竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない 作:佳和瀬
「それで〜? ドラドラくんはどうやってルニファちゃんを誑かしたの〜?」
「頼むから本当にやめてくれ」
ちょっと言葉が最悪すぎる。ほら、周りからめっちゃ見られてるじゃん。
あ、ヒソヒソと「嘘でしょ、最低じゃん……」とか言ってる。まだ二日目だというのに、もう俺の評価底辺じゃないか?
軽く絶望してると、椅子の向きを変え向かい合わせの状態になってるマリーがにやにやと笑っていた。
可愛いとしか思えないはずなのに、怖いしか感情が生まれない。
ドキドキしてきたけど、絶対に恋じゃないぞこれ。故意なのはあの悪意しかないワードセンスだ。
「だって〜そうでもなきゃ、一日でここまで変わらなくない〜? そこのとこルニファちゃんはどうお思いで〜?」
「えっと、あはは……似たようなものかも」
「あれ!?」
そこ裏切ってくんの!? それ自分の首も締めてんだぞ!?
反応に困ったように苦笑を浮かべる
どういうつもりかアイコンタクトで問うと、何故か数秒見つめ合った後顔を赤らめて逸らされる。意味伝わってねぇのかよ。
「…………早く言いなよ」
マリーにめっちゃ低い声で催促された。めっちゃ怖い。
え、急になんなの? 催促ってより脅しに近いんだけど。
どうしてこうなった……半ば現実逃避をしながら、昨夜に意識を飛ばす。
ルニファと話した、あの時に。
△
「お、お邪魔します」
「いらっしゃい……でいいのか?」
取り敢えず、ルニファさんを部屋にあげた。
あのまま飛ばれながら話をするのは向こうも辛いだろうし、俺も気が散る。
座れる場所が椅子かベッドしかない。ベッドは俺がいたし、椅子に座ってもらうか。
とか考えていると、ルニファさんがベッドに腰掛けた。
「……? アブセンスくん、座らないの?」
「あ、はい。座ります……」
なんなのこの子。俺のこと勘違いさせたいのか? やめろよ、男なんてコロッと好きになっちゃうんだぞ。
脳のキャパシティを余裕で超えていたからこそ動揺せず女子を部屋に入れられたが、今はもう心臓がバクバクしてる。
チラと見れば、ルニファさんの背中に羽がなくなってる。え、どうなってんだそれ。
「さっき生えてた羽って、どういう構造なの?」
「あぁ、この羽?」
興味に任せて尋ねると、背中から勢いよく羽が生えた。
「私って今は普通の人と同じでしょ? この羽の生える周りを竜に近づけると、生やせるんだ」
『人になれる竜』というよりは『竜になれる人』という認識がいいんだろう。純血の竜でも、世代が進むに連れ人間社会に溶け込み、人型が基本になるやつもいるし。
人と竜の混血だとこの場合なことが多い。部隊にもそんな奴いたしな。
…………いや待て、なんかおかしい。
なんで俺この子と普通に話せてんだ?
「なぁ、ルニファさん。俺のこと怖くないのか?」
「う、うん。何でか、今日感じてた怖いの、感じないんだ」
マジか、この指輪本当に効果あったんだ!
すげえ、怖がられないだけでこんなに嬉しいのか。あっ、涙出てくる……
「えっなんで泣いてるの……? 大丈夫?」
「あ、あぁ大丈夫。ごめん、ちょっと感動が溢れて」
「それ大丈夫じゃなくない?」
この子、優しい子なんだな。
心配そうにこっちを見てくるルニファさんを見て、そう思った。
今は怖くなくても、先入観から来る恐怖はあるはずだ。そんな中で俺を心配できるだけの優しさを持っている。こんないい子をあんなに怯えさせてたと思うと、まぁ死にたくなるな……。
「先に一つ、言いたいことがある。ごめん、怖がらせてしまって」
「そんな謝らなくても……別にあれわざとじゃないんでしょ?」
「そうだけど、それでもだ。君に非は一切ないのに、怖い思いをさせてしまった。本当に、申し訳ない」
頭を下げる。
怖がられて俺も辛かったが、彼女はそれこそ比じゃないぐらいに辛かったろう。
自分のせいで大切な学生初日を楽しめなかったかもしれない人がいて、それを気にせず自分だけ楽しむなんてこと、俺にはできない。
何も悪いことをしてない人が辛い思いをする必要なんて、欠片もないのだから。
「むぅ……なら私も謝るよ。ごめんなさい、アブセンスくんがわざとやってたわけじゃないのに、怖がっちゃって」
「いや、謝る必要は……」
「これでお互い様。二人とも謝って、二人とも許す、じゃ駄目かな?」
「…………それで、お願いします」
パアッと顔を輝かせるルニファさんを見てしまえば、これ以上食い下がることもできない。
変な意地はって謝ってたら完全に言いくるめられるとか、ダサすぎて終わりである。
ルニファさんの器でかすぎだろ、ただの器じゃねぇ……。
「それで、何の用があったんだ? 一応、夜間に男の部屋を訪ねるのは結構まずいと思うんだけど」
「……ふぇぁ!? そ、そういうのじゃないからね? 私、そんなはしたない娘じゃないからね!?」
「分かった、分かったから声量下げてくれ。このままだとまた怒られる」
部屋の壁、まあまあ音通しそうだから。
このままだと俺、初日から門限破る上に部屋に女子連れ込む化け物になっちゃうから。いやまあ傍から見たらそうなんだが、噂とかになったら堪ったもんじゃない。
青春楽しみに来たのに、クラスで侮蔑の視線とかもらったら普通に泣くぞ。
「その、アブセンスくんから凄い怖い気配? みたいのを感じてたの。アブセンスくんにも心当たりがあるみたいだから、それについて聞こうと思って」
「なにもこんな時間じゃなくてもよかったんじゃないか? ほら、帰る前とか」
「その時はちょっと、まだ心の準備ができてなくて。ほら、今はなんでか大丈夫だけどあの時はまだあったの。そこから覚悟を決めてずっと待ってたのに、帰ってこないんだもん」
私、門限破りそうになってたんだよ? と少し恨めしそうに見られても、俺は破ってるんだけどな、としか返せない。言ったら冷めた目で見られそうだから言わないが。
聞くとまあ、この時間の来訪の原因は全面的に俺にある。
いや、俺悪くなくない? 竜が襲ってきたり怪しい先輩に出会ったりとか、想像できないだろ。
「その怖い気配、俺の体質なんだ。抑える方法は見つけたから、これからはもうしないと思う」
「そうなんだ……よかった」
「いや本当に怖かったよな、ごめ」
「はい、謝るの禁止。アブセンスくんを怖がらないでいいのが嬉しかっただけだから」
なんだろう、俺この子に口で勝てる気がしない。何言っても丸め込まれるんだが。
一応俺、前世の記憶含めれば年上のはずなんだけどな。いや、肉体に引っ張られて精神年齢は身体相応なんだけど。
そんな事を考えていると、何かルニファさんがもどかしそうな顔していた。
「あのね、もう一つ話したいことがあって。その……今日出た、竜についてなんだけど」
「あれ、もう広まってるのかその情報」
「ううん、そうじゃなくて私も竜だからそういう気配に敏感なんだ」
へぇ、そういうのもあるのか。
それを聞いて、思考が急加速を始めた。
カチリ、と歯車が回ったように思考回路が変わる。
それならルニファさん自体が竜を喚んだ犯人への手がかりになるんじゃないか?
協力してもらえれば、一気に調査が楽になる。
うん、そうしよう。
一番大事なのは、
「なあ、ルニファさん。俺の協──」
そこまで言って、脳裏にルニファさんの怯えた表情がよぎった。
「──いや、友だちになってくれないか?」
咄嗟に言い直す。
あっぶねぇ、馬鹿か俺!? 普通に考えてこんな危険なことに巻き込んでいいわけねぇだろ!
まだ俺への恐怖心は絶対に残ってるんだ。なのにこんな頼み事すんのは脅しと変わらない。どう考えてもアウトすぎる。
俺はあくまで青春を楽しみにこの学園に来たんだ。協力者よりも、友だちになれたほうが百倍嬉しい。
ちょっと騎士団での感覚が抜けきってないな。気をつけないと、此処はあそことは違うんだ。
よく見たらルニファさん、微かに震えてるし。
え、もしかして俺の竜殺しってやつ漏れてた? うわ、完全に抑えるわけじゃないのかよ。
「友、だち?」
「ほら、俺たち隣の席だろ? だからできれば友だちとして仲良くしたいなーとか、なんて……」
言いながらどんどん怖くなって、最後の方をもにょもにょ言ってしまう。
俺こんな直接友だち作るの始めてじゃないか? いや友だちは元から殆どいなかったけど……変なこと言ってないよな?
やばい、今まで鍛えてこなかったコミュ力のせいで不安しかない。
「友だち、友だちか…………」
「あっ、嫌なら全然嫌って言ってもらって大丈夫です……」
「嫌なんてこと、あるわけないよ。そうじゃなくて、ここに来てから友だちになってください、なんて初めて言われたから嬉しくて」
そう言って微笑むルニファさんを見ると、なんだか胸にむずがゆさを感じる。
うわ、何だこの、言葉にできない感覚……!
顔があつい、頬に熱が集まってるのが分かる。
ルニファさんの顔を直視できない。
「友だちなら、名前で呼ばないとね。これからよろしくお願いします、ジークくん」
「あ、こちらこそよろしくお願いします、ルニファさん」
「さん付けでもいいけど、呼び捨ての方が嬉しいな」
「なら、俺も呼び捨てでいいよ」
「それは、まだちょっと恥ずかしいかも……」
え、その距離感なのにそういう羞恥心はあるの?
いきなり名前呼びされて心臓ドキッてなってたのに、急に梯子外された気分なんだけど。
人の心、難解すぎるな……。
というか、今世で初めて友達ができたのか。うん、普通に嬉しいなこれ。
「良かった、初めての友だちがジークくんで」
「何何何何何何何何何何」
「あれ、なんか壊れちゃった。えっと、時間も時間だし、私そろそろ帰るね? また明日、ジークくん」
喜びを噛み締めていると、ルニファが凄いことを去り際に言って窓から飛んでいった。
最初から最後まで俺を勘違いさせに来てんだけど。 ちょ、それは駄目だろ。普通に好きになっちゃうから。
つーかこの学校人のこと勘違いさせに来てる女が多すぎないか? これで告って振られたりでもしたら余裕で死ぬから切実にやめてほしい。
「ほんとに、今日は色々あった……」
デカいため息を吐きながら、ふらふらとベッドに飛び込む。
最後の最後に乱入クエスト始まった気分だったが、終わりよければまぁいいだろう。
これで本当の終わり。寝よう、と丸まった瞬間、ベッドからルニファの残り香がふわりと香った。
部屋中に彼女の匂いが充満している。
「…………」
とんでもない置き土産をされた。
最悪なことに、窓全開の換気でもベッドから香りは消えなかった。
そうして、やっと入学初日が終わりを迎えた。
「…………とまぁ、こうして友だちになったんだよ……あの、マリーさん?」
「なんで夜中に女の子部屋に入れたの〜?」
「え、それはその、流れで」
「ふ〜んじゃあドラドラくんはすぐ流れに流されちゃう、うっすいペラペラくんなんだね〜」
「ごめんごめんごめん、ちょっと急に言葉強すぎない?」
言っていいことと悪いことがあるだろ。
せめてチクチク言葉にしてくれよ、ブスブス貫通する鋭さなんだけど?
でもマリーの視点から見た俺、ちゃんと女子を部屋に連れ込む最低野郎でもあるしな……と思うと反論もできなかった。涙を呑んで甘んじて侮蔑の視線を受け入れる。
というか、結局昨日一睡もできてないせいで反論するほど頭が動かない。
「ねぇ〜ドラドラくん? わたしたちって友だちかな〜?」
「えっ、どうなんだろ……友だちなのか?」
「一緒に帰ったりしたら、もう友だちでいいんじゃない〜?」
「それなら友だちか……?」
「うん、改めてよろしくね〜ドラドラくん」
友だちの定義ってなんだ……? と考えていたら、すごい勢いでマリーが詰め寄ってきて、気づいたら友だちになってた。
友人ってこんな簡単にできるものなんだな……。
俺とは次元が違う速度感でみんな友好関係を広めているとわかり、震えが止まらない。
はえーよ、みんな……。
「おはようございます、アブセンス君。ところで貴方がニールさんを誑かしたという噂が耳に入ったのですが、これは一体どういうことなのでしょう?」
何故か人を数人殺してそうな威圧感を発しながら王女様が近づいてきた。
嘘だろ、本当に噂になっちゃったし、出回るの早すぎだろ。まだ十数分前のことだぞ?
え、新聞部が記事にしてる? この学園そんな化け物みたいなパパラッチいるの? 最悪すぎるだろ。
そんなこんなで、噂を聞きつけたのか辺りに人が集まってきた状況の渦中で王女様に威圧されながら。
俺は授業が始まるまでの時間で、回らない頭を回し、必死の弁明を繰り広げることになったのだった。