長時間の事情聴取を余儀なくされたのである。

 まだ明るかった空は朱く染まり、夜が近づいている。

 

「ねぇねぇ、ジークくん」

「ん、どうした?」

「ジーク君のこと、あだ名で呼んでもいい〜?」

 

 寮に向かう道中、突然マリーはそう提案する。

 少し目を丸くした後、ジークは笑みを浮かべた。今日の中で一番と言えるほどの笑顔だった。

『それ青春ぽいな』という理由でジークはテンションを上げる。

 

「あだ名……全然いいけど、どんな感じ?」

「ジーくんかドラドラくん、どっちがいい〜?」

「片方が妙に爺っぽいな……」

「え〜じゃあじーじとか?」

「ドラドラくんでお願いします」

 

 彼女があだ名で呼ぶという行為がどういう意味を持つのか、ジークは知らない。だから軽く了承することができる。

 その意味を知っていれば必ずヘタれるのに、知らないから気にならない。

 ドラドラくん、とマリーは噛みしめるように自らつけたあだ名を口の中で転がす。それを見てそんな気に入ったのか? としかジークは思わない。

 

 女子寮に着きマリーは一歩先に進んで、それから振り向く。くるりとターンをして、ふわりとスカートがなびいた姿は百人が百人綺麗だと思うほどに美しかった。

 

「今日はありがと〜それじゃあ、また明日ね〜ドラドラくん」

「ああ、また明日。疲れただろうし、ちゃんと休んどけよ」

「そうするよ〜。でもドラドラくん、まだ何かするつもりでしょ〜?」

「え、なんで分かるの?」

「わたしの勘かな〜」 

 

 別れ際にそんな会話があった。

 そうして、二人は別れる。

 初めてできた友達に心躍らせ小走りするジークの背中を、マリーはじっと見つめた。

 

 マリー・アヴァンスには、一つの決め事があった。

 親しい人にはあだ名をつけて呼ぶという、そんな決まりが彼女の中にはあった。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今日"は"、じゃくて今日"も"、なんだけどな〜」

 

 マリー・アヴァンスは常に緩い雰囲気を纏っている。

 だからこそ、彼女がどんな感情を抱えているかは、誰も知らなかった。

 

 

 △

 

 マリーと別れて、俺は校舎に戻った。

 精神的に疲れてはいるが、このまま寮に帰って寝ると、明日確実にまたルニファさんに怖がられる。

 それは俺としても嫌だし、彼女としても最悪だろう。

 できることなら俺は彼女とも仲良くなりたいし、この体質は今の学生生活だと百害あって一利なしだ。

 もし別クラスとか先輩に竜種の人がいたら地獄すぎる。

 少しでもどうにかしよう、と図書室に訪れたんだが……。

 

「広すぎんだろ…………」

 

 心折れちゃう……。

 この図書室、先ず以てデカすぎる。

 首が痛くなるほど見上げた先にもぎっしりと本が埋まってるのは馬鹿すぎだろ。

 あんな所にどうやったら届くんだよ。ゴムゴムの実はねぇんだぞ。

 

 真っすぐ進みながらうろうろと辺りを探っているが目が滑って仕方がない。

 本の数が多すぎて、見てるだけで目眩がしてきそうだ。前世はともかく今世は本とか全然読んでないから、普通に酔いそう……。

 こりゃ無理かもしれんね……と途方にくれていたら、

 

「んー? 新入生がこんな時間に、こんな所に何の用だい? そんな泣き出しそうな顔をして……もしかして迷子かな?」

 

 ふと、後ろから声がした。

 は? 真っ直ぐ進んだのになんで後ろから声がするんだ? 

 臨戦態勢に移行しながら振り向く。

 

「おやおや、そんな警戒しないでくれたまえよ。僕は君の手助けをしようとしてるだけだぜ?」

 

 何にも染まっていない、真白の頭髪。猫のように細められた赤眼がこちらを貫く。

 端整な容姿を妖しく歪ませ、嘯くように言葉が重ねられる。

 

「この僕、『全知』のアルス・マグナカロスが助けてあげよう。さぁジーク・アブセンス君、君の願いはなにかな?」

 

 まるで俺がここに来ることを知っていたかのように。

 まるで最初から決まっていた予定調和のように。

 その少女は尊大な口調で、そう言った。

 

「いや、あの……誰ですか?」

「はぁー!? まさか君、僕のこと知らないの!?」

 

 知らない人すぎる。いや、本当に誰だよ。

 なんか名前知られてるし、怖……。

 目を見開いてキレ気味な少女を見て、俺は後ずさることしかできなかった。

 

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