竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない   作:佳和瀬

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生活してたら遅れました。
ちょっと場面が転々としてるので読みにくい部分があると思います。


休日のお忍びデート (後編)

 

 星のような人だ、と思った。

 暗闇の海に溺れる中で唯一の道を照らしてくれる、たった一つ残された希望のような人だ、と思った。

 

 この先何があろうと忘れることがない、そう確信する出会いだった。

 今際の際に必ず思い返されるような、そんな始まりの交わりだった。

 

 いつかの未来に()を殺す存在との出会いは、アリア・ディ・イクス・スカイクラウンにとって運命としか呼べないものだった。

 

 

 

 

 

 

 砂塵が舞った。

 視界の一寸先すら閉ざされる中だというのに、アリアの目はその少年の姿を鮮明に捉えていた。

 

 時が止まったと錯覚する。

 自分が今本当に生きているのかどうか、それすらも分からない。

 呼吸未満の呼気が漏れ出る。

 絶大な恐怖が、身体機能にすら影響を及ぼしていた。

 

(髪も眼も、真っ黒…………)

 

 存在しない竜殺し(ジーク・アブセンス)を眼の前にして、思考がふいにそんな方向に動いた。

 現実逃避か、自分を殺す存在を知ろうとしたからか、アリアには分からなかった。

 

 ただ一つ言えるのは、彼の容姿が彼女の恐怖心をより駆り立てるものだった、ということだった。

 その黒い髪も、黒い瞳も、その全部が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか、アリアには思えなかった。

 

 怖いと思った。

 悍ましいとすら思えた。

 なのに何故か、綺麗とも思った。

 

「どうしたものか……」

「……え?」

「ん、あぁいや、ちょっと状況がよく分からなくて」

「ええ……」

 

 彼がこの場に現れるまでの経緯からすれば、あまりにも場違いでズレた言葉だった。

 この人、何も分かってないのに()()だったのかと、アリアは困惑に包まれる。

 今もまだ、『死』という概念がそのまま叩きつけられている感覚はあるのに、何故か少し気が抜けた。震えが少し収まる。

 

「一つ聞きたいんだが、君は竜なんだろうか?」

「……え、ええ、はい。私は竜、この国の第二──」

「よし、なら取り敢えず場所を変えよう」

 

 え、と音にもならない声が出た。

 首根っこを掴まれ──彼の前世で猫を持ったのと同じ持ち方だった──気づけば空にいた。

 少年が跳躍したのだと、遅れて気づいた。こうやって来たんだ、と現実逃避のように考える。

 コロシアムを飛び越えて落下していき、そのまま落ちると思っていると、少年はまるで空気を踏みしめたようにまた跳躍した。

 

「え、あの、え? 何してるんですか!?」

「王様っぽい人がいただろ。王族の前だとちょっと話しづらいから、移動してる」

「いや、私も王──」

「喋らないほうがいい。少し速度上げるぞ」

「話を聞いてくださ──っ!?!?」

 

 思わず叫んで、勢いよく舌を噛む。

 痛みに悶えていると、"こいつ話聞かねぇな"とでも言いたげな表情を少年が浮かべていた。 

 この人だけには言われたくないと、アリアは人生でトップクラスの憤慨を抱いた。

 

 

 

 

 岩肌が露出した山の近くにある開けた場所。

 ジークはそこに着地する。先程と同じように砂煙が舞った。

 

「その、舌大丈夫か?」

「いへ、らいひょうふれす……」

「全然駄目じゃないか。ほら、喋らないほうがいいって言っただろう」

「貴方が話を一切聞かなかったのにも問題があると思います!」

 

 む、とジークは言葉に詰まった。

 

「それはそうだな、確かに俺にも非があった。だがあの場に留まるべきではなかったんだ」

「それ、貴方が勝手に王の前で気まずくなっただけでは?」

「仕様がないだろう。残念なことに作法の一つも覚えていなくてな」

「え? 騎士団の人なら多少の心得はあるのでは?」

「俺に竜を殺す以外の業務はない」

「騎士団ってそんな怖いところなんですか……?」

 

 至極当然といった顔で宣うジークに、アリアはちょっとショックを受けた。今まで抱いていた騎士に対する高潔としたイメージが、一瞬で殺伐としたものに変わった。

 そこから少しして、自分が恐怖する少年と普通に話していることに気づく。

 こほん、と間を整えるように咳払いを一つ。

 

「……それで、一体どういうつもりなんですか? 王の前であのような行為なんて、到底許されるものではありません」

 

 話していて確証を得たが、この少年は王をしっかりと視認していた。なのに完全に無視していた。

 騎士団がいかに戦闘集団だとしても、余りに不敬な行動だった。極刑すらあり得る。

 アリアは呆れ混じりの視線を向けようとして、やっぱり怖くなってやめた。さっきまでの会話が嘘のようだった。

 その問いにジークは眉をひそめた。

 

「それだ」

「え?」

「君の話し方、表情、雰囲気。その中に竜を感じているのに、()()()()()()()()()()()()()

 

 ジークが到着するまでの道中で感じていた竜の気配が、到着した途端に薄まった。

 ただの竜だったら、確認次第殺していた。殺さなかったのは違和感がゆえ。

 人を殺す理由はないからな、と無表情のままジークは告げる。

 

「歪に混ざっている……呪われた───いや遺伝。()()()()()()()()()()

 

 淡々と分析を進める姿に薄ら寒さを覚える。

 先程まで見えていた人間性が今は消え去り、何かの機構のように感じた。

 

「貴方は、なんなんですか。私を殺すために来たのでしょう?」

「そのつもりだった。だが、俺の役割は竜を殺すことであって人を殺すことではない。君を殺すことは俺の役割から反している」

 

 本当に、無機質な声色だった。隣国で発達している機械と呼ばれるそれに近しい、人が発したとは思えない冷たさがあった。

 

「だから殺すということはないが……かといって放置もまたできかねる。見たところ、その竜は目の前の俺に萎縮してるだけだからな」

「では、私に一体どうしろと……?」

「それを制御してもらう。今ここで」

 

 アリアは絶句した。

 できない。できなかったから暴走して、今こうなっているのだ。

 けれど、反論が喉から出ることはなかった。これ以外に残された道はないと理解していたからだ。

 

 王族として生きてきた。

 誇りを抱き、目覚めた力を十全に扱うために努力を積み上げた。

 頑張って頑張って頑張って、その結果として失敗という最後があった。

 

「無理、です。できるわけがありません、私には」

「御託はいい。取り敢えずまた竜になってもらう」

 

 貴方がいると無理なんじゃ? と、そう言おうとした。

 開こうとした口は、中途半端に止まった。

 ジークから絶大の殺意が溢れ出す。いや、彼女を人と判断し抑えられていたものが戻ったというほうが近い。

 理性が、彼女を人たらしめていた要素がその殺意を前に消え去る。

 

「死を意識しろ。生存本能に身を任せろ。箍を外して殺しに来い」

「──ウ、アアァァァァ!!!!」

 

 生き残るため、目の前の自身を殺す存在を排除しようと竜が騒ぐ。

 さっきよりも少し勢いが劣るその死の気配に、生き残る可能性が僅かに残っているがゆえに、アリアは竜と化した。

 

「殺さない──が、少しばかり蹂躙させてもらう」

 

 

 

 △

 

 王都に来て数時間。

 ここまで王都で遊ぶのは久々、いや始めてかもしれない。

 一人だったらこの陽気な空気に耐えられなかったと思う。きっと1時間も保たないで退散してた。

 

 アリアさんが服に詳しくてよかった。今まで支給されたのしか着たことなかったから、流行は一切知らなかった。

 今日はシンプルな格好で誤魔化してるが、一人で買いに来てたらとんでもなくダサくなってた可能性もある。

 なので、とても良い休日になったんだが……

 

「きゃっ」

「……大丈夫か?」

「ええ、申し訳ありません。足を滑らすなんて、少し浮かれてるのかもしれません」

「このくだり五回目なのに……?」

 

 この王女……何か変……。

 まあ王都デカいし、そんなものか。うん、別に変じゃないな。

 

 体勢を崩したアリアさんを抱きとめる形で受け止める。

 最初は女の子の柔らかさに動揺してたが、五回目となると流石に慣れてしまう。

 実際、昼間に比べれば転びやすいしな。街は依然活気に包まれながらも空は夕焼けに染まり、暗さが増している。

 

「アリアさんこの後どうする? そろそろ帰るか?」

「そうですね、時間的にはそうすべきでしょう。名残惜しいですが……帰りましょうか」

 

 門限にはまだ余裕があるが、それに甘える気にはなれない。入学して一ヶ月も経っていないのに二度門限破りをするほど、俺の肝は据わっていない。

 

「──アブセンス君」

 

 一歩先を歩きだしたアリアさんを追うよう足を踏み出した瞬間、彼女はくるりと回った。

 距離が消える。互いの吐息が感じられるぐらいに顔が近づいた。

 時が止まったように思えた。彼女の碧眼に呑み込まれるような感覚だった。

 

「これをどうぞ。遅れちゃいましたが入学記念です」

「これは、ネックレス……?」

「はい、最初に行った露店で買いました」

 

 アリアさんの手の中にあったのは、一つのネックレスだった。竜の翼を象ったそれはかなり精巧で、素人目で見ても出来がいい。

 

「私、少し心配だったんですよ? あの『竜殺し』が学生になって周りに馴染めるのか」

「正直なところ、学友に恵まれたとしか言えないな。アリアさんにも助けられてるしな」

「それが聞けて一安心です。それに、()()同じクラスになれたおかげで私も楽しく過ごせてますから」

 

 なにか言い方に含みがあったが、よく分からない。俺の察しが悪いのか……? 

 気にしないことにして、早速ネックレスを着けてみる。

 経緯的に俺が竜をモチーフにしたものを着けるのはちょっとおかしい気もするが、デザインはかなり好きだし気に入った。

 

「それ、魔法加工をしていて普段使いに向いているそうです。気に入ってもらえたのなら嬉しいんですが」

「ああ、ありがとう。銀色、髪の色とそっくりだな」

「嫌、でしょうか」

「いやいや、すごい嬉しい。王女様から贈り物なんて、明日にでも自慢しようかな」

 

 いや、殆どが彼女のファンみたいたものであるクラスでそんなことすれば針の筵どころじゃないな。止めとこう、暴動は流石に遠慮したい。

 はは、と半ば引きつった笑みを浮かべながら誤魔化すように歩きだす。

 

「あれ?」

 

 前方、噴水広場でベンチに座る人影を見つけた。

 色素の薄い金髪と捻れた角はとても見覚えがある。

 というか完全にルニファだ。

 

「あれ、ジークくんとアリアさん?」

「ああ、こんな所でどうしたんだ?」

「それはこっちのセリフで……ピギ! 

「何その声???」

 

 ルニファは目を見開き、聞いたこともないような声を上げた。急な奇声を前に思わずたじろいでしまう。

 いや、最近聞いた気もするな……。

 

「ルニファさん、ルニファさん。今彼はアレを制御しきれていません、寮に戻るまで少し我慢しないとです」

「う、うん。分かった、分かったよ……うぅ…………」

「疎外感すごいんだけど?」

 

 少し離れたところにルニファを手招きしたアリアさんはそのままコソコソと何かを話し始めた。

 ちょっと待ってくれ、絶対に俺が対象じゃん。めちゃめちゃ気になるけど、堂々と近づけるほどメンタル強くないしな……。

 

「──私としたことが、この後用事があることを忘れていました。なので、お二人は先に帰ってください」

「え、それだと本当に門限に間に合わないぞ。というか、用事って?」

「少し王城に」

 

 僅かな懐疑心を伴った言葉は、あまりに強すぎる返答に押しつぶされた。

 反則カードとかいうレベルじゃない。この王女、権力の使い方板につきすぎだろ。 

 

「さて、では今日はもうお別れですね。アブセンス君、ルニファさん、帰り道にはお気をつけて」

「アリアさんも、気を付けてな」

「ば、ばいばい……」

 

 アリアさんと別れ、ルニファと一緒に帰路につく。

 言及しづらいんだけど、小刻みに震えてるんだよな。なんでだ? 

 俺の竜殺しの気配も制御できてるはずだし。うーん、分からん。

 

「あれ……? ジークくん、ちょっと失礼します」

「君その距離感どうにかしてくれないか?」

 

 ぷるぷるとしながら、顔を俺の肩に近づけてくる。そのまま匂いを嗅がれる。

 俺もしかして臭いのか? 動揺とかしてる場合じゃない、だいぶ怖いんだが。

 

「俺、何か臭うか?」

「うん」

「うん!?!?」

「あ、違うよ!? 別に臭いとかじゃないの、その……スカイクラウンさんの匂いが付いてて」

 

 言いにくそうに話すルニファに、口を横一文字に結ぶ。

 心当たりなら、ある。ありすぎる。今日だけで五回も密着したのだから別に不思議ではない。

 真顔の俺を見て、彼女も察してくれたのか話題を変えてくれた。

 

「そのネックレス、かっこいいね。何処で買ったの?」

「アリアさんに貰ったんだ。いいデザインだよな」

「あっ……う、うん。そうだね……」

 

 また微妙な雰囲気になった。

 これ俺のコミュニケーション能力の問題なのか? 

 焦りながらなんとか会話を続け、俺は寮に帰った。

 

 

 △

 

 王都の一角、不自然なほど人気がない広場。

 そこにいた。

 黒い鱗、広げられた翼、口元から漏れ出た炎。

 先日学園に出現したのと同種の竜は、上空に展開された魔法陣より現れた。

 

 明確な悪意のもと召喚された黒竜は、無造作に火球を撃ち放つ。

 建造物など容易く破壊する威力が込められた火炎は、何に着弾するでもなく弾け飛んだ。

 それを為した少女は、悠然と宙に佇んでいた。

 

「まず最初に、警告しましょう。次同じような行為が見られた場合、私は容赦をしません」

 

 その背に生やした竜翼をはためかせながら告げられた言葉は、鉄のような冷たさを感じる。

 少女──アリア・ディ・イクス・スカイクラウンのクラスメイトが聞けば仰天するような、普段とはかけ離れた声色。

 その声は同種である竜に意図を伝え、しかし竜はそれを無視し口内に火炎を溜め始める。

 

「……やはり、聞く耳は持ちませんか」

 

 はぁ、とため息を吐きながら目を閉じる。

 開眼。瞳孔は縦へと変貌する。

 瞬間、アリアから魔力が溢れ出した。

 

 黒竜を威圧するように。

 格の違いを知らしめるように。

 お前はここで死ぬと宣告するように。

 

 そこに来てようやく竜は理解する。

 あまりにも遅く、もう既に手遅れの中、やっと。

 眼前の少女と己の力の差は隔絶しているという事実に。

 

「ガルォォ……!?」

 

 アリアは翼で空気を弾くように加速する。

 流れるように姿勢を制御し、右腕を引き絞る。その腕は銀の龍鱗に覆われ、鉤爪を生やしたものに変貌していた。

 次の瞬間に解放された竜腕は狙い違わず竜の腹部に突き刺さった。

 

「ギギャアォ!?」

 

 自分が吹き飛ばされたことに、黒竜は遅れて気づく。慌てて体勢を直し、迎撃の火球を放つ。

 アリアは翼を薙ぎ払った。それだけで火球は消え去る。

 また、アリアはため息を吐いた。

 

()()()()()()()。もう少し手応えを期待していたんですが」

 

 落胆が多大に込められた言葉だった。

 底が知れたと、正確な分析に基づく見切りだった。

 相手にすらならない存在に対する失望が、そこにはあった。

 

「我慢するしかありませんね」

 

 肺を大きく膨らませる。

 内臓器官の殆どを竜のものへと変化させ、アリアは文字通り人の形をした竜と化している。

 魔力を体内にて炎へと変換、黒竜がさっき放った火球とは比べ物にならない熱量がアリアの口内に集った。

 

 王家の血脈に宿る竜。

 源流である建国の英雄が持っていた()()()()()()()()()()()()()を、アリアは継承している。

 その圧倒的なリソースの丈より生み出された竜の息吹は、極太の光線となって黒竜を貫いた。

 十秒程の照射に晒され、黒竜は完全に塵の一つも残さずに消滅した。

 

「昂りの発散にもなりません。強い相手というのも、中々いないものですね……」

 

 強者を求め、弱者に酷薄で、戦闘に悦びを見出す。

 これが、アリア・ディ・イクス・スカイクラウンの竜としての側面である。

 あの日、あの場所、あの瞬間に誕生した、彼女の持つ戦闘狂の性質である。

 

 

 

 アリアは思い出す、ジークとの殺し合いを。

 竜殺しの殺気に生存本能を刺激され、殺される前に殺そうとした。

 鉤爪と牙、無限に等しい魔力を用いた全力の攻撃は、当然のように意味をなさなかった。

 

 鉤爪を振るった。剣で紙のように切断された。

 牙で噛みついた。蹴りの一つで縫い合わせられた。

 高圧縮魔力による竜の息吹を放った。どういう理屈か、その照射に晒されジークは傷一つ負わなかった。

 

 無意味に終わる攻撃を続ける自分を、アリアは他人のように見ていた。

 本能のままに暴れる自分を制御しようとして、やはり無理で、半ば諦めながらも抵抗しながらその光景を見ていた。

 ジークが呆れた視線を向けてくるのに気づいた。

 

「君は、少し自分に正直になれ」

 

 目が覚めるような鋭さが言葉にはあった。

 意味を理解できなかったのに、心の奥に響いた。

 

「俺の主観にすぎないが、君は戦いに快楽を見出す人種だろう」

 

 ドクンと心臓が脈打つ。

 今までの自分を構成していた要素が、決定的に壊れた音がする。

 

 

 そうだ。

 

 己の中の竜を自覚した時、その力に快感を感じていた。

 

 確かに笑みを浮かべていたことを、アリアは思い出した。

 

 

(あぁ、そうだったのですね)

 

 王族としての責務を感じて、抑え込んでいた。

 それは邪魔なものだと、捨てようとしていた。

 個人としての感情を無視しようとした。

 

「力を振るわないために制御しようとしているから、無理なんだ。君の在り方は決してそうではない」

 

 抗うのをやめた。

 他人事のように見ていた竜を、自分と認識した。

 ただそれだけで、嘘のように体が軽くなった。

 

 浮遊感。

 巨体の竜だったのが、元の人としての体に戻ったからだ。

 落下するアリアをジークが受け止める。

 碧と黒の瞳が交差した。

 

「君がこれから強者を求め、しかしその誰でも満足ができなかったというのなら──俺が君の相手となろう」

「それは、その結果どちらかが死ぬとしてもですか?」

「君が人に危害を加えるというのなら俺は必ず殺す。それ以外は知らん」

 

 確信があった。

 自分はこの人と殺し合うために生まれたのだと。

 それこそが、生きる意味であり運命なのだと。

 

 この日、アリアは竜と成った。

 

 

 

 

 

 騎士団への報告を済ませ、帰路につく。

 

「ああ、待ち遠しい」

 

 吐息に熱が籠もる。

 堪えきれない欲望だった。

 

 まだ、まだである。

 彼との死合いにはまだ早い。

 彼についてもっと深くまで知って、相互理解を深め、その最後にこそ相応しい。

 

「学生のうちは我慢ですね」

 

 日々、アリアは猛り狂う衝動を律し生きていた。

 ジークはそれに気づいていないようだが、別にいい。今の彼も好ましいし、それにいざ戦闘となればまた竜殺しとなるだろう。

 普通の友人関係を楽しもうと、アリアは考えている。

 

「なので、何も不自然ではありませんよね……?」

 

 転んだふりで彼に密着し、自分の匂いを付けたことも。

 自分の翼を模したアクセサリーを渡すのも。

 何も不自然なことではない。余計な虫が付かないようにという、少しの対策にすぎない。

 

 月明かりの下、浮かべた笑みはゾッとするほど妖艶だった。

 




次回更新が何時になるかは未定ですが、待ってもらえると助かります。
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