竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない 作:佳和瀬
前にも言ったように、俺ことジーク・アブセンスは仕事漬けの人生を送ってきた。
そんな俺が所属していた部隊『竜狩り』は結構特殊で、対竜特化の部隊だった。
翼竜種なんかの一般的な魔獣とは一線を画す存在。幻想の具現化、質量を持った神秘、色々な呼び方がある絶対的な上位存在。
それが竜であり、それが起こす問題をどうにかするのが俺の仕事だった。まあ、ここにはもっと色んな事情が絡んでいるんだが……まぁ今はどうでもいい。
そういう災害みたいに強い奴らの対処するため、俺は訓練ばっかりしてきた。
だから、ここで言いたいのは、俺が有名人や流行に限りなく無知であるということだ。
内心でそう言い訳しているのは、マグナカロスさんが見るからに機嫌悪そうにしているから。
いや、だって本当に知らなかったんだって。アヴァンス家とか知ってたの、任務でちょいちょい聞いたからだし。
「マグナカロスさん……? あの、そろそろお話しとか聞けたりとか……」
「なんだい、僕のことを知らなかった情報弱者君。僕なんかの話、興味ないんだろう?」
こいつ、クソ面倒くせぇな。めっちゃガキっぽい拗ね方するじゃん。
頬を膨らませて、露骨に不機嫌さを出してくる。
そんな自分に自信あったの? つーかそんな知られてるの?
「まず、『全知』ってなんですか……?」
「はぁー……本当になにも知らないんだねぇ、君」
だからさっきからそう言ってるんだよ。
吐き出された嘆息にめっちゃ反論したくなるが、言ってることは正しいので俺は屈辱的な論破を甘んじて受け入れた。
「無知な君に合わせて簡単に言えば、学位みたいなものだ。称号と言い換えてもいい。数世代で一人冠することができれば、ぐらいに貴重なものなのさ」
「へぇ、マグナカロスさんって凄い人なんすね」
「先輩、アルス先輩と呼んでくれ。そう、僕は凄いんだよ! なのに君ときたら、なんだい誰ですかって!」
「ほんとに申し訳ないっす……」
ぺこぺこ頭を下げて謝ったり、軽くおだてたりすれば機嫌が良くなってきてる。
ちょっとチョロすぎない? 詐欺とか騙されそうで心配だな。
そうして少し経てば、ふふんと得意げな最初の感じに戻った。
……忘れそうになるが、この人いきなり背後に現れためちゃくちゃ怪しい人なんだよな。話の流れで信じてしまったが、信じちゃ駄目な人な気がする。
「むっ、なんだいその訝しげな目は。もしかして、僕のことを疑ってるのか?」
「いやまぁ、よくよく考えれば普通に怪しさしかないですし」
「そんなこと──ないともいえないね。ちょっとかっこつけすぎたかな……」
「え、あれ背後取って有利状況作ってたんじゃないんですか?」
「君、思考回路が蛮族すぎじゃないか? 後ろから不敵に笑って登場するのがかっこいいと思って転移魔法使ったんだが」
あれただの演出かよ! すげえ警戒したんだけど!?
ちゃんと怖かったし! 出てきたのがこんな可愛い人じゃなかったら泣いてたぞ。前世からホラゲーとかお化け屋敷とかそういう怖い系は無理なんだよな。
非難の意を込めて睨むが、顔を背けられた。
「ま、まあ僕にも非があったのは認めるが、ここらで話を戻そう。ジーク君、君は何かを求めて此処に来たんだろう?」
強引に話が変えられる。
そうじゃん、俺調べ物しに来たんだよ。こんな予想できようがない遭遇があったせいですっかり忘れてた。
『全知』とか言ってるし、相談するのもありか? と思って、俺の体質について説明しようと口を開いたところで、
「あぁ、言わないでいいよ。竜に対して絶対的な威圧感を与える、その体質だろう? 会った時に軽く調べさせてもらったんだ」
そう言葉を被せられた。
は? おかしい、なんで知ってる。俺の体質、部隊の人か騎士団上層部しか知らないはずだ。
マジで調べたのか? この一瞬で、どんな魔法を使えば解析できるんだ?
冷水をぶっかけられたように、ゾクリと寒気がする。
俺の目が節穴だったのかもしれない。
いくら対人戦闘の経験がないとはいえ、5年以上戦い続けた俺が気付けないような転移に、瞬時に俺の体質を看破した解析能力。
どれもが騎士団のトップクラスでもなきゃできないような、そんな芸当だ。
「そんな君に朗報さ。端的に言おう、その体質は制御できる」
「本当ですか! どうやって……」
と、そこまで言ってからアルス先輩がにやにやと口元を歪ませる姿が目に入った。
この人と話した時間は短いが、それでも分かることはある。
アルス・マグナカロスはめちゃくちゃ面倒くさいし性格も悪い。多分絶対に。
あのにやけ面で親切に教えてくれるか? と聞かれれば無理に決まってんだろとしか言えない。
「教えてもらえますか? その方法を」
「あぁ、それは構わない。後輩の悩みを解決するのも、先輩の役目だろう? ただ、一つ手伝ってほしいことがあるんだ」
────竜を召喚した犯人、僕と一緒に探さないかい?
そう言って、アルス先輩はニヤリと笑みを深めた。
うわ、そういうタイプか。『全知』とか名乗ってるし、好奇心旺盛なんだろうな……。
正直、あまり気乗りしない。
そもそも俺が仕事辞めた理由が前世で得られなかった青春を求めたからなのに、また竜関連の事件を追うというのはな……と思ってしまう。
「その体質を制御できて、しかも僕みたいな美少女と一緒に探偵ごっこができんだぜ? 悩む理由がどこにあるっていうんだい」
「ッ!」
───そうか、俺の発想が低次元だったのか。
美少女と探偵ごっこ、確かに響きだけで青春ぽい……青春か? 青春かも……青春だな!!
そうだよ、俺は頭が固すぎたんだ。青春は現れるもんじゃない、自分で作るものなんだ。イベントを面倒くさいと思うな、面倒くさいの中から楽しいを見つけ出すのが真の青春なのだ。
あれだけ追い求めていたものなのに、俺の理解力はあまりに低かった。
ぐいとアルス先輩の手を掴み、頭を下げる。
「お願いします! 俺、めっちゃ頑張ります!」
「んえっ、ちょ手が、え? まっ、心の準備がっ、あっ心臓止まる───は、離したまえ!」
手が振り払われる。
上げたテンションのまま、思っきり握り込んでしまった。やばい、普通にめっちゃキモいやつじゃん俺。
余裕で死ねるんだが…………。
「あ、あのねぇ君っ。そういうのはもっと、その、ちゃんとしてからじゃなきゃ駄目だろう」
「マジすいません……嫌でしたよね……」
「別に嫌ってわけじゃ……コホン、話を戻そう。協力は承認してもらったし、次は君の体質の制御法さ」
落ち込んでいる俺を尻目に、アルス先輩は羽織っているローブの懐に手を突っ込む。
引っこ抜かれた彼女の手には、一つの指輪があった。
何か魔法文字が刻まれている、素人目だとしっかりしてるように見える。
「これを着けると良い。それだけで、抑制の効果があるはずさ」
「えぇ……先輩、やっぱり騙されてません? 魔力の抑制ってそんな手軽にできるとは思えないんですけど」
「君が想像してるのは犯罪者用の手錠や首輪だろう。確かに魔力抑制装置は基本的に大きなものになるが、この指輪はそういうのじゃない。この指輪は、君のその体質──竜殺しと呼ばれるもの専用の抑制器なのさ」
「…………へ?」
知らない情報が多すぎて、脳のキャパを超える。
竜殺しってなに? 俺の体質そんな名前あったの? 学生やめて騎士団に戻れって、自分の体に言われるみたいで凄い嫌なんだけど。
「君のその体質、昔にも同じものを持つ人がいたみたいなんだ。その時に研究され、作成されたのがこの指輪だ。前に偶然見つけた代物でね、君の体質を解析してピンときたんだ」
アルス先輩は胸を張って得意げだった。
悲しいことに、とても平らだった。
俺の視線に気づいたのか、めちゃくちゃ睨んでくる。殺気が込められすぎて、顔がすごいことになってる。
気を取り直し、渡された指輪を嵌める。おっ、ピッタリだ。ラッキーすぎる。
「これ、効果ありますか? 体感の変化、全然ないんですけど」
「あるさ、今の君なら竜を威圧することもないだろう。けど実感はないのか、そこは知らなかったな……」
まあまあ不安ではあるが、こんな物貰っておいて疑うのも失礼か。先輩の言葉を信じよう。
これで明日ルニファさんから怖がられたら、めっちゃキレるけど。
やっぱ不安だ。この人、結構やらかし多そうだもん。
「さて、門限が近いし帰ったほうがいいんじゃないかい? 入学初日から門限破りをする不良にはなりたくないだろう?」
「マジですか。じゃあ先輩も一緒に行きましょうよ。なんで自分は別枠みたいなこと言ってるんですか」
「僕は転移で何時でも戻れるからね」
「え、なら俺も送ってくださいよ。今から走っても間に合うかギリギリですもん」
「いや、男の子の部屋に入っていいわけないだろう? 少しは考えてから発言をしたらどうだい」
いきなり普通の女子みたいなこと言い出すんじゃねぇよ。
あんたみたいな態度デカ目の人がそこ気にすんの? 今更恥じらいみたいの見せられても困るんだけど。
頼み込んでも頑なに断られて、俺はキレ散らしながら走った。
間に合わなくて初日から怒られた。
俺は泣いた。
△
「
星が輝く夜だった。
ジークが消え、自分しかいない図書室でアルスは思考にふけっていた。
対象は、少し前まで此処にいた一人の少年。
「まったく、何故納得できるんだろうねぇ──別の誰かに作られた指輪がピッタリ嵌まることなんて、そんな偶然が本当に起こると思っているのかい?」
ため息が吐かれた。
聞くだけで震えてしまうほど、万感の思いが込められていた。
誰に言うでもなく、言葉を連ねる。
「いまさら僕の前にその顔で現れるなんて、どんな悪戯なんだ」
愚痴をこぼすように、憎しみを溢れさせるように、恋慕に満たされているように、胸の内で渦巻く感情が、無造作に吐き出される。
「これが運命だっていうのなら、それを見定めるとしよう。だから──」
その言葉がジーク・アブセンスという存在に向けられているのかすら、判別ができない。
「僕を魅せてくれ、『竜殺し』くん」
まるで星の輝きを隠すように、雲が空を覆った。
△
結局間に合わなかった俺は寮母さんの説教を受け、ギリギリ開いていた食堂で一人寂しく飯を食った。
割り振られた寮の個室には私物が運ばれているが、今から部屋づくりをする気力もない。私物少なくてよかったな、とかぼーっと考えながらベッドの上で丸まった。
「ちょっと胃もたれするな……」
飯を食いすぎたわけではなく、精神的な意味で。
今日だけで起こった出来事の密度がイカれてる。
女の子に怖がられて、竜に襲われて、よくわかんない女の人の手伝いをすることになった。振り返ると初日に起こるもんじゃねぇよ。いや、初日じゃなくても起こらないでくれ。
「ルニファさん、申し訳ねぇな……」
色々と起こったが、やはり一番心を占めるのは彼女についてだ。
全面的に被害者だもんな、あの子。そして俺が加害者である……。
罪悪感から、大きくため息をついた。
隣の席だし、できるなら仲良くしたい。
マリーの助けもあって今日はなんとかなったが、あれが毎日続くわけもない。
俺の体質を知ってる王女様も配慮してくれるだろうが、それにも限度がある。
だから、アルス先輩がくれた指輪が頼りなのだが……。
「この指輪、本当に働いてんだよな……?」
やはり、本当に効果があるのか分からない。
右手をかざせば、星の光を反射して指輪がキラリと輝く。
うおっ、眩しっ「きゃっ」光強すぎないか……? いや、この指輪自体が光ったような……?
ん? 今なんか窓の外から変な声聞こえなかった? 悲鳴みたいな…………。
意識を研ぎ澄まし、辺りを探る。
俺の部屋は3階にあるから、外から声が聞こえるはずがないのだ。
窓から黒い翼みたいのが見えた、気がした。
「…………」
すっ、と窓に近づく。
騎士団式の歩法で加速する。
一気に窓に手をかけ、バッと思い切り開く。
「…………えと……こ、こんばんは……?」
「ほへぇ……?」
窓の外に、生えてなかった筈の羽を羽撃かせるルニファ・ニールさんがいた。
クソ情けない声が出た。予想外の状況だと人はこんな声が出るのか、と思考が逃避した。
君、その羽根どうなってんの? 服とか破れそうだね。
「ちなみに、どこら辺から此処に?」
「その、胃もたれ辺りから……」
「最初からじゃねぇか!」
全部聞かれてるし見られてんじゃん。
普通に恥ずかしすぎて俺は泣いた。
想像以上に書くのが遅れていて、明日更新できるかが未定です。
遅くとも明後日には更新をします。