竜殺し辞めて青春送ろうとしたけど隣の席がドラゴン娘なのは聞いてない 作:佳和瀬
学園の授業は魔法の基礎から始まる。
素質を見出され入学した平民に合わせたというのと、貴族たちへの復習を兼ねてとのことらしい。
魔力の概要、術式理論の解説、そしてその実践。
そんな基本中の基本から丁寧に教えてくれる授業は、真面目に書き取る生徒と退屈そうに眺める生徒の二つに分かれていた。
「魔力の生成は、心臓を基点とし、体内にて循環させることで成されたとする」
貴族組からしたらとっくの昔に習った内容だから、まあつまらないだろう。
こんな内容、小さい頃から習い終えてるみたいだし。魔法はしっかりとその理論を理解しなければ、上手くいかないものだからな。
俺の左隣のアリアさんは先生の解説を真面目に聞いてはいるが、暇そうにしている。右隣のルニファも同様だ。
彼女は一般家庭の出らしいが事前に習っていたらしい。流石竜といったところか、魔力出力も1年生の平均を大きく超える、凄いものだった。
そんな風に考えながら、必死にペンを走らせる。普通に知らないことしか無い。
長年に騎士団にいたけど、理論とかは殆ど学んでこなかった。習ったことは魔力の使用法とか、普段やってる魔力剣の生成とかぐらいだし。
思い返すと終わってる環境だったな、よく真面目に働いたもんだな。
そんなこともあり座学という物自体が久しぶりなので結構楽しい。前世では勉強は好きじゃなかったが、今世では思っていたより好きだった。
「……では、今日はここまで。門限は守って帰宅するように」
そうして授業が終わり、放課後になった。教室から教師が出ていくと、皆が思い思いに動き出す。
「ドラドラくん〜この後の予定ってある〜?」
「いや、特に。図書館にでも行こうかな、って考えてたぐらいだ。マリーは?」
「アリアちゃんからお茶会のお誘いがあって〜ドラドラくんもどうかな〜って」
お茶会、言葉の響きからして俺から遠いものだ。ましてや王族からのと言われると礼儀作法への疎さから断りたくなる。
けれど、うん。貴族が食べるような菓子類に興味は大いにある。この世界だと甘いものはそれなりに貴重なのだ。
「俺が行ってもいいのか、アリアさん?」
「ええ、もちろん大歓迎──」
と、その瞬間。
微笑むアリアさんの言葉をかき消すように、バン! と大きな音と共に扉が開かれた。
教室中の視線が集まる。
扉の先には白髪の少女がいた。すごい見覚えがあった。普通にアルス先輩だった。
何してんだこの人。
「ジーク・アブセンスはいるかい? 私的な用事があるんだが」
「アブセンス君?」
「ジークくん?」
「ドラドラくん〜?」
何してんだこの人!?
視線が一気にこっちに向いた。思わずたじろぎながらアルス先輩を見る。
ニヤリと笑みを浮かべていた。人に腹立たせるのうますぎない? 捨てちまえそんな才能。
「……ごめん、やっぱ無理かも……」
「へ〜私達よりあの人を取るんだ〜。ていうかいつから知り合いなの?」
「話し方いきなり変えるのやめよか。心臓に悪いから」
ドキリ、嫌な鼓動がした。
ドキッとするにしても、もうちょっと穏やかな内容であってほしい。
「なんのようですか?」
「あまり人に聞かれたくない話さ。ついてきてくれるかい?」
また先輩の発言で教室がざわついた。この人、絶対に面白がってやってるだろ。
周りからの好奇心に満ちた視線を耐えながら、アルス先輩の後を追い教室を出る。
そのまま歩いて、アルス先輩が止まったのは校舎裏だった。
放出された魔力を感じる。遮音の魔法でも展開しているのだろう。
「急に呼んで悪かったね」
「誠意のない謝罪やめてくださいね、悪質すぎますからあれ」
「ふふん、後輩に対してのサービスさ。ミステリアスな先輩に呼び出されるなんて、周りからの視線が気持ちよかっただろう?」
「たぶんあれ、変人に絡まれた人を見る目ですよ」
ジャブ代わりの口撃をものともせずにアルス先輩は笑っている。無敵かこいつ?
「というか、後から先輩のこと調べましたけど、容姿とかの情報全くの別人だったんですが?」
「そりゃあ、魔法で姿を変えてるからね。君に分かるかい? 学会に論文を出そうとしたらやんわりと追い返された屈辱が」
「じゃあその姿で来てくださいよ。そうすれば向けられる視線の内容も変わってたし」
「僕が気軽に現れたら大騒ぎになるけど、それでもいいのかい?」
クソ、この人ちゃんと凄い人だった。調べれば調べるほどとんでもない経歴が出てきてビビったのを思い出して、口を噤んだ。
「……まあ、それは置いといて。一体なんの用ですか? 指輪関係とか?」
「ん? 指輪についてなら問題はないよ。データは順次こちらに入るようになってるから。不調も特にないだろう?」
なんか実験対象になった気分がして少し嫌だな。このことも初耳だし、まだ色々隠し事してそうなんだよなあ、この先輩。
疑いの目で見るが、どこ吹く風という顔で見返してきた。赤の瞳と視線が交わった。気恥ずかしさから目を逸らす。
「さて、本題に移ろうか。少し、君に頼み事があってね」
『────竜を召喚した犯人、僕と一緒に探さないかい?』
先日言われたことを思い出す。
カチリ、とスイッチが入ったように意識が冴え渡った。
「学校に召喚された竜について」
「話が早くて助かるよ。そうそれさ、補足しておくと学校だけじゃなく王都でも似たような事件が起きている」
「っ!」
「君が思っているより、事は重大になっている」
そこで一度言葉を切って。
「僕たちで真相を見つけようじゃないか!」
バン! と大げさな身振りで先輩はそう言った。
「さあ、現場に向かおう。置いてかれないでくれよ、助手くん」
△△△
「ここが事件現場だね」
「現れたのが王都の外れとはいえ、被害が聞こえないのは何故なんでしょう?」
着いた場所は家々が並ぶ居住区だった。
ここに出現したのも、学園に現れたのと同じ中位の翼竜。
今まで殺してきたヤツらの中では弱い方だが、竜は竜だ。人が集まる場所に現れたとなれば、災害と変わりない。
俺が情報に疎いのもあるが、それでもこの件が耳に入らなかったのは被害が少なかったからだ。普通に考えてあり得ないんだよな。俺でも移動の時間で数人は殺されてしまう。
偶然『竜狩り』の誰かが居合わせた、とかぐらいしか思いつかない。
「運よく近場にいた王家のお姫様がどうにかしたそうだ。ほら、君のクラスの」
「あぁ〜」
あの人かぁ。アリアさんの強さはよく知らないが、王家の方々は騎士団の最上位クラスと比べても遜色ないぐらいには強いからなあ。被害がないというのも納得だ。
ん? てかこの事件起こったのアリアさんと王都行った日じゃないか? うわ、あの不自然な別行動ってそういうことなの?
「それで、どう調査するんですか? 聞き込みとかは意味がないと思うんですが」
「残っている魔力の痕跡を解析する、というか現在進行系で行ってるよ」
地面に手をついたと思えば、複数の魔法陣が展開される。時折片手で操作をしているが、半ばオートのようだ。
短時間且つ彼女一人で調査は終わりが明確に見えていた。
「ん? なら俺が来た意味って?」
「解析には多少の時間がかかるからね。暇は毒っていうだろう?」
「助手の仕事ってそんなのだっけ……」
たぶん、確実に違うけれど別にできること無いからなあ。
戦闘能力こそ一定以上はあると自負しているが、探知とかは全然駄目だったし。お前には殴る斬るの才能しかないと言われた記憶が甦った。
同僚に言う言葉じゃねぇよ、慰めるとかして欲しかったな……。
「黙り込んでしまった後輩に、一つ質問だ。犯人の狙いは何だと思う?」
「狙いって、そりゃ」
愉快犯や通り魔のような計画性のない襲撃だと、そう口にしようとして、途中で止めた。
学園も王都も、魔法による防護機構が搭載されている。それを潜り抜けて竜種を召喚できるような存在は間違いなく魔法の手練れ。
魔法は複雑になればなるほど理論的になるから、術者もまた高いレベルの知能を求められる。ので、おかしい。
「無秩序に見えるこれも、何かしらの目的があっての行動、だと?」
「うん、たぶんきっとね」
ただの狂人の可能性もあるけど、と補足した。
「そっちの路線で考えると単純な帰結しかないからね。取り敢えず計画犯として考えてみよう」
こちらを試すように先輩が視線を向けてきた。
もう一度考えてみろ、とでも言うように。
「目くらまし、とか? 複数の事件を起こして、騎士団の対応を遅らせて本来の目的を達成しようとしてるみたいな」
「それも確かにあるだろう、いい推理だ。では本来の目的とは?」
思考が回転するのが実感できた。これまでは起きた問題への対処が業務だったから、こうして理論的に物事を考える経験はない。なんだか楽しくなってきたな。
「このレベルの魔法使いが竜を使って王都でやることなんて、王城への襲撃ぐらいしか無いんじゃ?」
「おいおい、君が忘れてどうするんだい。君たちがいる限り、それは無謀にすら劣る愚行だ。選択肢にすらなり得ない」
呆れたように首を振る先輩にイラッとするが、言ってる事自体は正論なので我慢するしかない。
もう一回考え直そう。連続して起きた二回の事件。起きた場所は王立学園と王都。
何か、脳内で点と点が結びついた。
「あっ、もしかして特定の個人の排除……?」
「見解の一致だ、お見事」
学園と王都、どちらにも居た存在──アリアさんを狙っている。その可能性が思い浮かんだ。
いやこれ、もしそうなら普通にやばくないか?
相手は国トップクラスの単体戦力を討ち取れる算段がついてる、ということになってしまう。
「ああその顔、もしかして犯人側の狙いが例のお姫様だけと思っているのかい?」
「え、違うんですか」
嘘だろ、見解の一致じゃないのかよ。上げて落とすのが早すぎる。
「確かに彼女のことも犯人側は狙っているだろう。だがもう一つ、狙いがある────敵方の本当の狙いは人型のドラゴンだ」
「は」
驚愕が喉から直接漏れ出たような、そんな声が出た。
そんな、いやだが確かにそっちの方が可能性が高い……!
「ってことは、ルニファも……!?」
「むしろ本命は彼女なんじゃないかい? 僕が見た限り、彼女の力量は1年生という括りの中では高いが、この国では突出したものではない」
そこで一度、先輩は言葉を切った。
淡々と話しているのに、何処か笑っているような雰囲気だった。
「だが、人型というのはそれだけで莫大なポテンシャルを宿している。犯人──竜使いとでも読んでおこうか。向こうとしては彼女のほうこそ狙いたいんじゃないのかな」
つまるところ、ルニファ・ニールという少女は
御しやすく、強大な存在。
鴨が葱を背負って来るようなものだと、ようやく俺も理解できた。
「そこまで分かってるなら、竜使いを捕まえる手立ては何かあるんじゃなんですか」
見過ごすには、事の深度が深すぎる。これ普通に
どうにかしたいけど、俺単体だと犯人わからない限りマジの無能だから頼る他ない。
それにここまで色々と語って、何も策がないような人じゃない。少ない関わりの中でも確信できる。
「ああ、勿論さ。向こうの狙いは定まった。ならば、これを使わない手はないだろう?」
待ってました、とでも言うように口角が上がった。
今日一番の笑顔はただ怖い。
あ、なんか嫌な予感してきた。
既に体感した、先輩の悪巧みが始まる時の感覚がした。
「狙うは再来週! ラウンド王立魔法で開催される上下級生交流試合で犯人を捕まえる! よって、君。同学年全員を叩きのめして来るんだ!!」
「接続詞の使い方バグってるだろ」
『よって』の前にどんな圧縮言語してんだよ。
てか、交流試合って何? 全然知らないのは俺が悪いのか?
嬉嬉と宣誓する先輩を見て、俺はため息をつく以外できなかった。
作者は馬鹿なので、ここらへん意味わからなくない?みたいな部分があったらご指摘お願いします。